特許第5982971号(P5982971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982971
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20160818BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   H01L21/304 601B
   H01L21/304 622W
   B24B9/00 601H
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-88916(P2012-88916)
(22)【出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-219206(P2013-219206A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】石橋 恵二
【審査官】 竹口 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−219297(JP,A)
【文献】 特開2011−071180(JP,A)
【文献】 特開2009−231833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/304、21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面と、前記第1の面および前記第2の面に挟まれた縁周部とを備え、
前記縁周部の表面には複数の研削痕が形成されており、
前記第1の面と平行な方向における、前記縁周部の最外周端部から前記複数の研削痕のうち前記縁周部の最内周側に位置する前記研削痕までの距離である面取り幅が50μm以上400μm以下であり、
前記縁周部の前記表面の算術平均粗さは0.07μm以上3μm以下であり
前記縁周部は結晶格子が乱れた層である加工変質層を含み、
前記加工変質層の最大厚さは0.5μm以上10μm以下である、炭化珪素単結晶基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素単結晶基板および炭化珪素単結晶基板の製造方法に関し、より特定的には縁周部を有する炭化珪素単結晶基板および炭化珪素単結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板は、たとえば円柱状のインゴットをワイヤーソーによって切断し、切り出された基板の表面および縁周部を研磨、研削することにより製造される。半導体基板の縁周部の加工はベベリング加工やチャンファリング加工と呼ばれている。
【0003】
シリコンウエハの縁周部を加工する方法は、たとえば特開平9−168947号公報(特許文献1)に記載されている。当該方法によれば、シリコンウエハの縁周部にダイヤモンド砥石を押し付け、同時に超音波振動をダイヤモンド砥石に与えながらシリコンウエハの縁周部が研削される。
【0004】
また、窒化物半導体基板の縁周部を研磨する方法は、たとえば特開2009−231833号公報(特許文献2)に記載されている。当該方法によれば、窒化物半導体ウエハの裏面を平面加工した後に、発生した裏面加工変質層がエッチングによって除去され、その後ダイヤモンド砥石によってウエハの縁周部が研削される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−168947号公報
【特許文献2】特開2009−231833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、耐圧が高く、オン抵抗が低いなどの利点から、半導体装置の製造用に炭化珪素単結晶基板が用いられ始めている。炭化珪素は窒化ガリウムよりも硬く、研削されづらい。特開2009−231833号公報に記載の方法で炭化珪素単結晶基板の縁周部を加工した後に、炭化珪素単結晶基板上にエピタキシャル層を形成すると当該エピタキシャル層にクラックが発生する場合があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、クラックの発生を抑制することができる炭化珪素単結晶基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここでクラックが発生するメカニズムについて説明する。炭化珪素単結晶基板にベベリング加工が行われると、基板の面取り部に加工変質層が形成される。