特許第5983100号(P5983100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983100
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ガラス基材
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0392 20060101AFI20160818BHJP
   H01L 31/0749 20120101ALI20160818BHJP
【FI】
   H01L31/04 284
   H01L31/06 460
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-148148(P2012-148148)
(22)【出願日】2012年7月2日
(65)【公開番号】特開2013-42116(P2013-42116A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2015年6月1日
(31)【優先権主張番号】特願2011-157469(P2011-157469)
(32)【優先日】2011年7月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 明彦
(72)【発明者】
【氏名】川村 昌正
(72)【発明者】
【氏名】谷田 正一
(72)【発明者】
【氏名】六車 真人
(72)【発明者】
【氏名】姫井 裕助
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/068225(WO,A1)
【文献】 特開昭63−159238(JP,A)
【文献】 特開2010−180076(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池に用いられるガラス基材であって、少なくとも一方の面において、深さ0.2μmにおけるナトリウム濃度が、深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対して、相対値で0.55以上であり、且つガラス基材表面から深さ0.01μmにおけるカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの濃度の合量に対する、深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度の比が5以上であることを特徴とするガラス基材。
【請求項2】
ガラス基材における深さ方向のナトリウム濃度分布曲線が、ガラス基材表面から深さ0.2μm未満において屈曲点を示し、かつ、ガラス基材表面と屈曲点との間におけるナトリウム平均濃度勾配が、屈曲点と深さ0.2μmの位置との間におけるナトリウム平均濃度勾配に対して、相対値で2以上であることを特徴とする請求項1に記載のガラス基材。
【請求項3】
ガラス基材における深さ方向のカリウム濃度分布曲線が、ガラス基材表面から深さ0.05μm以内において極小値を示すことを特徴とする請求項1または2に記載のガラス基材。
【請求項4】
歪点が520℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基材。
【請求項5】
ガラス基材表面から深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度が、深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対して、相対値で0.02以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、特に、銅(Cu)−インジウム(In)−セレン(Se)(以降、CISと表記)、または、銅(Cu)−インジウム(In)−ガリウム(Ga)−セレン(Se)(以降、CIGSと表記)等の化合物半導体太陽電池に用いられるガラス基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はバルク型太陽電池と薄膜太陽電池に大別される。薄膜太陽電池は、基材上に形成された厚さ数ミクロン程度の半導体薄膜を発電層とする太陽電池であり、バルク型太陽電池に比べて発電に要する半導体材料が少量で済むことから、製造費あたりの発電効率(コストパフォーマンス)に優れた太陽電池として今後の普及が予想されている。中でも化合物半導体太陽電池は、薄膜シリコン太陽電池に比べて発電効率に優れ、かつ、製造プロセスの自由度が高いため、さらに優れたコストパフォーマンスが実現可能であると期待されている。特に、CISおよびCIGS太陽電池は、同じ化合物半導体太陽電池であるカドミウム(Cd)−テルル(Te)太陽電池と比べて優れた発電効率が得られ、かつ、有害物質であるカドミウムを含有しないため、コストパフォーマンスに優れた安全な太陽電池として、今後の急速な普及が予想されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
化合物半導体太陽電池は、一般に、ガラス基材上にモリブデン等の電極、CISまたはCIGS等の化合物半導体層、CdSまたはZnS等のバッファー層、および、ZnO、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)またはITO(スズドープ酸化インジウム)等の透明導電膜がこの順に形成されてなる構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−330614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CISまたはCIGS太陽電池等の化合物半導体太陽電池は、半導体結晶中にナトリウム(Na)が含有されることで結晶の組成安定領域が拡大し、太陽電池の発電効率が高くなることが知られている。
