特許第5983001号(P5983001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5983001電極用スラリー供給装置、および電極用スラリー供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983001
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】電極用スラリー供給装置、および電極用スラリー供給方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20160818BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   H01M4/139
   H01M4/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-104669(P2012-104669)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-232365(P2013-232365A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 宏之
(72)【発明者】
【氏名】山本 整
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−065816(JP,A)
【文献】 特開2010−192920(JP,A)
【文献】 特開2011−181465(JP,A)
【文献】 特開平10−314645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と電極活物質層用原料とを混合して調製される電極用スラリーを集電体に塗工する塗工部に、前記電極用スラリーを供給する供給装置であって、
シリンダ内にスクリューを回転自在に設けて構成され、電極活物質層用原料を固練りした固練りスラリーと溶媒とを混合して電極用スラリーを連続式に調製するとともに調製した前記電極用スラリーの一部を戻して再混合することが可能であり、前記電極用スラリーに対するせん断速度が1(1/sec)以上で前記電極用スラリーを混合する連続式混合部と、
前記電極用スラリーを貯溜するタンク部と、
前記連続式混合部と前記タンク部とを接続する第1の配管と、
前記タンク部と前記塗工部とを接続する第2の配管と、
前記タンク部と前記連続式混合部とを接続する第3の配管と、
前記第2の配管に配置され前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記塗工部に送り出す第1のポンプ部と、
前記第3の配管に配置され前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記連続式混合部に戻す第2のポンプ部と、
前記連続式混合部、前記第1のポンプ部、および前記第2のポンプ部の作動を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記第2のポンプ部を稼働させて前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記連続式混合部に戻すことによって、前記連続式混合部から前記タンク部を経て前記連続式混合部に再び至る循環系に前記電極用スラリーの一部を循環させ、前記電極用スラリーの一部を前記連続式混合部において再混合させてなる、電極用スラリー供給装置。
【請求項2】
前記第1の配管に配置され前記電極用スラリーに含まれる気泡を連続的に脱泡する脱泡部をさらに有する、請求項1に記載の電極用スラリー供給装置。
【請求項3】
溶媒と電極活物質層用原料とを混合して調製される電極用スラリーを集電体に塗工する塗工部に、前記電極用スラリーを供給する供給方法であって、
電極活物質層用原料を固練りした固練りスラリーと溶媒とをシリンダ内にスクリューを回転自在に設けて構成された連続式混合部においてせん断速度が1(1/sec)以上で混合して電極用スラリーを連続式に調製する混合工程と、
混合工程において調製された前記電極用スラリーをタンク部に貯溜する貯溜工程と、
前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記塗工部に送り出す送り出し工程と、
前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記連続式混合部に戻すことによって、前記連続式混合部から前記タンク部を経て前記連続式混合部に再び至る循環系に前記電極用スラリーの一部を循環させ、前記電極用スラリーの一部を前記連続式混合部において再混合させる循環工程と、を有する電極用スラリー供給方法。
【請求項4】