加工変質層とは結晶格子が乱れた層のことである。当該加工変質層上に炭化珪素のエピタキシャル層を形成すると、加工変質層とエピタキシャル層との格子整合が取りづらいためエピタキシャル層が異常成長し、炭化珪素単結晶基板の主面方向にクラックが伸展する。当該クラックが大きくなると、炭化珪素単結晶基板が割れる場合もある。発明者らは、炭化珪素単結晶基板の形状とクラックの発生との関係を鋭意研究した結果、クラックの発生確率は炭化珪素単結晶基板の面取り幅に影響されることを見出した。面取り幅が小さいとエピタキシャル層の異常成長領域が炭化珪素単結晶基板の主面に近いのでクラックが主面方向に伸展しやすくなる。一方、面取り幅が大きいとエッジ部が欠ける確率が高くなる。エッジ部が欠けるとその部分からクラックが発生する。それゆえ、面取り幅をある一定の範囲に制御することでクラックの発生を抑えることができる。
【0009】
本発明に係る炭化珪素単結晶基板は、第1の面と、第1の面に対向する第2の面と、第1の面および第2の面に挟まれた縁周部とを有している。縁周部の表面には複数の研削痕が形成されている。第1の面と平行な方向における、縁周部の最外周端部から複数の研削痕のうち縁周部の最内周側に位置する研削痕までの距離である面取り幅が50μm以上400μm以下である。
【0010】
ここで、第1の面および第2の面に挟まれたとは、第1の面と平行な面および第2の面と平行な面に挟まれた場合を含む。
【0011】
本発明に係る炭化珪素単結晶基板は面取り幅が50μm以上400μm以下である。これにより、クラックの発生を抑制することができる炭化珪素単結晶基板が得られる。
【0012】
上記の炭化珪素単結晶基板において好ましくは、縁周部の表面の算術平均粗さは0.07μm以上3μm以下である。縁周部の表面の算術平均粗さが大きくなるとエピタキシャル層と縁周部との格子整合が取りづらいためクラックが発生しやすくなる。縁周部の表面の算術平均粗さを0.07μm以上3μm以下とすることによりクラックの発生を抑制可能な炭化珪素単結晶基板が得られる。
【0013】
上記の炭化珪素単結晶基板において好ましくは、縁周部は結晶格子が乱れた層である加工変質層を含む。加工変質層の最大厚さは0.5μm以上10μm以下である。加工変質層が厚いとエピタキシャル層との格子整合が取りづらいためクラックが発生しやすくなる。加工変質層の最大厚さを0.5μm以上10μm以下とすることによりクラックの発生を抑制可能な炭化珪素単結晶基板が得られる。
【0014】
本発明に係る炭化珪素単結晶基板の製造方法は以下の工程を有している。対向する一対の主面と一対の主面に挟まれた縁周部とを有する炭化珪素単結晶が準備される。ダイヤモンド砥粒が結合剤に埋め込まれた砥石が準備される。ダイヤモンド砥粒と結合剤との日本工業規格における結合度がL〜Nであって、ダイヤモンド砥粒の集中度が80以上150以下である。砥石を用いて縁周部が研磨される。これにより、クラックの発生を抑制可能な炭化化珪素単結晶基板が得られる。
【0015】
上記の炭化珪素単結晶基板の製造方法において好ましくは、ダイヤモンド砥粒の日本工業規格における粒度が400番〜2500番である。これにより、クラックの発生を抑制可能な炭化化珪素単結晶基板をより精度良く得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クラックの発生を抑制することができる炭化珪素単結晶基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態における炭化珪素単結晶基板の構成を概略的に示す斜視図である。
図2】本発明の一実施の形態における炭化珪素単結晶基板の構成を概略的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施の形態における炭化珪素単結晶基板の構成を概略的に示す平面図である。
図4】本発明の一実施の形態における炭化珪素単結晶基板の製造方法を説明するための図である。
図5】本発明の一実施の形態における炭化珪素単結晶基板の製造方法を説明するための図である。
図6】本発明の一実施の形態における炭化珪素単結晶基板の製造方法に用いられる砥石の一部を拡大した図である。
図7】本発明の一実施の形態における炭化珪素単結晶基板の製造方法を概略的に示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。また角度の記載には、全方位角を360度とする系を用いている。
【0020】
