(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記締結指令出力部は、前記締結完了時間中における前記操舵操作子の操舵角速度が高いほど、前記端当て角を越えた前記操舵操作子の操舵角が小さい時点で前記クラッチ締結指令を前記バックアップクラッチへ出力することを特徴とする請求項1に記載した車両の操舵制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、本実施形態と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態の車両の操舵制御装置(以降の説明では、「操舵制御装置」と記載する場合がある)を備えた車両の概略構成を示す図である。
本実施形態の操舵制御装置1を備えた車両は、SBWシステムを適用した車両である。
ここで、SBWシステムでは、車両の運転者が操舵操作する操舵操作子(ステアリングホイール)の操作に応じて転舵モータを駆動制御し、転舵輪を転舵する制御を行うことにより、車両の進行方向を変化させる。転舵モータの駆動制御は、操舵操作子と転舵輪との間に介装するバックアップクラッチを、通常状態である開放状態に切り換えて、操舵操作子と転舵輪との間のトルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う。
【0010】
そして、例えば、断線等、SBWシステムに異常が発生した場合には、開放状態のバックアップクラッチを締結状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に接続することにより、運転者が操舵操作子に加える力を用いて、転舵輪の転舵を継続する。
図1中に示すように、本実施形態の操舵制御装置1は、転舵モータ2と、反力モータ4と、バックアップクラッチ6を備える。これに加え、操舵制御装置1は、操舵トルク検出部8と、車速検出部10と、操舵角検出部12と、転舵角検出部14と、コントローラ16を備える。
【0011】
転舵モータ2は、後述する転舵モータ制御部42が出力する転舵モータ指令電流に応じて駆動するモータであり、転舵輪Wを転舵させるための転舵トルクを出力する。転舵モータ2が出力した転舵トルクは、転舵モータ2の駆動により回転する転舵モータ出力軸18を介して、ラックギア20に伝達される。
ラックギア20は、転舵モータ出力軸18の回転に応じて車幅方向へ変位するラック軸22を有する。ラック軸22の両端は、タイロッド24とナックルアーム26を介して、それぞれ、転舵輪Wに連結する。
【0012】
タイロッド24は、ラック軸22の端部とナックルアーム26を接続する棒状の部材である。
ナックルアーム26は、転舵輪Wを保持する部品であり、ハブ(図示せず)を介して転舵輪Wを取り付ける。また、ナックルアーム26は、サスペンションアーム(図示せず)及びショックアブソーバ(図示せず)を用いて、サブフレーム等の車体側部材(図示せず)に取り付ける。
【0013】
転舵輪Wは、車両の前輪(左右前輪)であり、ラック軸22の車幅方向への変位に伴って転舵し、車両の進行方向を変化させる。なお、本実施形態では、転舵輪Wを、左右前輪で形成した場合を説明する。これに伴い、
図1中では、左前輪で形成した転舵輪Wを、転舵輪WFLと示し、右前輪で形成した転舵輪Wを、転舵輪WFRと示す。
反力モータ4は、操舵操作子28とバックアップクラッチ6との間に配置する。
【0014】
また、反力モータ4は、後述する反力モータ制御部44が出力する反力モータ指令電流に応じて駆動するモータであり、トルク伝達経路の一部を形成するステアリングシャフト30へ、操舵反力を出力可能である。これにより、反力モータ4は、ステアリングシャフト30を介して、操舵操作子28へ操舵反力を出力する。
ここで、反力モータ4が操舵操作子28へ出力する操舵反力は、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えて、操舵操作子28と転舵輪Wとの間のトルク伝達経路を機械的に分離させている状態で、操舵操作子28へ出力可能な反力である。
【0015】
すなわち、反力モータ4が操舵操作子28へ出力する操舵反力は、運転者が操舵操作子28を操舵する操作方向とは反対方向へ作用する反力である。
また、操舵反力の演算は、転舵輪Wに作用しているタイヤ軸力や操舵操作子28の操舵状態に応じて行なう。これにより、操舵操作子28を操舵する運転者へ、適切な操舵反力を伝達する。
バックアップクラッチ6は、運転者が操作する操舵操作子28と転舵輪Wとの間に介装し、後述するクラッチ制御部40が出力するクラッチ指令電流に応じて、開放状態または締結状態に切り換わる。なお、バックアップクラッチ6は、通常状態では開放状態である。
【0016】
ここで、バックアップクラッチ6の状態を開放状態に切り換えると、ステアリングシャフト30の一端側とピニオン軸32の一端側を離間させる。これにより、操舵操作子28と転舵輪Wとの間のトルク伝達経路を機械的に分離させて、操舵操作子28の操舵操作が転舵輪Wへ伝達されない状態とする。なお、ステアリングシャフト30は、一端側をバックアップクラッチ6の内部で操舵側クラッチ板34に連結し、他端側を操舵操作子28に連結して、操舵操作子28と共に回転する。また、ピニオン軸32は、一端側をバックアップクラッチ6の内部で転舵側クラッチ板36に連結し、他端側に設けたピニオン軸側歯車38をラックギア20に噛合させる。
【0017】
一方、バックアップクラッチ6の状態を締結状態に切り換えると、ステアリングシャフト30の一端側とピニオン軸32の一端側を連結する。これにより、操舵操作子28と転舵輪Wとの間のトルク伝達経路を機械的に結合させて、操舵操作子28の操舵操作が転舵輪Wへ伝達される状態とする。
操舵トルク検出部8は、例えば、操舵操作子28を回転可能に支持するステアリングコラム(図示せず)に設け、運転者が操舵操作子28を操作することでステアリングシャフト30に加わる操舵トルクを検出する。そして、操舵トルク検出部8は、検出した操舵トルクを含む情報信号を、コントローラ16へ出力する。なお、以降の説明では、操舵トルクを、「トルクセンサ値Vts」と記載する場合がある。
【0018】
ここで、運転者が操舵操作子28を操作することでステアリングシャフト30に加わる操舵トルクは、バックアップクラッチ6を締結状態に切り換えた状態で発生する。
車速検出部10は、公知の車速センサであり、車両の車速を検出する。そして、検出した車速を含む情報信号を、コントローラ16へ出力する。
操舵角検出部12は、例えば、レゾルバ等を用いて形成し、操舵トルク検出部8と同様、ステアリングコラムに設ける。
【0019】
また、操舵角検出部12は、操舵操作子28の現在の回転角度(操舵操作量)である現在操舵角を検出する。そして、操舵角検出部12は、検出した操舵操作子28の現在操舵角を含む情報信号を、コントローラ16へ出力する。なお、以降の説明では、現在操舵角を、「現在操舵角θs」と記載する場合がある。
転舵角検出部14は、例えば、エンコーダ等を用いて形成し、転舵モータ2に設ける。
【0020】
また、転舵角検出部14は、転舵モータ2の回転角度(転舵角度)を検出する。そして、転舵角検出部14は、検出した転舵角度(以降の説明では、「転舵モータ回転角」と記載する場合がある)を含む情報信号を、コントローラ16へ出力する。なお、以降の説明では、転舵モータ回転角を、「実転舵角θt」と記載する場合がある。
