特許第5983050号(P5983050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983050
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   F16H25/24 N
   F16H25/24 M
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-124650(P2012-124650)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-249887(P2013-249887A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 和史
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−145917(JP,A)
【文献】 特開2007−309428(JP,A)
【文献】 特開2011−046873(JP,A)
【文献】 特開平11−166191(JP,A)
【文献】 特開平10−205605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、前記ねじ軸の外側にあり前記ねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して両ねじ溝間に負荷領域を形成するボールナットと、前記負荷領域内に転動可能に装填される多数のボールと、前記ねじ軸の外周を囲み且つ内側に前記ねじ軸のねじ溝に入り込むシール山を有して前記ボールナットの端部に取り付けられ前記ボールナットの軸方向外側に露出する筒状部を有するシールと、を備え
前記ねじ軸の前記ねじ溝を含む外面と前記シールの前記シール山を含む内面との間に隙間が設けられ、
前記シールの筒状部に、前記ねじ軸の軸線に対して、前記ねじ軸のねじのリード角を規定するねじ山の接線に沿う方向に傾斜するすり割り設けられ
前記すり割りを、前記ねじ軸の直径方向の線に対して、前記ねじ軸が右ねじのときに前記筒状部の外側端面から見て時計方向に、また前記ねじ軸が左ねじのときに前記筒状部の外側端面から見て時計方向に傾斜させたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記負荷領域内にちょう度が295以下のグリースを充填したことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、すり割り付きのシールを備えたボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のシールを備えたボールねじ装置としては特許文献1に記載されたものがある。このものは、ねじ軸のねじ溝と係合するシール山を内周に備えたシールがボールナットの端面に装着されていて、前記ボールナットから軸方向外側に露出する筒状部は、その筒状部の軸方向に延びる複数本のすり割りで周方向に分割されている。このすり割りの長さは、ねじ軸のリードの0.7倍以上にしている。このすり割りは、ねじ軸の直径方向の線に対して、ねじ軸が右ねじのときに筒状部の外側端面から見て時計方向に傾斜しており、またこのすり割りは、同文献1の図7、8の例ではねじ軸の軸線に対して同ねじ軸のリード角を規定するねじ山の接線とは反対の方向に傾斜している。かかるシールの筒状部は外周からガータスプリングで締め付けられて、ねじ軸の外周に密着されている。そこで、このボールねじでは、ねじ軸の回転により相対的にボールナットが軸方向に移動すると、露出されたねじ軸の外周に付着していた異物がすり割りにより形成されたシールのエッジ部で削り取られる。その異物は続いてすり割りにより形成された傾斜面に沿って遠心方向に掻き出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】第3692677号特許掲載公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術は、他の従来技術も同様であるが、外部からの異物がねじ軸からボールナット内に入り込むのを防止する技術である。そして、すり割りの形状や傾きが前記のように設定されているから、それなりに、異物がボールナット内に入り込むことは抑制されていた。しかしながら、これらの従来技術では、ボールナット内のグリースが漏れ出して、露出したねじ軸の外周に付着したままになることには対処されていないという不具合がある。つまり、露出したねじ軸の外周におけるグリースの層が一定の膜厚を超えると、ねじ軸の高速回転による遠心力によりグリースが飛散して、周囲の機器やボールネジが組み込まれた装置により製造され又は処理される製品を汚染するという不具合がある。