図1および図2を参照して、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板について説明する。
【0021】
本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板1は、第1の面2A(表面)と、第2の面2B(裏面であり、第1の面と対向する面)と、第1の面2Aと第2の面2Bとによって挟まれた縁周部9および本体部7とを有している。縁周部9は、縁周部9の表面3と、加工変質層6を有している。加工変質層6とは、結晶の研削又は研磨によって縁周部9の表面3側領域に形成される結晶格子が乱れた層をいう。加工変質層9は、結晶を劈開面で破断した断面をSEM観察やTEM観察、カソードルミネセンスセンス観察することにより、その存在及びその厚さを確認できる。
【0022】
加工変質層6は縁周部9の表面3から炭化珪素単結晶基板1の本体部7へ向かうように形成されている。加工変質層6の厚みTは、縁周部9の表面3の最外周端部4において最も大きくなっており、第1の面2Aおよび第2の面2Bに向かうにつれて小さくなる。加工変質層6は、炭化珪素単結晶基板1の周方向に形成されている。
【0023】
図3を参照して、炭化珪素単結晶基板1の縁周部9の表面3には、略同心円状に複数の研削痕5a、5b、5c、5dが形成されている。この当該研削痕5a、5b、5c、5dは、後述する研削工程においてたとえばダイヤモンド砥粒によって形成される。当該研削痕5a、5b、5c、5dは、光学顕微鏡によりその存在を確認することができる。
【0024】
炭化珪素単結晶基板1の縁周部9の表面3に周方向に沿って延びる研削痕が形成されている領域は、面取り部ともよばれる。そして、第1の面2Aと平行な方向における、炭化珪素単結晶基板1の縁周部9の最外周端部4から縁周部9の最内周側に位置する研削痕5aまでの距離は面取り幅Lと呼ばれる。本実施の形態における面取り幅Lは50μm以上400μm以下である。
【0025】
炭化珪素単結晶基板1の第1の面2Aは鏡面研磨される。第1の面2Aおよび第2の面2Bの両方が鏡面研磨されても構わない。しかしながら、面取り部は通常鏡面研磨されない。それゆえ、面取り部(言い換えれば縁周部9)は梨地面または半鏡面である部分であり、第1の面2Aは鏡面である部分ともいえる。
【0026】
炭化珪素単結晶基板1の縁周部9の表面3の算術平均粗さ(R)は0.07μm以上3μm以下であることが好ましい。また、縁周部9の加工変質層6の最大厚み(T)は0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。さらに、炭化珪素単結晶基板1の縁周部9の表面3の算術平均粗さをRとし、加工変質層6の最大厚みをTとし、面取り幅をLとしたときの、R×T/Lで表される値は、0.0000875以上0.6以下であることが好ましい。
【0027】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の製造方法について説明する。
まずグラファイトからなるルツボ内に単結晶炭化珪素からなる種結晶と、炭化珪素からなる原料粉末とが挿入される。次に、原料粉末が加熱されることにより炭化珪素が昇華し、種結晶上に再結晶する。このとき、所望の不純物、たとえば窒素などが導入されつつ再結晶が進行する。そして、種結晶上に所望の大きさの結晶が成長した時点で加熱を停止し、容器内から単結晶炭化珪素の結晶が取り出される。
【0028】
次に、作製された単結晶炭化珪素の結晶が、たとえば円柱状の形状を有するインゴットに加工される。加工されたされた円柱状のインゴットが、その側面の一部が支持台により支持されるようにセットされる。次に、ワイヤーソーにより、炭化珪素単結晶からなるインゴットが走行方向に<0001>方向と交差するように切断される。これにより、所望の面方位を有する炭化珪素単結晶基板1が切り出される。なお、炭化珪素単結晶基板1は、第1の面2Aと、第1の面と対向する第2の面2Bと、第1の面2Aおよび第2の面2Bに挟まれた縁周部9とを有する。
【0029】
次に、図7を参照して、工程(S10)として砥石準備工程が実施される。砥石準備工程では、後述する炭化珪素単結晶基板1の縁周部9の研削工程において使用される砥石が準備される。
【0030】
