特許第5983114号(P5983114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983114
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-152544(P2012-152544)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-15082(P2014-15082A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】川原 禎弘
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−522296(JP,A)
【文献】 特開2008−094117(JP,A)
【文献】 特開平07−257336(JP,A)
【文献】 特開平01−168577(JP,A)
【文献】 特開2010−047193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60T 8/32−8/96
B60T 8/18−8/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵時には路面と交差する軸を中心に公転運動する転舵輪を含む複数の車輪に制動力を付与することにより前記車輪の路面上での転動を規制する制動装置を搭載した車両における前記制動装置の作動状態を検知する制動検知部の検知結果と、前記車両の停車状態を検知する停車検知部の検知結果と、前記車両の傾きを検知する傾き検知部の検知結果とに基づいて、前記制動装置の作動状態および前記車両の状態を判断し、その判断の結果に基づいて前記制動装置の制動状態を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記制動装置が作動した状態で前記車両が停車した状態であり、かつ、前記車両の傾きが傾き閾値未満であると判断した場合、少なくとも1つの前記転舵輪に付与する制動力が低減し、その転舵輪以外の少なくとも1つの前記車輪に対する制動力が維持されるように前記制動装置の制動状態を制御し、前記制動装置が作動した状態で前記車両が停車した状態であり、かつ、前記車両の傾きが前記傾き閾値以上であると判断した場合、前記転舵輪に付与する制動力が低減されないように前記制動装置の制動状態を制御する
制動制御装置。
【請求項2】
記制御部は、前記転舵輪に付与する制動力を低減させる際に、前記車輪のうち非転舵輪に対する制動力を維持す
求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
記転舵輪を転舵させるときに操舵される操舵装置の操舵状態を検知する操舵検知部をさらに備え、
前記制御部は、前記制動装置が作動しつつ前記車両が停車している状態において前記操舵装置が転舵のために操舵されたと判断した場合に、前記転舵輪に付与する制動力を低減させ
求項1または請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
記転舵輪は、前記軸の下方向き延長線と路面との交点である接地点が前記転舵輪の接地面の中心よりも車両幅方向の内側に位置するように設けられてい
求項1〜いずれか一項に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、転舵輪用の懸架装置において、キングピン軸の下方向き延長線が路面と交わる点と、転舵輪における接地面の中心(以下、「車輪接地点」という。)との車両幅方向における距離は、スクラブ半径(又はキングピンオフセット)と呼ばれている(例えば、特許文献1)。そして、低速走行時にステアリングホイールが転舵のために操舵されると、転舵輪は、その車輪接地点がキングピン軸を中心にスクラブ半径に応じた円弧を描いて回動(公転運動)しつつ路面上を転動する。そのため、スクラブ半径を大きくした車両の場合は、スクラブ半径が小さい車両の場合よりも、転舵輪を転動させやすくすることができるので、軽い力で転舵することが可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−47193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の停車時においてブレーキ等の制動装置が作動している状態では、車輪の転がり(回転)が規制される。