(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転軸が内燃機関のクランクシャフトであり、前記クランクシャフトの上側及び下側に設けられる上下一対の半円筒状の半割り軸受を組み合わせることで円筒状に形成される前記すべり軸受であって、
前記溝部が、前記内筒面に樹脂をコーティングすることで形成され、
前記上側の半割り軸受は、前記下側の半割り軸受よりも前記樹脂のコーティングの厚みが大きく形成される
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のすべり軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、すべり軸受は、回転軸の回転時に発生する摩擦を低減することが主な役割であり、すべり面での潤滑油の保持力が高いほど確実に隙間に油膜を形成することができるため、潤滑油の保持力の向上(言い換えると、オイル漏れの抑制)が望まれている。さらに、オイル漏れが抑制されることで潤滑に必要とされる油量が少なくて済むため、潤滑油を送り込むための圧送装置(ポンプ)を小型化することができるようにもなる。しかしながら、上記の特許文献1,2に記載のすべり軸受では、すべり軸受の軸方向両端部が開放されており、両端部からの潤滑油の漏れを確実に抑制することは困難である。
【0006】
また、近年は、ハイブリッド電気自動車の普及や車両走行中のアイドルストップの採用により、内燃機関の始動停止回数が増加しているため、内燃機関に用いられるすべり軸受の潤滑油の保持及び油膜の確保が困難になりつつある。
【0007】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、簡素な構成で潤滑油の保持力を高めることができるようにした、すべり軸受を提供することである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ここで開示するすべり軸受は、円筒状に形成され、内筒面に回転軸が摺接するすべり面を有し、前記回転軸と前記すべり面との隙間に潤滑油が入り込むすべり軸受であって、前記すべり面に前記回転軸の軸方向端部から軸方向中央部に向けて凹設された溝部を有し、前記溝部は、前記軸方向端部側が閉鎖され、前記中央部側が前記回転軸の回転方向に対し、前記回転軸の回転方向に沿って傾斜している
とともに、前記端部側から前記中央部側に向かって深さが大きくなるように形成されることを特徴としている。言い換えると、前記すべり面に形成される前記溝部は、前記端部側から前記中央部側に伸びるように凹設され、且つ、前記端部側が閉鎖されると共に前記中央部側の端部が前記回転軸の回転方向に向かうように設けられる。
さらに、前記中央部側の方が前記端部側に比べて深く形成されている。ここでいう、「端部側が閉鎖される」とは、軸方向端部が開放されていないことを意味する。すなわち、すべり面を正面(すべり軸受の径方向内側)から見たときに、軸方向端部では溝が切られておらず(凹状に形成されておらず)、端部から僅かに軸方向内側に位置する部分から中央部側に向かって溝が切られている(端部は残されている)ことを意味する。
また、ここでいう「溝部の深さ」とは、溝部を形成する縦壁のうち、対向する二面(端部側から中央部側に向かって伸びる二面)を含む縦壁の高さを意味する。
【0009】
(2)また、前記溝部が、前記端部側から前記中央部に向かって先細に形成されることが好ましい。ここでいう「先細に形成される」とは、溝部の対向する二面(端部側から中央部側に向かって伸びる二面)が平行ではなく、対向する二面の距離が徐々に小さくなるように形成されることを意味する。
【0010】
(3)また、前記溝部が、前記中央部よりも一端部側に形成される第一溝部と、前記中央部よりも他端部側に形成される第二溝部とを有することが好ましい。言い換えると、前記溝部が、軸方向両端部側から中央部側へ伸びるように凹設されていることが好ましい。
(4)このとき、前記第一溝部及び
前記第二溝部がそれぞれ複数設けられ、前記第一溝部の前記中央部側の端部と前記第二溝部の前記中央部側の端部とが、周方向に互い違いになるように設けられることがより好ましい。
【0011】
