(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半導体素子の接合面に金属Ag膜を形成する工程においては、厚みが15nm以上2.5μm以下からなる前記金属Ag膜を形成することを特徴とする請求項6に記載のパワーモジュールの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、半導体素子と回路層とを接合する場合には、半導体素子の接合面にAu層を形成している。特許文献2に開示されたようにAgナノペーストを用いて半導体素子を接合する場合には、AgナノペーストのAgとAu層とが相互拡散することになる。
ここで、特許文献2に開示されたように、はんだ材を使用せずにAgナノペーストを用いて半導体素子を接合する場合、Agナノペーストからなる接合層がはんだ材に比べて厚みが薄く形成されるため、熱サイクル負荷時の応力が半導体素子に作用しやすくなり、半導体素子自体が破損してしまうおそれがあった。
また、特許文献3、4に開示されたように、金属酸化物と還元剤とを用いて半導体素子を接合した場合には、やはり、酸化物ペーストの焼成層が薄く形成されることから、熱サイクル負荷時の応力が半導体素子に作用しやすくなり、パワーモジュールの性能が劣化するおそれがあった。また、AgとAu層との相互拡散に時間がかかってしまい、結果として、接合時間が長くなってしまうという問題があった。
【0008】
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、電子部品からの発熱量が大きくなる傾向にある。このため、パワーモジュールの使用時において、回路層と半導体素子との接合界面に作用する応力も増加する傾向にあり、従来にも増して、回路層と半導体素子との間の接合信頼性の向上及び短時間での接合が求められている。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、回路層の一方の面に半導体素子が短時間であっても確実に接合することができ、熱サイクル及びパワーサイクル信頼性に優れたパワーモジュール及びパワーモジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュールは、絶縁層の一方の面に回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される半導体素子と、を備えたパワーモジュールであって、前記回路層の一方の面には、ガラス成分を含有するガラス含有Agペーストの焼成体からなる第1焼成層が形成され、この第1焼成層の上に、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる第2焼成層が形成されており、この第2焼成層と前記半導体素子との間に、金属Ag層
とAu層が形成されて
おり、前記半導体素子の接合面に前記Au層が形成され、前記Au層と前記第2焼成層との間に前記金属Ag層が形成され、前記Au層と前記金属Ag層は相互拡散していることを特徴としている。
【0011】
この構成のパワーモジュールによれば、回路層の一方の面に、ガラス成分を含有するガラス含有Agペーストの焼成体からなる第1焼成層が形成されているので、ガラス成分によって回路層の表面に形成されている酸化皮膜を除去することができ、この第1焼成層と回路層との接合強度を確保することができる。
また、この第1焼成層の上に、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる第2焼成層が形成されているので、この第2焼成層を形成する際に半導体素子を接合することが可能となる。ここで、酸化銀を還元した場合には、微細なAg粒子が生成することから、第2焼成層を構成する焼成体を緻密な構造とすることができる。
さらに、第1焼成層及び第2焼成層が積層されているので、回路層と半導体素子との間に介在する接合層の厚さを確保することができる。よって、熱サイクル負荷時の応力が半導体素子に作用することを抑制でき、半導体素子自体の破損を防止することができる。
【0012】
そして、第2焼成層と前記半導体素子との間に金属Ag層が形成されているので、金属Ag層と第2焼成層とがAg同士の焼結によって接合されることになり、半導体素子と回路層とを短時間で強固に接合することができる。
すなわち、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる第2焼成層と半導体素子の接合面に形成されたAu層とを直接接合した場合には、Au層と第2焼成層との相互拡散が不十分となるおそれがある。ここで、第2焼成層と前記半導体素子との間に金属Ag層を形成することにより、第2焼成層と金属Ag層を焼結によって短時間に強固に接合することが可能となるのである。
【0013】
ここで、前記金属Ag層の厚みが15nm以上2.5μm以下であることが好ましい。
この場合、金属Ag層が15nm以上形成されていることから、第2焼成層と前記半導体素子とを確実に接合することが可能となる。一方、その厚みが2.5μm以下とされていることから金属Ag層の銀量を抑えることができ、比較的安価に金属Ag層を形成することができる。
【0014】
前記第1焼成層は、回路層の一方の面に形成されたガラス層と、このガラス層上に積層されたAg層と、を備えており、前記Ag層には、ガラス粒子が分散していることが好ましい。
この場合、回路層の表面に形成されている酸化皮膜をガラス層に反応させて除去することができ、回路層と半導体素子とを確実に接合することができる。
【0015】
また、前記第2焼成層は、酸化銀と還元剤とを含む酸化銀ペーストの焼成体とされていることが好ましい。
この場合、酸化銀ペーストを焼成する際に、酸化銀が還元剤によって確実に還元されて微細なAg粒子が生成し、第2焼成層を緻密な焼成体で構成することができる。また、還元剤は、酸化銀を還元する際に分解されるため、第2焼成層中に残存しにくく、第2焼成層における導電性を確保することができる。さらに、例えば300℃といった比較的低温条件で焼成することが可能となるため、半導体素子の接合温度を低く抑えることができ、半導体素子への熱負荷を低減することができる。
