特許第5983131号(P5983131)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983131
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】診断支援装置および診断支援方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   A61B10/00 H
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-160869(P2012-160869)
(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公開番号】特開2014-18484(P2014-18484A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】首藤 勝行
【審査官】 小田倉 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−206542(JP,A)
【文献】 特開2013−223713(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0329957(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0242486(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発達障害の診断を支援する診断支援装置であって、
人物の画像である第1画像と、非人物の画像である第2画像とを同時に表示部に表示し、前記第1画像と前記第2画像を前記表示部内で移動させ、また移動を停止させる表示制御部と、
前記第1画像および前記第2画像が表示されているときの、前記診断を受ける受診者の注視点を検出する注視点検出部と、
前記注視点が前記第1画像または前記第2画像の領域内に移動または停止している時間に基づく評価値が閾値よりも大きいか否かに基づいて、前記受診者の前記発達障害の程度を評価する評価部と
を備えることを特徴とする診断支援装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記第1画像および前記第2画像の移動が停止した後、前記第1画像または前記第2画像の領域内の位置に前記注視点が検出された時点から継続して前記第1画像または前記第2画像の領域内の位置に前記注視点が検出される第1の時間を算出し、前記第1の時間に基づく前記評価値が前記閾値よりも大きいか否かに基づいて、前記発達障害の程度を評価することを特徴とする請求項に記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記評価部は、前記第1画像および前記第2画像が停止した停止時点から前記第1画像または前記第2画像の領域内に前記注視点が検出される到達時点までの第2の時間を算出し、前記第1の時間および前記第2の時間に基づく前記評価値が前記閾値よりも大きいか否かに基づいて、前記発達障害の程度を評価することを特徴とする請求項に記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記第1画像と前記第2画像を、前記表示部内で第1方向に移動させ、また移動を停止させる第1表示制御の後に、前記第1画像と前記第2画像を、前記表示部内で前記第1方向と逆方向に移動させ、また移動を停止させる第2表示制御を行い、
前記評価部は、前記第1表示制御中および前記第2表示制御中に検出された前記注視点が前記第1画像または前記第2画像の領域内に移動または停止している時間に基づく前記評価値が前記閾値よりも大きいか否かに基づいて、前記発達障害の程度を評価することを特徴とする請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項5】
発達障害の診断を支援する診断支援方法であって、
人物の画像である第1画像と、非人物の画像である第2画像とを同時に表示部に表示し、前記第1画像と前記第2画像を前記表示部内で移動させ、また移動を停止させる表示制御ステップと、
前記第1画像および前記第2画像が表示されているときの、前記診断を受ける受診者の注視点を検出する注視点検出ステップと、
評価部が、前記注視点が前記第1画像または前記第2画像の領域内に移動または停止している時間に基づく評価値が閾値よりも大きいか否かに基づいて、前記受診者の前記発達障害の程度を評価する評価ステップと
