(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、例えばロックスプリング106が応力許容限界を超えて使用され、あるいは疲労限界を上回る回数使用される等して折損すると、ロック部材103によるロアレール101に対するアッパレール102の移動係止が不安定になる可能性がある。従って、ロックスプリング106の折損時には、利用者に対し速やかに認知させることがより好ましい。
【0006】
本発明の目的は、両レールの相対移動を係止するようにロック部材を回動付勢するロックスプリングの折損を利用者に対し速やかに認知させることができる車両用シートスライド装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、幅方向に並設された一対のフランジを有し、これら両フランジの先端に複数の係止爪がそれぞれ形成された第1レールと、前記第1レールに対し相対移動可能に連結された第2レールと、幅方向に延びる軸線周りに前記第2レールに回動自在に連結され、前記係止爪の嵌入可能な係止部がそれぞれ形成され、回動に伴い前記係止部及び前記係止爪が嵌脱することで前記第1及び第2レールの相対移動を選択的に係止するロック部材と、前記相対移動を係止する側に前記ロック部材を回動付勢する一対の弾性部材とを備え、前記ロック部材に対し前記相対移動の係止を解除する操作力を伝達可能な操作部材とを備え、前記ロック部材は、前記第2レール及び前記ロック部材の一方に固定されて前記第2レール及び前記ロック部材の他方を軸支する支持軸にて幅方向に延びる軸線周りに前記第2レールに回動自在に連結されており、前記各弾性部材は、前記ロック部材の付勢方向とは逆方向に前記支持軸を付勢する軸付勢部を有し、前記相対移動の方向で前記軸付勢部を挟んで配置される両端部が前記ロック部材及び前記第2レールにそれぞれ係止されており、前記相対移動の方向における前記軸付勢部の片側において、前記両弾性部材の一方は、前記両弾性部材の他方よりも応力集中する応力集中部を有しており、前記第1レールには、前記支持軸から解放された該当の前記弾性部材の前記応力集中部と係合可能な係合部が前記相対移動の方向に複数並設されていることを要旨とする。
【0008】
同構成によれば、前記両弾性部材が応力許容限界を超えて使用され、あるいは疲労限界を上回る回数使用される場合、前記応力集中部を有する一方の前記弾性部材が前記応力集中部において破断する可能性が高くなる。そして、該当の前記弾性部材が前記応力集中部において破断すると、前記弾性部材は、前記支持軸から解放された前記応力集中部(破断部)が弾性復帰に伴って前記複数の係合部のいずれかと係合可能となる。これにより、前記応力集中部(破断部)に繋がる先端部の固定される前記第2レール又は前記ロック部材は、前記第1レールに対して前記相対移動の方向の移動が係止される。前記応力集中部(破断部)による移動係止は、前記操作部材の操作力では解除不能であるため、利用者は、遅くとも次回の前記操作部材の操作時に異常を認知することができる。
【0009】
一方、前記ロック部材は、破断していない(応力集中部のない)他方の前記弾性部材により、前記相対移動を係止する側に回動付勢されることで、前記ロック部材による前記相対移動の係止が不安定になることを抑制できる。
【0010】
なお、前記ロック部材又は前記第2レールに対する前記弾性部材の各端部の「係止」とは、「係合」及び「当接」の意味を含むものであって、前記弾性部材の少なくとも一方の端部が係合されていればよい。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シートスライド装置において、前記両弾性部材は、一方の先端において接続されたロックスプリングであることを要旨とする。
【0012】
同構成によれば、前記両弾性部材を前記ロックスプリングとして一体化したことで、部品点数を削減することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用シートスライド装置において、前記軸付勢部は、前記相対移動の方向における両側で前記支持軸に圧接する楔部であって、前記楔部が前記支持軸の片側に圧接する部位は、その接線方向が前記楔部が前記支持軸の反対側に圧接する部位の接線方向よりも前記楔部の付勢方向に対する傾斜角度が直角に近いことで前記応力集中部となることを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、前記応力集中部は、前記楔部が前記支持軸の両側に圧接する部位の両接線方向の前記傾斜角度の調整によって極めて簡易に設けることができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用シートスライド装置において、前記係合部は、前記第1レールを貫通する係合孔であることを要旨とする。
