特許第5983262号(P5983262)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983262
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】旋盤
(51)【国際特許分類】
   B23B 21/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   B23B21/00 C
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-221108(P2012-221108)
(22)【出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2014-73542(P2014-73542A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(74)【代理人】
【識別番号】100126077
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 亮平
(72)【発明者】
【氏名】小澤 覚
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−145301(JP,A)
【文献】 特開昭59−047104(JP,A)
【文献】 実開昭58−040304(JP,U)
【文献】 実開昭52−121888(JP,U)
【文献】 英国特許出願公告第01003274(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 21/00,29/04−29/34,29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴あけ工具を保持するスリーブを固定するスリーブホルダーを刃物台本体に取り付けた旋盤であって、
前記スリーブホルダーは、
前記スリーブを固定するホルダー部材と、
前記刃物台本体に取り付けられるフレーム部材と、
前記穴あけ工具を保持するスリーブを固定するホルダー部材を前記フレーム部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向の異なる位置で固定可能なホルダー固定手段とを備え
前記ホルダー固定手段は、前記ホルダー部材を前記フレーム部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向へ案内する案内手段を有し、
該案内手段は、前記ホルダー部材と前記フレーム部材のうちの一方の部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向に沿って形成された溝と、他方の部材に対して前記溝に挿入されて該溝に沿って移動するように形成された凸部とを有し、
前記一方の部材の溝は、対向して間に前記凸部が挿入される第一の側面及び第二の側面を有し、
前記一方の部材に、前記溝の第一の側面まで前記穴あけ工具の軸心方向と直交する方向へ貫通したねじ孔が形成され、
該ねじ孔に螺合した止めねじにより前記凸部が前記溝の第二の側面に押しつけられている、旋盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴あけ工具を保持するスリーブを固定するスリーブホルダーを刃物台本体に取り付けた旋盤に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤として、主軸で把持したワークを刃物台の工具で加工するCNC(Computerized Numerical Control)旋盤が知られている。正面主軸と背面主軸(対向主軸)との間にガイドブッシュが配置された主軸移動型自動旋盤は、例えば、正面主軸で把持したワークをガイドブッシュで支持して正面加工工具で加工し、正面加工後のワークを背面主軸で把持して背面加工工具で加工する。ガイドブッシュに保持されて回転するワークを穴あけ加工する穴あけ工具は、刃物台本体に取り付けられたスリーブホルダーに固定されている。特許文献1には、ガイドブッシュを備えた主軸移動型旋盤のスリーブホルダーとして、ドリル等の端面加工ツールを保持した工具ホルダーが示されている。
【0003】
図8,9は、穴あけ工具T1,T2を保持するスリーブS1を固定するスリーブホルダー905,925をテーブル(刃物台本体)908に取り付けた刃物台902,922を備えた主軸移動型自動旋盤を例示する正面図である。図8には、図8,9に示すスリーブホルダー905,925の右側面も示している。図8,9は、主軸901に把持された棒材(ワーク)W1を主軸中心線方向(Z方向)に移動させ、該棒材W1の先端W1aに対向する位置に固定された穴あけ工具T1,T2で穴あけする場合を示し、穴あけ加工時の棒材W1の位置を二点鎖線で示している。図8は浅い穴あけ加工の例を示し、図9は深い穴あけ加工の例を示している。
