(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上下方向に延設されるとともに上部が車体側に枢支され、下端側が車両前後方向に回動可能とされたアーム部及び該アーム部の下端部に設けられるペダル踏面を有するペダルと、
一端部で片持ち支持された棒状の部材で構成され、前記車体に前方から外力が作用した際の前記ペダルの後退時に、前記アーム部に当接して前記アーム部を車両前方側に回動させることで、前記ペダル踏面の後退を抑制する後退抑制部材と、
前記後退抑制部材の車両後方側に位置して前記ペダルの後退時に前記後退抑制部材と当接して前記後退抑制部材を支持する補強部材と、
前記補強部材から車両前方に向かって突設される規制部材とを備え、
前記後退抑制部材は、前記アーム部の車両後方側で車幅方向に延設され、前記ペダルの後退時に前記アーム部と当接する当接部と、該当接部の前記一端部側の端部から上下方向に延設され、前記ペダルの後退時に前記補強部材の前面と当接する腕部とを有し、
前記規制部材は、車幅方向において、前記腕部から見て前記当接部側に位置し、前記ペダルの後退時に前記腕部の車幅方向における前記当接部側への移動を規制する
ことを特徴とする、ペダル後退抑制構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フロアブレースは一般的に上下の動きを規制するための部材であるため、衝突時に車体前部に搭載された装置(例えばエアコンユニット等)が後方に押し込まれた際にフロアブレースにぶつかると、大きな荷重がフロアブレースに作用することになって長手部分の断裂や結合部分の分離が起こり得る。このような場合、上記の特許文献1の構造では、後退防止体の片方の端部を支持するものがなくなってしまうため、ペダル踏面の後退を十分に防止することができない。
【0006】
また、上記の特許文献1の構造のように、後退防止体の両端部をそれぞれ異なる部材に固定する場合、二部材に跨って固定箇所を設ける必要があるため取り付け作業が煩雑になる。また、固定箇所を二箇所にすることは重量増やコスト増に繋がるおそれもある。
【0007】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、簡素な構成で、車両前方から外力が作用した時にペダル踏面の後退を抑制することができるようにした、ペダル後退抑制構造を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ここで開示するペダル後退抑制構造は、上下方向に延設されるとともに上部が車体側に枢支され、下端側が車両前後方向に回動可能とされたアーム部及び該アーム部の下端部に設けられるペダル踏面を有するペダルと、一端部で片持ち支持された棒状の部材で構成され、前記車体
に前方から
外力が作用した際の前記ペダルの後退時に、前記アーム部に当接して前記アーム部を車両前方側に回動させることで、前記ペダル踏面の後退を抑制する後退抑制部材と、前記後退抑制部材の車両後方側に位置して前記ペダルの後退時に前記後退抑制部材と当接して前記後退抑制部材を支持する補強部材と、
前記補強部材から車両前方に向かって突設される規制部材とを備える。
前記後退抑制部材は、前記アーム部の車両後方側で車幅方向に延設され、前記ペダルの後退時に前記アーム部と当接する当接部と、該当接部の前記一端部側の端部から上下方向に延設され、前記ペダルの後退時に前記補強部材の前面と当接する腕部とを有する。
前記規制部材は、車幅方向において、前記腕部から見て前記当接部側に位置し、前記ペダルの後退時に前記腕部の車幅方向における前記当接部側への移動を規制する。
【0010】
(
2)また、前記後退抑制部材は、前記当接部の前記腕部側と反対側の端部に設けられた鉤状のフック部を有することが好ましい。つまり、前記後退抑制部材は、前記当接部と前記腕部と前記フック部とを有していることがより好ましい。
【0011】
(
3)
前記規制部材は、前記補強部材の車両前面
に突設されることがより好ましい。
(
4)また、前記後退抑制部材の前記腕部は、前記ペダルの後退時に前記補強部材の下角部に当接する部分に、車両後方に向かって曲げられた折れ部を有することが好ましい。
【0012】
(
