(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、組成式が{α(xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2)+β(2MgO・SiO
2)}で表される主成分を含むものである。
【0019】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、この主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、及び軟化点が570℃以下のガラスを更に含んでいる。
<主成分>
本実施形態の誘電体磁器組成物は、
主成分として組成式が{α(xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2)+β(2MgO・SiO
2)}で表される成分を含み、
BaO、Nd
2O
3、及びTiO
2のモル比率を表すx、y、及びzがそれぞれ、
14(モル%)≦x≦19(モル%)、
12(モル%)≦y≦17(モル%)、
65(モル%)≦z≦71(モル%)、の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100の関係を満たすように構成されている。
【0020】
さらに、主成分における各成分の体積比率(体積%)を表すα及びβはそれぞれ、
35(体積%)≦α≦65(体積%)、
35(体積%)≦β≦65(体積%)、の範囲内にあるとともに、
α+β=100の関係を満たすように構成されている。
【0021】
ここで、BaOの含有割合xは、14(モル%)≦x≦19(モル%)であり、好ましくは15(モル%)≦x≦19(モル%)であり、より好ましくは17(モル%)≦y≦19(モル%)である。
【0022】
このBaOの含有割合xが14モル%未満となると誘電損失が大きくなり、Q値が下がる傾向が生じ、高周波デバイスとした際の電力損失が過度に大きくなってしまう。また、このBaOの含有割合xが19モル%を超えると、低温焼結性が損なわれて誘電体磁器組成物を形成できなくなる傾向が生じ、さらにはQ値が大きく低下するため高周波デバイスの電力損失が過度に大きくなってしまう。
【0023】
また、Nd
2O
3の含有割合yは、12(モル%)≦y≦17(モル%)であり、好ましくは13(モル%)≦y≦16(モル%)であり、より好ましくは14(モル%)≦y≦16(モル%)である。
【0024】
このNd
2O
3の含有割合yが、12モル%未満となると誘電損失が大きくなり、Q値が下がる傾向が生じ、高周波デバイスとした際の電力損失が過度に大きくなってしまう。また、このNd
2O
3の含有割合yが17モル%を超えると、低温焼結性が損なわれて誘電体磁器組成物を形成できなくなる傾向が生じ、さらにはQ値が大きく低下するため高周波デバイスの電力損失が過度に大きくなってしまう。
【0025】
さらに、TiO
2の含有割合zは、65(モル%)≦z≦71(モル%)であり、好ましくは65(モル%)≦z≦69(モル%)であり、より好ましくは65(モル%)≦z≦67(モル%)である。
【0026】
このTiO
2の含有割合zが65モル%未満となると誘電損失が大きくなり、Q値が下がる傾向が生じるとともに、共振周波数の温度係数τfも負方向へ大きくなってしまう傾向にある。従って、高周波デバイスの電力損失が大きくなり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなってしまう。また、このTiO
2の含有割合zが71モル%を超えると、低温焼結性が損なわれて誘電体磁器組成物を形成できなくなる傾向が生じる。
【0027】
また、本実施形態における主成分の上記組成式において、α及びβは、それぞれ、本実施形態の誘電体磁器組成物の主成分である(1)Ba−Nd−Ti系複合酸化物と、(2)Mg−Si系複合酸化物の体積比率を表している。
【0028】
上記組成式においてαとβは、
35(体積%)≦α≦65(体積%)、
35(体積%)≦β≦65(体積%)、の範囲にあるとともに、
α+β=100の関係を満たすように構成されている。
【0029】
xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2成分の体積比率αは、45(体積%)≦α≦65(体積%)、であることが好ましく、50(体積%)≦α≦60(体積%)であることがより好ましい。
【0030】
また、2MgO・SiO
2成分の体積比率βは、35(体積%)≦β≦55(体積%)、であることが好ましく、40(体積%)≦β≦50(体積%)であることがより好ましい。
【0031】
αが65を超えてかつβが35未満となると、誘電体磁器組成物の比誘電率εrが大きくなる傾向にあり、従来の高誘電率材と本発明に係る誘電体磁器組成物とを接合した多層型デバイスの高特性化が困難となる傾向にある。また、αが65を超えてかつβが35未満となると、τfが正方向へ大きくなる傾向にあり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向にある。一方、αが35未満となりかつβが65を超えると、誘電体磁器組成物のτfが負方向へ大きくなる傾向にあり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなる傾向にある。そこで、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2成分の体積比率α、及び2MgO・SiO
2成分の体積比率βを、上記の好適な範囲内とすることによって、これらの不都合な傾向を抑制することができる。