コントローラ16は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を備えて形成し、クラッチ制御部40と、転舵モータ制御部42と、反力モータ制御部44を備える。
【0021】
クラッチ制御部40は、転舵モータ2の損傷抑制等を目的として、例えば、転舵モータ2の温度と、予め設定したクラッチ締結温度に基づき、クラッチ電流指令を演算する。これは、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えた状態で、転舵モータ2の温度とクラッチ締結温度とを比較し、転舵モータ2の温度がクラッチ締結温度を越えているか否かを判定する。
【0022】
そして、転舵モータ2の温度がクラッチ締結温度を越えていると判定すると、開放状態(通常状態)のバックアップクラッチ6を締結状態に切り換える指令信号(クラッチ締結指令)を演算し、この演算した指令信号を、クラッチ電流指令とする。
なお、クラッチ制御部40は、例えば、転舵モータ2の温度に応じて、締結状態のバックアップクラッチ6を開放状態に切り換える指令信号(クラッチ開放指令)の演算も行う。
【0023】
ここで、クラッチ締結温度は、転舵モータ2を正常(通常状態、通常制御)に使用することが困難な使用限界温度よりも、予め設定した温度差分低い温度であり、予め設定して、クラッチ制御部40に記憶させておく。なお、上記の使用限界温度は、例えば、転舵モータ2に予め設定されている定格や、「JIS C 4003」等を用いて設定する。
そして、クラッチ制御部40は、生成したクラッチ指令電流を含む情報信号を、バックアップクラッチ6へ出力する。これにより、クラッチ制御部40は、バックアップクラッチ6の状態(開放状態または締結状態)を制御する。
【0024】
転舵モータ制御部42は、入力を受けた各種情報信号に基づき、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えている状態で、目標転舵角に応じた転舵トルクを転舵モータ2から出力させて、転舵モータ2を駆動制御する。なお、転舵モータ制御部42の詳細な構成については、後述する。
ここで、目標転舵角は、操舵操作子28の操作に対する転舵輪Wの転舵角である。
【0025】
反力モータ制御部44は、転舵モータ制御部42及び車速検出部10と、通信ラインを介して、情報信号の入出力を行う。
また、反力モータ制御部44は、入力を受けた各種情報信号に基づき、反力モータ4を駆動制御する。なお、反力モータ制御部44の詳細な構成については、後述する。
【0026】
(転舵モータ制御部42の詳細な構成)
以下、
図1を参照しつつ、
図2及び
図3を用いて、転舵モータ制御部42の詳細な構成を、
図2中に示す他の構成との関連を含めて説明する。
図2は、転舵モータ制御部42の詳細な構成を説明するブロック図である。
図2中に示すように、転舵モータ制御部42は、SBW転舵指令角演算部46と、転舵指令角速度算出部48と、端当て時オフセット角演算部50と、最終転舵指令角演算部52と、転舵位置サーボ制御部54を備える。
【0027】
SBW転舵指令角演算部46は、車速検出部10が出力した情報信号と、操舵角検出部12が出力した情報信号の入力を受ける。そして、車速検出部10が出力した情報信号が含む車速と、操舵角検出部12が出力した情報信号が含む現在操舵角θsに基づき、SBW転舵指令角を演算する。
【0028】
ここで、SBW転舵指令角は、運転者による操舵操作子28の操作に応じた目標転舵角を算出し、この算出した目標転舵角に応じて転舵モータ2を駆動制御するための電流指令値である。また、SBW転舵指令角は、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に分離した状態における、操舵操作子28の操作に応じた目標転舵角に対応する。なお、以降の説明では、SBW転舵指令角を、「SBW転舵指令角θpure」、または、「θpure」と記載する場合がある。
【0029】
また、SBW転舵指令角演算部46は、演算したSBW転舵指令角θpureを含む情報信号を、転舵指令角速度算出部48と、端当て時オフセット角演算部50と、最終転舵指令角演算部52へ出力する。
転舵指令角速度算出部48は、SBW転舵指令角演算部46が出力した情報信号の入力を受ける。そして、SBW転舵指令角演算部46が出力した情報信号が含むSBW転舵指令角θpureを微分して、転舵指令角速度を演算する。なお、以降の説明では、転舵指令角速度を、「転舵指令角速度θ’pure」、または、「θ’pure」と記載する場合がある。
【0030】
また、転舵指令角速度算出部48は、演算した転舵指令角速度θ’pureを含む情報信号を、端当て時オフセット角演算部50へ出力する。
端当て時オフセット角演算部50は、SBW転舵指令角演算部46が出力した情報信号と、転舵指令角速度算出部48が出力した情報信号の入力を受ける。そして、SBW転舵指令角演算部46が出力した情報信号が含むSBW転舵指令角θpureと、転舵指令角速度算出部48が出力した情報信号が含む転舵指令角速度θ’pureに基づき、端当て時オフセット角を演算する。なお、以降の説明では、端当て時オフセット角を、「端当て時オフセット角θoffset」、または、「θoffset」と記載する場合がある。
【0031】
ここで、演算した端当て時オフセット角θoffsetは、操舵角検出部12が出力した情報信号が含む現在操舵角θsのうち、右回り(時計回り、以降も同様)または左回り(反時計回り、以降も同様)で端当て角を越えている分の操舵角である。
なお、以降の説明では、端当て角を、「端当て角θmax」、または、「θmax」と記載する場合がある。
【0032】
また、端当て角は、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えてトルク伝達経路を機械的に分離した状態における操舵操作子28の操舵操作時に、操舵反力が立ち上がる角度である。
また、端当て角としては、操舵操作子28を右回りに回転させた状態で操舵反力が立ち上がる角度である右端当て角と、操舵操作子28を左回りに回転させた状態で操舵反力が立ち上がる角度である左端当て角を設定する。
【0033】
なお、本実施形態では、一例として、右端当て角の中立位置からの角度(操舵角の変化量)と、左端当て角の中立位置からの角度(操舵角の変化量)とを、同一とした場合について説明する。また、以降の説明では、右端当て角を正(+)側とし、左端当て角を負(−)側とする。
また、端当て時オフセット角演算部50は、演算した端当て時オフセット角θoffsetを含む情報信号を、最終転舵指令角演算部52へ出力する。
【0034】
最終転舵指令角演算部52は、SBW転舵指令角演算部46が出力した情報信号と、端当て時オフセット角演算部50が出力した情報信号の入力を受ける。そして、SBW転舵指令角演算部46が出力した情報信号が含むSBW転舵指令角θpureと、端当て時オフセット角演算部50が出力した情報信号が含む端当て時オフセット角θoffsetに基づき、最終転舵指令角を演算する。なお、以降の説明では、最終転舵指令角を、「最終転舵指令角θcommand」、または、「θcommand」と記載する場合がある。
【0035】
ここで、
図1及び
図2を参照しつつ、
図3を用いて、端当て時オフセット角演算部50と最終転舵指令角演算部52が行なう処理について説明する。
図3は、端当て時オフセット角演算部50と最終転舵指令角演算部52が行なう処理を示すフローチャートである。なお、
図3に示すフローチャートのルーチンは、演算周期(例えば、5[msec])毎に、繰り返し行なう。
【0036】