【0004】
棒材W1を回転可能に把持する主軸901は、Z方向に移動可能とされている。刃物台902,922は、Z方向と直交するX方向、並びに、Z方向及びX方向と直交するY方向に移動可能とされている。スリーブホルダー905,925は、スリーブS1を固定するホルダー部905a,925a、テーブル908に取り付けられる基部905b,925b、ホルダー部905a,925aと基部905b,925bとを接続する接続部905c,925c、を備えている。ガイドブッシュ909とホルダー部905a,925aとの間で接続部905c,925cに沿って穴あけ工具T1,T2を配置するため、ガイドブッシュ909に近い基部905b,925bからホルダー部905a,925aが+Z方向へ離れている。ホルダー部905a,925aには、スリーブS1をZ方向へ通す複数の穴部906,926、該穴部906,926に挿入されたスリーブS1を固定するための止めねじ907,927を螺合させる複数のねじ孔、が形成されている。基部905b,925bは、櫛型刃物台を構成するテーブル908に取付ねじ910,930で固定されている。
【0005】
スリーブS1には、図示しないコレットで穴あけ工具T1,T2が固定されている。スリーブS1は、スリーブホルダー905,925の穴部906,926に挿入され、止めねじ907,927で固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3359808号公報
【特許文献2】特公平7−22843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高精度に穴あけ加工を行う場合、回転する棒材W1の振れを抑制するガイドブッシュ909の近傍に穴あけ工具T1,T2の先端を配置させることが望ましい。また、穴あけ工具T1,T2の長さL1、及び、ホルダー部905a,925aの棒材先端W1aへの対向面905d,925dからスリーブS1の前端S1aまでの距離L2は、取り付け時の穴あけ工具T1,T2の姿勢誤差を少なくするため必要以上に長くしないことが望ましい。
以上のことから、穴あけ深さに応じてガイドブッシュ909の端面909aからホルダー部905a,925aの対向面905d,925dまでの距離L3が異なるスリーブホルダー905,925を用意している。
【0008】
深い穴あけに対応するスリーブホルダー925で浅い穴あけをしようとすると、図10に例示する通り新たに長いスリーブS2が必要となる。しかし、ホルダー部905a,925aの対向面905d,925dからスリーブS2の前端S2aまでの距離L2が長くなるため、スリーブS2の取り付け時の姿勢誤差により穴あけ工具の中心と主軸中心とにずれが生じやすく、高精度の穴あけ加工が困難である。
【0009】
なお、特許文献2には、タレットを備えた複合加工旋盤のスリーブホルダーとして、穴あけ工具を取り付けた工具ホルダーが示されている。このスリーブホルダーに取り付けられる穴あけ工具は、旋回するタレットから設定範囲を超えて旋回軸の軸心方向、すなわち、Z方向へ出ないように配置される。スリーブホルダーには、工具ホルダー取付面に取り付けられる基部、該基部から延出したホルダー部、が設けられ、ワークとホルダー部の対向面との間に穴あけ工具が配置される。高精度の穴あけ加工を行うためには、穴あけ深さに応じてワークからホルダー部の対向面までの距離が異なるスリーブホルダーを用意する必要がある。
【0010】
以上を鑑み、本発明は、スリーブホルダーの種類を増やさずに浅い穴から深い穴まで高精度に穴あけ加工可能な旋盤を提供する目的を有している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、穴あけ工具を保持するスリーブを固定するスリーブホルダーを刃物台本体に取り付けた旋盤であって、
前記スリーブホルダーは、
前記スリーブを固定するホルダー部材と、
前記刃物台本体に取り付けられるフレーム部材と、
前記穴あけ工具を保持するスリーブを固定するホルダー部材を前記フレーム部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向の異なる位置で固定可能なホルダー固定手段とを備え
前記ホルダー固定手段は、前記ホルダー部材を前記フレーム部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向へ案内する案内手段を有し、
該案内手段は、前記ホルダー部材と前記フレーム部材のうちの一方の部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向に沿って形成された溝と、他方の部材に対して前記溝に挿入されて該溝に沿って移動するように形成された凸部とを有し、