【0032】
なお、主成分の一部として含有されている2MgO・SiO
2は、誘電損失を小さくする観点から、フォルステライト結晶の形態で誘電体磁器組成物に含有されていることが好ましい。誘電体磁器組成物にフォルステライト結晶が含有されているか否かは、X線回折装置(XRD)によって確認できる。
【0033】
xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物は、高い比誘電率εrを有し、その値は55〜105程度である。一方、2MgO・SiO
2(フォルステライト)は、単体で低い比誘電率εrを有し、その値は6.8程度である。本実施形態の誘電体磁器組成物は、主成分として、比誘電率εrが高いxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物と、比誘電率εrが低い2MgO・SiO
2を含有することにより、誘電体磁器組成物の比誘電率εrを好適に下げることができる。
【0034】
本実施形態の誘電体磁器組成物から形成される誘電体層を、従来公知のBaO−希土類酸化物−TiO
2系誘電体磁器組成物(高誘電率材)から形成される誘電体層と接合して多層型デバイスを形成する場合、本実施形態の誘電体磁器組成物の比誘電率が、高誘電率材の比誘電率より低いほど多層型デバイスを高特性化できる。このような理由から、本実施形態の誘電体磁器組成物の比誘電率εrは40以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、25〜35であることが更に好ましい。
【0035】
xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物は、正の共振周波数の温度係数τf(単位:ppm/K)を有する場合が多い。一方、2MgO・SiO
2(フォルステライト)は、それ単体で負の共振周波数の温度係数τfを有し、その値は−65(ppm/K)程度である。本実施形態では、誘電体磁器組成物に、主成分として、正の共振周波数の温度係数τfを有するxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物と、負の共振周波数の温度係数τfを有する2MgO・SiO
2とを含有させることで、正のτfと負のτfとが相殺され、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfをゼロ近傍にすることができる。さらに、主成分中の2MgO・SiO
2の含有率を増減させることで、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfを調整することができる。なお、温度係数τf、後述するQ値は、焼結後の誘電体磁器組成物が示す値である。
【0036】
また、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τf(単位:ppm/K)は下記式(1)で表される関係によって算出される。
【0037】
τf=〔fT−fref/fref(T−Tref)〕×10
6(ppm/K)・・・(1)
【0038】
式中、fTは温度Tにおける共振周波数を示し、frefは基準温度Trefにおける共振周波数を示す。τfの絶対値の大きさは、温度変化に対する誘電体磁器組成物の共振周波数の変化量の大きさを意味する。コンデンサ、誘電体フィルタ等の高周波デバイスでは、温度による共振周波数の変化を小さくする必要があるため、誘電体磁器組成物のτfの絶対値を小さくすることが要求される。
【0039】
本実施形態の誘電体磁器組成物のτfは、−40(ppm/K)〜+40(ppm/K)であることが好ましく、−30(ppm/K)〜+30(ppm/K)であることがより好ましく、−20(ppm/K)〜+20(ppm/K)であることが更に好ましい。τfを上記の好適な範囲内の値とすることによって、誘電体磁器組成物を誘電体共振器に利用する場合、誘電体共振器の共振周波数の温度変化を低減することができ、誘電体共振器を高特性化することができる。
【0040】
また、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物のQ・f値は、2000〜8000GHz程度である。一方、2MgO・SiO
2(フォルステライト)単体のQ・f値は、200000GHz程度であり、2MgO・SiO
2の誘電損失は、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物の誘電損失に比べて小さい。本実施形態では、誘電体磁器組成物の主成分として、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物に比べて誘電損失の小さいフォルステライトとを含有させることで、誘電損失の小さい誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0041】
なお、誘電体磁器組成物のQ値とは、誘電損失の大きさを表し、現実の電流と電圧の位相差と、理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数(Q=1/tanδ)である。
【0042】