(5)また、前記すべり面の前記中央部に、周方向に沿って凹設された中央溝部を有し、前記中央溝部が、前記溝部の前記中央部側の端部と連通されることが好ましい
。
【0012】
(
6)また、前記溝部が、前記内筒面に樹脂をコーティングすることで形成され、前記端部側から前記中央部側に向かって前記樹脂の厚みが大きくされることが好ましい。言い換えると、前記溝部は、前記内筒面に部分的に樹脂がコーティングされることで、コーティングされていない部分に形成されることが好ましい。さらに、前記溝部が、前記中央部側の方が前記端部側よりも深くなるように、前記樹脂の厚みが調整されることが好ましい。
【0013】
(
7)また、前記回転軸が内燃機関のクランクシャフトであり、前記クランクシャフトの上側及び下側に設けられる上下一対の半円筒状の半割り軸受を組み合わせることで円筒状に形成される前記すべり軸受であって、前記溝部が、前記内筒面に樹脂をコーティングすることで形成され、前記上側の半割り軸受は、前記下側の半割り軸受よりも前記内筒面にコーティングされる前記樹脂の厚みが大きく形成されることが好ましい。言い換えると、前記上側の半割り軸受は、前記下側の半割り軸受よりも前記溝部が深く形成されるとともに、前記溝部の前記端部側を閉鎖する部分が大きく形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
開示のすべり軸受によれば、すべり面に回転軸の軸方向端部から軸方向中央部に向けて凹設された溝部を有し、この溝部の端部側が閉鎖されているため、回転軸とすべり面との隙間に入り込んだ潤滑油が軸方向端部から漏れ出すことを抑制することができ、漏れ量を低減させることができる。また、この溝部の中央部側が回転軸の回転方向に沿って傾斜しているため、回転軸とすべり面との隙間に入り込んだ潤滑油を中央部側へ導くことができ、より一層潤滑油の漏れ量を低減させることができる。つまり、簡素な構成で、隙間に入り込む潤滑油の保持力を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0017】
[1.構造]
[1−1.全体構造]
本実施形態のすべり軸受について、
図1〜
図3を用いて説明する。本実施形態では、
図1(a)に示すように、内燃機関(図示略)のクランクシャフト(回転軸)2を支持するすべり軸受に、本すべり軸受1が適用された例を説明する。クランクシャフト2は、シリンダブロック3の下部に形成された凹部3aと、凹部3aにボルト5等で締結されるクランクキャップ4との間に挟まれた状態で回転自在に支持される。すべり軸受1は、このクランクシャフト2とシリンダブロック3及びクランクキャップ4との間に介装される。
【0018】
すべり軸受1は、上下一対の半円筒状の半割り軸受10U,10Lを、クランクシャフト2の上下から挟んで組み合わせることで円筒状に構成される。なお、ここでは上側の半割り軸受10Uと下側の半割り軸受10Lとが同一形状に構成されている場合を説明する。以下、上側の半割り軸受10Uと下側の半割り軸受10Lとを特に区別しないときは、単に半割り軸受10という。
【0019】
なお、本すべり軸受1は、
図1(b)に示すように、クランクシャフト2とコネクティングロッド6(以下、コンロッド6と略称する)との間に介装される場合にも適用可能である。コンロッド6は、小端部がピストンピン7を介してピストン8と連結され、大端部がすべり軸受1を介してクランクシャフト2と連結される。クランクシャフト2の上側(ピストン8側)には、上側の半割り軸受10Uが配置され、クランクシャフト2の下側(ピストン8と逆側)には、下側の半割り軸受10Lが配置されて、クランクシャフト2を上下から挟んで組み合わされることで、円筒状のすべり軸受1が構成される。
【0020】
図2に示すように、半割り軸受10は、例えばコンロッド6の幅(すなわち、クランクシャフト2の軸方向の長さ)と同等の幅(軸方向の長さ)Wを有する半円筒状に形成された部材である。半割り軸受10には、周方向の両端面11,11と内筒面16との二つの角部に、それぞれ潤滑油や異物を排出するための面取り部13,13が形成される。また、内筒面16には、以下に詳述する樹脂コーティングが施されたすべり面12が形成される。上側の半割り軸受10Uと下側の半割り軸受10Lとは、互いの両端面11,11が当接された状態で、互いのすべり面12でクランクシャフト2を回転自在に支持する。なお、