図3に示すフローチャートを開始(図中に示す「START」)すると、まず、ステップS101において、既演算オフセット角とSBW転舵指令角θpureに基づき、以下の式(1)を用いて、判定用転舵指令角θtmpを演算する。
ここで、既演算オフセット角は、前回の処理で演算した端当て時オフセット角である。なお、以降の説明では、既演算オフセット角を、「既演算オフセット角θ’offset」、または、「θ’offset」と記載する場合がある。
θtmp=θpure−θ’offset … (1)
【0037】
ステップS101において、判定用転舵指令角θtmpを演算すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS102へ移行する。
ステップS102では、ステップS101で演算した判定用転舵指令角θtmpが、右端当て角を越えているか否かを判定する。これに加え、ステップS102では、転舵指令角速度θ’pureに基づき、操舵操作子28が右回りに操舵(切り増し)中であるか否かを判定する。
【0038】
ステップS102において、判定用転舵指令角θtmpが右端当て角を越え、且つ操舵操作子28が右回りに切り増し中である(図中に示す「Y」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS103へ移行する。
一方、ステップS102において、判定用転舵指令角θtmpが右端当て角以下である(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS104へ移行する。同様に、ステップS102において、操舵操作子28が右回りに切り増し中ではない(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS104へ移行する。
【0039】
ステップS103では、端当て時オフセット角θoffsetを、以下の式(2)として演算する。
θoffset=θpure−θmax … (2)
ステップS103において、端当て時オフセット角θoffsetを演算すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS110へ移行する。
ステップS104では、ステップS101で演算した判定用転舵指令角θtmpが、左端当て角を越えているか否かを判定する。これに加え、ステップS104では、転舵指令角速度θ’pureに基づき、操舵操作子28が左回りに操舵(切り増し)中であるか否かを判定する。
【0040】
ステップS104において、判定用転舵指令角θtmpが左端当て角を越え、且つ操舵操作子28が左回りに切り増し中である(図中に示す「Y」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS105へ移行する。
一方、ステップS104において、判定用転舵指令角θtmpが左端当て角以下(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS106へ移行する。同様に、ステップS104において、操舵操作子28が左回りに切り増し中ではない(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS106へ移行する。
【0041】
ステップS105では、端当て時オフセット角θoffsetを、以下の式(3)として演算する。
θoffset=θpure+θmax … (3)
ステップS105において、端当て時オフセット角θoffsetを演算すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS110へ移行する。
ステップS106では、ステップS102の処理において、判定用転舵指令角θtmpが右端当て角を越えていたか否かを判定する。これに加え、ステップS106では、操舵操作子28が左回りに操舵中であるか否かを判定する。なお、操舵操作子28が左回りに操舵中であるか否かの判定は、例えば、操舵角検出部12が出力した情報信号が含む現在操舵角θsを参照して行なう。
【0042】
ステップS106において、ステップS102の処理において判定用転舵指令角θtmpが右端当て角を越え、且つ操舵操作子28が左回りに操舵中である(図中に示す「Y」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS107へ移行する。
一方、ステップS106において、ステップS102の処理において判定用転舵指令角θtmpが右端当て角を越えていない(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS108へ移行する。同様に、ステップS106において、操舵操作子28が左回りに操舵中ではない(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS108へ移行する。
【0043】
ステップS107では、端当て時オフセット角θoffsetを、以下の式(4)として演算する。
θoffset
=θ’offset−f(|θ’pure|,|θ’offset|) … (4)
ここで、演算用係数fは、操舵制御装置1を備えた車両の構成(例えば、操舵操作子28及びステアリングシャフト30の剛性)に応じて設定する。
ステップS107において、端当て時オフセット角θoffsetを演算すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS110へ移行する。
【0044】
ステップS108では、ステップS104の処理において、判定用転舵指令角θtmpが左端当て角を越えていたか否かを判定する。これに加え、ステップS108では、操舵操作子28が右回りに操舵中であるか否かを判定する。なお、操舵操作子28が右回りに操舵中であるか否かの判定は、例えば、操舵角検出部12が出力した情報信号が含む現在操舵角θsを参照して行なう。
【0045】
ステップS108において、ステップS104の処理において判定用転舵指令角θtmpが左端当て角を越え、且つ操舵操作子28が右回りに操舵中である(図中に示す「Y」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS109へ移行する。
一方、ステップS108において、ステップS104の処理において判定用転舵指令角θtmpが左端当て角を越えていない(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS110へ移行する。同様に、ステップS108において、操舵操作子28が右回りに操舵中ではない(図中に示す「N」)と判定すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS110へ移行する。
【0046】
ここで、上記演算部50、52が行なう処理を、ステップS108からステップS110へ移行する場合は、端当て時オフセット角θoffsetを、既演算オフセット角θ’offsetとして演算する。
ステップS109では、端当て時オフセット角θoffsetを、以下の式(5)として演算する。
θoffset
=θ’offset+f(|θ’pure|,|θ’offset|) … (5)
ステップS109において、端当て時オフセット角θoffsetを演算すると、上記演算部50、52が行なう処理は、ステップS110へ移行する。
【0047】
ステップS110では、最終転舵指令角θcommandを、以下の式(6)を用いて演算する。