前記連続式混合部から前記タンク部に送られる前記電極用スラリーに含まれる気泡を連続的に脱泡する脱泡工程をさらに有する、請求項3に記載の電極用スラリー供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用スラリー供給装置、および電極用スラリー供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護運動の高まりを背景として、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、および燃料電池車(FCV)の開発が進められている。これらのモータ駆動用電源としては繰り返し充放電可能な二次電池等のモータ駆動用電気デバイスが適している。特に高容量、高出力が期待できる非水電解質二次電池、なかでもリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0003】
非水電解質二次電池は、集電体表面に形成された正極活物質(例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO等)を含む正極活物質層を有する。また、非水電解質二次電池は、正極用の集電体とは別の集電体表面に形成された負極活物質(例えば、金属リチウム、コークスや天然・人造黒鉛などの炭素質材料や、Sn、Si等の金属やその酸化物材料等)を含む負極活物質層を有する。
【0004】
電極活物質層用原料には、上記の活物質のほか、バインダーや導電助剤などが含まれている。電気デバイスにおける電極を製造するときには、電極活物質層用原料と溶媒とを混合して電極用スラリーを調製し、この電極用スラリーをタンク部に貯溜し、タンク部内の電極用スラリーをポンプによって塗工部に供給する。そして、塗工部に配置したコーターなどによって、集電体に電極用スラリーを塗工する。
【0005】
集電体は、供給ロールから順次繰り出され、巻き取りロールに巻き取られる。集電体の搬送路の途中に塗工部が配置されている。塗工部において、電極用スラリーが、搬送されている集電体に間歇的に塗工される(特許文献1を参照)。特許文献1に記載された技術にあっては、電極用スラリーをポンプからアキュムレーター、および間歇バルブを経てダイへ供給するメイン配管に加えて、間歇バルブから分岐してポンプへ戻すリターン配管を設けている。リターン配管を設けることによって、間欠的に塗工するときの電極用スラリーの脈動を防止し、塗工寸法の安定化を図ろうとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4575103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極用スラリーは、タンク部に貯蔵されている間に、固形分の偏在、バインダー成分のゲル化、あるいは溶剤の揮発などによって、粘度に代表されるようなスラリー特性が変化する。このような変化は、塗工時の寸法(縦、横、厚み寸法)、電池特性(例えば、電気抵抗値)の値、あるいは乾燥速度に大きな影響を及ぼす。このように、タンク部内において電極用スラリーが特性変化を起こし、次工程における塗工品質や乾燥品質にばらつきが生じるという問題がある。
【0008】
また、バッチ式により電極用スラリーを製作するときには、バッチごとに固形分量や粘度などは変動するのが通常であり、バッチごとに塗工条件や乾燥条件の微調整を余儀なくされている。
【0009】
したがって、スラリー特性を一定に維持したまま、大量に連続的に電極用スラリーを供給できることが要請されている。
【0010】
なお、特許文献1に記載された技術によれば、電極用スラリーの脈動を低減することができるものの、電極用スラリーの特性変化によって引き起こされる塗工時の寸法の不安定化を解消することができない。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、粘度などのスラリー特性を安定させて連続的に電極用スラリーを供給でき、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制し得る、電極用スラリー供給装置、および電極用スラリー供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、溶媒と電極活物質層用原料とを混合して調製される電極用スラリーを集電体に塗工する塗工部に、前記電極用スラリーを供給する供給装置である。電極用スラリー供給装置は、電極活物質層用原料を固練りした固練りスラリーと溶媒とを混合して電極用スラリーを連続式に調製するとともに調製した前記電極用スラリーの一部を戻して再混合することが可能な連続式混合部と、前記電極用スラリーを貯溜するタンク部と、を有している。連続式混合部は、シリンダ内にスクリューを回転自在に設けて構成され、前記電極用スラリーに対するせん断速度が1(1/sec)以上で前記電極用スラリーを混合する。電極用スラリー供給装置は、さらに、前記連続式混合部と前記タンク部とを接続する第1の配管と、前記タンク部と前記塗工部とを接続する第2の配管と、前記タンク部と前記連続式混合部とを接続する第3の配管と、前記第2の配管に配置され前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記塗工部に送り出す第1のポンプ部と、前記第3の配管に配置され前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記連続式混合部に戻す第2のポンプ部と、を有している。