図2は、厚み(径方向長さ)を大きく表現している。
【0021】
すべり面12とクランクシャフト2の外周面との間には、周方向に亘って僅かな隙間14が設けられる。この隙間14には潤滑油が入り込み、すべり面12とクランクシャフト2とのフリクション(摩擦)が低減される。潤滑油は、クランクシャフト2で駆動される図示しないオイルポンプで吸い上げられたオイルパン内のオイルであり、内燃機関を循環する際にこの隙間14に供給される。なお、潤滑油は、例えばシリンダブロック3から半割り軸受10に形成された小さな油孔(図示略)を通って隙間14に供給される。
【0022】
すべり面12とは、潤滑油を介してクランクシャフト2が摺接する面であり、ここでは内筒面16に樹脂がコーティングされた面を意味する。本すべり軸受1は、この内筒面16に施される樹脂コーティングのパターン(模様)に特徴がある。コーティングされる樹脂としては、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の低摩擦材料が用いられる。
【0023】
なお、
図2〜
図7では、すべり面12のうち樹脂コーティングされている部分(以下、樹脂コート部という)にはドットをつけて表現し、樹脂コート部以外(すなわち、内筒面16)にはドットをつけずに表現する。また、実際の樹脂コート部の厚み(膜厚)は数μm程度であるが、ここでは樹脂コート部の厚み(内筒面16から径方向内側に突出する長さ)を大きく表現する。
【0024】
[1−2.すべり面の構造]
図3(a)〜(d)は、内筒面16に施される樹脂コーティングのパターンを説明するための図である。
図3(a)は、
図2に示す半割り軸受10の展開図であり、図中横方向がクランクシャフト2の軸方向,図中縦方向がすべり軸受1の周方向である。
図3(b)は
図3(a)のB−B矢視断面拡大図、
図3(c)は
図3(a)のC−C矢視断面拡大図、
図3(d)は第一楔形溝部31の拡大図である。
【0025】
図3(a)〜(c)に示すように、すべり面12には、軸方向両端部に周方向に沿う樹脂コート部20,20が設けられる。この樹脂コート部20,20は、周方向両端部の面取り部13,13に亘ってそれぞれ設けられ、内筒面16から径方向内側に向かって突出している。樹脂コート部20,20は、軸方向外側の各面が半割り軸受10の軸方向の両端面15,15と同一の平面となるように設けられる。以下、この樹脂コート部20を特に凸部20と呼ぶ。すなわち、凸部20は内筒面16にコーティングされた樹脂で形成され、凸部20の突出量は樹脂の厚みに相当する。
【0026】
また、すべり面12には、凸部20,20よりも軸方向中央側に、軸方向中心線Cに沿う僅かな部分を除いて複数の樹脂コート部21,22が設けられる。樹脂コート部21は半割り軸受10の軸方向中心線Cよりも一端側(図中右側)に、樹脂コート部22は半割り軸受10の軸方向中心線Cよりも他端側(図中左側)に、それぞれ周方向に沿って複数並設される。樹脂コート部21,22は、軸方向中心線Cを対称軸とした線対称の形状に形成され、径方向中心側から見て、それぞれ軸方向両端側の辺を上底、軸方向中央側の辺を下底とした略台形に形成される。なお、樹脂コート部21,22は、周方向両端部では略台形の一部分が切り取られた形状に形成される。
【0027】
以下、この樹脂コート部21,22を特に島部21,22と呼ぶ。すなわち、島部21,22は内筒面16にコーティングされた樹脂で形成され、島部21,22の突出量(内筒面16から隆起された隆起量)は樹脂の厚みに相当する。ここでは、凸部20を形成する樹脂と島部21,22を形成する樹脂とは同じ樹脂が用いられる。
【0028】
島部21,22は、軸方向両端側から軸方向中央側へ行くに従って突出量が大きくなるように形成される。さらに、島部21,22の軸方向両端側の突出量は、凸部20,20の突出量よりも小さくなるように形成される。なお、ここでは、島部21,22の軸方向中央側の突出量が凸部20,20の突出量と略同じになるように形成される。つまり、内筒面16に施されるコーティングの樹脂の厚みは一定ではなく、凸部20,20と島部21,22とで異なるとともに、一つの島部21の中でも軸方向に沿って突出量が異なっている。
【0029】