を含むことを特徴とする診断支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援装置および診断支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、発達障害者が増加傾向にあると言われている。発達障害は、早期に発見し、療育を開始することで、その症状を軽減し、社会に適応できる効果が高くなることがわかっている。我が国においても、1歳半検診時の問診などによる早期発見を目指している。
【0003】
発達障害児の特徴として、対面する人物の目を見ない(視線をそらす)ことが挙げられる。また、発達障害児は、人物映像よりも幾何学模様の映像を好むことも知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
対面する人物の画像を見ないという特徴を利用した診断方法として、受診者に人物の顔画像を見せ、その際の受診者の注視点位置に基づいて、発達障害を診断する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示されている装置は、受診者が人物の顔画像を見ているときに、受診者の顔をカメラで撮影し、受診者の注視点が顔画像中の目の領域および目以外の領域と一致する時間を計測し、計測結果に基づいて発達障害のスクリーニングを支援する数値を算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−206542号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】RCH GEN PSYCHIATRY/VOL 68 (NO.1), JAN 2011 「Preference for Geometric Patterns Early in Life as a Risk Factor for Autism」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、乳幼児は、動きの少ないものを注視しない傾向にあり、検査において、乳幼児に上述の顔画像のような検査用の画像を注視させるのが困難であるという問題があった。さらに、正確な注視点が得られないことは、診断支援の指標を正確に算出できないことにつながり、高精度な評価を行うことができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、診断評価の精度を向上させることのできる診断支援装置および診断支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、発達障害の診断を支援する診断支援装置であって、人物の画像である第1画像と、非人物の画像である第2画像とを同時に表示部に表示し、前記第1画像と前記第2画像を前記表示部内で移動させ、また移動を停止させる表示制御部と、前記第1画像および前記第2画像が表示されているときの、前記診断を受ける受診者の注視点を検出する注視点検出部と、前記注視点が前記第1画像または前記第2画像の領域内に移動または停止している時間に基づく評価値が閾値よりも大きいか否かに基づいて、前記受診者の前記発達障害の程度を評価する評価部とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、発達障害の診断を支援する診断支援方法であって、人物の画像である第1画像と、非人物の画像である第2画像とを同時に表示部に表示し、前記第1画像と前記第2画像を前記表示部内で移動させ、また移動を停止させる表示制御ステップと、前記第1画像および前記第2画像が表示されているときの、前記診断を受ける受診者の注視点を検出する注視点検出ステップと、評価部が、前記注視点が前記第1画像または前記第2画像の領域内に移動または停止している時間に基づく評価値が閾値よりも大きいか否かに基づいて、前記受診者の前記発達障害の程度を評価する評価ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、注視点の検出精度を向上させ、診断評価の精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、診断支援装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、診断支援装置の処理に利用される座標系を説明するための図である。
図3図3は、図1に示す各部の詳細な機能の一例を示すブロック図である。
図4図4は、診断画像を示す図である。
図5-1】図5−1は、表示制御部の処理を説明するための図である。
図5-2】図5−2は、表示制御部の処理を説明するための図である。
図5-3】図5−3は、表示制御部の処理を説明するための図である。
図5-4】図5−4は、表示制御部の処理を説明するための図である。
図5-5】図5−5は、表示制御部の処理を説明するための図である。
図5-6】図5−6は、表示制御部の処理を説明するための図である。
