(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インジェクタからの燃料の噴射時期を、前記ピストンの圧縮上死点よりも早期にして、前記燃料の噴射完了後に着火する予混合圧縮着火燃焼を行う運転領域を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べて熱効率が良く、二酸化炭素(CO
2)の排出量が少ないので石油枯渇問題や地球温暖化問題の観点から有利である。しかし、ディーゼルエンジンは、窒素酸化物(NOx)や微粒子状物質(Particulate Matter:以下、PMと略す)が排出されるとともに、このNOxとPMとが、一方が低減すると他方が増加するというトレードオフの関係にあり問題となっている。
【0003】
そこで、このようなディーゼルエンジンの問題を解決する予混合圧縮着火(Premixed Compression Ignition:以下、PCIと略す)燃焼方式が注目されている。このPCI燃焼は、燃焼室への燃料の噴射時期を、ピストンの圧縮上死点よりも早期にして、燃料の噴射完了後に着火する燃焼方法であり、NOxやPM等の物質を同時に低減することができる。
【0004】
しかし、PCI燃焼方法は、適用運転領域が軽負荷に限られるという問題があるので、その問題を解決するために、インジェクタ(燃料噴射弁)の噴孔径を小さくして、燃料を微粒化することにより、蒸発を促進させて、均一で希薄な予混合気を迅速に生成し、PCI燃焼による運転領域を拡大しようという試みがなされている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
ただし、噴孔径を小さくした場合、全負荷での燃費を悪化させないためには、一定期間内に必要量の燃料を噴射する必要がある。したがって、必要とされる総噴射孔面積を確保する必要があり、小径の噴孔を複数設ける多噴孔化が必須となる。
【0006】
ところで、多量の燃料を噴射する全負荷或いはそれに近い運転領域では、燃費を悪化させないためには、負荷に応じた必要な燃料量を一定期間内(例えばクランク軸角度で30度以内)に噴射する必要がある。従って、噴孔面積の小さなインジェクタを用いる場合、全負荷時に必要な燃料量を一定期間内に噴射することができる総噴孔面積を確保する必要があり、インジェクタの多噴孔化が必須となる。
【0007】
しかし、インジェクタを多噴孔化すると、隣り合う噴孔同士の間隔が狭くなるため、
図8の(a)〜(c)に示すように、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、壁面11aに沿ってキャビティ11の周方向x(
図8における左右方向)に広がった際に、隣り合う噴孔の噴霧F同士が干渉してしまう。この結果、噴霧F同士が重なり合う部分FLで燃料の過濃領域が形成され、スモーク(煤)の生成量が増大してしまう。
【0008】
このスモークの生成量の増大については、
図9に示すグラフから明らかである。このグラフは、インジェクタ5の噴孔5aの噴孔径および噴孔数毎に煤の生成量を比較して示しており、縦軸は煤の生成量、横軸は燃料噴射圧力を示している。このグラフによれば、噴孔径が小さく、噴孔総数が多い方が、噴孔径が大きく、噴孔総数が少ない方よりも、煤の生成量が多いことが分かる。
【0009】
この問題に対して、本発明者は、
図10の(a)に示すように、キャビティ11の壁面
11aに、各噴霧Fが衝突する部分に位置して、キャビティ11の内外方向y(
図10の(a)における紙面裏表方向であり、
図10の(b)における紙面上下方法)に沿ったキャビティ用溝15を複数形成した燃焼室10Xを備える装置(例えば、特許文献2参照)を考案した。
【0010】
この装置によれば、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fは、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、キャビティ用溝15に沿ってキャビティ11の内外方向yに案内されるので、噴霧Fが壁面11aに沿ってキャビティ11の周方向xに広がることによる隣り合う噴霧F同士の干渉が抑制される。この結果、燃料の過濃領域の形成が抑制され、スモークの発生量が低減される。
【0011】
一方、
