(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
[無段変速機の構成]
図1は、無段変速機構1の模式図である。無段変速機構1は、エンジン7のエンジン出力軸7aから動力を入力し、エンジン出力軸7aの回転数を変速してドライブシャフト80を介して駆動輪8に伝達している。
無段変速機構1は、トルク増大機能を有する発進要素であるトルクコンバータ2と、変速を行うベルト式無段変速機3と、前進走行段として低速モードおよび高速モード、後退走行段として後退モードとを切り換える副変速機4、左右駆動輪8の差動を可能にする終端機構6を有している。
【0009】
(トルクコンバータの構成)
トルクコンバータ2は、エンジン出力軸7aと一体に回転するポンプインペラ20と、ポンプインペラ20と対向して設けられたタービンランナ21と、ポンプインペラ20とタービンランナ21との間に設けられたステータ22と、締結時にエンジン出力軸7aとトルクコンバータ出力軸2bとが一体に回転するようにするロックアップクラッチ23とを有している。
【0010】
ポンプインペラ20は、フロントカバー2aを介してエンジン出力軸7aと接続し、エンジン出力軸7aと一体に回転するようになっている。タービンランナ21は、トルクコンバータ出力軸2bに接続し、トルクコンバータ出力軸2bと一体に回転するようになっている。ステータ22は、変速機ハウジング93に対して一方向の回転のみを許容するワンウェイクラッチ22aを介して変速機ハウジング93に支持されている。
【0011】
ロックアップクラッチ23は、タービンランナ21に対して軸方向に摺動可能に設けられている。ロックアップクラッチ23によって、フロントカバー2a側のロックアップ油室2cとタービンランナ21側のコンバータ油室2dとが隔成されている。
【0012】
ロックアップ油室2cとコンバータ油室2dには、後述するコントロールバルブユニット200によって調圧された作動油が供給される。ロックアップクラッチ23は、コンバータ油室2d内の油圧に対するロックアップ油室2cの差圧(以下、ロックアップ差圧)によって、非ロックアップ状態、ロックアップスタンバイ状態、スリップロックアップ状態、完全ロックアップ状態に制御される。
【0013】
非ロックアップ状態のときには、ロックアップ差圧が負に設定される(以下、非ロックアップ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23にはフロントカバー2aから離れる方向に力が作用する。ロックアップスタンバイ状態のときには、ロックアップ差圧がほぼゼロに設定される(以下、ロックアップスタンバイ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23は、作動油からの力が打ち消された状態となっている。スリップロックアップ状態のときには、ロックアップ差圧が正に設定される(以下、スリップロックアップ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23にはフロントカバー2a側に力が作用し、ロックアップ差圧を制御することでロックアップクラッチ23とフロントカバー2aとの間でスリップした状態を作っている。完全ロックアップ状態のときには、ロックアップ差圧が正に設定される(以下、完全ロックアップ制御)。これにより、ロックアップクラッチ23にはフロントカバー2a側に力が作用し、ロックアップ差圧を制御することでロックアップクラッチ23とフロントカバー2aとが一体に回転する状態を作っている。
【0014】
ポンプインペラ20には、ポンプインペラ側スプロケット20aが一体に回転するように設けられている。またオイルポンプ5の駆動軸5aにはオイルポンプ側スプロケット5bが一体に回転するように設けられている。ポンプインペラ側スプロケット20aと、オイルポンプ側スプロケット5bとの間にはチェーン5cが掛け渡されている。すなわち、オイルポンプ5はエンジン7によって駆動されることとなる。