そのため、スクラブ半径を大きくした車両であっても、車輪が制動(転動規制)された状態での停車時の転舵には大きな力が必要であった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、車両の停車状態を維持しつつ、転舵に必要な力を低減することができる制動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する制動制御装置は、転舵時には路面と交差する軸を中心に公転運動する転舵輪を含む複数の車輪に制動力を付与することにより前記車輪の路面上での転動を規制する制動装置を搭載した車両における前記制動装置の作動状態を検知する制動検知部の検知結果と、前記車両の停車状態を検知する停車検知部の検知結果と、前記車両の傾きを検知する傾き検知部の検知結果とに基づいて、前記制動装置の作動状態および前記車両の状態を判断し、その判断の結果に基づいて前記制動装置の制動状態を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記制動装置が作動した状態で前記車両が停車した状態であり、かつ、前記車両の傾きが傾き閾値未満であると判断した場合、少なくとも1つの前記転舵輪に付与する制動力が低減し、その転舵輪以外の少なくとも1つの前記車輪に対する制動力が維持されるように前記制動装置の制動状態を制御し、前記制動装置が作動した状態で前記車両が停車した状態であり、かつ、前記車両の傾きが前記傾き閾値以上であると判断した場合、前記転舵輪に付与する制動力が低減されないように前記制動装置の制動状態を制御する
【0007】
上記構成によれば、制動力が低減された転舵輪は路面に対する転動が許容される。そのため、転舵輪は、転舵する際に路面に対して引きずられることが抑制され、転動しながら路面と交差する軸を中心として公転運動することができる。したがって、転舵輪の転動を規制した状態で転舵する場合に比べ、軽い力で転舵することができる。また、転動が許容された転舵輪以外の少なくとも1つの車輪に対する制動力は維持されるため、車両の停車状態が維持される。したがって、車両の停車状態を維持しつつ、転舵に必要な力を低減することができる。
また、上記構成によれば、例えば車両が坂道などで車輪に制動力を付与された状態で停車し、その際における車両の傾きが傾き閾値よりも大きい場合には、転舵時にも転舵輪に付与する制動力を維持する。そのため、車輪に制動力を付与されていなければ車両が停車状態を維持しにくい場所(坂道など)に停車している場合には、各車輪に付与する制動力を転舵時にも維持することにより、転舵よりも停車状態の維持を優先させることができる。
【0008】
上記制動制御装置において、前記制御部は、前記転舵輪に付与する制動力を低減させる際に、前記車輪のうち非転舵輪に対する制動力を維持するのが好ましい。
上記構成によれば、転舵時に軸を中心に公転運動する転舵輪に対し、非転舵輪は、転舵時にも制動された状態を維持する。そのため、上記制動制御装置においては、非転舵輪に対する制動力を維持することにより、転舵に必要な力の増大を抑制しつつ車両の停車状態を維持することができる。
【0009】
上記制動制御装置は、前記転舵輪を転舵させるときに操舵される操舵装置の操舵状態を検知する操舵検知部をさらに備え、前記制御部は、前記制動装置が作動しつつ前記車両が停車している状態において前記操舵装置が転舵のために操舵されたと判断した場合に、前記転舵輪に付与する制動力を低減させるのが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、操舵装置が転舵された際に転舵輪に付与する制動力を低減させることができる。したがって、実際に転舵輪が軸を中心に公転運動する際に該転舵輪に付与する制動力を低減させることができる。
【0013】
上記制動制御装置において、前記転舵輪は、前記軸の下方向き延長線と路面との交点である接地点が前記転舵輪の接地面の中心よりも車両幅方向の内側に位置するように設けられているのが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、軸の延長線と路面との接地点が接地面の中心よりも車両幅方向の内側に位置するように転舵輪が設けられるため、接地点が接地面の中心よりも外側に位置する場合に比べて、転舵時における転舵輪の公転半径となるスクラブ半径を大きく設定することができる。その結果、スクラブ半径を大きく設定することで、転舵輪が軸を中心に公転運動する際に路面上を転動しやすくなり、転舵に必要な力をさらに低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両の停車状態を維持しつつ、転舵に必要な力を低減することができる制動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る一実施形態の制動制御装置を搭載した車両の概略構成を示す構成図。
図2】車両における右側前輪と操舵装置を前方から見た場合の模式図。
図3】転舵時における右側前輪と操舵装置を上方から見た場合の模式図。