理想的な誘電体磁器組成物に交流を印加すると、電流と電圧は90度の位相差をもつ。しかしながら、交流の周波数が高くなり高周波となると、誘電体磁器組成物の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できず、あるいは電子又はイオンが伝導することにより、電束密度が電場に対して位相の遅れ(位相差)をもち、現実の電流と電圧は90度以外の位相をもつことになる。このような位相差に起因して、高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象を、誘電損失と呼ぶ。誘電損失が小さくなればQ値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ値は小さくなる。誘電損失は高周波デバイスの電力損失を意味し、高周波デバイスでは高特性化を実現するために誘電損失が小さいことが要求されるため、Q値の大きい誘電体磁器組成物が求められる。
【0043】
本実施形態の誘電体磁器組成物のQ値は、上記観点から、400以上であることが好ましい。
【0044】
<副成分>(実施形態1)
本実施形態の誘電体磁器組成物は、上記主成分(xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物及び2MgO・SiO
2)に対する副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、及び軟化点が570℃以下のガラスを含み、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB
2O
3、及びcガラスと表したとき、前記主成分に対する前記各副成分の質量比率を表すa、b、及びcがそれぞれ、
0.0(質量%)≦a≦4.25(質量%)、
0.0(質量%)≦b≦5.5(質量%)、
4.5(質量%)≦c≦10.0(質量%)、の範囲内にあるとともに、
b≧a−3,及びa+b+c=10の関係を満たす。
【0045】
上記の各副成分を誘電体磁器組成物に含有させることによって、誘電体磁器組成物の焼結温度が低下するため、Ag系金属からなる内部導体の融点より低い温度で、誘電体磁器組成物をAg系金属と同時に焼成することが可能となる。
【0046】
また、副成分の一種である亜鉛酸化物の含有量は、亜鉛酸化物の質量をZnOに換算した場合の値a(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.0≦a≦4.25であり、0.0≦a≦4.0であることが好ましく、0.5≦a≦3.5であることがより好ましい。
【0047】
aが4.25を超えると、低温焼結効果(より低温での誘電体磁器組成物の焼結を可能とする効果)が不十分なものとなる傾向にある。そこで、亜鉛酸化物の含有量aを上記の好適範囲内とすることによって、この傾向を抑制することができる。なお、具体的な亜鉛酸化物としては、ZnO等が挙げられる。
【0048】
副成分の一種であるホウ素酸化物の含有量は、ホウ素酸化物の質量をB
2O
3に換算した場合の値b(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.0≦b≦5.5であり、0.5≦b≦5.0であることが好ましく、1.0≦b≦4.0であることがより好ましい。
【0049】
bが5.0を超えると、化学耐久性(酸やアルカリなどに対する溶出の少なさ)が不十分なものとなる傾向にある。そこで、ホウ素酸化物の含有量bを上記の好適範囲内とすることによって、この傾向を抑制できる。なお、具体的なホウ素酸化物としては、B
2O
3等が挙げられる。
【0050】
副成分の一種である軟化点が570℃以下であるガラスの含有量c(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、4.5≦c≦10.0であり、4.5≦c≦7.5であることが好ましく、4.5≦c≦5.0であることがより好ましい。
【0051】
cが4.5未満となると、化学耐久性が不十分なものとなる傾向にある。そこで、軟化点が低いガラスの含有量cを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。cが10.0を超えると、Q値が不十分なものとなる傾向がある。
【0052】
b<a−3の領域にあるとき、及びa+b+c>10の領域にあるとき、低温焼結効果が不十分なものとなる傾向にある。
【0053】
また、軟化点が低く、化学耐久性の良いガラスを添加することによって、誘電体磁器組成物の焼成温度を大幅に低下させることができる。そして、化学耐久性も向上させることができる。本実施形態の誘電体磁器組成物は、十分な低温焼結効果を得ることができる。
【0054】
<副成分>(実施形態2)
副成分を以下のように変更した以外は上記実施形態1と同様にして試料を作成した。
副成分として亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、及び軟化点が570℃以下のガラスを含み、それぞれ、aZnO、bB
2O
3、及びcガラスと表したとき、前記主成分に対する前記各副成分の質量比率を表すa、b、及びcがそれぞれ、
0.0(質量%)≦a≦4.75(質量%)、
1.0(質量%)≦b≦6.5(質量%)、
3.5(質量%)≦c≦5.0(質量%)、の範囲内にあるとともに、
b≧a−3,及びa+b+c=10
の関係を満たす。
【0055】
副成分の一種である亜鉛酸化物の含有量は、亜鉛酸化物の質量をZnOに換算した場合の値a(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.0≦a≦4.75であり、0.0≦a≦4.25であることが好ましく、0.5≦a≦3.5であることがより好ましい。
【0056】
aが4.75を超えると、低温焼結効果(より低温での誘電体磁器組成物の焼結を可能とする効果)が不十分なものとなる傾向にある。そこで、亜鉛酸化物の含有量aを上記の好適範囲内とすることによって、この傾向を抑制することができる。
【0057】