【0006】
化合物半導体層にナトリウムを含有させるには、半導体結晶の成膜中に原料としてナトリウムまたはナトリウム含有化合物を供給する方法が挙げられる。しかしながら、この方法ではナトリウムの添加量を制御しやすいものの、工程が複雑になるという問題がある。
【0007】
その他の方法として、製造工程においてガラス基材中のナトリウムを、モリブデン等の金属電極を介して化合物半導体層に拡散させる方法がある。この方法は、工程がシンプルであり、コストパフォーマンスに優れている。しかしながら、太陽電池に用いられる従来のガラス基材は、化合物半導体層へのナトリウム供給能が不十分であった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて成されたものであり、化合物半導体太陽電池等の太陽電池用ガラス基材として、優れたナトリウム供給能を有するガラス基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、太陽電池に用いられるガラス基材であって、少なくとも一方の面において、深さ0.2μmにおけるナトリウム濃度が、深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対して、相対値で0.55以上であることを特徴とするガラス基材に関する。
【0010】
太陽電池の製造工程において、ガラス基材から化合物半導体層へのナトリウムの拡散は、ガラス基材のごく表層で起こる現象であり、ガラス基材表層におけるナトリウム分布状態が化合物半導体層へのナトリウム供給能に大きく影響する。したがって、化合物半導体太陽電池に適したガラス基材の組成設計は、ガラス基材全体の平均組成ではなく、ガラス基材表面付近の組成に着目した設計とすることが重要である。具体的には、ガラス基材表層のナトリウムの濃度分布を上記のように規制することによって、優れたナトリウム供給能を得ることができる。
【0011】
第二に、本発明のガラス基材は、ガラス基材における深さ方向のナトリウム濃度分布曲線が、ガラス基材表面から深さ0.2μm未満において屈曲点を示し、かつ、ガラス基材表面と屈曲点との間におけるナトリウム平均濃度勾配が、屈曲点と深さ0.2μmの位置との間におけるナトリウム平均濃度勾配に対して、相対値で2以上であることが好ましい。
【0012】
ガラス基材表面から化合物半導体層にナトリウムが継続的に供給されるためには、常にガラス基材の内部から表面へナトリウムが補給されなければならない。ガラス基材中での成分の移動は拡散現象として扱うことができ、下記のフィックの第一法則によって表わされる。単位時間内に単位断面積を通過する成分の拡散量Jは、その位置における当該成分の濃度勾配に比例し、その比例定数は拡散係数と呼ばれる。
【0013】
J=−D(dc/dx)
【0014】
式中、cは成分の濃度、xは距離、dc/dxは成分の濃度勾配、Dは拡散係数を表わす。成分は濃度の高い方から低い方に拡散するため、拡散係数には負の符号が付される。すなわち、濃度勾配が正に大きいほうが単位時間内に拡散する成分の量が多く、拡散速度が速いことを示す。
【0015】
本発明者らの調査によると、ガラス基材表層でのナトリウム濃度勾配が大きい場合には、その濃度分布曲線は、ガラス基材表面から深さ0.2μm未満で一旦屈曲点を示し、その後、ガラス基材内部に向かって、よりなだらかな勾配で濃度上昇することが明らかになった。したがって、ガラス基材表面から屈曲点までのナトリウムの平均濃度勾配とそれより内部(屈曲点と深さ0.2μmの位置との間)における平均濃度勾配の比が上記範囲を満たすことにより、ガラス基材の内部から表面へのナトリウムの拡散量および拡散速度が大きくなり、ガラス基材表面に対し、効率よくナトリウムを補給することが可能になる。
【0016】
なお、屈曲点はナトリウム濃度分布曲線における濃度の二次微分(=d/dx(dc/dx))が負に最大となる点を指す。
【0017】
第三に、本発明のガラス基材は、ガラス基材における深さ方向のカリウム濃度分布曲線が、ガラス基材表面から深さ0.05μm以内において極小値を示すことが好ましい。
【0018】
ガラス基材表面付近でナトリウムが減少した部分では、陽イオンが不足するため負に帯電しやすくなるが、カリウム(K)はその近傍に濃縮されて陽イオンとして存在し、電荷のバランスを保持する役割を担う場合がある。よって、同じアルカリ金属元素であっても、カリウムはナトリウムとは異なった挙動を示し、濃度分布もナトリウムとは別のパターンを示しやすい。
【0019】
ガラス基材がカリウムを含有する場合、ガラス基材表面から深さ0.05μm以内の部分にカリウムが濃縮されることで、効果的に電荷のバランスが整えられ、効率的なナトリウムの供給が可能となると考えられる。なお、カリウムの濃度分布状態は、ガラス基材表層においてカリウムが濃縮した結果生じる、濃度分布曲線の極小置の位置で規定することができる。
【0020】
第四に、本発明のガラス基材は、歪点が520℃以上であることが好ましい。
【0021】
ガラス基材の歪点が上記範囲を満たすことにより、後述する理由から、表層において所定のナトリウム濃度を満たすガラス基材を作製しやすくなる。また、太陽電池の製造工程においてガラス基材が熱により変形することを抑制できる。
【0022】
