(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982809
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 5/00 20060101AFI20160818BHJP
C02F 1/66 20060101ALI20160818BHJP
C02F 1/68 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
C02F5/00 610E
C02F5/00 620C
C02F5/00 620B
C02F1/66 510Z
C02F1/66 520
C02F1/66 530L
C02F1/66 530P
C02F1/68 530A
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-276647(P2011-276647)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-126619(P2013-126619A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】花井 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 公平
(72)【発明者】
【氏名】川原 義隆
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−149953(JP,A)
【文献】
特表2003−502155(JP,A)
【文献】
特開2011−251210(JP,A)
【文献】
特開2009−030959(JP,A)
【文献】
特開平08−276191(JP,A)
【文献】
特開平07−024475(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0131923(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 5/00
C02F 1/66
C02F 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水が通流する第1配管中の析出物の発生を抑制する水処理装置において、
前記第1配管の原水流量を計測する第1流量計と、
前記第1配管を分岐して取り出した原水を再度前記第1配管に戻す第2配管と、
前記第2配管に設置した第1ポンプと、
前記第2配管の原水流量を計測する第2流量計と、
pH調整剤貯留タンクと、
前記pH調整剤貯留タンクから前記第2配管にpH調整剤を添加する第2ポンプと、
前記pH調整剤を添加後の原水のpH値が、前記第2配管内で析出物を急速に成長させることのできる目標pH値に近づくように、入力される前記第2配管のpHの値に基づいて前記第2ポンプの流量を制御する制御部と、
前記第2配管のpHを計測するpH計を備え、
前記制御部は、前記第1流量計の流量に対して、予め設定された流量で前記第1ポンプの流量を制御し、
前記pH調整剤を添加後の原水のpH値が前記目標pH値に近づくように前記pH計の計測値に基づいて前記第2ポンプの流量を制御すること
を特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1配管下流の粒子径が0.3μm以上となるように前記第1ポンプの流量を制御することを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1配管へのスケール付着が少なくなる目標送液率に基づいて前記第1ポンプの流量を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記第2配管の前記第1配管に合流する位置が、前記分岐位置より下流であること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記第2配管の前記第1配管に合流する位置が、前記分岐位置より上流であること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記制御部のデータを入力する入力装置を備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記目標pH値が、pH6.0以上10.0以下の値であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記第1配管を通流する前記原水が地熱水であり、前記地熱水から蒸気または熱を取り出して電気を発電する地熱発電装置の下流側に前記水処理装置を備え、前記水処理装置より下流の前記第1配管が還元井に接続されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の水処理装置を備えた地熱発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内壁に析出物が発生することを抑制する水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スケールの発生を防止するために、原水をタンクに通過させて沈殿物を形成し、この沈殿物を種晶としてタンクの上流側に戻して、スケール物質を除去する方法が知られている。例えば、特許文献1〜4が挙げられる。
【0003】
特許文献1は、全溶存塩濃度が4000〜30000ppmで、溶存シリカ濃度が650〜1200ppmである地熱水からシリカを回収する地熱水の処理方法において、前記地熱水に沈降性シリカシードを添加して地熱水中の過飽和シリカをシリカシード上に析出させた後、地熱水と沈降性シリカを分離し、次いで、分離された上澄液中のコロイド状シリカを限外ろ過膜にて分離回収することを特徴とする地熱水の処理方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、地熱水を供給する地熱水供給手段と、該地熱水供給手段からの地熱水に、カルシウムを含む酸化物および水酸化物のうち少なくともいずれか一方であるカルシウム化合物を添加するカルシウム化合物添加手段と、該添加手段によるカルシウム化合物の添加により地熱水中に沈殿物を生成させる反応槽と、生成した沈殿物を分離する分離手段とを備え、さらに、分離手段において分離された沈殿物の一部を、反応槽内に返送する返送手段を備えたことを特徴とする地熱水の処理装置を開示している。