図11(a)〜(d)に示すように、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、噴霧Fがシリンダヘッド4のヘッド面12に到達すると、噴霧Fはシリンダヘッド4のヘッド面12に沿って発達し、隣接する噴霧F(図示せず)と干渉することで過濃領域FLが形成されてしまうという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、インジェクタからキャビティに向けて噴射された燃料の噴霧が、キャビティの壁面に衝突した後にシリンダヘッドに到達して、燃焼室の周方向に広がり、隣り合う噴霧同士が干渉することによる燃料の過濃領域の形成を抑制することができる内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関は、ピストンの頂部に凹設され燃焼室の一部を形成するキャビティと、前記キャビティに対向するシリンダヘッドのヘッド面
と、このヘッド面に配置され、前記キャビティの壁面に、周方向に間隔を隔てて複数の燃料の噴霧を噴射するインジェクタと、を備える内燃機関において、前記ヘッド面の、前記インジェクタから噴射された前記噴霧が前記キャビティの壁面に衝突した後に到達する部分
のそれぞれに位置して設けられ
た複数のヘッド用溝群を備え、
これらのヘッド用溝群のそれぞれが複数のヘッド用溝を有しており、一つの前記ヘッド用溝群におけるそれらのヘッド用溝が互いに前記燃焼室の周方向に隣接して構成される。
【0015】
この構成によれば、インジェクタから噴射された燃料の噴霧がキャビティの壁面に衝突した後に、キャビティに対向するシリンダヘッドのヘッド面に到達しても、ヘッド面にヘッド用溝を設けたことにより、燃料の噴霧が、ヘッド用溝に沿って、つまり燃焼室の内外方向に沿って広がるのを促す。また、キャビティ用溝に交差する方向、つまり燃焼室の周方向に対しては、隣り合うキャビティ用溝同士の間の山の部分を乗り越えなければならないため相対的に抵抗が大きく広がりが抑えられる。
【0016】
これにより、隣り合う噴霧同士の干渉を抑制し、燃焼室内における燃料の過濃領域の形成を抑制することができるので、その結果、スモークの生成を抑制することができる。
【0017】
なお、インジェクタの各噴孔から噴射される燃料の噴霧が到達する部分毎に複数のヘッド用溝からなるヘッド用溝群を配置すると、より効率的に噴霧の周方向の広がりを抑制することができる。また、ここでいうヘッド面とは、シリンダヘッドの下面、吸気バルブの
下面、及び排気バルブの下面を含む面のことであり、ヘッド用溝群を、シリンダヘッドの下面、吸気バルブの下面、及び排気バルブの下面などを問わず、燃料の噴霧が到達する部分に設けるとよい。
【0018】
また、上記の内燃機関において、前記ヘッド用溝を、前記燃料噴射ノズルから前記キャビティに向けて噴射される燃料の噴射方向に対し、平行に形成すると、ヘッド用溝は、燃焼室の周方向に広がろうとする燃料に対して直交する配置となり、燃焼室の周方向に広がろうとする燃料に、的確に抵抗を与えることができる。
【0019】
加えて、上記の内燃機関において、前記キャビティの壁面に、前記噴霧が衝突する部分
のそれぞれに位置して設けられ
た複数のキャビティ用溝群を備え、
これらのキャビティ用溝群のそれぞれが複数のキャビティ用溝を有しており、一つの前記キャビティ用溝群におけるそれらのキャビティ用溝が互いにそのキャビティの周方向に隣接しており、前記ヘッド用溝
群と前記キャビティ用溝
群とが対向一致するように配置
されていると、キャビティの壁面とシリンダヘッドのヘッド面の両方で燃料が燃焼室の周方向に広がることを抑制することができる。
【0020】
まず、キャビティの壁面に衝突した燃料の噴霧が、キャビティ用溝に沿って広がるのを促し、キャビティ用溝に対して交差する方向に広がるのを抑制することができる。次に、噴霧がシリンダヘッドのヘッド面に到達しても、ヘッド用溝に沿って広がるのを促し、ヘッド用溝に対して交差する方向に広がるのを抑制することができる。
【0021】
特に、インジェクタの多噴孔化に対して、各噴霧の到達する部分毎にヘッド用溝群を配置し、さらにそのヘッド用溝群に対向する部分、つまり各噴霧の衝突する部分毎に複数のキャビティ用溝からなるキャビティ用溝群を配置すると、効果的である。
【0022】
さらに、上記の内燃機関において、前記インジェクタからの燃料の噴射時期を、前記ピストンの圧縮上死点よりも早期にして、前記燃料の噴射完了後に着火する予混合圧縮着火燃焼を行う運転領域を有すると、上記の作用効果により、PCI燃焼領域を拡大するため、噴孔径を小さくし、且つ多噴孔化する場合に発生する隣り合う燃料の噴霧F同士の干渉による煤の生成量の増加を抑制することができるので、PCI燃焼の燃焼領域を拡大することができる。これにより、NOxとPMを同時に低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インジェクタからキャビティに向けて噴射された燃料の噴霧が、キャビティの壁面に衝突した後にシリンダヘッドに到達して、燃焼室の周方向に広がり、隣り合う噴霧同士が干渉することによる燃料の過濃領域の形成を抑制することができる。その結果、スモークの生成を抑制することができる。