【0014】
同構成によれば、該当の前記弾性部材が前記応力集中部において破断する際、前記弾性部材は、前記支持軸から解放された前記応力集中部(破断部)が前記複数の係合孔のいずれかに嵌入することで、前記相対移動の方向の移動を係止する。このとき、前記係合孔に嵌入する前記応力集中部は、当該係合孔を通じて外部に露出するため、適宜の工具を用いて前記係合孔から前記応力集中部を押し出すことで、該応力集中部による前記相対移動の方向の移動係止を簡易に解除することができる。そして、前記応力集中部の破断した前記弾性部材を交換する際の作業性を向上させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用シートスライド装置において、前記ロック部材の使用範囲において、前記両弾性部材の一方は、前記両弾性部材の他方に比べて自由状態からの弾性変形量を大きくしたことで前記応力集中部となることを要旨とする。
【0016】
同構成によれば、前記応力集中部は、前記ロック部材の使用範囲における前記両弾性部材の自由状態からの弾性変形量の調整によって極めて簡易に設けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、両レールの相対移動を係止するようにロック部材を回動付勢するロックスプリングの折損を利用者に対し速やかに認知させることができる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両用シートスライド装置の一実施形態について説明する。なお、以下では、車両前後方向を「前後方向」という。
図1に示すように、車両フロア2には、第1レールとしてのロアレール3が前後方向に延在する態様で固定されるとともに、該ロアレール3には、第2レールとしてのアッパレール4がロアレール3に対し前後方向に相対移動可能に装着されている。つまり、本実施形態では、ロアレール3及びアッパレール4の長手方向(相対移動方向)は前後方向に一致している。
【0020】
なお、ロアレール3及びアッパレール4は、幅方向(
図1において紙面に直交する方向)でそれぞれ対をなして配設されており、ここでは前方に向かって左側に配置されたものを示している。そして、両アッパレール4には、乗員の着座部を形成するシート5が固定・支持されている。ロアレール3及びアッパレール4の相対移動は基本的に係止状態にあって、該係止状態を解除するための操作部材としての解除ハンドル6が設けられている。
【0021】
図2に示すように、ロアレール3は、板材からなり、幅方向両側で上下方向に延びる一対の側壁部11及びこれら側壁部11の基端(下端)間を連結する底壁部12を有する。そして、各側壁部11の先端(上端)には、幅方向内側に張り出して更に側壁部11の基端側に折り返されたフランジ13が連続形成されている。
【0022】
なお、ロアレール3の各フランジ13の長手方向中間部には、当該方向に所定の間隔をもってその先端(下端)から上向きに複数の切り欠き13aが形成されるとともに、各隣り合う切り欠き13a間に四角歯状の係止爪13bが形成されている。従って、複数の係止爪13bは、前記所定の間隔をもってロアレール3の長手方向に並設されている。
【0023】
一方、アッパレール4は、板材からなり、
図3(a)(b)に併せ示すように、ロアレール3の両フランジ13間で上下方向に延びる一対の内側フランジ14及びこれら内側フランジ14のロアレール3から離隔する基端(上端)間を連結する蓋壁部15を有する。そして、各内側フランジ14の先端(下端)には、幅方向外側に張り出して更に側壁部11及びフランジ13に包囲されるように折り返された外側フランジ16が連続形成されている。
【0024】
つまり、ロアレール3及びアッパレール4は、開口側が互いに突き合わされたU字状のレール断面をそれぞれ有しており、主としてフランジ13及び外側フランジ16との係合によって上下方向に抜け止めされている。これらロアレール3及びアッパレール4により形成されるレール断面は、矩形状をなすいわゆる箱形である。ロアレール3は、アッパレール4と協働して空間Sを形成する。
