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特許5983212無線機、コンピュータプログラム、同期処理装置、及び同期補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983212
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】無線機、コンピュータプログラム、同期処理装置、及び同期補正方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/40 20150101AFI20160818BHJP
   H04W 56/00 20090101ALI20160818BHJP
   H04L 7/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   H04B1/40
   H04W56/00 150
   H04L7/00 080
   H04L7/00 160
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-198082(P2012-198082)
(22)【出願日】2012年9月10日
(65)【公開番号】特開2014-53833(P2014-53833A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 文哉
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−160805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/40
H04L 7/00
H04W 56/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から受信した外部基準信号に同期する無線機であって、
前記外部基準信号を受信する受信部と
前記受信部が受信した前記外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、
を備え、
前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行し、
前記無線機は、クロック発振器から出力されるクロック信号に基づいてカウントされるタイマを更に備え、
前記誤差検出部は、前記受信部が受信した前記外部基準信号に基づいて、前記タイマの値の誤差を前記同期誤差として検出するよう構成され、
前記補正部は、前記誤差検出部が検出した前記同期誤差に基づいて、前記タイマの値を補正するよう構成され、
前記補正部は、周期的に発生する前記外部基準信号の発生周期よりも短い間隔で前記タイマの値を補正する
ことを特徴とする無線機。
【請求項2】
外部から受信した外部基準信号に同期する無線機であって、
前記外部基準信号を受信する受信部と
前記受信部が受信した前記外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、
を備え、
前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行し、
前記補正部は、前記継続補正モードの実行を終了する終了条件が満たされると、前記受信部が前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときであっても、前記継続補正モードを終了して、前記外部基準信号に同期せず前記無線機が有するタイマの値に従って動作する非同期モードとなる
無線機。
【請求項3】
外部から受信した外部基準信号に同期する無線機であって、
前記外部基準信号を受信する受信部と
前記受信部が受信した前記外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、
を備え、
前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行し、
前記補正部は、前記誤差検出部が過去に検出した複数の同期誤差のばらつきの大きさに応じて、前記継続補正モードを実行する時間の長さを制御する
無線機。
【請求項4】
クロック発振器から出力されるクロック信号に基づいてカウントされるタイマを更に備え、
前記誤差検出部は、前記受信部が受信した前記外部基準信号に基づいて、前記タイマの値の誤差を前記同期誤差として検出するよう構成され、
前記補正部は、前記誤差検出部が検出した前記同期誤差に基づいて、前記タイマの値を補正するよう構成され、
前記補正部は、周期的に発生する前記外部基準信号の発生周期よりも短い間隔で前記タイマの値を補正する
請求項2又は3に記載の無線機。
【請求項5】
前記受信部は、前記外部基準信号として、少なくともGNSS信号及び他の無線機から送信された基準信号を受信可能であり、
前記補正部は、少なくとも以下のa)及びb)が成り立つ場合に、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の無線機。
a)前記受信部がGNSS信号を受信できない。
b)他の無線機から送信された基準信号を前記受信部が受信できない又は他の無線機から送信されて前記受信部が受信した基準信号が信頼できない。
【請求項6】
自機が同期状態にあるか非同期状態にあるかを示す同期情報を送信する送信部を更に備え、
前記同期情報は、前記継続補正モードの実行中においては、同期状態にあることを示す情報となる
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線機。
【請求項7】
前記同期情報は、前記継続補正モードの実行を終了する終了条件が満たされると、非同期状態にあることを示す情報となる
請求項6記載の無線機。
【請求項8】
無線機に搭載されたコンピュータを、
外部から受信した外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部、及び
前記誤差検出処理によって検出された前記同期誤差に基づいて同期誤差を補正する補正部
として機能させ、
前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行し、
前記誤差検出部は、受信した前記外部基準信号に基づいて、クロック発振器から出力されるクロック信号に基づいてカウントされるタイマの値の誤差を前記同期誤差として検出するよう構成され、
前記補正部は、前記誤差検出部が検出した前記同期誤差に基づいて、前記タイマの値を補正するよう構成され、
前記補正部は、周期的に発生する前記外部基準信号の発生周期よりも短い間隔で前記タイマの値を補正する
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項9】
外部から受信した外部基準信号に同期する処理を行う同期処理装置であって、
外部から受信した外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、
を備え、
前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行し、
前記誤差検出部は、受信した前記外部基準信号に基づいて、クロック発振器から出力されるクロック信号に基づいてカウントされるタイマの値の誤差を前記同期誤差として検出するよう構成され、
前記補正部は、前記誤差検出部が検出した前記同期誤差に基づいて、前記タイマの値を補正するよう構成され、
前記補正部は、周期的に発生する前記外部基準信号の発生周期よりも短い間隔で前記タイマの値を補正する
ことを特徴とする同期処理装置。
【請求項10】
外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、過去に受信した外部基準信号に基づいて検出された同期誤差に基づいて、周期的に発生する前記外部基準信号の発生周期よりも短い間隔で同期誤差の補正を行うことを特徴とする同期補正方法。
【請求項11】
外部から受信した外部基準信号に同期する処理を行う同期処理装置であって、
外部から受信した外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、
を備え、
前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行し、
前記補正部は、前記継続補正モードの実行を終了する終了条件が満たされると、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときであっても、前記継続補正モードを終了して、前記外部基準信号に同期せず前記同期処理装置が有するタイマの値に従って動作する非同期モードとなる
同期処理装置。
【請求項12】
外部から受信した外部基準信号に同期する処理を行う同期処理装置であって、
外部から受信した外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、
前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、
を備え、
前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行し、
前記補正部は、前記誤差検出部が過去に検出した複数の同期誤差のばらつきの大きさに応じて、前記継続補正モードを実行する時間の長さを制御する
