特許第5983303号(P5983303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983303
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】車両運動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   B60T8/1755 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-234083(P2012-234083)
(22)【出願日】2012年10月23日
(65)【公開番号】特開2014-83960(P2014-83960A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽介
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−046090(JP,A)
【文献】 特開2006−298211(JP,A)
【文献】 特開2001−088672(JP,A)
【文献】 特開2011−031851(JP,A)
【文献】 特開2010−247637(JP,A)
【文献】 特開平11−342838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60T 8/32−8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の実際の旋回状態である実旋回状態を表す実運動状態量を取得する実運動状態量取得手段と、
ドライバによるステアリング操作の状態を取得するステアリング状態検出手段と、
前記ステアリング操作の状態に基づいて、車両の目標とする旋回状態である目標旋回状態を表す目標運動状態量を演算する目標運動状態量演算手段と、
前記実運動状態量および前記目標運動状態量に基づいてオーバステア状態を検出する共に、該オーバステア状態のときに、前記実運動状態量が前記目標運動状態量に近づくように、ドライバの意思とは独立して制御対象輪に対して制動力を発生させるオーバステア制御を実行するオーバステア制御手段と、
一方向にステアリング操作が為された1操舵目に前記オーバステア制御が実行されたのち、2操舵目として前記一方向とは反対方向のステアリング操作が為されることで再び前記オーバステア制御が実行されたときに、前記1操舵目のオーバステア制御において発生させた前記制御対象輪の制動力を保持もしくは徐々に減少させる継続制御を実行する継続制御手段と、を備えていることを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
前記継続制御手段は、前記継続制御中に前記車両の前後加速度を検出する前後加速度検出手段で検出される前後加速度に基づいて、前記2操舵目のオーバステア制御のときに前記前後加速度検出手段にて検出される前後加速度が保持もしくは徐々に減少するように前記1操舵目のオーバステア制御において発生させた前記制御対象輪の制動力を保持もしくは徐々に減少させることを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項3】
前記継続制御手段は、前記2操舵目のオーバステア制御のときに前記前後加速度検出手段にて検出される前後加速度が、前記1操舵目のオーバステア制御のときに前記前後加速度検出手段にて検出された前後加速度の最大値を超えたときに、前記継続制御において前記1操舵目のオーバステア制御で設定される制御対象輪の制動力を解除することを特徴とする請求項2に記載の車両の運動制御装置。
【請求項4】
前記継続制御手段は、前記オーバステア制御手段による前記2操舵目のオーバステア制御で設定される制御対象輪に発生させる制動力を減少させるときに、前記継続制御において前記1操舵目のオーバステア制御で設定される制御対象輪の制動力を解除することを特徴とする請求項2または3に記載の車両の運動制御装置。
【請求項5】
前記継続制御手段は、前記継続制御開始から一定時間経過すると、前記継続制御において前記1操舵目のオーバステア制御で設定される制御対象輪の制動力を解除することを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1つに記載の車両の運動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーバステア(以下、OSという)状態などの横滑り状態において、制御対象輪に制動力を発生させて横滑り状態を抑制する車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、車両のレーンチェンジ時などにおいて、ステアリングを一方向に切り込み(1操舵目)、その後でステアリングを反対方向に戻す切り返し(2操舵目)を行うときに、それによる車両旋回に伴って発生したOS状態を抑制する車両運動制御装置が提案されている。具体的には、特許文献1の車両運動制御装置では、レーンチェンジにおけるステアリングの切り込みの後に切り返し状態になると想定される場合を判定し、それが検出されたときに、切り込み状態での旋回中から、その後の切り返し時の旋回における旋回外輪側に制動力を付与することで、OS状態を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、1操舵目(切り込み時)の制御から2操舵目(切り返し時)の制御に切り替わるときに、制動力の変動が大きくなるために、発生させる前後加速度(以下、前後Gという)の変動が大きくなる。