【0025】
なお、各外側フランジ16の下端部及びこれに対向する側壁部11の下端部間、並びに各外側フランジ16の上端部及びこれに対向する側壁部11の上端部間には、複数の球体状のボール20aが介設されている。各外側フランジ16の上端部は、ボール20aの外形に合わせて、上方に向かうに従い幅方向内側に向かうように円弧状に曲成されたガイド部16aを形成する。
【0026】
図2に示すように、各ボール20aは、前後方向(レール長手方向)に延在する樹脂製のホルダ20bに装着される。各ホルダ20bに装着されるボール20aは、ホルダ20bの前端部に配置された一対及び後端部に配置された一対の合計4個である。アッパレール4は、ロアレール3との間で各ボール20aを転動させる態様で、該ロアレール3に対し長手方向(前後方向)に摺動自在に支持されている。
【0027】
アッパレール4の両内側フランジ14には、それらの長手方向中間部において略四角形の内側開口14aがそれぞれ形成されるとともに、アッパレール4の両外側フランジ16の上端部(ガイド部16a)には、それらの長手方向における内側開口14aの位置に合わせて略四角形の外側開口16bがそれぞれ形成されている。これら内側開口14a及び外側開口16bは、幅方向に連通している。特に、外側開口16bは、上方にも開いた切り欠きとなっている。
【0028】
図3(b)に示すように、両内側フランジ14には、内側開口14aの車両前方で幅方向に連通する互いに同心の円形の軸取付孔14bがそれぞれ形成されている。そして、両内側フランジ14には、軸取付孔14bに両端部の挿入・固着された円柱状の支持軸22が支持されている。この支持軸22の中心線が幅方向に延びることはいうまでもない。
【0029】
そして、アッパレール4内には、両内側フランジ14の幅方向内側で、支持軸22によりロック部材としてのロックレバー30が回動自在に連結されている。すなわち、
図2に示すように、ロックレバー30は、前後方向に延在する板材からなる柄部31及び該柄部31の後端部下部に固着される板材からなるロックプレート39を備える。柄部31は、その長手方向に延在する一対の縦壁部32が幅方向に並設される態様で立設されている。これら両縦壁部32間の幅方向の距離は、アッパレール4の両内側フランジ14間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。そして、両縦壁部32は、各々の前端部において前後方向に並設された複数(3つ)の接続壁33により上端縁間が幅方向に接続されるとともに、各々の後端部において天板部34により上端縁間が幅方向に接続されている。
【0030】
両縦壁部32には、支持軸22(軸取付孔14b)と同等の高さ位置で前後方向に延在する長孔35がそれぞれ形成されている。この長孔35の短手方向(上下方向)の開口幅は、支持軸22の直径と同等に設定されている。両長孔35には、柄部31の両縦壁部32がアッパレール4の両内側フランジ14に幅方向に挟まれた状態で、両軸取付孔14bに両端部の固着される支持軸22が挿通される。これにより、柄部31は、長孔35の範囲で前後方向の移動が許容された状態でアッパレール4に対して上下方向に回動自在に連結されている。
【0031】
なお、柄部31は、両縦壁部32の前端から車両前方にそれぞれ延出する一対の差し込み形状部36,37を有する。これら差し込み形状部36,37は、縦壁部32前端よりも下方に縮小されるとともに、2枚重ねになるように互いの対向する幅方向に近付いて、ハンドル差し込み部38を形成する。
【0032】
一方、ロックプレート39は、両内側開口14a及び外側開口16bを貫通する態様で前後方向及び幅方向に広がっている。このロックプレート39には、縦壁部32よりも幅方向外側で前後方向に並設された複数(3個)の係止部としての係止孔39bが前記所定の間隔をもって形成されている。各係止孔39bは、
図3(a)に併せ示すように、フランジ13に対向して上下方向に開口しており、ロアレール3の長手方向で隣り合う複数(3個)の係止爪13bと合致可能な位置に配置されている。
【0033】
そして、
図3(a)に実線で示すように、ロックプレート39が上昇するようにロックレバー30が支持軸22周りに回動するとき、各係止孔39bに対応する係止爪13bを嵌入可能となっている。各係止孔39bに対応する係止爪13bを嵌入するとき、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動が係止される。一方、