【0005】
このため、従来技術ではグリースをボールナット内に閉じ込めるために、ガータスプリングなどを用いた接触式シールでボールナット内を密封して対処してきた。しかし、この対処方法でも、ねじ軸外周のグリース膜厚が増大してグリースが飛散することもあり、また、グリースをボールナット内に閉じ込めておくと、ボールナット内へのグリース補給時にボールナット内から古いグリースを排出するための排出穴を設ける必要がある。この排出穴はねじ軸の端部の、通常運転中にはボールナットの往復範囲外にある位置に開設して、運転休止中にボールナットをこの位置まで移動させたうえ、ボールナット内からグリースを排出穴経由で外部に排出するものである。このため、ねじ軸の径が小さいときには充分な径のある排出穴を開設することができないし、またちょう度が295以下の、所謂固いグリースでは前記排出が困難になるからボールナット内に使用するには無理がある。このように、前記従来の技術では、使用するグリースのちょう度や、ねじ軸の径などに制約があるという不具合もある。
【0006】
そこで、この発明は、ボールナット内の余分なグリースを、露出したねじ軸の外周に一定以上の膜厚で残ることを防止しつつ、ねじ軸の遠心力が作用しにくい位置で外部に取り出すことにより、前記の不具合を解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の態様のボールねじ装置は、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、このねじ軸の外側にあり前記ねじ溝に対応する螺旋状のねじ溝を内周面に有して両ねじ溝間に負荷領域を形成するボールナットと、前記負荷領域内に転動可能に装填される多数のボールと、前記ねじ軸の外周を囲み且つ内側に前記ねじ軸のねじ溝に入り込むシール山を有して前記ボールナットの端部に取り付けられ前記ボールナットの軸方向外側に露出する筒状部を有するシールと、を備えたボールねじ装置において、前記ねじ軸の前記ねじ溝を含む外面と前記シールの前記シール山を含む内面との間に隙間が設けられ、前記シールの筒状部に、前記ねじ軸の軸線に対して、前記ねじ軸のねじのリード角を規定するねじ山の接線に沿う方向に傾斜するすり割り設けられ、このすり割りを、前記ねじ軸の直径方向の線に対して、前記ねじ軸が右ねじのときに前記筒状部の外側端面から見て時計方向に、また前記ねじ軸が左ねじのときに前記筒状部の外側端面から見て時計方向に傾斜させたことを特徴とする。
【0008】
また、第2の態様のボールねじ装置は、前記第1態様において、前記負荷領域内にちょう度が295以下のグリースを充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ボールナットの内部にあったグリースがねじ軸に付着したまま外部に出されようとするときにシールのエッジ部により掻き取られ、すり割りを経て筒状部外周に掻き出される。このため、ボールナット内の余分なグリースが、ねじ軸の遠心力が作用しにくい位置で外部に取り出されるから、周囲に飛散することがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態を示すもので、一部を断面した側面図。
図2図1を軸方向から見た正面図。
図3図2の一部の拡大図。
図4】すり割りの図3におけるA矢視図。
図5】グリースが掻き取られる初期の状態を示す図であり、(a)は図2と同様の正面図。(b)は図1と同様の側面図。
図6】掻き取られたグリースがすり割り内から筒状部外周に出てきた状態を示す図であり、(a)は図2と同様の正面図。(b)は図1と同様の側面図。
図7】掻き取られたグリースが筒状部外周に溜まってきた状態を示す図であり、(a)は図2と同様の正面図。(b)は図1と同様の側面図。
図8】掻き取られたグリースが筒状部外周から下方に垂れ落ちた状態を示す図であり、(a)は図2と同様の正面図。(b)は図1と同様の側面図。