副成分の一種であるホウ素酸化物の含有量は、ホウ素酸化物の質量をB
2O
3に換算した場合の値b(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、1.0≦b≦6.5であり、1.0≦b≦6.0であることが好ましく、1.5≦b≦5.5であることがより好ましい。
【0058】
bがb>6.5、あるいはb<1.0の範囲にあるとき、Q値が不十分なものとなる傾向にある。そこで、ホウ素酸化物の含有量bを上記の好適範囲内とすることによって、この傾向を抑制できる。なお、具体的なホウ素酸化物としては、B
2O
3等が挙げられる。
【0059】
副成分の一種である軟化点が570℃以下であるガラスの含有量c(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、3.5≦c≦5.0であり、4.0≦c≦5.0であることが好ましく、4.5≦c≦5.0であることがより好ましい。
【0060】
cがc<3.5、あるいはc>5.0の範囲にあるとき、Q値が不十分なものとなる傾向にある。そこで、軟化点が低いガラスの含有量cを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0061】
b<a−3の領域にあるとき、及びa+b+c>10の領域にあるとき、低温焼結効果が不十分なものとなる傾向にある。
【0062】
<副成分>(実施形態3)
副成分を以下のように変更した以外は、上記実施形態1と同様にして試料を作成した。副成分として亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、及び軟化点が570℃以下のガラスを含み、それぞれ、aZnO、bB
2O
3、及びcガラスと表したとき、前記主成分に対する前記各副成分の質量比率を表すa、b、及びcがそれぞれ、
0.0(質量%)≦a≦4.25(質量%)、
1.0(質量%)≦b≦5.5(質量%)、
4.5(質量%)≦c≦5.0(質量%)、の範囲内にあるとともに、
b≧a−3,及びa+b+c=10
の関係を満たす。
【0063】
副成分の一種である亜鉛酸化物の含有量は、亜鉛酸化物の質量をZnOに換算した場合の値a(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、0.0≦a≦4.75であり、0.0≦a≦4.25であることが好ましく、0.5≦a≦3.5であることがより好ましい。
【0064】
aが4.75を超えると、低温焼結効果(より低温での誘電体磁器組成物の焼結を可能とする効果)が不十分なものとなる傾向にある。そこで、亜鉛酸化物の含有量aを上記の好適範囲内とすることによって、この傾向を抑制することができる。
【0065】
副成分の一種であるホウ素酸化物の含有量は、ホウ素酸化物の質量をB
2O
3に換算した場合の値b(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、1.0≦b≦6.5であり、1.0≦b≦6.0であることが好ましく、1.5≦b≦5.5であることがより好ましい。
【0066】
bがb>6.5、あるいはb<1.0の範囲にあるとき、Q値が不十分なものとなる傾向にある。そこで、ホウ素酸化物の含有量bを上記の好適範囲内とすることによって、この傾向を抑制できる。なお、具体的なホウ素酸化物としては、B
2O
3等が挙げられる。
【0067】
副成分の一種である軟化点が570℃以下であるガラスの含有量c(単位:質量%)が、主成分100質量%に対して、3.5≦c<≦5.0であり、4.0≦c≦5.0であることが好ましく、4.5≦c≦5.0であることがより好ましい。
【0068】
cがc<3.5、あるいはc>5.0の範囲にあるとき、Q値が不十分なものとなる傾向にある。そこで、軟化点が570℃以下であるガラスの含有量cを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0069】
b<a−3の領域にあるとき、及びa+b+c>10の領域にあるとき、低温焼結効果が不十分なものとなる傾向にある。
【0070】
本実施形態において使用可能なガラスは、低温焼結の観点から軟化点が570℃以下であればよく、その種類は特に限定されず、公知のものを用いることができる。ガラス組成物は、原料として、網目形成酸化物成分、金属酸化物、修飾酸化物成分等を混合して用いることができる。
網目形成酸化物成分としては、SiO
2及びB
2O
3を挙げることができ、化学耐久性の観点からSiO
2が好ましい。また、金属酸化物としては、Li
2O、Na
2O、K
2O、ZrO
2、Al
2O
3、ZnO、CuO、NiO、CoO、MnO、Cr
2O
3、V
2O
5、MgO、Nb
2O
5、及びTa
2O
5から選ばれる少なくとも1種であり、それらの中でもAgの偏析を効果的に抑制でき、誘電体磁器組成物をより低温焼結できる観点から、アルカリ金属酸化物が好ましく、殊にLi
2Oがより好ましい。修飾酸化物成分としては、金属酸化物の添加により劣化した化学耐久性を補う観点から、アルカリ土類酸化物、具体的にはCaO、SrO、及びBaOから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0071】
本実施形態におけるガラスの軟化点は、示差熱分析(DTA)法で求められる。
【0072】
上記本実施形態では、誘電体磁器組成物の主成分は、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物を含むため、従来のBaO−希土類酸化物−TiO