【0015】
トルクコンバータ2とベルト式無段変速機3との間には、カウンタギヤ機構90が設けられている。カウンタギヤ機構90は入力側カウンタギヤ91とこの入力側カウンタギヤ91と噛み合う出力側カウンタギヤ92とから構成されている。入力側カウンタギヤ91はトルクコンバータ出力軸2bと一体に回転するように設けられ、出力側カウンタギヤ92は変速機入力軸3aと一体に回転するように設けられている。
【0016】
(ベルト式無段変速機の構成)
ベルト式無段変速機3は、変速機入力軸3aと一体に回転するプライマリプーリ30と、変速機出力軸3bと一体に回転するセカンダリプーリ31と、プライマリプーリ30とセカンダリプーリ31との間に設けられたベルト35とを有している。
プライマリプーリ30は、変速機入力軸3aに対する軸方向の移動が固定されて設けられた固定シーブ30aと、変速機入力軸3aに対する軸方向の移動が可能に設けられた可動シーブ30bとから構成されている。可動シーブ30bの背面にはプライマリ油圧室32が設けられている。このプライマリ油圧室32にはコントロールバルブユニット200を介してオイルポンプ5に連通している。
【0017】
セカンダリプーリ31は、変速機出力軸3bに対する軸方向の移動が固定されて設けられた固定シーブ31aと、変速機出力軸3bに対する軸方向の移動が可能に設けられた可動シーブ31bとから構成されている。可動シーブ31bの背面にはセカンダリ圧力室33が設けられている。このセカンダリ圧力室33には、可動シーブ31bを固定シーブ31a側に付勢するスプリング33aが設けられている。
【0018】
ベルト35は、プライマリプーリ30の固定シーブ30aと可動シーブ30bとによって形成するV字形状のシーブ面30cと、セカンダリプーリ31の固定シーブ31aと可動シーブ31bとによって形成するV字形状のシーブ面31cに掛け渡されている。
プライマリ油圧室32内の圧力が低いときには、プライマリプーリ30の固定シーブ30aと可動シーブ30bとの間は広く、ベルト35はプライマリプーリ30の内周側と接している。またこのとき、セカンダリプーリ31の固定シーブ31aと可動シーブ31bとの間は狭く、ベルト35はプライマリプーリ30の外周側と接している。つまり、ベルト式無段変速機3は、変速機入力軸3aの回転数を変速機出力軸3bに減速して出力している。
【0019】
プライマリ油圧室32内の圧力が高いときには、プライマリプーリ30の固定シーブ30aと可動シーブ30bとの間は狭く、ベルト35はプライマリプーリ30の外周側と接している。またこのとき、セカンダリプーリ31の固定シーブ31aと可動シーブ31bとの間は広く、ベルト35はプライマリプーリ30の内周側と接している。つまり、ベルト式無段変速機3は、変速機入力軸3aの回転数を変速機出力軸3bに増速して出力している。
【0020】
(副変速機の構成)
副変速機4は、遊星歯車機構40と、低速モード時に締結するローブレーキLBと、高速モード時に締結するハイクラッチHCと、後退モード時に締結するリーバースクラッチRCとを有している。
遊星歯車機構40はラビニオ型遊星歯車機構であって、変速機出力軸3bと一体に回転するフロントサンギヤSf、フロントサンギヤSfに噛み合う第一ピニオンP1、第一ピニオンP1と噛み合う第二ピニオンP2、第二ピニオンP2と噛み合うリングギヤR、第二ピニオンP2と噛み合うリアサンギヤSr、第一ピニオンP1、第二ピニオンP2を回動可能に支持するキャリアCから構成されている。キャリアCは、副変速機出力軸4aに連結されている。
【0021】
ローブレーキLBはリアサンギヤSrとケースとの間に設けられ、締結時にはリアサンギヤSrの回転を規制する。ハイクラッチHCはサンギヤSとキャリアCとの間に設けられ、締結時にはサンギヤSとキャリアCとが一体に回転するようにしている。リバースブレーキRBはリングギヤRとケースとの間に設けられ、締結時にはリングギヤRの回転を規制する。