図4】転舵処理ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を車両に搭載される制動制御装置に具体化した一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、車両11は、複数(本実施形態では4つ)の車輪の一例として、一対の前輪12と一対の後輪13を有している。また、車両11には、エンジン14と、制動装置15と、操舵装置16と、制動制御装置17とが搭載されている。
【0018】
一対の前輪12は、車両11の走行方向の前側位置に、走行方向と交差する車両幅方向に間隔を有して設けられている。一方、一対の後輪13は、車両11の走行方向の後側位置に車両幅方向に間隔を有して設けられている。
【0019】
エンジン14は、運転手によるアクセルペダル(図示略)の操作量に基づいた駆動力を発生させる。そして、エンジン14から出力された駆動力は、ドライブシャフト19を介して前輪12に伝達される。すると、前輪12がドライブシャフト19を中心に回転し、図2に示す路面20上を転動することで車両11を走行させる。また、車両11の走行に伴って後輪13がスピンドル(図示略)を中心に回転し、前輪12と同様に路面20上を転動する。
【0020】
また、図1に示すように、制動装置15は、ブレーキペダル22と、ブレーキ装置23と、液圧発生装置24と、ブレーキアクチュエータ25とを備える。ブレーキペダル22は、制動装置15を作動させる際に運転手によって操作される。また、ブレーキ装置23は、各前輪12及び各後輪13にそれぞれ設けられている。そして、液圧発生装置24は、運転手によるブレーキペダル22の操作力に応じたブレーキ液圧を発生させる。さらに、ブレーキアクチュエータ25は、前輪12及び後輪13に付与する制動力を個別に調整可能な状態で各ブレーキ装置23に連結されている。
【0021】
すなわち、この車両11では、運転手によりブレーキペダル22が踏み込まれると、制動装置15が作動する。そして、制動装置15が作動すると、前輪12及び後輪13にブレーキペダル22の操作量に応じた制動力が付与される。そのため、制動装置15が作動した状態では、前輪12及び後輪13の路面20上での転動が規制される。
【0022】
また、図1に示すように、操舵装置16は、ステアリングホイール27と、ステアリングシャフト28と、ギア機構29と、タイロッド30と、ナックルアーム31と、ステアリングナックル32とを備える。
【0023】
ステアリングホイール27は、車両11を操舵する際に運転手によって操作される。ステアリングシャフト28は、ステアリングホイール27の操舵(回動)に伴う回動力をギア機構29に伝達する。ギア機構29に伝達された回動力は、車両幅方向への動力に変換される。すなわち、ギア機構29の車両幅方向の両側に接続されたタイロッド30は、ギア機構29から伝達された動力に基づいて車両幅方向に沿って往復移動する。また、タイロッド30と連結されたナックルアーム31は、ステアリングナックル32と一体に形成されている。
【0024】
具体的には、図2に示すように、ステアリングナックル32は、路面20と交差する軸Aを中心に回動するように設けられている。さらに、前輪12の径方向外側の面は、路面20と接触する接地面12aとなっている。そして、接地面12aにおける路面20と接触した部分の車両幅方向の中心を接地中心34とする。さらに、軸Aの鉛直方向の下方向き延長線と路面20との交点を接地点35とする。そして、前輪12は、接地点35が接地中心34よりも車両幅方向の内側に位置するように設けられている。
【0025】
そのため、図3に示すように、ステアリングナックル32と一体回動する前輪12は、ステアリングナックル32の回動に伴って軸Aを中心に公転運動する。すなわち、ステアリングホイール27が転舵されてタイロッド30が車両幅方向に移動すると、前輪12は、接地中心34が軸Aとの距離を回動半径とする円弧を描くように路面20上を回動する。
【0026】
したがって、本実施形態の場合は、前輪12が、ステアリングホイール27が転舵のために操舵される(回される)際に、転舵角が与えられる転舵輪の一例として機能している。一方、後輪13は、ステアリングホイール27の操舵とは関係なく転舵角が与えられない状態を維持する非転舵輪の一例として機能している。
【0027】
次に、制動制御装置17について説明する。
図1に示すように、制動制御装置17は、制御部37と、操作ボタン38と、ブレーキセンサ39と、車輪速センサ40と、操舵センサ41と、傾きセンサ42とを備える。そして、制御部37は、操作ボタン38の入力情報と、ブレーキセンサ39、車輪速センサ40、操舵センサ41、傾きセンサ42が検知した各検知結果とに基づいて制動装置15の制動状態を制御する。また、操作ボタン38が運転手によって操作されることにより、制動装置15の制御モードが変更される。