2系の誘電体磁器組成物(高誘電率材)の材質と類似している。そのため、本実施形態の誘電体磁器組成物の焼成時における収縮挙動および線膨張係数が、高誘電率材と同等となる。従って、本実施形態の誘電体磁器組成物と高誘電率材とを接合し、焼成して、多層型デバイスを製造することによって、接合面に欠陥が生じ難く、デバイスの外観が良好であり、かつ高特性の多層型デバイスを得ることができる。
【0073】
<製造方法>
次に、本実施形態の誘電体磁器組成物の製造方法の一例について説明する。
図1は、本実施形態の誘電体磁器組成物の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0074】
誘電体磁器組成物の主成分及び副成分の各原料としては、例えば、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物、2MgO・SiO
2、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、又は焼成(後述する仮焼等の熱処理)によりこれらの酸化物となり得る化合物を用いることができる。
【0075】
焼成により上記酸化物となり得る化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0076】
(主成分)
まず、主成分の原料となる炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンをそれぞれ所定量秤量して混合する。この際、組成式xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2におけるモル比であるx、y及びzが上述した好適な範囲内となるように、各原料を秤量する。
【0077】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。混合時間は例えば4〜24時間程度とすればよい。
【0078】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合物を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃で、12〜36時間程度乾燥させた後、仮焼する。この仮焼によって、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物を合成する。仮焼温度は、1100〜1500℃であることが好ましく、1100〜1350℃であることがより好ましい。また、仮焼は、1〜24時間程度行うことが好ましい。
【0079】
合成されたxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物を粉砕して粉末とした後、乾燥する。これにより、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物の粉末を得る。粉砕は、乾式粉砕又は湿式粉砕等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉末の乾燥は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度行えばよい。
【0080】
次に、他の主成分である2MgO・SiO
2(フォルステライト)の原料である酸化マグネシウムと酸化ケイ素とをそれぞれ所定量秤量し混合して、仮焼を行う。酸化マグネシウムと酸化ケイ素の混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0081】
酸化マグネシウムと酸化ケイ素の混合物を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃で、12〜36時間程度乾燥させた後、仮焼する。この仮焼によって、2MgO・SiO
2(フォルステライト)を合成する。仮焼温度は、1100〜1500℃であることが好ましく、1100〜1350℃であることがより好ましい。また、仮焼は1〜24時間程度行うことが好ましい。
【0082】
合成したフォルステライト結晶を粉砕して粉末とした後に乾燥する。これにより、フォルステライト結晶の粉末を得る。粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉末の乾燥は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度行えばよい。
【0083】
或いは、上述のようにマグネシウム含有原料及びケイ素含有原料からフォルステライト結晶を合成するのではなく、市販のフォルステライトを用いてもよい。例えば、市販のフォルステライトを、上述した方法で粉砕し、乾燥してフォルステライトの粉末を得ることもできる。
【0084】
次に、得られたxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物の粉末と、2MgO・SiO
2(フォルステライト結晶)の粉末とを、上述した体積比率α:βで配合することによって、誘電体磁器組成物の主成分が得られる。このように、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物と2MgO・SiO
2とを配合することにより、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2化合物単独を主成分とする場合等に比べて、誘電体磁器組成物のεrを下げることができ、共振周波数の温度係数をゼロ近傍とすることができ、かつ誘電損失を小さくすることができる。
【0085】
上記の2MgO・SiO