前記一方の部材の溝は、対向して間に前記凸部が挿入される第一の側面及び第二の側面を有し、
前記一方の部材に、前記溝の第一の側面まで前記穴あけ工具の軸心方向と直交する方向へ貫通したねじ孔が形成され、
該ねじ孔に螺合した止めねじにより前記凸部が前記溝の第二の側面に押しつけられている、態様を有する。
【0012】
すなわち、穴あけ工具を保持するスリーブを固定するホルダー部材がフレーム部材に対して穴あけ工具の軸心方向の異なる位置で固定可能である。従って、スリーブから突出した部分の穴あけ工具の長さが異なっても、同じスリーブホルダーを使用することができる。
【0013】
また、前記ホルダー固定手段は、前記ホルダー部材を前記フレーム部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向へ案内する案内手段を有してい。該案内手段は、前記ホルダー部材と前記フレーム部材のうちの一方の部材に対して前記穴あけ工具の軸心方向に沿って形成された溝と、他方の部材に対して前記溝に挿入されて該溝に沿って移動するように形成された凸部とを有してい前記一方の部材の溝は、対向して間に前記凸部が挿入される第一の側面及び第二の側面を有している。前記一方の部材に、前記溝の第一の側面まで前記穴あけ工具の軸心方向と直交する方向へ貫通したねじ孔が形成されている。該ねじ孔に螺合した止めねじにより前記凸部が前記溝の第二の側面に押しつけられている
なお、上述した発明は、スリーブホルダー単体等に適用可能である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、スリーブホルダーの種類を増やさずに浅い穴から深い穴まで高精度に穴あけ加工可能な旋盤を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】刃物台10を備えた旋盤1の構成の概略を模式的に例示する正面図である。
図2】ワークを保持したガイドブッシュ230とともに刃物台10の外観を例示する側面図である。
図3】浅い穴あけ加工時の旋盤1の様子を例示する正面図である。
図4】スリーブホルダー30の例を分解して示す正面図である。
図5】深い穴あけ加工時の旋盤1の様子を例示する正面図である。
図6】タレット刃物台11を備えた変形例の旋盤の様子を例示する正面図である。
図7】(a)は変形例に係るスリーブホルダーの外観を例示する正面図であり、(b)は参考例に係るスリーブホルダーの外観を例示する正面図である。
図8】刃物台902を備えた比較例の旋盤における浅い穴あけ加工時の様子を例示する正面図である。
図9】刃物台922を備えた比較例の旋盤における深い穴あけ加工時の様子を例示する正面図である。
図10】刃物台922を備えた比較例の旋盤における浅い穴あけ加工時の様子を例示する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下に説明する実施形態は、本発明を例示するものに過ぎない。
【0017】
(1)スリーブホルダーを設けた刃物台を備えた旋盤の概略:
図1は、上記旋盤を例示するCNC旋盤1の構成の概略を模式的に示している。この旋盤1の加工部200では、正面主軸台移動制御手段210が正面主軸台211を移動させ、背面主軸台移動制御手段220が背面主軸台221を移動させ、刃物台移動制御手段9が刃物台10を移動させる。背面主軸222は、正面主軸212の対向主軸である。正面主軸212と背面主軸222との間には、ガイドブッシュ230が配置されている。NC(Numerical Control)装置300は、操作受付部や表示部を備えるコンピュータであり、加工部200の動作を数値制御する際の制御主体となる。
【0018】
正面主軸212の先端部(図1の右端部)には、背後から供給される長尺な円柱状のワーク(棒材W1)を解放可能に把持するコレット(把持具)213が取り付けられている。棒材W1を把持した正面主軸212は、図示しない正面主軸回転用モーターにより回転駆動されて、Z1方向(図1の左右方向)に沿った主軸中心線を中心として棒材W1を回転させる。正面主軸212は、正面主軸台211とともに正面主軸台移動制御手段210の正面主軸送りサーボモーターでZ1方向へ駆動される。
【0019】
ガイドブッシュ230は、正面主軸212から前進方向へ突出した棒材W1が中央の貫通孔に挿入され、Z1方向へ摺動可能な状態で棒材W1を保持する。棒材W1を保持したガイドブッシュ230は、正面主軸212とともに主軸中心線を中心として回転する。
【0020】
