(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる吐出流量制御装置を示す機能別ブロック線図で、この吐出流量制御装置は、トランスミッション1内における図示せざる発進クラッチに対し、潤滑を含む冷却用のオイルを必要に応じて適宜供給するための電動オイルポンプ2(本発明における電動ポンプに相当)を吐出流量制御するものとする。
なお電動オイルポンプ2は、回転速度制御により、その吐出流量が要求吐出流量となるよう制御されるものである。
【0019】
トランスミッション1内における図示せざる発進クラッチは、各変速段で動力伝達を司るよう締結されるクラッチで、この発進クラッチは、アクセル操作による加速要求があったり、湾曲登坂路などで変速段を切り替えながらの低速走行を繰り返す場合に、クラッチ伝達トルクの増大や繰り返し変化に伴って負荷が増大し、発熱量が多くなる。
【0020】
そして、かように発進クラッチの発熱量が多くなる場合、または、そのために発進クラッチが温度上昇してしまった場合、該クラッチが焼損するなどの問題を生ずることのないよう、当該クラッチは冷却する必要がある。
この場合、電動オイルポンプ2を作動させて、これからの吐出オイルを発進クラッチに供給し、同時に電動オイルポンプ2を、その吐出流量が発進クラッチの冷却必要油量に対応したものとなるよう回転速度制御する。
【0021】
そのため
図1に示す電動オイルポンプ2の吐出流量制御装置は、オイルポンプ作動要否判定部10と、補正済目標ポンプ回転速度演算部20と、目標ポンプ回転速度選択部30と、ポンプ駆動力情報検出部40とにより構成し、これらを以下に順次詳説する。
【0022】
オイルポンプ作動要否判定部10は、トランスミッション1の油温TEMPoil、発進クラッチの入力トルクTcin、発進クラッチの差回転であるクラッチスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチの温度TEMPclを基に、発進クラッチを冷却すべきか否かをチェックして、電動オイルポンプ2を作動させるべきか否かを判定する。
【0023】
クラッチ温度TEMPclや油温TEMPoilが、発進クラッチの冷却を必要とする高温であれば、発進クラッチを冷却すべきであるから、電動オイルポンプ2の作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否判定部10はオイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなす。
クラッチ温度TEMPclや油温TEMPoilが、発進クラッチの冷却を必要としない低温であれば、発進クラッチを冷却する必要がないから、電動オイルポンプ2の非作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否判定部10はオイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
【0024】
オイルポンプ作動要否判定部10は更に、クラッチ入力トルクTcin、クラッチスリップ量ΔNcl、および路面勾配θから、発進クラッチが近々冷却の必要な高温になるか否かを予測し、
発進クラッチが近々冷却の必要な高温になると予測される条件下であれば、発進クラッチを冷却すべきであるから、電動オイルポンプ2の作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなし、
発進クラッチが近々冷却の必要な高温になることはないと予測される条件下であれば、 発進クラッチを冷却する必要がないから、電動オイルポンプ2の非作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
【0025】
なおオイルポンプ作動要否判定部10は、油温TEMPoil、クラッチ入力トルクTcin、クラッチスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチ温度TEMPclのいずれか1つのみに基づいて発進クラッチを冷却すべきか否かをチェックして、電動オイルポンプ2を作動させるべきか否かを判定してもよいし、これら入力情報の任意のものを組み合わせて当該判定を行うようにしてもよい。