図3(a)に2点鎖線で示すように、ロックプレート39が下降するようにロックレバー30が支持軸22周りに回動するとき、各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れるように設定されている。このとき、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止が解除される。
【0034】
なお、ロックプレート39の幅方向の寸法は、アッパレール4の両ガイド部16a間の幅方向の距離よりも大きく、且つ、ガイド部16aよりも下方の両外側フランジ16間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。従って、ロックプレート39は、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態で外側開口16bを幅方向に貫通するものの、前記相対移動係止の解除状態で外側フランジ16と干渉することはない。
【0035】
図2に示すように、アッパレール4内には、1本の線材からなるロックスプリング50が配置される。このロックスプリング50は、平面視において前側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の弾性部材としての延設部51を有するとともに、これら両延設部51の後端間を幅方向に接続する弓状の接続部52を有する。
図4(a)に併せ示すように、ロックスプリング50は、各延設部51の長手方向中間部を上方に湾出してなる軸付勢部としての楔部53を有するとともに、接続部52を上方に屈曲してなるレバー側係止端部54を有する。また、両延設部51の前端部は、レール側係止端部55を形成する。
【0036】
ロックスプリング50は、支持軸22よりも前側で柄部31の隣り合う接続壁33間から上方に両レール側係止端部55を突出させる態様で概ね柄部31内に配置されている。そして、ロックスプリング50は、支持軸22の上方から該支持軸22を両楔部53に挟入し、ロックプレート39の下方から該ロックプレート39にレバー側係止端部54を挿通・固定し、両レール側係止端部55をアッパレール4の蓋壁部15下面に当接させることで、アッパレール4等に支持されている。
【0037】
このとき、ロックスプリング50は、両延設部51の後端部においてロックプレート39が上昇する側、即ち各係止孔39bに対応する係止爪13bが嵌入する側にロックレバー30を回動付勢する。また、ロックスプリング50は、その反力で両楔部53において支持軸22を下方に、即ち長孔35の長手方向に交差する方向に付勢することで長孔35内での支持軸22の前後方向の移動を係止する。つまり、長孔35内での支持軸22の前後方向の位置は、ロックスプリング50の両楔部53によって付勢・保持されている。本実施形態では、支持軸22は、長孔35の前後方向中央部に付勢・保持されている。従って、各延設部51を梁と見なした場合、支持軸22の挟入される楔部53においてモーメントが最大になって、その発生する応力も最大になる。なお、ロックスプリング50は、各楔部53の後部を下方に湾出してなる湾出部53aを有する。
【0038】
ここで、楔部53の後側部(前後方向の片側)において、一方の延設部51(以下、「延設部51A」ともいう)は、他方の延設部51(以下、「延設部51B」ともいう)よりも応力集中する応力集中部56を有する。
【0039】
具体的には、
図6(a)から
図6(b)(c)への変化で示すように、延設部51Aは、延設部51Bに比べて自由状態及び取付状態間での弾性変形量が大きくされている。これは、延設部51Aに対して接続部52側を起点にひねりを加えることで実現している。そして、
図7(a)(b)に示すように、ロックレバー30の使用範囲(回動範囲)内では、ロックレバー30の使用状態が共通であれば、延設部51Aの変位及びこれに対応して延設部51Aに発生する応力が常に延設部51Bの変位及びこれに対応して延設部51Bに発生する応力よりも大きくなるように設定されている。つまり、ロックレバー30の使用範囲内では、延設部51Aは、その全体に亘って延設部51Bよりも応力が集中している。
【0040】
また、