前記連続式混合部、前記第1のポンプ部、および前記第2のポンプ部の作動を、制御部によって制御する。そして、前記制御部は、前記第2のポンプ部を稼働させて前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記連続式混合部に戻すことによって、前記連続式混合部から前記タンク部を経て前記連続式混合部に再び至る循環系に前記電極用スラリーの一部を循環させ、前記電極用スラリーの一部を前記連続式混合部において再混合させている。
【0013】
また、上記目的を達成する本発明は、溶媒と電極活物質層用原料とを混合して調製される電極用スラリーを集電体に塗工する塗工部に、前記電極用スラリーを供給する供給方法である。電極用スラリー供給方法は、混合工程と、貯溜工程と、送り出し工程と、循環工程と、を有し、混合工程においては、電極活物質層用原料を固練りした固練りスラリーと溶媒とをシリンダ内にスクリューを回転自在に設けて構成された連続式混合部においてせん断速度が1(1/sec)以上で混合して電極用スラリーを連続式に調製する。貯溜工程においては、混合工程において調製された前記電極用スラリーをタンク部に貯溜する。送り出し工程においては、前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記塗工部に送り出す。そして、循環工程においては、前記タンク部内の前記電極用スラリーを前記連続式混合部に戻すことによって、前記連続式混合部から前記タンク部を経て前記連続式混合部に再び至る循環系に前記電極用スラリーの一部を循環させ、前記電極用スラリーの一部を前記連続式混合部において再混合させている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タンク部内の電極用スラリーの一部を連続式混合部に戻して連続的に再混合および循環させることによって、固形分の偏在やバインダー成分のゲル化などを抑制し、かつ、電極用スラリーを連続的に供給することが可能となる。また、固練りスラリーをバッチ式に連続式混合部に供給する場合には、この固練りスラリーは、粘度などのスラリー特性の変化を伴って循環している電極用スラリーに混合されることになるため、バッチの切り替わりに伴って生じる電極用スラリーの特性変化を緩和することができる。これらによって、引き続けて行われる作業の品質、例えば塗工品質や乾燥品質に与える影響を軽減することができる。
【0015】
したがって、粘度などのスラリー特性を安定させて連続的に電極用スラリーを塗工部に供給でき、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制し得る、電極用スラリー供給装置、および電極用スラリー供給方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電極用スラリー供給装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる。
【0018】
図1を参照して、電極用スラリー供給装置10は、溶媒と電極活物質層用原料とを混合して調製される電極用スラリーを集電体に塗工する塗工部20に、電極用スラリーを供給するためのものである。この電極用スラリー供給装置10は、概説すれば、電極活物質層用原料を固練りした固練りスラリーと溶媒とを混合して電極用スラリーを連続式に調製するとともに調製した電極用スラリーの一部を戻して再混合することが可能な連続式混合機30(連続式混合部)と、電極用スラリーを貯溜するタンク部40と、を有している。連続式混合機30とタンク部40とは第1の配管61によって接続し、タンク部40と塗工部20とは第2の配管62によって接続し、タンク部40と連続式混合機30とは第3の配管63によって接続している。第2の配管62には、タンク部40内の電極用スラリーを塗工部20に送り出す供給ポンプ71(第1のポンプ部71)を配置し、第3の配管63には、タンク部40内の電極用スラリーを連続式混合機30に戻すリターンポンプ72(第2のポンプ部72)を配置している。電極用スラリー供給装置10は、連続式混合機30、供給ポンプ71、およびリターンポンプ72の作動を制御する制御部80を有している。そして、制御部80は、リターンポンプ72を稼働させてタンク部40内の電極用スラリーを連続式混合機30に戻すことによって、連続式混合機30からタンク部40を経て連続式混合機30に再び至る循環系64に電極用スラリーの一部を循環させ、電極用スラリーの一部を連続式混合機30において再混合させている。なお、図1中の符号11は、溶媒を連続式混合機30に供給する溶媒供給機を示し、符号12は、固練りスラリーを連続式混合機30に供給する固練りスラリー供給機を示している。制御部80は、溶媒供給機11、および固練りスラリー供給機12の作動も制御する。以下、詳述する。