図4を参照して、研削部10は砥石11と砥石11を軸方向に回転する回転軸12とを有している。図6を参照して、砥石11は、台金20と、台金20上に設けられた結合剤21と、結合剤21に埋め込まれたダイヤモンド砥粒22とを有している。本実施の形態において、ダイヤモンド砥粒22と結合剤21との日本工業規格における結合度がL〜Nであって、ダイヤモンド砥粒22の集中度が80以上150以下であるメタル層型の砥石が準備される。メタル層型の砥石とは、結合剤が金属からなる砥石のことである。
【0031】
好ましくは、ダイヤモンド砥粒22と結合剤21との日本工業規格における結合度がMであって、ダイヤモンド砥粒22の集中度が125である。
【0032】
ここで、結合度とは、結合剤21が砥粒を保持する強さを表す指標である。結合度はアルファベットA〜Zまで26種類に分けて表示され、Aが最も軟らかいことを意味し、Zは最も硬いことを意味する。結合度L〜Nは中間に分類される。なお、結合度の詳細は、日本工業規格R6240およびR6242に記載されている。
【0033】
ここで、集中度(コンセントレーション)とは、砥粒層中に砥粒がどれだけ含有されているかを表す指標である。砥粒率が容積%で25%(4.4ct/cm3)である場合を、集中度100として定義する。たとえば、集中度が125とは、集中度100と比較して砥粒率が容積%で1.25倍(5.5ct/cm3)である。
【0034】
本実施の形態において使用されるダイヤモンド砥粒22の粒度は400番〜2500番である。粒度の番号が小さいことは、砥粒の粒径が大きいことを意味する。粒度が400番である砥粒の平均粒径は37μmであり、粒度が2500番である砥粒の平均粒径は6μmである。なお、粒度の詳細は、日本工業規格R6001に記載されている。
【0035】
次に、工程(S20)として粗研削工程が実施される。工程(S20)においては、番手の粗い溝で炭化珪素単結晶基板1の縁周部9が研削される。具体的にはまず、工程(S10)において準備された、ダイヤモンド砥粒22と結合剤21との結合度がL〜Nであって、ダイヤモンド砥粒22の集中度が80以上150以下であるメタル層型の砥石11を回転軸12を中心として回転させる。当該砥石11には、粒度が400番〜600番のダイヤモンド砥粒22が使用される。同様に、研削対象物である炭化珪素単結晶基板1を第1の面2Aの中心軸を回転軸として回転させる。炭化珪素単結晶基板1の回転速度(研削速度)は、1mm/秒以上4mm/秒以下である。また、砥石11の回転速度は、周速1500m/分以上3000m/分以下である。図5に示すように、炭化珪素単結晶基板1が第1の面2Aと平行な方向Xに移動して砥石11に接触する。砥石11と炭化珪素単結晶基板1との摩擦によって炭化珪素単結晶基板1の縁周部9が研削される。なお、炭化珪素単結晶基板1が砥石11の方向へ押し付けれらて、炭化珪素単結晶基板1が基板の径方向に研削される速度(切り込み速度)は、0.05mm/秒以上0.3mm/秒以下である。
【0036】
粗研削工程においては、炭化珪素単結晶基板1の縁周部9が複数回研削され、最終的には100μm以上研削される。ただし一回の研削は100μm以下とされる。
【0037】
粗研削工程において好ましくは、粒度が600番のダイヤモンド砥粒22が使用される。好ましくは、切り込み速度は0.1mm/秒である。好ましくは、研削速度は3mm/秒である。好ましくは、砥石11の回転速度は、周速2500mm/分である。
【0038】
次に、工程(S30)として仕上げ研削工程が実施される。工程(S30)においては、番手の細かい溝で炭化珪素単結晶基板1の縁周部9が研削される。具体的にはまず、工程(S10)において準備された、ダイヤモンド砥粒22と結合剤21との結合度がL〜Nであって、ダイヤモンド砥粒22の集中度が80以上150以下であるメタル層型の砥石11を回転軸12を中心として回転させる。当該砥石11には、粒度が800番〜2000番のダイヤモンド砥粒22が使用される。好ましくは、当該砥石11には、粒度が1500番のダイヤモンド砥粒22が使用される。同様に、研削対象物である炭化珪素単結晶基板1を第1の面2Aの中心軸を回転軸として回転させる。
【0039】
仕上げ研削工程における、切り込み速度、研削速度、砥石速度は粗研削工程と同様である。
【0040】
仕上げ研削工程においては、炭化珪素単結晶基板1の縁周部9が複数回研削され、最終的には100μm以上研削される。ただし一回の研削は50μm以下とされる。
【0041】
上記の製造方法により、上述した面取り幅が50μm以上400μm以下である炭化珪素単結晶基板1が得られる。
【0042】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板1およびその製造方法の作用効果について説明する。