【0005】
特許文献3は、地熱熱水中の懸濁物質を回収する回収装置であって、内部が部分的に区画されて流路が設けられ、かつ熱水を貯留するタンクと、このタンクの上部に設けられ、かつ前記タンクからの越流水を集水する容器とを備えてなり、前記タンクの下部に沈殿した物質を前記容器に送給する送給手段が、前記タンクと容器との間に設けられ、かつ前記容器の上部が開放状態とされる一方、前記容器内の熱水の一部を前記タンクに返送する返送手段が、前記タンクと容器との間に設けられたことを特徴とする地熱熱水からの懸濁物質回収装置を開示している。
【0006】
特許文献4は、シリカを含有する水溶液中にシリカ吸着性を有するシードを添加し、前記水溶液中のシリカを前記シードに吸着させた後、前記シードを含む水溶液を固液分離し、得られた固形分の一部を前記シードとして再使用する水溶液中のシリカ回収法において、前記水溶液中にカルシウムイオンを添加後、シリカの重合が進行するまで所定時間静置し、更にpHをアルカリ側に調整して得られた沈澱の一部を前記シードとして再使用することを特徴とする水溶液中のシリカ回収法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−1496号公報
【特許文献2】特開2001−149953号公報
【特許文献3】特開2000−126753号公報
【特許文献4】特開平7−24475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、処理しなければならない原水流量が多い場合、大きなタンクを用意しなければならないという問題点があった。そして、原水に酸やアルカリを直接注入すると、原水流量が多い場合、多量の酸やアルカリを注入しなければならなくなるという問題点があった。
【0009】
上記の問題点を鑑み、本発明の目的は、配管内壁に析出物が発生することを抑制できる水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様は、原水が通流する第1配管中の析出物の発生を抑制する水処理装置において、前記第1配管の原水流量を計測する第1流量計と、前記第1配管を分岐して取り出した原水を再度前記第1配管に戻す第2配管と、前記第2配管に設置した第1ポンプと、前記第2配管の原水流量を計測する第2流量計と、pH調整剤貯留タンクと、前記pH調整剤貯留タンクから前記第2配管にpH調整剤を添加する第2ポンプと、前記pH調整剤を添加後の原水のpH値が
前記第2配管内で析出物を急速に成長させることのできる目標pH値に近づくように、入力される前記第2配管のpHの値に基づいて前記第2ポンプの流量を制御する制御部を備える。前記原水には、飽和濃度を超えるシリカ成分が含まれており、さらに原水中にカルシウムイオンが含まれている。
また、前記水処理装置は、前記第2配管のpHを計測するpH計をさらに備え、前記制御部は、前記第1流量計の流量に対して、予め設定された流量で前記第1ポンプの流量を制御し、前記pH調整剤を添加後の原水のpH値が目標pH値に近づくように前記pH計の計測値に基づいて前記第2ポンプの流量を制御することにしてもよい。より具体的には、前記pH計は、pH調整剤を添加前の原水のpHを測定して制御部によりフィードフォワード制御しても良いし、または、pH調整剤を添加後の原水のpHを測定して制御部によりフィードバック制御しても良い。また、前記制御部は、前記第1配管下流の粒子径が0.3μm以上となるように前記第1ポンプの流量を制御してもよい。また、前記制御部は、前記第1配管へのスケール付着が少なくなる目標送液率に基づいて前記第1ポンプの流量を制御してもよい。
【0011】
この構成によれば、第1配管中で成長した析出物を含んだ流体の一部を分岐点で取り出して返送流体として第1配管の上流側に戻している。第2配管内で析出物を急速に成長させるようにpHを調整している。そして、析出した粒子を第1配管に戻すと、第1配管中で過飽和になっている成分は、浮遊する析出物の粒子表面に析出し易いので、第1配管内壁に析出物が発生することを抑制できる。そして、第1配管を流れる流体に直接pH調整剤を加えて析出物の発生を抑制する方法に比べて、pH調整剤を添加される側の流体の流量が少ないので、pH調整剤の添加量を低減できる。
また、この構成によれば、第1流量計と第2流量計とpH計の計測値に基づいて、第2ポンプの流量を自動制御できる。
【0012】
より具体的には、前記水処理装置は、前記第2配管の前記第1配管に合流する位置を、前記分岐位置より下流にすることができる。
この構成によれば、本水処理装置より下流の第1配管の内壁に析出物が発生することを抑制できる。
【0013】
また、前記水処理装置は、前記第2配管の前記第1配管に合流する位置を、前記分岐位置より上流にすることもできる。
この構成によれば、析出物が第1配管と第2配管を循環する間に浮遊する析出物のサイズを大きくできる。浮遊する析出物の大きさが大きいほど、浮遊する析出物は配管壁面に付着し難くなる。
【0015】
また、前記水処理装置は、前記制御部にデータを入力する入力装置を備えることが望ましい。
【0016】
この構成によれば、原水の水質変化に応じていつでも入力データを変更することができる。なお、入力データとは、第2配管のpH値や目標pH値のことである。入力装置は必須の装置ではなく、これらの値を制御部に予め入力値として保存しておいてもよい。
【0017】
また、前記目標pH値が、pH6.0以上10.0以下の値であることが望ましい。
【0018】