背面主軸222の先端部(図1の左端部)には、前方から供給される正面加工後の棒材W1を解放可能に把持するコレット(把持具)223が取り付けられている。棒材W1を把持した背面主軸222は、図示しない背面主軸回転用モーターにより回転駆動されて、Z2方向(図1の左右方向)に沿った主軸中心線を中心として棒材W1を回転させる。背面主軸222は、背面主軸台221とともに背面主軸台移動制御手段220の背面主軸送りサーボモーターでZ2方向へ駆動される。Z2方向とX方向とY方向とを互いに直交する(異なる)方向とするとき、背面主軸222はX方向とY方向の少なくとも一方へ駆動されてもよい。
なお、X方向はX軸という制御軸に沿った方向であり、Y方向はY軸という制御軸に沿った方向であり、Z方向はZ軸という制御軸に沿った方向である。実質的に並行するZ1方向とZ2方向をZ方向と総称する。図3〜6では、正面主軸212の移動を基準として+Z方向及び−Z方向を示している。
【0021】
図3,5は、穴あけ工具T1,T2を保持するスリーブS1を固定するスリーブホルダー30をテーブル(刃物台本体)20に取り付けた刃物台10を備えた主軸移動型自動旋盤を例示している。図3,5は、正面主軸212に把持された棒材W1を主軸中心線方向(Z方向)に移動させ、該棒材W1の先端W1aに対向する位置に固定された穴あけ工具T1,T2で穴あけする場合を示し、穴あけ加工時の棒材W1の位置を二点鎖線で示している。この場合、使用中の穴あけ工具T1,T2の軸心AX1は、回転する正面主軸212の中心線に一致する。図3は浅い穴あけ加工の例を示し、図5は深い穴あけ加工の例を示している。
【0022】
図2等に示す刃物台10は、ガイドブッシュ230の上方に構成され主軸中心線に対して直交する方向へ移動制御可能な櫛型刃物台であり、くし歯状のバイトT3を含む工具群を有している。むろん、刃物台10には、回転工具、ねじ切り用のスレッドワーリング工具、すりわり形成用のスロッティング工具、多角柱形成用のポリゴン加工工具、等の工具が設けられてもよい。図3等に示すように、刃物台10にはスリーブホルダー30が設けられている。スリーブホルダー30には、穴あけ工具等の工具を保持した工具スリーブが取り付けられる。穴あけ工具には、ドリル、タップ、リーマ、エンドミル、等が含まれる。例えば、ドリルを使用する場合、ドリルをドリルスリーブで保持してスリーブホルダー30に取り付ければよい。刃物台10は、穴あけ工具T1,T2やバイトT3といった工具を用いて、ガイドブッシュ230に保持されたワークW1の正面側を加工したり背面主軸222に保持されたワークW1の背面側を加工したりする。刃物台10は、刃物台移動制御手段9の刃物台X軸送りサーボモーターでX方向へ駆動され、刃物台移動制御手段9の刃物台Y軸送りサーボモーターでY方向へ駆動される。X方向とY方向とZ方向は、互いに異なる方向であればよく、移動制御のし易さの点から実質的に直交しているのが好ましいものの、直交する方向から例えば45°以下の角度でずれた方向でもよい。
【0023】
NC装置300は、加工部200に設けられた各種サーボモーターを接続したサーボアンプに対しアプリケーションプログラムや加工プログラムに従った指示を出すことにより、各種サーボモーターの回転駆動等を数値制御する。
【0024】
図2〜5等に例示されるスリーブホルダー30は、ホルダー部材40、フレーム部材50、ホルダー固定手段60、を基本要素として備える。
ホルダー部材40は、穴あけ工具T1,T2を保持するスリーブS1を固定する。本技術に用いる穴あけ工具は、回転するワークに該ワークの軸心を中心とした穴を形成可能な固定工具が好ましいものの、回転工具でもよい。回転工具の場合、穴あけ工具の軸心方向は、主軸中心線と平行な方向に限らず、主軸中心線と平行な方向からずれた方向でもよい。
【0025】
フレーム部材50は、刃物台本体(テーブル20)に取り付けられる。刃物台は、図2に例示される櫛型刃物台の他、タレット等でもよい。
ホルダー固定手段60は、穴あけ工具T1,T2を保持するスリーブS1を固定するホルダー部材40をフレーム部材50に対して穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1の異なる位置P1〜P3で固定可能である。これにより、スリーブから突出した部分の穴あけ工具の長さが異なっても、同じスリーブホルダーを使用することができる。
【0026】
なお、図2〜5に示すホルダー固定手段60は、ホルダー部材40をフレーム部材50に対して穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1へ案内する案内手段61を有する。図2〜5に示す案内手段61は、フレーム部材(一方の部材)50に対して穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1に沿って形成された溝62と、溝62に挿入されて該溝62に沿って移動するようにホルダー部材(他方の部材)40に形成された凸部63とを有する。この案内手段61がスリーブホルダー30にあると、穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1におけるホルダー部材40のフレーム部材50に対する位置P1〜P3を変更するのに好適である。
