特許第5983185号(P5983185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5983185直動案内装置の潤滑剤供給方法および直動案内装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983185
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】直動案内装置の潤滑剤供給方法および直動案内装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20160818BHJP
   F16C 31/06 20060101ALI20160818BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20160818BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   F16H25/24 J
   F16C31/06
   F16C33/66 Z
   F16H25/22 C
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-186382(P2012-186382)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-43893(P2014-43893A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将人
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−298163(JP,A)
【文献】 特開2007−303661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
29/00−31/06
33/30−33/66
F16H 25/20−25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内軸と、該案内軸に対し負荷転動溝を転動する複数の転動体を介して軸方向に相対移動可能に外嵌する移動体とを備え、前記移動体の両端面に、前記案内軸に接触して移動体内部を密封する接触シールが装着されており、前記案内軸および移動体の間での前記複数の転動体が配設された空隙部内が、当該直動案内装置を他の装置に組み込んで稼働させる本稼働時にはグリースによって潤滑される直動案内装置に潤滑剤を供給する方法であって、
前記直動案内装置を本稼働前に且つ前記グリースによる潤滑を行う前に、初期封入潤滑剤として、本稼働時に使用するグリースと同じ基油のオイルを前記空隙部内に初期封入することを特徴とする直動案内装置の潤滑剤供給方法。
【請求項2】
前記初期封入するオイルは、その40℃における基油動粘度が100mm/s以下であることを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置の潤滑剤供給方法。
【請求項3】
前記移動体前記本稼働時に使用するグリースを供給可能に前記接触シール側に設けられた潤滑剤注入路と、前記初期封入されたオイルを排出可能に前記潤滑剤注入路とは反対の側に設けられた排出穴とを有し、前記潤滑剤注入路および前記排出穴は、前記移動体の内面且つ前記負荷転動溝が形成されていない箇所に連通するように形成されており、
前記直動案内装置の本稼働時に、稼働時潤滑剤として前記潤滑剤注入路から前記空隙部内にグリースを供給することによって前記排出穴から前記初期封入されたオイルを排出することを特徴とする請求項1または2に記載の直動案内装置の潤滑剤供給方法。
【請求項4】
案内軸と、該案内軸に対し負荷転動溝を転動する複数の転動体を介して軸方向に相対移動可能に外嵌する移動体とを備え、前記移動体の両端面に、前記案内軸に接触して移動体内部を密封する接触シールが装着されており、前記案内軸および移動体の間での前記複数の転動体が配設された空隙部内が、当該直動案内装置を他の装置に組み込んで稼働させる本稼働時にはグリースによって潤滑される直動案内装置を製造する方法であって、
前記直動案内装置を本稼働前に且つ前記グリースによる潤滑を行う前に、初期封入潤滑剤として、本稼働時に使用するグリースと同じ基油のオイル前記空隙部内に初期封入することを特徴とする直動案内装置の製造方法
【請求項5】
前記初期封入されているオイルは、その40℃における基油動粘度が100mm/s以下であることを特徴とする請求項4に記載の直動案内装置の製造方法
【請求項6】