【0028】
ブレーキセンサ39は、制動装置15の作動状態を検知し、検知結果をブレーキ信号として制御部37に出力する。具体的には、ブレーキセンサ39は、運転手によってブレーキペダル22が踏み込まれて制動装置15が作動している場合には、オン信号を出力する。一方、ブレーキセンサ39は、運転手によるブレーキペダル22の踏み込みが解除されて制動装置15が作動していない場合には、オフ信号を出力する。したがって、ブレーキセンサ39は、制動装置15の作動状態を検知する制動検知部の一例として機能している。
【0029】
車輪速センサ40は、車両11の停車状態を検知し、検知結果を制御部37に出力する。具体的には、車輪速センサ40は、少なくとも1つ(本実施形態では車輪と同数)設けられていると共に、前輪12及び後輪13のうち少なくとも1つの車輪の車輪速度を検知する。なお、本実施形態では、前輪12と後輪13の全ての車輪速度を検知する。すなわち、車両11が停車している場合には、前輪12及び後輪13も停止しているため車輪速度ゼロの検知信号が出力される。したがって、車輪速センサ40は、車両11の停車状態を検知する停車検知部の一例として機能している。
【0030】
操舵センサ41は、ステアリングホイール27の操舵角を検知して制御部37に出力する。なお、操舵センサ41からは、車両11を右方向もしくは左方向に旋回させるためにステアリングホイール27が転舵された際に、転舵する方向に応じた正負の値が出力される。具体的には、直進時には操舵角ゼロの検知信号が出力される。そして、転舵時には操舵角が大きいほど出力される値も大きくなる。したがって、操舵センサ41は、操舵装置16の転舵状態を検知する操舵検知部の一例として機能している。
【0031】
傾きセンサ42は、車両11の傾きを検知し、傾き角度に応じた値を制御部37に出力する。すなわち、例えば車両11が降坂路や登坂路などの坂道に位置している場合には、路面20の傾きに応じて車両11が傾く。そのため、傾きセンサ42が傾く方向に応じた正負の値を傾き角として出力する。したがって、傾きセンサ42は、車両11の傾きを検知する傾き検知部の一例として機能している。
【0032】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて、制御部37が実行する転舵処理ルーチンの処理内容を説明する。なお、この転舵処理ルーチンは、車両11の図示しないイグニッションスイッチがオンされると、制御部37による実行が開始される。そして、この転舵処理ルーチンの実行が終了した後は、運転手によるブレーキペダル22の操作が解除されて、車両11が走行し始める毎に、制御部37による本ルーチンの処理が再び実行される。
【0033】
まず、図4に示すように、ステップS101において、制御部37は、車輪速センサ40から各前輪12及び各後輪13の車輪速度を取得する。そして、ステップS102において、制御部37は、取得した車輪速度に基づいて車両11の走行速度(以下、「車両速度」という。)がゼロであるか否かを判断する。すなわち、制御部37は、少なくとも1つの車輪速度がゼロではない場合に、車両速度がゼロでないと判断し(ステップS102:NO)、ステップS101へ戻る。一方、全ての車輪速度がゼロである場合には、制御部37は、車両11が停車して車両速度がゼロであると判断し(ステップS102:YES)、その処理をステップS103に移行する。
【0034】
ステップS103において、制御部37は、操舵センサ41からステアリングホイール27の操舵角を取得し、一時記憶する。さらに、ステップS104において、制御部37は、傾きセンサ42から傾き角を取得する。そして、ステップS105において、制御部37は、取得した傾き角が記憶部(図示略)に記憶している傾き閾値未満であるか否かを判断する。すなわち、急な坂道に車両11が停車して傾き角が傾き閾値以上である場合には(ステップS105:NO)、制御部37は、車両11が坂道に停車していると判断して転舵処理ルーチンを終了する。一方、傾き角が傾き閾値未満である場合には(ステップS105:YES)、その処理をステップS106へ移行する。
【0035】
ステップS106において、制御部37は、ブレーキセンサ39からブレーキ信号を取得する。そして、ステップS107において、制御部37は、運転手によるブレーキ操作が行われているか否かを判断する。すなわち、制御部37は、ブレーキセンサ39からオン信号を取得してブレーキ操作がされていると判断した場合には(ステップS107:YES)、その処理をステップS108に移行する。
【0036】