図5-7】図5−7は、表示制御部の処理を説明するための図である。
図6図6は、受診者の瞳孔の位置を検出する方法を模式的に示す説明図である。
図7図7は、評価部の処理を説明するための図である。
図8図8は、診断支援処理を示すフローチャートである。
図9図9は、図8に示す評価処理(ステップS135)における詳細な処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、診断支援装置および診断支援方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
図1は、実施の形態にかかる診断支援装置100の概略構成を示す図である。本実施の形態にかかる診断支援装置100は、医師による発達障害診断の支援の指標となる評価値を得るための検査を行う装置である。
【0016】
診断支援装置100は、第1表示部101と、第2表示部102と、スピーカ103と、ステレオカメラ110と、赤外LED光源121,122と、駆動・IF部130と、制御部140と、記憶部150とを備えている。
【0017】
第1表示部101は、診断を受ける受診者に注視させる画像等を表示する。第2表示部102は、当該診断支援装置100の操作内容や、診断結果などを表示する。第1表示部101および第2表示部102は、例えばモニタ画面である。スピーカ103は、診断結果などを音声出力する。また、スピーカ103は、検査時に受診者に注意を促すための音声を出力する。なお、第2表示部102は備えなくともよく、この場合には、操作内容や、診断結果などは、第1表示部101が表示する。
【0018】
ステレオカメラ110は、受診者から見て第1表示部101の下側に設置されている。ステレオカメラ110は、赤外線によるステレオ撮影が可能な撮像部であり、右カメラ111と左カメラ112の1組のカメラを備えている。以下、右カメラ111と左カメラ112とを、適宜左右カメラ111,112と称する。
【0019】
右カメラ111および左カメラ112の各レンズの周囲には、円周方向に赤外LED(Light Emitting Diode)光源121,122がそれぞれ配置されている。赤外LED光源121,122は、内周のLEDと外周のLEDとを含む。内周のLEDと外周のLEDについては、後述する。
【0020】
ステレオカメラ110は、受診者の顔を撮像する。ステレオカメラ110は、赤外LED光源121,122から赤外線が照射されているタイミングにおいて、画像を撮像する。すなわち、ステレオカメラ110は、赤外線の反射光の画像を撮像する。
【0021】
なお、ステレオカメラ110は、受診者の顔を撮像可能な位置に設置されていればよく、その設置位置は実施の形態に限定されるものではない。また、撮像される画像(以下、撮像画像と称する)は、受診者の瞳孔を含む画像であればよく、瞳孔を含む顔の一部のみを含む画像であってもよく、また顔に加えて、顔以外を含む画像であってもよい。
【0022】
駆動・IF部130は、ステレオカメラ110に含まれる各部を駆動する。また、駆動・IF部130は、ステレオカメラ110に含まれる各部と、制御部140とのインタフェースとして機能する。
【0023】
制御部140は、第1表示部101、第2表示部102および駆動・IF部130と接続している。制御部140は、第1表示部101および第2表示部102に表示すべき画像等を制御する。
【0024】
制御部140はまた、ステレオカメラ110により得られた撮像画像に基づいて、受診者の注視点を検出し、検出した注視点の位置を較正(キャリブレーション)する。制御部140は、検出された注視点に基づいて、発達障害の診断のための評価値を算出する。
【0025】
記憶部150は、各種情報を記憶する。記憶部150は例えば、第1表示部101に表示する画像等を記憶する。
【0026】
図2は、診断支援装置100の処理に利用される座標系を説明するための図である。本実施の形態にかかる第1表示部101は、横方向を長辺とする長方形の画面である。診断支援装置100は、図2に示すような、第1表示部101の画面の中央位置を原点として、上下をY座標(上を+方向とする)、横をX座標(第1表示部101に向かって右を+方向とする)、奥行きをZ座標(第1表示部101の手前を+方向とする)とするXYZ座標系において処理を行う。
【0027】
図3は、図1に示す各部の詳細な機能の一例を示すブロック図である。赤外LED光源121は、内周のLEDである波長1−LED123と、外周のLEDである波長2−LED124とを備えている。赤外LED光源122は、内周のLEDである波長1−LED125と、外周のLEDである波長2−LED126とを備えている。
【0028】