このため、前後加速度の大きな変化により、ドライバに違和感を与えることがある。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、ステアリングを一方向に操作する1操舵目においてOS状態を抑制するための制御を行ったのち、その反対側にステアリングを操作する2操舵目に再びOS状態を抑制するための制御を行う際に、制御切り替え時の前後加速度の大きな変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、OS制御手段では、実運動状態量および目標運動状態量に基づいてOS状態を検出する共に、該OS状態のときに、実運動状態量が目標運動状態量に近づくように、ドライバの意思とは独立して制御対象輪に対して制動力を発生させるOS制御を実行し、継続制御手段では、一方向にステアリング操作が為された1操舵目にOS制御が実行されたのち、2操舵目として前記一方向とは反対方向のステアリング操作が為されることで再びOS制御が実行されたときに、2操舵目のOS制御のときにも1操舵目のOS制御において発生させた制御対象輪の制動力を保持もしくは徐々に減少させる継続制御を実行することことを特徴としている。
【0007】
このように、車両の運動制御としてOS制御を実行し、ステアリングを一方向に操作する1操舵目においてOS制御を行ったのち、その反対側にステアリングを操作する2操舵目に再びOS制御を行う際に、継続制御を実行している。そして、継続制御により、1操舵目のOS制御において制御対象輪に発生させた制動力を保持または徐々に減少させるようにしている。これにより、1操舵目のOS制御後に2操舵目のOS制御を行う際に、制御切り替え時の減速度不足を抑制することが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、継続制御手段は、2操舵目のOS制御のときに前後加速度検出手段にて検出される前後Gが保持もしくは徐々に減少するように1操舵目のOS制御において発生させた制御対象輪の制動力を保持もしくは徐々に減少させることを特徴としている。
【0009】
このように、前後Gのフィードバックに基づいて、前後Gが急に減少するのではなく、前後Gが保持または徐々に減少するように制動力を制御すれば、より的確に制御切り替え時の減速度不足を抑制することが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、継続制御手段は、2操舵目のOS制御のときに前後加速度検出手段にて検出される前後Gが、1操舵目のOS制御のときに前後加速度検出手段にて検出された前後Gの最大値を超えたときに、継続制御において1操舵目のOS制御で設定される制御対象輪の制動力を解除することを特徴としている。
【0011】
2操舵目のOS制御を開始してからの前後Gが1操舵目のOS制御中の前後Gの最大値を超えれば、2操舵目のOS制御によって前後Gが発生させられている状況であり、減速度不足が発生しない状況になっている。したがって、このようなときを終了条件として継続を終了することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、継続制御手段は、OS制御手段による2操舵目のOS制御で設定される制御対象輪に発生させる制動力を減少させるときに、継続制御において1操舵目のOS制御で設定される制御対象輪の制動力を解除することを特徴としている。
【0013】
2操舵目のOS制御の制御対象輪に発生させる制動力を減少させるときは、既に2操舵目のOS制御を終了するタイミングであり、減速度を低下させても問題ない状況になっている。したがって、このようなときを終了条件として継続を終了することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、継続制御手段は、継続制御開始から一定時間経過すると、継続制御において1操舵目のOS制御で設定される制御対象輪の制動力を解除することを特徴としている。
【0015】
一定時間経過したときとは、OS制御にかかると想定される時間以上の時間が経過していることを想定しており、一定時間以上継続制御が続けば誤作動であると考えられる。したがって、このようなときを終了条件として継続を終了することができる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態における車両の運動制御を実現するブレーキ制御システムの全体構成を示す図である。
図2】ブレーキECUの信号の入出力の関係を示すブロック図である。
図3】横滑り防止制御処理のフローチャートであある。
図4】OS制御継続処理のフローチャートである。
図5】レーンチェンジなどによりドライバがステアリング操作をした場合に上記OS継続制御処理が実行されたときのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両の運動制御を実現する車両用のブレーキ制御システム1の全体構成を示したものであり、このブレーキ制御システム1により車両の運転制御として横滑り防止制御を行う。
【0020】
まず、本実施形態の車両用ブレーキシステム1に備えられた液圧ブレーキ装置について説明する。図1に示されるように、車両用ブレーキシステム1には、ブレーキペダル11と、倍力装置12と、M/C13と、W/C14、15、34、35と、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50とが備えられており、これらによってインラインシステムの液圧ブレーキ装置が構成されている。また、車両用ブレーキシステム1にはブレーキECU70が備えられている。このブレーキECU70にて、液圧ブレーキ装置が発生させる制動力を制御している。