ステップS108において、制御部37は、操舵センサ41からステアリングホイール27の操舵角を取得する。さらに、ステップS109において、制御部37は、運転手による転舵操作がされたか否かを判断する。具体的には、制御部37は、ステップS103にて取得して一時記憶している操舵角と、ステップS108にて取得した操舵角とを比較する。そして、各操舵角の差が記憶部(図示略)に記憶している操舵角閾値よりも大きな場合には、転舵操作ありと判断し(ステップS109:YES)、その処理をステップS110へ移行する。
【0037】
ステップS110において、制御部37は、前輪12に付与する制動力を低減すると共に、後輪13に対する制動力を維持するように制動装置15の制動状態を制御する。そして、制御部37は、転舵処理ルーチンを終了する。
【0038】
一方、ステップS106において、ブレーキセンサ39からオフ信号を取得した場合には、ステップS107において、制御部37は、ブレーキ操作がされていないと判断し(ステップS107:NO)、その処理をステップS111へ移行する。また、ステップS109において、各操舵角の差が操舵角閾値よりも小さな場合には、制御部37は、転舵操作なしと判断し(ステップS109:NO)、その処理をステップS111へ移行する。
【0039】
ステップS111において制御部37は、ステップS101の場合と同様に車輪速度を取得する。さらに、ステップS112において、制御部37は、ステップS111にて取得した車輪速度に基づいて、ステップS102の場合と同様に車両速度がゼロであるか否かを判断する。車両速度がゼロである場合には(ステップS112:YES)、制御部37は、車両11が停車していると判断し、その処理をステップS106へ移行する。一方、車両速度がゼロではない場合には(ステップS112:NO)、制御部37は、車両11が走行していると判断し、その処理をステップS101へ移行し、再びステップS101以降の処理を実行する。
【0040】
次に、本実施形態における制動制御装置17の作用について、特に車両11が停車した状態で転舵のために前輪12に操舵角を与える、所謂、据えきり動作を行う場合の作用に着目して説明する。
【0041】
さて、運転手がブレーキペダル22を踏み込むと、制動装置15は、前輪12及び後輪13にブレーキペダル22の操作量に応じた制動力を付与する。そのため、走行中の車両11においてブレーキペダル22が踏み込まれた場合、その車両11は速度を低減させて停止する。さらに、停車状態の車両11においてブレーキペダル22が踏み込まれている場合には、前輪12及び後輪13の路面20上での転動が規制される。
【0042】
そして、車両11が停車した状態において、運転手が転舵のためにステアリングホイール27を回す(操舵する)と、前輪12における接地面12aの接地中心34が軸Aを中心として公転運動する。なお、このとき前輪12は、制動装置15から付与された制動力が低減されるため、路面20上での転動が許容される。したがって、前輪12は、その接地中心34が路面20に対して引きずられることが抑制され、路面20上を転がるように軸Aを中心として公転運動する。
【0043】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)据えきり動作時には、制動力が低減された前輪12の路面20に対する転動が許容される。そのため、前輪12は、転舵する際に接地面12aにおける接地中心34が路面20に対して引きずられることが抑制され、転動しながら路面20と交差する軸Aを中心として公転運動することができる。したがって、前輪12の転動を規制した状態で転舵する場合に比べ、軽い力で転舵することができる。また、転動が許容された前輪12以外の後輪13に対する制動力は維持されるため、車両11の停車状態が維持される。したがって、車両11の停車状態を維持しつつ、転舵に必要な力を低減することができる。
【0044】
(2)転舵時に軸Aを中心に公転運動する前輪12に対し、後輪13は、転舵時にも制動された状態を維持する。そのため、後輪13に対する制動力を維持することにより、転舵に必要な力の増大を抑制しつつ車両11の停車状態を維持することができる。
【0045】
(3)ステアリングホイール27が転舵のために操舵される場合に、前輪12に付与する制動力を低減させることができる。したがって、実際に前輪12が公転する際に前輪12に付与する制動力を低減させることができる。
【0046】
(4)例えば車両11が坂道などで前輪12及び後輪13に制動力を付与された状態で停車し、その際における車両11の傾き角が傾き閾値よりも大きい場合には、転舵時にも前輪12に付与する制動力を維持する。そのため、前輪12及び後輪13に制動力を付与されていなければ車両11が停車状態を維持しにくい場所(坂道など)に停車している場合には、前輪12及び後輪13に付与する制動力を転舵時にも維持することにより、転舵よりも停車状態の維持を優先させることができる。