同期処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)用の路側通信機などとして好適に用いられる無線機などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全の促進や交通事故の防止を目的として、道路に設置されたインフラ装置からの情報を受信し、或いは車両同士で情報交換を行い、これらの情報を活用することで車両の安全性を向上させる高度道路交通システムが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
かかる高度道路交通システムは、主として、インフラ側の無線通信装置である複数の路側通信機と、各車両に搭載される無線通信装置である複数の車載通信機とによって構成される。
【0003】
この場合、各通信主体間で行う通信の組み合わせには、路側通信機同士が行う路路間通信と、路側通信機と車載通信機とが行う路車(又は車路)間通信と、車載通信機同士が行う車車間通信とが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記高度道路交通システムにおいては、車車間通信をはじめ、路車間通信や路路間通信及び路歩間通信も含め、これらの各通信の共存を図るに当たって、限られた周波数帯域内で路路間、路車間及び車車間の各通信を行うために、通信を行う時間を分割して路側通信機の送信専用のタイムスロットを設ける、時分割多重(TDMA:Time Division Multiple Access)によるマルチアクセス方式を採用している。
上記TDMAによるマルチアクセス方式において、送信用タイムスロットは、通常、各路側通信機それぞれに対して周期的に設定される。このため、各路側通信機は、周期的に設定された自機の送信用タイムスロットを用いて送信を行い、それ以外の時間は、他の路側機又は車載通信機からの送信信号の受信を行う。
【0006】
上記システムがTDMAによるマルチアクセス方式を採用した場合、路側通信機同士及び路側通信機と車載通信機とで正確に時刻が同期していないと、各路側通信機及び車載通信機が把握するタイムスロットの開始時刻にずれが生じ、各通信機間で干渉を生じさせるおそれがある。
【0007】
そこで、移動する車載通信機は、近傍の路側通信機からの送信信号に基づいて自機の時刻を補正することで路側通信機に同期し、路側通信機は、自機の時刻を補正することで他の路側通信機との間で同期することが考えられる。各路側通信機が同期していれば、車載通信機は、近傍の路側通信機に同期することで、他の路側通信機との間においても同期することができる。
【0008】
ここで、各路側通信機を互いに同期させるため、GPS(Global Positioning System)などのGNSS(Global Navigation Satellite Systems)の信号(外部基準信号)を利用することが考えられる。
【0009】
例えば、GPS受信機が生成する1PPS信号は、1秒毎に1回、Highになるパルス信号である。この1PPS信号は、ルビジウムなどの発信器を搭載するGPS衛星から送られてくる信号を元にしているため、1ppmレベルの高精度な信号である。
【0010】
1PPS信号のような外部基準信号に基づいて同期誤差を検出し、同期誤差に基づいて同期誤差を補正(同期補正)することで、各路側通信機は、外部基準信号に同期することができる。
【0011】
しかし、外部基準信号が受信できないと、路側通信機は、外部基準信号に同期できなくなる。例えば、GPS受信機のアンテナに氷雪が付着するなどの不具合が発生すると、1PPS信号が受信できなくなり、路側通信機は、同期ができなくなる。
外部基準信号に同期できないと、各路側通信機間の同期精度が低下する。
【0012】
また、外部基準信号が受信できる場合であっても、受信した外部基準信号が信頼できないときには、そのような外部基準信号に同期すると、やはり、各路側通信機間の同期精度が低下する。
【0013】
そこで、本発明は、外部基準信号を受信できない又は受信した外部基準信号が信頼できないときであっても、同期精度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)一の観点からみた本発明は、外部から受信した外部基準信号に同期する無線機であって、前記外部基準信号を受信する受信部と前記受信部が受信した前記外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、を備え、前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行することを特徴とする無線機である。
【0015】
上記本発明によれば、外部基準信号を受信できない又は受信した外部基準信号が信頼できないときであっても、過去に検出した同期誤差に基づいて補正を継続して行うことができる。
【0016】
(2)前記受信部は、前記外部基準信号として、少なくともGNSS信号及び他の無線機から送信された基準信号を受信可能であり、前記補正部は、少なくとも以下のa)及びb)が成り立つ場合に、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正するのが好ましい。
a)前記受信部がGNSS信号を受信できない。
b)他の無線機から送信された基準信号を前記受信部が受信できない又は他の無線機から送信されて前記受信部が受信した基準信号が信頼できない。
【0017】
この場合、GNSS信号を受信できず、かつ、他の無線機から送信された基準信号を前記受信部が受信できない又は他の無線機から送信されて前記受信部が受信した基準信号が信頼できない場合に継続補正モードが実行される。
【0018】
(3)前記補正部は、前記継続補正モードの実行を終了する終了条件が満たされると、前記受信部が前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときであっても、前記継続補正モードを終了するのが好ましい。
この場合、受信部が外部基準信号を受信できない又は受信した外部基準信号が信頼できないときであっても、終了条件が満たされると継続補正モードが終了するため、継続補正モードを続けると却って時刻精度が低下してしまう場合が生じるのを回避することができる。
【0019】
(4)自機が同期状態にあるか非同期状態にあるかを示す同期情報を送信する送信部を更に備え、前記同期情報は、前記継続補正モードの実行中においては、同期状態にあることを示す情報となるのが好ましい。
継続補正モードの場合、実際には同期状態にはないが、継続補正モードを実行すると時刻精度をある程度維持できるため、同期状態であるとみなすことができる。
【0020】
(5)前記同期情報は、前記継続補正モードの実行を終了する終了条件が満たされると、非同期状態にあることを示す情報となるのが好ましい。継続補正モードを続けると却って時刻精度が低下してしまう場合が生じる。したがって、継続補正モードの実行を終了する終了条件が満たされると、同期情報は非同期状態にあることを示す情報となることで、時刻精度の低下が他の無線機に悪影響を与えることを回避できる。
【0021】
(6)前記補正部は、前記誤差検出部が過去に検出した複数の同期誤差のばらつきの大きさに応じて、前記継続補正モードを実行する時間の長さを制御するのが好ましい。この場合、継続補正モードを実行する時間の長さを同期誤差のばらつきに応じて適切にすることができる。
【0022】
(7)クロック発振器から出力されるクロック信号に基づいてカウントされるタイマを更に備え、前記誤差検出部は、前記受信部が受信した前記外部基準信号に基づいて、前記タイマの値の誤差を前記同期誤差として検出するよう構成され、前記補正部は、前記誤差検出部が検出した前記同期誤差に基づいて、前記タイマの値を補正するよう構成され、前記補正部は、周期的に発生する前記外部基準信号の発生周期よりも短い間隔で前記タイマの値を補正するのが好ましい。
この場合、クロック発振器の精度が低くても、タイマの補正を短い周期で行うことで、タイマの誤差が小さくなり、クロック発振器の精度が低いままでもタイマ値の高精度化が可能となる。
【0023】
(8)他の観点からみた本発明は、無線機に搭載されたコンピュータを、外部から受信した外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部、及び前記誤差検出処理によって検出された前記同期誤差に基づいて同期誤差を補正する補正部として機能させ、前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行することを特徴とするコンピュータプログラムである。
【0024】
(9)他の観点からみた本発明は、外部から受信した外部基準信号に同期する処理を行う同期処理装置であって、外部から受信した外部基準信号に基づいて同期誤差を検出する誤差検出部と、前記誤差検出部が検出した前記同期誤差を補正する補正部と、を備え、前記補正部は、前記外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、前記誤差検出部が過去に検出した同期誤差に基づいて補正を行う継続補正モードを実行することを特徴とする同期処理装置である。
【0025】
(10)他の観点からみた本発明は、外部基準信号を受信できない又は受信した前記外部基準信号が信頼できないときには、過去に受信した外部基準信号に基づいて検出された同期誤差に基づいて、同期誤差の補正を行うことを特徴とする同期補正方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、外部基準信号を受信できない又は受信した外部基準信号が信頼できないときであっても、同期精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る高度道路交通システム(ITS)の全体構成を示す概略斜視図である。
図2】路車間通信のタイムスロットの一例を示す概念図である。