【0016】
ここで、前記酸化銀ペーストは、前記酸化銀及び前記還元剤に加えて、Ag粒子を含有していてもよい。
この場合、酸化銀が還元されて得られる還元Ag粒子と、酸化銀ペーストに含有されたAg粒子とが焼結することになり、第2焼成層をさらに緻密な焼成体で構成することができる。この場合、Ag粒子の平均粒径は、20nm以上800nm以下が望ましい。
【0017】
本発明のパワーモジュールの製造方法は、絶縁層の一方の面に回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される半導体素子と、を備えたパワーモジュールの製造方法であって、前記回路層の一方の面に、ガラス成分を含有するガラス含有Agペーストを塗布し、加熱処理することにより、第1焼成層を形成する工程と、前記第1焼成層の上に、酸化銀と還元剤とを含む酸化銀ペーストを塗布する工程と、
前記半導体素子の接合面にAu層を形成する工程と、前記Au層の表面に金属Ag膜を形成する工程と、塗布された酸化銀ペーストの上に、金属Ag膜を形成した半導体素子を積層する工程と、前記半導体素子と前記パワーモジュール用基板とを積層した状態で加熱して、前記第1焼成層の上に第2焼成層を形成するとともに金属Ag層を形成する工程と、を備え、前記半導体素子と前記回路層とを接合することを特徴としている。
【0018】
この構成のパワーモジュールの製造方法によれば、前記回路層の一方の面に、ガラス成分を含有するガラス含有Agペーストを塗布し、加熱処理することにより、前記第1焼成層を形成する工程を備えているので、回路層の表面に形成された酸化皮膜を除去でき、回路層と第1焼成層とを確実に接合することができる。
また、半導体素子の接合面に金属Ag膜を形成する工程と、前記第1焼成層の上に、酸化銀と還元剤とを含む酸化銀ペーストを塗布する工程と、塗布された酸化銀ペーストの上に半導体素子を積層する工程と、前記半導体素子と前記パワーモジュール用基板とを積層した状態で加熱して、前記第1焼成層の上に第2焼成層を形成する工程と、を備えているので、酸化銀ペーストの焼成によって第2焼成層が形成されるとともに、第2焼成層と前記半導体素子との間に金属Ag層が形成されることになる。よって、金属Ag層と第2焼成層とがAg同士の焼結によって接合されることになり、半導体素子と回路層とを短時間に強固に接合することができる。
【0019】
ここで、前記金属Ag層の厚みが15nm以上2.5μm以下であることが好ましい。
この場合、金属Ag層が15nm以上形成されていることから、第2焼成層と前記半導体素子とを確実に接合することが可能となる。一方、その厚みが2.5μm以下とされていることから金属Ag層の銀量を抑えることができ、比較的安価に金属Ag層を形成することができる。
【0020】
また、前記酸化銀ペーストは、前記酸化銀及び前記還元剤に加えて、Ag粒子を含有していることが好ましい。
この場合、Ag粒子が酸化銀粉末の間に介在し、酸化銀が還元されて得られる還元Ag粒子と、酸化銀ペーストに含有されたAg粒子とが焼結することになり、第2焼成層をさらに緻密な構造とすることができる。また、接合時における半導体素子の加圧圧力を低く設定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回路層の一方の面に半導体素子を短時間で確実に接合することができ、熱サイクル及びパワーサイクル信頼性に優れたパワーモジュール及びパワーモジュールの製造方法を提供することができる
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に本発明の実施形態であるパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方側に配設された冷却器40とを備えている。
【0024】
パワーモジュール用基板10は、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
【0026】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0027】
冷却器40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、この天板部41から下方に向けて垂設された放熱フィン42と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路43とを備えている。この冷却器40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0028】
また、本実施形態においては、冷却器40の天板部41と金属層13との間には、アルミニウムまたはアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層15が設けられている。
【0029】
そして、
図1に示すパワーモジュール1においては、回路層12と半導体素子3との間に、第1焼成層31及び第2焼成層36が形成されている。ここで、回路層12の一方の面に第1焼成層31が積層され、この第1焼成層31の上に第2焼成層36が積層され、この第2焼成層36の上に半導体素子3が積層されているのである。また、第2焼成層36と半導体素子3との間には、金属Ag層38及びAu層39が形成されている。
なお、第1焼成層31、第2焼成層36は、
図1に示すように、回路層12の表面全体には形成されておらず、半導体素子3が配設される部分にのみ選択的に形成されている。
【0030】
ここで、第1焼成層31は、後述するように、ガラス成分を含むガラス含有Agペーストの焼成体とされている。この第1焼成層31は、
図2及び
図3に示すように、回路層12側に形成されたガラス層32と、このガラス層32上に形成されたAg層33と、を備えている。