波長1−LED123,125は、波長1の赤外線を照射する。波長2−LED124,126は、波長2の赤外線を照射する。波長1および波長2は、互いに異なる波長である。波長1および波長2は、それぞれ例えば900nm未満の波長および900nm以上の波長である。900nm未満の波長の赤外線を照射して瞳孔で反射された反射光を撮像すると、900nm以上の波長の赤外線を照射して瞳孔で反射された反射光を撮像した場合に比べて、明るい瞳孔像が得られるためである。
【0029】
駆動・IF部130は、カメラIF131,132と、LED駆動制御部133と、スピーカ駆動部134とを備えている。カメラIF131およびカメラIF132は、それぞれ右カメラ111および左カメラ112と接続する。カメラIF131,132は、左右カメラ111,112を駆動する。右カメラ111は、左カメラ112およびLED駆動制御部133にフレーム同期信号を送信する。
【0030】
LED駆動制御部133は、波長1−LED123,125および波長2−LED124,126の発光を制御する。具体的には、LED駆動制御部133は、このフレーム同期信号に基づいて、第1フレームで、タイミングをずらして左右の波長1の赤外線光源(波長1−LED123、波長1−LED125)を発光させる。この発光タイミングに対応して、左右カメラ111,112は、画像を撮像する。撮像された画像は、カメラIF131,132を介して制御部140に入力される。
【0031】
同様に、LED駆動制御部133は、第2フレームで、タイミングをずらして左右の波長2の赤外線光源(波長2−LED124、波長2−LED126)を発光させる。この発光タイミングに対応して、左右カメラ111,112は、画像を撮像する。撮像された画像は、カメラIF131,132を介して制御部140に入力される。
【0032】
スピーカ駆動部134は、スピーカ103を駆動する。制御部140は、診断支援装置100全体を制御する。制御部140は、具体的には、表示制御部141と、注視点検出部142と、評価部143とを備えている。
【0033】
表示制御部141は、第1表示部101および第2表示部102への各種情報の表示を制御する。表示制御部141は、例えば第1表示部101に診断画像を表示する。診断画像は、診断に用いられる画像であり、具体的には、人物の顔画像と、幾何学模様の画像である幾何学画像とを含んでいる。
【0034】
なお、顔画像および幾何学画像は、静止画でもよく動画でもよい。また、顔画像は、受診者の母親の撮影画像が好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、母親以外の人物の撮影画像であってもよく、また他の例としては、人物のアニメーション画像であってもよい。
【0035】
また、本実施の形態においては、発達障害児が人物に比べてより好む画像として、幾何学画像を用いることとしているが、人物の顔画像とともに表示させる画像は、発達障害児が人物の顔画像に比べてより好む画像であればよく、幾何学画像に限定されるものではない。
【0036】
図4は、診断画像200を示す図である。図4に示すように、診断画像200は、顔画像210と幾何学画像220とを含んでいる。表示制御部141は、診断画像200中の、顔画像210と幾何学画像220を時間の経過とともに所定の方向に所定量だけ移動させた後に移動を停止し、停止後一定時間が経過すると再び顔画像210と幾何学画像220を移動させるという処理を繰り返す。
【0037】
図5−1〜図5−7は、表示制御部141の処理を説明するための図である。図5−1は、診断開始時の第1表示部101を示している。表示制御部141は、図5−1に示すように、第1表示部101の中央に円形画像230を表示する。このように、第1表示部101の中央に円形の画像を表示することにより、検査開始時等に受診者の注視点を、第1表示部101の中央に向けることができる。
【0038】
続いて、表示制御部141は、図5−2に示すように、第1表示部101の中央の円形画像230を消去し、顔画像210を徐々に拡大しながら、第1表示部101の中央から左側の領域に移動させる。さらに、表示制御部141は、顔画像210の移動と同時に、幾何学画像220を徐々に拡大しながら、第1表示部101の中央から右側の領域に移動させる。
【0039】
続いて、表示制御部141は、図5−3に示すように、顔画像210が左領域301に到達すると、顔画像210の移動を停止する。これにより、顔画像210は左領域301に停止した状態で表示される。表示制御部141は、顔画像210が左領域301に到達するのと同時に、幾何学画像220を第1表示部101の右領域302に到達させ、幾何学画像220の移動を停止する。これにより、幾何学画像220は右領域302に停止した状態で表示される。
【0040】