5)また、前記車体に固定されて前記アーム部の上部を回動自在に支持するペダル支持部材を備え、前記アーム部は、前記下端部が車両後方に向かうように湾曲されたくの字型に形成され、前記当接部は、前記ペダル支持部材よりも下方で、かつ前記アーム部のくの字型の凹み部よりも上方に配置されることが好ましい。
【0013】
(
6)また、前記後退抑制部材の前記一端部は、デッキクロスメンバに固定されることが好ましい。このとき、例えば固定用のブラケットを介して固定されていてもよい。
(
7)また、前記補強部材は、ステアリング装置のECU(電子制御装置;Electric Control Unit)であり、該ECUは高剛性の部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
開示のペダル後退抑制構造によれば、車体の前方からの外力によるペダルの後退時(後方に変位した時)に、ペダルのアーム部を後退抑制部材に当接させてアーム部を車両前方側に回動させることができるため、ペダル踏面の後退を抑制することができる。
さらに、後退抑制部材の車両後方側に補強部材が設けられているため、ペダルの後退時に後退抑制部材がアーム部に押されて後退した場合に、後退抑制部材が補強部材に当接する。これにより、後退抑制部材が補強部材に当接して支持されるため、後退抑制部材の後退が阻止され、ペダル踏面の後退抑制を補強部材により補助することができる。これらによって、運転者の足を適切に保護することができる。
【0015】
なお、開示のペダル後退抑制構造では、後退抑制部材が一端部で片持ち支持された棒状の部材で構成されているため、後退抑制部材の一端部を外力の影響を直接受けにくい車体部分に固定すれば、例えば門柱のように衝突時に切れてしまうおそれがなく、確実に後退抑制部材の機能を発揮させることができる。さらに、後退抑制部材は一端部で片持ち支持されるので、固定箇所は一箇所でよく、二箇所で固定する従来構造に比べて構成を簡素にすることができるとともに、重量増やコスト増を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の説明では、車両の進行方向を前方、逆側を後方とし、前方を基準に左右を定める。また、重力の方向を下方とし、その逆を上方として説明する。ここでは、クラッチペダルにペダル後退抑制構造が適用された場合を例示する。
【0018】
[1.全体構造]
図1及び
図2に示すように、車両1には、車体の一部であって車室の前面を形成するダッシュパネル2が設けられる。ダッシュパネル2は、車両1の左右に立設されたフロントピラー3の間に立設される。ダッシュパネル2の前方には図示しないエンジンルームが設けられ、ダッシュパネル2の後方には左右のフロントピラー3に架設されたデッキクロスメンバ4が設けられる。デッキクロスメンバ4は、車両1の車体前部に左右方向(以下、車幅方向という)に延在された高剛性のパイプ部材である。
【0019】
車両1の車幅方向中間部には、デッキクロスメンバ4とフロアパネル5とを連結する門柱6が立設される。門柱6は、上端部6aがデッキクロスメンバ4の車幅方向中間部に接続され、下端部6bがフロアパネル5(ここではバックボーンリンフォース)に接続され、上下方向に延設された溝型の部材である。つまり門柱6は、デッキクロスメンバ4の上下方向の動きを規制するものである。この門柱6とダッシュパネル2との間の空間には図示しないエアコンユニットが搭載され、エアコンユニットを支持するブラケット(図示略)の一つが門柱6に締結される。
【0020】
車両1の車幅方向中間部であって門柱6よりも右側(すなわち、運転席側)には、ステアリング装置10が設けられる。ステアリング装置10は、ステアリングシャフト11の周囲を覆うステアリングコラム12が、デッキクロスメンバ4に固定されたコラムブラケット13に締結されることでデッキクロスメンバ4に支持される。ステアリング装置10は、電動式のパワーステアリング装置であり、以下EPS10と呼ぶ。
【0021】
ここではEPS10は、電子制御を行う電子制御装置(Electric Control Unit,以下、EPS_ECUという)14,操舵をアシストするアシストモータ15,ハンドルを回す力(トルク)を検出するトルクセンサ(図示略)等がステアリングコラム12に配置され、一体化されたものである。EPS_ECU(補強部材)14は、ステアリングコラム12のハウジング部16の左側にECUブラケット17を介して固定された高剛性の部材である。アシストモータ15は、ハウジング部16の左側でEPS_ECU14の上方に結合されている。
