(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ボイラ水の電気伝導度の測定値が、前記ボイラ水の電気伝導度の推定値に比べて増加した場合に、前記電解質以外の不純物が前記ボイラ水に混入したと判断することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のボイラ水の水質管理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の特許文献1,2における電気伝導率やpH値などの測定では、ボイラ水に含まれる水質成分が具体的には特定されない。例えば、ボイラ水には、注入される薬品の成分であるアンモニウムイオン(NH
4+)やリン酸イオン(PO
43−)、不純物である塩化物イオン(Cl
−)などが水質成分として含まれるが、それぞれの濃度は、電気伝導率やpH値などの測定ではわからない。結局のところ、そうした個々の水質成分の濃度はサンプルを採取して手分析することで測定される。
【0006】
それゆえ、従来、ボイラ水の具体的な水質成分は、例えば1日に1回、1週間に1回などの手分析の際にしか特定されなかった。従って、個々の水質成分の異常によって発生する障害、例えばリン酸塩のハイドアウト(負荷変化時などにリン酸塩が析出する現象)による配管腐食や、塩化物イオンの増加による腐食を原因とするボイラ配管の噴破やタービン翼損傷を防ぐための迅速な対応が困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ボイラ水の水質成分を連続的に監視することを可能にする、新規かつ改良されたボイラ水の水質管理方法および水質管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、循環するボイラ水の水質管理方法であって、ボイラ水の補給量および排出量を測定するとともに、ボイラ水への電解質の注入量を測定し、ボイラ水の初期水量および電解質の初期濃度と、所定の検出時間におけるボイラ水の補給量および排出量と、検出時間における電解質の注入量とに基づいて検出時間の経過後にボイラ水に溶解している電解質の濃度を算出し、算出された電解質の濃度に基づくボイラ水の電気伝導度の推定値とボイラ水の電気伝導度の測定値とを比較することによって、ボイラ水の水質変化を検出するボイラ水の水質管理方法が提供される。
【0009】
上記のボイラ水の水質管理方法において、電解質は、ヒドラジンを含み、検出時間において熱分解によって減少したヒドラジンの量を除いて電解質の濃度を算出してもよい。
【0010】
上記のボイラ水の水質管理方法において、電解質は、ヒドラジンに加えてアンモニアをさらに含み、検出時間においてヒドラジンの熱分解によって発生したアンモニアの量を加えて電解質の濃度を算出してもよい。なお、電解質は、ヒドラジンを含むことなくアンモニアを含んでもよい。
【0011】
上記のボイラ水の水質管理方法において、電解質は、ヒドラジンを含み、ボイラ水に溶存している酸素の量の変化を測定し、検出時間における酸素との反応によるヒドラジンの減少量を測定された酸素の量の変化に基づいて算出し、該算出されたヒドラジンの減少量を除いて電解質の濃度を算出してもよい。
【0012】
上記のボイラ水の水質管理方法において、ボイラ水の電気伝導度の測定値が、ボイラ水の電気伝導度の推定値に比べて増加した場合に、電解質以外の不純物がボイラ水に混入したと判断してもよい。
【0013】
上記のボイラ水の水質管理方法において、電解質は、リン酸塩を含み、ボイラ水の電気伝導度の測定値が、ボイラ水の電気伝導度の推定値に比べて減少した場合に、リン酸塩が析出していると判断してもよい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、循環するボイラ水の水質管理装置であって、ボイラ水の補給量および排出量を測定する流量測定手段と、ボイラ水への電解質の注入量を測定する注入量測定手段と、ボイラ水の初期水量および電解質の初期濃度と、所定の検出時間におけるボイラ水の補給量および排出量と、検出時間における電解質の注入量とに基づいて検出時間の経過後にボイラ水に溶解している電解質の濃度を算出し、算出された電解質の濃度に基づくボイラ水の電気伝導度の推定値とボイラ水の電気伝導度の測定値とを比較することによって、ボイラ水の水質変化を検出する演算手段とを含むボイラ水の水質管理装置が提供される。