【0047】
(5)軸Aの延長線と路面20との接地点35が前輪12の接地面12aの接地中心34よりも車両幅方向の内側に位置するように前輪12が設けられるため、接地点35が接地面12aの接地中心34よりも外側に位置する場合に比べて、転舵時における前輪12の公転半径となるスクラブ半径を大きく設定することができる。その結果、スクラブ半径を大きく設定することで、前輪12が軸Aを中心に公転運動する際に路面20上を転動しやすくなり、転舵に必要な力をさらに低減させることができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・ 上記実施形態において、運転手などによる操作ボタン38の操作に応じて、前輪12の制動力を低減する低減モードと前輪12の制動力を維持する維持モードとを切り替えてもよい。すなわち、例えば、低減モードが選択されている状態で据えきり動作が行われた場合に、前輪12の制動力を低減させるようにしてもよい。
【0049】
・ 上記実施形態において、運転手などによる操作ボタン38の操作に応じて、制動力が低減された前輪12に対して、再び制動力を付与してもよい。すなわち、例えば、据えきり動作終了後に運転手が操作ボタン38を操作すると、前輪12に対して制動力を付与するようにしてもよい。また、制御部37が据えきり動作の終了を判断し、前輪12に対して制動力を付与してもよい。
【0050】
・ 上記実施形態において、前輪12は、接地点35が接地中心34よりも車両幅方向の外側に位置するように設けてもよい。すなわち、前輪12は、軸Aを中心に回動するため、接地点35と接地中心34とが一致せずに離れていれば、前輪12を接地点35と接地中心34との間の距離を回動半径とする円弧を描くように軸Aを中心に公転運動させることが出来る。また、軸Aは、路面20に対して傾いていてもよい。
【0051】
・ 上記実施形態において、制動状態の制御に傾きセンサ42から取得した傾き角を用いなくてもよい。また、傾きセンサ42を設けない構成としてもよい。すなわち、車両11の位置する場所にかかわらずに制動装置15の制動状態を制御してもよい。
【0052】
・ 上記実施形態において、傾きセンサ42から取得した傾き角に応じて、制動力を低減させる車輪の数を変更してもよい。例えば、平坦な路面に停車している場合には、2つの前輪12の制動力を低減させ、緩やかな坂道に停車している場合には、1つの前輪12の制動力を低減させてもよい。
【0053】
・ 上記実施形態において、制動状態の制御に操舵センサ41から取得した操舵角を用いなくてもよい。また、操舵センサ41を設けない構成としてもよい。すなわち、車両11の停車時には、ステアリングホイール27の操作とは関係なく前輪12の制動力を低減させてもよい。
【0054】
・ 上記実施形態において、操舵センサ41は、操舵トルクを検知して制御部37に出力するトルクセンサであってもよい。そして、制御部37は、取得した操舵トルクの大きさがトルク閾値よりも大きい場合に転舵操作ありと判断してもよい。
【0055】
・ 上記実施形態において、前輪12に付与する制動力を低減させる際に、後輪13に付与する制動力を低減させてもよい。すなわち、例えば一対の後輪13のうち、一方の後輪13の制動力を低減させると共に、他方の後輪13の制動力を維持させてもよい。
【0056】
・ 上記実施形態において、車両11は、車輪の数が3つの三輪車や、車輪を5つ以上有する車両であってもよい。そして、車輪のうち、少なくとも1つの車輪が軸Aを中心に公転運動する転舵輪であればよい。すなわち、全ての車輪が転舵輪であってもよい。そして、転舵輪が複数設けられている場合には、少なくとも1つの転舵輪の制動力を低減させることにより、全ての転舵輪の制動力を維持する場合に比べて転舵に必要な力を低減することができる。
【0057】
・ 上記実施形態において、制動装置15は、油圧ブレーキ、空気ブレーキ、蒸気ブレーキ、液圧ブレーキなど、車輪に対する制動力を調整することが出来るものであれば、任意に採用することができる。また、ブレーキセンサ39は、前輪12及び後輪13にかかるブレーキ圧力を検知することにより、制動装置15の作動状態を検知してもよい。
【0058】
・ 上記実施形態において、車輪速センサ40は、ドライブシャフト19などの車軸の回転状態から車両11の停車状態を検知してもよい。
【符号の説明】
【0059】
11…車両、12…前輪(車輪、転舵輪)、12a…接地面、13…後輪(車輪、非転舵輪)、15…制動装置、16…操舵装置、17…制動制御装置、20…路面、34…接地中心(中心)、35…接地点、37…制御部、39…ブレーキセンサ(制動検知部)、40…車輪速センサ(停車検知部)、41…操舵センサ(操舵検知部)、42…傾きセンサ(傾き検知部)、A…軸。
図1
図2
図3
図4