【0022】
(終端機構の構成)
副変速機4と駆動輪8との間には、終端機構6が設けられている。
終端機構6は、副変速機出力軸4aと一体に回転するドライブピニオン60と、ドライブピニオン60と噛み合うリングギヤ61と、リングギヤ61とともに回転するディファレンシャルケース62と、ディファレンシャルケース62に回動可能に支持されたディファレンシャルピニオン63と、左駆動輪8lに接続する左輪ドライブシャフト80lと一体に回転する左輪サイドギヤ64lと、右駆動輪8rに接続する右輪ドライブシャフト80rと一体に回転する右輪サイドギヤ64rとから構成されている。
【0023】
ドライブピニオン60とリングギヤ61との間で副変速機出力軸4aの回転が減速されている。ディファレンシャルピニオン63と左輪サイドギヤ64lおよび右輪サイドギヤ64rとはそれぞれ噛み合い、左輪サイドギヤ64lと右輪サイドギヤ64rとの間の作動を可能にしている。
ドライブピニオン60には隣接してパーキングギヤ65が設けられ、パーキングブレーキ作動時には、ドライブピニオン60とパーキングギヤ65とが噛み合いドライブピニオン60の回転を規制する。
【0024】
[制御部の構成]
図2は無段変速機構1を制御する電子制御部および油圧制御部の制御ブロック図である。
電子制御部としては、無段変速機コントローラ100、ニュートラルアイドルコントローラ300、エンジンコントローラ400を有している。
無段変速機コントローラ100には、アクセルペダル開度センサ101からアクセルペダル開度開度情報と、車速センサ102から車速情報と、プライマリ回転数センサ103からプライマリプーリ30の回転数情報と、セカンダリ回転数センサ104からセカンダリプーリ31の回転数情報と、油圧センサ105から無段変速機構1内の作動油圧情報と、インヒビタスイッチ106からドライバにより選択された変速レンジ位置情報と、ブレーキスイッチ107からブレーキペダル操作情報とを入力する。
【0025】
ニュートラルアイドルコントローラ300は無段変速機コントローラ100と相互に情報をやり取りする。
エンジンコントローラ400は、独自にアクセルペダル開度等によりエンジン7を制御するとともに、ニュートラルアイドルコントローラ300とも協調してエンジン7の制御を行う。
【0026】
(無段変速機制御)
無段変速機コントローラ100は、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ23を非ロックアップ状態、ロックアップスタンバイ状態、スリップロックアップ状態、完全ロックアップ状態に制御するロックアップ制御を行う。すなわち、後述するニュートラルアイドル制御が行われているときには非ロックアップ状態に制御される。ニュートラルアイドル制御が解除され、オイルポンプ5による油圧確保が十分に行われる条件が整うまではロックアップスタンバイ状態に制御される。オイルポンプ5による油圧確保が十分に行われる条件が整うとともに、車速が完全ロックアップ条件を満たすまではスリップロックアップ状態に制御される。車速が完全ロックアップ条件を満たすと完全ロックアップ状態に制御される。
【0027】
無段変速機コントローラ100は、ライン圧制御を行うと共にベルト式無段変速機3の変速比制御を行う。すなわち、アクセルペダル開度等に応じた目標ライン圧を得るライン圧制御を行うとともに、車速とアクセルペダル開度による運転点より目標セカンダリ回転数を決め、目標セカンダリ回転数を得る変速比制御指令を出力する。
無段変速機コントローラ100は、副変速機4の変速制御を行う。すなわち、車速とアクセルペダル開度による運転点に応じて低速モードであるか高速モードであるかを判断し、低速モードであるときにはローブレーキLBを締結し、高速モードであるときにはハイクラッチHCを締結するように制御する。またドライバにより選択された後退レンジが選択されたときには後退モードと判断し、リバースブレーキRBを締結するように制御する。
