特許第5982825号(P5982825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982825
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20160818BHJP
   H01M 8/24 20160101ALI20160818BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20160818BHJP
【FI】
   H01M8/04 H
   H01M8/04 J
   H01M8/24 R
   H01M8/04 N
   H01M8/04 P
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-661(P2012-661)
(22)【出願日】2012年1月5日
(65)【公開番号】特開2013-140731(P2013-140731A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120178
【弁理士】
【氏名又は名称】三田 康成
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100148231
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 謙治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真一
【審査官】 久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−331966(JP,A)
【文献】 特開2009−054290(JP,A)
【文献】 特開2009−048790(JP,A)
【文献】 特開2008−226710(JP,A)
【文献】 特開2008−021591(JP,A)
【文献】 特開2006−164876(JP,A)
【文献】 特開2010−165639(JP,A)
【文献】 特開2006−331877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 −8/2485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガス及びカソードガスを用いて発電する燃料電池を積層して構成される燃料電池スタックを備える燃料電池システムにおいて、
前記積層された燃料電池が二以上のグループに分けられることにより前記燃料電池から流出したアノードオフガスが二以上のグループに分けられ、
グループごとにアノードオフガスを外部に排出するようにグループごとに排出機構を備え、
前記燃料電池のアノードオフガス排出時期がグループごとに異なるように各排出機構を制御する制御部を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記排出機構は、
前記燃料電池スタック内において前記燃料電池の積層方向に延設され、前記燃料電池のアノードオフガス流出部と連通する内部マニホールドと、
二以上の分割マニホールドが形成されるように、前記内部マニホールド内を仕切る仕切壁と、
前記分割マニホールドごとに設けられ、前記分割マニホールドと外部との連通状態を制御する制御弁と、を備え、
前記制御部は、開弁時期が異なるように前記各制御弁を開弁制御することで、アノードオフガスを外部に排出させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記排出機構は、
前記燃料電池スタック内において前記燃料電池の積層方向に延設され、前記燃料電池のアノードオフガス流出部と連通する内部マニホールドと、 前記内部マニホールド内に挿入されるとともに、所定数の前記燃料電池のアノードオフガス流出部と連通可能な連通孔を外周面に二以上有する筒部材と、
前記内部マニホールド内において前記筒部材を回転駆動する駆動機構と、を備え、
前記連通孔は、前記筒部材の外周方向に位置をずらした状態で前記燃料電池の積層方向に配設され、
前記制御部は、前記筒部材が所定の回転速度で回転するように前記駆動機構を制御することで、各連通孔を介して前記筒部材内に流入してきたアノードオフガスを外部に排出させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、高負荷運転時には、低負荷運転時よりも前記筒部材の回転速度が速くなるように前記駆動機構を制御することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池スタックは、燃料電池を積層した分割スタックを二以上直列に連結して構成されており、