【0027】
(2)スリーブホルダーの具体例の説明:
図2〜5に示すスリーブホルダー30は、ホルダー部材40とフレーム部材50に2体化され、ホルダー部材40が主軸中心線方向(Z方向)へスライド可能にされている。
ホルダー部材40には、Z方向へ貫通した複数の穴部41、Y方向の端面40b,40bから穴部41までY方向へ貫通した複数のねじ孔42、が形成されている。図2〜5には、4個の穴部41と8個のねじ孔42が示されている。各穴部41は、スリーブS1をZ方向へ通す。各ねじ孔42は、穴部41に挿入されたスリーブS1を固定するための止めねじ43を螺合させる。ホルダー部材40の+X方向側の面は、フレーム部材50との接触面40aとされている。この接触面40aには、長手方向を穴部41の軸心方向、すなわち、穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1に向けた断面矩形状の凸部63、及び、−X方向へ凹んだ複数のねじ孔67が形成されている。ホルダー部材40と一体的に形成された凸部63は、フレーム部材50の溝62に挿入されて該溝62とスライド可能に係合し、該溝62に沿ってZ方向へ移動するようにされている。
【0028】
フレーム部材50は、刃物台10のテーブル20に取り付けられる基部50b、ホルダー部材40と基部50bとを接続する接続部50c、を備えている。基部50bは、テーブル20に取付ねじ58で固定される。接続部50cの−X方向側の面は、ホルダー部材40との接触面50dとされている。この接触面50dには、長手方向を主軸中心線に対して平行な方向、すなわち、穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1に沿った断面矩形状の溝62が形成されている。この溝62と挿入された凸部63との間には、Y方向に僅かな隙間が生じる。接続部50cには、+Y方向側の端面50eから溝62までY方向へ貫通した複数のねじ孔64、及び、+X方向の端面50fから溝62までX方向へ貫通した複数の貫通孔66が形成されている。各ねじ孔64は、凸部63を溝62の−Y方向側の面に押しつけるための止めねじ65を螺合させる。ねじ孔64に止めねじ65を螺入して凸部63を溝62の−Y方向側の面に押しつけることにより、溝62と凸部63との間に生じる僅かな隙間により穴あけ工具T1の軸心AX1と主軸中心線とが平行からずれることを抑制することができる。各貫通孔66は、ホルダー部材40のねじ孔67と螺合する取付ねじ(締結手段)68を通す。
【0029】
案内手段61は、上記溝62及び上記凸部63で構成される。ホルダー固定手段60は、前記案内手段61、ねじ孔64,67、止めねじ65、貫通孔66、及び、取付ねじ(締結手段)68で構成される。
【0030】
図3に示すような短い穴あけ工具T1を使用する場合、図4に示すような−Z方向側の位置P1でホルダー部材40をフレーム部材50に固定する。この場合、溝62に凸部63を挿入し、−Z方向側のねじ孔64aに止めねじ65を螺入し、貫通孔66a,66bを介して取付ねじ68をねじ孔67に螺入することになる。図5に示すような長い穴あけ工具T2を使用する場合、図4に示すような+Z方向側の位置P3でホルダー部材40をフレーム部材50に固定する。この場合、溝62に凸部63を挿入し、+Z方向側のねじ孔64cに止めねじ65を螺入し、貫通孔66c,66dを介して取付ねじ68をねじ孔67に螺入することになる。図示していないが、穴あけ工具T1よりも長く穴あけ工具T2よりも短い中間的な長さの穴あけ工具を使用する場合、図4に示すような中間の位置P2でホルダー部材40をフレーム部材50に固定する。この場合、溝62に凸部63を挿入し、中間のねじ孔64bに止めねじ65を螺入し、貫通孔66b,66cを介して取付ねじ68をねじ孔67に螺入することになる。
【0031】
ガイドブッシュ230とホルダー部材40との間で接続部50cに沿って穴あけ工具T1,T2を配置するため、上記位置P1〜P3に固定されるホルダー部材40はガイドブッシュ230に近い基部50bから+Z方向へ離される。ガイドブッシュ230の端面231からホルダー部材40の対向面までの距離L3は、位置P1〜P3に応じて変わる。
スリーブS1には、図示しないコレットで穴あけ工具T1,T2が固定される。スリーブS1は、ホルダー部材40の穴部41に挿入され、止めねじ43で固定される。
【0032】
なお、テーブル20の主要部や工具T1〜T3は、例えば金属で形成することができる。
【0033】
(3)刃物台を備えた旋盤の動作、作用、及び、効果:
次に、図1〜5を参照して、旋盤1の動作、作用、及び、効果を説明する。
図3に示すように浅い穴をあける場合、図4に示すようなガイドブッシュ230に近い位置P1に合わせて凸部63を溝62に挿入し、まず、ガイドブッシュ230に近いねじ孔64aに止めねじ65を螺入して凸部63を溝62の−Y方向側の面に押しつける。次に、フレーム部材50の貫通孔66a,66bにそれぞれ取付ねじ68を挿入してホルダー部材40のねじ孔67に螺合させる。これにより、ホルダー部材40がガイドブッシュ230に近い位置P1でフレーム部材50に固定される。浅い穴あけ加工時には、必要に応じて刃物台移動制御手段9でテーブル20を移動させて穴あけ工具T1の軸心AX1を主軸中心線に合わせ、棒材W1を回転させながら正面主軸送りサーボモーターで正面主軸212を+Z方向へ移動させ、棒材W1を図3に二点鎖線で示すような位置まで進出させる。ここで、穴あけ工具T1の長さL1が短く、かつ、ホルダー部材40の棒材先端W1aへの対向面からスリーブS1の前端S1aまでの距離L2が短いので、穴あけ工具T1の姿勢誤差が少ない。
【0034】
図5に示すように深い穴をあける場合、図4に示すようなガイドブッシュ230から遠い位置P3に合わせて凸部63を溝62に挿入し、まず、ガイドブッシュ230から遠いねじ孔64cに止めねじ65を螺入して凸部63を溝62の−Y方向側の面に押しつける。次に、フレーム部材50の貫通孔66c,66dにそれぞれ取付ねじ68を挿入してホルダー部材40のねじ孔67に螺合させる。これにより、ホルダー部材40がガイドブッシュ230から遠い位置P3でフレーム部材50に固定される。深い穴あけ加工時には、必要に応じて刃物台移動制御手段9でテーブル20を移動させて穴あけ工具T1の軸心AX1を主軸中心線に合わせ、棒材W1を回転させながら正面主軸送りサーボモーターで正面主軸212を+Z方向へ移動させ、棒材W1を図5に二点鎖線で示すような位置まで進出させる。ここで、ホルダー部材40の棒材先端W1aへの対向面からスリーブS1の前端S1aまでの距離L2が短いので、浅い穴あけ加工時と同じスリーブホルダー30を用いて穴あけ工具T2の姿勢誤差を少なくすることができる。
【0035】
従って、穴あけ深さに応じて複数のスリーブホルダーを用意しなくてもよく、1種類のスリーブホルダーで望ましい位置に穴あけ工具を取り付けて高精度な穴あけ加工を行うことが可能になる。
【0036】
なお、図4等に示すようにフレーム部材50に対して取付ねじ68の取付穴(貫通孔66)を穴あけ工具の軸心方向D1へ等間隔に設けることにより、ホルダー部材40を軸心方向D1の複数の位置でフレーム部材50に固定することができる。
【0037】
以上説明したように、穴あけ工具T1,T2を保持するスリーブS1を固定するホルダー部材40がフレーム部材50に対して穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1の異なる位置で固定可能である。これにより、スリーブS1から突出した部分の穴あけ工具T1,T2の長さが異なっても、同じスリーブホルダー30を使用することができる。従って、本旋盤1は、スリーブホルダー30の種類を増やさずに浅い穴から深い穴まで高精度に穴あけ加工することが可能になる。
【0038】
(4)変形例:
本技術は、種々の変形例が考えられる。
例えば、スリーブホルダーに設けられる穴あけ工具の数は、特に限定は無く、一つでもよい。
スリーブホルダーを構成するホルダー部材は、一つのみならず、複数でもよい。スリーブホルダーを構成するフレーム部材も、一つのみならず、複数でもよい。
フレーム部材に対するホルダー部材の固定位置は、二箇所とされてもよいし、四箇所以上とされてもよいし、穴あけ工具の軸心方向の所定範囲内で無段階、すなわち、任意の位置とされてもよい。
【0039】
本技術は、櫛型刃物台旋盤以外にも、ガイドブッシュの無い普通旋盤、タレット旋盤、等にも適用可能である。図6は、タレット刃物台11を備えた変形例の旋盤の様子を例示している。タレット刃物台本体21に取り付けられるスリーブホルダー30に用いられる穴あけ工具T1,T2は、旋回するタレットから設定範囲、例えば、タレット刃物台本体21の−Z方向側の面21aから旋回軸AX2の軸心方向、すなわち、−Z方向へ出ないように配置される。この設定範囲の距離L4は、フレーム部材50に対するホルダー部材40の位置に応じて変わる。
【0040】
浅い穴をあける場合、−Z方向側の位置でホルダー部材40をフレーム部材50に固定すればよい。この場合、穴あけ工具T1の長さL1が短く、かつ、ホルダー部材40の棒材先端W1aへの対向面からスリーブS1の前端S1aまでの距離L2が短いので、穴あけ工具T1の姿勢誤差が少ない。深い穴をあける場合、長い穴あけ工具T2を用い、+Z方向側の位置でホルダー部材40をフレーム部材50に固定すればよい。この場合、ホルダー部材40の棒材先端W1aへの対向面からスリーブS1の前端S1aまでの距離L2が短いので、浅い穴あけ加工時と同じスリーブホルダー30を用いて穴あけ工具T2の姿勢誤差を少なくすることができる。