続いて、表示制御部141は、図5−4に示すように、顔画像210および幾何学画像220を、同じ速度で同一経路を移動させる。なお、本実施の形態においては、顔画像210および幾何学画像220は、第1表示部101に向かって右回りに円周方向に移動する。
【0041】
続いて、表示制御部141は、図5−5に示すように、顔画像210および幾何学画像220がそれぞれ第1表示部101の上領域303および下領域304に同時に到達すると、顔画像210および幾何学画像220の移動を停止する。これにより、顔画像210および幾何学画像220は、それぞれ停止した状態で上領域303および下領域304に表示される。
【0042】
さらに、表示制御部141は、図5−6に示すように、顔画像210および幾何学画像220を同じ速度で右回りに円周方向に移動させる。
【0043】
続いて、表示制御部141は、図5−7に示すように、顔画像210および幾何学画像220がそれぞれ第1表示部101の右領域302および左領域301に同時に到達すると、それぞれの移動を停止し、右領域302および左領域301にそれぞれ顔画像210および幾何学画像220を表示する。
【0044】
表示制御部141は、さらに図5−1〜図5−7を参照しつつ説明した一連の映像に続き、顔画像210と幾何学画像220の位置が図5−1〜図5−7と左右逆になり、逆方向に移動する一連の映像を第1表示部101に表示する。
【0045】
なお、顔画像210および幾何学画像220の移動経路、停止位置および移動速度は、予め設計者等により設定される。なお、各停止位置は、任意に設定することができる。また、顔画像210および幾何学画像220の移動経路は、実施の形態に限定されるものではなく、円周方向に沿って移動させるのにかえて、例えば、第1表示部101の外枠に沿って、長方形の辺に沿った方向に移動させてもよい。なお、顔画像210と幾何学画像220の移動経路および移動速度は、同様にするのが好ましい。
【0046】
また、本実施の形態においては、表示制御部141が、顔画像210と幾何学画像220の表示位置を制御することとしたが、他の例としては、表示制御部141の制御により実現される映像を予め、記憶部150等に記憶しておき、表示制御部141は、この映像を再生することとしてもよい。
【0047】
図3に戻り、注視点検出部142は、ステレオカメラ110により撮像された画像に基づいて、受診者の注視点を検出する。これにより、受診者が診断画像200中のいずれの領域を注視しているかを特定することができる。
【0048】
注視点検出部142による注視点検出方法としては、従来から用いられているあらゆる方法を適用できる。以下では、特開2005−198743号公報に記載された技術と同様に、ステレオカメラを用いて被験者の視点を検出する場合を例に説明する。
【0049】
注視点検出部142は、ステレオカメラ110で撮影された画像から、受診者の視線方向を検出する。注視点検出部142は、例えば、特開2011−206542号公報および特開2008−125619号公報に記載された方法を用いて、受診者の視線方向を検出する。具体的には、注視点検出部142は、波長1の赤外線を照射して撮影した画像と、波長2の赤外線を照射して撮影した画像との差分を求め、瞳孔像が明確化された画像を生成する。注視点検出部142は、左右カメラ111,112で撮影された画像それぞれから上記のように生成された2つの画像を用いて、ステレオ視の手法により受診者の瞳孔の位置を算出する。また、注視点検出部142は、左右カメラ111,112で撮影された画像を用いて受診者の角膜反射の位置を算出する。そして、左右カメラ111,112は、被験者の瞳孔の位置と角膜反射位置とから、受診者の視線方向を表す視線ベクトルを算出する。
【0050】
注視点検出部142は、例えば図2のような座標系で表される視線ベクトルとXY平面との交点を、受診者の注視点として検出する。両目の視線方向が得られた場合は、受診者の左右の視線の交点を求めることによって注視点を計測してもよい。
【0051】
なお、受診者の注視点の検出方法はこれに限られるものではない。例えば、赤外線ではなく、可視光を用いて撮影した画像を解析することにより、受診者の注視点を検出してもよい。
【0052】
図6は、受診者の瞳孔の位置を検出する方法を模式的に示す説明図である。注視点検出部142は、右カメラ111で検出した瞳孔の位置と角膜反射の位置関係とから、右カメラ111から見た受診者の視線の方向を算出する。また、注視点検出部142は、左カメラ112で検出した瞳孔の位置と角膜反射の位置関係とから、左カメラ112から見た受診者の視線の方向を算出する。そして、注視点検出部142は、求められた2つの視線の方向の交点から、図2に示すXY座標系における、受診者の注視点の位置を算出する。
【0053】