前記移動体前記本稼働時に使用するグリースを供給可能に前記接触シール側に設けられた潤滑剤注入路と、前記初期封入されたオイルを排出可能に前記潤滑剤注入路とは反対の側に設けられた排出穴とを有し、前記潤滑剤注入路および前記排出穴は、前記移動体の内面且つ前記負荷転動溝が形成されていない箇所に連通するように形成されていることを特徴とする請求項4または5に記載の直動案内装置の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置を他の装置に組み込んで稼働させる本稼働時にグリース潤滑で使用されるボールねじやリニアガイド等の直動案内装置に好適な直動案内装置の潤滑剤供給方法及び直動案内装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の直動案内装置として、例えば本稼働時にグリース潤滑で使用されるボールねじにおいて、本稼働時に使用するグリース自体が入手困難な場合や、本稼働時に使用するグリースの環境負荷物質調査・登録等が完了していない試作品の場合や、あるいはボールねじの即納を希望される場合等においては、ボールねじ出荷時に、ボールねじにグリースやオイルを塗布せずに防錆油で出荷される場合がある。その際、特に、ナットの両端面に接触シールを装着している場合には、ナット内部の油分が足りない状態で本稼働時に相当の荷重を受けることになる。また、本稼働時に、自動給脂装置を有する構成であってもナット全体にグリースが行き渡るまでに数日かかる場合がある。そのため、この種のグリース潤滑で使用されるボールねじでの初期トラブルの要因となる。
【0003】
ここで、ボールねじの初期トラブルを防止する先行技術として、例えば特許文献1に示されるものがある。同文献に記載の技術は、本稼働時には増ちょう剤を含有しない潤滑剤によって潤滑されるボールねじに対し、ボールねじを本稼働前に、初期封入潤滑剤として、増ちょう剤を含有する潤滑剤を封入することで、本稼働時において「オイル潤滑」で使用されるボールねじの初期トラブルを防止または低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−247854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現実的には、本稼働時に「グリース潤滑」する場合であっても上述のように防錆油で出荷される場合がある。特に、防塵性を高めたねじ軸に接触してナット内部を密封する接触シールをナット両端面に装着しているボールねじの場合、ナット内部に防錆油が入らず、組立作業時の残存油分のみとなり、本稼働時に受ける相当の荷重に対して不十分な状態になる可能性がある。また、防錆油とグリースとの相性の問題もあり、ナット内部に防錆油を入れられないというケースもある。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、ねじ軸等の案内軸に接触してナット等の移動体内部を密封する接触シールを移動体両端面に装着した直動案内装置であって、且つ、本稼働時においてグリース潤滑で使用される直動案内装置において、直動案内装置の初期トラブルを防止または低減し得る直動案内装置の潤滑剤供給方法および直動案内装置の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る直動案内装置の潤滑剤供給方法は、案内軸と、該案内軸に対し負荷転動溝を転動する複数の転動体を介して軸方向に相対移動可能に外嵌する移動体とを備え、前記移動体の両端面に、前記案内軸に接触して移動体内部を密封する接触シールが装着されており、前記案内軸および移動体の間での前記複数の転動体が配設された空隙部内が、当該直動案内装置を他の装置に組み込んで稼働させる本稼働時にはグリースによって潤滑される直動案内装置に潤滑剤を供給する方法であって、前記直動案内装置を本稼働前に且つ前記グリースによる潤滑を行う前に、初期封入潤滑剤として、本稼働時に使用するグリースと同じ基油のオイルを前記空隙部内に初期封入することを特徴とする。
【0008】
ここで、本発明の一態様に係る直動案内装置の潤滑剤供給方法において、前記初期封入するオイルは、その40℃における基油動粘度が100mm/s以下であることは好ましい。
また、本発明の一態様に係る直動案内装置の潤滑剤供給方法において、前記移動体前記本稼働時に使用するグリースを供給可能に前記接触シール側に設けられた潤滑剤注入路と、前記初期封入されたオイルを排出可能に前記潤滑剤注入路とは反対の側に設けられた排出穴とを有し、前記潤滑剤注入路および前記排出穴は、前記移動体の内面且つ前記負荷転動溝が形成されていない箇所に連通するように形成されており、前記直動案内装置の本稼働時に、稼働時潤滑剤として前記潤滑剤注入路から前記空隙部内にグリースを供給することによって前記排出穴から前記初期封入されたオイルを排出することは好ましい。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る直動案内装置の製造方法は、案内軸と、該案内軸に対し負荷転動溝を転動する複数の転動体を介して軸方向に相対移動可能に外嵌する移動体とを備え、前記移動体の両端面に、前記案内軸に接触して移動体内部を密封する接触シールが装着されており、前記案内軸および移動体の間での前記複数の転動体が配設された空隙部内が、当該直動案内装置を他の装置に組み込んで稼働させる本稼働時にはグリースによって潤滑される直動案内装置であって、前記直動案内装置を本稼働前に且つ前記グリースによる潤滑を行う前に、初期封入潤滑剤として、本稼働時に使用するグリースと同じ基油のオイルが前記空隙部内に初期封入されていることを特徴とする。