【0043】
本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板は面取り幅が50μm以上400μm以下である。これにより、クラックの発生を抑制することができる炭化珪素単結晶基板が得られる。
【0044】
また、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板1の縁周部の表面の算術平均粗さは0.07μm以上3μm以下である。これにより、よりクラックの発生を抑制可能な炭化珪素単結晶基板が得られる。
【0045】
さらに、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板1の加工変質層の最大厚さは0.5μm以上10μm以下である。これにより、よりクラックの発生を抑制可能な炭化珪素単結晶基板が得られる。
【実施例】
【0046】
本実施例においては、炭化珪素半導体基板上にエピタキシャル層を形成した後に発生するクラックの発生と、炭化珪素単結晶基板1の面取り部(縁周部9)の表面粗さRと、加工変質層9の最大厚みTと、面取り幅Lとの関係について調べた。
【0047】
まず、表面粗さRが0.05μm以上5μm以下の範囲であって、加工変質層の最大厚みTが0.4μm以上15μm以下の範囲であって、面取り幅Lが30μm以上500μm以下の範囲である8種類の炭化珪素単結晶基板1を準備した。本発明例1〜本発明例6に係る炭化珪素単結晶基板1は、実施の形態で説明した製造方法により作成された。次に、当該炭化珪素単結晶基板1上に炭化珪素のエピタキシャル層を形成した。エピタキシャル層を、炭化珪素単結晶基板1の第1の面2Aおよび縁周部9上に形成した。エピタキシャル層の形成は、1500℃以上1650℃以下の温度であって、減圧条件下で実施された。SiH4/H2を0.03%程度とした。C/Si比を0.7以上3.0以下とした。エピタキシャル層の膜厚を15μmとした。
【0048】
その後、エピタキシャル層が形成された8種類の炭化珪素単結晶基板1(本発明例1〜6、比較例1および比較例2)にクラックが存在しているかどうかを評価した。クラックの観察は、ノマルスキー顕微鏡によって行われた。ノマルスキー顕微鏡の倍率を100倍とした。このとき、接眼側の倍率を10倍とし、対物側の倍率を10倍とした。なお、顕微鏡は実体顕微鏡であっても構わない。この場合、クラックは反射モードによって観察される。
【0049】
クラックの観察は、面取りの研削痕がある炭化珪素単結晶基板1の縁周部9を観察することにより行われる。縁周部9から伸展しているクラックが存在している場合、クラックの主面方向(第1の面2A方向)の長さを観察した。所定の長さ以上のクラックが検出された場合をクラック有と判断し、所定の長さ以上のクラックが検出されなかった場合をクラック無と判断した。実験結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、面取り幅Lが50μm以上400μm以下の場合、エピタキシャル層形成後の炭化珪素単結晶基板1(本発明例1〜6)にクラックが観測されなかった。一方、面取り幅Lが500μmである炭化珪素単結晶基板1(比較例1)および面取り幅Lが30μmである炭化珪素単結晶基板1(比較例2)にクラックが観測された。また、面取り部の表面粗さRが0.07μm以上3μm以下の場合、エピタキシャル層形成後の炭化珪素単結晶基板1にクラックが観測されなかった。さらに、加工変質層の最大厚みTが0.5μm以上10μm以下の場合、エピタキシャル層形成後の炭化珪素単結晶基板1にクラックが観測されなかった。さらに、R×T/Lの値が0.0000875以上0.6以下の場合、面取り幅Lが50μm以上400μm以下の場合、エピタキシャル層形成後の炭化珪素単結晶基板1にクラックが観測されなかった。
【0052】
以上より、面取り幅Lを上述した範囲に調整することにより、クラックの発生が抑制可能な炭化珪素単結晶基板が得られることが確認された。
【0053】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1 炭化珪素単結晶基板、2A 第1の面、2B 第2の面、3 表面、4 最外周端部、5a,5b,5c,5d 研削痕、6 加工変質層、7 本体部、8 中心、9 縁周部、10 研削装置、11 砥石、12 回転軸、20 台金、21 結合剤、22 ダイヤモンド砥粒。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7