θcommand=θpure−θoffset … (6)
ここで、ステップS103からステップS110へ移行した場合は、上記の式(6)で用いるθoffsetとして、上記の式(2)として演算したθoffsetを用いる。また、上記の式(2)として演算した端当て時オフセット角θoffsetは、SBW転舵指令角θpureから端当て角θmaxを減算した角度である。
【0048】
したがって、ステップS103からステップS110へ移行した場合、上記の式(6)で演算する最終転舵指令角θcommandは、右端当て角(+θmax)となる。
また、ステップS105からステップS110へ移行した場合は、上記の式(6)で用いるθoffsetとして、上記の式(3)として演算したθoffsetを用いる。また、上記の式(3)として演算した端当て時オフセット角θoffsetは、SBW転舵指令角θpureに端当て角θmaxを加算した角度である。
【0049】
したがって、ステップS105からステップS110へ移行した場合、上記の式(6)で演算する最終転舵指令角θcommandは、左端当て角(−θmax)となる。
また、ステップS107からステップS110へ移行した場合は、上記の式(6)で用いるθoffsetとして、上記の式(4)として演算したθoffsetを用いる。また、上記の式(4)として演算した端当て時オフセット角θoffsetは、θ‘pureの絶対値とθ‘offsetの絶対値に演算用係数fを乗算した値を、θ‘offsetから減算した角度である。したがって、ステップS107で演算する端当て時オフセット角θoffsetは、転舵指令角速度θ‘pureが高いほどSBW転舵指令角θpureに近似した値となる。
【0050】
したがって、ステップS107からステップS110へ移行した場合、上記の式(6)で演算する最終転舵指令角θcommandは、転舵指令角速度θ‘pureが高いほど、右端当て角側から操舵操作子28の中立位置へ近づく角度となる。
また、ステップS109からステップS110へ移行した場合は、上記の式(6)で用いるθoffsetとして、上記の式(5)として演算したθoffsetを用いる。また、上記の式(5)として演算した端当て時オフセット角θoffsetは、θ‘pureの絶対値とθ‘offsetの絶対値に演算用係数fを乗算した値を、θ‘offsetに加算した角度である。したがって、ステップS109で演算する端当て時オフセット角θoffsetは、転舵指令角速度θ‘pureが高いほどSBW転舵指令角θpureに近似した値となる。
【0051】
したがって、ステップS109からステップS110へ移行した場合、上記の式(6)で演算する最終転舵指令角θcommandは、転舵指令角速度θ‘pureが高いほど、左端当て角側から操舵操作子28の中立位置へ近づく角度となる。
一方、ステップS108からステップS110へ移行した場合は、上記の式(6)で用いるθoffsetを、既演算オフセット角θ’offsetに設定する。
【0052】
ステップS110において、最終転舵指令角θcommandを演算すると、端当て時オフセット角演算部50と最終転舵指令角演算部52が行なう処理は終了(図中に示す「END」)する。
また、上述したように、端当て時オフセット角演算部50は、SBW転舵指令角θpureと転舵指令角速度θ’pureに基づき、端当て時オフセット角θoffsetを演算する。これにより、端当て時オフセット角演算部50は、最終転舵指令角θcommandの最大値を、SBW転舵指令角θpureに制限する。
【0053】
転舵位置サーボ制御部54は、最終転舵指令角演算部52が出力した情報信号の入力を受ける。そして、最終転舵指令角演算部52が出力した情報信号が含む最終転舵指令角θcommandに基づき、転舵指令電流を演算する。
ここで、転舵位置サーボ制御部54が演算する転舵指令電流は、最終転舵指令角θcommandに応じたトルクを転舵輪Wへ出力するための転舵モータ指令電流に応じた指令値である。
【0054】
また、転舵位置サーボ制御部54は、演算した転舵指令電流に応じた転舵モータ指令電流が転舵モータ2へ入力されるように、転舵モータ2に供給する電圧を変化させる。
また、転舵位置サーボ制御部54は、転舵角検出部14が出力した情報信号の入力を受ける。これに加え、転舵位置サーボ制御部54は、転舵モータ2へ最終的に出力された転舵モータ指令電流を検出する。そして、転舵角検出部14が出力した情報信号と、転舵モータ2へ最終的に出力された転舵モータ指令電流を、転舵指令電流の演算に用いる。これにより、転舵位置サーボ制御部54は、転舵指令電流の演算に関するフィードバック制御を行なう。
【0055】
以上説明したように、転舵モータ制御部42は、操舵操作子28の操舵角が中立位置から増加して、中立位置を基準として設定した端当て角(右端当て角、左端当て角)を越えると、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を中断する。これに加え、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を再開する。
【0056】
また、転舵モータ制御部42は、操舵操作子28の操舵角に対する転舵輪Wの転舵角の変化度合いを、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角(右端当て角、左端当て角)未満である状態よりも小さくする制御を行なう。この制御は、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点から、端当て時オフセット角演算部50が演算する端当て時オフセット角θoffsetが「0」となるまでの状態で行なう。
【0057】
(反力モータ制御部44の詳細な構成)
以下、
図1から
図3を参照しつつ、
図4を用いて、反力モータ制御部44の構成を、
図4中に示す他の構成との関連を含めて説明する。
図4は、反力モータ制御部44の詳細な構成を説明するブロック図である。
図4中に示すように、反力モータ制御部44は、SBW反力指令電流演算部56と、反力指令電流サーボ制御部58を備える。
SBW反力指令電流演算部56は、車速検出部10が出力した情報信号と、操舵角検出部12が出力した情報信号と、転舵角検出部14が出力した情報信号の入力を受ける。そして、車速検出部10が出力した情報信号が含む車速と、操舵角検出部12が出力した情報信号が含む現在操舵角θsに基づき、反力指令電流を演算する。
【0058】
ここで、反力指令電流は、反力モータ4を駆動制御するための電流指令値である。
また、反力指令電流は、例えば、実転舵角θtに、予め設定した反力モータ用ゲインを乗算して演算する。ここで、反力モータ用ゲインは、反力モータゲイン用マップを用いて、予め設定する。なお、反力モータゲイン用マップは、車速及び操舵操作子28の操舵角に依存するマップであり、予め形成して、SBW反力指令電流演算部56に格納する。
【0059】
また、SBW反力指令電流演算部56は、転舵角検出部14から入力を受けた情報信号が含む実転舵角θtが、端当て角に達している場合は、ステアリングシャフト30へ、操舵反力が急激に付与されるように、反力指令電流を演算する。
そして、SBW反力指令電流演算部56は、演算した反力指令電流を含む情報信号を、反力指令電流サーボ制御部58へ出力する。
【0060】
反力指令電流サーボ制御部58は、SBW反力指令電流演算部56が出力した情報信号の入力を受ける。そして、SBW反力指令電流演算部56が出力した情報信号が含む反力指令電流に応じた反力モータ指令電流が反力モータ4へ入力されるように、反力モータ4に供給する電圧を変化させる。