図9】グリースの垂れ落ちる範囲を示す図であり、(a)は平面図。(b)は側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1以下には、本発明のボールねじ装置の一実施形態が示されている。このボールねじ装置は、外周面に螺旋状のねじ溝11を有するねじ軸1と、このねじ軸1の外側にあり前記ねじ溝11に対応する螺旋状のねじ溝(図示しない)を内周面に有して両ねじ溝間に負荷領域を形成するボールナット2と、前記負荷領域内に転動可能に装填される多数のボール(図示しない)と、前記ねじ軸1の外周を囲み且つ内側に前記ねじ軸1のねじ溝11に入り込むシール山31を有して前記ボールナット2の端部に取り付けられ前記ボールナット2の軸方向外側に露出する筒状部32を有するシール3と、を備えている。
【0012】
ねじ軸1は、ボールねじ装置が設置される機台5(図8、9)に回転自在に軸支され、且つモータ等の回転駆動源(図示しない)に連結されている。また、ボールナット2には、そのフランジ21を介して、このボールねじ装置により進退駆動される移動テーブル等の移動体(図示しない)が装着され、よって、ねじ軸1の回転によりボールナット2を介して前記移動体を進退駆動するようになっている。また、シール3はそのフランジ33においてボールナット2の軸方向両端にそれぞれ取り付けられている。
【0013】
前記ねじ軸1の外面とシール3の内面との間には隙間4が設けられており、この隙間4は0.3mm以下であることが望ましい。またシール3の筒状部32には、その軸方向の外端部から軸方向に延びるすり割り34を設けている。このすり割り34の数は、筒状部32の円周方向に等間隔に6箇所設けられているが、その数は後述の各機能を考慮して他の数とすることも可能である。前記すり割り34は、ねじ軸1の直径方向の線L1に対して、前記ねじ軸1が右ねじのときに前記筒状部32の外側端面から前記ねじ軸1の軸方向に見て時計方向に角度βを以て傾斜させてある(図2)。図示のねじ軸1は右ねじであり、図2図1の左側のシール3を図1の左方から見た状態を示している。なお、図1の右側のシール3を図1の右方から見ても図2のシール3と同一に表れる。また、ねじ軸1が左ねじの場合には、すり割り34の前記傾斜角度βは前記右ねじの場合とは逆に、線L1に対して時計方向に傾斜させることになる。
【0014】
また、前記シール3のすり割り34は、ねじ軸1の軸線Xに対して角度αをもって傾斜させてある。この各度αの方向は、前記軸線Xよりも前記ねじ軸1のねじ山12のつる巻き線の接線L2に沿う方向に傾斜している(図1)。なお前記接線L2と前記軸線Xに直角な面Pとのなす角度がねじのリード角γである。したがって、前記接線L2は、リード角γとの関係で定義すれば、ねじ軸1のねじのリード角γを規定するねじ山12の接線であるということができる。そこで、前記すり割り34は、前記ねじ軸1の軸線Xに対して、ねじ軸1のねじのリード角γを規定するねじ山12の接線L2に沿う方向に傾斜させたと表現することができる。
【0015】
また、前記シール3のすり割り34は、前記の角度α、βの各傾斜の方向にいずれも同一の幅寸法で形成されているから、すり割り34の内側の対向する2つの面341、342(図3、4)は相互に平行な面をなしていて、各面341、342も前記角度α、βで傾斜している。そのため、対向する2面(341、342)のうち、軸1の回転方向の側にある面342では、シール3の筒状部32の内面との角度が鋭角になって、ここにエッジ部343を形成している。
【0016】
ボールネジ装置の運転時には、前記ボールナット2とねじ軸1との間の空間にグリースを充填した状態で運転する。このグリースのちょう度は295以下としているが、295を超えるちょう度のものを使用することができるのは勿論である。ここで、例えば、ねじ軸1を図1において左から右方向に見て回転方向Bに左回転させると、ボールナット2は図1において右方向に移動する。このボールナット2の移動は、ボールナット2内のグリースを、シール3の筒状部32内面とねじ軸1との間の隙間4から、ねじ軸1表面に一定の膜厚となって残留させながら行なわれる。
【0017】
このとき、ボールナット2内からねじ軸1表面に付着して外部に出ようとするグリースは、シール3の筒状部32において掻き取られるため、ねじ軸1表面に残るグリースは前記の膜厚を超えることはない。シール3によるグリースの掻き取りについて図3を用いて説明すると次のようになる。すなわち、ねじ軸1表面にあって隙間4の厚みを超える量のグリースは、ねじ軸1の回転により相対的にねじ軸1方向に移動するボールナット2から、その内部にあったグリースがねじ軸1表面に付着したまま残留して外部に出されようとするときに、シール3の筒状部32に、すり割り34によって形成されたシール3のエッジ部343により、前記の外部に出されようとするグリースが掻き取られ、その掻き取られたグリースは、続いてすり割り34により形成された傾斜面242に沿って遠心方向に押し出されて筒状部32の外周にまで至る。