図8に模式的に示したように、楔部53の後側部(前後方向の片側)が支持軸22に圧接する部位の接線方向をT1とし、楔部53の前側部(前後方向の反対側)が支持軸22に圧接する部位の接線方向をT2とする。この場合、楔部53の付勢方向(下方)Dに対する接線方向T1の傾斜角度θ1は、付勢方向Dに対する接線方向T2の傾斜角度θ2よりも直角に近くなるように設定されている。これにより、楔部53の後側部が支持軸22を下方に付勢する付勢力f1が、楔部53の前側部が支持軸22を下方に付勢する付勢力f2よりも大きくなる。
【0041】
詳述すると、楔部53が支持軸22から受ける荷重をWで表すとともに、楔作用による楔部53の後側部及び支持軸22の接触部における法線方向成分をfn1、楔部53の前側部及び支持軸22の接触部における法線方向成分をfn2で表すとする。また、法線方向成分fn1,fn2の水平方向成分をそれぞれft1,ft2で表すとする。この場合、力の釣り合いにより、以下の関係が成立する。
【0042】
W=f1+f2 …(1)
ft1=ft2 …(2)
また、
ft1=f1/tanθ1
ft2=f2/tanθ2
で表されることから、式(2)に代入して、
f2=f1・tanθ2/tanθ1
となる。
【0043】
従って、
W=f1・(tanθ1+tanθ2)/tanθ1
f1=W・tanθ1/(tanθ1+tanθ2)
f2=W・tanθ2/(tanθ1+tanθ2)
となって、θ1>θ2であればf1>f2となる。
【0044】
以上により、延設部51Aの楔部53の後側部で発生する応力の方が、その前側部で発生する応力よりも大きくなり、且つ、延設部51Bの楔部53の後側部で発生する応力よりも大きくなって、応力集中部56を形成する。
【0045】
ここで、
図4(b)に示すように、ロアレール3の底壁部12の幅方向中央部には、複数の係合部としての四角形の係合孔17が形成されている。これら係合孔17は、間隔をあけて前後方向に並設されている。各係合孔17は、延設部51Aに対向して上下方向に開口しており、支持軸22から解放された湾出部53a(応力集中部56)と合致可能な位置に配置されている。
【0046】
従って、
図5(a)(b)に示すように、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態で、延設部51Aが応力集中部56において破断すると、支持軸22から解放された応力集中部56(湾出部53a)が弾性復帰に伴って複数の係合孔17のいずれかと係合可能となる。これにより、応力集中部56に繋がる後端部の固定されるロックレバー30は、ロアレール3に対して前後方向の移動が係止される。
【0047】
図2に示すように、解除ハンドル6は、筒材を曲げ成形してなり、両アッパレール4の前側でこれらを幅方向に橋渡しするように成形されている。解除ハンドル6の後方に延出する先端部61は、幅方向に縮幅された扁平円筒形状を呈しており、ハンドル差し込み部38の幅方向の寸法よりも大きい幅方向の内径及びアッパレール4の両内側フランジ14間の幅方向の距離よりも小さい幅方向の外径を有する。先端部61は、アッパレール4の前側開口端から該アッパレール4内に挿入され、ハンドル差し込み部38が挿入されることでロックレバー30に連結される。従って、先端部61は、基本的に支持軸22周りにロックレバー30と一体回転する。なお、先端部61の下部には、幅方向に延在するスリット状の支持溝62が形成されている。
【0048】
アッパレール4内には、1本の線材からなるハンドルスプリング65が配置される。このハンドルスプリング65は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部66を有するとともに、これら両延設部66の前端間を幅方向に接続する接続部67を有する。
【0049】
図4(a)に示すように、ハンドルスプリング65は、ハンドル差し込み部38の挿入された先端部61(解除ハンドル6)の支持溝62に接続部67が嵌入され、支持軸22よりも車両後方でロックレバー30(柄部31)の接続壁33下面に両延設部66の後端部が当接されている。そして、先端部61は、支持溝62においてハンドルスプリング65により上昇するように付勢される。なお、レール側係止端部55よりも下方に配置されるハンドルスプリング65は、該当の接続壁33下面に向かって接続部67から車両後上方に延びる両延設部66がレール側係止端部55の後方で両延設部51を跨ぐことでロックスプリング50との干渉が回避されている。