前記排出機構は、
前記分割スタック内において前記燃料電池の積層方向に延設され、前記燃料電池のアノードオフガス流出部と連通する内部マニホールドと、
前記分割スタックごとに設けられ、前記内部マニホールドと外部との連通状態を制御する制御弁と、を備え、
前記制御部は、開弁時期が異なるように前記制御弁を開弁制御することで、アノードオフガスを外部に排出させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池システムは、前記排出機構の下流側を閉塞した状態で前記燃料電池スタックにおける発電が実行されるデッドエンド型として構成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池システムは、運転状態に応じて前記デッドエンド型又はアノードオフガスをアノードガス供給側に循環させた状態で前記燃料電池スタックにおける発電が実行される循環型に切換可能であって、前記デッドエンド型として使用される場合に前記排出機構を用いてアノードオフガスを外部に排出可能に構成されることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池を積層した燃料電池スタックを備える燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜をアノード電極とカソード電極とで挟んで構成されており、アノード電極に供給される水素を含有するアノードガス及びカソード電極に供給される酸素を含有するカソードガスを用いて発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電気化学反応は、以下の通りである。
【0003】
アノード電極: 2H→ 4H+4e ・・・(1)
カソード電極: 4H+4e+O→ 2HO ・・・(2)
【0004】
これら(1)(2)の電気化学反応によって、燃料電池は1V(ボルト)程度の起電力を生じる。
【0005】
このような燃料電池を自動車用電源として使用する場合、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして使用される。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両を駆動させるための電力を取り出す。
【0006】
このような燃料電池システムにおいて発電を継続すると、カソードガスとして使用される空気に含まれる窒素等の不純物ガスがアノード電極側にリークする。アノード系内に不純物ガスが蓄積すると、アノードガスである水素の分圧が下がり、燃料電池の発電電圧が低下する。したがって、燃料電池システムでは、アノード系内の不純物ガスを水素とともに外部にパージする必要がある。
【0007】
特許文献1には、燃料電池スタックから流出したアノードオフガスを定期的に外部にパージして、アノード系内の不純物ガスを低減させる燃料電池システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−243477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、燃料電池の電圧低下を抑制するために不純物ガスのパージを頻繁に実行する場合、アノード系内の圧力変動による燃料電池の電解質膜へのダメージが懸念される。一方、電解質膜へのダメージが小さくなるようにパージ回数を減らすと、アノード系内の水素分圧が低下限度に達するまで不純物ガスを排出することができず、パージ前後での電圧変動が大きくなってしまう。
【0010】
そこで、本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、燃料電池の電解質膜へのダメージを抑制しつつ、パージ前後の電圧変動も抑制できる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アノードガス及びカソードガスを用いて発電する燃料電池を積層して構成される燃料電池スタックを備える燃料電池システムである。この燃料電池システムは、前記積層された燃料電池が二以上のグループに分けられることにより前記燃料電池から流出したアノードオフガスが二以上のグループに分けられ、グループごとにアノードオフガスを外部に排出するようにグループごとに排出機構を備え、前記燃料電池のアノードオフガス排出時期がグループごとに異なるように各排出機構を制御する制御部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二以上のグループに分けられた燃料電池のアノードオフガス排出時期がグループごとに異なるように排出機構を制御することで、グループごとの燃料電池のアノードオフガスを順次外部に排出することができ、アノード圧変動に起因する燃料電池の電解質膜へのダメージを抑制しつつ、アノードオフガス排出前後(パージ前後)における燃料電池の電圧変動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態による燃料電池システムの概略構成図である。