【0019】
集電体21は、供給ロール22から順次繰り出され、巻き取りロール23に巻き取られる。巻き取りロール23がモータMによって回転駆動される。集電体21の搬送路の途中に塗工部20が配置されている。塗工部20において、電極用スラリー13が、搬送されている集電体21に間歇的に塗工される。集電体21上に塗布された電極用スラリー13は、図示しない温風ヒーターなどによって乾燥される。制御部80は、巻き取りロール23のモータMや、塗工部20に設けられたコーターの作動を制御する。
【0020】
集電体21には、電極箔が用いられる。電極箔は、適宜の材料、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼を用いることができる。具体的には、例えば、正極集電体にはアルミニウムなどの電極箔を用い、負極集電体には銅などの電極箔を用いることができる。
【0021】
電極用スラリーには、正極を形成するために用いる正極スラリーと、負極を形成するために用いる負極スラリーとがある。
【0022】
正極スラリーは、電極活物質層用原料として、例えば、正極活物質、導電助剤、およびバインダーなどを含み、溶媒を添加することによって、所定の粘度にされる。正極活物質は、例えば、マンガン酸リチウムである。導電助剤は、例えば、アセチレンブラックである。バインダーは、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)である。溶媒は、例えば、NMP(ノルマルメチルピロリドン)である。なお、正極活物質22は、マンガン酸リチウムに特に限定されないが、容量および出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物を適用することが好ましい。導電助剤は、例えば、カーボンブラックやグラファイトを利用することも可能である。バインダーおよび溶媒は、PVDFおよびNMPに限定されない。溶媒として水を用いることもできる。
【0023】
負極スラリーは、電極活物質層用原料として、例えば、負極活物質、導電助剤、およびバインダーなどを含み、溶媒を添加することによって、所定の粘度にされる。負極活物質は、例えば、グラファイトである。導電助剤、バインダー、および溶媒は、例えば、アセチレンブラック、PVDF、およびNMPである。なお、負極活物質は、グラファイトに特に限定されず、ハードカーボンや、リチウム−遷移金属複合酸化物を利用することも可能である。導電助剤は、例えば、カーボンブラックやグラファイトを利用することも可能である。バインダーおよび溶媒は、PVDFおよびNMPに限定されない。溶媒として水を用いることもできる。
【0024】
電極用スラリー供給装置10の連続式混合機30は、シリンダ31内にスクリュー32を回転自在に設けて構成されている。スクリュー32がモータMによって回転駆動される。シリンダ31には、電極活物質層用原料を固練りした固練りスラリーを供給する供給部33と、溶媒を注入する注入部34と、第3の配管63を介して戻される電極用スラリーを再び供給するスラリー供給部35とが設けられている。シリンダ31やスクリュー32の寸法や、スラリー供給部35を設ける位置は、戻された電極用スラリーを再混合するのに適した条件に設定されている。制御部80は、スクリュー32のモータMの作動を制御する。
【0025】
固練りスラリーは、固形分100重量部に対して、1〜30重量部の溶剤成分を含むものであり、電極用スラリーは30重量部を超える溶剤成分を含むものである。例えば、固練りスラリーが固形分100重量部に対して22重量部の溶剤成分を含むものである場合、電極用スラリーは固形分100重量部に対して62重量部の溶剤成分を含むものである。
【0026】
スクリュー32を回転するとともに、供給部33から固練りスラリーを供給し、注入部34から溶媒を注入することによって、固練りスラリーと溶媒とを混合し、電極用スラリーを調製する。
【0027】
また、スクリュー32を回転するとともに、スラリー供給部35から電極用スラリーを供給することによって、電極用スラリーを再混合する。このとき、注入部34から溶媒を注入してもよい。
【0028】
また、スクリュー32を回転するとともに、供給部33から固練りスラリーを供給し、スラリー供給部35から電極用スラリーを供給することによって、固練りスラリーおよび循環している電極用スラリーの両者を混合する。このとき、注入部34から溶媒を注入してもよい。注入部34から溶媒をさらに注入することによって、固練りスラリー、溶媒および循環している電極用スラリーの三者を混合し、電極用スラリーを連続的に調製する。
【0029】
連続式混合機30は、電極用スラリーに対するせん断速度が1(1/sec)以上で電極用スラリーを混合するように設定することが好ましい。電極用スラリーに対するせん断速度を1(1/sec)以上にすることによって、電極用スラリーの粘度のばらつきを比較的小さく抑えることができ、スラリー特性を安定させて、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制することが可能となるからである。