【0024】
そのため、インジェクタの噴孔径を小さくし、且つ噴孔数を多くすることができるので、PCI燃焼の燃焼領域を拡大し、NOxとPMを同時に効率よく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関の燃焼室を示す断面図である。
【
図2】
図1のシリンダヘッドのヘッド面を示す平面図である。
【
図3】
図1の内燃機関の燃料の噴霧の動きを示した図であり、(a)はヘッド用溝群の断面図を示し、(b)はヘッド用溝群の平面図を示す。
【
図4】
図1の内燃機関の燃料の噴霧の動きを示した図であり、燃料の噴霧がキャビティの壁面に衝突した後にシリンダヘッドのヘッド面に到達した直後を、(a)のキャビティの平面図と、(b)の燃焼室の斜視図で示し、燃料の噴霧がシリンダヘッドのヘッド面に到達してから一定の時間が経過した後を、(c)のキャビティの平面図と、(d)の燃焼室の斜視図で示す。
【
図5】本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関の燃焼室を示す断面図である。
【
図6】
図5のキャビティの壁面を示す平面図である。
【
図7】
図5の内燃機関の燃料の噴霧の動きを示した図であり、(a)は燃料の噴霧がキャビティの壁面に衝突した直後を示し、(b)は燃料の噴霧がシリンダヘッドのヘッド面に到達してから一定の時間が経過した後を示す。
【
図8】従来の内燃機関のインジェクタの噴孔から噴射された燃料の噴霧がキャビティ壁面に衝突し、隣り合う噴霧同士が干渉する様子を模式的に表す従来例の説明図であり、(a)は衝突直前、(b)は衝突直後、(c)は衝突後所定時間経過後の説明図である。
【
図9】従来の内燃機関のインジェクタの噴孔の径および数毎に煤の生成量を比較して示したグラフ図である。
【
図10】従来の内燃機関の噴霧が溝の部分に衝突した様子を示す説明図であり、(a)は溝、及び噴霧の断面図、(b)は溝、及び噴霧を噴射方向から見た平面図である。
【
図11】従来の内燃機関の燃料の噴霧の動きを示した図であり、燃料の噴霧がキャビティの壁面に衝突した後にシリンダヘッドのヘッド面に到達した直後を、(a)のキャビティの平面図と、(b)の燃焼室の斜視図で示し、燃料の噴霧がシリンダヘッドのヘッド面に到達してから一定の時間が経過した後を、(c)のキャビティの平面図と、(d)の燃焼室の斜視図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関について、図面を参照しながら説明する。なお、内燃機関として、トラックのような自動車両に搭載されるディーゼルエンジンを例に説明するが、本発明はこれに限定しない。また、図面に関しては、構成が分かり易いように寸法や数などを変化させており、各部材、各部品の板厚や幅や長さなどの比率も必ずしも実際に製造するものの比率、又は配置される数とは一致させていない。
【0027】
ここで、図面について補足する。燃料の噴霧が衝突、又は到達する位置における燃焼室の周方向をx、燃焼室の内外方向(若しくはピストンの半径方向)をyとする。また、
図1、
図2、
図5、及び
図6に示す一点鎖線については、燃料の噴霧Fの噴射方向Fxを示す。
【0028】
まず、本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、周知のエンジンの構成に加えて、シリンダヘッド4のヘッド面12の、インジェクタ5から噴射された燃料の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に到達する部分に位置して設けられ、燃焼室10の内外方向yに沿って形成された複数のヘッド用溝13を備える。
【0029】
詳しくは、このエンジン1は、シリンダ2、ピストン3、及びシリンダヘッド4を備え、シリンダヘッド4にインジェクタ(インジェクタ)5、吸気ポート6、吸気バルブ(吸気弁)7、排気ポート8、及び排気バルブ9を備える。燃焼室10は、中空状のシリンダ2の内壁面と、ピストン3の頂面(キャビティ11を含む)と、シリンダヘッド4のヘッド面12とに囲まれた空間に形成されている。