図2】燃料電池スタック及びアノードオフガス排出機構を示す模式図である。
図3】アノード圧、スタック電圧、及びパージ弁開度の変化を示すタイミングチャートである。
図4】(A)は第1パージ弁開弁時のガス流れを示す図であり、(B)は第2パージ弁開弁時のガス流れを示す図である。
図5】第1実施形態による燃料電池スタックのスタック電圧変動と、比較例による燃料電池スタックのスタック電圧変動を示す図である。
図6】第1実施形態による燃料電池システムの変形例を示す図である。
図7】第2実施形態による燃料電池システムの燃料電池スタック及びアノードオフガス排出機構の概略構成図である。
図8】第2実施形態による燃料電池スタックのスタック電圧変動と、比較例による燃料電池スタックのスタック電圧変動を示す図である。
図9】第3実施形態による燃料電池システムの燃料電池スタック及びアノードオフガス排出機構の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による燃料電池システム1の概略構成図である。
【0016】
燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、アノードガス供給装置2と、インバータ3と、駆動モータ4と、バッテリ5と、DC/DCコンバータ6と、コントローラ40と、を備える。
【0017】
燃料電池スタック10は、単位セルとしての燃料電池100を所定枚数積層して構成される。燃料電池スタック10は横置きされ、燃料電池100は水平方向に積層される。
【0018】
燃料電池スタック10には、アノードガス供給装置2を介してアノードガスが供給され、図示しないカソードガス供給装置を介してカソードガスが供給される。燃料電池スタック10は、アノードガス(例えば水素)及びカソードガス(例えば空気)の供給を受けて発電し、車両を駆動する駆動モータ4等の各種電気部品に電力を供給する。燃料電池スタック10は、電力を取り出すための出力端子11,12を有している。
【0019】
アノードガス供給装置2は、高圧タンク21と、アノードガス供給通路22と、調圧弁23と、圧力センサ24と、アノードオフガス排出機構30と、を備える。
【0020】
高圧タンク21は、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する容器である。
【0021】
アノードガス供給通路22は、高圧タンク21から排出されたアノードガスを燃料電池スタック10に供給するための通路である。アノードガス供給通路22の一端は高圧タンク21に接続され、他端は燃料電池スタック10のアノードガス入口部に接続される。
【0022】
調圧弁23は、連続的又は段階的に開度を調節可能な電磁弁であって、アノードガス供給通路22に設置される。調圧弁23は、高圧タンク21から排出された高圧状態のアノードガスを所定の圧力に調節する。調圧弁23の開度はコントローラ40によって制御される。
【0023】
圧力センサ24は、調圧弁23よりも下流側のアノードガス供給通路22に設置される。圧力センサ24は、アノードガス供給通路22を流れるアノードガスの圧力を検出する。圧力センサ24で検出されたアノードガスの圧力は、調圧弁23よりも下流側のアノードガス供給通路22や各燃料電池100に設けられるアノードガス流路等を含むアノード系全体の圧力を代表する。
【0024】
アノードオフガス排出機構30は、各燃料電池100から流出するアノードオフガスを外部に排出可能な機構である。アノードオフガスは、燃料電池100において電気化学反応に使用されなかった余剰のアノードガスと、燃料電池100のカソード電極側からアノード電極側へとリークしてきた窒素や水蒸気等を含む不純物ガスとの混合ガスである。
【0025】
なお、燃料電池システム1は、アノードオフガス排出機構30の下流側を閉塞した状態において、燃料電池スタック10で発電を実行するいわゆるデッドエンド型の燃料電池システムである。
【0026】
インバータ3は、スイッチ部3A及び平滑コンデンサ3Bを備え、出力端子11,12を介して燃料電池スタック10に電気的に接続される。スイッチ部3Aは、複数のスイッチング素子から構成され、直流を交流に又は交流を直流に変換する。平滑コンデンサ3Bは、燃料電池スタック10と並列に接続されて、スイッチ部3Aでのスイッチング等によって生じるリプルを抑制する。