島部21,22がこのような形状に設けられることで、コーティングされない残りの部分(図中の白い部分)には、島部21,22の突出量分だけすべり面12に凹設された複数の浅い溝部31,32と周方向に沿う浅い溝部33とが設けられる。溝部31,32は、軸方向両端側からそれぞれ軸方向中央側に向かって先細になる楔形状に形成され、軸方向中央側に行くに従って溝の深さが大きく形成される。ここでいう「溝の深さ」とは、溝部31,32を形成する縦壁のうち、対向する二面を含む縦壁の高さを意味し、ここでは島部21,22の頂面から内筒面16までの長さを意味する。
【0030】
また、溝部31,32の軸方向両端部は、凸部20,20によって閉鎖されている。言い換えると、すべり面12を径方向中心側から見たときに、軸方向両端部では溝が切られておらず(凹状に形成されておらず)、両端部から僅かに軸方向内側に位置する部分から中央部側に向かって溝が切られている(つまり、両端部は残されている)。したがって、溝部31,32の軸方向両端部は、クランクシャフト2との隙間14が極めて小さくなる。以下、半割り軸受10の軸方向中心線Cよりも一端側の楔形状の溝部31を第一楔形溝部(第一溝部)31と呼び、半割り軸受10の軸方向中心線Cよりも他端側の楔形状の溝部32を第二楔形溝部(第二溝部)32と呼ぶ。また、両者を特に区別しない場合は、単に楔形溝部31,32と呼ぶ。
【0031】
第一楔形溝部31及び第二楔形溝部32は、軸方向中心線Cを対称軸とした線対称の形状に形成され、それぞれ周方向に沿って複数並設される。
図3(d)に示すように、第一楔形溝部31は、三角形の底面31cと、底面31cに直角に設けられた対向する四角形の二面31d,31eと、底面31cに直角に設けられた基端部31b側の面とから形成された溝部であり、第二楔形溝部32も同様に構成されている。なお、底面31cは、半割り軸受10の内筒面16であり、対向する二面31d,31eは島部21,22の突出部分であり、基端部31b側の面は凸部20,20の突出部分に相当する。また、ここでは、基端部31b側の面の周方向長さ31fと島部21の上底の長さ21fとが、略同一に形成されているが、周方向長さ31fと上底の長さ21fとが異なっていてもよい。
【0032】
また、楔形溝部31,32は、基端部(軸方向端部側の端部)31b,32bに対して先端部(軸方向中央部側の端部)31a,32aが、クランクシャフト2の回転方向(ここでは下方)に対して、この回転方向に沿って傾斜している(楔形溝部31,32の先端部31a,32aは、クランクシャフト2の回転方向に向かっている)。つまり、楔形溝部31,32は、径方向中心側から見て、対向する二面31d,31eがいずれも軸方向に対して同じ方向(回転方向)に傾斜して形成される。なお、対向する二面31d,31eのうち、回転方向側の面31eの方が回転方向と逆側の面31dよりも軸方向に対する傾きがやや小さく形成される。これにより、中央部側の端部31a,32aが先細になり、楔形溝部31,32の先端部31a,31bが形成される。
【0033】
さらに第一楔形溝部31及び第二楔形溝部32は、先端部31aと先端部32aとがすべり面12の軸方向中央部において周方向に互い違いになるように形成される。言い換えると、第一楔形溝部31の先端部31aと第二楔形溝部32の先端部32aとが、周方向において一致しないように設けられ、さらにここでは、各先端部31a,32aが島部21,22の下底の周方向略中央に位置するように設けられる。なお、各先端部31a,32aの位置は、島部21,22の下底の周方向略中央に限られない。
【0034】
また、すべり面12の軸方向中央部に周方向に沿って形成された溝部33は、楔形溝部31,32の先端部31a,32aと連通して形成される。以下、この溝部33を中央溝部33と呼ぶ。中央溝部33は、周方向両端部の面取り部13,13に亘って凹設され、島部21,22の下底部分の膜厚分に相当する深さを有する。
【0035】