2の添加効果を大きくするためには、未反応の原料成分を少なくすることが好ましい。具体的には、酸化マグネシウムと酸化ケイ素との混合物を調製する際は、マグネシウムのモル数がケイ素のモル数の2倍となるように、酸化マグネシウムと酸化ケイ素とを混合することが好ましい。
【0086】
(副成分)
次に、得られた誘電体磁器組成物の主成分の粉末と、誘電体磁器組成物の副成分の原料である亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、軟化点が570℃以下のガラスを、それぞれ所定量秤量した後、これらを混合して原料混合粉末とする。
【0087】
副成分の各原料の秤量は、完成後の誘電体磁器組成物において、各副成分の含有量が、主成分に対して上記した質量比となるように行う。混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0088】
原料混合粉末を、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜140℃の乾燥温度で12〜36時間程度乾燥させる。
【0089】
原料混合粉末を、後述する焼成温度(800〜1000℃)以下の温度、例えば700〜800℃で、1〜10時間程度仮焼する。このように焼成温度以下の温度で仮焼することによって、原料混合粉末中のフォルステライトが融解することを抑制できる。その結果、誘電体磁器組成物中に、フォルステライトを結晶の形で含有させることができる。
【0090】
上記のように、各原料を混合する以前の時点と、各原料を混合して原料混合粉末とした後の時点と、計2回の仮焼及び粉砕を行うことによって、誘電体磁器組成物の主成分と副成分とを均一に混合でき、材質が均一な誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0091】
なお、ガラスの添加は、粉砕時に限定されるものではなく、仮焼前の混合時に行うようにしてもよい。
【0092】
粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行うことができる。例えば、純水、エタノール等を用いてボールミルにより行うことができる。粉砕時間は例えば4〜24時間程度とすればよい。粉砕した粉末の乾燥は100〜200℃、好ましくは120〜140℃の処理温度で12〜36時間程度とすればよい。
【0093】
上記のようにして得られた粉末に対して、ポリビニルアルコール系、アクリル系、エチルセルロース系等の有機バインダーを混合した後、所望の形状に成形を行い、成形物を焼成して焼結する。成形は、シート法や印刷法等の湿式成形や、プレス成形等の乾式成形でもよく、所望の形状に応じて成形方法を適宜選択することができる。また、焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気下で行うことが好ましく、焼成温度は内部電極として用いるAg又はAgを主成分とする合金等の導体の融点以下であることが好ましい。焼成温度としては、具体的には、800〜1000℃がより好ましく、850〜920℃が更に好ましく、860〜900℃がより一層好ましい。
【0094】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、例えば、高周波デバイスの一種である多層型デバイスの材料として好適に用いることができる。多層型デバイスは、内部にコンデンサ、インダクタ等の誘電デバイスが一体的に作り込まれた(一体に埋設された)複数のセラミック層からなる多層セラミック基板から製造される。この多層セラミック基板は、互いに誘電特性が異なる誘電体磁器組成物から形成されるグリーンシートにスルーホールを形成した後に、グリーンシートを複数積層し、これらを同時焼成して製造できる。
【0095】
多層型デバイスの製造においては、本実施形態の誘電体磁器組成物に、アクリル系、又はエチルセルロース系等の有機バインダー等を混合した後、得られた混合物をシート状に成形してグリーンシートを得る。グリーンシートの成形方法としては、シート法等の湿式成形法を用いる。
【0096】
次に、得られたグリーンシートと、これとは誘電特性が異なる他のグリーンシートとを、その間に内部電極となる導体材のAg系金属を配した状態で交互に複数積層し、この積層体を所望の寸法に切断してグリーンチップを形成する。得られたグリーンチップに脱バインダー処理を施した後に、グリーンチップを焼成して、焼結体を得る。焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが好ましい。また、焼成温度は、内部導体として用いるAg系金属の融点以下であることが好ましく、具体的には、800〜1000℃であることが好ましく、870〜940℃であることがより好ましい。得られた焼結体に外部電極等を形成することにより、Ag系金属からなる内部電極を備える多層型デバイスを製造できる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により一層詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
[実施例1〜24]
誘電体磁器組成物の主成分組成及び副成分組成が表1に示す値となるようにそれぞれの含有量を変化させて実施例1〜24、および比較例1〜14の誘電体磁器組成物を作製した。そして、得られた各誘電体磁器組成物を用いて測定用試料をそれぞれ作製し、これらの低温焼結性として密度、化学耐久性として酸に対する溶出量、及び誘電特性としてQ値の評価を行った。これらの結果を表1にまとめて示す。誘電体磁器組成物の作製方法、測定用試料の作製方法、及び評価方法は、表1に示した条件を変化させた以外は、全て以下に例として示す実施例1における場合と同様とした。なお、本実施例では以下の低軟化点ガラスを用いた。