【0030】
このキャビティ11は、燃焼室10の一部を形成する領域であり、キャビティ11の壁面11aは、底面11bと、壁面11aの最外周で底面11bに交差する側面11cにより区画されている。キャビティ11の底面11bは、その中央から外周に向かって次第に深くなるように形成されており、これによりトロイダル型の燃焼室10が形成されている。ただし、キャビティ11の形状はトロイダル型に限定されるものではなく種々変更可能であり、例えばリエントラント型や浅皿型のような他の形状としても良い。
【0031】
インジェクタ5の先端は、例えば円錐状に形成されており、燃焼室10内に突出されている。このインジェクタ5の円錐状の突出先端部には、複数の微細な噴孔5aが形成されており、その複数の微細な噴孔5aから燃料が放射状に同時に噴射されるようになっている。
【0032】
このように本実施の形態のエンジン1においては、燃料を微細な噴孔5aから噴射し微粒化することにより、蒸発を促進させて、均一で希薄な予混合気を迅速に生成することができるので、後述の予混合圧縮着火(Premixed Compression Ignition:以下、PCIと略す)燃焼による運転領域を拡大することができる。
【0033】
また、微細な噴孔5aを必要噴射孔面積が確保できる分だけ複数設けることにより、全負荷での燃費の悪化も生じないようにすることができる。ここでは、特に限定されるものではないが、例えばインジェクタ5の円錐先端から円錐底部に向かって二個の噴孔5aが隣接配置され、この二個で一組とする噴孔5aがインジェクタ5の円錐外周に沿って複数配置されている場合等がある。
【0034】
また、噴孔5aの直径や数は、エンジン1の出力の大きさ等により変わるので一概には言えないが、例えば下記のとおりである。すなわち、各噴孔5aの直径は、特に限定されるものではないが、例えば0.1mm以下である。燃料の微粒化と噴孔5aの加工性とを考慮すると、噴孔5aの直径は、例えば0.08〜0.05mm程度が好ましい。噴孔5aの総数は、特に限定されるものではないが、例えば二十個である。
【0035】
このようなエンジン1は、PCI燃焼による運転領域を有している。このPCI燃焼は、燃料の噴射時期を、ピストン3の圧縮上死点よりも早期に開始し、かつ、その圧縮上死点よりも早期に終了させ、燃料の噴射完了後に混合気が着火する燃焼方式である。このPCI燃焼による運転領域は、比較的軽負荷領域に設定されている。
【0036】
ここでいうヘッド面12は、
図1に示すように、キャビティ11に対向する面であり、
図2に示すように、シリンダヘッド4の下面12a、吸気バルブ7の下面12b、及び排気バルブ9の下面12cを含む面である。
【0037】
ヘッド用溝13は、
図2に示すように、インジェクタ5の各噴孔5aからキャビティ11に向けて噴射される燃料の噴射方向Fxに対し、シリンダヘッド4の下面視で平行に形成されており、各噴孔5a毎に、複数のヘッド用溝13から成るヘッド用溝群
14を形成している。
【0038】
各ヘッド用溝群14は、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射され、キャビティ11の壁面11aに衝突した後に、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達した燃料の噴霧Fを、燃焼室10の内外方向
yに案内すると共に、燃焼室10の周方向
xに広がろうとする燃料の抵抗として機能する。
【0039】
なお、
図2においては、インジェクタ5の六つの噴孔5aから矢印で表す噴射方向Fxに噴射された燃料の噴霧Fに対応するヘッド用溝群14のみを表しているが、実際には、インジェクタ5からはキャビティ11の周方向に間隔を隔てて複数(例えば二十個)の燃料が噴射されるので、シリンダヘッド4のヘッド面12の、それら複数の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に到達する部分の夫々に複数のヘッド用溝13が、つまりはヘッド用溝群14が形成されている。
【0040】
ヘッド用溝群14を構成するヘッド用溝13は、シリンダヘッド4の下面12a、吸気
バルブ7の下面12b、及び排気バルブ9の下面12cを含み、キャビティ11に対向するシリンダヘッド4のヘッド面12の中心部から外周に向けて、形成してもよいが、
図2に示すように、ヘッド面12の中心部近傍を除いて同様に形成してもよい。要は、ヘッド用溝13は、ヘッド面12内の少なくとも燃料が到達する部分に形成されていればよい。
【0041】
