(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エアバッグ内部に隔壁を設け、当該隔壁によって前記エアバッグの内部を、膨張流体発生源が収容される後部チャンバと、前記隔壁に設けられた連通路を介して前記後部チャンバに連通される前部チャンバとに区画し、前記膨張流体発生源から前記エアバッグへ膨張流体が供給される供給期間の初期には閉弁して前記後部チャンバから前記連通路を通じて前記前部チャンバへ前記膨張流体が流通するのを規制し、同供給期間の途中から開弁して前記規制を解除する調圧弁を前記隔壁に設けたサイドエアバッグ装置であって、
前記隔壁は、上側パネルと下側パネルを上下方向に配置して形成され、
前記連通路は、一部に間隙を残して結合された前記上側パネルの下端部と前記下側パネルの上端部の重ね合わせ部分が、乗員拘束に伴い加わる外力により前記後部チャンバが圧縮されて撓むことにより離間して形成され、
前記連通路が形成されている前記重ね合わせ部分が前記調圧弁とされ、
前記前部チャンバを構成するエアバッグ前部が、同一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって前記膨張流体発生源に向けて折り畳まれている一方、
前記後部チャンバを構成するエアバッグ後部が、折り返す方向を交互に変えて折り畳む蛇腹折りによって前記膨張流体発生源に向けて折り畳まれており、
ロール折りによって折り畳まれた前記エアバッグ前部と、蛇腹折りによって折り畳まれた前記エアバッグ後部とが前記膨張流体発生源の前方に配置されている
ことを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、サイドエアバッグ装置の一実施形態について、
図1〜
図11を参照して説明する。
図1は本実施形態にかかるサイドエアバッグ装置の概略構成を示す模式図であり、同サイドエアバッグ装置が搭載された車両のシート10を側面から見た状態を示している。なお、
図1にあっては図面の右側が車両前方になっており、図面の上側が車両上方になっている。
【0026】
図1に示されるようにこのシート10の座部11には、ヒンジ12を介して背もたれ13が連結されている。シート10の背もたれ13には、
図1に破線で示されるように本実施形態にかかるサイドエアバッグ装置のエアバッグモジュール100が収容されている。また
図1の下方に示されるように本実施形態のサイドエアバッグ装置は、エアバッグモジュール100に加えて、衝撃センサ160と、エアバッグモジュール100に制御指令を出力する制御装置150とを備えている。
【0027】
衝撃センサ160は車両のサイドピラーなどに取り付けられた加速度センサからなり、側面衝突などによる車両側方(シート10の側方)からの衝撃を検出する。制御装置150は衝撃センサ160から出力された検出信号に基づき、エアバッグモジュール100に対し、エアバッグ110を展開させるための制御指令を出力する。
【0028】
エアバッグモジュール100では、後述するようにエアバッグ110が折り畳まれた状態で収容されており、制御装置150から制御指令が出力されると、それに基づいてエアバッグ110が
図1及び
図2に二点鎖線で示されるように展開膨張されるようになっている。なお、
図2はサイドエアバッグ装置が搭載されたシート10の上面図である。
図2にあっては図面の右側が車両前方になっており、図面の上側が車室中央側になっている。また、車両には、シート10に着座した乗員を拘束するシートベルト装置が装備されているが、
図1及び
図2ではこのシートベルト装置の図示が省略されている。
【0029】
図2に破線で示されるようにエアバッグモジュール100はシート10の背もたれ13における車室側壁200側の部分に収容されている。これにより、衝撃センサ160によって車両側方からの衝撃が検出されると、エアバッグ110は
図2に二点鎖線で示されるように乗員と車室側壁200との狭い隙間に入り込むように展開膨張し、乗員と車室側壁200との間に介在して側方からの衝撃を緩和、吸収して同乗員を保護する。
【0030】
次に
図3を参照して、エアバッグモジュール100の構成と、エアバッグモジュール100が収容されている背もたれ13の構造について説明する。なお、
図3にあっては図面の上側が車両前方になっており、図面の左側が車室中央側になっている。
【0031】
図3に示されるように背もたれ13の内部には、同背もたれ13の骨格をなすフレーム130が配置されている。フレーム130は金属板を曲げ加工などすることによって形成されており、背もたれ13におけるフレーム130の周囲、すなわち乗員がもたれかかる部分にはウレタンフォームなどの弾性材からなるパッド131が充填されている。なお、パッド131はシート表皮によって被覆されているが