【0026】
補正済目標ポンプ回転速度演算部20は、ポンプ駆動力情報検出部40で検出した電動オイルポンプ2の駆動力に係わる情報、例えば電動オイルポンプ2の駆動トルクTopおよび/または駆動電流Iopと、油温TEMPoilと、クラッチ入力トルクTcinとに基づき、
図2のブロック線図により示す演算により、補正済目標ポンプ回転速度Nop_1を求める。
【0027】
補正済目標ポンプ回転速度演算部20は、
図2に示すように目標ポンプ回転速度演算部21と、ポンプ回転速度補正量決定部22と、加算器23とで構成する。
目標ポンプ回転速度演算部21は、油温TEMPoilおよびクラッチ入力トルクTcinから予定のマップを基に、発進クラッチの冷却に必要な油量を賄うのに必要な電動オイルポンプ2の要求吐出流量に対応した、電動オイルポンプ2の基準となる目標ポンプ回転速度Nop_0を求める。
従って目標ポンプ回転速度演算部21は、本発明における目標ポンプ回転速度演算手段に相当する。
【0028】
ところで、この基準となる目標ポンプ回転速度Nop_0をそのまま電動オイルポンプ2の回転速度制御を介した吐出流量制御に用いる場合、エアの吸い込みなどで電動オイルポンプ2のポンプ容積効率が低下したとき、
図7に基づき後で詳述するが、前記したような発進クラッチの冷却不足に関した問題を生ずる。
【0029】
そこで本実施例においては、
図2のポンプ回転速度補正量決定部22で、上記問題を解決するのに必要なポンプ回転速度補正量ΔNopを演算する。
図2のポンプ回転速度補正量決定部22は、
図3に明示するようなもので、目標ポンプ駆動トルク演算部22aと、減算器22bと、ポンプ回転速度補正量演算部22cとで構成する。
【0030】
目標ポンプ駆動トルク演算部22aは、油温TEMPoilおよびクラッチ入力トルクTcinから予定のマップを基に、電動オイルポンプ2が要求吐出流量を実現するのに必要な目標ポンプ駆動トルクtTopを演算する。
この目標ポンプ駆動トルクtTopは、エアの吸い込みなどで電動オイルポンプ2がポンプ容積効率を低下されていない場合において要求吐出流量を実現するのに必要なポンプ駆動トルクで、油温TEMPoilが高いほど、またクラッチ入力トルクTcinが大きいほど要求吐出流量が増大するため、大きくなる。
【0031】
減算器22bは、上記の目標ポンプ駆動トルクtTopと、ポンプ駆動力Top(ポンプ駆動力情報がポンプ駆動電流Iopである場合は、その駆動力換算値)との偏差、つまり目標ポンプ駆動トルクtTopに対する現在のポンプ駆動力Topのポンプ駆動力変化量ΔTopを求める。
このポンプ駆動力変化量ΔTopは、ポンプ駆動力Topがエアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下程度に応じて変化するため、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下程度に対応する。
【0032】
ポンプ回転速度補正量演算部22cは、上記のポンプ駆動力変化量ΔTopと、油温TEMPoilとから、
図4に例示する予定のマップを基に、ポンプ容積効率の低下で不足することとなったポンプ吐出流量の不足分を補って、電動オイルポンプ2の要求吐出流量を補償するのに必要なポンプ回転速度補正量ΔNopを求める。
【0033】
当該ポンプ回転速度補正量ΔNopは、上記の設定目的に照らして当然であるが、
図4に示すように、ポンプ駆動力変化量ΔTopが大きいほど、また油温TEMPoilが高いほど、ΔNop=ΔNop_1、ΔNop=ΔNop_2、ΔNop=ΔNop_3のごとく大きくなり、
その理由は、ポンプ駆動力変化量ΔTopが大きいほど、また油温TEMPoilが高いほど、ポンプ容積効率の低下程度が大きくなるためである。
【0034】
なお、ポンプ回転速度補正量演算部22cでポンプ駆動力変化量ΔTopおよび油温TEMPoilからポンプ回転速度補正量ΔNopを求めるに当たっては簡易的に、
図5に例示する予定のマップを用いて、以下のようにポンプ回転速度補正量ΔNopを求めてもよい。
つまり、