図3に戻り、評価部143は、表示制御部141により診断画像200が表示されている間に検出された受診者の注視点の位置に基づいて、発達障害の診断支援の指標となる評価値を算出する。より詳しくは、評価部143は、診断画像200中の顔画像210および幾何学画像220の移動が停止している間に検出された注視点の位置に基づいて、評価値を算出する。
【0054】
図7は、評価部143の処理を説明するための図である。図7に示すように、顔画像210を中心とする領域であるFエリア211と、幾何学画像220を中心とする領域であるPエリア221とを定める。そして、評価部143は、Fエリア211内の注視点が検出された場合に、顔画像210に対する注視点が検出されたと判断する。評価部143はまた、Pエリア221内の注視点が検出された場合に、幾何学画像220に対する注視点が検出されたと判断する。
【0055】
評価部143はさらに、表示制御部141が顔画像210と幾何学画像220が移動を停止した移動停止時点から、受診者の注視点が顔画像210のFエリア211内または幾何学画像220のPエリア221内に到達する到達時点までの時間(以下、到達時間と称する)を計測する。なお、到達時点は、注視点検出部142がFエリア211内またはPエリア221内の注視点を検出する時点である。ここで、到達時間は、移動停止時点から到達時点までの時間であり、第2の時間に相当する。顔画像210と幾何学画像220が移動している間、受診者は、自身の好みに合わせて、顔画像210または幾何学画像220のいずれかの画像に追従して注視点を移動させる。到達時間は、この移動停止時点から、移動停止に対応して受診者の注視点の位置がいずれかの画像のエリアに到達するまでの時間である。
【0056】
評価部143はまた、到達時点から受診者の注視点が顔画像210のFエリア211内または幾何学画像220のPエリア221内に停留する停留時間を計測する。すなわち、停留時間は、注視点検出部142が継続してFエリア211内またはPエリア221内の注視点を検出する時間である。ここで、停留時間は、到達時点から継続してFエリア211内またはPエリア221内の注視点が検出される時間であり、第1の時間に相当する。
【0057】
すなわち、評価部143は、表示制御部141により診断画像が表示されている間、顔画像210に対する到達時間と停留時間を計測し、かつ幾何学画像220に対する到達時間と停留時間を計測する。なお、第1表示部101に1秒間に所定フレーム数(例えば30フレーム)が表示される場合には、評価部143は、フレーム数に基づいて、到達時間と停留時間を計測する。
【0058】
図8は、診断支援装置100による診断支援処理を示すフローチャートである。なお、診断支援処理に先立ち、個別のキャリブレーションは完了しているものとする。診断支援処理においては、まず、評価部143は、変数nに1をセットする(ステップS101)。次に、評価部143は、変数nが1か否かを確認する(ステップS102)。変数nが1である場合には(ステップS102,Yes)、表示制御部141は、図5−1に示すような円形画像230を第1表示部101の中心に表示する(ステップS103)。この円形画像230がアイキャッチ画像となる。
【0059】
次に、図5−2および図5−3に示すように、表示制御部141は、顔画像210を拡大しながら第1表示部101の左側に移動させ、左領域301に停止させる。表示制御部141はさらに、顔画像210の移動と同時に、幾何学画像220を拡大しながら第1表示部101の右側に移動させ、顔画像210の停止と同時に幾何学画像220を右領域302に停止させる。さらに、評価部143は、到達計測のための計測時計をリセットする(ステップS104)。
【0060】
次に、スピーカ103は、音声を出力する(ステップS105)。スピーカ103は、例えば、「おはよう」など、呼びかけるような言葉を出力する。スピーカ103による音声出力は、顔画像210に同期したものである。スピーカ103は、顔画像210が映像である場合には、口の動きに合わせて音声を出力する。
【0061】
次に、顔画像210および幾何学画像220がそれぞれ左領域301および右領域302に停止すると、注視点検出部142は、受診者の注視点の位置を検出し、評価部143は、注視点位置に基づいて、Fエリア211に対する到達時間t1Fと、Pエリア221に対する到達時間t1Pとを計測する(ステップS106)。
【0062】
さらに、顔画像210および幾何学画像220の移動が停止した後所定時間が経過すると、評価部143はさらに、Fエリア211に対する停留時間T1Fと、Pエリア221に対する停留時間T1Pとを計測する(ステップS107)。
【0063】
次に、表示制御部141は、図5−4および図5−5に示すように、顔画像210および幾何学画像220を右回りに回転移動させ(ステップS108)、顔画像210および幾何学画像220がそれぞれ上領域303および下領域304に到達すると、移動を停止させる。さらに、評価部143は、計測時計をリセットする(ステップS109)。そして、ステップS105と同様にスピーカ103は、音声を出力する(ステップS110)。