また、反力指令電流サーボ制御部58は、反力モータ4へ最終的に出力された反力モータ指令電流を検出する。そして、反力モータ4へ最終的に出力された反力モータ指令電流を、反力モータ4に供給する電圧の制御に用いる。これにより、反力指令電流サーボ制御部58反力モータ4に供給する電圧に関するフィードバック制御を行なう。
【0061】
(動作)
次に、
図1から
図4を参照しつつ、
図5及び
図6を用いて、本実施形態の操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を説明する。
図5は、従来の構成を有する操舵制御装置を用いて行なう動作の一例を示すタイムチャートである。また、
図6は、本実施形態の操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を示すタイムチャートである。
まず、
図5を用いて、従来の構成を有する操舵制御装置を用いて行なう動作の一例について説明する。
【0062】
図5中に示すタイムチャートは、車両の走行時に、運転者が、まず、操舵操作子28を、一定の角速度で転舵指令角が変化するように注意しながら、操舵角が右端当て角を越えるまで右回りに操舵操作する動作を示す。その後、操舵角が右端当て角を越えるまで右回りに操舵操作した操舵操作子28を、操舵角が中立位置を通過して左端当て角を越えるまで左回りに操舵操作し、さらに、中立位置まで操舵角を戻すまでの動作を示す。なお、
図5中では、SBW転舵指令角θpureを破線で示し、最終転舵指令角θcommandを実線で示す。
【0063】
図5中に示すように、最終転舵指令角θcommandは、操舵角が右端当て角を越えている範囲では、右端当て角(+θmax)となる。したがって、操舵角が右端当て角を越えている範囲では、転舵輪Wの転舵角は、右端当て角(+θmax)に応じた一定の角度となる。同様に、最終転舵指令角θcommandは、操舵角が左端当て角を越えている範囲では、左端当て角(−θmax)となる。したがって、操舵角が左端当て角を越えている範囲では、転舵輪Wの転舵角は、左端当て角(−θmax)に応じた一定の角度となる。
【0064】
このため、操舵角が中立位置側から増加して右端当て角を越えた時点(図中に「t1」で示す時点)から、右端当て角を越えた操舵角が右端当て角未満となった時点(図中に「t2」で示す時点)の間では、転舵輪Wの転舵角は右端当て角から変化しない。すなわち、時点t1から時点t2の間では、最終転舵指令角θcommandがSBW転舵指令角θpureに応じた角度とならない。このため、時点t1から時点t2の間では、操舵操作子28を操舵操作しても転舵輪Wの転舵は行なわれず、操舵操作子28は空転(図中に示す「ハンドル空走」)することとなる。
【0065】
そして、時点t2、すなわち、右端当て角を越えていた操舵角が右端当て角未満となった瞬間に、最終転舵指令角θcommandがSBW転舵指令角θpureに応じた角度となり、転舵輪Wの転舵角が急激に変化する(図中に示す「急激な転舵開始」)。
同様に、操舵角が中立位置側から増加して左端当て角を越えた時点(図中に「t3」で示す時点)から、左端当て角を越えた操舵角が左端当て角未満となった時点(図中に「t4」で示す時点)の間では、転舵輪Wの転舵角は左端当て角から変化しない。すなわち、時点t3から時点t4の間では、時点t1から時点t2の間と同様、操舵操作子28を操舵操作しても転舵輪Wの転舵は行なわれず、操舵操作子28は空転(図中に示す「ハンドル空走」)することとなる。
【0066】
そして、時点t4、すなわち、左端当て角を越えていた操舵角が左端当て角未満となった瞬間に、時点t2と同様、転舵輪Wの転舵角が急激に変化する(図中に示す「急激な転舵開始」)。
以上により、従来の構成を有する操舵制御装置を備えた車両では、端当て角を越えていた操舵角が端当て角未満となった瞬間に、転舵輪Wの急激な転舵が発生する。このため、従来の構成を有する操舵制御装置を備えた車両では、操舵操作子28の操舵操作において、運転者が強い違和感を受ける可能性がある。
【0067】
次に、
図6を用いて、本実施形態の操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を説明する。
図6中に示すタイムチャートは、
図5中と同様の動作を示す。なお、
図6中では、
図5中と同様、SBW転舵指令角θpureを破線で示し、最終転舵指令角θcommandを実線で示す。また、
図6中では、端当て時オフセット角θoffsetを一点鎖線で示す。
本実施形態では、転舵モータ制御部42が、操舵操作子28の操舵角が中立位置から増加して端当て角を越えると、転舵モータ2の駆動制御を中断する。
【0068】
したがって、
図6中に示すように、操舵角が中立位置側から増加して右端当て角を越えた時点から、右回りに操舵中の操舵操作子28を中立位置側へ向けて右回りに操舵する(切り戻す)時点までの範囲では、転舵輪Wの転舵角は右端当て角から変化しない。なお、
図6中では、操舵角が中立位置側から増加して右端当て角を越えた時点を「t5」で示し、右回りに操舵中の操舵操作子28を中立位置側へ操舵する時点を「t6」で示す。
【0069】
すなわち、時点t5から時点t6の間では、最終転舵指令角θcommandがSBW転舵指令角θpureの変化に応じた角度とならない。このため、時点t5から時点t6の間では、操舵操作子28を操舵操作しても転舵輪Wの転舵は行なわれず、操舵操作子28は空転(図中に示す「ハンドル空走」)することとなる。
また、時点t5から時点t6の間では、SBW転舵指令角θpureの正(+)方向への増加に伴い、端当て時オフセット角θoffsetが「0」から正(+)方向に増加する。
【0070】
ここで、本実施形態では、転舵モータ制御部42が、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、転舵モータ2の駆動制御を再開する。
したがって、時点t6において、操舵操作子28の中立位置側への操舵を開始すると、SBW転舵指令角θpureの中立位置側への減少に伴い、端当て時オフセット角θoffsetが「0」へ向けて減少する。
【0071】
このため、時点t6から操舵操作子28を中立位置側へ操舵すると、SBW転舵指令角θpureの中立位置側への減少に伴い、最終転舵指令角θcommandが中立位置側へ減少する。これにより、転舵輪Wの転舵角が中立転舵角(車両の直進状態に対応する転舵角)へ向けて変化する。
したがって、時点t6では、転舵輪Wの転舵角を時間の経過につれて徐々に変化させる制御を開始(図中に示す「切戻し時に徐々に転舵開始」)する。
【0072】
ここで、上述したステップS110(
図3参照)に示すように、端当て時オフセット角θoffsetが「0」に近づくと、最終転舵指令角θcommandは、SBW転舵指令角θpureに近づく。
そして、最終転舵指令角θcommandがSBW転舵指令角θpureと等しくなった時点(図中に「t7」で示す時点)で、端当て時オフセット角θoffsetが「0」となる。これにより、時点t7では、最終転舵指令角θcommandとSBW転舵指令角θpureが等しくなる。
【0073】