以上より、タレット刃物台を備えた旋盤でも、スリーブホルダー30の種類を増やさずに浅い穴から深い穴まで高精度に穴あけ加工することが可能になる。
【0041】
図7(a)は、溝62と凸部63を逆にした変形例のスリーブホルダー30の外観を示している。図7(a)に示す案内手段61は、ホルダー部材(一方の部材)40に対して穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1に沿って形成された溝62と、溝62に挿入されて該溝62に沿って移動するようにフレーム部材(他方の部材)50に形成された凸部63とを有する。この案内手段61がスリーブホルダー30にあっても、穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1におけるホルダー部材40のフレーム部材50に対する位置を変更するのに好適である。
【0042】
図7(b)は、ピン71及び孔72を用いたホルダー固定手段60を有する参考例のスリーブホルダー30の外観を示している。このホルダー固定手段60は、ホルダー部材40に設けられたピン71と、フレーム部材50に対して穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1の互いに異なる位置に形成された複数の孔72とを有し、これらの孔72のいずれかにピン71を挿入することによりフレーム部材50に対してホルダー部材40を位置決めして固定する。孔72の数は、ピン71の数よりも多くされている。
【0043】
図7(b)に示すホルダー部材40の接触面40aには、+X方向へ突出したピン71が複数設けられ、−X方向へ凹んだねじ孔67が形成されている。ホルダー部材40を高精度に位置決めするため、複数のピン71を円柱状とダイヤピンとで構成してもよい。フレーム部材50の接触面50dには、穴あけ工具T1,T2の軸心方向D1へ並んだ複数の孔72が形成されている。ホルダー部材40を高精度に位置決めするため、複数の孔72を丸孔と長孔とで構成してもよい。接続部50cには、X方向へ貫通した複数の貫通孔66が形成されている。各貫通孔66は、ホルダー部材40のねじ孔67と螺合する取付ねじ68を通す。短い穴あけ工具T1を使用する場合、−Z方向側の位置の孔72にピン71を挿入し、−Z方向側の貫通孔66に取付ねじ68を挿入してねじ孔67に螺合させることにより、ガイドブッシュ230に近い位置でホルダー部材40をフレーム部材50に固定すればよい。長い穴あけ工具T2を使用する場合、+Z方向側の位置の孔72にピン71を挿入し、+Z方向側の貫通孔66に取付ねじ68を挿入してねじ孔67に螺合させることにより、ガイドブッシュ230から遠い位置でホルダー部材40をフレーム部材50に固定すればよい。
【0044】
以上より、本参考例も、スリーブホルダーの種類を増やさずに浅い穴から深い穴まで高精度に穴あけ加工を行うことが可能になる。
なお、フレーム部材50にピン71を設け、ホルダー部材40に孔72を形成しても、同様の効果が得られる。
【0045】
また、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術等でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
【0046】
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、スリーブホルダーの種類を増やさずに浅い穴から深い穴まで高精度に穴あけ加工可能な旋盤、スリーブホルダー、等の技術を提供することができる。
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1…旋盤、9…刃物台移動制御手段、
10…刃物台、11…タレット刃物台、
20…テーブル(刃物台本体)、21…タレット刃物台本体、
30…スリーブホルダー、
40…ホルダー部材、41…穴部、42…ねじ孔、43…止めねじ、
50…フレーム部材、50b…基部、50c…接続部、58…取付ねじ、
60…ホルダー固定手段、61…案内手段、
62…溝、63…凸部、64…ねじ孔、65…止めねじ、
66…貫通孔、67…ねじ孔、68…取付ねじ、
71…ピン、72…孔、
212…正面主軸、230…ガイドブッシュ、
AX1…軸心、D1…軸心方向、
S1…スリーブ、T1,T2…穴あけ工具、T3…バイト、
W1…棒材(ワーク)。
図1
図2
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図10