【0064】
次に、評価部143は、上領域303に停止した顔画像210のFエリア211に対する到達時間t2Fと、下領域304に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する到達時間t2Pとを計測する(ステップS111)。次に、評価部143は、上領域303に停止した顔画像210のFエリア211に対する停留時間T2Fと、下領域304に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する停留時間T2Pとを計測する(ステップS112)。
【0065】
ステップS113〜ステップS117において、ステップS108〜ステップS112と同様の処理により、評価部143は、図5−7に示すように、右領域302に停止した顔画像210のFエリア211に対する到達時間t3Fと、左領域301に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する到達時間t3Pを計測し、さらに、右領域302に停止した顔画像210のFエリア211に対する停留時間T3F、左領域301に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する停留時間T3Pを計測する。
【0066】
次に、評価部143は、変数nが1か否かを確認する(ステップS118)。変数nが1である場合には(ステップS118,Yes)、変数nに2をセットし(ステップS119)、ステップS102に戻る。
【0067】
ステップS102において、変数nが1でない場合には(ステップS102,No)、ステップS120へ進む。なお、ステップS103〜ステップS117の処理の完了後に、変数nが2となり、ステップS120に進む。
【0068】
ステップS120〜ステップS134においては、顔画像210と幾何学画像220を、ステップS103〜ステップS117と逆方向に移動させつつ、各停止位置におけるFエリア211およびPエリア221の到達時間と、各停止位置におけるFエリア211およびPエリア221の停留時間を計測する。
【0069】
すなわち、まずステップS120において、表示制御部141は、ステップS103と同様に、図5−1に示すような円形画像230を第1表示部101に表示する(ステップS120)。
【0070】
次に、表示制御部141は、顔画像210を拡大しながら第1表示部101の右側に移動させ、右領域302に停止させる。表示制御部141はさらに、顔画像210の移動と同時に、幾何学画像220を拡大しながら第1表示部101の左側に移動させ、顔画像210の停止と同時に幾何学画像220を左領域301に停止させる。さらに、評価部143は、到達計測のための計測時計をリセットする(ステップS121)。
【0071】
次に、スピーカ103は、音声を出力する(ステップS122)。次に、評価部143は、右領域302に停止した顔画像210のFエリア211に対する到達時間t4Fと、左領域301に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する到達時間t4Pとを計測する(ステップS123)。
【0072】
次に、評価部143は、右領域302に停止した顔画像210のFエリア211に対する停留時間T4Fと、左領域301に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する停留時間T4Pとを計測する(ステップS124)。
【0073】
次に、表示制御部141は、顔画像210および幾何学画像220を左回りに回転移動させ(ステップS125)、顔画像210および幾何学画像220がそれぞれ下領域304および上領域303に到達すると、移動を停止させる。さらに、評価部143は、計測時計をリセットする(ステップS126)。
【0074】
ステップS127〜ステップS134においては、ステップS122〜ステップS126と同様の処理により、評価部143は、下領域304に停止した顔画像210のFエリア211に対する到達時間t5Fと、上領域303に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する到達時間t5Pを計測し、さらに下領域304に停止した顔画像210のFエリア211に対する停留時間T5Fと、上領域303に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する停留時間T5Pを計測する。
【0075】