図5に実線で示した領域境界線(設定値)以上のポンプ駆動力変化量ΔTopおよび油温TEMPoilであるとき、ポンプ回転速度補正量ΔNopに一定値ΔNop_cnstを設定してポンプ回転速度の補正を行うこととし、
図5に実線で示した領域境界線(設定値)未満のポンプ駆動力変化量ΔTopおよび油温TEMPoilであるとき、ポンプ回転速度補正量ΔNopに0を設定してポンプ回転速度の補正を行わないことにしてもよい。
【0035】
図2の加算器23においては、目標ポンプ回転速度演算部21で求めた、電動オイルポンプ2の基準となる目標ポンプ回転速度Nop_0を、ポンプ回転速度補正量決定部22で上記のごとく求めたポンプ回転速度補正量ΔNopの加算により補正して、補正済目標ポンプ回転速度Nop_1を求める。
従ってポンプ回転速度補正量決定部22および加算器23は、本発明における目標ポンプ回転速度補正手段に相当する。
【0036】
図1における目標ポンプ回転速度選択部30は、オイルポンプ作動要否判定部10からのオイルポンプ作動要否信号Sop=ON(電動オイルポンプ2の作動要求を示す信号)またはオイルポンプ作動要否信号Sop=OFF(電動オイルポンプ2の作動不要を示す信号)に応答し、演算部20からの補正済目標ポンプ回転速度Nop_1またはポンプ停止用回転速度指令tNop=0を最終目標ポンプ回転速度Nop_2に設定する。
【0037】
つまり目標ポンプ回転速度選択部30は、Sop=ONであれば、演算部20からの補正済目標ポンプ回転速度Nop_1を最終目標ポンプ回転速度Nop_2に設定して、電動オイルポンプ2を回転速度がNop_2=Nop_1になるよう制御し、電動オイルポンプ2を補正済目標ポンプ回転速度Nop_1で回転させる。
また目標ポンプ回転速度選択部30は、Sop=OFFであれば、tNop=0を最終目標ポンプ回転速度Nop_2に設定して、電動オイルポンプ2を回転速度がNop_2=tNop=0になるよう制御し、電動オイルポンプ2を停止させる。
【0038】
<オイルポンプの吐出流量制御>
上記した第1実施例による電動オイルポンプ2の回転速度制御を介した吐出流量制御を、
図6のフローチャートに基づき以下に説明する。
ステップS11においては、入力情報であるトランスミッション1の油温TEMPoil、発進クラッチの入力トルクTcin、発進クラッチのスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチの温度TEMPclを読み込む。
【0039】
次のステップS12においては、上記の入力情報を基に、
図1のオイルポンプ作動要否判定部10で行ったと同様に電動オイルポンプ2の作動要否判定を行い、発進クラッチが既に高温であったり、近々高温になることが予測され、その冷却用に電動オイルポンプ2を作動すべきであれば、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなし、発進クラッチの冷却が不要であれば、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
ステップS12においては更に、この判定結果であるオイルポンプ作動要否信号SopのON, OFFをチェックする。
【0040】
ステップS12でSop=ONと判定する(電動オイルポンプ2の作動が要求される)場合は、ステップS13において、
図2の目標ポンプ回転速度演算部21で行ったと同様な要領により、油温TEMPoilおよびクラッチ入力トルクTcinから予定のマップを基に、発進クラッチの冷却に必要な油量を賄うのに必要な電動オイルポンプ2の要求吐出流量に対応した、電動オイルポンプ2の基準となる目標ポンプ回転速度Nop_0を求める。
【0041】
次のステップS14においては、
図2のポンプ回転速度補正量決定部22で、
図3につき前述したようにしてポンプ回転速度補正量ΔNopを演算する。
【0042】
つまり、先ず油温TEMPoilおよびクラッチ入力トルクTcinから予定のマップを基に、電動オイルポンプ2がエアの吸い込みなどでポンプ容積効率を低下されていない場合において要求吐出流量を実現するのに必要なポンプ駆動トルクである目標ポンプ駆動トルクtTopを演算し(
図3の目標ポンプ駆動トルク演算部22a)、