図3】路側通信機と車載通信機の内部構成を示すブロック図である。
図4】タイマに生じる誤差の説明図である。
図5】タイマの誤差の補正方法の説明図である。
図6】タイマの誤差の補正方法の説明図である。
図7】補正テーブルを示す図である。
図8】同期に関する状態遷移図である。
図9】IR制御フィールドのデータ構造図である。
図10】同期情報及び信頼度を示す図である。
図11】同期処理のフローチャートである。
図12】同期状態の遷移例を示す図である。
図13】同期形態フィールドのデータ構造図である。
図14】同期情報フィールド及び同期形態フィールドを示す図である。
図15】同期処理のフローチャートである。
図16】同期状態の遷移例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の一実施形態に係る高度道路交通システム(ITS)の全体構成を示す概略斜視図である。本実施形態の高度道路交通システムは、「700MHz帯高度道路交通システム標準規格 ARIB STD−T109(一般社団法人電波産業会)」及び「700MHz帯高度道路交通システム拡張機能ガイドライン ITS RORUM RC−010(ITS情報通信システム推進会議)」に準拠したものとするが、そのようなものに限定されない。
なお、本実施形態では、道路構造の一例として、南北方向と東西方向の複数の道路が互いに交差した碁盤目構造を想定している。
図1に示すように、本実施形態の高度道路交通システムは、交通信号機1、路側通信機(無線機)2、車載通信機(無線機)3(図3参照)、中央装置4、車載通信機3を搭載した車両5、及び、車両感知器や監視カメラ等よりなる路側センサ6を含む。
【0029】
交通信号機1と路側通信機2は、複数の交差点Ji(図例では、i=1〜12)のそれぞれに設置されており、電話回線等の通信回線7を介してルータ8に接続されている。このルータ8は交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
中央装置4は、自身が管轄するエリアに含まれる各交差点Jiの交通信号機1及び路側通信機2とLAN(Local Area Network)を構成している。従って、中央装置4は、各交通信号機1及び各路側通信機2との間で双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
【0030】
路側センサ6は、各交差点Jiに流入する車両台数をカウントする等の目的で、管轄エリア内の道路の各所に設置されている。この路側センサ6は、直下を通行する車両5を超音波感知する車両感知器、或いは、道路の交通状況を時系列に撮影する監視カメラ等よりなり、感知情報や画像データは通信回線7を介して中央装置4に送信される。
なお、図1では、図示を簡略化するために、各交差点Jiに信号灯器が1つだけ描写されているが、実際の各交差点Jiには、互いに交差する道路の上り下り用として少なくとも4つの信号灯器が設置されている。
【0031】
〔無線通信の方式等〕
高度道路交通システムにおいて、無線通信システムを構成する、複数の交差点それぞれに設置された複数の路側通信機(無線機)2は、その周囲を走行する車両の車載通信機3との間で無線通信(路車(車路)間通信)が可能である。また、各路側通信機2は、自己の送信波が到達する所定範囲内に位置する他の路側通信機2とも無線通信(路路間通信)が可能である。
また、同じく無線通信システムを構成する車載通信機(無線機)3は、路側通信機2との間で無線通信を行うとともに、キャリアセンス方式で他の車載通信機3と無線通信(車車間通信)が可能である。
【0032】
このように、本実施形態のITSでは、車載通信機3同士(車車間通信)の通信と、路側通信機2と車載通信機3との間(「路」から「車」への路車間通信と「車」から「路」への車路間通信との双方を含む。)の通信については、無線通信が用いられている。
【0033】
路側通信機2には、自身が無線送信するための専用のタイムスロット(図2の第1スロットSL1)がTDMA方式で割り当てられており、このタイムスロット以外の時間帯(図2の第2スロットSL2)には無線送信を行わない。すなわち、路側通信機2用のタイムスロット以外の時間帯は、車載通信機3のためのCSMA方式による送信時間として開放されている。
路側通信機2及び車載通信機3は、同一周波数帯を通信に用いるが、上記のように路側通信機2と車載通信機3の送信時間帯が区別されていることで、路側通信機2による送信信号と、車載通信機3による送信信号との衝突を回避できる。
【0034】
路側通信機2及び車載通信機3は、送信信号の受信に関しては特に制限されない。従って、路側通信機2は、車載通信機3の送信信号を受信できる他、他の路側通信機2の送信信号も受信できる。また、車載通信機3は、路側通信機2及び他の車載通信機3の送信信号を受信できる。
【0035】
〔タイムスロットの内容〕
図2は、本実施形態における路車間通信のタイムスロットの一例を示す概念図である。図2に示すように、路車間通信においては、時間軸方向に並べて配置される無線フレーム(スーパーフレーム)が用いられている。
この無線フレームは、その時間軸方向の長さが100ミリ秒に設定されており、第一スロットSL1と、第二スロットSL2とを含んで構成されている。
第一スロットSL1は、路側通信機2に割り当てられるタイムスロットであり、この時間帯においては、路側通信機2による無線送信が許容される。一方、第2スロットSL2は、車載通信機3用のタイムスロットであり、この時間帯は車載通信機3による無線送信用として開放するため、路側通信機2は第2スロットSL2では無線送信を行わない。
【0036】
無線フレームに含まれている第一スロットSL1と、第2スロットSL2とは、時間軸方向に交互に配置されている。
第一スロットSL1には、それぞれスロット番号i(図2では、i=1〜10)が付されている。このスロット番号iは、無線フレーム内でインクリメント又はデクリメントされる。
路側通信機2には、無線フレームに含まれる複数の第一スロットSL1の内の一つが割り当てられる。路側通信機2はスロット番号iによっていずれのスロットが自機に割り当てられるかを認識することができる。
無線フレームは、上述のように時間軸方向に複数並べて配置されているので、いずれかの路側通信機2に割り当てられる、各スロット番号ごとの第一スロットSL1は、それぞれ、無線フレーム長さを1周期、つまり100ミリ秒を1周期として周期的に配置されている。従って、路側通信機2は、第一スロットSL1を用いた送信を100ミリ秒ごとに行う。
【0037】
なお、同じスロットに複数の路側通信機2を重複して割り当てることもできる。この場合、重複してスロットが割り当てられる路側通信機2同士の位置関係が、互いの送信信号によって干渉を生じさせる可能性がきわめて低いと判断できる程度に十分に離れていることを要する。
本実施形態のように、路側通信機2同士の位置関係が距離的に近い場合には、互いに異なるスロットが割り当てられる。互いの送信信号によって干渉を生じさせるのを防止するためである。
【0038】
図2では、2つの路側通信機2A,2Bそれぞれの無線フレームの一例を示しており、路側通信機2Aにはハッチングで示されているスロット番号2の第一スロットSL1が、路側通信機2Bにはハッチングで示されているスロット番号1の第一スロットSL1が、それぞれ割り当てられている。
【0039】
また、図2では、路側通信機2Bの無線フレームが、路側通信機2Aの無線フレームに対して時間軸方向に遅れが生じていることから、互いの無線フレームのタイミングにずれが生じている場合を示している。路側通信機2A,2B同士は、互いに異なる第一スロットSL1が割り当てられているので、互いの送信信号が重複して干渉を生じさせることはないが、一方に割り当てられている第一スロットSL1が他方の第二スロットSL2に重複しており、この重複している部分で路側通信機2の送信信号と車載通信機3の送信信号との間で干渉が生じるおそれがある。このため、路側通信機2間(特に、距離的に近い位置関係にある路側通信機2間)では、互いの無線フレームのタイミングが一致するように、互いのローカル時刻を同期させる必要がある。
【0040】
そこで、本実施形態の各路側通信機2は、GPS衛星などのGNSS衛星からの信号(外部基準信号)に基づいて同期を行うGPS(GNSS)同期と、他の路側通信機(基地局)2から送信されたパケットに含まれる時刻情報(外部基準信号)を元に、相手の路側通信機(基地局)2に同期させるエア同期と、を行う機能を有している。
【0041】
本実施形態におけるGPS同期及びエア同期の方法は、基本的に「700MHz帯高度道路交通システム標準規格 ARIB STD−T109 1.0版(一般社団法人電波産業会)」の「解説2 基地局間の時刻同期の例」に従う。
路側通信機(基地局)2間が同期されることで、各路側通信機2の無線フレームのタイミングが一致する。
【0042】
本実施形態では、路側通信機2が、GPS同期(GPS同期モード;同期モード)もエア同期(エア同期モード;同期モード)も行えない場合、路側通信機は、外部基準信号に同期せずに自らのタイマ値に従って動作する自走モードとなる。
ただし、本実施形態では、自走モードであっても、同期精度の低下を抑制する継続補正モードを実行可能である。
GPS同期モード、エア同期モード、及び継続補正モードについては、後に詳述する。
【0043】
〔路側通信機〕
図3は、路側通信機2と車載通信機3の内部構成を示すブロック図である。
路側通信機2は、無線通信のためのアンテナ20が接続された無線通信部(受信部;送信部)21aと、通信制御などの処理を行う制御部22と、GPS(GSNN)受信機21bと、を備えている。