図3ではシート表皮の図示を省略している。一方で、背もたれ13における車両後方側の部分、すなわち背もたれ13の裏面は合成樹脂などによって形成された硬質の背板132で覆われている。
【0032】
図3の中央に示されるように背もたれ13のサイドサポートには空間が設けられており、ここにエアバッグモジュール100が収容されている。パッド131には、この空間の車両前方側の先端部分からサイドサポートの先端に向かって延びるスリット133が設けられている。これにより、このスリット133とサイドサポートの先端部とによって挟まれた部分(
図3において二点鎖線で囲まれた部分X)は、エアバッグ110が展開膨張する際に破断されるようになっている。
【0033】
エアバッグモジュール100は、折り畳まれたエアバッグ110とインフレータアセンブリ120とを備えている。インフレータアセンブリ120は、エアバッグ110を膨張させるための膨張用ガスを噴出する膨張流体発生源としてのインフレータ121をリテーナ122に収容したものである。
【0034】
本実施形態では、インフレータ121として、パイロタイプと呼ばれるタイプのものが採用されている。インフレータ121は略円柱状をなしており、その内部には、エアバッグ110を膨張させる膨張流体として膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ121の長さ方向についての一方の端部(本実施形態では下端部)には、同インフレータ121への制御信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0035】
なお、インフレータ121としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬などによって破断して膨張用ガスを噴出させるハイブリッドタイプが用いられてもよい。
【0036】
インフレータ121を収容するリテーナ122は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ121をエアバッグ110とともにフレーム130に締結する保持部材として機能する。リテーナ122は、金属板などの板材を曲げ加工などすることによって略筒状に形成されている。リテーナ122には図示しない窓部が設けられており、インフレータ121から噴出された膨張用ガスは、この窓部を通じてエアバッグ110の内部に噴出される。
【0037】
リテーナ122には、これをフレーム130に固定するためのボルト123が複数(本実施形態にあっては2つ)設けられている。エアバッグモジュール100は
図3の中央に示されるようにこのボルト123をフレーム130に挿通させた状態でナット124を螺合させることにより、背もたれ13内に固定される。こうして背もたれ13内に固定されるエアバッグモジュール100は、エアバッグ110のうちインフレータアセンブリ120を収容した部分よりも前側の部分を折り畳み、
図3に示すようにインフレータアセンブリ120の前方に配置することにより、コンパクトな収容形態にされている。
【0038】
次に、
図4及び
図5を参照してエアバッグ110の構成を説明する。なお、
図4にあっては図面の右側が車両前方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、
図4における紙面の手前方向が車室側壁200側になっており、紙面の奥側が車室中央側になっている。
【0039】
エアバッグ110は線対称な形状に形成された一枚の基布114をその中央に設定した折り線に沿って二つ折りにして重ねあわせ、
図4に二重の破線S1で示されるようにその周縁部を縫合することによって袋状に形成されている。
図4に示されるようにエアバッグ110では、車両後方側の部分で基布114が折り返されている。なお、基布114としては強度が高く、且つ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸などを用いて形成した織布などが適している。
【0040】
エアバッグ110の
図4における左下隅の部分、すなわち車両後方側の下端部はインフレータアセンブリ120を挿入するための開口になっており、この部分からインフレータアセンブリ120の一部がエアバッグ110の内部に挿入されている。
【0041】
図5に示されるようにエアバッグ110の内部には隔壁111が設けられており、この隔壁111によってエアバッグ110の内部は車両前方側に位置することになる前部チャンバ112と、車両後方側に位置することになる後部チャンバ113とに区画されている。なお、