次に、この目標ポンプ駆動トルクtTopと、ポンプ駆動力Topとの偏差、つまり目標ポンプ駆動トルクtTopに対する現在のポンプ駆動力Top(エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下で変化)のポンプ駆動力変化量ΔTopを求め(
図3の減算器22b)、
このポンプ駆動力変化量ΔTopおよび油温TEMPoilから、
図4の予定マップを基に、ポンプ容積効率の低下で不足することとなったポンプ吐出流量の不足分を補って、電動オイルポンプ2の要求吐出流量を補償するのに必要なポンプ回転速度補正量ΔNopを求める(
図3のポンプ回転速度補正量演算部22c)。
【0043】
次のステップS15では、
図2の加算器23で行ったと同様にして、つまり、ステップS13で求めた基準となる目標ポンプ回転速度Nop_0を、ステップS14で求めたポンプ回転速度補正量ΔNopの加算により補正し、補正済目標ポンプ回転速度Nop_1を求める。
【0044】
次のステップS16においては、
図1の目標ポンプ回転速度選択部30で行ったと同様にして、つまりステップS12でのSop=ON判定に呼応して、最終目標ポンプ回転速度Nop_2を、ステップS15で求めた補正済目標ポンプ回転速度Nop_1と定め、
電動オイルポンプ2を回転速度がNop_2=Nop_1になるよう制御し、電動オイルポンプ2を補正済目標ポンプ回転速度Nop_1で回転させる。
【0045】
ステップS12でSop=OFFと判定する場合は、電動オイルポンプ2の作動が不要であるから、ステップS17において、
図1の目標ポンプ回転速度選択部30で行ったと同様の処理、つまり最終目標ポンプ回転速度Nop_2を0と定め、
電動オイルポンプ2を回転速度がNop_2=0になるよう制御して、電動オイルポンプ2を停止させる。
【0046】
<第1実施例の効果>
上記した第1実施例の吐出流量制御による効果を以下に説明する。
この説明に先立って、
図2における目標ポンプ回転速度演算部21(
図6のステップS13)で求めた電動オイルポンプ2の基準となる目標ポンプ回転速度Nop_0を、ポンプ回転速度補正量ΔNopだけ補正せず、そのまま電動オイルポンプ2の回転速度制御(吐出流量制御)に用いた場合(従来)の動作および問題点を、
図7のタイムチャートに基づき説明する。
【0047】
図7は、瞬時t1に発進クラッチが締結を開始して、クラッチ入力トルクTcinが図示のごとく立ち上がると共に、クラッチ出力回転速度Ncoutが0から図示のごとくクラッチ入力回転速度Ncinに向け上昇し、
発進クラッチの発熱で瞬時t2に、発進クラッチの冷却(電動オイルポンプ2の作動)が必要になって、オイルポンプ作動要否信号SopがOFFからONに切り替わり、
電動オイルポンプ2からの吐出オイルによる発進クラッチの冷却で瞬時t3に、発進クラッチの冷却(電動オイルポンプ2の作動)が不要になって、オイルポンプ作動要否信号SopがONからOFFに切り替わった場合の動作タイムチャートである。
【0048】
電動オイルポンプ2の回転速度制御(吐出流量制御)に際し、従来のごとく常に基準となる目標ポンプ回転速度Nop_0をそのまま用いる場合、オイルポンプ作動要否信号SopがONとなっている瞬時t2〜t3の間、電動オイルポンプ2は回転速度Nopが
図7に示す通り常に、基準の目標ポンプ回転速度Nop_0になるよう制御される。
【0049】
電動オイルポンプ2が、エアを吸い込まない(容積効率を低下されない)作動条件下であれば、ポンプ吐出流量Qは
図7に破線で示すごとく、発進クラッチの冷却を行うのに過不足のない狙い通りの目標流量Q1となり、発進クラッチ温度TEMPclを同じく破線で示すように保証温度TEMPcl_s以下にすることができる。
なお、電動オイルポンプ2が、エアを吸い込まない(容積効率を低下されない)作動条件下では、電動オイルポンプ2の駆動負荷も変化することがないから、ポンプ駆動トルク変化量ΔTopは
図7に破線で示すごとく、ほぼ0に保たれている。
【0050】
しかし、電動オイルポンプ2が要求吐出流量の急増などによりエアを吸い込み、容積効率を低下されるような場合は、電動オイルポンプ2が容積効率の低下により目標吐出流量Q1を実現し得ず、ポンプ吐出流量Qは