【0028】
油圧制御部の構成としては、コントロールバルブユニット200を有している。コントロールバルブユニット200は、無段変速機コントローラ100からの指令に従ってオイルポンプ5から供給される作動油の油圧を調圧して各装置に供給する。
コントロールバルブユニット200は、トルクコンバータ2のロックアップ油圧制御を行う。すなわち、無段変速機コントローラ100からの非ロックアップ制御指令時には、トルクコンバータ2のロックアップ油室2cとコンバータ油室2dにコンバータ油圧を供給する。コンバータ油室2dにはオリフィスによりロックアップ油室2cに供給される作動油よりも若干低圧の作動油が供給されている。これにより、コンバータ油室2d内の油圧がロックアップ油室2c内の油圧よりも低くなって、ロックアップクラッチ23がフロントカバー2aから離れる。無段変速機コントローラ100からのロックアップ制御指令時には、トルクコンバータ2のコンバータ油室2dにコンバータ油圧を供給し、ロックアップ油室2cはドレインと連通する。
【0029】
コントロールバルブユニット200は、ベルト式無段変速機3の変速比油圧制御を行う。すなわち、無段変速機コントローラ100からの変速比制御指令に応じ、プライマリ油圧室32へプライマリ圧を導き、ベルト式無段変速機3により目標変速比を得る。
コントロールバルブユニット200は、副変速機4の変速油圧制御を行う。すなわち、無段変速機コントローラ100からの低速モード指令時には、副変速機4のローブレーキLBに対しローブレーキ圧を導く。無段変速機コントローラ100からの高速モード指令時には、副変速機4のハイクラッチHCに対しハイクラッチ圧を導く。無段変速機コントローラ100からの後退モード指令時には、副変速機4のリバースブレーキRBに対しリバースブレーキ圧を導く。また、低速モード選択時に無段変速機コントローラ100から高速モードへの変速指令が出されると、ローブレーキLBのローブレーキ圧を抜きながら、ハイクラッチHCへハイクラッチ圧を供給する架け換え変速を行う。高速モード選択時に無段変速機コントローラ100から低速モードへの変速指令が出されると、ハイクラッチHCのハイクラッチ圧を抜きながら、ローブレーキLBへローブレーキ圧を供給する架け換え変速を行う。
【0030】
(ニュートラルアイドル制御)
ニュートラルアイドル制御について説明する。インヒビタスイッチ106から入力される変速レンジの位置が前進走行ポジション(例えば「D」や「L」のポジション)であって、ブレーキペダルが踏み込まれた状態で車速が略ゼロの状態が所定時間(数秒程度)継続するとニュートラルアイドル制御条件が成立したと判断する。ニュートラルアイドル制御条件が成立すると、締結していたハイクラッチHCまたはローブレーキLBを解放するとともに、ニュートラルアイドル条件成立前よりもエンジントルクを低下させる。これにより、エンジン7の負荷を低減させるとともに、エンジントルク自体も低減させることで燃費の向上を図ることができる。
【0031】
ニュートラルアイドル制御中に、ブレーキペダルの踏み込みが解除されブレーキスイッチ107がオフになるなどすると、ニュートラルアイドル条件が成立しなくなり、解放していたローブレーキLBの締結を開始する。すなわち、ドライバの発進意図が検出されると車両発進に向けた制御が行われる。ローブレーキLBの締結に伴い車速が発生するが、車速が所定車速(以下、トルクダウン終了車速)以上となるまでは、アクセルペダル開度に応じてエンジントルクを上昇させることはせず、ローブレーキLBの締結による負荷の増加に伴って低下しようとするエンジン回転数を維持するようにエンジントルクを制御する。これにより、ローブレーキLBの締結が完了する前にエンジントルク上昇によるエンジン回転数の吹き上がりを防止することができる。
【0032】
(ロックアップクラッチ制御)
ロックアップクラッチ23の制御について下記に詳述する。
〈車両停止時〉