また、本実施形態では、転舵モータ制御部42が、操舵操作子28の操舵角に対する転舵輪Wの転舵角の変化度合いが、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角に達するまでの間よりも小さくなるように、転舵モータ2を駆動制御する。この駆動制御は、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点から、端当て時オフセット角θoffsetが「0」となるまでの間に行なう。
【0074】
このため、時点t6から時点t7までの間では、動作を開始してから時点t5までの間の状態等、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角までの間の範囲内である状態と比較して、操舵角に対する転舵角の変化度合いが小さくなる。
また、時点t7から、左回りに操舵した操舵操作子28の操舵角が中立位置を通過して、左端当て角を越えた時点(図中に「t8」で示す時点)までの間では、端当て時オフセット角θoffsetが「0」の状態を維持する。これにより、時点t7から時点t8までの間では、最終転舵指令角θcommandとSBW転舵指令角θpureが等しくなり、操舵操作子28の操舵角と転舵輪Wの転舵角との比率(ギア比)が、通常の比率となる。
【0075】
このため、時点t7から左回りに操舵した操舵操作子28の操舵角が中立位置となると、転舵輪Wの転舵角は中立転舵角となる。
そして、時点t8から、左回りに操舵中の操舵操作子28を中立位置側へ向けて右回りに操舵する(切り戻す)時点(図中に「t9」で示す時点)までの範囲では、転舵輪Wの転舵角は左端当て角から変化しない。
【0076】
すなわち、時点t8から時点t9の間では、時点t5から時点t6の間と同様、操舵操作子28を操舵操作しても転舵輪Wの転舵は行なわれず、操舵操作子28は空転(図中に示す「ハンドル空走」)することとなる。
また、時点t8から時点t9の間では、SBW転舵指令角θpureの負(−)方向への増加に伴い、端当て時オフセット角θoffsetが「0」から負(−)方向に増加する。
【0077】
したがって、時点t9において、操舵操作子28の中立位置側への操舵を開始すると、時点t6と同様、SBW転舵指令角θpureの中立位置側への減少に伴い、端当て時オフセット角θoffsetが「0」へ向けて減少する。
このため、時点t9から操舵操作子28を中立位置側へ操舵すると、SBW転舵指令角θpureの中立位置側への減少に伴い、最終転舵指令角θcommandが中立位置側へ減少する。これにより、時点t6と同様、転舵輪Wの転舵角が中立転舵角へ向けて変化する。
【0078】
したがって、時点t9では、時点t6と同様、転舵輪Wの転舵角を時間の経過につれて徐々に変化させる制御を開始(図中に示す「切戻し時に徐々に転舵開始」)する。
そして、最終転舵指令角θcommandがSBW転舵指令角θpureと等しくなった時点(図中に「t10」で示す時点)で、端当て時オフセット角θoffsetが「0」となる。これにより、時点t10では、時点t7と同様、最終転舵指令角θcommandとSBW転舵指令角θpureが等しくなる。
【0079】
また、時点t9から時点t10までの間では、時点t6から時点t7までの間と同様、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角までの間の範囲内である状態と比較して、操舵角に対する転舵角の変化度合いが小さくなる。
また、時点t10から、右回りに操舵した操舵操作子28の操舵角が中立位置となると、転舵輪Wの転舵角が中立転舵角となるまでの間では、端当て時オフセット角θoffsetが「0」の状態を維持する。これにより、時点t10から操舵操作子28の操舵角が中立位置となるまでの間では、最終転舵指令角θcommandとSBW転舵指令角θpureが等しくなり、操舵操作子28の操舵角と転舵輪Wの転舵角との比率(ギア比)が、通常の比率となる。
【0080】
以上により、本実施形態の操舵制御装置1を備えた車両では、従来の構成を有する操舵制御装置を備えた車両と比較して、操舵操作子28が空転する時間を短縮することが可能となる。これに加え、操舵角が端当て角を越えている操舵操作子28の、中立位置側への操舵を開始した時点で、転舵輪Wの転舵角を時間の経過につれて徐々に変化させる制御を開始する。
このため、本実施形態の操舵制御装置1を備えた車両では、従来の構成を有する操舵制御装置を備えた車両と異なり、転舵輪Wの急激な転舵が発生せず、操舵操作子28の操舵操作において、運転者が違和感を受ける可能性を低減させることが可能となる。
【0081】
なお、上述したように、本実施形態の操舵制御装置1の動作で実施する操舵制御方法では、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えている状態で、目標転舵角に応じた転舵トルクを転舵モータ2から出力して転舵輪Wを転舵させる。そして、操舵操作子28の操舵角が中立位置から増加して、中立位置を基準として設定した端当て角を越えると、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を中断する。さらに、端当て角を越えた操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を再開する。
【0082】
(第一実施形態の効果)
本実施形態では、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(1)転舵モータ制御部42が、操舵操作子28の操舵角が中立位置から増加して、中立位置を基準として設定した端当て角を越えると、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を中断する。そして、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を再開する。
【0083】
このため、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、操舵操作子28の空転を終了させて、転舵輪Wの転舵を開始することが可能となり、転舵輪Wの急激な転舵の開始を抑制することが可能となる。
その結果、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う操舵操作子28の操舵操作において、運転者が違和感を受ける可能性を低減させることが可能となる。
【0084】
(2)転舵モータ制御部42が、操舵操作子28の操舵角に対する転舵輪Wの転舵角の変化度合いを、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角未満である状態よりも小さくする制御を行なう。この制御は、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点から、端当て時オフセット角演算部50が演算する端当て時オフセット角θoffsetが0となるまでの状態で行なう。
【0085】
このため、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を再開することにより、操舵操作子28の中立位置と転舵輪Wの中立転舵角との間に発生する偏差を減少させることが可能となる。
その結果、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う操舵操作子28の操舵操作において、運転者が違和感を受ける可能性を低減させることが可能となる。
【0086】