【0027】
駆動モータ4は、三相交流モータである。駆動モータ4は、インバータ3から供給される交流電流によって作動して、車両を駆動させるトルクを発生する。
【0028】
バッテリ5は、DC/DCコンバータ6を介して、駆動モータ4及び燃料電池スタック10と電気的に接続される。バッテリ5は、リチウムイオン二次電池等の充放電可能な二次電池である。
【0029】
DC/DCコンバータ6は、燃料電池スタック10に電気的に接続される。DC/DCコンバータ6は、燃料電池スタック10の電圧を昇降圧させる双方向性の電圧変換機であり、直流入力から直流出力を得るとともに入力電圧を任意の出力電圧に変換する。
【0030】
コントローラ40は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0031】
コントローラ40には、圧力センサ24や、燃料電池スタック10の出力電流を検出する電流センサ41、燃料電池スタック10の出力電圧を検出する電圧センサ42、車両に備えられるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ43、バッテリ5の充電量を検出するSOCセンサ44からの検出信号が、燃料電池システム1の運転状態を検出するための信号として入力する。
【0032】
コントローラ40は、これらの入力信号に基づいて調圧弁23の開度を調整して、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスの圧力を所定値に制御する。
【0033】
また、発電に伴ってアノード系内の不純物ガスが増加してアノード分圧(水素分圧)が低下すると燃料電池100の発電電圧が低下するため、コントローラ40は、アノードオフガス排出機構30を制御し、燃料電池100から流出したアノードオフガスを必要に応じて外部に排出させる。アノードオフガスが外部に排出されることで、アノード系内の不純物ガスが低減し、燃料電池100の発電電圧が回復する。
【0034】
図2を参照して、アノードオフガス排出機構30の構成について説明する。図2は、燃料電池スタック10及びアノードオフガス排出機構30を示す模式図である。
【0035】
図2に示すように、燃料電池スタック10内には、各燃料電池100にアノードガスを導く内部マニホールド50及び各燃料電池100から流出するアノードオフガスを燃料電池スタック10外に導く内部マニホールド60が形成される。
【0036】
内部マニホールド50は、燃料電池100の積層方向に延設された通路である。内部マニホールド50は、各燃料電池100に設けられるアノードガス流路の流入部と接続している。アノードガス供給通路22から内部マニホールド50に流入したアノードガスは、内部マニホールド50を通って各燃料電池100に供給される。
【0037】
内部マニホールド60は、燃料電池100の積層方向に延設された通路である。内部マニホールド60は、各燃料電池100のアノードガス流路の流出部と接続している。各燃料電池100の流出部から内部マニホールド60に流出したアノードオフガスは、内部マニホールド60を通って燃料電池スタック10外に排出される。
【0038】
アノードオフガス排出機構30は、各燃料電池100から流出したアノードオフガスを外部に排出するための機構である。アノードオフガス排出機構30は、前述した内部マニホールド60と、内部マニホールド60を第1分割マニホールド61及び第2分割マニホールド62に仕切る仕切壁33と、第1及び第2分割マニホールド61,62に接続する第1及び第2排出通路31,32と、第1及び第2排出通路31,32に設置される第1及び第2パージ弁34,35とから構成されている。
【0039】
仕切壁33は、両端開口の通路として形成されている内部マニホールド60の中央に設けられる。この仕切壁33によって、内部マニホールド60は第1分割マニホールド61と第2分割マニホールド62との二つに分割される。
【0040】
第1分割マニホールド61は、第1分割マニホールド61が延設されている範囲内の各燃料電池100から流出したアノードオフガスを、図中左方向に流して燃料電池スタック10外に導く。一方、第2分割マニホールド62は、第2分割マニホールド62が延設されている範囲内の各燃料電池100から流出したアノードオフガスを、図中右方向に流して燃料電池スタック10外に導く。このように燃料電池スタック10を構成する燃料電池100は、第1分割マニホールド61を介してアノードオフガスが排出されるグループと、第2分割マニホールド62を介してアノードオフガスが排出されるグループとに分けられる。
【0041】