【0010】
ここで、本発明の一態様に係る直動案内装置の製造方法において、前記初期封入されているオイルは、その40℃における基油動粘度が100mm/s以下であることは好ましい。
また、本発明の一態様に係る直動案内装置の製造方法において、前記移動体前記本稼働時に使用するグリースを供給可能に前記接触シール側に設けられた潤滑剤注入路と、前記初期封入されたオイルを排出可能に前記潤滑剤注入路とは反対の側に設けられた排出穴とを有し、前記潤滑剤注入路および前記排出穴は、前記移動体の内面且つ前記負荷転動溝が形成されていない箇所に連通するように形成されていることは好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、案内軸に接触して移動体内部を密封する接触シールを移動体両端面に装着した直動案内装置であって、且つ、本稼働時においてグリース潤滑で使用される直動案内装置において、案内軸および移動体の間での複数の転動体が配設された空隙部内に、本稼働時に使用するグリースと同じ基油のオイルを初期封入しておくので、本稼働時に外部から潤滑剤が供給されない状態であっても、直動案内装置は油分が不足した状態で荷重を受けることがなく、それに起因した耐久性の低下や、騒音・振動が大きいといった初期トラブルを防止または低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る直動案内装置の一実施形態であるボールねじを説明する図であり、同図はそのボールねじの平面図である。
図2図1での要部の正面図であり、同図ではナットをその軸線を含む断面で示している。
図3】本発明に係る直動案内装置の一実施形態のボールねじでの潤滑剤供給方法について説明する図であり、同図(a)は初期封入潤滑剤供給工程を示しており、同図(b)は稼働時潤滑剤供給工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る直動案内装置の一実施形態であるボールねじについて、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、このボールねじは、本稼働時には、グリースによって潤滑されるものである。
図1ないし図2に示すように、このボールねじ10は、外周面に螺旋状のボール転動溝18を有して軸方向に延びるねじ軸12を案内軸として備えており、このねじ軸12に、移動体としてのナット14が遊嵌されている。ナット14は、鋼製で略円筒状をなす部材であり、ねじ軸12のボール転動溝18に対応する螺旋状の負荷転動溝20をその内周面に有している。そして、ボール転動溝18と負荷転動溝20に挟まれてできた螺旋状の空間が転動体軌道路22を構成している。
【0014】
ナット14の肉厚部分には、図2に示すように、ねじ軸を跨いで一対をなす循環孔24が形成されている。各循環孔24は、その一端側が、転動体軌道路22に接線方向から連通しており、その他端側が、ナット14の外部に開口している。そして、各循環孔24の他端側同士は略U字形をした転動体チューブ26で相互に連結されており、上記転動体軌道路22、一対の循環孔24および転動体チューブ26によって無限循環回路16が構成されている。そして、この無限循環回路16内に複数の転動体であるボール34が充填されており転動体列を構成している。なお、このボールねじ10は、無限循環回路16が2経路有する例であるが、無限循環回路の経路の数は適宜増減される。
【0015】
上述の構成により、このボールねじ10は、ボール34の転動を介してナット14がねじ軸12上を軸方向に相対移動可能になっている。そして、この相対移動につれて、無限循環回路16内のボール34は、転動体軌道路22内をナット14の移動方向と反対方向に螺旋を描いて転動しつつ移動し、ナット14の移動方向に対して後ろ側にある循環孔24から転動体チューブ26へ入り、他端側の循環孔24から転動体軌道路22へ戻り、無限循環回路16内を循環可能になっている。