【0021】
ドライバによって踏み込まれるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11は、倍力装置12およびM/C13に接続されており、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、マスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生させられる。このM/C13に発生させられるM/C圧が、液圧経路を構成するブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
【0022】
また、M/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通された通路を有するマスタリザーバ13eが接続されている。マスタリザーバ13eは、M/C13内にブレーキ液を供給したり、M/C13内の余剰のブレーキ液を貯留したりする。
【0023】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0024】
以下、第1、第2配管系統50a、50bについて説明するが、第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、略同様の構成であるため、ここでは第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては第1配管系統50aを参照する。
【0025】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14及び右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。この管路Aを通じて、各W/C14、15それぞれにW/C圧が発生させられる。
【0026】
また、管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。この第1差圧制御弁16が差圧状態とされていると、W/C圧がM/C圧よりも差圧量分高くなるようにブレーキ液の流動が規制される。
【0027】
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0028】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0029】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18及び各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
【0030】
調圧リザーバ20と管路Aとの間には、還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するように、モータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60はモータリレー61に備えられる半導体スイッチ61aのオンオフによってモータ60への電圧供給が制御される。
【0031】
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、横滑り防止制御やトラクション(TCS)制御などの運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、制御対象輪のW/C圧を加圧する。
【0032】
一方、上述したように、第2配管系統50bは、第1配管系統50aにおける構成と略同様となっている。つまり、第1差圧制御弁16は、第2差圧制御弁36に対応する。第1、第2増圧制御弁17、18は、それぞれ第3、第4増圧制御弁37、38に対応し、第1、第2減圧制御弁21、22は、それぞれ第3、第4減圧制御弁41、42に対応する。調圧リザーバ20は、調圧リザーバ40に対応する。ポンプ19は、ポンプ39に対応する。また、管路A、管路B、管路C、管路Dは、それぞれ管路E、管路F、管路G、管路Hに対応する。以上のように車両用ブレーキシステム1における液圧ブレーキ装置が構成されている。
【0033】
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司る本発明の車両の運動制御装置に相当するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。図2は、ブレーキECU70の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【0034】
図2に示すように、ブレーキECU70は、各車輪FL〜RRに備えられた車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76、横加速度(横G)センサ77および前後G検出手段としての前後Gセンサ78からの検出信号を受け取り、各種物理量を求める。例えば、ブレーキECU70は、各検出信号に基づいて各車輪FL〜RRの車輪速度や車速(推定車体速度)、ドライバによるステアリングの操作量に応じた舵角、車両に実際に発生しているヨーレートや横Gおよび前後Gを求めている。また、これらに基づいて横滑り防止制御を実行するか否かを判定すると共に、横滑り防止制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。そして、その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行する。このようにして、各W/C14、15、34、35に発生させられるW/C圧を制御し、横滑り状態を抑制するという横滑り防止制御を実行する。