【0022】
ECUブラケット17は、板状の部材が屈曲形成されたものであり、ハウジング部16の前面に沿う第一面17a,EPS_ECU14の右側面に沿う第二面17b〔
図3(c)参照〕,EPS_ECU14の前面に沿う第三面17cを有する。第一面17aはハウジング部16の前面にボルトで締結され、第二面17bはEPS_ECU14の右側面にねじ止めされる。これにより、EPS_ECU14とハウジング部16とが結合される。
【0023】
第三面17cの左端部(すなわち、EPS_ECU14の前面の左端部)には、EPS_ECU14の前面から前方に向かって突設された突起部(規制部材)17dが設けられる。突起部17dは、第三面17cの左端部から前方に向かって屈曲形成されており、EPS10のハーネス(図示略)を束ねるクリップ17e用の座面である。
【0024】
車両1の運転席側の車体前部には、右側から順にアクセルペダル7,ブレーキペダル8及びクラッチペダル20が設けられる。本実施形態に係るペダル後退抑制構造は、これらのペダルのうち最も左側に位置するクラッチペダル20に適用される。以下、
図3(a)〜(c)を加えて説明する。クラッチペダル20は、上下方向に延設され、下端部21bが後方に向かうように湾曲したアーム部21と、アーム部21の下端部21bに設けられたペダル踏面22とを有する。
【0025】
アーム部21は、上部21aがサポートメンバ(ペダル支持部材)23を介して車体側に枢支され、下端部21bが上部21aよりも後方に位置し、側面視でくの字型に形成されている。ここではアーム部21のくの字型に曲がった部分の湾曲内側の凹んだ部分(以下、凹み部という)21dは、アーム部21の長手方向の略中央に設けられており、アーム部21のうち車室側に形成されている。なお、アーム部21の上部21aとは、少なくとも凹み部21dよりも上方側を意味する。
【0026】
アーム部21は、
図3(c)に示すように、下端部21bが上部21aよりも右側に位置するように湾曲形成されている。アーム部21の下端部21b側は、上部21aに設けられた枢支軸21cを中心に前後方向に回動可能になっている。枢支軸21cは、車幅方向に水平に延在している。
【0027】
サポートメンバ23は、アーム部21の上部21aを回動自在に支持するアッパサポートメンバ23Uと、アッパサポートメンバ23Uを下方から支持することでクラッチペダル20を支持する二つのロアサポートメンバ23Lとから構成される。
【0028】
アッパサポートメンバ23Uは、上面視でハット型に形成された部材であり、二つのフランジ部23Uaがダッシュパネル2の後面に固定されて支持される。フランジ部23Uaから後方に延在する対向した二つの対向面23Ufは、後端が下側に位置するように斜めに設けられる。この対向面23Ufには、アーム部21の上部21aが枢支される枢支軸21cが挿通される孔部が形成される。対向面23Ufと直交する後面23Urは、アーム部21の上部21aよりも後方に位置する。つまり、クラッチペダル20のアーム部21は、上部21aがアッパサポートメンバ23Uの内側に位置するように支持される。
【0029】
ロアサポートメンバ23Lは、それぞれ、一端部23Laがダッシュパネル2の後面に固定され、他端部23Lbがアッパサポートメンバ23Uの対向面23Ufの孔部23Uh近傍に接続される。
ペダル踏面22は、運転者が足を乗せて踏み込み、クラッチ操作を行う部分であり、踏面が上方を向くように斜めに設けられる。
【0030】
[2.ペダル後退抑制構造]
次に、本実施形態に係るペダル後退抑制構造について説明する。
図3(a)〜(c)は、本ペダル後退抑制構造に関連する部分を抜粋して図示したものであり、図中二点鎖線はEPS_ECU14及びECUブラケット17を模式的に示したものである。本ペダル後退抑制構造は、車両1が前方の物体(他車両等)と衝突した場合のように、車体に車両前方から外力が作用した際にクラッチペダル20のペダル踏面22の後退を抑制する棒状の後退抑制部材30を備える。
【0031】