無線通信部21a及びGPS受信機21bは、外部基準信号(GPS信号;他の路側通信機2からの時刻情報)を受信するための受信部として機能する。
車載通信機3は、無線通信のためのアンテナ30が接続された無線通信部31と、通信制御などの処理を行う制御部32と、通信のために必要な情報を記憶する記憶部33と、を備えている。
【0044】
路側通信機2の制御部22は、通信制御部22a、タイマ22b、誤差検出部22c、補正部22d、補正テーブル22e、記憶部22fなどを備えている。 制御部22は、通信に関する処理(同期に関する処理を含む)を行う通信処理装置として機能する。また、制御部22は、同期に関する機能に着目すると、同期処理装置でもある。
制御部22の各機能は、その一部又は全部がハードウェア回路によって構成されてもよいし、その一部又は全部が、ソフトウェア(コンピュータプログラム)をコンピュータによって実行させることで実現されていてもよい。制御部22の機能を実現するソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータの記憶装置(図示省略)に格納される。
制御部22をハードウェアによって構成する場合、制御部22は、通信に関する処理(同期に関する処理を含む)を行う通信処理チップとして構成することができる。また、制御部22の機能のうち同期に関する機能は、同期に関する処理を行う同期処理チップによって実現されてもよい。同期処理チップは、少なくとも、誤差検出部22c及び補正部22dを備える。同期処理チップは、タイマ22b、補正テーブル22e又は記憶部22fを備えていてもよい。
【0045】
通信制御部22aは、無線通信部21における通信制御に関する処理を実行し、例えば、無線通信部21aによる無線送信(SL1における送信)のタイミングの制御などを行う。通信制御部22aは、無線通信部21による無線送信(SL1における送信)のタイミングを、タイマ22bが示す値(ローカル時刻)に基づいて決定する。
したがって、各路側通信機2のタイマ22bの値(時刻)を同一にすることで、路側通信機2間の同期をとることができる。
【0046】
タイマ22bは、制御部23に接続されたクロック発振器(水晶発振器)25が発生するクロック信号に基づいて、値がカウントアップ(インクリメント)される。したがって、タイマ22bの精度は、発振器25のクロック信号の精度に依存する。
なお、制御部22及び発振器25の双方を備えたものを通信処理モジュール23又は同期処理モジュール23という。
【0047】
図4に示すように、タイマ22bは、その値が、1秒周期で0にリセットされる1秒周期タイマである。タイマ22bは、リセットされると、次のリセット時まで、発振器25が発生するクロック信号に基づいて、(理想的には)1μs毎に1カウントアップ(インクリメント)される。1秒周期のリセットは、外部基準信号に基づいて行われる。
【0048】
路側通信機2は、GPS受信機21bによってGPS信号(外部基準信号)を受信可能であるときには、GPS受信機21bから1秒周期で得られる1PPS信号)を用いてタイマ22bの値をリセットする。
【0049】
タイマ22bのリセットは、GPS衛星から受信した信号に基づいてGPS受信機23が生成した1PPS信号のパルス立ち上がりエッジ(1秒毎に発生)によって行われる。
この結果、タイマ22bの値は、協定世界時(UTC、Universal Time, Coordinated)の1秒未満の値に(理想的には)同期することになる。
【0050】
路側通信機2は、GPS受信機21bを有していない場合、又は、GPS受信機21bを有しているが、何らかの原因によって、1PPS信号を得られない場合には、エア同期を行う。
エア同期は、路側通信機2が、他の路側通信機2によって送信されたパケットを受信し、当該パケットに含まれる時刻情報を元に、自機2の時刻(自機2のタイマ22bの値)を、該他の路側通信機2の時刻(他の路側通信機2のタイマ22bの値)に、補正することで行われる。
具体的には、路側通信機2は、時刻情報(外部基準信号)を受信すると、受信した時刻情報と、自機の時刻(自機2のタイマ22bの値)と、の差分を補正する。
【0051】
なお、エア同期の際には、時刻情報の送信側の路側通信機2がタイマ22bの値を送信用の時刻情報としてセットしてからしてからアンテナ20によって送信されるまでの時間、及び時刻情報の受信側の路側通信機2が時刻情報を受信してから時刻情報を認識するまでの時間を考慮した補正が行われる。これにより、時刻情報の送信側の路側通信機2が時刻情報をセットしてから、時刻情報の受信側の路側通信機2が時刻情報を認識するまでの時間差による同期精度の低下を抑制することができる。
【0052】
同期対象となる他の路側通信機2は、他の路側通信機2からの信号の受信強度などに基づいて決定される。特に、GPS同期中の他の路側通信機2からの信号を受信できる場合には、GPS同期中の他の路側通信機2の中から信号の受信強度などに基づいて同期対象が決定される。GPS同期中の他の路側通信機2からの信号を受信できない場合には、エア同期中の他の路側通信機2の中から同期対象が決定される。
【0053】
〔GPS同期の詳細〕
GPS同期で用いられる1PPS信号は、1ppmレベルの高精度の信号である。したがって、各路側通信機2は、1PPS信号でリセットされたときには、非常に高精度で時刻同期がとれている。
【0054】
ただし、発振器25の精度が低い場合、例えば、発振器25の精度が±20ppmである場合、1秒間で最大±20μsの誤差が生じることになる。
したがって、2つの路側通信機2それぞれのタイマ22b間では、1PPS信号を得られる直前において、最大40μsの差が生じることになる。
【0055】
例えば、図4に示すように、発振器25のクロック信号に誤差がない場合、タイマ22bが1PPS信号を取得した直後(例えば、50ナノ秒後)においては、タイマ値が1,000,000となっているはずである。一方、発振器25のクロック信号に3ppmほど遅れる誤差がある場合、タイマ22bが1PPS信号を取得する直前においては、タイマ値が999,997になる。逆に、発振器25のクロック信号に2ppmほど早くなる誤差がある場合、タイマ22bが1PPS信号を取得する直前においては、タイマ値が1,000,002になる。
【0056】
このように、発振器25の精度が±20ppmであれば、タイマ22bが1PPS信号を取得する直前においては、タイマ値は999,980〜1,000,020の範囲の値をとり得るものとなる。
【0057】
ところが、路側通信機2間の同期精度として要求される値が、上記誤差(40μs)よりも高精度である場合(例えば、路側通信機間の最大許容同期誤差が16μsである場合)には、最大40μsの差をタイマ22bに生じさせるような低精度の発振器25は使用できない。
つまり、複数の路側通信機2において、それぞれのタイマ22に最大40μsもの差が生じると、タイマ22によって決定される無線フレームのタイミング(送信タイミング)も最大で40μsもの差が生じ、複数の路側通信機2間の同期誤差が、最大許容同期誤差(16μs)を超えてしまう。
しかし、発振器25から出力されるクロック信号を高精度化すると大幅なコストアップを招く。
【0058】
そこで、制御部22は、比較的精度の低い発振器25を使用しつつも、誤差検出部22によってタイマ22bの誤差を検出し、補正部22dによってタイマ22bの誤差を補正することで、タイマ22bの精度を確保する。これにより、複数の路側通信機2間の同期精度を高める。
【0059】
誤差検出部22は、タイマ22bが1PPS信号(基準信号)によってリセットされる直前の値に基づいて、タイマ22bの値の誤差(同期誤差)を検出する。検出された同期誤差は、記憶部22fに記憶される。
タイマ22bが1PPS信号によってリセットされる直前は、誤差がなければ、タイマ値が1,000,000(理論値)になるはずである。したがって、この時点でのタイマの実際の値と理論値との差をとることで、クロック信号精度誤差によって1秒間に発生したタイマ誤差(同期誤差)を検出することができる。
つまり、タイマ誤差(同期誤差)は、基準信号である1PPS信号に基づいて、検出することができる。
【0060】
なお、後述のタイマ補正が行われるため、タイマ補正値+検出したタイマ誤差が、1秒間に実際に発生したタイマ誤差となる。
【0061】
誤差検出部22cは、上記のようにして得られた「タイマ補正値+検出したタイマ誤差」、又は、過去複数回分の「タイマ補正値+検出したタイマ誤差」の平均を、次の1PPS信号が発生するまで(1秒後まで)における補正すべき誤差量(誤差レベル)として決定し、補正部22dに与える。なお、補正すべき誤差量(誤差レベル)を「同期誤差に基づく情報」として記憶部22fに記憶してもよい。
なお、補正すべき誤差量として過去複数回分の平均をとることで、より適切な誤差量(誤差レベル)が得られる。
【0062】
補正部22dは、誤差検出部22cから受け取った誤差量(誤差レベル)分の補正を、次の1PPS信号が発生するまで(1秒後まで)に、1回又は複数回に分けて小刻みに行う。つまり、外部基準信号である1PPS信号が発生する周期である1秒よりも短い間隔で、タイマ22bの補正を行う。
【0063】
例えば、補正すべき誤差量が、3μs分(タイマ22bの3カウント分)の遅れである場合には、図5に示すように、次の1PPS信号のパルス立ち上がりまでの1秒間の間において、3回、2カウントアップ(ダブルインクリメント)を行って補正すればよい。
また、補正すべき誤差量が、2μs分(タイマ22bの2カウント分)の進みである場合には、図6に示すように、次の1PPS信号のパルス立ち上がりまでの1秒間の間において、2回、カウントアップ(インクリメント)すべきときにカウントアップ(インクリメント)しないことで補正すればよい。