(3)本実施形態の操舵制御方法では、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えている状態で、目標転舵角に応じた転舵トルクを転舵モータ2から出力して転舵輪Wを転舵させる。そして、操舵操作子28の操舵角が中立位置から増加して、中立位置を基準として設定した端当て角を越えると、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を中断する。さらに、端当て角を越えた操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を再開する。
【0087】
このため、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、操舵操作子28の空転を終了させて、転舵輪Wの転舵を開始することが可能となり、転舵輪Wの急激な転舵の開始を抑制することが可能となる。
その結果、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う操舵操作子28の操舵操作において、運転者が違和感を受ける可能性を低減させることが可能となる。
【0088】
(変形例)
(1)本実施形態では、転舵モータ制御部42が、操舵操作子28の操舵角に対する転舵輪Wの転舵角の変化度合いを、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角未満である状態よりも小さくする制御を行なう。また、この制御は、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点から、端当て時オフセット角演算部50が演算する端当て時オフセット角θoffsetが0となるまでの状態で行なう。
【0089】
しかしながら、転舵モータ制御部42の構成は、上記の構成に限定するものではなく、転舵モータ制御部42の構成を、以下に説明する制御A及び制御Bを行なう構成としてもよい。
【0090】
(制御A)
操舵操作子28の操舵角に対する転舵輪Wの転舵角の変化度合いを、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角未満である状態と等しい変化度合いとする制御を行なう。この制御は、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点から、予め設定したギア比変更操舵角となるまでの状態で行なう。
【0091】
(制御B)
操舵操作子28の操舵角に対する転舵輪Wの転舵角の変化度合いを、操舵操作子28の操舵角が中立位置から端当て角未満である状態よりも小さくする制御を行なう。この制御は、操舵操作子28の操舵角がギア比変更操舵角となった時点から中立位置となるまでの状態で行なう。
【0092】
ここで、ギア比変更操舵角は、
図7中に示すように、端当て角よりも大きい角度であり、例えば、車両の転舵性能・転舵特性に応じて設定し、転舵モータ制御部42に記憶させておく。なお、
図7は、本実施形態の変形例を示す図であり、本実施形態の変形例の操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を示すタイムチャートである。
転舵モータ制御部42の構成を、上記の制御A及び制御Bを行なう構成とすることにより、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
【0093】
すなわち、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が中立位置側への減少を開始した時点で、転舵モータ2からの転舵トルクの出力を再開することにより、操舵操作子28の中立位置と転舵輪Wの中立転舵角との間に発生する偏差を減少させることが可能となる。
その結果、バックアップクラッチ6を開放状態に切り換えて、トルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う操舵操作子28の操舵操作において、運転者が違和感を受ける可能性を低減させることが可能となる。
【0094】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態(以下、本実施形態と記載する)について、
図1から
図7を参照しつつ、
図8及び
図9を用いて説明する。なお、本実施形態は、クラッチ制御部40の構成を除き、上述した第一実施形態と同様の構成であるため、クラッチ制御部40以外の説明は省略する。また、上述した第一実施形態と同様の構成については、同一の符合を付して説明する。
【0095】
(構成)
図8は、クラッチ制御部40が行なう処理を示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートを開始(図中に示す「START」)すると、まず、ステップS201において、操舵操作子28の操舵角が右端当て角を越えて増加中であるか否かを判定する。これに加え、ステップS201では、締結完了時間が経過した時点における、増加中の操舵角が右締結角以上であるか否かを判定する。これに加え、ステップS201では、操舵操作子28が右回りに操舵(切り増し)中であるか否かを判定する。
【0096】
ここで、締結完了時間は、クラッチ制御部40がバックアップクラッチ6を締結状態に切り換えるクラッチ締結指令を出力してから、実際にバックアップクラッチ6が締結状態となるまでの経過時間である。また、締結完了時間は、バックアップクラッチ6の構成・性能等に応じて設定し、クラッチ制御部40に記憶させておく。
また、右締結角は、右端当て角よりも大きな角度であり、例えば、車両の転舵性能・転舵特性に応じて設定し、クラッチ制御部40に記憶させておく。
【0097】
また、締結完了時間が経過した時点で、増加中の操舵角が右締結角以上であるか否かの判定は、例えば、以下の式(7)を用いて行なう。
θlock≦θpure+T×θ’pure … (7)
上記の式(7)では、右締結角を「θlock(+θlock)」で示し、締結完了時間を「T」で示す。
また、操舵操作子28が右回りに操舵(切り増し)中であるか否かの判定は、例えば、以下の式(8)を用いて行なう。
θ’pure≧0 … (8)
すなわち、ステップS201では、クラッチ締結指令を出力してからT秒後に、転舵指令角が右締結角に達し、且つ操舵操作子28を右回りに切り増ししているか否かを推定する。
【0098】
ステップS201において、クラッチ締結指令を出力してからT秒後に転舵指令角が右締結角に達し、且つ操舵操作子28を右回りに切り増ししている(図中に示す「Y」)と判定すると、クラッチ制御部40が行なう処理は、ステップS202へ移行する。
一方、ステップS201において、クラッチ締結指令を出力してからT秒後に転舵指令角が右締結角に達していない(図中に示す「N」)と判定すると、クラッチ制御部40が行なう処理は、ステップS203へ移行する。同様に、ステップS201において、操舵操作子28が右回りに切り増し中ではない(図中に示す「N」)と判定すると、クラッチ制御部40が行なう処理は、ステップS203へ移行する。
【0099】
ステップS202では、クラッチ締結指令として生成したクラッチ指令電流を含む情報信号を、バックアップクラッチ6へ出力する。
本実施形態では、一例として、締結完了時間中における操舵操作子28の操舵角速度が高いほど、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が小さい時点で、クラッチ締結指令をバックアップクラッチ6へ出力する場合について説明する。
【0100】