【0018】
前記のエッジ部343により掻き取られたグリースは、図5〜8に連続して図示するように外部に排出される。図5〜8において、いずれも(a)は図2と同じ方向から見た正面図、(b)は図1と同じ方向から見た側面図であり、図5ではねじ軸1の回転開始直後の状態でありボールナット内のグリースGが漏れ始めている。ここではグリースGはすり割り34内のボールナットに近い側から徐々に押し出される。
【0019】
続いて、図6では、さらにボールナットがねじ軸1上を図において右方に移動し、ボールナット内のグリースGが押し出されて筒状部32の外面にも溜まり始める。ここではすり割り34のうちボールナット側(フランジ33側)の端部から多く出て、筒状部32の外端部側になるにつれて溜まる量が少なくなる。ボールナット側から見てすり割り34の始まる側から多く出るため、すり割り34の前記傾斜角度αが大きくなるほど、グリースGをボールナット側に寄せて外部に出すというすり割り34の効果が大になる。ただし、前記効果を出すためには傾斜角度αは90度未満でなければならない。
【0020】
図7の状態に至ると、すり割り34から押し出されたグリースG量がシール3の円筒部32外周で円周方向に連なる量となり、自重により筒状部32の下側に移動を始めている。続いて、図8においては、グリースGが自重に耐えられなくなり、機台5上面に落下している。こうして、ボールナット2内の余分なグリースGは外部に排出されるが、その排出されるのは、シール3の筒状部32というグリースGに遠心力が作用しない場所である。このため、グリースGが遠心力により周囲に飛散することがなく、この飛散とは関わりのないねじ軸1の下方に自重で滴るように落下する。したがってグリースGの飛散による弊害は生じない。
【0021】
こうして、シール3のすり割り34により余分なグリースGが機台5上に落下されるのは、ボールナット2が移動する際にその後側になるシール3からである。したがって図1〜8の場合は、ねじ軸1が図1の左から右を見て左回りしたときに、ボールナット2は図1において右方向に移動し、そのときの後側になる図1において左側のシール3からグリースGが落下するものである。したがって、ねじ軸1が逆方向に回転すると、ボールナット2は図1において左方向に移動し、そのときの後側になる図1の右側のシール3からグリースが同様に落下する。
【0022】
図9はボールナット2の向きが図8までとは左右逆になっているが、ねじ軸1の正転と逆転が繰り返されてボールナット2がねじ軸1に沿って左右に往復したときにグリースGが機台5上へ落下する状態を示す図である。ここで、機台5に落下するグリースGは自重により落下するだけであって、遠心力などの別の力は作用していないから、機台5上に落下するグリースGの位置は、平面視でボールナット2の軌跡の幅φD内に収まり、これの外側にまで飛散したり落下することは殆どない。
【0023】
かくして、ボールナット2内に充填されたグリースの余分な量は積極的に外部に出されて自重により落下される。このため、ねじ軸1に付着した余分なグリースが遠心力によって飛散することが抑制され、よって、周辺機器などが飛散したグリースにより汚染されることが抑制される。また、運転開始後の早い時期にボールナット内のグリースが適正量になるため、ボールねじ装置の所定時間の運転ごとに行なわれる給脂時には、ボールナット2内に残存するグリース量は計算通りに殆ど減少していることになる。このため残存する古いグリースを排出する必要性も減少するから、ねじ軸1にグリースの排出穴を設ける必要性も少なくなり、またちょう度の低いグリースを使用することが可能になる。
【0024】
なお、前記の実施形態は、ねじ軸1が右ねじの場合を例示して説明したが、ねじ軸1は左ねじであってもよいことは勿論である。この場合には、前記の通りに図2に表れるすり割り34の角度βが図2とは逆になるし、また、図1における接線L2と角度αも図1において軸線X−Xの下側に線対称に表れる。
【符号の説明】
【0025】
1 ねじ軸
11 ねじ溝
2 ボールナット
3 シール
31 シール山
32 筒状部
34 すり割り
341 すり割りの面
342 すり割りの面
343 エッジ部
4 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9