第五に、本発明のガラス基材は、ガラス基材表面から深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度が、深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対して、相対値で0.02以上であることが好ましい。
【0023】
ガラス基材表面から深さ0.01μmでのナトリウム濃度を上記のように規定することによってガラス基材表面付近のナトリウムの濃度勾配がより急峻となり、ナトリウムの拡散量、および拡散速度が大きくなり、ガラス基材表面に対し、より効率よくナトリウムを補給することが可能になる。
【0024】
第六に、本発明のガラス基材は、ガラス基材表面から深さ0.01μmにおけるカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの濃度の合量に対する、深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度の比が5以上であることが好ましい。
【0025】
本発明者らの調査によると、ガラス基材表面におけるナトリウム供給能を高めるためには、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウム等のアルカリ土類元素の表面付近濃度に対する、ナトリウム濃度の割合を高くすることが好ましいことがわかった。具体的には、深さ0.01μmにおけるカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの濃度の合量に対する、深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度の比を上記範囲とすることによって、より優れたナトリウム供給能を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)実施例1におけるガラス基板表層のナトリウム濃度分布を示すグラフである。(b)実施例1におけるガラス基板表層のナトリウムおよびカリウムの濃度分布を示すグラフである。
図2】(a)実施例2におけるガラス基板表層のナトリウム濃度分布を示すグラフである。(b)実施例2におけるガラス基板表層のナトリウムおよびカリウムの濃度分布を示すグラフである。
図3】(a)比較例におけるガラス基板表層のナトリウム濃度分布を示すグラフである。(b)比較例におけるガラス基板表層のナトリウムおよびカリウムの濃度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のガラス基材は、少なくとも一方の面において、深さ0.2μmにおけるナトリウム濃度が、深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対して、相対値で0.55以上である。当該相対値が小さすぎると、化合物半導体層へのナトリウム供給能が不十分となる傾向がある。当該相対値の好ましい範囲は0.65以上、さらには0.75以上である。なお、上限は特に限定されないが、現実的には0.99以下、さらには0.9以下である。
【0028】
また、本発明のガラス基材は、ガラス基材の深さ方向のナトリウム濃度分布が、ガラス基材表面から深さ0.2μm未満において屈曲点を示し、かつ、ガラス基材表面と屈曲点との間におけるナトリウム平均濃度勾配が、屈曲点と深さ0.2μmの位置との間におけるナトリウム平均濃度勾配に対して、相対値で2以上であることが好ましい。当該相対値が小さすぎると、ガラス基材の内部から表面へのナトリウムの拡散量または拡散速度が小さくなって、ガラス基材表面に対し、効率よくナトリウムが補給されにくくなる。当該相対値のより好ましい範囲は4以上、さらには8以上である。なお、上限は特に限定されないが、現実的には50以下、特に20以下である。
【0029】
さらに、本発明のガラス基材は、ガラス基材における深さ方向のカリウム濃度分布曲線が、ガラス基材表面から深さ0.05μm以内において極小値を示すことが好ましい。より好ましくは、当該極小置の位置は、ガラス基材表面から深さ0.04μm以内、さらには0.03μm以内である。当該極小置の位置が上記範囲を超えてガラス基材内部側に寄りすぎると、ナトリウムが化合物半導体層に移動した後に、ガラス基材表層において電荷がアンバランスになりやすく、ナトリウム拡散能が低下するおそれがある。
【0030】
本発明のガラス基材は、ガラス基材表面から深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度が、深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対して、相対値で0.02以上であることが好ましい。より好ましい範囲は0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.4以上、最も好ましくは0.45より大である。
【0031】
本発明のガラス基材は、ガラス基材表面から深さ0.01μmにおけるカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの濃度の合量に対する、深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度の比が5以上であることが好ましい。より好ましい範囲は10以上、さらに好ましい範囲は15以上、さらにより好ましい範囲は20以上である。
【0032】