第1排出通路31は、第1分割マニホールド61に接続する通路である。第1排出通路31の一端は第1分割マニホールド61の出口部に接続しており、第1排出通路31の他端は開口端として形成されている。第1排出通路31の途中には、第1パージ弁34が設置される。
【0042】
第1パージ弁34は、開閉切替弁である。第1パージ弁34は、流量調整用のオリフィスを備えた開閉切替弁でもよいし、連続的又は段階的に開度を調整可能な電磁弁でもよい。第1パージ弁34が開かれることで、第1分割マニホールド61内のアノードオフガスが第1排出通路31の開口端から外部に排出される。なお、第1パージ弁34の開度は、燃料電池スタック10の発電状態に応じてコントローラ40によって制御される。
【0043】
第2排出通路32は、第2分割マニホールド62に接続する通路である。第2排出通路32の一端は第2分割マニホールド62の出口部に接続しており、排出通路32の他端は開口端として形成されている。第2排出通路32の途中には、第2パージ弁35が設置される。
【0044】
第2パージ弁35は、開閉切替弁である。第2パージ弁35は、流量調整用のオリフィスを備えた開閉切替弁でもよいし、連続的又は段階的に開度を調整可能な電磁弁でもよい。第2パージ弁35が開かれることで、第2分割マニホールド62内のアノードオフガスが第2排出通路32の開口端から外部に排出される。なお、第2パージ弁35の開度は、燃料電池スタック10の発電状態に応じてコントローラ40によって制御される。
【0045】
次に、図3及び図4を参照して、燃料電池システム1でのアノードオフガス排出制御について説明する。
【0046】
図3(A)〜(C)は、アノード圧、スタック電圧、及びパージ弁開度の変化を示すタイミングチャートである。図4(A)は第1パージ弁34開弁時のガス流れを示す図であり、図4(B)は第2パージ弁35開弁時のガス流れを示す図である。
【0047】
図3(A)に示すように、燃料電池システム1では、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスの圧力が所定値となるように調圧弁23が制御される。所定値とは、車両運転状態に応じて決定される目標圧力値である。
【0048】
発電に伴って燃料電池100のアノードガス流路内に不純物ガスが蓄積すると、各燃料電池100の発電電圧が低下して、図3(B)に示すように燃料電池スタック10の電圧が徐々に低下する。そして、前回アノードオフガス排出時から所定時間T経過した時刻t1になると、図3(C)に示すように第1パージ弁34が所定期間だけ開弁される。この時、第2パージ弁35は閉弁されている。
【0049】
図4(A)に示すように、第1パージ弁34の開弁時には、第1分割マニホールド61側の燃料電池100から流出したアノードオフガスが、第1分割マニホールド61及び第1排出通路31を通って外部に排出される。このように不純物ガスを含むアノードオフガスを外部へ排出し、第1分割マニホールド61側の燃料電池100の不純物ガスを内部マニホールド50から供給される新規のアノードガスで置換することで、第1分割マニホールド61側の燃料電池100の発電電圧が回復する。これにより、図3(B)に示すように、燃料電池スタック10のスタック電圧が所定電圧まで増加する。
【0050】
時刻t1から所定時間T経過して時刻t2になると、図3(C)に示すように第2パージ弁35が所定期間だけ開弁される。この時、第1パージ弁34は閉弁されている。
【0051】
図4(B)に示すように、第2パージ弁35の開弁時には、第2分割マニホールド62側の燃料電池100から流出したアノードオフガスが、第2分割マニホールド62及び第2排出通路32を通って外部に排出される。このように不純物ガスを含むアノードオフガスを外部へ排出し、第2分割マニホールド62側の燃料電池100の不純物ガスを内部マニホールド50から供給される新規のアノードガスで置換することで、第2分割マニホールド62側の燃料電池100の発電電圧が回復する。これにより、図3(B)に示すように、燃料電池スタック10のスタック電圧が所定電圧まで増加する。
【0052】
その後、時刻t2から所定時間T経過するごとに、第1パージ弁34及び第2パージ弁35が交互に開かれ(図3(C)参照)、アノードオフガスが外部に排出され、不純物ガスに起因するスタック電圧の低下が抑制される(図3(B)参照)。
【0053】
図5を参照して、アノードオフガス排出による燃料電池スタック10のスタック電圧変動について説明する。図5は、本実施形態による燃料電池スタック10のスタック電圧変動と比較例による燃料電池スタックのスタック電圧変動を示す図である。
【0054】