【0064】
補正すべき誤差量を、次の1PPS信号までの1秒間の間(補正を行う区間)において、複数回にわけて少しずつ補正することで、1回の補正量が小さくなる。したがって、タイマ22bの値の誤差が大きくなる前に、微修正が少しずつ加えられる形となる。
【0065】
また、1回の補正量をタイマ22bの1カウント分(又は2カウント分)というように非常に小さくしておくことで、次の1PPS信号までの間において、タイマ22bの値の誤差は、1又は2カウント分(1又は2μs)程度しか発生せず、発振器25が低精度であっても、タイマ22bの値を高精度に保つことができる。その結果、複数の路側通信機2間の同期も高精度化される。
【0066】
ここで、路側通信機2間の最大許容同期誤差が16μsである場合、タイマ22bの値の最大許容誤差も16μsとなる。そして、補正部22dによる1回の補正量は、タイマ22bの値の最大許容誤差の半分以下の値であるのが好ましい。この場合、タイマ22bの値の最大許容誤差の半分以下の小さい補正値にて補正することになるため、補正直前のタイマ誤差が大きくなりにくい。したがって、路側通信機2間の最大許容同期誤差が16μsである場合には、1回の補正量は、8μs以下が好ましく、さらには1/4以下となる4μs以下が好ましい。更に好ましくは、1回の補正量は、上述のように、1又は2カウント分(1又は2μs)程度である。
なお、補正タイミングは、次の1PPS信号までの間において、ほぼ等間隔であるのが好ましい。
【0067】
補正部22dは、上記のような補正を簡易に行うため、補正すべき誤差量(誤差レベル)に基づいて、補正テーブル22eを参照して、次の1PPS信号までの補正タイミングと各補正タイミングにおける補正量を得る。
【0068】
図7に示すように、補正テーブル22eは、補正すべき誤差量(誤差レベル)それぞれについて、ある1PPS信号からその次の1PPSまでの1秒間における複数の補正タイミング(図7では100ms毎の9個の補正タイミング)それぞれの補正量を規定している。例えば、図7において、補正すべき誤差量(誤差レベル)が「−5」(5μsの遅れ)であれば、リセットから100ms後、300ms後、500ms後、700ms後、900ms後における各補正量が「1」(1μs;1カウント)に設定されており、リセット200ms後、400ms後、600ms後、800ms後における補正量が「0」に設定されている。
【0069】
したがって、補正すべき誤差量(誤差レベル)が「−5」であれば、補正部22dは、補正テーブル22eの「−5」の欄を参照し、補正タイミングと各タイミングにおける補正量を取得する。
そして、補正部22は、補正テーブル22から取得したタイミングと補正量に従い、リセットから100ms後、300ms後、500ms後、700ms後、900ms後それぞれのカウントアップ時に、通常のカウントアップ量の1に、補正量の「1」を加えた2カウントアップ(ダブルインクリメント)を行う。また、リセット200ms後、400ms後、600ms後、800ms後それぞれのカウントアップ時においては、通常のカウントアップ量である1カウントアップを行う。
【0070】
また、一回の補正タイミングにおける補正量が「−1」であれば、そのタイミングでのカウントアップを行わないことで補正を行う。また、一回の補正タイミングにおける補正量が「−2」であれば、そのタイミングでのカウントアップの際に、1カウントダウン(デクリメント)することで補正を行う。
【0071】
このように、補正テーブル22bを用いるとともに、タイマのカウントアップ/ダウンでタイマを補正することで、補正のための回路規模増大を抑えることができる。
例えば、タイマ22bに3μsの遅れがある場合に、1,000,000/999,997の割り算を行って、1カウントあたりの誤差を求めて、1カウント毎に誤差を補正しようとした場合、割り算のために浮動小数演算(実数演算)が必要となったり、タイマ22bの値を整数ではなく、浮動小数(実数)にして、浮動小数の誤差を補正する場合には、浮動小数を扱うため、回路規模が大きくなりやすい。しかし、補正テーブル22eを設ければ、浮動小数演算は不要であり、補正テーブル22e分の記憶領域を確保すれば足りるため、回路規模の増大を抑えることができる。
また、1回の補正量は、タイマの通常のカウントアップ時(1μs毎のタイミング)において、カウントアップ量の調整で行うため、補正のためのハードウェアの追加が少なく済む。したがって、僅かなコストアップで高精度化が可能である。
【0072】
なお、図7では、表記の便宜上、補正すべき誤差量が−10μs〜10μsの範囲内での補正量を示したが、当然に、補正すべき誤差量を−20μs〜20μsの範囲にしてもよい。また、補正タイミングは、100ms毎である必要はなく、他の間隔(例えば、50ms毎)であってもよい。
また、補正テーブル22bには、補正タイミングの時刻を規定しておく必要はなく、複数の補正タイミング(第1補正タイミング〜第9補正タイミング)に対応する補正量だけを規定しておいてもよい。この場合、補正タイミングの時刻(100ms、200ms)は、別途、テーブル22b外に記憶しておいてもよいし、タイミングを適応的に制御してもよい。
【0073】
また、上記のような補正方法は、GPS同期だけでなく、エア同期にも用いることができる。特定の他の路側通信機2からの時刻情報(外部基準信号)が、例えば、100ミリ秒毎(スーパーフレーム毎)に得られる場合、受信した時刻情報と自機2のタイマ値との差(同期誤差)の補正を、次の時刻情報が得られるまで(100ミリ秒後まで)に、1回又は複数回に分けて小刻みに行ってもよい。つまり、外部基準信号の周期である100ミリ秒よりも短い間隔で、タイマ22bの補正を行ってもよい。
【0074】
前記通信制御部22aは、タイマ補正によって精度が確保されたタイマ22bが示すローカル時刻に基づいて、自機に割り当てられた第一スロットSL1における無線送信を行う。つまり、通信制御部22aは、タイマ22bの値(ローカル時刻)が、自機に割り当てられたタイムスロットSL1を用いて送信するタイミングになれば、無線通信部21に無線送信を行わせる。
【0075】
各路側通信機2のタイマ22それぞれは、1PPS信号に基づいて同時にリセットされるとともに、タイマ補正によって、次の1PPS信号までの1秒間(自走区間)においてもタイマ22bの同期が高精度でとれていることになる。
【0076】
路側通信機2の通信制御部22aは、タイマ22bの値に基づく時刻情報を含むスロット情報を生成して、当該スロット情報を含む送信信号(パケット)を無線通信部21から送信(ブロードキャスト送信)させる。
スロット情報に含まれる時刻情報は、路側通信機2と車載通信機3との間で共有される時刻である。スロット情報には、時刻情報以外に、路側通信機2が使用する第一スロットSL1を特定する情報が含まれている。車載通信機3は、路側通信機2との間で時刻を共有することで時刻同期がとれているため、スロット情報に基づいて、路側通信機2が使用する第一スロットSL1の送信タイミングを把握することができる。
【0077】
このように、複数の路側通信機2において同期が高精度にとれた状態で、路側通信機2と車載通信機3との間の同期が行われるため、図2に示すようなスロットタイミングのずれによる、路側通信機2の送信信号と車載通信機3の送信信号との間の干渉を防止できる。
また、路側通信機2が送信した時刻情報を他の路側通信機2が受信してエア同期を行うことで、GPS同期ができなくても、路側通信機2間で同期をとることができる。
【0078】
〔継続補正モード(過去の同期誤差を用いた補正)〕
前述のように、路側通信機2が、外部基準信号に基づく同期を行えない場合、路側通信機2は、外部基準信号に基づいて同期をとる処理は行わずに、自らのタイマ22bの値に従って動作する自走モードとなる。そして、本実施形態では、自走モードであっても、継続補正モードを実行可能である。
つまり、図8に示すように、路側通信機2は、同期に関するモードとして、GPS同期モードM1、エア同期モードM2、及び自走モードM3を有する。自走モードM3には、継続補正モードM3aと、非同期モードM3bと、がある。各モードM1,M2,M3a,M3bからは、図8に示す矢印にしたがって、他のモードM1,M2,M3a,M3bへの遷移が可能となっている。
【0079】
路側通信機2の補正部22dは、GPS受信機21bがGPS信号(GNSS信号)を受信できず、かつ、他の路側通信機2から送信された時刻情報を無線通信部21aが受信できない又は他の路側通信機2から送信されて無線通信部21aが受信した時刻情報が信頼できない場合、GPS同期モードM1又はエア同期モードM2から継続補正モードM3aに遷移する。
【0080】
継続補正モードM3aでは、GPS同期(又はエア同期)の際に検出されて記憶部22bに記憶されている過去の同期誤差(補正すべき誤差量)を用いて、タイマ22bの補正(同期補正)を行う。継続補正モードにおけるタイマ22bの補正も、GPS同期又はエア同期と同様に、外部基準信号の発生周期(例えば、1秒又は100ミリ秒)よりも短い周期で、小刻みに行われる。
すなわち、GPS同期モードM1又はエア同期M2では、外部基準信号に基づいて、外部基準信号に対応したタイミングで検出された同期誤差(補正すべき誤差量)に基づいて、図7のテーブルが参照されて、補正が行われるのに対し、継続補正モードM3aでは、過去のGPS同期中に検出された同期誤差(補正すべき誤差量)に基づいて、図7のテーブルが参照されて、補正が行われる。
【0081】