【0035】
例えば、左前輪FLを制御対象輪としてW/C圧を発生させる場合には、第1差圧制御弁16を差圧状態にしつつ、モータリレー61をオンさせてモータ60を作動させ、ポンプ19を駆動する。これにより、第1差圧制御弁16の下流側(W/C側)のブレーキ液圧が第1差圧制御弁16で発生させられる差圧により高くなる。そして、非制御対象輪となる右後輪RRに対応する第2増圧制御弁18を遮断状態とすることで、W/C15が加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪FLに対応する第1増圧制御弁17には電流を流さない、もしくは流す電流量を調整(例えばデューティ制御)することで、W/C14に所望のW/C圧を発生させる。
【0036】
以上のようにして、本実施形態のブレーキ制御システム1が構成されている。次に、このブレーキ制御システム1の具体的な作動について説明する。なお、本ブレーキ制御システム1では、通常ブレーキに加えてく、運動制御としてアンチスキッド(ABS)制御等も実行できるが、これらの基本的な作動に関しては従来と同様であるため、ここでは本発明の特徴に関わる横滑り防止制御における作動について説明する。
【0037】
図3は、横滑り防止制御処理のフローチャートであり、ブレーキECU70により実行される。横滑り防止制御処理は、車両に備えられた図示しないイグニッションスイッチがオンされたとき、もしくは車両走行中に、所定の演算周期ごとに実行される。
【0038】
まず、ステップ100では、各種センサ信号読み込みの処理を行う。具体的には、車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76や横Gセンサ77および前後Gセンサ78の検出信号等、横滑り防止制御に必要な各種検出信号の読み込みを行い、それらから各種物理量を求める。これにより、各車輪FL〜RRそれぞれの車輪速度や車速(推定車体速度)、舵角や横Gおよび前後Gが求められる。
【0039】
続くステップ110では、車両の実際の旋回状態である実旋回状態を表す実運動状態量として、実際に車両に対して発生しているヨーレートである実ヨーレートを取得する。実ヨーレートは、横滑り防止制御の開始条件の判定のために用いられ、ヨーレートセンサ76の検出信号から算出することができる。また、駆動輪となる左右後輪RL、RRの車輪速度の差から実ヨーレートを演算することもできる。例えば、左右後輪RL、RRそれぞれの車輪速度をVwRL、VwRR、左右後輪RL、RRの間の距離(トレッド)をrとすると、実ヨーレートは、一方の車輪速度VwRLと他方の車輪速度VwRRの差をトレッドrで割った値として演算される。
【0040】
なお、車輪速度VwRLから車輪速度VwRRを引いたときの差は、左旋回の場合には、左後輪RLの車輪速度VwRLの方が右後輪RRの車輪速度VwRRよりも小さくなり、右旋回の場合にはその逆になる。このため、左旋回の場合は上記差は正、右旋回の場合は上記差は負となる。
【0041】
続く、ステップ120では、車両に発生させたい目標旋回状態を表す目標運動状態量として目標ヨーレートを算出する。具体的には、舵角センサ75の検出信号に基づいて求めた舵角や車速もしくは横Gセンサ77の検出信号に基づいて求めた横G等から周知の手法によって目標ヨーレートを推定する。そして、ステップ110で求めた実ヨーレートとステップ120で求めた目標ヨーレートの差の絶対値を求める。この絶対値が横滑り傾向を示す。
【0042】
この後、ステップ130に進み、横滑り傾向が開始しきい値を超えているか否かを判定する。横滑り傾向が開始しきい値を超えているような場合には、車両に横滑り傾向が発生しているものと想定される。
【0043】
このため、横滑り傾向が発生しておらず、ステップ130で否定判定された場合には、そのまま処理を終了する。そして、横滑り傾向が発生し、ステップ130で肯定判定された場合には、ステップ140以降の処理を実行する。このようにして、横滑り傾向を解消する横滑り防止制御、つまりOS状態であればOS状態を抑制するための横滑り防止制御(OS制御)、アンダーステア(以下、USという)であればUS状態を抑制するための横滑り防止制御(US制御)が開始される。また、横滑り防止制御の開始に伴って、OS制御とUS制御のいずれの制御中であるかを示すフラグをセットする。また、横滑り防止制御中に前後Gセンサ78の検出信号から求められる前後Gを監視し、例えば制御中の前後Gの最大値を記憶する。
【0044】
ステップ140では、ステップ130で求めた横滑り傾向を用いて制御量の計算を行う。ここでいう制御量の計算とは、車両に発生している横滑り傾向を抑制するために制御対象輪に対して発生させるべき制動力に対応する制御量、つまりそのような制動力を発生させるのに必要な目標W/C圧を得るために、制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42やモータ60に流す電流量(例えば単位時間当たりの通電時間割合を示すデューティ比)等を求めるものである。この制御量(電流量)は、横滑り傾向の大きさに応じて、例えばブレーキECU70内に予め記憶してあるマップや演算式に基づいて求められる。
【0045】