図7に実線で示すごとく、発進クラッチの冷却を行うのに過不足のない目標吐出流量Q1よりも少ないQ2になってしまう。
このため、発進クラッチが冷却不足に陥って、発進クラッチ温度TEMPclが同じく実線で示すように保証温度TEMPcl_sを超えるという問題を生ずる。
ちなみに、電動オイルポンプ2が、エアを吸い込む(容積効率を低下される)作動条件下では、電動オイルポンプ2の駆動負荷も変化することから、ポンプ駆動トルク変化量ΔTopは
図7に実線で示すごとく、ポンプ駆動負荷変化に応じたレベルのものとなる。
【0051】
前記した第1実施例による電動オイルポンプ2の吐出流量制御にあっては、以下のように上記の問題を解消することができる。
図8に基づき説明するに、この
図8は、
図7と同じ条件で、電動オイルポンプ2がエアを吸い込むときの動作タイムチャートを示す。
【0052】
瞬時t2〜t3におけるオイルポンプ作動要否信号Sop=ONに呼応して電動オイルポンプ2が作動している(オイルポンプ回転速度Nop>0の)間、従来は電動オイルポンプ2を、回転速度Nopが破線(
図7に示すと同じもの)で示すようにように、基準の目標ポンプ回転速度Nop_0となるよう制御するが、
本実施例においてはこの間、エアの吸い込み(ポンプ容積効率の低下)に起因したポンプ駆動トルク変化ΔTopの発生(
図7の実線で示すと同じもの)に応じ、電動オイルポンプ2を、回転速度Nopが実線で示すごとく、基準の目標ポンプ回転速度Nop_0よりもポンプ回転速度補正量ΔNopだけ高い補正済回転速度Nop_1となるように制御する。
【0053】
このため、ポンプ吐出流量Qを破線で示すQ2(
図7に実線で示すものと同じ)から、実線で示すごとく、発進クラッチの冷却を行うのに過不足のない狙い通りの目標流量Q1となるよう増大させることができる。
かかるポンプ吐出流量Qの増大(Q=Q1)により、発進クラッチ温度TEMPclを破線レベル(
図7に実線で示すと同じ)から実線レベル(
図7に破線で示すと同じ)へと低下させて、保証温度TEMPcl_s以下にすることができ、
図7につき上述した発進クラッチの冷却不足に関する問題を解消することができる。
【0054】
なお、この効果を達成するのに、電動オイルポンプ2の回転速度Nopを常に、基準となる回転速度Nop_0から、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下分だけ嵩上げするのではなく、ポンプ容積効率の低下を生じたとき(ポンプ駆動トルク変化量ΔTopの発生中)のみ、電動オイルポンプ2の回転速度Nopを、基準となる回転速度Nop_0から、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下分ΔNopだけ嵩上げするため、
エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下が発生しない場合に、ポンプ吐出流量が多すぎて、電動オイルポンプ2が無駄に電力を消費することがなく、電費の悪化を招くという問題を生ずることもない。
【0055】
更に、ポンプの基準となる回転速度を常に嵩上げする対策を採用した場合のように、電動オイルポンプ2の強度要求が高くなることがなく、電動オイルポンプ2の高強度によるポンプ摺動抵抗の増大でポンプ駆動電力が多くなって、コスト上の不利益をもたらすこともない。
【0056】
加えて本実施例では、電動オイルポンプ2の回転速度Nopを、基準となる回転速度Nop_0から嵩上げするに当たり、ポンプ駆動トルク変化(低下)量ΔTopが大きいほど、また油温TEMPoil(発進クラッチ温度TEMPcl)が高いほど(高くなると予測されるほど)、ポンプ回転速度NopのNop_0からの嵩上げ量ΔNopを大きくするため(
図4参照)、
この嵩上げ量ΔNopが、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下に正確に対応したものとなり、ポンプ容積効率の低下に対し上記の嵩上げ量ΔNopが過不足を生じて、前記の作用効果が十分に得られなくなるという事態の発生を回避可能である。
【0057】
なおポンプ回転速度NopのNop_0からの嵩上げを、