【0030】
第1の配管61には、電極用スラリーに含まれる気泡を連続的に脱泡する脱泡機50(脱泡部)を配置することが好ましい。電極用スラリーに含まれる気泡を除去することによって、スラリー特性を安定させて、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制することが可能となるからである。制御部80は、脱泡機50の作動を制御する。
【0031】
次に、作用を説明する。
【0032】
塗工部20への電極用スラリーの供給手順には、混合工程と、脱泡工程と、貯溜工程と、送り出し工程と、循環工程と、を含んでいる。
【0033】
混合工程においては、電極活物質層用原料を固練りした固練りスラリーと溶媒とを連続式混合機30において混合して電極用スラリーを連続式に調製する。具体的には、連続式混合機30のスクリュー32を回転するとともに、供給部33から固練りスラリーを供給し、注入部34から所定量の溶媒を注入して、固練りスラリーと溶媒とを混合して電極用スラリーを連続的に調製する。固練りスラリーは、バッチ式により作製する。調製した電極用スラリーを、第1の配管61を介して、脱泡工程に送る。
【0034】
脱泡工程においては、連続式混合機30からタンク部40に送られる電極用スラリーに含まれる気泡を脱泡機50によって連続的に脱泡する。脱泡機50において溶媒を添加してもよい。脱泡した電極用スラリーを、第1の配管61を介して、貯溜工程に送る。
【0035】
貯溜工程においては、混合工程において所定の粘度に調製され、脱泡工程において気泡を連続的に脱泡した電極用スラリーをタンク部40に貯溜する。貯溜した電極用スラリーを、第2の配管62を介して、送り出し工程に送る。
【0036】
送り出し工程においては、供給ポンプ71によって、タンク部40内の電極用スラリーを塗工部20に送り出す。送り出した電極用スラリーは、第2の配管62を介して、塗工部20に供給される。塗工部20のコーターから、電極用スラリーが、搬送されている集電体21に間歇的に塗工される。
【0037】
循環工程においては、タンク部40内の電極用スラリーを連続式混合機30に戻すことによって、連続式混合機30からタンク部40を経て連続式混合機30に再び至る循環系64に電極用スラリーの一部を循環させ、電極用スラリーの一部を連続式混合機30において再混合する。具体的には、連続式混合機30のスクリュー32を回転するとともに、スラリー供給部35から電極用スラリーを供給することによって、電極用スラリーを再混合する。連続式混合機30は、電極用スラリーに対するせん断速度が1(1/sec)以上となるように電極用スラリーを再混合する。このとき、電極用スラリーは連続式混合機30のせん断力によって、スラリー中の活物質が再解砕され、導電助剤も再分散される。また、揮発相当分の溶剤を連続式混合機30において添加する。これらの操作によって、電極用スラリーの粘度や電気抵抗値を当初の値に戻すことができ、安定した特性の電極用スラリーを連続的に供給することができる。
【0038】
電極用スラリーの供給運転を継続している間に、電極用スラリーから溶媒が揮発し、電極用スラリーの粘度が変化することがある。このような場合には、循環工程において、連続式混合機30の注入部34から溶媒を注入し、循環している電極用スラリーに添加する。溶媒の注入量は、電極用スラリーからの揮発相当分に必要な量である。循環している電極用スラリーに溶媒を補給することによって、塗工部20に供給される電極用スラリーの粘度のばらつきを比較的小さく抑えることができ、スラリー特性を安定させて、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制することができる。
【0039】
消費によって電極用スラリーの残量が少なくなった場合には、連続式混合機30に、固練りスラリーを補給するとともに電極用スラリーの一部を戻して両者を混合する。具体的には、連続式混合機30のスクリュー32を回転するとともに、供給部33から固練りスラリーの新バッチを供給し、スラリー供給部35から電極用スラリーを供給することによって、固練りスラリーおよび先に循環している電極用スラリーの両者を混合し、電極用スラリーを連続的に調製する。溶媒の添加が必要なときには、注入部34から溶媒をさらに注入して希釈し、固練りスラリー、溶媒および循環している電極用スラリーの三者を混合し、電極用スラリーを連続的に調製する。このように、固練りスラリーの新バッチと、先に循環している電極用スラリーとを連続式混合機30において溶剤を添加し混合することによって、電極用スラリーの粘度や電気抵抗値の変動を緩和することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、タンク部40内の電極用スラリーの一部を連続式混合機30に戻して連続的に再混合および循環させることによって、固形分の偏在やバインダー成分のゲル化などを抑制し、かつ、電極用スラリーを連続的に供給することが可能となる。また、固練りスラリーをバッチ式に連続式混合機30に供給する場合には、この固練りスラリーは、粘度などのスラリー特性の変化を伴って循環している電極用スラリーに混合されることになるため、バッチの切り替わりに伴って生じる電極用スラリーの特性変化を緩和することができる。これらによって、引き続けて行われる作業の品質、すなわち塗工品質や乾燥品質に与える影響を軽減することができる。