比較例は、所定時間2Tごとに全燃料電池のアノードオフガスを外部に排出するように構成された燃料電池システムを想定している。比較例による燃料電池システムでは、全ての燃料電池のアノードオフガスが同タイミングで排出されるため、アノードオフガス排出前後における燃料電池スタック10のスタック電圧の変動量が破線に示すように比較的大きくなる。
【0055】
これに対して、本実施形態による燃料電池システム1では、所定時間Tごとに第1パージ弁34及び第2パージ弁35を交互に開弁するので、半数の燃料電池100のアノードオフガスが排出された後、残りの半数の燃料電池100のアノードオフガスが排出されることになる。所定時間2Tの間に、第1パージ弁34及び第2パージ弁35が順次開弁するため、比較例の場合と同量のアノードオフガスを排出することができる。
【0056】
第1パージ弁34又は第2パージ弁35が開弁した時には、半数の燃料電池100のアノードオフガスだけが排出されるので、アノードオフガス排出前後における燃料電池スタック10のスタック電圧の変動量は、実線に示すように比較例の場合と比べて小さくなる。
【0057】
比較例においてもアノードオフガス排出間隔を所定時間2TからTに変更すれば、アノードオフガス排出前後のスタック電圧を低減することはできる。しかしながら、比較例においてアノードオフガス排出間隔を短縮すると、各燃料電池におけるアノードオフガス排出前後のアノード圧変動の回数が増加して、燃料電池の電解質膜へのダメージが大きくなる。
【0058】
これに対して、燃料電池システム1では、第1パージ弁34と第2パージ弁35の開弁時期をずらしただけで、第1パージ弁34によるアノードオフガス排出間隔及び第2パージ弁35によるアノードオフガス排出間隔は所定時間2Tのままであるから、各燃料電池100におけるアノード圧変動回数は増加せず、燃料電池100の電解質膜へのダメージを抑制することができる。
【0059】
上記した第1実施形態形態の燃料電池システム1によれば、以下の効果を得ることができる。
【0060】
燃料電池システム1では、所定時間Tごとに第1パージ弁34及び第2パージ弁35を交互に開弁する。このように第1パージ弁34と第2パージ弁35の開弁時期をずらして、半数の燃料電池100ごとにアノードオフガスを排出するので、アノード圧変動による燃料電池100の電解質膜へのダメージを抑制しつつ、アノードオフガス排出前後(パージ前後)における燃料電池100の電圧変動を抑制することが可能となる。
【0061】
なお、第1実施形態では、燃料電池システム1は、アノードデッドエンド型のシステムとしたが、これに限られるものではない。燃料電池システム1は、図6に示すように、アノードオフガスをアノードガス供給通路22に還流させないアノードデッドエンド型又はアノードオフガスをアノードガス供給通路22に還流させる循環型に切換可能なシステムであってもよい。
【0062】
図6に示す燃料電池システム1は、アノードガス供給通路22に設けられるエゼクタ38と、エゼクタ38と第1パージ弁34よりも上流の第1排出通路31との間に設けられる第1循環通路36と、第1循環通路36と第2パージ弁35よりも上流の第2排出通路32との間に設けられる第2循環通路37と、を備える。
【0063】
高負荷運転時等、アノードガス流量が大きい場合には、エゼクタ38を介してアノードオフガスがアノードガス供給通路22に還流され、高圧タンク21からのアノードガスと還流されたアノードオフガスが燃料電池スタック10に供給され、燃料電池スタック10において発電が行われる。この場合、燃料電池システム1は循環型システムであって、第1パージ弁34及び第2パージ弁35によるアノードオフガス排出制御は実行されない。一般的な循環型システムと同様、アノードガス流路を循環しているアノードガスが所定の濃度未満になった場合にアノードオフガスの排出を実行してもよい。
【0064】
低負荷運転時等、アノードガス流量が小さい場合には、アノードオフガスはアノードガス供給通路22に還流されず、高圧タンク21からのアノードガスのみが燃料電池スタック10に供給され、燃料電池スタック10において発電が行われる。この場合、燃料電池システム1はアノードデンドエンド型システムとして機能する。このように燃料電池100に不純物ガスが蓄積しやすい運転状態である場合に、第1パージ弁34及び第2パージ弁35によるアノードオフガス排出制御が実行される。
【0065】
(第2実施形態)
図7及び図8を参照して、本発明の第2実施形態による燃料電池システム1について説明する。第2実施形態による燃料電池システム1は、燃料電池スタック10及びアノードオフガス排出機構30の構成において第1実施形態の燃料電池システムと相違する。
【0066】
図7は、第2実施形態による燃料電池システム1の燃料電池スタック10及びアノードオフガス排出機構30の概略構成図である。