さらに、このボールねじ10は、ナット14の一方の側にあるフランジ28の側面に、潤滑剤を注入するためのニップル30が設けられている。そして、このニップル30からナット14の内周面まで連通する潤滑剤注入路31が形成されており、潤滑剤として、グリース等をボールねじ10内へ注入可能となっている。
【0016】
また、図2に示すように、ナット14の両側にある開口端27には(図2では一方の側のみ図示)、段部が形成されており、この段部にシール部材32が着脱可能に取り付けられている。このシール部材32は、ねじ軸12に接触してナット14の内部を密封する接触シールであって、負荷転動溝20へ異物が侵入することを防止し、潤滑剤がナット14の外へ流出することをも防止している。このシール部材32には、ラビリンスシール、ワイパシール、リップシール等が用いられる。
【0017】
そして、図2に示すように、ねじ軸12の外周面上には、ねじ山19が形成され、ナット14の内周面上には、ねじ軸12のねじ山19に対向するねじ山21が形成されており、両ねじ山19、21の間に、螺旋状の空間である螺旋状隙間23が形成されている。そして、この螺旋状隙間23と上記転動体軌道路22とは互いに隣接し且つ連通している。さらに、上記隣接するボール34同士の間には、転動体間隙間36が形成されている。この転動体間隙間36は、ボール34の並び方向の周りに画成されてなる断面が略三角形をなす空隙部である。
【0018】
ここで、このボールねじ10は、当該ボールねじ10を他の装置に組み込んで稼働させる本稼働時にグリースによる潤滑をするものであるが、本実施形態の例では、ボールねじを本稼働前には、転動体間隙間36内部に本稼働時に使用するグリースと同じ基油のオイルを初期封入している。
ここで、本実施形態のナット14には、図2に示すように、初期封入するオイル(「初期封入オイル」ともいう)を排出する排出穴40が設けられている。同図に示すように、この排出穴40を形成する位置は、ナット14のフランジ28とは反対側の下部が望ましい。この排出穴40には、初期封入オイルを排出後、ボルト等で排出穴40の開口部に蓋をできるようにタップ40aが設けられている。
【0019】
以下、図3を参照してこのボールねじ10での潤滑剤供給方法について説明する。
このボールねじ10は、その本稼働前に、初期封入潤滑剤として、本稼働時に使用するグリースと同じ基油のオイルをニップル30から空隙部である転動体間隙間36内に封入しており(初期封入潤滑剤供給工程)、ボールねじを本稼働時には、稼働時潤滑剤として、初期封入オイルと同じ基油を含有するグリース(「稼働時グリース」ともいう)が転動体間隙間36内に供給される(稼働時潤滑剤供給工程)ものである。
【0020】
詳しくは、図3(a)に初期封入潤滑剤供給工程を示すように、このボールねじ10では、上記ニップル30から、本稼働前の工場出荷の段階において、初期封入潤滑剤として本稼働時に使用するグリースと同じ基油の初期封入オイルAを注入する。ここで、この初期封入オイルAは、その基油動粘度が100mm/s以下のものを用いている。また、この初期封入オイルAには、稼働時潤滑剤として用いる稼働時グリースBと同じ基油のオイルを用いている。
【0021】
注入された初期封入オイルAの大部分は、互いに隣接する螺旋状隙間23と転動体間隙間36との間を交互に流れ、転動体軌道路22内を転動するボール34の周囲に行き渡り、さらに、ボール34の移動を介して無限循環回路16内の全体に行き渡る。なお、同図(a)において、初期封入オイルAの充填されるイメージを白抜き矢印によって示している。
そして、図3(b)に稼働時潤滑剤供給工程を示すように、このボールねじ10では、ボールねじの本稼働時に、上記ニップル30に、不図示のグリース供給回路が接続されて、ニップル30から、稼働時潤滑剤として、初期封入オイルAと同じ基油を含有する稼働時グリースBが注入される。
【0022】
本稼働時に注入される稼働時グリースBは、上記初期封入オイルAの流れ同様に、互いに隣接する螺旋状隙間23と転動体間隙間36との間を交互に流れ、このとき、上記初期封入オイルAを押し流して、転動体軌道路22内を転動するボール34の周囲に行き渡り、さらに、ボール34の転動を介して無限循環回路16内の全体に行き渡る。なお、同図(b)において、本稼働時に注入される稼働時グリースBの流れるイメージを黒塗り矢印によって示している。
【0023】
ここで、本実施形態の例では、ナット14には、初期封入オイルAを排出するために、上記排出穴40が設けられているので、本稼働時に、ナット14を取り付けたテーブル体等をナット14のフランジ15側に徐々に移動させながら連続的に稼働時グリースBを給脂することで、反フランジ側の排出穴40から初期封入オイルAを容易に排出させることができる。
【0024】
次に、このボールねじ10およびこのボールねじ10での潤滑剤供給方法の作用・効果について説明する。