自機2の発振器25の精度に大きな変動が無い限り、同期誤差(補正すべき誤差)にも大きな変動はないと考えられるため、過去の同期誤差(補正すべき誤差量)を用いても、比較的精度良く補正が行え、同期精度の低下を抑制できる。継続補正モードM3aにあるときには、GPS同期モード及びエア同期モードのときと同様に、路側通信機2は同期状態にあるとみなされる。
【0082】
例えば、継続補正モードM3aにおいて、GPS同期の際に検出された同期誤差(補正すべき誤差量)を用いてタイマ22bの補正をすることで、GPS同期相当の同期精度が得られる。
また、継続補正モードM3aにおいて、エア同期の際に検出された同期誤差(補正すべき誤差量)を用いてタイマ22bの補正をすることで、エア同期相当の同期精度が得られる。
なお、エア同期よりもGPS同期のほうが、より高い同期精度を得ることが可能であるため、継続補正モードM3aにおいては、GPS同期の際に検出された同期誤差(補正すべき誤差量)を用いるのが好ましい。
【0083】
なお、継続補正モードM3aにおいて用いられる過去の同期誤差(補正すべき誤差量)は、1つでもよいし、複数でもよい。継続補正モードM3aにおいて用いられる1又は複数の過去の同期誤差は、路側通信機2がGPS同期又はエア同期からから外れる直前に検出されたものを含むのが好ましい。
過去の複数の同期誤差を用いる場合、例えば、過去の複数の同期誤差を平均化して用いることができる。
【0084】
ここで、過去の同期誤差(補正すべき誤差量)は、常に有効であるとは限らない。特に、時間が経過すると、過去の同期誤差で補正すると同期精度が低下するおそれもある。そこで、過去の同期誤差(補正すべき誤差量)を用いる継続補正モードを実行するか否かは、所定の条件(終了条件)に基づいて、補正部22dが自律的に決定する。
所定の条件(終了条件)が満たされると、継続補正モードM3aから非同期モードM3bへ遷移する。
【0085】
所定の条件(終了条件)としては、例えば、GPS信号(1PPS)信号が受信できなくなってから(GPS同期中止後)、所定時間が経過したことである(条件例A)。
所定の条件(終了条件)の他の例としては、他の路側通信機2から時刻情報が受信できなくなってから又は、受信した時刻情報が信頼できないものとなってから(エア同期中止後)、所定時間が経過したことである(条件例B)。
条件例A,Bにおける所定時間とは、例えば、数時間であってもよいし、数日であってもよいし、数ヶ月であってもよい。
【0086】
条件例A,Bにおける所定時間は、固定値であってもよいが、制御部22が決定する変動値であってもよい。所定時間を制御部22が決定する場合、例えば、記憶部22fに記憶された過去の複数の同期誤差のばらつきに基づいて、所定時間を決定することができる。より具体的には、例えば、複数の同期誤差のばらつきが大きければ、所定時間をより短く設定し、複数の同期誤差のばらつきが小さければ、所定時間をより長く設定することができる。
【0087】
所定の条件(終了条件)の他の例としては、GPS同期中止後又はエア同期中止後、温度変動が閾値を超えたことである(条件例C)。条件例Cは、条件例A又はBと組み合わせて用いてもよい。つまり、温度変動が閾値を超えると、条件例A又はBを満たしていない場合(所定時間が経過していない場合)であっても、継続補正モードを終了してもよい。
温度変動の閾値は、例えば、問題となるクロック変動(例えば±16μs以上の変動)に相当する温度変動の大きさとして設定できる。
【0088】
継続補正モードM3aが終了すると、路側通信機2は、非同期モード(非同期状態)M3bとなる。非同期モードM3bの路側通信機2は、補正部22dによるタイマ22bの補正が行われず、タイマ22bは発振器25のクロックのみに従って動作する(完全な自走モード)。
【0089】
なお、継続補正モードM3a又は非同期モードM3bの実行中に、GPS同期が可能になれば、GPS同期モードM1に復帰し、エア同期が可能になれば、エア同期モードM2に復帰する。
【0090】
また、図8とは異なり、GPS同期が行えなくなると、継続補正モードM3aに遷移し、継続補正モードM3aが終了すると、エア同期モードM2に遷移するようにしてもよい。この場合、エア同期モードM2よりも継続補正モードM3aが優先される。エア同期が行えなくなると非同期モードM3bに遷移する。
【0091】
なお、本実施形態の路側通信機2は、外部基準信号を用いた同期としてGPS同期及びエア同期の双方を実行可能であるが、GPS同期及びエア同期のいずれか一方だけを実行可能であってもよい。また、外部基準信号は、1PPS信号及び他の路側通信機2からの時刻情報以外の他の信号であってもよい。例えば、中央装置4からの時刻情報であってもよい。
【0092】
[同期処理の第1例]
図9図12は、路側通信機2による同期処理の第1例を示している。
図9は、同期処理に関連して路側通信機2(又は車載通信機3)によって生成・送信される情報を含むデータの構造を示している。図9に示すデータは、前述のARIB STD−T109に規定するIVC−RVC層のプロトコルデータ単位(IPDU)のIR制御フィールドに含まれるデータである。図9に示すデータは、当該データを生成した路側通信機2に割り当てられた第1スロットSL1において無線通信部21aによって送信される。
【0093】
図9に示す「バージョン」51は、プロトコルバージョン番号が格納されるプロトコルバージョン番号フィールドである。
図9に示す「識別情報」52は、送信元の識別(路側通信機(基地局)か車載通信機(移動局)か)に用いられる情報が格納される識別情報フィールドである。
【0094】
図9に示す「同期情報」53は、同期状態又は非同期状態の識別に用いられる情報が格納される同期情報フィールドである。同期情報フィールド53には。自機2,3が同期状態(同期モード)にあるときには同期状態あることを示す「1」がセットされ、自機2,3が非同期状態(非同期モード)にあるときには「0」がセットされる。
図9に示す「予約」54は、今後のための予約フィールドである。
【0095】
図9に示す「送信時刻」55は、フレーム(パケット)の送信時刻(前述の時刻情報)が格納される送信時刻フィールドである。送信時刻フィールド5には、自機のタイマ(通信制御用1秒周期タイマ)22bの値が格納される。なお、送信時刻としては、フレーム(パケット)生成時のタイマ値ではなく、アンテナ20からフレーム(パケット)の先頭が送出されるタイミング(将来のタイミング)のタイマ値が用いられる。
送信時刻フィールド55に格納された送信時刻(時刻情報)が、他の無線機2,3がエア同期をするための基準信号(外部基準信号)となる。
【0096】
図9に示す「路車間通信期間情報」56は、転送回数と路車間通信期間長が格納されるフィールドである。
【0097】
図9に示す「拡張領域」57は、本来、今後のための予約フィールドとして設けられたものであるが、同期処理の第1例では、16ビットの拡張領域フィールド57の一部(3ビット)を、(時刻)信頼度フィールド57aとして使用する。
【0098】
信頼度フィールド57aは、基準信号(外部基準信号)としての送信時刻(時刻情報)が信頼できるものであるか否かを示す信頼性情報(基準信号の信頼度を示す信頼度情報;同期の信頼度を示す信頼度情報)が格納されるフィールドである。
【0099】
図10は、同期情報フィールド53に格納される同期情報と、信頼度フィールド57aに格納される信頼性情報(信頼度)と、を示している。信頼性情報は、0〜7の値をとり、1〜7の値については、値が小さいほど信頼度が高いことを示す。0の値は、信頼できないことを示す(信頼度最低)。
【0100】
同期情報及び信頼性情報を生成する路側通信機2が、GPS同期をしている場合(GPS同期モードの場合)、生成される同期情報は同期状態を示す情報(「1」=同期)となり、生成される信頼度は1(最高の信頼度を示す値)となる。
【0101】
路側通信機2は、GPS同期ができなくなると、エア同期を試みる。路側通信機2は、エア同期の際は、自機2が生成した信頼度以上の高い信頼度を示す信頼性情報を送信している他の路側通信機2に対してエア同期する。また、エア同期中に、より高い信頼度を示す信頼性情報を送信している路側通信機2を検出すると、その路側通信機2に対してエア同期を行う。
【0102】
同期情報及び信頼性情報を生成する路側通信機2が、エア同期をしている場合(エア同期モードの場合)、生成される同期情報は同期状態を示す情報(「1」=同期)となり、生成される信頼度は、エア同期先である他の路側通信機2から送信された信頼度(信頼性情報)に応じて、2〜7のいずれかの値をとる。
【0103】
同期情報及び信頼性情報を生成する路側通信機2が、継続補正モードである場合、生成される同期情報は同期状態を示す情報(「1」=同期)となり、生成される信頼度は、エア同期が終了してからの経過時間(GPS同期からの乖離度)などに応じて、2〜7のいずれかの値をとる。
【0104】
同期情報及び信頼性情報を生成する路側通信機2が、非同期モードである場合、生成される同期情報は非同期状態を示す情報(「0」=非同期)となり、生成される信頼度は0(最低の信頼度を示す値)となる。
【0105】
つまり、継続補正モード及び非同期モードからなる自走モードでは、同期情報は、同期状態を示す情報(「1」=同期)となることもあるし、非同期状態を示す情報(「0」=非同期)となることもある。また、自走モードでは、信頼度は0,2〜7の値をとる。
【0106】
図11は、同期処理に伴う同期情報及び信頼性情報(信頼度)の生成の仕方を示している。
本実施形態では、同期方法としてはGPS同期が最優先されるため、GPS同期が確立可能である場合(GPS信号を受信可能である場合)、GPS同期モードM1となり、信頼度は1に設定される(ステップS1,S1−1)。また、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS1−2)。