図5は
図4の二点鎖線で囲まれた部分Yにおけるエアバッグ110内部の状態を示す破断斜視図である。
【0042】
隔壁111は上側パネル111Aと下側パネル111Bとを組み合わせることによって形成されている。具体的には、上側パネル111Aと下側パネル111Bとをそれらの端部を揃えて重ね合わせ、
図5に破線S3で示されるようにその揃えた端部に沿って、中央部分を残してその他の部分を縫合することにより、上側パネル111Aと下側パネル111Bとを結合している。そして、このように結合された上側パネル111A及び下側パネル111Bの周縁部を、縫合された部分を上方に向かって折り返した状態で、
図4及び
図5に破線S2で示されるように基布114に縫合することにより、エアバッグ110の内部に隔壁111が固定されている。
【0043】
このようにエアバッグ110の内部に隔壁111が設けられていることにより、
図1及び
図2に二点鎖線で示されるように展開膨張したエアバッグ110の内部は車両前方側に位置する前部チャンバ112と車両後方側に位置する後部チャンバ113とに区画されている。なお、隔壁111は、
図1及び
図2に示されるようにシート10に着座している乗員の上半身の車両前後方向についての中央部分で展開するようにその位置が調整されている。
【0044】
図5に破線S3で示されるように隔壁111の車両幅方向についての中央部分にあっては、上側パネル111Aと下側パネル111Bとが縫い合わせられていない。本実施形態のサイドエアバッグ装置では、このように上側パネル111A及び下側パネル111Bに、縫い合わせない部分を設けることにより、後部チャンバ113と前部チャンバ112とを連通させる連通路119を形成している。また、この連通路119が形成されている部分における上側パネル111Aと下側パネル111Bとが重なりあっている部分を、連通路119を開閉する調圧弁118としている。
【0045】
図4に示されるようにエアバッグ110は、隔壁111を固定しているステッチ(破線S2)を境に、車両後方側に位置して後部チャンバ113を構成するエアバッグ後部110Bと、車両前方側に位置して前部チャンバ112を構成するエアバッグ前部110Aとに区画されている。インフレータアセンブリ120はエアバッグ後部110Bに収容されている。そのため、インフレータ121から膨張用ガスが噴出された場合には、まずエアバッグ後部110Bに膨張用ガスが充填され、後部チャンバ113が膨張することになる。このとき、隔壁111には後部チャンバ113の膨張に伴って同隔壁111を外側に引っ張るような力が作用することになる。この力は調圧弁118を構成している上側パネル111Aと下側パネル111Bとが重なりあっている部分を密着させるように作用するため、エアバッグ110が展開膨張し始めた直後には調圧弁118が閉弁された状態になる。後部チャンバ113から連通路119を通じて前部チャンバ112へ膨張用ガスが流通することが規制される。そのため、後部チャンバ113が展開膨張し始めた直後には膨張用ガスが前部チャンバ112に供給されず、後部チャンバ113が優先的に膨張する。
【0046】
これに対して、膨張した後部チャンバ113によって乗員が拘束されるようになり、後部チャンバ113に乗員側から荷重が作用するようになると、後部チャンバ113が側方から圧縮され、隔壁111が撓むようになる。隔壁111が撓むと、調圧弁118を構成している上側パネル111Aと下側パネル111Bとが重なりあっている部分を密着させている力が弱まり、この部分で上側パネル111Aと下側パネル111Bが離間して調圧弁118が開弁される。上記規制が解除され、連通路119での膨張用ガスの流通が可能となり、後部チャンバ113から前部チャンバ112に膨張用ガスが供給されるようになる。
【0047】
なお、調圧弁118を介して後部チャンバ113から前部チャンバ112に膨張用ガスが流れ込むことにより、調圧弁118を構成している上側パネル111Aと下側パネル111Bとが重なりあっている部分は、連通路119を通じて前部チャンバ112側に反転するようになる。そして、この反転により、調圧弁118は開弁状態を維持する。これに対して、前部チャンバ112から後部チャンバ113に膨張用ガスが流れ込もうとすると、調圧弁118を構成している部分は、後部チャンバ113側に戻り、調圧弁118は閉弁状態になる。すなわち、調圧弁118は後部チャンバ113から前部チャンバ112への膨張用ガスの流れを許容する一方、前部チャンバ112から後部チャンバ113への膨張用ガスの流れを抑制する逆止弁としても機能する。
【0048】