【0050】
先端部61は、これに挿入されたハンドル差し込み部38の前端部が支持溝62(即ちハンドルスプリング65による先端部61の付勢位置)の車両前方で上下方向に揺動自在に支持され、支持溝62においてハンドルスプリング65により上方に付勢されることで、その姿勢が制御されている。
【0051】
そして、先端部61の前端が持ち上がると、該先端部61と共にロックレバー30がロックスプリング50の付勢力に抗して支持軸22周りにロックプレート39が下降する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れる側に回動する。
【0052】
ここで、解除ハンドル6の操作力が解放されているものとする。このとき、ロックスプリング50の付勢力により、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー30が支持軸22周りにロックプレート39が上昇する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bに嵌入する側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール4の相対移動が係止される。そして、アッパレール4に支持されるシート5の前後方向の位置が保持される。
【0053】
その後、解除ハンドル6がその前端を持ち上げるように操作されたとする。このとき、ロックスプリング50の付勢力に抗して、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー30が支持軸22周りにロックプレート39が下降する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れる側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止が解除される。そして、アッパレール4に支持されるシート5の前後方向の位置調整が可能になる。
【0054】
次に、本実施形態の動作について説明する。
ロックスプリング50(両延設部51)が応力許容限界を超えて使用され、あるいは疲労限界を上回る回数使用されて、
図5(a)に示すように、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態で、応力集中部56を有する一方の延設部51Aが応力集中部56において破断したとする。この場合、支持軸22から解放された応力集中部56(湾出部53a)が弾性復帰に伴って複数の係合孔17のいずれかと係合可能となる。これにより、応力集中部56(破断部)に繋がる後端部の固定されるロックレバー30は、ロアレール3に対して前後方向の移動が係止される。
【0055】
そして、この状態では、解除ハンドル6がその前端を持ち上げるように操作され、
図5(b)に示すように、ロックレバー30が支持軸22周りにロックプレート39が下降する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れる側に回動したとする。この場合、応力集中部56(湾出部53a)が該当の係合孔17と係合する状態のままであることで、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動も係止されたままである。従って、利用者は、シート5の前後方向の位置調整が不能であることで、異常を認知することができる。
【0056】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、延設部51Aが応力集中部56において破断すると、延設部51Aは、支持軸22から解放された応力集中部56(湾出部53a)が弾性復帰に伴って複数の係合孔17のいずれかと係合可能となる。これにより、ロックレバー30は、ロアレール3に対して前後方向の移動が係止される。応力集中部56(破断部)による移動係止は、解除ハンドル6の操作力では解除不能であるため、利用者は、遅くとも次回の解除ハンドル6の操作時に異常を認知することができる。
【0057】
一方、ロックレバー30は、破断していない(応力集中部のない)延設部51Bにより、前記相対移動を係止する側に回動付勢されることで、ロックレバー30による前記相対移動の係止が不安定になることを抑制できる。
【0058】