後退抑制部材30は、アーム部21の上部21aよりも後方に設けられ、クラッチペダル20のペダル踏面22の後退を後方から抑制するように機能する。後退抑制部材30は、丸棒が曲げ加工されたものであり、一端部30aのみが車体側に固定されて片持ち支持されている。ここでは、一端部30aは、アーム部21の上端部21eよりも上方で、アーム部21の上部21aよりも右側に位置し、固定用ブラケット40に溶接により接合されている。なお、この固定用ブラケット40はコラムブラケット13にボルト(図示略)で締結される。つまり、後退抑制部材30の一端部30aは、固定用ブラケット40を介してデッキクロスメンバ4に固定される。なお、後退抑制部材30は、クラッチペダル20の後退時にクラッチペダル20を構成する部品と干渉しない位置に配置されていればよく、一端部30aの位置は上記したものに限定されない。
【0032】
後退抑制部材30は、上下方向に延設された腕部31と、アーム部21の後方に車幅方向に略水平に延設された当接部32と、当接部32の一端部30a側の端部(すなわち右端部)32aに設けられた曲げ部33と、当接部32の曲げ部33と逆側の端部(すなわち左端部)32bに設けられたフック部34と、腕部31に設けられた折れ部35とを有する。
【0033】
腕部31は、一端部30aと曲げ部33との間に延設された部分であり、
図3(b)に示すように、アーム部21の上部21aよりも後方に配置される。また、
図3(a),(c)に示すように、腕部31はアッパサポートメンバ23Uの右側の対向面23Ufから右方向に離隔して配置される。つまり腕部31は、上面視及び後面視において、アッパサポートメンバ23Uと隙間をあけて配置される。さらに腕部31は、EPS_ECU14の前面の前方に配置され、ECUブラケット17の突起部17dの右側に配置される。
【0034】
当接部32は、クラッチペダル20の後退時にアーム部21の長手方向中間部が当接する部分である。ここでは当接部32は、その車幅方向長さがアッパサポートメンバ23Uの二つの対向面23Ufの離隔する距離(間隔)よりも長くなるように形成されているが、当接部32の車幅方向長さはこれに限られず、部品のばらつきや振動等でアーム部21と干渉しない程度の隙間が確保されていればよい。
【0035】
当接部32は、
図3(a)に示すように、アッパサポートメンバ23Uの後面23Urから後方に離隔して配置される。当接部32は、クラッチペダル20が斜め後方に変位してきた場合であっても確実にアーム部21を当接させるために、車幅方向に略水平に延設されている。つまり、車両1が正面衝突やオフセット衝突した場合、クラッチペダル20が真っ直ぐ後方へ変位することは少なく、斜め後方(特に車体中央寄り)に変位することが多いが、このような場合であってもアーム部21は当接部32に当接する。
【0036】
また、当接部32は、
図3(c)に示すように、アッパサポートメンバ23Uの後面23Urの下端よりも下方であって、アーム部21の凹み部21dよりも上方に配置される。言い換えると、当接部32は、クラッチペダル20を車体側に枢支しているアッパサポートメンバ23Uの下方で、かつ、部品ばらつきや振動,ペダル後退時に、アッパサポートメンバ23Uが接触しない隙間を確保可能なできる限り上方に配置される。
【0037】
このように当接部32は、腕部31と同様、上面視及び後面視においてアッパサポートメンバ23Uと隙間をあけて配置されており、後退抑制部材30の腕部31及び当接部32は、クラッチペダル20の後退時にサポートメンバ23を避けた位置に設けられているともいえる。
【0038】
なお腕部31は、クラッチペダル20の後退時に、アーム部21が当接部32に当接し、当接部32を後方へ変位させることで後方へ変位する。ここで、腕部31の延設方向中間部の後方にはEPS_ECU14が配置されているため、クラッチペダル20の後退により腕部31は後方のEPS_ECU14に当接する。EPS_ECU14は、前面に当接する腕部31を支持して腕部31の後退を阻止することでペダル踏面22の後退抑制を補助する補強部材として機能する。また、腕部31の延設方向中間部の左側には突起部17dが配置されているため、クラッチペダル20の後退時に腕部31の左方向の移動(左方向のずれ)を規制する規制部材として機能する。
【0039】
曲げ部33は、クラッチペダル20の後退が進行したときに、伸び変形をすることでアーム部21の後方へ変位(すなわち、アーム部21を後方へ押し込む力)を吸収するように機能する部分である。曲げ部33は、腕部31の下端部と当接部32の右端部32aとの間で湾曲して形成された部分であり、ここでは腕部31の下端部から後面視で略直角になるように左方向に曲げられている。つまり曲げ部33は、腕部31及び当接部32と同様、クラッチペダル20の後退時にサポートメンバ23を避けた位置に設けられる。