また、制御対象輪の設定は、旋回状態(右旋回と左旋回のいずれか)や車両がOS状態かUS状態かに基づいて行われる。車両がOS状態かUS状態かは、目標ヨーレートと実ヨーレートとのいずれが大きいかによって判定できる。そして、例えば、OS状態の場合には旋回外輪の前輪などを制御対象輪、US状態の場合には旋回内輪や旋回外輪の前輪を制御対象輪として、制動力を加えるようにする。その他の車輪を制御対象輪とすることもでき、実ヨーレートの大きさや舵角の大きさ、もしくは舵角速度の大きさによって制御対象輪を選択するようにしても良い。
【0046】
そして、ステップ150に進み、アクチュエータ駆動処理を実行する。ここでいうアクチュエータ駆動処理は、横滑り防止制御により制御対象輪に対して制動力を発生させる処理であり、各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60への電流量制御を実行する。これにより、制御対象輪に対応するW/C14、15、34、35が自動加圧され、制御対象輪に制動力が発生させられて、横滑り状態が抑制される。
【0047】
続いて、上述した横滑り防止制御処理にて横滑り防止制御の開始条件を満たしたときに実行されるOS制御継続処理について説明する。図4は、OS制御継続処理のフローチャートである。
【0048】
OS制御継続処理では、ステアリングを一方向に操作する1操舵目においてOS制御を行ったのち、その反対側にステアリングを操作する2操舵目に再びOS制御を行う際に、制御切り替え時の減速度不足を抑制する処理である。
【0049】
まず、ステップ200では、OS制御継続処理における制御開始条件を満たしたか否かを判定する。制御開始条件としては、1操舵目のOS制御が介入しており、かつ、2操舵目のOS制御が介入する状況であるか否かを判定している。1操舵目のOS制御が介入したことについては、図3に示した横滑り防止制御においてOS制御中であることを示すフラグがセットされていることに基づいて判定している。2操舵目のOS制御が介入する状況であることについては、1操舵目と反対側にステアリングが操作され、かつ、再びOS制御の開始条件を満たしたことに基づいて判定している。そして、本ステップで肯定判定されるとステップ210に進み、否定判定されればそのまま処理を終了する。
【0050】
ステップ210では、制御開始条件が整ったことから、継続制御をオンさせて、2操舵目に再びOS制御を行う際に、制御切り替え時の減速度不足を抑制するための処理を行う。
【0051】
具体的には、1操舵目のOS制御において制御対象輪に発生させた制動力を急に解除するのではなく、保持または徐々に減少させられるように制御量を設定する。つまり、制御対象輪の目標W/C圧を保持または徐々に減少させるようにし、その目標W/C圧が得るために制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42やモータ60に流す電流量等を求める。そして、図3に示した横滑り防止制御で設定された電流量等に代えて、ここで求められた電流量等により、制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42やモータ60を駆動する。これにより、1操舵目のOS制御後に2操舵目のOS制御を行う際に発生し得る制御切り替え時の減速度不足を抑制することが可能となる。
【0052】
このとき、前後Gセンサ78の検出信号から求めた前後Gをフィードバックし、前後Gが急に減少するのではなく、前後Gが保持または徐々に減少するように制動力を制御すれば、より的確に制御切り替え時の減速度不足を抑制することが可能となる。
【0053】
そして、ステップ220に進み、制御終了条件が整ったか否かを判定する。制御終了条件としては、(1)2操舵目のOS制御を開始してからの前後Gが1操舵目のOS制御中の前後Gの最大値を超えたとき、(2)2操舵目のOS制御のW/C圧が減圧するとき、(3)一定時間経過したとき、の少なくとも1つが成り立っているか否かを判定している。
【0054】
2操舵目のOS制御を開始してからの前後Gが1操舵目のOS制御中の前後Gの最大値を超えれば、2操舵目のOS制御によって前後Gが発生させられている状況であり、減速度不足が発生しない状況になっている。また、2操舵目のOS制御のW/C圧が減圧するとき、つまり2操舵目のOS制御の制御対象輪に発生させる制動力を減少させるときは、既に2操舵目のOS制御を終了するタイミングであり、減速度を低下させても問題ない状況になっている。一定時間経過したときとは、OS制御にかかると想定される時間以上の時間が経過していることを想定しており、誤作動を考慮して設定している。このため、上記(1)〜(3)のいずれか1つでも成り立てば、継続制御を終了しても構わない。
【0055】
したがって、本ステップで肯定判定されればOS継続制御処理を終了する。これにより、1操舵目のOS制御において制御対象輪に発生させていた制動力が解除される。そして、本ステップで否定判定されれば、まだ継続処理を続けるべく、ステップ210に戻り、上記処理を継続する。なお、(1)2操舵目のOS制御を開始してからの前後Gが1操舵目のOS制御中の前後Gの最大値を超えたときについては、1操舵目のOS制御中に記憶された前後Gの最大値と2操舵目のOS制御中に検出される前後Gとの比較により確認している。(2)2操舵目のOS制御のW/C圧が減圧するときについては、横滑り防止制御として設定される制御対象輪の目標W/C圧の減少もしくは制動力の減少から確認している。また、(3)一定時間経過については、ブレーキECU70内に備えられた図示しないカウンタのカウント値が閾値を超えるか否かに基づいて判定している。