車両停止時にはトルクコンバータ2のロックアップクラッチ23を解放し、非ロックアップ状態に制御する。これにより、ポンプインペラ20とタービンランナ21との作動を可能にしている。ニュートラルアイドル制御時にも非ロックアップ状態に制御している。
【0033】
〈通常車両発進時〉
前述のニュートラルアイドル制御に入る前に車両が発進するときのロックアップクラッチ23の制御について説明する。ブレーキペダルの踏み込みが解除されるとロックアップスタンバイ制御を行う。アクセルペダルが踏み込まれ、車速が高くなるほどロックアップクラッチ23の締結力が高くなるように制御し、スリップロックアップ制御を行う。スリップロックアップ制御を行うことにより、負荷を徐々に増大させてエンジン回転数を低下させるとともにベルト式無段変速機3側の回転数を上昇させる。これにより早期にエンジン出力軸7aとトルクコンバータ出力軸2bとの回転を同期させて完全ロックアップ制御に移行できるようにする。よって、トルクコンバータ2によるトルク増大作用を得つつも、エンジン7の燃費の向上させることができる。エンジン出力軸7aとトルクコンバータ出力軸2bとの回転が同期すると完全ロックアップ制御を行う。
【0034】
〈ニュートラルアイドル制御終了後の車両発進時〉
ニュートラルアイドル制御終了後に車両が発進するときのロックアップクラッチ23の制御について説明する。ドライバの発進意図が検出されるとニュートラルアイドル制御が終了し、ロックアップスタンバイ制御を行う。前述の通常車両発進時には、アクセルペダルが踏み込まれるとスリップロックアップ制御を行っていた。一方、ニュートラルアイドル制御終了後の車両発進時には、車速が前述のトルクダウン終了車速以上となるとともに、エンジン回転数が所定回転数(以下、油圧確保可能回転数)以上となるまでロックアップスタンバイ制御を維持する。車速がトルクダウン終了車速以上となるとともに、エンジン回転数が油圧確保可能回転数以上となると、通常発進時と同様にスリップロックアップ制御および完全ロックアップ制御を行う。なお、本実施例では、エンジン回転数によりオイルポンプ5の供給可能油圧を推定するが、オイルポンプ5の回転数や吐出流量より推定してもよいし、オイルポンプ5の吐出油圧を測定してもよい。何れの場合も、推定或いは測定結果が、所定値(予め求めたローブレーキLBを締結しつつ、ロックアップクラッチ23を締結可能な油圧或いはそれに相当する値)以上になったら、スリップロックアップ制御および完全ロックアップ制御を行う。
【0035】
[作用]
(ニュートラルアイドル制御終了後の作用)
ニュートラルアイドル制御時には、ニュートラルアイドル条件成立前よりもエンジントルクを低下させるようにしている。また、ブレーキスイッチ107がオフになる等してドライバの発進意図が検出された後であっても、車速がトルクダウン終了車速以上となるまでは、アクセルペダル開度に応じたエンジントルクよりも低いエンジントルクとなるように設定している。そのため、ニュートラルアイドル制御終了直後はエンジン回転数が低く、エンジン7によって駆動されるオイルポンプ5も十分に高い油圧を発生させることができない。このような状態で、ローブレーキLBの締結とロックアップクラッチ23のスリップロックアップ制御を同時に行おうとするとローブレーキ圧を十分に確保することができず、車両発進性能が低くなる恐れがあった。
そこで実施例1では、ニュートラルアイドル制御終了後は、車速がトルクダウン終了車速以上となるとともに、エンジン回転数が油圧確保可能回転数以上となるまではスリップロックアップ制御を禁止するようにした。
【0036】
図3はニュートラルアイドル制御中からニュートラルアイドル制御終了後にかけての各要素の状態を示すタイムチャートである。