【0040】
フック部34は、クラッチペダル20の後退時に最終的にアーム部21を引っ掛けてペダル踏面22の後退を抑制する部分である。フック部34は、当接部32の左端部32bから湾曲して形成された角部34aと、角部34aと他端部30bとの間に前後方向に略水平に延びる延設部34bとを有する鉤状に形成されている。角部34aは、曲げ部33の車幅方向左側に略水平に配置されており、当接部32の左端部32bから略直角になるように前方に向かって曲げられた部分である。延設部34bは、角部34aの前端部からアーム部21の上部21aの後端縁よりも前方まで延設された部分である。
【0041】
折れ部35は、周囲の装置や部材(例えばEPS_ECU14やアシストモータ15等)との干渉を避けるために設けられた部分である。折れ部35は、クラッチペダル20の後退時にEPS_ECU14の下角部に当接する部分に曲げ形成されている。ここでは、折れ部35は腕部31の延設方向中間部に設けられており、折れ部35の上側の腕部31よりも下側の腕部31の方が後方に位置するように(つまり、下端が後方に向かうように)曲げられている。この折れ部35は、クラッチペダル20の後退に伴って腕部31が後方へ変位し、EPS_ECU14に当接した後の曲げ中心(曲がりの起点)となる部分であり、クラッチペダル20の後退が進行した際に、一端部30aに代わって後退抑制部材30を支持する支点となる。
【0042】
腕部31には、折れ部35の上方に逃げ部36が設けられる。逃げ部36は、周囲の装置や部材(例えばEPS_ECU14やアシストモータ15等)との干渉を避けるために設けられている。
以上をまとめると、後退抑制部材30は、上方に位置する一端部30aから下方に位置する他端部30bまで以下のように曲げ加工されている。
図3(a)〜(c)に示すように、後退抑制部材30は、一端部30aから腕部31が斜め前方に延び、逃げ部36において略鉛直方向に向かって曲げられ、さらに折れ部35において斜め後方に向かって曲げられる。そして、腕部31の下端部に位置する曲げ部33において左方向へ略水平に曲げられ、当接部32が略水平方向に延びる。さらに当接部32の左端部32bに位置するフック部34の角部34aにおいて前方へ略水平に曲げられ、延設部34bの前端部(すなわち他端部30b)がアーム部21の上部21aの後端縁よりも前方に配置される。
【0043】
[3.作用]
次に
図4(a)〜(d)を用いて、車両1の車体に前方から外力が作用した場合の動作を説明する。車両1が前方の物体(他車両,電柱,建物等)と衝突すると、ダッシュパネル2がエンジンルーム内の装置(例えばエンジン)に押されて後方へ変位する。これにより、ダッシュパネル2に支持されたサポートメンバ23も後方へ押し込まれ、サポートメンバ23に枢支されたクラッチペダル20も後退する。
【0044】
図3(a)〜(c)に示す状態からクラッチペダル20が後退すると、まずアーム部21が後退抑制部材30の当接部32に当接する。なお、このとき後退抑制部材30は、サポートメンバ23によって変形等の影響が与えられることはない。当接部32に当接したアーム部21は車両前方側に回動し、ペダル踏面22の後退が抑制される。
【0045】
アーム部21がさらに後退すると、後退抑制部材30が後方へ押され、後退抑制部材30の車両後方側に位置するEPS_ECU14の前面に腕部31が当接する。EPS_ECU14はステアリングコラム12に固定されており、前方から作用する力の影響を直接受けにくいため、EPS_ECU14に当接した腕部31はここで停止する。つまりEPS_ECU14は、後退抑制部材30に当接して後退抑制部材30を支持し、後退抑制部材30の後退を阻止することでペダル踏面22の後退抑制を補助する。
【0046】
クラッチペダル20の後退が進むと、
図4(a),(b)に示すように、EPS_ECU14の下角部に当接した折れ部35が曲げ中心となって腕部31の下端部がより後方へ変位する。これにより、折れ部35が一端部30aに代わって後退抑制部材30を支持する支点となり、これ以降の変形では折れ部35よりも他端部30b側が変形する。なお、EPS_ECU14の前面に設けられた突起部17dにより腕部31の左方向の移動が規制されているので、腕部31がEPS_ECU14の前面から外れることが防止され、確実にEPS_ECU14の前面に当接される。