また、前部チャンバ112には図示しないベントホールが設けられており、前部チャンバ112に供給された膨張用ガスは、このベントホールを通じてエアバッグ110の外部へ排出可能である。
【0049】
次に、このように構成されたサイドエアバッグ装置のエアバッグ110を折り畳む方法について、
図6〜
図10を参照して説明する。
なお、
図6は、折り畳まれる前の展開された状態におけるエアバッグ110を示す側面図である。
図6の側面図では、図面の右側が車両前方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、
図6の側面図における紙面の手前側が車室側壁200側になっており、紙面の奥側が車室中央側になっている。また
図6にあっては、側面図の右側に、エアバッグ110を車両前方側から見た状態を示す模式図をあわせて図示している。
【0050】
本実施形態のサイドエアバッグ装置にあっては、
図6に矢印で示されるように、まず、エアバッグ110におけるインフレータアセンブリ120が挿入されている部分よりも下方に位置する部分が上方に向けて折り畳まれる。具体的には
図6の側面図に一点鎖線で示されている折り線に沿ってエアバッグ110を谷折りすることにより、
図6の模式図に二点鎖線で示されるようにエアバッグ110の下端部分が上方に向けて折り返され、同エアバッグ110の車室側壁200側の面に折り重ねられる。
【0051】
こうしてエアバッグ110の下端部分が折り畳まれると、
図7に示されるような状態になる。この
図7でも、
図6と同様に側面図における右側が車両前方になっており、側面図における上側が車両上方になっている。また、
図7の側面図における紙面の手前側が車室側壁200側になっており、紙面の奥側が車室中央側になっている。なお、この
図7にあっては、エアバッグ110の側面図の下側にエアバッグ110を下方から見た状態を示す模式図をあわせて図示している。
【0052】
本実施形態のサイドエアバッグ装置にあっては、前部チャンバ112を構成するエアバッグ前部110Aをロール折りによって折り畳む一方、後部チャンバ113を構成するエアバッグ後部110Bを蛇腹折りによって折り畳むことで、エアバッグ110をインフレータアセンブリ120側に折り縮める。
【0053】
そのために、
図7に矢印で示されるようにエアバッグ前部110Aを、車両前方側の端部から車室側壁200側の面を内側に巻き込むように一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳む。エアバッグ前部110Aがロール折りによって折り畳まれると、
図8に示されるような状態になる。この
図8でも、
図6及び
図7と同様に側面図における右側が車両前方になっており、側面図における上側が車両上方になっている。また、
図8の側面図における紙面の手前側が車室側壁200側になっており、紙面の奥側が車室中央側になっている。なお、この
図8にあっては、
図7と同様にエアバッグ110の側面図の下側にエアバッグ110を下方から見た状態を示す模式図をあわせて図示している。
【0054】
上記のようにエアバッグ前部110Aをロール折りによって折り畳むと、次にエアバッグ後部110Bを、折り畳む方向を交互に切り替える蛇腹折りによって折り畳む。具体的には、まず、
図8に破線矢印で示されるように一点鎖線で示される折り線に沿ってエアバッグ110を山折りすることにより、ロール状に折り畳まれたエアバッグ前部110Aをエアバッグ後部110Bの車室中央側の面に折り重ねる。次に、
図8に矢印で示されるように一点鎖線で示される折り線に沿ってエアバッグ110を谷折りすることにより、エアバッグ後部110Bの車室中央側の面に折り重ねられた部分をエアバッグ110の車室側壁200側に折り返す。これにより、エアバッグ110は、
図9に示されるようにインフレータアセンブリ120の車両前方側に寄せられるように折り畳まれ、上下方向に延びる中間形態にされる。
【0055】
この
図9でも、
図6〜
図8と同様に側面図における右側が車両前方になっており、側面図における上側が車両上方になっている。また、
図9の側面図における紙面の手前側が車室側壁200側になっており、紙面の奥側が車室中央側になっている。なお、この
図9にあっては、エアバッグ110の側面図の右側にエアバッグ110を車両前方側から見た状態を示す模式図をあわせて図示している。
【0056】
本実施形態のサイドエアバッグ装置にあっては、上記のようにして上下方向に延びる中間形態にしたエアバッグ110を
図9に矢印で示されるように上下方向において略半分に折り畳み、エアバッグ110を背もたれ13に収容するための収容形態にする。具体的には、