【0041】
したがって、粘度などのスラリー特性を安定させて連続的に電極用スラリーを塗工部20に供給でき、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制することが可能となる。塗工寸法の安定化や乾燥速度の安定化を図ることができる結果、品質ばらつきの少ない電池を提供することが可能となる。
【0042】
また、電極用スラリー供給装置10はさらに、第1の配管61に配置され電極用スラリーに含まれる気泡を連続的に脱泡する脱泡機50を有するので、気泡を除去することによってスラリー特性を安定させて、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制することが可能となる。
【0043】
また、連続式混合機30は、電極用スラリーに対するせん断速度が1(1/sec)以上で電極用スラリーを混合するので、電極用スラリーの粘度のばらつきを比較的小さく抑えることができ、スラリー特性を安定させて、次工程における塗工品質や乾燥品質などにばらつきが生じることを抑制することが可能となる。
【0044】
また、連続式混合機30に、固練りスラリーを供給するとともに電極用スラリーの一部を戻して両者を混合するので、溶媒をさらに添加するときに、固練りスラリーと溶剤とがなじみやすくなり、混合時間を短縮することができる。
【0045】
(実施例)
次に、本発明の効果を確認した試験について説明する。
【0046】
図1に示される電極用スラリー供給装置10において、連続式混合機30からタンク部40を経て連続式混合機30に再び至る循環系64に電極用スラリーを循環させた。
【0047】
実施例1:
連続式混合機30を、電極用スラリーに対するせん断速度が10(1/sec)となるように設定した。連続式混合機30を運転して電極用スラリーを再混合し、リターンポンプ72を運転して電極用スラリーの循環を1時間行った。循環を終了する前にタンク部40内の上方位置および下方位置のそれぞれから電極用スラリーを採取し、それぞれの粘度を測定した。
【0048】
実施例2:
連続式混合機30を、電極用スラリーに対するせん断速度が1(1/sec)となるように設定した。電極用スラリーの循環、および電極用スラリーの粘度測定は実施例1と同じとした。
【0049】
対比例1:
連続式混合機30を、電極用スラリーに対するせん断速度が0.1(1/sec)となるように設定した。電極用スラリーの循環、および電極用スラリーの粘度測定は実施例1と同じとした。
【0050】
対比例2:
連続式混合機30の運転、およびリターンポンプ72の運転を停止し、電極用スラリーの循環を停止した。3時間経過後、タンク部40内の上方位置および下方位置のそれぞれから電極用スラリーを採取し、それぞれの粘度を測定した。
【0051】
測定結果を下記の表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、せん断速度を0.1(1/sec)にして電極用スラリーを循環させた対比例1、および電極用スラリーの循環を停止して再混合を実施しなかった対比例2の場合には、電極用スラリーの粘度のばらつき範囲(センター値:1万mPa・S)がプラスマイナス10%を超えた。
【0054】
一方、せん断速度を10(1/sec)にして電極用スラリーを循環させた実施例1、およびせん断速度を1(1/sec)にして電極用スラリーを循環させた実施例2の場合には、電極用スラリーの粘度のばらつき範囲(センター値:1万mPa・S)を、対比例1、2よりも狭いプラスマイナス10%以内に抑えることができた。
【0055】
これらにより、電極用スラリーを循環させ、せん断速度を1(1/sec)以上にして電極用スラリーを再混合することによって、粘度のばらつき範囲が狭い電極用スラリーを得られることがわかった。そして、このような粘度のばらつき範囲が狭い電極用スラリーを使って塗工することによって、塗工寸法を安定させることができ、生産効率を上げるとともに電池性能の向上を実現できることがわかった。
【符号の説明】
【0056】
10 電極用スラリー供給装置、
11 溶媒供給機、
12 固練りスラリー供給機、
13 集電体上に塗布された電極用スラリー、
20 塗工部、
21 集電体、
30 連続式混合機(連続式混合部)、
31 シリンダ、
32 スクリュー、
33 固練りスラリーを供給する供給部、
34 溶媒を注入する注入部、
35 電極用スラリーを供給するスラリー供給部、
40 タンク部、
50 脱泡機(脱泡部)、
61 第1の配管、
62 第2の配管、
63 第3の配管、
64 循環系、
71 供給ポンプ(第1のポンプ部)、
72 リターンポンプ(第2のポンプ部)、
80 制御部。
図1