【0047】
クラッチペダル20がさらに大きく後退し、後退抑制部材30の一端部30aから当接部32までの距離が増大した場合は、
図4(c),(d)に示すように、アーム部21が当接部32に当接しながら左方向へ移動する。アーム部21が移動することで当接部32から外れるおそれがあるが、ここでは移動方向の先にフック部34が設けられているため、アーム部21はフック部34に引っ掛かって停止する。つまり、ここでクラッチペダル20のペダル踏面22の後退が抑制される。
また、さらなるクラッチペダル20の後退があっても、曲げ部33が伸び変形することで、ペダル踏面22の後退を抑制し続けるため、運転者の足が適切に保護される。
【0048】
[4.効果]
したがって、本実施形態に係るペダル後退抑制構造によれば、車体に前方から外力が作用した際のクラッチペダル20の後退時に、クラッチペダル20のアーム部21を後退抑制部材30に当接させてアーム部21を車両前方側へ回動させることができるため、クラッチペダル20のペダル踏面22の後退を抑制することができる。
【0049】
さらに、後退抑制部材30の車両後方側にEPS_ECU14が設けられているため、クラッチペダル20の後退時に後退抑制部材30がアーム部21に押されて後退した場合に、後退抑制部材30がEPS_ECU14に当接する。これにより、後退抑制部材30がEPS_ECU14に当接して支持されるため、後退抑制部材30の後退が阻止され、ペダル踏面22の後退抑制をEPS_ECU14により補助することができる。これらによって、運転者の足を適切に保護することができる。
【0050】
なお、本後退抑制構造では、後退抑制部材30が一端部30aで片持ち支持された棒状の部材で構成されているため、後退抑制部材30の一端部30aを外力の影響を直接受けにくい車体部分に固定すれば、後退抑制部材30の機能が損なわれることを回避することができる。例えば特許文献1の構造のように、後退防止体の一端部が門柱に固定されている場合は、車両衝突時に後退してきたエアコンECUに押されて門柱が切れてしまうおそれがあり、後退防止体が機能しなくなることがある。これに対して、本ペダル後退抑制構造であれば、このような事態を防ぐことができる。さらに、後退抑制部材30は一端部30aで片持ち支持されるので、固定箇所は一箇所でよく、二箇所で固定する従来構造に比べて構成を簡素にすることができるとともに、重量増やコスト増を抑制することができる。
【0051】
また、後退抑制部材30は、アーム部21の車両後方側で車幅方向に延設された当接部32を有するため、後退してきたアーム部21をこの当接部32に当接させ、アーム部21を車両前方側に回動させて、ペダル踏面22の後退を抑制することができる。さらに、クラッチペダル20が斜め後方に変位してきた場合であっても、アーム部21を当接部32に当接させることができる。また後退抑制部材30は、当接部32の一端部30a側の端部32aから上下方向に延設された腕部31を有するため、ペダル後退時にEPS_ECU14と確実に当接することができる。
【0052】
また、後退抑制部材30は、当接部32の腕部31側と反対側の端部32bに鉤状のフック部34を有するため、当接部32に当接しながら移動したアーム部21を引っ掛けることができ、ペダル踏面22の後退を抑制することができる。
【0053】
また、EPS_ECU14の前面に前方に向かって突設された突起部17dが設けられ、クラッチペダル20の後退時に腕部31の左方向の移動が規制されるため、クラッチペダル20が斜め後方に変位して後退抑制部材30も斜め後方に移動した場合であっても、腕部31がEPS_ECU14の前面から外れることなく当接されるので、より確実にクラッチペダル20の後退を抑制することができる。
【0054】
また、後退抑制部材30が、クラッチペダル20の後退時にサポートメンバ23を避けた位置に設けられているため、クラッチペダル20が後退してきた際に、後退抑制部材30をサポートメンバ23からの影響を受けさせずに、確実にアーム部21に当接させることができる。これにより、クラッチペダル20のペダル踏面22の後退を確実に抑制することができる。
【0055】