図9の側面図に一点鎖線で示されている折り線に沿ってエアバッグ110を谷折りすることにより、
図9の模式図に二点鎖線で示されるようにエアバッグ110の上部が下方に向かって折り返される。
【0057】
こうしてエアバッグ110は、上部が折り畳まれると、
図10に示されるような状態になる。この
図10でも、
図6〜
図9と同様に側面図における右側が車両前方になっており、側面図における上側が車両上方になっている。また、
図10の側面図における紙面の手前側が車室側壁200側になっており、紙面の奥側が車室中央側になっている。なお、この
図10にあっては、エアバッグ110の側面図の下側にエアバッグ110を下方から見た状態を示す模式図をあわせて図示している。
【0058】
インフレータアセンブリ120が収容され、且つその収容部分よりも前側部分が折り畳まれて収容形態にされたエアバッグ110は、
図10の模式図に二点鎖線で示されるように保護布125によって包まれ、これによりエアバッグモジュール100が完成する。なお、保護布125はエアバッグ110が展開膨張するときに容易にちぎれるようになっている。
【0059】
上記エアバッグモジュール100は、
図3に示されるように、背もたれ13内に収容された状態でフレーム130に固定される。
次に、上記実施形態のサイドエアバッグ装置の作用について説明する。
【0060】
側突などにより、車室側壁200に対し、その側方(シート10の側方)からの衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ160によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置150からインフレータ121に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ121では膨張用ガスが発生される。
【0061】
上記膨張用ガスは、まず、エアバッグ110のうちインフレータ121の収容されたチャンバである後部チャンバ113に供給される。膨張用ガスの供給期間の初期には調圧弁118が閉弁され、後部チャンバ113内の膨張用ガスが連通路119を通じて前部チャンバ112へ流通することが規制される(
図5参照)。そのため、エアバッグ110では、後部チャンバ113が前部チャンバ112に優先して展開膨張する。前部チャンバ112は、膨張用ガスが供給されず膨張しない。ただし、前部チャンバ112が膨張せずに展開する(折りがほどける)ことは起こり得る(
図11(b)参照)。後部チャンバ113が展開膨張する際の前方への動きが前部チャンバ112に伝わるからである。
【0062】
また、後部チャンバ113を構成するエアバッグ後部110Bは、折りほどけ易く展開し易い蛇腹折りされている。このことから、後部チャンバ113は、速やかに展開膨張する。
【0063】
また、車両側方からの上記衝撃により、車室側壁200が乗員側へ進入し、エアバッグ後部110Bが乗員に押し付けられると、同乗員は同エアバッグ後部110Bによって拘束されて衝撃から保護される。本実施形態では、上述したように後部チャンバ113が速やかに膨張していることから、同後部チャンバ113による乗員の拘束及び保護が速やかに行なわれる。この乗員拘束に伴いエアバッグ後部110Bに外力が加わると、調圧弁118は、膨張用ガスの供給期間の途中から開弁する。この開弁により、上記流通規制が解除され、連通路119での膨張用ガスの流通が可能となる。
【0064】
この開弁により、後部チャンバ113内の膨張用ガスは、連通路119を通って前部チャンバ112に供給され始める。そのため、エアバッグ110では、後部チャンバ113による乗員の拘束及び保護の開始後に、前部チャンバ112が展開膨張する。このとき、エアバッグ110(前部チャンバ112)の前方に障害物があっても、既に後部チャンバ113による乗員の拘束及び保護は開始されているため、その障害物から影響を受けにくい。
【0065】
また、前部チャンバ112を構成するエアバッグ前部110Aは、ロール折りされている。ロール折りには、蛇腹折りよりは折りほどけ難いものの、狭い部分に入り込み易いという特徴がある。そのため、エアバッグ前部110Aは、乗員と車室側壁200との狭い隙間に入り込んで展開膨張する。
【0066】
ここで、
図11(a)及び
図11(b)はエアバッグ110の展開態様を示す模式図である。これらの
図11(a)及び
図11(b)にあっては、図面における右側が車両前方になっており、下方が車室側壁200側になっている。なお、
図11にあっては説明の便宜上、背もたれ13やそれを構成するフレーム130、パッド131などの図示を省略している。