ガラス層32内部には、粒径が数ナノメートル程度の微細な導電性粒子34が分散されている。この導電性粒子34は、Ag又はAlの少なくとも一方を含有する結晶性粒子とされている。なお、ガラス層32内の導電性粒子34は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることで観察されるものである。
また、Ag層33の内部には、粒径が数ナノメートル程度の微細なガラス粒子35が分散されている。
【0031】
なお、この第1焼成層31の厚さ方向の電気抵抗値Pが0.5Ω以下とされている。ここで、本実施形態においては、第1焼成層31の厚さ方向における電気抵抗値Pは、第1焼成層31の上面と回路層12の上面との間の電気抵抗値としている。これは、回路層12を構成する4Nアルミニウムの電気抵抗が第1焼成層31の厚さ方向の電気抵抗に比べて非常に小さいためである。なお、この電気抵抗の測定の際には、第1焼成層31の上面中央点と、第1焼成層31の前記上面中央点から第1焼成層31端部までの距離と同距離分だけ第1焼成層31端部から離れた回路層12上の点と、の間の電気抵抗を測定することとしている。
【0032】
また、本実施形態では、回路層12が純度99.99%のアルミニウムで構成されていることから、回路層12の表面には、大気中で自然発生したアルミニウム酸化皮膜が形成されている。ここで、前述の第1焼成層31が形成された部分においては、このアルミニウム酸化皮膜が除去されており、回路層12上に直接第1焼成層31が形成されている。つまり、回路層12を構成するアルミニウムとガラス層32とが直接接合されているのである。
本実施形態においては、ガラス層32の厚さtgが0.01μm≦tg≦5μm、Ag層33の厚さtaが1μm≦ta≦100μm、第1焼成層31全体の厚さt1が1.01μm≦t1≦105μmとなるように構成されている。
【0033】
この第1焼成層31の上、すなわちAg層33の上に形成された第2焼成層36は、酸化銀が還元されたAgの焼成体とされており、本実施形態では、後述するように、酸化銀と還元剤とを含む酸化銀ペーストの焼成体とされている。ここで、酸化銀を還元することにより析出する粒子(還元Ag粒子)は、例えば粒径10nm〜1μmと非常に微細であることから、緻密なAgの焼成体からなる第2焼成層36が形成されることになる。
【0034】
なお、この第2焼成層36においては、第1焼成層31のAg層33で観察されたガラス粒子は存在していない、若しくは、非常に少ない。このガラス粒子の濃淡によって、第1焼成層31のAg層33と第2焼成層36との判別を行うことが可能となる。
本実施形態においては、第2焼成層36の厚さt2が5μm≦t2≦50μmとされている。
【0035】
また、半導体素子3と第2焼成層36との間には、金属Ag層38とAu層39とが形成されている。すなわち、半導体素子3の接合面にAu層39が形成され、このAu層39と第2焼成層36との間に金属Ag層38が形成されているのである。なお、金属Ag層38とAu層39とは、相互拡散することによって接合されている。
【0036】
ここで、金属Ag層38は、厚みが15nm以上2.5μm以下であることが望ましい。金属Ag層の形成方法としては、Ag微粒子含むAg微粒子分散液をAu層39の表面に塗布するスピンコーティング法、めっき法、スパッタリング法などが挙げられる。Ag微粒子を含むAg微粒子分散液をAu層39の表面に塗布するスピンコーティング法の場合には、粒径20nm以上200nm以下のAg微粒子を用いることが望ましい。Ag微粒子なお、この金属Ag層38は、酸化銀ペーストの焼成体からなる第2焼成層36に比べて気孔が少ないことから、第2焼成層36との判別を行うことが可能となる。
【0037】
次に、第1焼成層31を構成するガラス含有Agペーストについて説明する。
このガラス含有Agペーストは、Ag粉末と、ガラス粉末と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、を含有しており、Ag粉末とガラス粉末とからなる粉末成分の含有量が、ガラス含有Agペースト全体の60質量%以上90質量%以下とされており、残部が樹脂、溶剤、分散剤とされている。なお、本実施形態では、Ag粉末とガラス粉末とからなる粉末成分の含有量は、ガラス含有Agペースト全体の85質量%とされている。
また、このガラス含有Agペーストは、その粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0038】
Ag粉末は、その粒径が0.05μm以上1.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.8μmのものを使用した。
ガラス粉末は、主成分としてBi
2O
3、ZnO、B
2O
3を含むものとされており、そのガラス転移温度が300℃以上450℃以下、軟化温度が600℃以下、結晶化温度が450℃以上とされている。また、Ag粉末の重量Aとガラス粉末の重量Gとの重量比A/Gは、80/20から99/1の範囲内に調整されており、本実施形態では、A/G=80/5とした。
【0039】
溶剤は、沸点が200℃以上のものが適しており、本実施形態では、ジエチレンクリコールジブチルエーテルを用いている。
樹脂は、ガラス含有Agペーストの粘度を調整するものであり、500℃以上で分解されるものが適している。本実施形態では、エチルセルロースを用いている。
また、本実施形態では、ジカルボン酸系の分散剤を添加している。なお、分散剤を添加することなくガラス含有Agペーストを構成してもよい。
【0040】
ここで、本実施形態では、無鉛ガラス粉末を用いた。本実施形態における無鉛ガラス粉末のガラス組成は、
Bi
2O
3:68質量%以上93質量%以下、
ZnO:1質量%以上20質量%以下、
B
2O
3:1質量%以上11質量%以下、
SiO
2:5質量%以下、
Al
2O
3:5質量%以下、
Fe
2O
3:5質量%以下、
CuO:5質量%以下、
