特許第5982807号(P5982807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982807
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】タービン翼
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20160818BHJP
   F01D 5/18 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   F01D9/02 102
   F01D5/18
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-274336(P2011-274336)
(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公開番号】特開2013-124613(P2013-124613A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】仁田 耕造
(72)【発明者】
【氏名】大北 洋治
(72)【発明者】
【氏名】仲俣 千由紀
(72)【発明者】
【氏名】米倉 一男
(72)【発明者】
【氏名】久保 世志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 修
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0304499(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0265488(US,A1)
【文献】 特開平10−089005(JP,A)
【文献】 特開2008−121561(JP,A)
【文献】 特開2005−180339(JP,A)
【文献】 特開2011−196360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D1/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空とされた翼体の内壁面から外壁面に貫通する冷却空気孔を備えるタービン翼であって、
前記冷却空気孔の内部に配置されると共に前記冷却空気孔の内壁面から突出して設けられ、前記冷却空気孔の内部であって前記冷却空気孔の流れ方向に対して平行かつ前記翼体の前記外壁面を流れる主流ガスの流れ方向と平行な面内に二次渦を形成可能な凸部を備えることを特徴とするタービン翼。
【請求項2】
前記凸部は、前記翼体の前記外壁面を流れる主流ガスの流れ方向の下流側に位置する前記冷却空気孔の内壁面に設けられていることを特徴とする請求項1記載のタービン翼。
【請求項3】
前記冷却空気孔が前記翼体の内壁面側に設けられる直管部と前記翼体の外壁面側に設けられる拡径部とを有し、前記直管部または前記直管部と前記拡径部との接続部位に前記凸部が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のタービン翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン翼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジン等が備えるタービン翼は、燃焼器によって生成された燃焼ガスに晒されて高温となる。このため、タービン翼の耐熱性を向上させるために、特許文献1〜4に示すような、様々な対策が施されている。例えば、特許文献3には、冷却空気孔から噴き出された冷却空気を突起部によって分流するタービン翼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3997986号公報
【特許文献2】特許第4752841号公報
【特許文献3】特開平10−89005号公報
【特許文献4】特開平6−093802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献3においては、突起部の上方が開放されており、突起部に乗り上げた冷却空気は、その上方を流れる主流ガス(燃焼ガス)によって吹き飛ばされてしまう。つまり、冷却空気の一部が翼体の外壁面に沿うことなく吹き飛ばされてしまう。このため、十分に冷却効率を向上させることができない。
【0005】
近年においてはガスタービンエンジン等のさらなる出力の向上が求められており、これによって燃焼器で生成される燃焼ガスの温度が、以前にも増して高温化される傾向にある。
このため、ガスタービンエンジン等が備えるタービン翼には、冷却効率のさらなる向上が求められている。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ガスタービンエンジン等が備えるタービン翼の冷却効率をさらに高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、中空とされた翼体の内壁面から外壁面に貫通する冷却空気孔を備えるタービン翼であって、上記冷却空気孔の内部に配置されると共に上記冷却空気孔の内壁面から突出して設けられる凸部を備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記凸部が、上記翼体の上記外壁面を流れる主流ガスの流れ方向の下流側に位置する上記冷却空気孔の内壁面に設けられているという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記冷却空気孔が上記翼体の内壁面側に設けられる直管部と上記翼体の外壁面側に設けられる拡径部とを有し、上記直管部または上記直管部と上記拡径部との接続部位に上記凸部が設けられているという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、上記第1または第2の発明において、上記冷却空気孔が上記翼体の内壁面側に設けられる直管部と上記翼体の外壁面側に設けられる拡径部とを有し、上記直管部の上記翼体の内壁面側の端部から上記翼体の外壁面側の端部まで連続して上記凸部が設けられているという構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、凸部が冷却空気孔の内部に設けられているため、凸部に乗り上げた冷却空気は、主流ガス等の他の流れに影響されることがない。