ステップS202において、クラッチ締結指令として生成したクラッチ指令電流を含む情報信号をバックアップクラッチ6へ出力すると、クラッチ制御部40が行なう処理は終了(図中に示す「END」)する。
ステップS203では、操舵操作子28の操舵角が左端当て角を越えて増加中であるか否かを判定する。これに加え、ステップS203では、締結完了時間が経過した時点における、増加中の操舵角が左締結角以上であるか否かを判定する。これに加え、ステップS203では、操舵操作子28が左回りに操舵(切り増し)中であるか否かを判定する。
【0101】
ここで、左締結角は、左端当て角よりも大きな角度であり、例えば、車両の転舵性能・転舵特性に応じて設定し、クラッチ制御部40に記憶させておく。
また、締結完了時間が経過した時点で、増加中の操舵角が左締結角以上であるか否かの判定は、例えば、以下の式(9)を用いて行なう。
−θlock≧θpure+T×θ’pure … (9)
上記の式(9)では、左締結角を「−θlock」で示す。
【0102】
また、操舵操作子28が左回りに操舵(切り増し)中であるか否かの判定は、例えば、以下の式(10)を用いて行なう。
θ’pure≦0 … (10)
すなわち、ステップS203では、クラッチ締結指令を出力してからT秒後に、転舵指令角が左締結角に達し、且つ操舵操作子28を左回りに切り増ししているか否かを推定する。
【0103】
ステップS203において、クラッチ締結指令を出力してからT秒後に転舵指令角が左締結角に達し、且つ操舵操作子28を左回りに切り増ししている(図中に示す「Y」)と判定すると、クラッチ制御部40が行なう処理は、ステップS202へ移行する。
一方、ステップS203において、クラッチ締結指令を出力してからT秒後に転舵指令角が左締結角に達していない(図中に示す「N」)と判定すると、クラッチ制御部40が行なう処理は、ステップS204へ移行する。同様に、ステップS203において、操舵操作子28が左回りに切り増し中ではない(図中に示す「N」)と判定すると、クラッチ制御部40が行なう処理は、ステップS204へ移行する。
【0104】
ステップS204では、クラッチ開放指令として生成したクラッチ指令電流を含む情報信号を、バックアップクラッチ6へ出力する。
ステップS204において、クラッチ開放指令として生成したクラッチ指令電流を含む情報信号をバックアップクラッチ6へ出力すると、クラッチ制御部40が行なう処理は終了(図中に示す「END」)する。
【0105】
以上説明したように、ステップS201で行なう処理は、端当て角を越えた操舵操作子しかく28の操舵角が増加中である場合に、締結完了時間が経過した時点における増加中の操舵角が、予め設定した締結角以上であるか否かを推定する操舵角推定部に対応する。
同様に、ステップS203で行なう処理は、操舵角推定部に対応する。
また、ステップS202で行なう処理は、操舵角推定部が、増加中の操舵角が締結角以上であると推定すると、クラッチ締結指令をバックアップクラッチ6へ出力する締結指令出力部に対応する。
また、ステップS202で行なう処理は、締結完了時間中における操舵操作子28の操舵角速度が高いほど、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が小さい時点でクラッチ締結指令をバックアップクラッチ6へ出力する締結指令出力部に対応する。
【0106】
(動作)
次に、
図1から
図8を参照しつつ、
図9を用いて、本実施形態の操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を説明する。
図9は、本実施形態の操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を示すタイムチャートである。
図9中に示すタイムチャートは、車両の走行時に、運転者が、操舵操作子28を、操舵角が端当て角を越えるまで操舵操作した後、操舵角が端当て角未満となるまで操舵操作し、再度、操舵角が端当て角を越えるまで操舵操作する動作を示す。なお、
図9中では、SBW転舵指令角θpureを実線で示し、クラッチ指令電流を一点鎖線で示す。
【0107】
図中の時点t11から時点t12の間で示すように、端当て角θmaxを越えて増加中のSBW転舵指令角θpureが、T秒後に締結角以上であると判定すると、クラッチ指令電流をクラッチ開放指令からクラッチ締結指令に切り換える。
また、図中の時点13から時点t14までの間で示すように、端当て角θmaxを越えたSBW転舵指令角θpureが、T秒後に締結角未満であると判定すると、クラッチ指令電流をクラッチ開放指令に維持する。
【0108】
また、図中の時点t15から時点t16の間で示すように、端当て角θmaxを越えて増加中のSBW転舵指令角θpureが、T秒後に締結角以上であると判定すると、クラッチ指令電流をクラッチ開放指令からクラッチ締結指令に切り換える。
ここで、本実施形態では、締結完了時間中における操舵操作子28の操舵角速度が高いほど、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が小さい時点で、クラッチ締結指令をバックアップクラッチ6へ出力する。
【0109】
このため、本実施形態では、時点t11よりも端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が小さい時点t15で、クラッチ指令電流をクラッチ開放指令からクラッチ締結指令に切り換え、クラッチ締結指令をバックアップクラッチ6へ出力する。なお、図中では、締結完了時間中における操舵操作子28の操舵角速度を、経過時間に対するSBW転舵指令角θpureの変化量として、破線で示す。
【0110】
(第二実施形態の効果)
本実施形態の車両制御装置1であれば、上述した第一実施形態で奏する効果に加え、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(1)操舵角推定部が、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が増加中である場合、締結完了時間が経過した時点における、増加中の操舵角が締結角以上であると推定すると、締結指令出力部が、クラッチ締結指令をバックアップクラッチ6へ出力する。
このため、反力モータ4により、十分な操舵反力を、ステアリングシャフト30を介して、操舵操作子28へ出力することが可能である状態では、バックアップクラッチ6を締結状態に切り換えない。
【0111】
その結果、開放状態のバックアップクラッチ6を締結状態に切り換える際における騒音の発生を抑制することが可能となる。これに加え、操舵操作子28の急激な操舵操作時には、開放状態のバックアップクラッチ6を締結状態に切り換えるため、運転者に対して、操舵角が端当て角となっている状態を伝達することが可能となる。
【0112】
(2)締結指令出力部が、締結完了時間中における操舵操作子28の操舵角速度が高いほど、端当て角を越えた操舵操作子28の操舵角が小さい時点で、クラッチ締結指令をバックアップクラッチ6へ出力する。
このため、転舵指令角速度θ’pureに関わらず、開放状態のバックアップクラッチ6が実際に締結状態となった際のSBW転舵指令角θpureに発生するばらつきを抑制することが可能となる。
その結果、バックアップクラッチ6を締結状態とした後には、操舵操作子28の操舵角に対する転舵輪Wの転舵角の変化度合いに発生するばらつきを抑制することが可能となる。これにより、操舵操作子28の操舵操作において、運転者が違和感を受ける可能性を低減させることが可能となる。