CeO
2:5質量%以下、
ZrO
2:5質量%以下、
アルカリ金属酸化物:2質量%以下、
アルカリ土類金属酸化物:7質量%以下、
とされている。
【0041】
すなわち、この実施形態では、Bi
2O
3、ZnO、B
2O
3を含み、これに、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CuO、CeO
2、ZrO
2、Li
2O、Na
2O、K
2O等のアルカリ金属酸化物、MgO、CaO、BaO、SrO等のアルカリ土類金属酸化物が、必要に応じて適宜添加されたものである。
【0042】
このようなガラス粉末は、次のようにして製造される。原料として、上述の各種酸化物、炭酸塩もしくはアンモニウム塩を用いる。この原料を、白金坩堝、アルミナ坩堝または石英坩堝等に装入して、溶解炉にて溶融する。溶融条件に特に制限はないが、原料が全て液相で均一に混合されるように、900℃以上1300℃以下、30分以上120分以下の範囲内とすることが好ましい。
得られた溶融物を、カーボン、スチール、銅板、双ロール、水等に投下して急冷することにより、均一なガラス塊を製出する。
このガラス塊を、ボールミル、ジェットミル等で粉砕し、粗大粒子を分級することにより、無鉛ガラス粉末が得られる。ここで、本実施形態では、無鉛ガラス粉末の中心粒径d50を0.1μm以上5.0μm以下の範囲内としている。
【0043】
次に、ガラス含有Agペーストの製造方法について、
図4に示すフロー図を参照して説明する。
まず、前述したAg粉末と無鉛ガラス粉末とを混合して混合粉末を生成する(混合粉末形成工程S01)。また、溶剤と樹脂とを混合して有機混合物を生成する(有機物混合工程S02)。
そして、混合粉末と有機混合物と分散剤とをミキサーによって予備混合する(予備混合工程S03)。
次に、予備混合物を、ロールミル機を用いて練り込みながら混合する(混錬工程S04)。
そして、得られた混錬をペーストろ過機によってろ過する(ろ過工程S05)。
このようにして、前述のガラス含有Agペーストが製出されることになる。
【0044】
次に、第2焼成層36を構成する酸化銀ペーストについて説明する。
この酸化銀ペーストは、酸化銀粉末と、還元剤と、樹脂と、溶剤と、を含有しており、本実施形態では、これらに加えて有機金属化合物粉末を含有している。
酸化銀粉末の含有量が酸化銀ペースト全体の60質量%以上80質量%以下とされ、還元剤の含有量が酸化銀ペースト全体の5質量%以上15質量%以下とされ、有機金属化合物粉末の含有量が酸化銀ペースト全体の0質量%以上10質量%以下とされており、残部が溶剤とされている。
なお、この酸化銀ペーストは、その粘度が10Pa・s以上100Pa・s以下、より好ましくは30Pa・s以上80Pa・s以下に調整されている。
【0045】
酸化銀粉末は、その粒径が0.1μm以上40μm以下とされたものを使用した。なお、このような酸化銀粉末は、市販品として入手可能なものである。
【0046】
還元剤は、還元性を有する有機物とされており、例えば、アルコール、有機酸を用いることができる。
アルコールであれば、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の1級アルコールを用いることができる。なお、これら以外にも、2価アルコール、3価アルコール、多価のアルコール、アルコール基を有する化合物を還元剤として用いてもよい。
有機酸であれば、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナンデカン酸などの飽和脂肪酸を用いることができる。なお、これら以外にも、不飽和脂肪酸を用いてもよい。
【0047】
有機金属化合物は、熱分解によって生成する有機酸によって酸化銀の還元反応を促進させる作用を有する。このような作用を有する有機金属化合物としては、例えば蟻酸Ag、酢酸Ag、プロピオン酸Ag、安息酸Ag、シュウ酸Agなどのカルボン酸系金属塩等が挙げられる。
【0048】
溶剤は、酸化銀ペーストの保存安定性、印刷性を確保する観点から、高沸点(150℃〜300℃)のものを用いることが好ましい。
具体的には、α-テルピネオール、酢酸2エチルヘキシル、酢酸3メチルブチル等を用いることができる。
【0049】
次に、上述の酸化銀ペーストの製造方法について、
図5に示すフロー図を参照して説明する。
まず、前述した酸化銀粉末と、還元剤(固体)と、有機金属化合物粉末と、を混合し、固体成分混合物を生成する(固体成分混合工程S11)。
次に、この固体成分混合物に、溶剤を添加して撹拌する(撹拌工程S12)。
そして、撹拌物を、ロールミル機(例えば3本ロールミル)を用いて練り込みながら混合する(混練工程S13)。
このようにして、前述の酸化銀ペーストが製出されることになる。なお、得られた酸化銀ペーストは、冷蔵庫等によって低温(例えば5〜15℃)で保存しておくことが好ましい。
【0050】
次に、金属Ag層の形成方法として、スピンコーティング法で形成した場合について説明する。この方法ではAg微粒子を含むAg微粒子分散液が用いられる。
この金属Ag分散液は、粒径20nm以上200nm以下のAg微粒子と、沸点が50℃以上200℃以下の溶剤と、を含有している。
ここで、Ag微粒子の含有量が60質量%以上95質量%以下とされており、沸点が50℃以上200℃以下の溶剤の含有量が5質量%以上40質量%以下とされている。
【0051】
なお、溶剤は、沸点の異なる溶剤を組み合わせたものであってもよい。なお、溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール、2−ブトキシエタノール、メチルメトキシブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸イソブチル、シクロヘキサノン、酢酸2−エトキシエチル、メトキシ酢酸等が挙げられる。
【0052】
次に、本実施形態であるパワーモジュール1の製造方法について、
図6に示すフロー図を参照して説明する。