このような半割り軸受10は、例えば次のような工程で製造される。まず、板金を適切な大きさの矩形に切断し、切断した矩形片を半円筒状になるように曲げ加工する。そして、その内筒面16に、半円筒状の曲げ加工品よりも径の小さいローラを転がして樹脂をコーティングする。なお、このローラの外周面には部分的に形成された凹み部が設けられており、この凹み部を除いた部分に樹脂がつけられる。これにより、内筒面16にローラを転がすことで、ローラの外周面につけられた樹脂が内筒面16に転写されて、樹脂コート部20,21,22と溝部31,32,33とを有するすべり面12が形成される。最後にすべり面12を仕上げ加工して突出量を調整することで、所望の溝部31,32,33を得るための凸部20と島部21,22とが形成される。
【0036】
[2.作用,効果]
本すべり軸受1は、このように構成された上下一対の半割り軸受10U,10Lが、クランクシャフト2を上下から挟んで組み合わされ、クランクシャフト2を支持する。このような状態でクランクシャフト2が回転すると、オイルポンプから吸い上げられて循環したオイルが、すべり軸受1のすべり面12とクランクシャフト2の外周面との隙間14に潤滑油が入り込む。このときクランクシャフト2は、上側の半割り軸受10Uのすべり面12よりも下側の半割り軸受10Lのすべり面12により接近する。そして、隙間14に入り込んだ潤滑油は、クランクシャフト2の回転につられ、下側の半割り軸受10Lのすべり面12との狭い隙間14へ引きずり込まれる。これにより、圧力(油圧)が発生してすべり軸受1が浮かされ、クランクシャフト2の回転時の摩擦抵抗を低減する。
【0037】
このとき、本すべり軸受1は、すべり面12にクランクシャフト2の軸方向両端部から軸方向中央部に向けて凹設された溝部31,32を有し、この溝部31,32の端部側が凸部20,20により閉鎖されているため、隙間14に入り込んだ潤滑油が軸方向両端部から漏れ出すこと(いわゆるサイドリーク)を抑制することができ、漏れ量を低減させることができる。
【0038】
これにより、潤滑に必要となる油量を低減することができ、オイルを吸い上げ循環させるオイルポンプを小型化することができ、摩擦損失を低減させることができる。また、サイドリークを抑制することができるため、隙間14に形成された油膜をアイドルストップ中(すなわち、クランクシャフト2の回転が停止したとき)であっても、保持していることができる。このように、本すべり軸受1によれば、溝部31,32の軸方向端部側を閉鎖するという簡素な構成で、潤滑油の保持力を高めることができる。さらに、保持力を高めることで、すべり面12の摩耗を抑制でき、すべり軸受1の製品寿命を延長することができる。
【0039】
また、すべり面12に凹設された溝部31,32の中央部側の端部31a,32aが、クランクシャフト2の回転方向に対し、この回転方向に沿って傾斜しているため、クランクシャフト2とすべり面12との隙間14に入り込んだ潤滑油を溝部31,32の先端部31a,32aへ導くことができる。これにより、サイドリークを一層抑制しながら、すべり面12の軸方向中央部側の油圧を高めることができる。したがって、高油圧時はもちろん、低油圧時においても油膜を保持することができる。
【0040】
また、これら溝部31,32が、端部側から中央部側に向かって先細に形成された楔形状に形成されるため、隙間14に入り込んだ潤滑油をよりスムーズに溝部31,32の先端部31a,32a側へ導くことができるとともに、中央部側の油圧を高めることができる。
また、すべり面12には、軸方向両端部側から中央部側に向かって第一楔形溝部31と第二楔形溝部32とが形成されるため、隙間14に入り込んだ潤滑油を両端部側から中央部側へ導くことができ、中央部側の油圧をより効率的に高めることができる。
【0041】
また、第一楔形溝部31と第二楔形溝部32とが複数設けられることで、すべり軸受1のすべり面12において、周方向の複数の箇所で端部側から中央部側へ潤滑油を導くことができる。また、第一楔形溝部31の先端部31aと第二楔形溝部32の先端部32aとが周方向において互い違いに設けられているため、楔形溝部31,32の先端部31a,32aを軸方向中央部に効率的に配置することができ、すべり面12の軸方向中央部の油圧をより効率的に上昇させて油膜を保持することができる。
【0042】
また、すべり面12の軸方向中央部に周方向に沿う中央溝部33が形成され、中央溝部33が楔形溝部31,32の先端部31a,32aと連通されるため、楔形溝部31,32を通じてすべり面12の軸方向中央部に導かれた潤滑油を中央部で保持しておくことができ、すべり面12での潤滑油の保持力をより効果的に高めることができる。