時間t1において、ブレーキペダルの踏み込みが解除されてブレーキスイッチがオフになり、ドライバの発進意図が検出される。このとき、ローブレーキ圧は上昇を始めエンジン7へ負荷が大きくなるが、負荷の増加に応じてエンジントルクを制御するため、エンジン出力軸7aの回転数はほぼ一定に保たれる。トルクコンバータ2はポンプインペラ20とタービンランナ21との間に差動が生じ、トルクコンバータ出力軸2bの回転数はエンジン出力軸7aの回転数よりも小さくなっている。またロックアップクラッチ23は、非ロックアップ制御からロックアップスタンバイ制御に切り替えられ、ロックアップ差圧は負から略ゼロに設定される。
【0037】
時間t2において、アクセルペダルが踏み込まれてアクセルペダル開度が増加する。このとき、ローブレーキ圧はさらに上昇して車速が発生し始める。しかしこの時点では、車速はトルクダウン終了車速V1未満であるため、アクセルペダル開度に関わらず、負荷に応じてエンジントルクを制御するため、エンジン出力軸7aの回転数はほぼ一定に保たれる。また、ロックアップスタンバイ制御継続されて、ロックアップ差圧は略ゼロに設定される。
【0038】
時間t3において、車速がトルクダウン終了車速V1以上となる。そのため、アクセルペダル開度に応じたエンジントルクに設定され、エンジン出力軸7aの回転数も上昇する。しかしこの時点では、エンジン回転数が油圧確保可能回転数R1未満であるため、ロックアップスタンバイ制御継続されて、ロックアップ差圧は略ゼロに設定される。
【0039】
時間t4において、エンジン回転数が油圧確保可能回転数R1以上となる。そのため、ロックアップスタンバイ制御からスリップロックアップ制御に切り替わり、ロックアップ差圧は車速に応じて上昇する。スリップロックアップ制御を行うことにより、負荷を徐々に増大させてエンジン回転数を低下させるとともにトルクコンバータ出力軸2bの回転数を上昇させる。
時間t5において、エンジン出力軸7aとトルクコンバータ出力軸2bとの回転が同期し完全ロックアップ制御に移行する。
【0040】
[効果]
エンジン7と、ロックアップクラッチ23を有するトルクコンバータ2と、ベルト式自動変速機3(変速機)と、エンジン3と駆動輪8との間の動力の伝達を断接するローブレーキLB(発進摩擦要素)と、エンジン7の駆動によりロックアップクラッチ23とローブレーキLBに油圧を供給するオイルポンプ5と、車両停止時にロックアップクラッチ23を解放し、車両走行時には車速の増加に応じてロックアップクラッチ23の締結力が大きくなるように制御する無段変速機コントローラ100(ロックアップクラッチ制御手段)と、車両停止時にローブレーキLBの締結力を車両走行時の締結力よりも低下させるとともに、ローブレーキLBの締結力を低下させた後に、ローブレーキLBの締結力を低下させる前よりもエンジントルクを低下させるニュートラルアイドル制御を行うニュートラルアイドルコントローラ300(ニュートラルアイドル制御手段)と、を有し、無段変速機コントローラ100は、ニュートラルアイドル制御の終了後、オイルポンプ5の供給可能油圧が所定値以上となったときにロックアップクラッチ23の締結力を大きくするようにした。
よって、ニュートラルアイドル制御終了直後のエンジン回転数が低く、オイルポンプ5が十分に高い油圧を発生させることができない状態では、ロックアップクラッチ23のスリップロックアップ制御を行わず、ローブレーキLBの締結を優先して行うことが可能となる。そのため、車両発進時のローブレーキ圧を十分に確保することが、車両発進性能を確保することができる。
【0041】
〔他の実施例〕
以上、本願発明を実施例1に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、実施例1ではドライバの発進意図をブレーキスイッチ107がオフになったことで検出しているが、ブレーキペダルの踏み込み量を小さくしたことで検出しても良いし、アクセルペダルの踏み込みを開始したことで検出しても良いし、特に限定しない。また、ブレーキスイッチ107がオフになったことを検出し、且つアクセルペダルの踏込みを所定時間内(例えば、ローブレーキLBの締結に掛かる時間内)に検出した場合に限って、実施することも可能である。