【0067】
また、実際にインフレータ121から膨張用ガスが噴出されてエアバッグ110が展開膨張する際には、中間形態から収容形態にエアバッグ110を折り畳んだときの折りが解消されるとともにエアバッグ110内に膨張用ガスが進入し、その圧力によってエアバッグ110が蛇腹折り及びロール折りを解消しながら車両前方に向かって展開膨張する。しかし、
図11(a)及び
図11(b)にあっては説明の便宜上、蛇腹折り及びロール折りが解消(展開)される様子のみを模式的に図示している。
【0068】
図11(a)に示されるように本実施形態のサイドエアバッグ装置にあっては、蛇腹折りされているエアバッグ後部110Bとロール折りされているエアバッグ前部110Aとが車両の幅方向(
図11における上下方向)に沿って左右に並ぶように配置されている。そのため、エアバッグ後部110Bの展開がエアバッグ前部110Aによって阻害され難く、インフレータ121からの膨張用ガスの噴出に伴ってエアバッグ後部110Bが前方に向けて速やかに展開する。
【0069】
また、エアバッグ後部110Bが車室中央側に配置されている一方、エアバッグ前部110Aが車室側壁200側に配置されている。そのため、車室中央側に位置するエアバッグ後部110Bの蛇腹折りが展開するときに、車室側壁200側に位置するエアバッグ前部110Aが、
図11(a)に矢印で示されるように、車室側壁200に向けて斜め前方に押し出される。
【0070】
そして、エアバッグ前部110Aは車室側壁200側の面を内側に巻き込むように繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれているため、このエアバッグ前部110Aが展開する際には、
図11(b)に矢印で示されるようにロール状に折り畳まれている部分が既に折りほどかれた部分よりも車室側壁200に向かって折りほどけるようになる。
【0071】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られるようになる。
(1)エアバッグ110を隔壁111により前部チャンバ112及び後部チャンバ113に区画する。隔壁111に、両チャンバ112,113を連通させる連通路119を設ける。インフレータ121からエアバッグ110へ膨張用ガスが供給される供給期間の初期には閉弁して、後部チャンバ113から連通路119を通じて前部チャンバ112へ膨張用ガスが流通するのを規制し、同供給期間の途中から開弁して上記規制を解除する調圧弁118を、上記隔壁111に設ける(
図5)。前部チャンバ112を構成するエアバッグ前部110Aをロール折りし(
図7)、後部チャンバ113を構成するエアバッグ後部110Bを蛇腹折りし(
図8)、それらエアバッグ前部110A及びエアバッグ後部110Bをインフレータ121の前方に配置している(
図3)。
【0072】
上記のように、エアバッグ後部110Bを、折りほどけ易く展開し易い蛇腹折りしたことで、同後部チャンバ113を速やかに前方に押し出すことができる。また、エアバッグ前部110Aを、障害物に展開を阻害され難く狭い部分に入り込み易いロール折りしたことで、同前部チャンバ112を乗員と車室側壁200との狭い隙間に速やかに入り込ませることができる。
【0073】
また、調圧弁118を通じて後部チャンバ113と前部チャンバ112の圧力のバランスを調整し、両チャンバ113,112の展開膨張タイミングを制御することができる。
すなわち、背もたれ13に近い後部チャンバ113は、前部チャンバ112よりも先に乗員を拘束し、荷重を受けることになる。これに対して、上記実施形態のサイドエアバッグ装置によれば、後部チャンバ113を展開膨張させて乗員を拘束し、同後部チャンバ113に荷重が作用するまでは調圧弁118を閉弁させている。そのため、インフレータ121から噴出された膨張用ガスが連通路119を通じて前部チャンバ112へ流出するのを抑制し、後部チャンバ113を速やかに展開膨張させることができる。そして、展開膨張した後部チャンバ113によって乗員を拘束し、後部チャンバ113に荷重が作用すると調圧弁118を開弁させ、乗員と車室側壁200との隙間で展開させられた前部チャンバ112に、連通路119を通じて膨張用ガスを供給することができる。
【0074】
その結果、エアバッグ110の前方に障害物があった場合にも、エアバッグ後部110Bにより乗員を速やかに拘束及び保護することができる。
また、後部チャンバ113内の膨張用ガスを時間差を設けて前部チャンバ112に導入することができる。したがって、後部チャンバ113の内圧が過剰に高くなってしまうことを抑制しつつ、乗員と車室側壁200との隙間に展開した前部チャンバ112を膨張させて乗員をより的確に保護することができる。