続いて、評価部143は、右領域302に停止した顔画像210のFエリア211に対する到達時間t6Fと、左領域301に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する到達時間t6Pを計測し、さらに、右領域302に停止した顔画像210のFエリア211に対する停留時間T6Fと、左領域301に停止した幾何学画像220のPエリア221に対する停留時間T6Pを計測する。
【0076】
ステップS118において、変数nが1でない場合、すなわち、変数nが2である場合には(ステップS118,No)、評価部143は、発達障害の指標となる評価値を算出し、評価値に基づいて、発達障害の可能性を評価する(ステップS135)。以上で、診断支援装置100による診断支援処理が完了する。
【0077】
図9は、図8に示す評価処理(ステップS135)における詳細な処理を示すフローチャートである。評価処理(ステップS135)において、評価部143は、まず(式1)により顔画像210に対応するFエリア211に対する停留時間の合計(TF)を計算する(ステップS201)。
TF=T1F+T2F+T3F+T4F+T5F+T6F …(式1)
【0078】
次に、評価部143は、(式2)により幾何学画像220に対応するPエリア221に対する停留時間の合計(TP)を計算する(ステップS202)。
TP=T1P+T2P+T3P+T4P+T5P+T6P …(式2)
【0079】
次に、評価部143は、(式3)によりFエリア211に対する到達時間の合計(tF)を計算する(ステップS203)。
tF=t1F+t2F+t3F+t4F+t5F+t6F …(式3)
【0080】
次に、評価部143は、(式4)によりPエリア221に対する到達時間の合計(tP)を計算する(ステップS204)。
tP=t1P+t2P+t3P+t4P+t5P+t6P …(式4)
【0081】
次に、評価部143は、(式5)により評価値Aを算出する(ステップS205)。
A=TP−TF+k(tF−tP) …(式5)
ここで、kは、停留時間と到達時間の重み付けを行う所定値の係数である。
【0082】
次に、評価部143は、評価値Aと閾値Kとを比較する(ステップS206)。AがKより大きい場合には(ステップS206,Yes)、評価部143は、発達障害の可能性が高いと判断する(ステップS207)。AがK以下である場合には(ステップS206,No)、評価部143は、発達障害の可能性が低いと判断する(ステップS208)。以上で、評価処理(ステップS135)が完了する。
【0083】
受診者に顔画像210と幾何学画像220とを見せた場合に、健常者は、顔画像210を見続ける傾向が高いのに対し、発達障害の可能性のある人物の場合には、幾何学画像220を見る傾向が高いことがわかっている。そこで、本実施の形態にかかる診断支援装置100においては、第1表示部101に顔画像210と幾何学画像220とを同時に表示し、受診者がいずれの画像を見るかにより発達障害の診断支援を行うこととした。
【0084】
さらに、特に乳幼児においては、動きの少ないものを注視しない傾向にあることから、本実施の形態にかかる診断支援装置100においては、第1表示部101に表示される顔画像210と幾何学画像220を適宜移動させることにより、受診者が顔画像210または幾何学画像220を注視するように誘導することとした。
【0085】
これにより、受診者は顔画像210または幾何学画像220をしっかり注視するようになるので、本実施の形態にかかる診断支援装置100においては、正確な注視点位置を特定することができ、したがって高精度な診断評価を行うことができる。
【0086】
さらに、本実施の形態にかかる診断支援装置100においては、評価部143による到達時間および停留時間の計測のための注視点検出の前に、音声を出力することとした。健常者の場合には、診断支援処理における音声出力のように、人物の顔に同期して音声が出力された場合には、音声につられて顔画像210を見る傾向が高い。これに対し、発達障害の可能性のある人物の場合には、このように音声が出力された場合であっても、幾何学画像220を見る傾向が高い。したがって、本実施の形態にかかる診断支援処理のように、注視点を検出する前に音声を出力することにより、より精度よく診断評価を行うことができる。
【0087】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができる。
【符号の説明】
【0088】
100 診断支援装置
101 第1表示部
103 スピーカ
110 ステレオカメラ
121,122 赤外LED光源
140 制御部
141 表示制御部
142 注視点検出部
143 評価部
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
図6
図7
図8
図9