また、後退抑制部材30の腕部31には、クラッチペダル20の後退時にEPS_ECU14の下角部に当接する部分に折れ部35が設けられており、クラッチペダル20の後退時以外(つまり、通常の状態)では後退抑制部材30とEPS_ECU14との間に空間を設けることができる。これにより、通常の状態で後退抑制部材30とEPS_ECU14とが干渉(接触)しないようにすることができる。さらに、後退抑制部材30とEPS_ECU14との間に設けられた空間によって、車体前部に配置される装置や部材等の配置のばらつきを解消することができる。
【0056】
また、クラッチペダル20の後退時では、この折れ部35がEPS_ECU14の下角部に当接するため、後退抑制部材30の曲げ変形の起点にすることができる。折れ部35で曲げ変形された後退抑制部材30は、その後は折れ部35を支点として変形することになる。これにより、後退抑制部材30に力が作用する点(作用点)と支点(折れ部35)との距離が短くなり、後退抑制部材30に作用するモーメントを小さくすることができる。
【0057】
また、本実施形態では、後退抑制部材30の一端部30aが固定用ブラケット40を介してデッキクロスメンバ4側にボルトで固定されるため、後退抑制部材30を必要とする車両にだけ後退抑制部材30を簡単に装備させることができる。さらには、一端部30aが固定されるデッキクロスメンバ4側には、ボルト締結用の孔部を形成するだけでよく、部品点数の増加を回避でき、コストを抑制することができる。また、車両衝突時における一端部30aの移動や変形を回避することができる。これにより、後退抑制部材30の機能を十分に発揮させることができる。
【0058】
また、当接部32がサポートメンバ23よりも下方で凹み部21dよりも上方に配置されているため、部品のばらつき,振動及びペダル後退時に、後退抑制部材30とサポートメンバ23とが接触しない隙間を確保することができる。これに加えて、クラッチペダル20のアーム部21が側面視でくの字型に形成されているため、クラッチペダル20の後退時に曲げ部33が伸び変形した後、フック部34がアーム部21の凹み部21dに引っ掛かりやすくなり、アーム部21を車両前方側へ回転させやすくすることができる。
【0059】
また、本実施形態では腕部31は、ペダル後退時に剛性の高いEPS_ECU14に当接するため、腕部31の後退はEPS_ECU14で確実に抑制される。また、EPS_ECU14はもともと車両に装備されている部品であり、これを後退抑制部材30の補強部材として流用することで、部品点数の増加を回避することができる。
【0060】
[5.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上記実施形態では、EPS_ECU14の前面に設けられた突起部17dによって腕部31の左方向への移動が規制されているが、例えばEPS_ECU14の前面の右端部にも前方に突出する規制部材を設けて、腕部31の車幅方向の移動を規制するように構成されていてもよい。
【0061】
また、後退抑制部材30の一端部30aはコラムブラケット13以外の部材に固定されていてもよい。例えば、固定用ブラケット40が直接デッキクロスメンバ4に固定されていてもよく、デッキクロスメンバ4以外の車体側の部材に固定されていてもよい。また、後退抑制部材30の一端部30aの固定方法はボルトに限らず、溶接等どのような方法であってもよい。
【0062】
さらに、後退抑制部材30の腕部31の長さや形状は上記したものに限られず、折れ部35や逃げ部36が形成されていないものや、さらに捻りや曲げ加工が加えられたものであってもよい。なお、後退抑制部材30は丸棒でなく角棒を曲げ加工したものであってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、後退抑制部材30の後方に配置されたEPS_ECU14をペダル後退時の補強部材として利用しているが、補強部材はEPS_ECU14に限られず専用の補強部材を設けてもよい。同様にECUブラケット17の突起部17dを規制部材として利用しているが、他の部材を利用してもよく、専用の規制部材を設けてもよい。
【0064】
また、クラッチペダル20の形状は特に限られず側面視でくの字型に形成されていないものであってもよい。さらにクラッチペダル20を支持するサポートメンバ23の構造も上記したものに限られない。
本ペダル後退抑制構造は、クラッチペダル20以外のアクセルペダル7及びブレーキペダル8に適用することも可能である。