また、ヘッド用溝群14を構成するヘッド用溝13は、シリンダヘッド4のヘッド面12に形成されるため、シリンダヘッド4の下面12aと吸気バルブ7の下面12b、又はシリンダヘッド4の下面12aと排気バルブ9の下面12cの境界では、途切れてしまうが、燃料の噴霧Fを案内することには何ら問題はない。
【0042】
隣り合うヘッド用溝群14同士の間には、ヘッド用溝13が存在しない領域Aが形成されている。但し、この領域Aにもヘッド用溝13を設けてもよい。この領域Aに設けられるヘッド用溝13は、燃料の燃焼室10の周方向yへの広がりを抑えることができればよく、ヘッド用溝群14と平行でなくても構わない。
【0043】
図3の(a)に示すように、各ヘッド用溝13の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えばV字状またはU字状に形成されている。
【0044】
また、各ヘッド用溝13の深さDは、特に限定されるものではないが、例えば、深さDを、ヘッド面12の中心部でゼロとし、中心部から外周に架けて徐々に高くしてもよい。
また、全領域に亘って略一定の深さとしてもよく、噴霧Fが到達する部分を深くそこからシリンダ
2の内外方向に沿ったそれ以外の部分に架けては徐々に浅くする等してもよい。
【0045】
さらに、一つのヘッド用溝群14における燃焼室10の周方向xの位置によって、深さDを異ならせてもよい。要は、噴霧Fの燃焼室10の周方向xへの広がりを抑制できればよい。例えば、この深さDを1〜5mm程度とする。
【0046】
また、各ヘッド用溝13の幅Wも、特に限定されるものではないが、例えば、幅Wを、ヘッド用溝群14の端に向けて太くしてもよい。この幅Wを2〜10mm程度とする。
【0047】
このような複数のヘッド用溝13は、上記した噴霧Fのシリンダヘッド4のヘッド面12に沿って、燃焼室10の周方向xへの広がりが抑えられればよく、複数のヘッド用溝1
3の配置の仕方は上記したものに限定されるものではなく種々変更可能である。例えばヘッド用溝13をシリンダヘッド4のヘッド面12の中心から外周に向かって放射線状に配置しても良い。
【0048】
次に、本発明に係る第1の実施の形態のエンジン1の動作について、
図3及び
図4を参照にしながら説明する。従来技術の場合(シリンダヘッド4のヘッド面12にヘッド用溝13が形成されていない場合)、インジェクタ5の噴孔5aを微細且つ多噴孔にすると、燃料の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達し、燃焼室10の周方向xに発達し、隣り合う噴霧F間の干渉が生じ易くなり、燃焼室10内に過濃領域が形成され、その結果、スモーク(煤)の生成量が増えてしてしまう問題がある。
【0049】
これに対して、第1の実施の形態のエンジン1において、インジェクタ5の複数の微細な噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fは、キャビティ11の壁面11aに衝突し、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達すると、
図3の(a)と(b)に示すように、複数のヘッド用溝13の延在方向(燃焼室10の内外方向y)に対しては相対的に抵抗が少ないのでヘッド用溝13の延在方向に沿って広がる。一方で、ヘッド用溝13の延在方向に交差する方向(複数のヘッド用溝13の隣接方向、若しくは燃焼室10の周方向x)に対し
ては複数のヘッド用溝13に邪魔され相対的に抵抗が高いので広がりが抑えられる。
【0050】
すなわち、複数のヘッド用溝13は、噴霧Fが燃焼室10の中央から放射線上に沿って広がるのを促すとともに、噴霧Fが複数のヘッド用溝群14の隣接方向(燃料室10の周方向x)に広がるのを抑制する(抵抗となる)誘導部として作用する。
【0051】
このことは、
図4の(a)〜(d)に示すように、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、噴霧Fがシリンダヘッド4のヘッド面12に到達しても、噴霧Fはシリンダヘッド4のヘッド面12に沿って発達することなく、隣接する噴霧F(図示せず)と干渉することで過濃領域FLが形成されてしまうことがない。
【0052】