図5につき前述したように、ポンプ駆動トルク変化(低下)量ΔTopおよび油温TEMPoil(発進クラッチ温度TEMPcl)がそれぞれの設定値未満である間は行わせず、ポンプ駆動トルク変化(低下)量ΔTopおよび油温TEMPoil(発進クラッチ温度TEMPcl)がそれぞれの設定値以上である時、上記の嵩上げ量ΔNopを一定の所定値ΔNop_cnstにして行わせるようにする場合、
上記したほどの高い精度は望めないものの、簡易的な制御により安価に略上記したと同様な作用効果が奏し得られる。
【0058】
<第2実施例>
図9は、本発明の第2実施例になるポンプ吐出流量制御装置を成すポンプ回転速度補正量決定部22を示し、
本実施例は、全体を
図1,2におけると同様な構成とするが、
図2におけるポンプ回転速度補正量決定部22を、
図3のものに代えて
図9に示すごときものとしたものである。
【0059】
図9に示すポンプ回転速度補正量決定部22は、
図3につき前述したと同様な要領により、目標ポンプ駆動トルク演算部22a、減算器22b、およびポンプ回転速度補正量演算部22cで求めたポンプ回転速度補正量ΔNopを、発進クラッチの急速な冷却が要求される場合において、この要求が満足されるよう、当該ΔNopによる補正の初期段階で一時的に増大補正するようにしたものである。
【0060】
このため本実施例においては、ポンプ回転速度補正量決定部22に対し、ポンプ回転速度オーバーシュート要否判定部22dと、ポンプ回転速度オーバーシュート禁止指令部22eと、ポンプ回転速度オーバーシュート量演算部22fと、ポンプ回転速度オーバーシュート量選択部22gと、加算器22hを付加する。
【0061】
ポンプ回転速度オーバーシュート要否判定部22dは、目標ポンプ駆動トルクtTopおよびポンプ回転速度Nopから、電動オイルポンプ2を急冷する必要がある状況か否かを判定し、
急冷の必要があれば、そのためのポンプ吐出流量の急増を実現するポンプ回転速度のオーバーシュート(
図1,2の補正済目標ポンプ回転速度Nop_1=Nop_0+ΔNopからの上昇)が必要であることを示すように、ポンプ回転速度補正の初期段階における所定時間中、ポンプ回転速度オーバーシュート要否信号OSopをONとなし、
急冷の必要がなければ、ポンプ回転速度のオーバーシュートが必要であることを示すようにポンプ回転速度オーバーシュート要否信号OSopをOFFにするものである。
従ってポンプ回転速度オーバーシュート要否判定部22dは、本発明における急冷要求判定手段に相当する。
【0062】
ポンプ回転速度オーバーシュート禁止指令部22eは、ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNos=0によりポンプ回転速度オーバーシュート禁止指令を発する。
ポンプ回転速度オーバーシュート量演算部22fは、油温TEMPoilと、目標ポンプ駆動トルクtTopに対するポンプ駆動トルクTopのポンプ駆動トルク変化量ΔTopとから、
図10に例示した予定のマップを基に、クラッチの要求される急冷を実現可能なポンプ吐出流量となすのに必要なポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosを求める。
【0063】
当該ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosは、上記の設定目的に照らして当然であるが、
図10に示すように、ポンプ駆動力変化量ΔTopが大きいほど、また油温TEMPoilが高いほど、ΔNos=ΔNos_1、ΔNos=ΔNos_2、ΔNos=ΔNos_3のごとく大きくなり、
その理由は、ポンプ駆動力変化量ΔTopが大きいほど、また油温TEMPoilが高いほど、ポンプ容積効率の低下程度が大きく、オイルポンプ2を高速回転させる必要があるためである。
【0064】
ポンプ回転速度オーバーシュート量選択部22gは、ポンプ回転速度オーバーシュート要否信号OSopに応答し、OSop=OFFであれば、指令部22eからのポンプ回転速度オーバーシュート禁止指令(ΔNos=0)を選択して加算器22hに供給し、OSop=ONであれば、演算部22fからのクラッチ急冷用ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosを加算器22hに供給する。