上述のように、このボールねじ10によれば、本稼働時に使用する稼働時グリースBと同じ基油の初期封入オイルAが転動体間隙間36内に出荷時に予め封入されるので、ボールねじ10を本稼働前に、例えばこのボールねじ10を組み付ける際に、本稼働時に使用する稼働時グリースBに係る潤滑系統の配管等の準備が終了していない状態のまま駆動させたときでも、油分が不足した状態で駆動されることがない。したがって、それに起因する初期トラブルの発生を防止または低減可能である。そして、本稼働時には、予定された稼働時グリースBによって潤滑されるので、ボール34が無限循環回路16を円滑に転動し、ボール34や無限循環回路16の破損を防止し、ナット14がねじ軸12上を円滑に相対移動し、ボールねじ10の寿命を長くすることができる。
【0025】
また、このボールねじ10によれば、初期封入潤滑剤として封入される初期封入オイルAの基油動粘度が100mm/s以下なので、本稼働時に稼働時グリースBを供給する際に、円滑な供給を可能としている。また、稼働初期でのボールねじ10の起動トルクが増大しすぎることもなく、ボールねじからの初期封入オイルAの漏洩も防止される。これは、工作機械などでは、基油動粘度が100mm/sよりも低い動粘度のオイルを使用することが一般的であり、基油動粘度が100mm/sを超えるような高い動粘度のオイルを初期封入すると、工作機械などに組み込まれた本稼働時における駆動トルクが増加することになるからである。また、組み込み対象に例えばサーボモータが含まれるような場合であると、ボールねじを使用していくうちに低粘度のオイルの割合が高くなるため、初期に行ったサーボモータのゲイン調整に対して、周波数応答が変化してしまう等の悪影響が考えられるからである。なお、ボールねじのJIS規格(JIS B1192)において、ボールねじの動トルク測定に使用するオイルの動粘度が100mm/sと定められているところ、ナット内部に基油動粘度が100mm/s以下のオイルがある状態の信頼性に問題はない。
【0026】
また、このボールねじ10によれば、初期封入潤滑剤として、本稼働時に使用するグリースBと同じ基油の初期封入オイルAを用いているので、本稼働時に使用する稼働時グリースBに悪影響を与えない。また、このボールねじ10によれば、初期封入オイルAは、本稼働時に使用する稼働時グリースBと同じ基油を用いているので、初期封入オイルAが稼働時グリースBに馴染みやすい。そのため、初期封入オイルAから稼働時グリースBに置換する際に、ナット14内での詰まり等の問題を好適に防止または緩和することができる。
【0027】
なお、本発明に係るボールねじの潤滑剤供給方法およびボールねじは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、初期封入オイルAは、その基油動粘度が100mm/s以下のものを用いているが、これに限定されず、初期封入オイルAは、稼働時グリースBと同じ基油を含有するオイルであれば種々のオイルを適用可能である。しかし、初期封入オイルAとしては、本稼働時に稼働時グリースBを供給する際に、円滑な供給を可能とし、稼働初期でのボールねじ10の起動トルクが増大しすぎることもなく、ボールねじからの初期封入オイルAの漏洩も防止する上では、基油動粘度が100mm/s以下のものを用いることが好ましい。
【0028】
また、例えば、上記実施形態では、初期封入オイルAおよび稼働時グリースB共に、一のニップル30から充填ないし供給する例で説明したが、これに限定されず、例えば、それぞれ専用ニップルを設け、初期封入オイルAおよび稼働時グリースBを別個のニップルから充填ないし供給する構成としてもよい。
また、例えば上記実施形態では、直動案内装置の一例として、ボールねじを例に説明したが、これに限定されず、直動案内装置としてリニアガイドであっても本発明を適用することができる。具体的には、案内軸として左右の両側面に軸方向に延びる転動体転動溝をそれぞれ有する案内レールと、その案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有し相互の転動体転動溝間に配置された複数の転動体を介してスライド移動可能に跨設される移動体であるスライダとを備えるリニアガイドにも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
12 ねじ軸(案内軸)
14 ナット(移動体)
16 無限循環回路
18 ボール転動溝
20 負荷転動溝
22 転動体軌道路
23 螺旋状隙間
24 循環孔
26 転動体チューブ
28 フランジ
30 ニップル
31 潤滑剤注入路
32 シール部材(接触シール)
34 ボール(転動体)
36 転動体間隙間(空隙部)
40 排出穴
A 初期封入オイル(初期封入潤滑剤)
B 稼働時グリース(稼働時潤滑剤)
図1
図2
図3