【0075】
(2)調圧弁118として、膨張用ガスの供給期間の途中から、エアバッグ110による乗員拘束に伴い加わる外力により開弁するものを採用している(
図5)。
そのため、上記(1)の効果に加え、後部チャンバ113による乗員の拘束及び保護の開始後に、前部チャンバ112を膨張させることができる。
【0076】
(3)ロール折りされたエアバッグ前部110Aと、蛇腹折りされたエアバッグ後部110Bとを、車両の幅方向に沿って左右に並べた状態でインフレータ121の前方に配置している(
図3)。
【0077】
そのため、エアバッグ後部110Bの展開がエアバッグ前部110Aによって阻害されるのを抑制し、エアバッグ後部110Bを速やかに前方に向かって押し出して展開膨張させることができる。
【0078】
(4)エアバッグ後部110Bを車室中央側に配置し、エアバッグ前部110Aを車室側壁側に配置している(
図3)。
そのため、車室中央側に位置するエアバッグ後部110Bを速やかに前方に向けて展開させることにより、乗員を速やかに後部チャンバ113によって拘束し、保護することができる。
【0079】
また、エアバッグ後部110Bの蛇腹折りが展開するときにエアバッグ前部110Aを車室側壁200に向けて斜め前方に押し出すことで、エアバッグ前部110Aを車室側壁200に沿って展開させ、乗員と車室側壁200との狭い隙間に速やかに入り込ませることができる。
【0080】
(5)
図11(b)を参照して説明したように、車室側壁200側の面を内側に巻き込むように同一方向に向かって繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれたエアバッグ前部110Aが展開する際には、ロール状に折り畳まれている部分が既に折りほどかれた部分よりも車室側壁200に向かって折りほどけるようになる。
【0081】
そのため、エアバッグ前部110Aの車室側壁200に沿った展開をし易くすることができる。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
【0082】
・上記実施形態では、エアバッグ前部110Aのロール折りを、車室側壁200側の面を内側に巻き込むように同一方向に向かって繰り返すことによって行なったが、これとは反対に車室中央側の面を内側に巻き込むように同一方向に向かって繰り返すことによって行なってもよい。この場合には上記(5)に記載の効果は得られないものの、上記(1)〜(4)に記載の効果を得ることができる。
【0083】
・上記実施形態では蛇腹折りによって折り畳まれたエアバッグ後部110Bを車室中央側に配置し、ロール折りによって折り畳まれたエアバッグ前部110Aを車室側壁200側に配置することによって、エアバッグ後部110Bとエアバッグ前部110Aとを車両の幅方向に沿って左右に並べるように配置する構成を示した。これに対して、上記(1)〜(3)に記載の効果は、蛇腹折りされているエアバッグ後部110Bとロール折りされているエアバッグ前部110Aとが車両の幅方向に沿って左右に並ぶように配置されていれば得られる。
【0084】
そのため、エアバッグ前部110Aとエアバッグ後部110Bの配置を左右逆転させることもできる。すなわち、蛇腹折りによって折り畳まれたエアバッグ後部110Bを車室側壁200側に配置し、ロール折りによって折り畳まれたエアバッグ前部110Aを車室中央側に配置する構成を採用することもできる。ただし、この場合には、上記(4)の効果は得られにくくなる。
【0085】
・エアバッグ110の下部の上方への折り返しは、上記実施形態とは異なり、エアバッグ前部110Aがロール折りされ、エアバッグ後部110Bが蛇腹折りされた後に行なわれてもよい。
【0086】
・エアバッグ前部110A及びエアバッグ後部110Bは、インフレータ121の前方であることを条件に、上記実施形態とは異なる態様で配置されてもよい。
図12及び
図13は、その一例を示している。なお、
図12及び
図13では、上記実施形態で説明したものと同様の要素に同一の符号が付されている。いずれの変形例でも、蛇腹折りによって折り畳まれたエアバッグ後部110Bがインフレータ121の前方に配置され、ロール折りによって折り畳まれたエアバッグ前部110Aが、エアバッグ後部110Bの前方に配置されている。このように配置態様が変更された場合であっても、インフレータアセンブリ120の前方で前後に並べられたエアバッグ前部110A及びエアバッグ後部110Bが、時間差をもってともに前方へ展開膨張するため、上記(1)及び(2)に記載の効果が得られる。