【0056】
図5は、レーンチェンジなどによりドライバがステアリング操作をした場合に上記OS継続制御処理が実行されたときのタイムチャートである。本例では、レーンチェンジによって1操舵目に左旋回、2操舵目に右旋回を行った場合を示している。また、参考として図中に一点鎖線でOS継続制御処理を実行しなかった場合の様子についても記載してある。
【0057】
ドライバがレーンチェンジを行うべく1操舵目に左旋回方向にステアリングを切り込んだ場合、時点T0よりステアリング操作に伴うヨーレートが発生する。そして、実ヨーレートと目標ヨーレートとの差の絶対値が大きくなり、時点T1において横滑り防止制御の開始しきい値を超えると、1操舵目に対するOS制御が開始される。例えば右前輪FRを制御対象輪として制動力を発生させることで、OS状態を抑制する。
【0058】
その後、時点T2において、ドライバが2操舵目として右旋回方向にステアリングを切り返すと、2操舵目に対するOS制御が開始される。このとき、実ヨーレートは1操舵目に発生させられた値から徐々に反対方向のヨーレートに変わるが、目標ヨーレートは2操舵目のステアリングの方向に基づく値として演算されている。このため、実ヨーレートと目標ヨーレートとの差の絶対値が大きくなり、時点T2において横滑り防止制御の開始しきい値を超えて、2操舵目に対するOS制御が開始される。
【0059】
これにより、継続制御の制御開始条件が整うため継続制御がオンされ、1操舵目のOS制御において制御対象輪に発生させた制動力を保持または徐々に減少させるようにする。したがって、図中一点鎖線で示したように右前輪FRのW/C圧が急峻に解除されるのではなく、図中実線で示したように保持または徐々に減少させられる。よって、1操舵目のOS制御後に2操舵目のOS制御を行う際に、図中一点鎖線で示したような前後Gの抜けが低減され、制御切り替え時の減速度不足を抑制することが可能となる。
【0060】
そして、時点T3において、2操舵目のOS制御の制御対象輪となる左前輪FLの制動力が大きくなってきて、前後Gが1操舵目のOS制御時の最大値を超えると、1操舵目のOS制御での制御対象輪の制動力を解除する。このようにして、継続制御が実行され、1操舵目のOS制御後に2操舵目のOS制御を行う際に、制御切り替え時の減速度不足を抑制することが可能となる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、車両の運動制御として横滑り防止制御(OS制御やUS制御)を実行し、ステアリングを一方向に操作する1操舵目においてOS制御を行ったのち、その反対側にステアリングを操作する2操舵目に再びOS制御を行う際に、継続制御を実行している。そして、継続制御により、1操舵目のOS制御において制御対象輪に発生させた制動力を保持または徐々に減少させるようにしている。これにより、1操舵目のOS制御後に2操舵目のOS制御を行う際に、制御切り替え時の減速度不足を抑制することが可能となる。
【0062】
また、このような継続制御を実行することで、図5中に示したように、2操舵目に発生するヨーレートを抑制できるため、2操舵目の制御対象輪に発生させるW/C圧を減少させられ、より早くOS状態を解消することが可能となる。
【0063】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、横滑り防止制御処理の一形態を示したが、本発明の特徴部分、つまり2操舵目に再びOS制御を行う際に、1操舵目のOS制御において制御対象輪に発生させた制動力を保持または徐々に減少させるという継続制御以外に関しては、従来より知られている様々な手法に代えても構わない。例えば、横滑り防止制御の開始判定に用いる目標ヨーレートや実ヨーレートの求め方を他の手法としても構わないし、制御対象輪を他の車輪としても良い。
【0064】
また、上記実施形態では、1操舵目としてステアリングを一方向に操舵したのち、2操舵目として1操舵目と反対方向にステアリングを操舵したときに、各操舵においてOS制御を実行する場合の一例として、レーンチェンジを挙げた。しかしながら、レーンチェンジの他の状況、例えば障害物回避のために上記のようなステアリング操作が行われるような場合にも、継続制御を実行することができ、上記と同様の効果を得ることができる。
【0065】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、ブレーキECU70のうち、ステップ100の処理を実行する部分がステアリング状態検出手段、ステップ110の処理を実行する部分が実運動状態量取得手段、ステップ120の処理を実行する部分が目標運動状態量演算手段、ステップ130〜150の処理を実行する部分がOS制御手段、ステップ200〜220の処理を実行する部分が継続制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0066】
1…ブレーキ制御システム、13…M/C、14、15、34、35…W/C、16、36…差圧制御弁、17、18、37、38…第1〜第4増圧制御弁、19、39…ポンプ、20、40…調圧リザーバ、21、22、41、42…減圧制御弁、50…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、50a、50b…第1、第2配管系統、60…モータ、70…ブレーキECU、71〜74…車輪速度センサ、75…舵角センサ、76…ヨーレートセンサ、77…横Gセンサ、78…前後Gセンサ
図1
図2
図3
図4
図5