【0043】
また、すべり面12に形成される溝部31,32が端部側から中央部側に向かって深さが大きくなるように形成されるため、すべり面12の中央部側により効果的に潤滑油を導くとともに保持しておくことができる。さらに、溝部31,32が端部側から中央部側に向かって深さが大きくなるように形成されるということは、溝部31,32を構成する島部21,22の突出量が端部側から中央部側に向かって大きくなることを意味し、これにより中央部側で保持される潤滑油の油圧を効果的に高めることもできる。
【0044】
また、溝部31,32が、内筒面16に樹脂をコーティングすることで形成され、端部側から中央部側に向かって樹脂の厚みが大きくされるため、すべり面12の中央部側の油圧をより高めて形成された油膜を保持することができる。つまり、コーティングする樹脂の厚みを変更することで、サイドリーク量や油圧を調整することができる。また、低摩擦材料の樹脂を用いることで、クランクシャフト2とすべり面12との摩擦をより低減することができる。さらに本実施形態では、凸部20を形成する樹脂と島部21,22を形成する樹脂とが同一のため、製造が容易である。
【0045】
[3.変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、内筒面16に施される樹脂コーティングのパターンの変形例を
図4〜
図7に示す。これらは、樹脂コーティングのパターンのみが異なり、その他の構成は上記した実施形態と同一であり、同一の構成については同一の符号を付して説明は省略する。
【0046】
図4に示すように、この変形例(第一変形例)に係る半割り軸受10
Aは、上記実施形態の構成に比べて、第一楔形溝部31の先端部31aと第二楔形溝部32の先端部32aとが、すべり面12の軸方向中央部において周方向に一致して設けられる点が異なる。言い換えると、周方向に複数並設された島部21,22が、軸方向中心線Cを対称軸として線対称に設けられる。このように構成された半割り軸受10
Aからなるすべり軸受1によれば、上記実施形態で得られる効果のうち、先端部31a,32aが互い違いに設けられた場合の効果に代えて、構成をより簡素にすることができ、製造が容易になる。なお、その他の効果は第一変形例の構成によっても同様に得ることができる。
【0047】
また、
図5に示すように、この変形例(第二変形例)に係る半割り軸受10
Bは、上記実施形態の構成に比べて、中央溝部33が設けられていないことが異なる。言い換えると、樹脂コート部21,22が軸方向中央部においてつながって形成されている。このように構成された半割り軸受10
Bからなるすべり軸受1によれば、上記実施形態で得られる効果のうち、中央溝部33が設けられた場合の効果に代えて、軸方向中央部の油圧をより高めることができ、楔形溝部31,32で軸方向中央部へ導かれた潤滑油によって形成される油膜をより効果的に保持することができる。なお、その他の効果は第二変形例の構成によっても同様に得ることができる。
【0048】
また、
図6(a),(b)に示すように、これらの変形例(第三変形例及び第四変形例)に係る半割り軸受10
C,10
Dは、上記実施形態の凸部20,20を除いて、内筒面16に施される樹脂コーティングの形状が異なり、これに伴い溝部の形状も異なる。
図6(a)に示す第三変形例では、凸部20,20よりも軸方向中央側に、径方向中心側から見て平行四辺形状の複数の島部24が設けられ、これにより、隣合う島部24の間に複数の溝部34が周方向に並設される。溝部34は、すべり面12の一端側から他端側へ軸方向に対して斜めに形成される。このように構成された半割り軸受10
Cからなるすべり軸受1によっても、軸方向両端部からのサイドリークを抑制することができ、潤滑油の保持力を高めることができる。
【0049】
また、
図6(b)に示す第四変形例では、凸部20,20よりも軸方向中央側に、径方向中心側から見て略V字型の複数の島部25が設けられ、これにより、隣合う島部25の間に略V字型の複数の溝部35が周方向に並設される。溝部35は、すべり面12の軸方向一端側から中央部側へ伸び、且つ回転方向に沿って傾斜した第一溝部35aと、すべり面12の軸方向他端側から中央部側へ伸び、且つ回転方向に沿って傾斜した第二溝部35bとから構成される。なお、第一溝部35a及び第二溝部35bは、上記実施形態と異なり、先細に形成されていない。また、軸方向中心線C上において、第一溝部35aと第二溝部35bとはつながっている。