【0107】
路側通信機2は、GPS同期ができなくなると、エア同期を試みる。路側通信機2は、エア同期の際は、自機2が生成した信頼度以上の高い信頼度を示す信頼性情報を送信している他の路側通信機2に対してエア同期する。また、エア同期中に、より高い信頼度を示す信頼性情報を送信している路側通信機2を検出すると、受信した時刻情報(外部基準情報)は信頼できるものとみなして、その路側通信機2に対してエア同期を行う。
【0108】
路側通信機2が、信頼度=1の信頼性情報を送信する他の路側通信機2にエア同期している場合、信頼度は2に設定される(ステップS2,S2−1)。路側通信機2がGPS同期モードであったが(エア同期モードにもなれずに)継続補正モードになった直後においても、信頼度は2に設定される。また、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS2−2)。
【0109】
信頼度=2のエア同期を外れた直後、又は、信頼度=2又は3の信頼性情報を送信する他の路側通信機2にエア同期している場合、信頼度は3に設定される(ステップS3,S3−1)。また、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS3−2)。
【0110】
信頼度=3のエア同期を外れた直後、又は、信頼度=4の信頼性情報を送信する他の路側通信機2にエア同期している場合、信頼度は4に設定される(ステップS4,S4−1)。また、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS4−2)。
【0111】
信頼度=N(N=5,6,7)の信頼性情報を送信する他の路側通信機2にエア同期している場合、信頼度はNに設定される(ステップS5,S5−1)。また、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS5−2)。
【0112】
GPS同期もエア同期もできずに継続補正モードとなった場合、継続補正モードになってから所定時間が経過するまでは、信頼度は、継続補正モードとなってからの経過時間(GPS同期からの乖離度)に応じて値が小さくなるように(信頼度が下がるように)設定される(ステップS6,S6−1)。ステップS6−1では、信頼度は経過時間(GPS同期からの乖離度)に応じて3〜7のいずれかの値に設定される。継続補正モードにおいては、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS6−2)。GPS同期からの乖離度は、自走になってからの経過時間や経過したフレーム数で更新される値となる。
【0113】
継続補正モードになってから所定時間が経過すると、継続補正モードは終了し、非同期モードとなり、信頼度は0となる(ステップS6,S7−1)。非同期モードにおいては、同期情報は非同期状態を示す情報となる(ステップS7−2)。
なお、信頼度が0である路側通信機2は、時刻情報が信頼できないため、信号強度が十分に大きくても、エア同期の対象とならない。
【0114】
図12は、複数の路側通信機(RSUA〜RSUD)における信頼度の遷移を示している。図12は、図11に従った例である。図12(a)において、第1路側通信機RSUAは、GPS同期モードであり、信頼度は1である。第2路側通信機RSUBは、第1路側通信機RSUAにエア同期しており、信頼度は2である。第3路側通信機RSUCは、GPS同期モードであり、信頼度は1である。第4路側通信機RSUDは、第3路側通信機RSUCにエア同期しており、信頼度は2である。
【0115】
図12(a)において、第4路側通信機RSUDが、何らかの原因によって、第3路側通信機RSUCにエア同期できなくなると、第4路側通信機RSUDは、自走モード(継続補正モード)となり、その直後の第4路側通信機RSUDは、信頼度が3となる。そして、時間の経過とともに、信頼度が4〜7へ下がって行く。
【0116】
そして、図12(b)に示すように、信頼度が3,4〜7の第4路側通信機RSUDが、信頼度が2である第2路側通信機2RSUBを検出すると、第4路側通信機RSUDは、信頼度が2である第2路側通信機2RSUBに対してエア同期する。第4路側通信機RSUDの信頼度は3となる。
【0117】
さらに、図12(c)に示すように、第1路側通信機RSUAが、何らかの原因によってGPS同期ができなくなると、第1路側通信機RSUAは、自走モード(継続補正モード)となり、その直後の第1路側通信機RSUAは、信頼度が2となる。そして、時間の経過とともに、信頼度が、3〜7へ下がっていく。
【0118】
すると、図12(d)に示すように、信頼度が2である第2路側通信機RSUBは、自機RSUBよりも信頼度が低い第1路側通信機RSUAから時刻情報を受信できていても、その時刻情報は信頼できないものと判断し、第1路側通信機RSUAへのエア同期を外れる。このため、信頼度2であった第2路側通信機RSUBは、エア同期を外れた直後において、信頼度が3となる。
第2路側通信機RSUBは、信頼度が3になると、同じく信頼度が3である第4路側通信機RSUDにエア同期することができる。
また、自走モードで信頼度3〜7の第1路側通信機RSUAは、信頼度が3である第2路側通信機RSUBからの信号を検出すると、第1路側通信機RSUAは、信頼度が3である第2路側通信機RSUBにエア同期し、信頼度が3となる。
【0119】
さらに、図12(e)に示すように、第2路側通信機RSUB及び第4路側通信機RSUD間でエア同期ができなくなると、第4路側通信機RSUDは、自走モード(継続補正モード)となり、時間の経過とともに信頼度が4〜7へ下がっていき、所定時間が経過すると、信頼度が0となる(非同期モード)。
すると、第4路側通信機RSUDにエア同期していた第2路側通信機RSUBは、第4路側通信機RSUDからの時刻情報が信頼できないため、信頼度が3である第1路側通信機RSUAにエア同期する。
【0120】
[同期処理の第2例]
図13図16は、路側通信機2による同期処理の第2例を示している。
図13は、図9に示す拡張領域フィールド57の別の利用法を示している。同期処理の第2例では、16ビットの拡張領域フィールド57の一部(6ビット)を、同期形態フィールド57bとして使用する。
【0121】
同期形態フィールド57bは、同期形態フィールド57c及びGPS同期からの乖離度フィールド57dを有している。同期形態フィールド57cは、2ビットのフィールド(b5〜b4)であり、路側通信機2の同期の形態(GPS同期モード,エア同期モード,自走モードのいずれか)を示す情報(形態情報)が格納される。
GPS同期からの乖離度フィールド57dは、4ビットのフィールド(b3〜b0)であり、GPS同期からの乖離度合いを示す情報(自走の場合は、自走になってから(又はGPS同期から外れてから)の経過時間や経過したフレーム数で更新される情報)が格納される。形態情報及びGPS同期からの乖離度は、路側通信機2が送信する時刻情報(外部基準情報)の信頼度を示す情報となっている。形態情報が示す同期形態は、GPS同期(00)、GPS同期中の路側通信機へのエア同期(01)、エア同期中の路側通信機へのエア同期(10)、自走(11)、の順で信頼度が低くなる。また、経過時間は、大きいほど信頼度が低くなる。
【0122】
図10は、図9の同期情報フィールド53に格納される同期情報と、同期形態フィールド57bに格納される形態情報及びGPS同期からの乖離度情報と、を示している。
【0123】
同期情報、形態情報及びGPS同期からの乖離度情報を生成する路側通信機2が、GPS同期をしている場合(GPS同期モードの場合)、生成される同期情報は同期状態を示す情報(「1」=同期)となり、生成される形態情報(b5〜b4)はGPS同期モードであることを示す情報(00)となる。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は同期中(同期ロストなし)であることを示す情報(0000)となる。
【0124】
路側通信機2は、GPS同期ができなくなると、エア同期を試みる。路側通信機2は、エア同期の際は、自機2が生成した形態情報が示す信頼度以上の高い信頼度を示す形態情報を送信している他の路側通信機2に対してエア同期する。また、エア同期中に、より高い信頼度を示す形態情報を送信している路側通信機2を検出すると、その路側通信機2に対してエア同期を行う。
【0125】
同期情報、形態情報及びGPS同期からの乖離度情報を生成する路側通信機2が、GPS同期中の路側通信機2へエア同期をしている場合、生成される同期情報は同期状態を示す情報(「1」=同期)となり、生成される形態情報(b5〜b4)はGPS同期中の路側通信機2へエア同期をしているエア同期モードであることを示す情報(01)となる。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は同期中(同期ロストなし)であることを示す情報(0000)となる。
【0126】
同期情報、形態情報及びGPS同期からの乖離度情報を生成する路側通信機2が、エア同期中の路側通信機2へエア同期をしている場合、生成される同期情報は同期状態を示す情報(「1」=同期)となり、生成される形態情報(b5〜b4)はエア同期中の路側通信機2へエア同期をしているエア同期モードであることを示す情報(10)となる。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は同期中(同期ロストなし)であることを示す情報(0000)となる。
【0127】