加算器22hは、ポンプ回転速度補正量ΔNopを、ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosの加算により補正して、補正済ポンプ回転速度補正量ΔNop_Cを求める。
【0065】
本実施例では上記の補正済ポンプ回転速度補正量ΔNop_Cを、
図2におけるポンプ回転速度補正量ΔNopの代わりに用いて、補正済目標ポンプ回転速度Nop_1の演算に供し、電動オイルポンプ2がこの補正済目標ポンプ回転速度Nop_1となるよう制御される。
【0066】
<第2実施例の作用・効果>
以下、本実施例による吐出流量制御の作用・効果を、
図11の動作タイムチャートに基づき詳細に説明する。
この
図11は、瞬時t1に発進クラッチが締結を開始して、クラッチ入力トルクTcinが破線図示のごとく緩やかに、または実線図示のごとく急速に立ち上がると共に、クラッチ出力回転速度Ncoutが0から図示のごとくクラッチ入力回転速度Ncinに向け上昇し、
発進クラッチの発熱で瞬時t2に、発進クラッチの冷却(電動オイルポンプ2の作動)が必要になって、オイルポンプ作動要否信号SopがOFFからONに切り替わり、
電動オイルポンプ2からの吐出オイルによる発進クラッチの冷却で瞬時t3に、発進クラッチの冷却(電動オイルポンプ2の作動)が不要になって、オイルポンプ作動要否信号SopがONからOFFに切り替わった場合の動作タイムチャートである。
【0067】
クラッチ入力トルクTcinが破線図示のごとく緩やかに立ち上がる発進クラッチの緩締結時は、発進クラッチの発熱も緩やかで、その急冷が必要でなく、発進クラッチは緩やかに冷却させても構わない。
従って、
図9におけるポンプ回転速度オーバーシュート要否判定部22dはポンプ回転速度オーバーシュート要否信号OSopをOFFにする。
この時ポンプ回転速度オーバーシュート量選択部22gは、OSop=OFFに応答して指令部22eからのポンプ回転速度オーバーシュート禁止指令(ΔNos=0)を選択して加算器22hに供給するため、加算器22hからの補正済ポンプ回転速度補正量ΔNop_Cは、演算部22cからのポンプ回転速度補正量ΔNopと同じ値となる。
【0068】
よって、
図2で求める補正済回転速度Nop_1が基準の目標ポンプ回転速度Nop_0よりもポンプ回転速度補正量ΔNopだけ高い値となり、電動オイルポンプ2は、回転速度Nopが破線で示すごとく、Nop_1=Nop_0+ΔNopになるよう制御される。
これによりポンプ吐出流量Qは破線で示すごとく、補正済回転速度Nop_1に応じた緩やかな速度で、発進クラッチの冷却を行うのに過不足のない狙い通りの目標流量Q1へと増大されるが、上記した通り発進クラッチの急冷を必要としていないことから、発進クラッチ温度TEMPclを破線で示すように保証温度TEMPcl_s以下に保つことができる。
【0069】
クラッチ入力トルクTcinが実線図示のごとく急速に立ち上がる発進クラッチの急締結時は、発進クラッチの発熱も急速で、その急冷が必要である。
従って、
図9におけるポンプ回転速度オーバーシュート要否判定部22dはポンプ回転速度オーバーシュート要否信号OSopをONにする。
この時ポンプ回転速度オーバーシュート量選択部22gは、OSop=ONに応答し、演算部22fで求めたポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosを選択して加算器22hに供給する。
【0070】
ところで、演算部22fにより求めるポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosは、
図10に示すような特性をもって変化するものであり、
エアの吸い込みがなくてポンプ駆動トルク変化量ΔTopが一点鎖線で示すように略0であり、且つ油温TEMPoil(クラッチ温度TEMPcl)が所定値未満である場合、ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosは、上記補正済回転速度Nop_1との和値(Nop_1+ΔNos)を一点鎖線で示すごとく、キャビテーションが生じない許容上限速度Nop_Lim_0となすようなものである。