まず、回路層12となるアルミニウム板及び金属層13となるアルミニウム板を準備し、これらのアルミニウム板を、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面にそれぞれろう材を介して積層し、加圧・加熱後冷却することによって、前記アルミニウム板とセラミックス基板11とを接合する(回路層接合工程S21)。なお、このろう付けの温度は、640℃〜650℃に設定されている。
【0053】
次に、金属層13の他方の面側に、冷却器40をろう材を介して接合する(冷却器接合工程S22)。なお、冷却器40のろう付けの温度は、590℃〜610℃に設定されている。
【0054】
そして、回路層12の表面に、ガラス含有Agペーストを塗布する(ガラス含有Agペースト塗布工程S23)。
なお、ガラス含有Agペーストを塗布する際には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。本実施形態では、スクリーン印刷法によってガラス含有Agペーストを回路層12の半導体素子3が搭載される部分に形成した。
【0055】
次に、回路層12表面にガラス含有Agペーストを塗布した状態で乾燥した後、加熱炉内に装入してガラス含有Agペーストの焼成を行う(第1焼成工程S24)。なお、このときの焼成温度は350〜645℃に設定されている。
この第1焼成工程S24により、回路層12の一方の面に、ガラス層32とAg層33とを備えた第1焼成層31が形成される。このとき、ガラス層32によって、回路層12の表面に自然発生していたアルミニウム酸化皮膜が溶融除去されることになり、回路層12に直接ガラス層32が形成される。
【0056】
また、ガラス層32の内部に、粒径が数ナノメートル程度の微細な導電性粒子34が分散されることになる。この導電性粒子34は、Ag又はAlの少なくとも一方を含有する結晶性粒子とされており、焼成の際にガラス層32内部に析出したものと推測される。
さらに、Ag層33の内部に、粒径が数ナノメートル程度の微細なガラス粒子35が分散されることになる。このガラス粒子35は、Ag粒子の焼結が進行していく過程で、残存したガラス成分が凝集したものと推測される。
【0057】
一方、半導体素子3の接合面にAu層39を形成する(Au層形成工程S31)。
そして、Au層39の表面に、上述のAg微粒子分散液をスピンコーターで塗布し、金属Ag膜を形成する(金属Ag膜形成工程S32)。
ここで、Ag微粒子分散液の塗布方法としては、スプレーコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、またはダイコーティング法等が挙げられる。また、その他にもめっき法、スパッタリング法によってAg層39を形成しても良い。
また、金属Ag膜の塗布厚さは、15nm以上2.5μm以下の範囲内とすることが好ましい。さらに好ましくは、20nm以上2μm以下とする。
【0058】
次に、第1焼成層31の表面に、酸化銀ペーストを塗布する(酸化銀ペースト塗布工程S25)。
なお、酸化銀ペーストを塗布する際には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。本実施形態では、スクリーン印刷法によって酸化銀ペーストを印刷した。
【0059】
次に、酸化銀ペーストを塗布した状態で乾燥(例えば、室温、大気雰囲気で24時間保管)した後、酸化銀ペーストの上に、Au層39及び金属Ag膜を形成した半導体素子3を積層する(半導体素子積層工程S26)。
そして、半導体素子3とパワーモジュール用基板10とを積層した状態で加熱炉内に装入し、酸化銀ペーストの焼成を行う(第2焼成工程S27)。このとき、荷重を0〜10MPaとし、焼成温度を150〜400℃とする。
また、望ましくは半導体素子3とパワーモジュール用基板10とを積層方向に加圧した状態で加熱することによって、より確実に接合することができる。この場合、加圧圧力は0.5〜10MPaが望ましい。
【0060】
このようにして、第1焼成層31の上に第2焼成層36が形成され、かつ、金属Ag層38が形成され、半導体素子3と回路層12とが接合される。これにより、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0061】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール1においては、回路層12の一方の面に、ガラス成分を含有するガラス含有Agペーストの焼成体からなる第1焼成層31が形成されているので、ガラス成分によって回路層12の表面に形成されている酸化皮膜を除去することができ、この第1焼成層31と回路層12との接合強度を確保することができる。
【0062】
また、この第1焼成層31の上に、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる第2焼成層36が形成されているので、この第2焼成層36を形成する際に半導体素子3を接合することが可能となる。ここで、酸化銀を還元した場合には、微細な還元Ag粒子が生成することから、第2焼成層36を構成する焼成体を緻密な構造とすることができる。
さらに、第1焼成層31及び第2焼成層36が積層されているので、回路層12と半導体素子3との間に介在する接合層の厚さを確保することができる。よって、熱サイクル負荷時の応力が半導体素子3に作用することを抑制でき、半導体素子3自体の破損を防止することができる。
【0063】
そして、第2焼成層36と半導体素子3との間に金属Ag層38が形成されているので、金属Ag層38と第2焼成層36とがAg同士の焼結によって接合されることになり、半導体素子3と回路層12とを強固に接合することができる。
また、本実施形態においては、前記金属Ag層の厚みが15nm以上2.5μm以下とされている。この場合、金属Ag層が15nm以上形成されていることから、第2焼成層と前記半導体素子とを確実に接合することが可能となる。一方、その厚みが2.5μm以下とされていることから金属Ag層の銀量を抑えることができ、比較的安価に金属Ag層を形成することができる。