ガラス:SiO
2−BaO−CaO−Li
2O系結晶化ガラス(ガラスと呼ぶ。)
【0099】
(実施例1)
組成式が{α(xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2)+β(2MgO・SiO
2)}で表される成分を含み、α=55(体積%)、β=45(体積%)、x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)、z=66.1(モル%)である主成分と、主成分100質量%に対して、4.0質量%であるZnOと、1.5質量%であるB
2O
3と、4.5質量%であるガラスと、を副成分として含有する誘電体磁器組成物を、以下に示す手順で作製した。
【0100】
まず、主成分の原料であるBaCO
3、Nd(OH)
3及びTiO
2を、これらを仮焼した後に得られるxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2におけるモル比x、y及びzが上記の値となるようにそれぞれ秤量した。秤量した原料に純水を加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて湿式混合した後、120℃で乾燥して、粉末を得た。この粉末を、空気中で、4時間、1200℃で仮焼して、組成式がxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2(x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)、z=66.1(モル%))で表されるxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物を得た。このxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物に純水を加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて粉砕した後、120℃で乾燥し、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物の粉末を製造した。
【0101】
次に、主成分の他の原料であるMgO及びSiO
2を、マグネシウム原子のモル数がケイ素原子のモル数の2倍となるようにそれぞれ秤量した。秤量した原料に純水を加え、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて湿式混合した後、120℃で乾燥して、粉末を得た。この粉末を、空気中で、3時間、1200℃で仮焼して、フォルステライト結晶(2MgO・SiO
2)を得た。このフォルステライト結晶に純水を加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて粉砕した後、120℃で乾燥して、フォルステライト結晶の粉末を製造した。
【0102】
そして、次に、得られたxBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物の粉末と、フォルステライト結晶の粉末とを、55:45の体積比率で混合した混合物に対して、誘電体磁器組成物の副成分の原料であるZnO、B
2O
3、及びガラスをそれぞれ配合した後、更にエタノールを加えて、スラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて湿式粉砕した後、100℃で乾燥して、実施例1の誘電体磁器組成物の粉末を得た。
【0103】
なお、xBaO・yNd
2O
3・zTiO
2系化合物の粉末と、フォルステライト結晶の粉末との混合物に対するZnO、B
2O
3、及びガラスの各配合量は、完成後の誘電体磁器組成物において、主成分100質量%に対して、ZnOが4.0質量%、B
2O
3が1.5質量%、ガラスが4.5質量%それぞれ含有されるように調整した。
【0104】
実施例1の誘電体磁器組成物の粉末に、アクリル樹脂バインダーを添加して造粒した。密度、及び溶出量を測定するためのサンプルは、上記誘電体磁器組成物の造粒粉1.75gを、φ12mmの金型を用いて12kNでハンドプレスし、これを900℃の焼成温度で2時間焼成することで得た。
【0105】
(密度測定)
実施例1の測定用試料の密度は、組成から計算される理論密度に対して、焼結後の寸法、および重量から計算した密度の比率で評価を行った。この結果を表1、および
図2に示す。
【0106】
(溶出量測定)
実施例1の測定用試料の溶出量は、得られた測定用試料を、10体積%の硫酸水溶液に2時間浸漬し、浸漬前後の重量変化を測定した。副成分の添加量に対する重量減少を溶出量とした。この結果を表1、および
図3に示す。
【0107】
(誘電特性測定)
実施例1の測定用試料の誘電特性を示すQ値及び比誘電率εrを、両端短絡型誘電体共振器法と呼ばれる方法に従って測定した。測定周波数は5(GHz)〜10(GHz)の範囲であった。これらの測定結果を併せて表1に、εrの測定結果を
図4に、Q値の測定結果を
図5に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
表1によれば、実施例1〜24はいずれも密度が90%以上であり、すなわち900℃の焼成により焼結しており、かつ実施例1〜7は溶出量が15%以内であった。また実施例1〜5、及び16〜24はQ値が400以上であった。一方、比較例1〜14は、溶出量が15%以上、誘電特性はQ値が300以下、または測定可能範囲外であった。