同期情報、形態情報及びGPS同期からの乖離度情報を生成する路側通信機2が、自走モードM3である場合、生成される同期情報は、継続補正モードM3aであれば、同期状態を示す情報(「1」=同期)となり、非同期モードM3bであれば、非同期状態を示す情報(「0」=同期)となる。
【0128】
同期情報、形態情報及びGPS同期からの乖離度情報を生成する路側通信機2が、自走モードM3である場合、継続補正モードM3aであるか非同期モードM3bであるかにかかわらず、生成される形態情報(b5〜b4)は自走モードであることを示す情報(11)となる。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は、継続補正モードM3aであれば、同期ロストからのGPS同期からの乖離度に応じて、0001,0010〜1110の値をとる。GPS同期からの乖離度情報は、同期ロスとからのGPS同期からの乖離度が大きくなるほど大きな値をとる。GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は、非同期モードM3bであれば、1111の値をとる。
【0129】
図15は、同期処理に伴う同期情報、形態情報(b5〜b4)、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)の生成の仕方を示している。
本実施形態では、同期方法としてはGPS同期が最優先されるため、GPS同期が確立可能である場合(GPS信号を受信可能である場合)、GPS同期モードM1となり、形態情報(b5〜b4)は00に設定される(ステップS11,S11−1)。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は0000に設定され(ステップS11−2)、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS11−3)。
【0130】
路側通信機2が、他の路側通信機2にエア同期しており、当該他の路側通信機2が送信する同期情報が同期状態を示すとともに、当該他の路側通信機2が送信する形態情報(b5〜b4)が00である場合(当該他の路側通信機2がGPS同期モードの場合)、形態情報(b5〜b4)は01に設定される(ステップS12,S12−1)。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は0000に設定され(ステップS12−2)、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS12−3)。
【0131】
路側通信機2が、他の路側通信機2にエア同期しており、当該他の路側通信機2が送信する同期情報が同期状態を示すとともに、当該他の路側通信機2が送信する形態情報(b5〜b4)が01である場合、形態情報(b5〜b4)は10に設定される(ステップS13,S13−1)。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は0000に設定され(ステップS13−2)、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS13−3)。
路側通信機2が、他の路側通信機2にエア同期しており、当該他の路側通信機2が送信する同期情報が同期状態を示すとともに、当該他の路側通信機2が送信する形態情報(b5〜b4)が10or11であり、かつ相手のGPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)が自機以下の場合、形態情報(b5〜b4)は10に設定される(ステップS14,S14−1)。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は相手の値に設定され(ステップS14−2)、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS14−3)。
【0132】
路側通信機2が、同期ロストした場合、自機2のGPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)が、0001〜1110の範囲内(同期ロストから所定時間を経過していない場合)、形態情報(b5〜b4)は11に設定される(ステップS15,S15−1)。また、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)は同期ロストからのGPS同期からの乖離度に応じて設定され(ステップS15−2)、同期情報は同期状態を示す情報となる(ステップS15−3)。
【0133】
路側通信機2が、同期ロストし、GPS同期からの乖離度情報(b3〜b0)が1111になった場合(同期ロストから所定時間を経過した場合)、同期形態フィールド57b(b5〜b0)は111111(ALL 1)に設定され(ステップS16−1)、同期情報は非同期を示す情報となる(ステップS16−3)。
【0134】
図16、複数の路側通信機(RSUA〜RSUD)における同期形態フィールド57bの値(6ビット)の遷移を示している。図16は、図15に従った例である。図16(a)において、第1路側通信機RSUAは、GPS同期モードであり、同期形態フィールド57bの値は000000である。第2路側通信機RSUBは、第1路側通信機RSUAにエア同期しており、同期形態フィールド57bの値は010000である。第3路側通信機RSUCは、GPS同期モードであり、同期形態フィールド57bの値は000000である。第4路側通信機RSUDは、第3路側通信機RSUCにエア同期しており、同期形態フィールド57bの値は010000である。
【0135】
図16(a)において、第4路側通信機RSUDが、何らかの原因によって、第3路側通信機RSUCにエア同期できなくなると、第4路側通信機RSUDは、自走モード(継続補正モード)となり、その直後の第4路側通信機RSUDは、同期形態フィールド57bの値は110001となる。そして、時間の経過とともに、同期形態フィールド57bの値は110010〜111110へ変化する。
【0136】
そして、図16(b)に示すように、同期形態フィールド57bの値が110010〜111110の第4路側通信機RSUDが、同期形態フィールド57bの値が010000である第2路側通信機2RSUBを検出すると、第4路側通信機RSUDは、同期形態フィールド57bの値が010000である第2路側通信機2RSUBに対してエア同期する。第4路側通信機RSUDの同期形態フィールド57bの値が100000となる。
【0137】
さらに、図16(c)に示すように、第1路側通信機RSUAが、何らかの原因によってGPS同期ができなくなると、第1路側通信機RSUAは、自走モード(継続補正モード)となり、その直後の第1路側通信機RSU1は、同期形態フィールド57bの値が110001となる。そして、時間の経過とともに、同期形態フィールド57bの値が110010〜111110へ変化する。
【0138】
すると、図16(d)に示すように、同期形態フィールド57bの値が010000である第2路側通信機RSUBは、第1路側通信機RSUAから時刻情報を受信できていても、その時刻情報は信頼できないものと判断し、第1路側通信機RSUAへのエア同期を外れる。
第1路側通信機RSUAへのエア同期を外れた直後の第2路側通信機RSUBは、直前の同期形態フィールドの値(010000)を保持する。同期形態フィールド57bの値が010000である第2路側通信機RSUBは、第1路側通信機RSUBからの信号しか検出できないと、図15のステップS11〜S14においてNoとなるため、自走モード(継続補正モード)になる可能性もある。ただし、図16(d)では、同期形態フィールド57bの値が010000である第2路側通信機RSUBは、第4路側通信機RSUDからの信号を検出したときに、同期形態フィールド57bの値が100000である第4路側通信機RSUDにエア同期する。この場合、第2路側通信機RSUBは、ステップS14をYesと判断するため、同期形態フィールド57bの値が100000となる。
また、同期形態フィールド57bの値が110010〜111110である第1路側通信機RSUAが、同期形態フィールド57bの値が100000である第2路側通信機RSUBからの信号を検出すると、第1路側通信機RSUAは、同期形態フィールド57bの値が、100000である第2路側通信機RSUBにエア同期し、同期形態フィールド57bの値が100000となる。
【0139】
さらに、図16(e)に示すように、第2路側通信機RSUB及び第4路側通信機RSUD間でエア同期ができなくなると、第4路側通信機RSUDは、自走モード(継続補正モード)となり、時間の経過とともに同期形態フィールド57bの値が110010〜111110へ変化し、所定時間が経過すると、同期形態フィールド57bの値が111111となる(非同期モード)。
すると、第4路側通信機RSUDにエア同期していた第2路側通信機RSUBは、第4路側通信機RSUDからの時刻情報が信頼できないため、同期形態フィールド57bが100000である第1路側通信機RSUAにエア同期する。
【0140】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0141】
2 路側通信機
3 車載通信機
21 受信部
21a 無線通信部(受信部;送信部)
21b GPS受信機
22 制御部(通信処理装置;同期処理装置;通信処理チップ;同期処理チップ)
22a 通信制御部
22b タイマ
22c 誤差検出部
22d 補正部
22e 補正テーブル
23 通信処理モジュール(同期処理モジュール)
25 クロック発振器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図7