【0064】
また、第1焼成層31は、回路層12の一方の面に形成されたガラス層32と、このガラス層32上に積層されたAg層33と、を備えており、Ag層33には、ガラス粒子が分散しているので、回路層12の表面に形成されている酸化皮膜をガラス層32に反応させて除去することができ、回路層12と半導体素子3とを確実に接合することができる。
【0065】
さらに、第2焼成層36が、酸化銀と還元剤とを含む酸化銀ペーストの焼成体とされているので、酸化銀が還元されて生成する微細なAg粒子(還元Ag粒子)が焼成した構造となり、第2焼成層を緻密な焼成体で構成することができる。また、還元剤は、酸化銀を還元する際に分解されるため、第2焼成層36中に残存しにくく、第2焼成層36における導電性を確保することができる。さらに、例えば300℃といった比較的低温条件で焼成することが可能となるため、半導体素子3の接合温度を低く抑えることができ、半導体素子3への熱負荷を低減することができる。
【0066】
また、本実施形態では、ガラス層32内部に、粒径が数ナノメートル程度とされた微細な導電性粒子34が分散されているので、ガラス層32においても導電性を確保することができる。具体的には、本実施形態では、ガラス層32を含めた第1焼成層31の厚さ方向の電気抵抗値Pが0.5Ω以下に設定されている。
したがって、第1焼成層31及び第2焼成層36を介して半導体素子3と回路層12との間で電気を確実に導通することが可能となり、信頼性の高いパワーモジュール1を構成することができる。
【0067】
また、本実施形態においては、絶縁層として絶縁性及び強度に優れたAlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板11を用いているので、パワーモジュール用基板10の信頼性の向上を図ることができる。また、このセラミックス基板11上にアルミニウム板をろう付けすることによって、容易に回路層12を形成することができる。
さらに、本実施形態では、セラミックス基板11の他方側(
図1において下側)に、金属層13および緩衝層15を介して冷却器40が配設されているので、半導体素子3からの発熱によってパワーモジュール1が高温となることを防止することができる。
【0068】
また、本実施形態であるパワーモジュール1の製造方法によれば、回路層12の一方の面に、ガラス成分を含有するガラス含有Agペーストを塗布し、加熱処理することにより、第1焼成層31を形成する工程(ガラス含有Agペースト塗布工程S23及び第1焼成工程S24)を備えているので、回路層12の表面に形成された酸化皮膜を除去でき、回路層12と第1焼成層31とを確実に接合することができる。
【0069】
また、半導体素子3の接合面にAu層39を形成する工程(Au層形成工程S31)と、このAu層39の表面に金属Ag膜を形成する工程(金属Ag膜形成工程S32)と、第1焼成層31の上に、酸化銀と還元剤とを含む酸化銀ペーストを塗布する工程(酸化銀ペースト塗布工程S25)と、塗布された酸化銀ペーストの上に半導体素子3を積層する工程(半導体素子積層工程S26)と、半導体素子3とパワーモジュール用基板10とを積層した状態で加熱して、第1焼成層31の上に第2焼成層36を形成する工程(第2焼成工程S27)と、を備えているので、酸化銀ペーストの焼成によって第2焼成層36が形成されるとともに、第2焼成層36と半導体素子3との間に金属Ag層38が形成されることになる。よって、金属Ag層38と第2焼成層36とがAg同士の焼結によって接合されることになり、半導体素子3と回路層12とを強固に接合することができる。
【0070】
また、本実施形態では、金属Ag膜形成工程S32においては、粒径20nm以上 200nm以下のAg微粒子を含むAg微粒子分散液を塗布することによって金属Ag膜を形成する構成とされているので、酸化銀が還元されて生成する微細なAg粒子(還元Ag粒子)と金属Ag膜を構成するAg微粒子との粒径が一致することになり、金属Ag層38と酸化銀ペーストが還元されてなる第2焼成層36とを強固に接合することができる。
【0071】
また、第2焼成層36を形成する第2焼成工程S27における焼成温度が400℃以下とされているので、接合時における半導体素子3への熱負荷を低減することができる。また、第2焼成工程S27における焼成温度が150℃以上とされているので、酸化銀ペーストに含まれる還元剤等を除去することができ、第2焼成層36における導電性及び強度を確保することができる。
【0072】
また、第1焼成層31を形成する第1焼成工程S24における焼成温度が350℃以上とされているので、ガラス含有Agペーストを焼成して第1焼成層31を確実に形成することができる。また、第1焼成工程S24における焼成温度が645℃以下とされているので、回路層12やセラミックス基板11の劣化を防止することができる。
【0073】
また、本実施形態においては、酸化銀ペーストに、有機金属化合物が添加されているので、この有機金属化合物が熱分解することによって生成される有機酸により、酸化銀の還元反応が促進されることになる。
さらに、酸化銀ペーストに混合する還元剤として、室温で固体であるものを用いているので、焼成前に還元反応が進行することを防止できる。
【0074】
さらに、酸化銀ペーストの粘度が10Pa・s以上100Pa・s以下、より好ましくは30Pa・s以上80Pa・s以下に調整されているので、第1焼成層31の上に酸化銀ペーストを塗布する酸化銀ペースト塗布工程S25において、スクリーン印刷法等を適用することが可能なり、第2焼成層36を半導体素子3が配設される部分のみに選択的に形成することができる。よって、酸化銀ペーストの使用量を削減することが可能となり、このパワーモジュール1の製造コストを大幅に削減することができる。
【0075】