この構成によれば、前記第2配管での粒子の生成速度を向上できる。
また、前記水処理装置を備えた地熱発電装置は、前記第1配管を通流する前記原水が地熱水であり、前記地熱水から蒸気または熱を取り出して電気を発電する地熱発電装置の下流側に前記水処理装置を備え、前記水処理装置より下流の前記第1配管が還元井に接続されていることが望ましい。
【0019】
この構成によれば、過飽和のシリカは浮遊する析出物上に析出するため、還元井内でのシリカ析出を抑制することができ、還元井の閉塞を抑制できる。また、浮遊物は十分に大きく成長しているため、還元井内でのスケール付着速度は小さくなり、還元井が閉塞するまでの期間を延長できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、配管中に析出物が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態の水処理装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の他の一実施形態の水処理装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態の水処理装置を備えた発電装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態の水処理装置の概略構成図である。本水処理装置20aは、第1配管L1の原水流量を計測する第1流量計7と、第1配管L1を分岐して取り出した原水を再度第1配管に戻す第2配管L2aと、第2配管L2に設置した第1ポンプ1aと、第2配管L2aの原水流量を計測する第2流量計2aと、第2配管L2aのpHを計測するpH計3a、8aと、pH調整剤貯留タンク4aと、pH調整剤貯留タンク4aから第2配管L2aにpH調整剤を添加する第2ポンプ5aと、pH調整剤を添加後の原水のpHが目標pH値に近づくようにpH計8aの計測値に基づいて第2ポンプ5aの流量を制御する制御部6aを備えている。 第2配管L2aの流量f1(L/min)に対し、目標pHとするのに必要なpH調整剤の流量f2(L/min)を予め測定しておき、比例係数K=f2/f1を求めておく。そして、制御の際は、第2流量計2aの計測値F1(L/min)の入力データに基づいて、第2ポンプ5aの流量をF1×K(L/min)となる様に制御することで、第2配管L2を流れる水を目標pHとする。
【0023】
pH計8aのpH値が目標pHになるようにpH調整剤の流量f2(L/min)をフィードバック制御してもよい。
pH計8aを省き、制御部6aが、pH調整剤を添加後の原水のpH値が目標pH値に近づくように、予め測定した第2配管L2aのpHの計測値を制御部に入力し、このpH値に基づいて第2ポンプ5aの流量を制御するようにしてもよい。この場合は、水処理装置は、第2配管L2aのpHの計測値を制御部へ入力する入力装置9としてのキーボードや、制御部のデータを表示する表示装置10を備えていることが望ましい。
【0024】
制御部6aは、第1流量計7の流量に対して5%以上50%以下の範囲の目標送液率を予め任意に設定されている。制御部6aは、目標送液率になるように第1ポンプ1aの流量を制御している。目標送液率は、あらかじめ返送率条件を変えて運転を行い、第1配管へのスケール付着が少なくなる目標送液率を見つけて決定する。第1配管へのスケール付着が少なくなるかは、例えば、第1配管下流の粒子径が0.3μm以上となる目標送液率を探索すればよい。粒子径が0.3μm以上になると粒子が配管へ付着しにくくなるため、第2配管と第1配管とが合流する位置より下流の配管内壁にスケールが生成することを抑制できる。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態の水処理装置20bの概略構成図である。
図1との違いは、第2配管の第1配管に合流する位置を、分岐位置より上流にしていることである。その他の構成に違いは無いが、センサーや装置の番号の末尾を一部変更している。
【0026】
図3は、本発明の一実施形態の水処理装置を備えた地熱発電装置の概略構成図である。
図3は、上記
図1または
図2の水処理装置20を地熱発電装置30と還元井22との間の配管に備えたものである。地熱発電装置30は、生産井21から流入する気液混合地熱水を気液分離器23に取り込む。気液分離器23は、気液混合地熱水が蒸気と熱水(以降、原水と呼ぶ)に分離する。
【0027】
分離された蒸気は、タービン24に供給されタービンを回転させる動力となる。タービン24の回転軸は、発電機25と連結されており、タービン24の回転による動力を発電機25で電気に変換している。発電機25で生成された電気は、外部に出力される。タービン24出口から排気された蒸気は、凝縮器26へ供給され、冷却されて凝縮して水になる。凝縮した水は、原水と合流し第1配管L1を経由して最終的に還元性22へ流れる。
【0028】
一方の分離された原水(上記凝縮水を含む)は、第1配管L1を通って最終的に還元井22に供給される。水処理装置20は、第1配管L1の途中に設置されている。気液分離器23から水処理装置20へ供給される熱水は、上記の
図1または
図2のように、第1配管から原水を分岐させ、取り出した一部の原水中で種晶を速やかに作り、作られた種晶を前記第1配管に戻すことで、水処理装置20から下流の第1配管内壁に析出物が発生することを抑制できる。
【0029】
以上、本発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0030】
1a、1b: 第1ポンプ
2a、2b: 第2流量計
3a、3b、8a、8b:pH計
4a、4b:pH調整剤貯留タンク
5a、5b:第2ポンプ
6a、6b:制御部
7:第1流量計
9:入力装置
10:表示装置
L1:第1配管
L2a、L2b:第2配管
20、20a、20b:水処理装置
21:生産井
22:還元井
23:気液分離器
24:タービン
25:発電機
26:凝縮器
30:地熱発電装置