【0067】
図7に示すように、燃料電池スタック10の内部マニホールド60は、一端が開口し、他端が閉塞された通路として形成されている。
【0068】
アノードオフガス排出機構30は、燃料電池スタック10に形成された内部マニホールド60と、内部マニホールド60内に回転可能に挿入される筒部材71と、筒部材71を回転駆動する駆動モータ72と、燃料電池スタック10から排出されたアノードオフガスを外部に導く排出通路73と、を備える。
【0069】
筒部材71は、燃料電池100の積層方向に延設された円管である。筒部材の一端は開口端として形成されており、筒部材71の他端は閉塞端として形成されている。内部マニホールド60内に挿入された状態では、筒部材71の外周面は各燃料電池100のアノードガス流路の流出部を閉塞する。
【0070】
また、筒部材71の外周面には、筒部材71の内部と燃料電池100のアノードガス流路の流出部とを連通する連通孔71Aが設けられている。連通孔71Aは、燃料電池100の積層方向に延設された矩形状孔であり、積層された所定数の燃料電池100の各流出部と連通可能に形成されている。例えば、連通孔71Aは、三枚の燃料電池100の各流出部と連通可能に形成され、積層方向に沿って六個並設される。これら連通孔71Aは、筒部材71の外周方向に位置が異なるように配設されている。したがって、燃料電池スタック10を構成する燃料電池100は、各連通孔71Aを介してアノードオフガスが排出される六つのグループに分けられる。
【0071】
駆動モータ72は、燃料電池スタック10に設置される。駆動モータ72の回転軸72Aは、筒部材71の閉塞端面に取り付けられる。駆動モータ72の回転軸72Aと筒部材71との間に、回転速度を減速させるための減速機構を介在させてもよい。駆動モータ72をコントローラ40によって制御することで、筒部材71の回転速度が制御される。
【0072】
排出通路73は、アノードオフガスを外部に導く通路である。排出通路73の一端は内部マニホールド60の出口部に接続され、他端は開口端として形成される。
【0073】
燃料電池システム1では、コントローラ40は、筒部材71が所定時間2Tで一回転するように駆動モータ72を制御する。これにより、所定時間2Tの間に、各連通孔71Aが、その連通孔71Aに対応する燃料電池100の流出部に連通し、それら燃料電池100のアノードオフガスが筒部材71の内部に流入する。各連通孔71Aを介して筒部材71の内部に流入したアノードオフガスは、筒部材71及び排出通路73を通過して外部に排出される。
【0074】
なお、高負荷運転時のように高出力が要求される運転状態では、低負荷運転時よりも筒部材71の回転速度が速くなるように駆動モータ72を制御するようにしてもよい。
【0075】
図8は、本実施形態による燃料電池スタック10のスタック電圧変動と、第1実施形態において説明した比較例による燃料電池スタックのスタック電圧変動を示す図である。
【0076】
本実施形態による燃料電池システム1では、所定時間2Tの間に、六個の連通孔71Aが、連通孔71Aに対応する三枚の燃料電池100の流出部に順番に連通するので、三枚の燃料電池100ごとにアノードオフガスが外部に排出される。このように数枚の燃料電池100におけるアノードオフガスを順次排出することで、アノードオフガス排出前後における燃料電池100の電圧変動を抑制でき、スタック電圧の変動量を比較例よりも小さくすることが可能となる。
【0077】
また、燃料電池システム1では、連通孔71Aの連通時期をずらしただけで、各燃料電池100におけるアノードオフガス排出間隔は所定時間2Tのままであるから、各燃料電池100におけるアノード圧変動回数は増加せず、燃料電池100の電解質膜へのダメージを抑制することができる。
【0078】
(第3実施形態)
図9を参照して、本発明の第3実施形態による燃料電池システム1について説明する。第3実施形態による燃料電池システム1は、燃料電池スタック10及びアノードオフガス排出機構30の構成において第1実施形態の燃料電池システムと相違する。
【0079】
図9は、第3実施形態による燃料電池システム1の燃料電池スタック10及びアノードオフガス排出機構30の概略構成図である。
【0080】
燃料電池スタック10は、所定数の燃料電池100を積層した分割燃料電池スタック13を三つ直列に連結して構成されている。三つの分割燃料電池スタック13は同じ構成であるので、図9の上側の分割燃料電池スタック13を参照して、分割燃料電池スタック13の構成を説明する。
【0081】
分割燃料電池スタック13は、内部マニホールド50及び内部マニホールド60を備えている。
【0082】