なお、ガラス基材表面にごく近い部分での含有成分の濃度変化を検出するには、グロー放電光スペクトル分光(GD−OES:Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy)法が有効である。これは、ガラス基材表面を比較的小さなエネルギーでスパッタしながら、ガラス基材表面の発光状態から含有成分を検出する方法であり、二次イオン質量分析法に比べてガラス基材表面に与えるエネルギーが小さいために、分析中にガラス基材中での含有成分の移動が起こりにくい。よって、ガラス基材のごく表面付近における含有成分濃度を高い空間分解能で定量することができ、精度の高い濃度分布情報を得ることができる。本発明においてガラス基材の表面付近における成分の濃度は、ガラス基材の表面から深さ1μmにおける各成分の濃度を基準にした相対値として定義される。
【0033】
ガラス基材表面付近のナトリウムの濃度分布は、ガラス融液の成形プロセスや、成形後の各種表面処理等によって影響を受ける。例えば、フロート法による成形プロセスでは、スズバス上での滞留時間が長くなったり、ガラス融液の温度が高くなると、ガラス融液表面からのナトリウム蒸発量が多くなる。また、成形後に傷防止のためにガラス基材表面にSOガスを噴霧し、ガラス基材表面にNaSOを形成する方法が知られているが、これによってもガラス基材表面のナトリウムが抽出される。さらに、ナトリウムは水または水蒸気との接触によってもガラス基材表面から溶出し、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩を形成することも知られている。このように、ガラス基材中に存在するナトリウムは製造工程において抽出される傾向にあるため、ガラス基材におけるナトリウム濃度は表面に近いほど低くなる傾向がある。なお、カルシウム(Ca)についても、同様の濃度分布を示すことがわかっている。
【0034】
一方、ガラス基材表面付近のカリウムは、既述の通り、ナトリウム(あるいはカルシウム)が減少した部分において、電荷のバランスを保持するように分布する傾向がある。
【0035】
このように、ガラス基材表層のナトリウムおよびカリウムの濃度分布は種々の要因によって変化するが、特に、成形後に傷防止のためにガラス基材表面にSOガスを噴霧する際の温度を高くしたり、SOガスの濃度を低くしたりすることにより、上記所定の濃度分布を満たしやすくなる。特に、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウム等のアルカリ土類元素の表面付近濃度の低下に対し、ナトリウムの表面付近濃度を高く維持することが容易になる。
【0036】
本発明のガラス基材の歪点は520℃以上であることが好ましく、550℃以上であることがより好ましく、580℃以上であることがさらに好ましく、600℃以上であることが特に好ましい。ガラス基材の歪点が低すぎると、SOガス噴霧や電極等の成膜等の製造工程において熱変形が生じやすくなる。
【0037】
本発明のガラス基材の組成(ガラス基材全体の平均組成)としては、例えば下記に示す範囲(質量百分率)が挙げられる。
SiO:45〜65%
Al:1〜18%
LiO:0〜5%
NaO:1〜10%
O:0〜15%
MgO:0〜12%
CaO:0〜12%
SrO:0〜18%
BaO:0〜18%
ZrO:0〜10%
【0038】
上記のようにガラス組成を限定した理由は以下のように説明される。
【0039】
SiOはガラスの網目形成成分であり、その含有量は45〜65%、好ましくは46〜60%、より好ましくは46〜55%である。SiOの含有量が少なすぎると、歪点が低くなる傾向がある。一方、SiOの含有量が多すぎると、溶融温度が高くなるため溶融性が低下したり、成形時に失透しやすくなる。
【0040】
Alは歪点を高めるための成分であり、その含有量は1〜18%、好ましくは2〜15%、より好ましくは7〜15%、さらに好ましくは11.1〜15%、特に好ましくは12〜15%である。Alの含有量が少なすぎると、歪点を高める効果が得られにくい。一方、Alの含有量が多すぎると、溶融温度が高くなるため溶融性が低下したり、成形時に失透しやすくなる。
【0041】
LiO、NaOおよびKOは、いずれもガラスの溶融性を向上させるとともに、熱膨張係数を制御するための成分である。これらの成分の含有量が少なすぎると、溶融温度が高くなり溶融性が低下しやすく、一方、多すぎると、歪点が低くなりやすくなる。なお、上記効果を十分に得るためには、これらの成分の合量を適宜調整することが好ましい。具体的には、LiO、NaOおよびKOの合量は好ましくは7〜20%、より好ましくは7〜15%、さらにl好ましくは8〜13%である。
【0042】
MgO、CaO、SrOおよびBaOは、いずれも溶融性を向上させるとともに、熱膨張係数を制御するための成分である。これらの成分の含有量が多すぎると、成形時に失透しやすくなる。なお、上記効果を十分に得るためには、これらの成分の合量を適宜調整することが好ましい。具体的には、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量は好ましくは10〜27%、より好ましくは15〜25%である。
【0043】
ZrOは歪点を高め、かつ、化学的耐久性を向上させる成分である。ZrOの含有量は0〜10%、好ましくは1〜7%である。ZrOの含有量が多すぎると、成形時に失透しやすくなる。
【0044】
上記成分以外にも、ガラスの紫外線による着色(ソーラリゼーション)を抑制するための成分としてTiOを含有することができる。ガラス基材中に不純物として鉄イオンを含有(例えば、0.01〜0.2%)していると、当該ガラス基材を用いた太陽電池を長期間使用することにより、鉄イオンによる着色が生じやすくなる。そこで、TiOを含有させることによって、この種の着色を抑制することができる。TiOの含有量は0〜5%、好ましくは0.01〜4%、より好ましくは1〜4%である。TiOの含有量が多すぎると、成形時に失透しやすくなる。