このため、冷却空気の一部が主流ガスによって吹き飛ばされることなく、冷却空気孔から噴き出される冷却空気の多くをフィルム冷却に寄与させることができる。さらに、冷却空気が凸部に乗り上げることによって、流れながら広がるため、より広範囲に冷却空気を噴き出すことが可能となる。
このように本発明によれば、翼体の外壁面の冷却に寄与する冷却空気を減少させることなく、広い範囲に冷却空気を噴き出すことができ、タービン翼の冷却効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態におけるタービン翼の概略構成を示す斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態におけるタービン翼が備えるフィルム冷却部の概略図であり、(a)が縦断面図であり、(b)が凸部を含む平面図であり、(c)が翼体の内壁面側から見た正面図である。
図3】本発明の第1実施形態におけるタービン翼が備えるフィルム冷却部をモデルとしたシミュレーションによって得られた絶対速度の分布を示す模式図である。
図4図3における断面A〜断面Jにおける絶対速度及び流れ方向を示す模式図である。
図5図3における凸部の近傍における絶対速度及び流れ方向を示す模式図である。
図6】本発明の第2実施形態におけるタービン翼が備えるフィルム冷却部の概略図であり、(a)が縦断面図であり、(b)が凸部を含む平面図であり、(c)が翼体の内壁面側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るタービン翼の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のタービン翼1の概略構成を示す斜視図である。本実施形態のタービン翼1は、タービン静翼であり、翼体2と、翼体2を挟み込むバンド部3と、フィルム冷却部4とを備えている。
【0016】
翼体2は、不図示の燃焼器の下流側に配置されており、燃焼器によって生成された燃焼ガスG(図2参照)の流路に配置されている。この翼体2は、前縁2aと、後縁2bと、正圧面2cと、負圧面2dとを有する翼形状とされている。翼体2は、中空とされており、内部に冷却空気を導入するための内部空間を有している。翼体2の内部空間には、不図示の冷却空気流路が接続されており、例えば燃焼器の上流側に設置される圧縮機から抽気された空気が冷却空気として導入される。バンド部3は、翼体2を高さ方向から挟み込んで設けられおり、燃焼ガスGの流路壁の一部として機能する。これらのバンド部3は、翼体2のチップとハブに一体化されている。
【0017】
図2は、フィルム冷却部4の概略図であり、(a)が縦断面図であり、(b)が後述の凸部6を含む平面図であり、(c)が翼体2の内壁面2e側から見た正面図である。これらの図に示すように、フィルム冷却部4は、冷却空気孔5と、凸部6とを備えている。
【0018】
冷却空気孔5は、翼体2の内壁面2eから外壁面2fに貫通する貫通孔であり、内壁面2e側の直管部5aと、外壁面2f側の拡径部5bとから構成されている。直管部5aは、直線状に延びる部位であり、断面が長孔形状とされている。また、直管部5aは、内壁面2e側の端部より外壁面2f側の端部が翼体2の外壁面2fに沿って流れる主流ガスGの下流側に配置されるように傾斜されている。拡径部5bは、外壁面2fに向かうに連れて流路断面が大きくなる部位である。なお、図2(a)に示すように、拡径部5bは、内壁面2e側から外壁面2f側に向かうに連れて、側壁面5cが翼体2の高さ方向に広がる形状とされている。
このような冷却空気孔5は、翼体2の内部空間から供給される冷却空気Yを外壁面2fに向けて案内すると共に、拡径部5bにおいて冷却空気Yを翼体2の高さ方向に分散させて広げてから外壁面2fに沿って噴き出す。
【0019】
凸部6は、冷却空気孔5の内部に配置されると共に冷却空気孔5の内壁面から突出して設けられている。この凸部6は、図2に示すように、翼体2の内壁面2e側が三角形状の衝突面6aとされた三角錐形状とされている。また、凸部6は、冷却空気孔5の内壁面のうち、燃焼ガスG(主流ガス)の流れ方向の下流側に位置する部位に設けられている。さらに凸部6は、直管部5aと拡径部5bとの接続部位に設けられている。
【0020】
なお、図1に示すように、本実施形態のタービン翼1においては、上述のように構成されたフィルム冷却部4が多数設けられている。このようなフィルム冷却部4から噴出された冷却空気Yが翼体2の外壁面2fに沿って流れ、これによって翼体2の外壁面2fがフィルム冷却される。
【0021】