このように、本実施の形態1のエンジン1においては、燃焼室10において燃料の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に到達するシリンダヘッド4のヘッド面12に複数のヘッド用溝13を設けたことにより、燃料の噴霧Fが、ヘッド用溝13に沿って広がるのを促し、複数のヘッド用溝13に対して交差する方向に広がるのを抑制することができるので、互いに隣接する噴霧F、F間の干渉を抑制することができる。これにより、燃焼室10内における燃料の過濃領域の形成を抑制することができる。その結果、スモークの生成を抑制することができる。
【0053】
加えて、ヘッド用溝13を、インジェクタ5からキャビティ11に向けて噴射される燃料の噴射方向Fxに対し、シリンダヘッド4の下面視で平行に形成すると、ヘッド用溝13は、燃焼室10の周方向xに広がろうとする燃料に対して直交する配置となり、燃焼室10の周方向xに広がろうとする燃料に、的確に抵抗を与えることができる。
【0054】
次に、本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関について、
図5〜
図7を参照しながら説明する。このエンジン20は、
図1に示す、第1の実施の形態の構成に加えて、
図5に示すように、キャビティ11の壁面11aにキャビティ11の内外方向に沿って設けられた複数のキャビティ用溝15を備え、ヘッド用溝13とキャビティ用溝15を対向一致するように配置する。
【0055】
このキャビティ用溝15は、例えば、特開2010−285907号公報で開示されている公知の技術の溝を用いることができる。また、
図6に示すように、キャビティ用溝15からなるキャビティ用溝群16が、噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突する部分の夫々に形成され、ヘッド用溝群14と同様に配置され、隣り合うキャビティ用溝群16の間にキャビティ用溝15が存在しない領域Bが形成されている。
【0056】
ヘッド用溝群14とキャビティ用溝群16は、燃焼室10を平面視で重なる位置に配置され、ヘッド用溝群14のヘッド用溝13と、キャビティ用溝群16のキャビティ用溝15も同様に、燃焼室10を平面視で重なる、つまり対向一致するように配置される。詳しくは、
図7の(a)に示すように、ヘッド用溝群14の凸部とキャビティ用溝群16の凸部と、また、ヘッド用溝群14の凹部とキャビティ用溝群16の凹部とを平面視で一致させる。
【0057】
次に、このエンジン20の動作について、
図7を参照しながら説明する。まず、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fは、キャビティ11の壁面11aに設けられたキャビティ用溝群16の部分に衝突する。
【0058】
次に、
図7の(a)に示すように、キャビティ用溝群16に衝突した燃料は、キャビティ用溝群16を構成するキャビティ用溝15に案内されてキャビティ11の内外方向yに広がり、隣り合うキャビティ用溝15同士の間の山の部分が、キャビティ11の周方向xに広がろうとする燃料が乗り越える際の堤防(抵抗)として機能することで、キャビティ11の周方向xへの広がりが抑制される。
【0059】
インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fは、キャビティ11の壁面11aに設けられたキャビティ用溝群16に衝突すると、複数のキャビティ用溝15の延在方向(燃焼室10の内外方向y)に対しては抵抗が小さいのでその方向に沿って広がり、他方、キャビティ用溝15に交差する方向(複数のキャビティ用溝15の隣接方向、若しくは燃焼室10の周方向x)に対しては隣り合うキャビティ用溝15同士の間の山の部分を乗り越えなければならないため相対的に抵抗が大きく広がりが抑えられる。
【0060】
次に、キャビティ11の壁面11aに衝突した燃料は、キャビティ11の上方に舞い上がり、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達する。
【0061】
次に、
図7の(b)に示すように、ヘッド面12に到達した燃料は、ヘッド用溝群14を構成するヘッド用溝13に案内されて燃焼室10の内外方向yに広がり、隣り合うヘッド用溝13同士の間の山の部分が、燃焼室10の周方向xに広がろうとする燃料が乗り越える際の堤防(抵抗)として機能することで、燃焼室10の周方向xへの広がりが抑制される。
【0062】
従って、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達しても、ヘッド面12に沿って周方向xに広がることが抑えられ、隣り合う噴霧F同士が干渉することによる燃料の過濃領域の形成を抑制でき、スモークの発生を低減できる。