また、本実施形態では、第1焼成層31を構成するガラス含有Agペーストが、Ag粉末と、ガラス粉末と、を含有しており、ガラス粉末の軟化温度が600℃以下に設定されているので、比較的低温でガラス含有Agペーストを焼成することが可能となる。具体的には、第1焼成層31を形成する第1焼成工程S24における焼成温度を350℃以上645℃以下に設定することができる。よって、ガラス含有Agペーストの焼成に伴う回路層12の劣化や回路層12とセラミックス基板11との接合強度の低下等のトラブルを未然に防止することができ、高品質のパワーモジュール1を製出することが可能となる。
【0076】
さらに、ガラス含有Agペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されているので、回路層12表面にガラス含有Agペーストを塗布するガラス含有Agペースト塗布工程S23において、スクリーン印刷法等を適用することが可能なり、第1焼成層31を半導体素子3が配設される部分のみに選択的に形成することができる。よって、ガラス含有Agペーストの使用量を削減することが可能となり、このパワーモジュール1の製造コストを大幅に削減することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層及び金属層を構成する金属板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、他のアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよい。また、回路層及び金属層を構成する金属板を、純銅、または、銅合金で構成されたものとしてもよい。
【0078】
また、アルミニウム板とセラミックス基板とをろう付けにて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Bonding)、鋳造法等を適用してもよい。
さらに、回路層及び金属層を構成する金属板を銅又は銅合金で構成した場合には、銅又は銅合金からなる金属板をセラミックス基板に接合する際に、直接接合法(DBC法)、活性金属法、鋳造法等を適用することができる。
【0079】
また、ガラス含有Agペーストの原料、配合量については、実施形態に記載されたものに限定されることはない。例えば、無鉛ガラス粉末を用いるものとして説明したが、鉛を含有するガラスであってもよい。
さらに、酸化銀ペーストの原料、配合量については、実施形態に記載されたものに限定されることはない。例えば有機金属化合物を含有しないものであってもよい。
また、第1焼成層31におけるガラス層32とAg層33の厚さ、第2焼成層36の厚さについても、本実施形態に限定されるものではない。
【0080】
さらに、絶縁層としてAlNからなるセラミックス基板を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si
3N
4やAl
2O
3等からなるセラミックス基板を用いてもよいし、絶縁樹脂によって絶縁層を構成してもよい。
【0081】
また、回路層となるアルミニウム板をセラミックス基板に接合するとともに、冷却器を接合した後に、回路層上に第1焼成層を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム板をセラミックス基板に接合する前や、冷却器を接合する前に第1焼成層を形成してもよい。
【0082】
また、冷却器の天板部と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けたものとして説明したが、この緩衝層を備えていなくてもよい。
さらに、冷却器の天板部をアルミニウムで構成したものとして説明したが、アルミニウム合金、又はアルミニウムを含む複合材等で構成されていてもよいし、その他の材料で構成されていてもよい。さらに、冷却器として、放熱フィン及び冷却媒体の流路を有するもので説明したが、冷却器の構造に特に限定はない。
【0083】
また、酸化銀ペーストは、酸化銀粉末及び還元剤に加えて、粒径20nm以上800nm以下の微細Ag粒子を含有していてもよい。微細Ag粒子が酸化銀粉末の間に介在することにより、酸化銀が還元されて得られるAgとこの微細Ag粒子とが焼結することになり、第2焼成層をさらに緻密な構造とすることができる。これにより、接合時における半導体素子の加圧圧力を低く設定することが可能となる。
さらに、この微細Ag粒子は、有機物を含んでいてもよい。この場合、有機物が分解する際の熱を利用して低温での焼結性を向上させることが可能となる。
【0084】
また、酸化銀ペーストの焼成体からなる第2焼成層に粒径0.8μmを超えて20μm以下の金属Ag粒子が分散した構成としてもよい。この場合、第2焼成層に大きな気孔が発生することを抑制することが可能となる。
【0085】
そして、本実施形態では、金属Ag膜を、粒径20nm以上200nm以下のAg微粒子を含むAg微粒子分散液を塗布することで形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、金属Ag膜をめっき法によって形成してもよいし、スパッタ法によって形成してもよい。なお、めっき法によって金属Ag膜を形成する場合には、その膜厚を0.5μm以上2.5μm以下とすることが好ましい。また、スパッタ法によって金属Ag膜を形成する場合には、その膜厚を15nm以上30nm以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0086】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0087】
(実施例)
実施例として、前述の実施形態に記載されたパワーモジュール1を準備した。すなわち、純度99.99%以上のアルミニウム板からなる回路層12上に、ガラス含有Agペーストの焼成体からなる第1焼成層31を形成し、かつ、半導体素子3の接合面にAu層39を形成し、このAu層39の表面に金属Ag膜を形成した。そして、第1焼成層31の上に、酸化銀ペーストの焼成体からなる第2焼成層36を形成して半導体素子3を接合した。