このような構成を有する本実施形態のタービン翼1によれば、翼体2の内部から冷却空気がフィルム冷却部4の冷却空気孔5に流れ込む。冷却空気孔5に流れ込んだ冷却空気Yは、流路面積が変化しない直管部5aで真っ直ぐと案内され、流路面積が連続的に広がる拡径部5bで翼体2の高さ方向に広がりながら流れる。よって、本実施形態のタービン翼1が備える冷却空気孔5によれば、直管部のみからなる冷却空気孔と比較して、翼体2の高さ方向において、より広範囲に冷却空気Yを噴き出すことができ、翼体2の外壁面2fをより広範囲に冷却することができる。
【0022】
また、本実施形態のタービン翼1においては、凸部6が冷却空気孔5の内部に設けられている。このため、凸部6に乗り上げた冷却空気Yは、燃焼ガスGの流れに影響されることがない。このため、冷却空気Yの一部が燃焼ガスGによって吹き飛ばされることなく、冷却空気孔5から噴き出される冷却空気Yの多くをフィルム冷却に寄与させることができる。さらに、冷却空気Yが凸部6に乗り上げることによって、流れながら広がるため、より広範囲に冷却空気Yを噴き出すことが可能となる。
このように本実施形態のタービン翼1によれば、翼体2の外壁面2fの冷却に寄与する冷却空気Yを減少させることなく、広い範囲に冷却空気Yを噴き出すことができ、タービン翼1の冷却効率を高めることが可能となる。
【0023】
また、本実施形態のタービン翼1において凸部6は、翼体2の外壁面2fを流れる燃焼ガスGの流れ方向の下流側に配置されている。これによって、冷却空気Yを翼体2の高さ方向に広げて噴き出すことが可能となる。
【0024】
また、本実施形態のタービン翼1においては、直管部5aと拡径部5bとの接続部位に凸部6が設けられている。拡径部5bは直管部5aよりも空間的に広いため、凸部6が直管部5aと拡径部5bとの接続部位に設けられることによって、凸部6に乗り上げることによって広がろうとする冷却空気Yが広がるための空間を確保することができる。したがって、冷却空気Yの広がりが阻害されず、より広範囲に冷却空気Yを噴き出すことができる。
【0025】
図3図5は、本実施形態のタービン翼1のフィルム冷却部4における流れをシミュレーションした結果を模式的に示す図である。図3はフィルム冷却部4における冷却空気Yの絶対速度の分布を示し、図4図3における断面A〜断面Jにおける冷却空気Yの絶対速度及び局所的な流れ方向を示し、図5は凸部6の近傍における絶対速度及び局所的な流れ方向を示している。なお、図3及び図5に示すように、冷却空気Yは、直管部5a側から拡径部5bに向かって流れている。また、図4及び図5においては、冷却空気孔5内部における冷却空気Yの局所的な流れ方向を太い矢印にて示している。
【0026】
これらの図(特に図4のE〜J)に示すように、本実施形態のタービン翼1においては、凸部6に乗り上げた冷却空気Yが、燃焼ガスGの影響を受けることなく広がっていることが確認できる。
また、図5に示すように、凸部6の下流側には二次渦が形成されていることが分かる。このような二次渦が形成されることによって冷却空気孔5の内部の圧力損失が高まり、冷却空気Yの流速を低下させることができる。この結果、冷却空気Yがより広範囲に広がりやすくなる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0028】
図6は、本実施形態のタービン翼が備えるフィルム冷却部4Aの概略図であり、(a)が縦断面図であり、(b)が後述の凸部7を含む平面図であり、(c)が翼体2の内壁面2e側から見た正面図である。これらの図に示すように、本実施形態のフィルム冷却部4Aは、上記実施形態の凸部6に換えて、翼体2の内壁面2eと外壁面2fとを結ぶ方向に長い凸部7を備えている。
【0029】
この凸部7は、冷却空気孔5の内部に配置されると共に冷却空気孔5の内壁面から突出して設けられている。また、凸部7は、図6に示すように、翼体2の内壁面2e側が三角形状とされた三角柱形状とされている。また、凸部7は、直管部5aの翼体2の内壁面2e側の端部から翼体2の外壁面2f側の端部まで連続して設けられている。
【0030】
このような構成を有する本実施形態のタービン翼1においても、凸部7に乗り上げた冷却空気Yは、燃焼ガスGの流れに影響されることがない。このため、冷却空気Yの一部が燃焼ガスGによって吹き飛ばされることなく、冷却空気孔5から噴き出される冷却空気Yの多くをフィルム冷却に寄与させることができる。さらに、冷却空気Yが凸部7に乗り上げることによって、流れながら広がるため、より広範囲に冷却空気Yを噴き出すことが可能となる。
このように本実施形態のタービン翼においても、翼体2の外壁面2fの冷却に寄与する冷却空気Yを減少させることなく、広い範囲に冷却空気Yを噴き出すことができ、タービン翼の冷却効率を高めることが可能となる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態の翼体2におけるフィルム冷却部4の配置位置及び個数は一例であり、タービン翼に要求される冷却性能に応じて適宜変更可能である。
また、上記実施形態においては、タービン翼が静翼である構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、動翼に対してフィルム冷却部を設置する構成を排除するものではない。
また、上記実施形態における凸部6,7の形状は一例であり、例えば、角柱や半円柱形状等の他の形状に変更可能である。
また、上記実施形態における凸部6を直管部5aの内部に設置するようにしても良い。
【符号の説明】
【0033】
1……タービン翼、2……翼体、2a……前縁、2b……後縁、2c……正圧面、2d……負圧面、2e……内壁面、2f……外壁面、3……バンド部、4,4A……フィルム冷却部、5……冷却空気孔、5a……直管部、5b……拡径部、6……凸部、6a……衝突面、G……燃焼ガス(主流ガス)、Y……冷却空気
図1
図2
図6
図3
図4
図5