【0050】
このように構成された半割り軸受10
Dからなるすべり軸受1によっても、上記実施形態と同様、隙間14に入り込んだ潤滑油のサイドリークを抑制することができ、漏れ量を低減させることができ、これによる上記した効果を得ることができる。つまり、すべり軸受1の軸方向両端部に、周方向に沿い径方向内側に向かって突設された凸部20,20が設けられることで、溝部34,35の軸方向端部が閉鎖されているため、軸方向両端部からのサイドリークを抑制することができ、潤滑油の保持力を高めることができる。
【0051】
さらに、上記実施形態や第一,第二,第四変形例のように、軸方向端部側から中央部側へ伸び、且つ回転方向に沿って傾斜した溝部が設けられることで、サイドリークをより効果的に抑制することができるとともに、中央部の油圧を高めることも可能となる。なお、内筒面16にコーティングされる樹脂のパターンは、上記した島部21,22,24,25の形状(角度や幅など)に限られず、溝部31,32,34,35の数も任意である。
【0052】
また、
図7(a)〜(c)に示すように、この変形例(第五変形例)に係る半割り軸受10
Eは、上記実施形態の構成に比べて、島部21,22の突出量が凸部20,20の突出量と同一であり、軸方向において一定である点が異なる。言い換えると、溝部31,32の深さが軸方向において一定である。これは、例えば内筒面16に、厚みが一定となるように樹脂をコーティングした後、コーティング部分を部分的に削り取ることで形成することができる。このように構成された半割り軸受10
Eからなるすべり軸受1によれば、上記実施形態で得られる効果のうち、溝部31,32の深さが軸方向で異なる場合の効果に代えて、構成をより簡素にすることができ、製造が容易になるという効果が得られる。なお、その他の効果は第五変形例の構成によっても同様に得ることができる。
【0053】
また、
図7(c)中に一点鎖線で示すように、内筒面16に厚みが一定となるように樹脂をコーティングした後、コーティング部分を削って溝部31,32を形成する際に、軸方向端部側から中央部側に行くに従って、溝部31,32の深さが大きくなるように、削り取る樹脂の高さを変更してもよい。つまり、軸方向端部側は樹脂コート部が残るように削り、軸方向中央側は樹脂コート部を略削り取ってしまうことで、溝部31,32の深さが異なるようにしてもよい。また、この他にも、例えば、内筒面16を切削又は研削加工して凹部を設け、これを溝部としてもよい。つまり、すべり面12に形成される溝部31,32の形成方法は、どのような手法であっても構わない。
【0054】
また、上記実施形態では、上側の半割り軸受10Uと下側の半割り軸受10Lとが同一形状に構成されている場合を説明したが、上側の半割り軸受10Uが下側の半割り軸受10Lよりも内筒面16にコーティングされる樹脂の厚みが大きく形成されていてもよい。上記したように、クランクシャフト2は、回転すると上側の半割り軸受10Uのすべり面12よりも下側の半割り軸受10Lのすべり面12により接近する。つまり、上側の半割り軸受10Uのすべり面12とクランクシャフト2との隙間14が下側に比べて若干広くなり潤滑油が漏れ易くなってしまう。
【0055】
そのため、上側の半割り軸受10Uの樹脂のコーティングの厚みを下側の半割り軸受10Lに比べて大きく形成することで、サイドリークをより効果的に抑制することができる。なお、溝部31,32の軸方向端部を閉鎖する凸部20,20を大きく形成することで、より効果的にサイドリークを
抑制することができる。例えば、凸部20,20の突出量(高さ)を大きくしてもよく、凸部20,20の幅(軸方向長さ)を大きくしてもよい。また、下側の半割り軸受10Lは、凸部20,20を上側の半割り軸受10Uよりも小さくすることで、油圧をより高めて油膜を保持する力を大きくすることができる。
【0056】
なお、本すべり軸受1は、内燃機関のクランクシャフト2を支持する以外にも、様々な回転軸に適用可能である。また、上記のように上下一対の半割り軸受10U,10Lを組み合わせて構成されるものに限らず、一つの円筒状のすべり軸受であってもよい。