【0087】
図12と
図13との相違は、エアバッグ前部110Aのロール折りに際し、折り畳む方向が互いに逆の関係にあることである。
図12では、エアバッグ前部110Aが、車室側壁200側の面を内側に巻き込むように同一方向に向けて繰り返し折り畳まれている。
【0088】
これに伴い、エアバッグ後部110Bのエアバッグ前部110Aとの境界部分は、車室側壁200側に位置している。また、エアバッグ後部110Bにおいて蛇腹折りされた部分の非折り畳み部分(インフレータアセンブリ120を囲んでいる部分)との境界部分は、車室側壁200側に位置している。この変形例の場合には、上述した(5)と同様の効果が得られる。すなわち、エアバッグ前部110Aが展開する際に、ロール状に折り畳まれている部分が既に折りほどかれた部分よりも車室側壁200に向かって折りほどける。そのため、エアバッグ前部110Aを車室側壁200に沿って展開させ易くする効果が期待できる。
【0089】
これに対し、
図13では、エアバッグ前部110Aが、車室中央側の面を内側に巻き込むように同一方向に向けて繰り返し折り畳まれている。
これに伴い、エアバッグ後部110Bのエアバッグ前部110Aとの境界部分は、車両中央側に位置している。また、エアバッグ後部110Bにおいて蛇腹折りされた部分の非折り畳み部分(インフレータアセンブリ120を囲んでいる部分)との境界部分は、車室中央側に位置している。この変形例の場合は、上記(5)のような効果は得られにくい。
【0090】
・エアバッグ110は、一枚の基布114を二つ折りして袋状に縫い合わせることによって形成されたものに限らず、二枚の基布を重ね合わせてそれらを縫い合わせることによって形成されたものであってもよい。また、エアバッグ110は、三枚以上の基布をつなぎ合わせることで袋状に形成されたものであってもよい。
【0091】
・基布114を縫い合わせるのではなく、接着剤を用いて基布114を接着することによりエアバッグ110を形成する構成を採用することもできる。また、隔壁111を形成する際にも上側パネル111Aと下側パネル111Bを縫い合わせるのではなく、接着剤を用いて接着する構成を採用することができる。
【0092】
・上記実施形態では、インフレータアセンブリ120が収容され、且つ折り畳まれた状態のエアバッグ110を保護布125で包むことによりエアバッグモジュール100とする構成を示したが、保護布125で包んでいないものをエアバッグモジュール100としてもよい。また、エアバッグ110とインフレータアセンブリ120とを箱状のケースに収容してエアバッグモジュールとすることもできる。
【0093】
・隔壁111として、単一の部材(布片)からなるものが用いられてもよい。
・上記実施形態では、隔壁111を構成する上側パネル111Aと下側パネル111Bとを重ね合わせ、一部に間隙を残して縫い合わせることによって連通路119とともに調圧弁118を形成する構成を示したが、調圧弁118の構成は適宜変更することができる。例えば、隔壁111を形成する部材とは別の部材によって調圧弁を形成し、隔壁111に設けた連通路119に後から調圧弁を取り付ける構成を採用することもできる。
【0094】
・上記実施形態では、隔壁111の中央部分の一カ所のみに調圧弁118及び連通路119を設ける構成を示したが、調圧弁118及び連通路119を複数カ所に設ける構成を採用することもできる。
【0095】
・エアバッグ110は、上記実施形態のようにその略全体が膨張ものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0096】
・エアバッグ後部110Bに対する蛇腹折り、及びエアバッグ前部110Aに対するロール折りの実施順は特に限定されず、上記実施形態のほかにも、蛇腹折り及びロール折りの順に実施されたり、略同時に実施されたりしてもよい。
【0097】
・上記サイドエアバッグ装置は、シート10が車両の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で配置された車両において、そのシート10に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員を保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0098】
・上記サイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・上記サイドエアバッグ装置は、車両に限らず、航空機、船舶などのほかの乗物におけるシートに装備されるサイドエアバッグ装置にも適用可能である。