(2)本実施形態では、両延設部51A,51Bをロックレバー30として一体化したことで、部品点数を削減することができる。
(3)本実施形態では、応力集中部56は、楔部53が支持軸22の両側に圧接する部位の両接線方向T1,T2の前記傾斜角度θ1,θ2の調整によって極めて簡易に設けることができる。
【0059】
(4)本実施形態では、延設部51Aが応力集中部56において破断する際、延設部51Aは、支持軸22から解放された応力集中部56(破断部)が複数の係合孔17のいずれかに嵌入することで、前後方向の移動を係止する。このとき、係合孔17に嵌入する応力集中部56(湾出部53a)は、当該係合孔17を通じて外部に露出するため、適宜の工具を用いて係合孔17から応力集中部56を押し出すことで、該応力集中部56による前後方向の移動係止を簡易に解除することができる。そして、応力集中部56の破断した延設部51A(ロックスプリング50)を交換する際の作業性を向上させることができる。
【0060】
(5)本実施形態では、応力集中部56は、ロックレバー30の使用範囲における両延設部51A,51Bの自由状態からの弾性変形量(変位)の調整によって極めて簡易に設けることができる。
【0061】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記実施形態において、一対の延設部51A,51Bの前端間を幅方向に接続する接続部であってもよい。
【0062】
・前記実施形態において、一対の延設部51A,51Bは、互いに独立していてもよい。
・前記実施形態において、両レール側係止端部55をアッパレール4の蓋壁部15に係合(固定)してもよい。
【0063】
・前記実施形態において、延設部51Aの応力集中部は、楔部53が支持軸22に圧接する前側の部位に配置されていてもよい。この場合、両レール側係止端部55をアッパレール4の蓋壁部15に係合(固定)する必要がある。一方、レバー側係止端部54は、ロックプレート39に係合(固定)してもよいし、ロックプレート39下面に当接させるのみであってもよい。
【0064】
・前記実施形態において、応力集中部56(破断部)の係合する係合部は、下方に凹んだ上下方向に非連通の溝状であってもよい。
・前記実施形態において、ロックプレート39の係止孔39bに代えて、幅方向に開いた係止溝を採用してもよい。つまり、櫛歯状のロックプレートであってもよい。
【0065】
・前記実施形態において、アッパレール4及びロックレバー30と、支持軸22及び長孔35との配置関係は逆であってもよい。この場合、アッパレール4には、長孔35に代えて幅方向に非連通の溝状の長穴を採用してもよい。
【0066】
・前記実施形態において、適宜のブラケットを介してアッパレール4に間接的に支持軸22を固着してもよい。
・前記実施形態において、ロックレバー30(柄部31)に、長孔35に代えて丸孔を形成し、該丸孔に支持軸22を嵌挿してアッパレール4にロックレバー30を回動自在に連結してもよい。なお、アッパレール4及びロックレバー30と、支持軸22及び丸孔との配置関係は逆であってもよい。
【0067】
・前記実施形態において、ロアレール3は、複数枚の板材を溶接などで結合した構造であってもよい。また、ロアレール3の断面形状は一例であって、係止爪を有する一対のフランジを有するのであればよい。
【0068】
・前記実施形態において、アッパレール4は、複数枚の板材を溶接などで結合した構造であってもよい。また、アッパレール4の断面形状は一例である。
・前記実施形態において、柄部31及びロックプレート39の一体形成されたロックレバーであってもよい。
【0069】
・前記実施形態において、ロックスプリングとして、コイルばねや板ばねなどを採用してもよい。
・前記実施形態において、ロアレール3及びアッパレール4と、車両フロア2及びシート5の固定関係(即ち上下の配置関係)は逆であってもよい。この場合、車両フロア2側に設置されるロックレバー30の解除操作は、例えばケーブルなどを通じて適宜の操作部材から行ってもよい。
【0070】
・前記実施形態において、ロアレール3及びアッパレール4(車両用シートスライド装置)は、シート5に対し各1本ずつ配設される構成であってもよいし、各3本以上ずつ配設される構成であってもよい。
【0071】
・前記実施形態において、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の方向は、例えば車両幅方向であってもよい。