内部マニホールド50は、燃料電池100の積層方向に延設された通路でる。内部マニホールド50は一端が開口端として形成され、他端が閉塞端として形成される。内部マニホールド50は、各燃料電池100に設けられるアノードガス流路の流入部と接続している。アノードガス供給通路22から内部マニホールド50に流入したアノードガスは、内部マニホールド50を通って、分割燃料電池スタック13を構成する各燃料電池100に供給される。
【0083】
内部マニホールド60は、燃料電池100の積層方向に延設された通路である。内部マニホールド60は一端が開口端として形成され、他端が閉塞端として形成される。内部マニホールド60は、各燃料電池100のアノードガス流路の流出部と接続している。各燃料電池100の流出部から内部マニホールド60に流出したアノードオフガスは、内部マニホールド60を通って分割燃料電池スタック13外に排出される。
【0084】
アノードオフガス排出機構30は、内部マニホールド60と、内部マニホールド60に接続する排出通路81と、排出通路81に設置されるパージ弁82とから構成されている。
【0085】
排出通路81は、内部マニホールド60から流出したアノードオフガスを流す通路である。排出通路81の一端は内部マニホールド60の出口部に接続しており、排出通路81の他端は開口端として形成されている。排出通路81の途中には、パージ弁82が設置される。
【0086】
パージ弁82は、開閉切替弁である。パージ弁82は、流量調整用のオリフィスを備えた開閉切替弁でもよいし、連続的又は段階的に開度を調整可能な電磁弁でもよい。パージ弁82が開かれることで、内部マニホールド60内のアノードオフガスが排出通路81の開口端から外部に排出される。パージ弁82の開度は、コントローラ40によって制御される。
【0087】
燃料電池システム1では、分割燃料電池スタック13ごとに設けられるパージ弁82は所定時間2Tごとに開弁されるが、各パージ弁82の開弁時期はそれぞれ異なるように設定されている。各パージ弁82の開弁時期を異なるせることで、各分割燃料電池スタック13のアノードオフガスが順次外部に排出される。分割燃料電池スタック13ごとにアノードオフガスを排出させることで、第1実施形態と同様に、アノードオフガス排出前後における燃料電池100の電圧変動を抑制できる。
【0088】
また、燃料電池システム1では、各分割燃料電池スタック13のアノードオフガス排出時期をずらしただけで、分割燃料電池スタック13におけるアノードオフガス排出間隔は所定時間2Tのままであるから、分割燃料電池スタック13におけるアノード圧変動回数は増加せず、燃料電池100の電解質膜へのダメージを抑制することができる。
【0089】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0090】
第1実施形態では、一枚の仕切壁33によって内部マニホールド60内を二分割したが、複数の仕切壁33によって内部マニホールド60内を三以上に分割してもよい。この場合には、分割マニホールドごとに排出通路及びパージ弁が設置され、これらパージ弁は各分割マニホールドから排出されるアノードオフガスの排出時期が異なるように制御される。これにより、三以上のグループに分けられた燃料電池100からのアノードオフガスを順次外部に排出することが可能となる。
【0091】
第2実施形態では、筒部材71に六個の連通孔71Aを形成したが、連通孔71Aの数はこれに限られるものではない。燃料電池100のアノードオフガス排出時期を異ならせることを考慮すれば、筒部材71には、二個以上の連通孔71Aが外周方向に位置をずらした状態で燃料電池100の積層方向に配設されていればよい。
【0092】
第3実施形態では、燃料電池スタック10は三つの分割燃料電池スタック13を直列に連結して構成されているが、分割燃料電池スタック13の数はこれに限られるものではない。燃料電池100のアノードオフガス排出時期を異ならせることを考慮すれば、燃料電池スタック10は、二以上の分割燃料電池スタック13を直列に連結して構成されていればよい。
【符号の説明】
【0093】
1 燃料電池システム
10 燃料電池スタック
13 分割燃料電池スタック
22 アノードガス供給通路
23 調圧弁
30 アノードオフガス排出機構
33 仕切壁
34 第1パージ弁(制御弁)
35 第2パージ弁(制御弁)
40 コントローラ
50 内部マニホールド
60 内部マニホールド
61 第1分割マニホールド
62 第2分割マニホールド
71 筒部材
71A 連通孔
72 駆動モータ(駆動機構)
82 パージ弁(制御弁)
100 燃料電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9