【0045】
また、清澄剤として、SnO、Sb、AsおよびSO等を合量で0〜1%含有しても構わない。これらの成分の含有量が多すぎると、成形時に失透しやすくなる。
【0046】
本発明のガラス基材は特にCISやCIGS等の化合物半導体を有する太陽電池の基材として用いた場合に優れた効果を発揮するが、対象となる化合物半導体の種類はこれらに限定されない。例えば、I族元素として銀(Ag)を、III族元素としてアルミニウム(Al)を、VI族元素として硫黄(S)等を用いた化合物半導体にも適用可能である。さらに、本発明のガラス基材は、Cu、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、SeまたはS等からなる、いわゆるCZTS系太陽電池にも適用可能である。
【0047】
本発明のガラス基材の形状は特に限定されず、例えば板状や管状が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明のガラス基材の一例であるガラス基板について、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1および2)
下記のガラス組成となるように原料粉末を調合した。
SiO:56%
Al:7%
NaO:4%
O:7%
MgO:2%
CaO:2%
SrO:9%
BaO:9%
ZrO:4%
【0050】
原料粉末を所定温度で溶融し、フロート法によって厚さ1.8mmの板状に成形した後、連続式徐冷炉によって冷却した。徐冷炉内にはガラス基板表面の傷防止のためにSOガスを導入し、650〜700℃でガラス基板表面に接触させた。実施例1では徐冷後に水洗し、実施例2では徐冷後に研磨して、ガラス基板表面に析出した硫酸塩を除去した。
【0051】
次に、得られたガラス基板の表層におけるナトリウム、カリウムおよびアルカリ土類金属の濃度分布をGD−OES法によって求めた。結果を図1および2ならびに表1に示す。なお、図1および2のグラフの横軸はガラス基板表面からの距離(深さ)、縦軸は濃度(任意単位)を示している。また、図1(b)および図2(b)において、点線aはガラス基板表面と屈曲点との間におけるナトリウムの平均濃度勾配、点線bは屈曲点と深さ0.2μmの位置との間におけるナトリウムの平均濃度勾配を示す。
【0052】
(実施例3)
下記のガラス組成となるように原料粉末を調合した。
SiO:51%
Al:13%
NaO:6%
O:4%
CaO:5%
SrO:12%
BaO:4%
ZrO:5%
得られた原料粉末を用いて、実施例1と同様の方法によりガラス基板を作製した。得られたガラス基板の表層におけるナトリウム、カリウムおよびアルカリ土類金属の濃度分布をGD−OES法によって求めた。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例)
ガラス基板へSOを接触させる際の温度を500〜600℃にした以外は、実施例1と同様の方法によりガラス基板を作製した。
【0054】
得られたガラス基板の表層におけるナトリウム、カリウムおよびアルカリ土類金属の濃度分布をGD−OES法によって求めた。結果を図3および表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
図1および2ならびに表1に示されるように、実施例1〜3のガラス基板は、表面から0.2μmにおけるナトリウム濃度は、表面から1μmにおけるナトリウム濃度に対して、0.78〜0.88と、0.5より大きかった。また、ナトリウム濃度分布曲線において、ガラス基板表面から0.2μm未満の位置に屈曲点を有しており、ガラス基板表面と屈曲点との間におけるナトリウム平均濃度勾配a、および、屈曲点と深さ0.2μmの位置との間における平均濃度勾配bの比は、5.3〜29と、2よりも大きかった。さらに、カリウム濃度分布曲線における極小値は、ガラス基板表面から0.022〜0.036μmと、ガラス基板表面から0.05μm以内に位置していた。このように実施例1〜3のガラス基板はいずれも本発明の要件を満たすため、例えば化合物半導体太陽電池の製造において、化合物半導体層に対して優れたナトリウム供給能を有していると言える。なお、表1に示されるように、実施例3のガラス基板は、表面からの深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対する深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度の比が0.5と高く、かつ、深さ0.01μmにおけるカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの濃度の合量に対する、深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度の比が24.9と高いため、特に優れたナトリウム供給能を有していると言える。
【0057】
一方、図3および表1に示されるように、比較例のガラス基板は、表面から0.2μmにおけるナトリウム濃度は、表面から1μmにおけるナトリウム濃度に対して0.4と、0.5より小さかった。また、ナトリウム濃度分布曲線には、表面から0.2μm未満において明瞭な屈曲点が見られなかった。さらに、カリウム濃度分布曲線における極小値は、ガラス基板表面から0.057μmと、ガラス基板表面から0.05μmより内部に位置していた。また、比較例のガラス基材は、表面から深さ1μmにおけるナトリウム濃度に対する深さ0.01μmにおけるナトリウム濃度の比が0.02より小さかった。
図1
図2
図3