【0088】
なお、セラミックス基板11は、AlNで構成され、27mm×17mm、厚さ0.6mmのものを使用した。
また、回路層12及び金属層13は、4Nアルミニウムで構成され、25mm×15mm、厚さ0.6mmのものを使用した。
半導体素子3は、IGBT素子とし、13mm×10mm、厚さ0.25mmのものを使用した。
【0089】
このとき、ガラス含有Agペーストのガラス粉末として、Bi
2O
3を90.6質量%、ZnOを2.6質量%、B
2O
3を6.8質量%、を含む無鉛ガラス粉末を用いた。また、樹脂としてエチルセルロースを、溶剤としてジエチレンクリコールジブチルエーテルを用いた。さらに、ジカルボン酸系の分散剤を添加した。
【0090】
酸化銀ペーストは、市販の酸化銀粉末(和光純薬工業株式会社製)と、還元剤としてミリスチルアルコールと、溶剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ(2−メチルプロパノエート)と、を用いて、酸化銀粉末;80質量%、還元剤(ミリスチルアルコール);10質量%、溶剤(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ(2−メチルプロパノエート));残部、の割合で混合した酸化銀ペーストを用いた。
【0091】
なお、回路層12の表面にガラス含有Agペーストを塗布するガラス含有Agペースト塗布工程S23では、ガラス含有Agペーストの塗布厚さを10μmとした。また、第1焼成工程S24では、焼成温度を575℃、焼成時間を10分とした。
また、第1焼成層31の上に酸化銀ペーストを塗布する酸化銀ペースト塗布工程S25では、酸化銀ペーストの塗布厚さを50μmとした。また、第2焼成工程S27では、焼成温度を300℃、接合時間を表1に記載の時間とした。
【0092】
そして、金属Ag膜形成工程S32の条件を変更した。
実施例1−12では、スピンコーティング法により金属Ag膜を形成した。スピンコーティングは、粒径20nmのAg微粒子をエチレングリコールの溶剤に分散させたAg微粒子分散液をスピンコータ−を用いて、Ag微粒子分散液を複数回滴下することによって、表1に記載の厚みを有する金属Ag膜を形成した。
実施例13−19では、めっき法により表1に記載の厚みを有する金属Ag膜を形成した。銀めっきは、シアン化銀めっき浴を用いて電解めっき法により表1に記載の厚みを有する金属Ag膜を形成した。
実施例20−22では、スパッタ法により表1に記載の厚みを有する金属Ag膜を形成した。純度99.9質量%の銀ターゲットを用いてRFマグネトロンスパッタリング装置を用いて、表1記載の厚みを有する金属Ag膜を形成した。
【0093】
(比較例)
比較例1−4として、素子裏面に金属Ag層を形成しないほかは、実施例と同様な条件でパワーモジュールを作製した。
【0094】
(SEM観察)
まず、実施例8のパワーモジュールにおいて、回路層と半導体素子との接合界面をSEM観察した結果を
図7及び
図8に示す。この場合、第2焼成層36とAu層39との間に金属Ag層38が認められる。なお、
図7及び
図8に示すように、酸化銀ペーストの焼成体からなる第2焼成層36には、大きな気孔が存在しており、第1焼成層31と第2焼成層36、第2焼成層36と金属Ag層38とを区別することが可能となっている。
次に、金属Ag膜を形成しなかった比較例1のパワーモジュールにおいて、回路層と半導体素子との接合界面をSEM観察した結果を
図9及び
図10に示す。この場合、第2焼成層36とAu層39との間に金属Ag層38が認められない。
【0095】
(評価)
次に、実施例、従来例、比較例のパワーモジュールを用いて、熱サイクル試験及びパワーサイクル試験を実施し、初期の接合率、熱サイクル試験後の熱抵抗の上昇率、及び、パワーサイクル試験後の熱抵抗の上昇率を評価した。
接合率は、超音波探傷装置を用いて評価し、以下の式から算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち半導体素子面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0096】
熱抵抗は、次のようにして測定した。IGBT素子を100Wの電力で加熱し、熱電対を用いてIGBT素子の温度を実測した。また、ヒートシンクを流通する冷却媒体(エチレングリコール:水=9:1)の温度を実測した。そして、IGBT素子の温度と冷却媒体の温度差を電力で割った値を熱抵抗とした。
【0097】
熱サイクル試験は、試験片に対して、−40℃←→110℃の熱サイクルを負荷することにより行う。本実施例では、この熱サイクルを3000回実施した。
パワーサイクル試験は、IGBT素子に、15V、150Aの通電条件で、通電時間2秒、冷却時間8秒を繰り返し実施し、IGBT素子の温度を30℃から130℃の範囲で変化させた。本実施例では、このパワーサイクルを20万回実施した。
この熱サイクル試験後、熱抵抗の上昇率を測定した。また、パワーサイクル試験後、熱抵抗の上昇率を測定した。
その評価結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
金属Ag層をスピンコーティング法で形成した実施例1〜12はいずれも、接合率、熱サイクル試験、パワーサイクル試験において良好な結果が得られた。また、めっき法で形成した実施例13〜17は、接合率、熱サイクル試験、パワーサイクル試験において良好な結果が得られた。なお、実施例18,19は、接合率において若干低い数値となったが、実用的に許容できる範囲である。さらに、スパッタリング法で形成した実施例20〜22は、接合率、熱サイクル試験、パワーサイクル試験において良好な結果が得られた。
一方、金属Ag層を形成しなかった比較例1〜4では、短時間での接合であったため、接合性が不十分となり、熱サイクル試験、パワーサイクル試験において、実施例に劣る結果となった。