【0071】
よって加算器22hからの補正済ポンプ回転速度補正量ΔNop_Cは、演算部22cからのポンプ回転速度補正量ΔNopを上記のポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosだけ嵩上げした値(ΔNop_C=ΔNop+ΔNos)となる。
この場合、
図2で求める補正済回転速度Nop_1がNop_1=Nop_0+(ΔNop+ΔNos)となり、電動オイルポンプ2は、回転速度Nopが一点鎖線で示すごとく、Nop_1=Nop_0+(ΔNop+ΔNos)になるよう制御される。
【0072】
これによりポンプ吐出流量Qは一点鎖線で示すごとく、補正済回転速度Nop_1= Nop_0+(ΔNop+ΔNos)に応じた急な速度で、発進クラッチの冷却を行うのに過不足のない狙い通りの目標流量Q1へと増大され、
クラッチ入力トルクTcinの実線で示す急速な立ち上がり時に要求される速度でポンプ吐出流量Qを急増させて、発進クラッチ温度TEMPclを実線で示すように保証温度TEMPcl_s以下にすることができる。
【0073】
しかし同じクラッチ急冷要求時に、電動オイルポンプ2がエアを吸い込むようになると、これに伴う容積効率の低下で上記した所定の応答でポンプ吐出流量Qを急増させ得ず、発進クラッチの冷却応答遅れによりクラッチ温度TEMPclが一点鎖線で示すごとく保証温度TEMPcl_sを超えてしまう。
【0074】
ところで本実施例においては、エアの吸い込みに起因して実線図示のごとくに発生するポンプ駆動トルク変化量ΔTopの大きさに応じ、
図10の特性に基づき、ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosを増大補正するため、
図2で求める補正済回転速度Nop_1がポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosの増大分だけ更に嵩上げされ、電動オイルポンプ2を、回転速度Nopが実線で示すごとく、補正済許容上限速度Nop_Limになるよう制御することとなる。
【0075】
これによりポンプ吐出流量Qは実線で示すごとく、一点鎖線特性よりも更に急な速度で、発進クラッチの冷却を行うのに過不足のない狙い通りの目標流量Q1へと増大され、
エアの吸い込み時であっても、クラッチ入力トルクTcinの実線で示す急速に立ち上がり時に要求される速度でポンプ吐出流量Qを急増させて、発進クラッチ温度TEMPclを、一点鎖線で示すように保証温度TEMPcl_sを超えさせることなく、実線で示すように保証温度TEMPcl_s以下にすることができる。
従って、エア吸い込み時に、ポンプ吐出流量Qを要求通りに急増させ得ず、クラッチ温度TEMPclが一点鎖線で示すごとく保証温度TEMPcl_sを超えてしまうという上記の問題を回避し得る。
【0076】
加えて本実施例では、ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosを
図10に例示した通り、ポンプ駆動トルク変化(低下)量ΔTopが大きいほど、また油温TEMPoil(発進クラッチ温度TEMPcl)が高いほど(高くなると予測されるほど)、大きくするため、
ポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosが、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下に正確に対応したものとなり、ポンプ容積効率の低下に対し上記のポンプ回転速度オーバーシュート量ΔNosが過不足を生じて、上記の作用効果が十分に得られなくなるという事態の発生を回避可能である。
【0077】
<その他の実施例>
なお上記した各実施例では何れの場合も、電動オイルポンプ2がトランスミッション1内の発進クラッチを冷却するためのものであることとして説明したが、電動オイルポンプ2は、トランスミッション1内の他のクラッチを冷却するためのものであってもよいし、トランスミッションに限らず、任意の対象物を冷却するためのものであってもよい。
また、吐出流量制御の対象である電動ポンプは、電動オイルポンプに限られず、オイル以外の液体を吐出するものであってもよい。