【0015】
上記のボイラ水の水質管理装置ボイラ水に溶存している酸素の量の変化を測定する溶存酸素量測定手段をさらに含み、電解質は、ヒドラジンを含み、演算手段は、検出時間における酸素との反応によるヒドラジンの減少量を測定された酸素の量の変化に基づいて算出し、該算出されたヒドラジンの減少量を除いて電解質の濃度を算出してもよい。
【0016】
ボイラ水の初期水量および電解質の初期濃度と、所定の検出時間におけるボイラ水の補給量および排出量と、検出時間における電解質の注入量とに基づいて電解質の濃度を算出することで、手分析によらずとも、ボイラ水に含まれる電解質の水質成分の濃度を特定することができる。また、特定された濃度に基づいて推定される電気伝導度と、実際に測定された電気伝導度とを比較すれば、例えば不純物の混入や電解質の析出のような、濃度の推定値と測定値との間に差異を生じる原因となる現象を検出することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、本発明は、ボイラ水の水質成分を連続的に監視することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
(ボイラ水循環系の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るボイラ水循環系の概略的な構成を示す図である。ボイラ水循環系1は、ボイラ2と、タービン3と、復水器4と、給水ポンプ5とを含む。ボイラ水は、ボイラ2で気化されて蒸気になり、タービン3を駆動した後、復水器4で凝縮されて水になり、給水ポンプ5によって再びボイラ2に送られて循環利用される。後述する薬品の濃縮を防止するために、ボイラ2にはブロー弁6が設けられており、ボイラ水の一部を排出する。また、復水器4と給水ポンプ5との間には補給水弁7が設けられており、ボイラ水を補給する。なお、図示された例では、タービン3の負荷として発電機8が接続されている。
【0021】
かかるボイラ水循環系1では、配管などの設備の腐食やスケールの発生による性能低下を防ぐために、ボイラ水の水質を調整するための設備も設けられている。給水ポンプ5の前に設けられる脱気器9は、ボイラ水に溶存している酸素を除去する。また、薬液注入口10,11は、ボイラ水に薬品を注入する。薬液注入口10は、脱気器9の前に設けられ、pH調整剤および脱酸素剤を注入する。薬液注入口11は、給水ポンプ5の後に設けられ、清缶剤を注入する。
【0022】
ここで、ボイラ水循環系1においてボイラ水に注入される薬品について、さらに説明する。pH調整剤は、ボイラ水のpHを弱アルカリ性(例えばpH9.0〜9.3程度)に調整するための薬品である。ボイラ水循環系1では、pH調整剤としてアンモニア(NH
3)を用いる。脱酸素剤は、ボイラ水に溶存している酸素を除去するための薬品である。ボイラ水循環系1では、脱酸素剤としてヒドラジン(N
2H
4)を用いる。清缶剤は、ボイラ2の内部やその前後の配管で酸化鉄などのスケールが発生するのを防ぐための薬品である。ボイラ水循環系1では、清缶剤としてリン酸ナトリウム(Na
3PO
4)を用いる。
【0023】
さらに、ボイラ水循環系1では、ボイラ水の水質を監視し、上記の薬品の注入量を制御するための設備も設けられている。給水系統サンプリング点12、缶水系統サンプリング点13、および蒸気系統サンプリング点14では、水を採取し、水質管理計器(電気伝導度計、シリカ計など)によって水質を測定する。流量測定器15,16は、ボイラ水循環系1から排出されたり、ボイラ水循環系1に補給されたりした水量を測定する。水量は、例えば弁のCV値からの換算によって測定されてもよいし、流量計によって直接測定されてもよい。流量測定器15はブロー弁6から排出されたボイラ水の量を測定し、流量測定器16は補給水弁7から補給されたボイラ水の量を測定する。酸素濃度計17,18は、ボイラ水に溶存している酸素の量を測定する。酸素濃度計17は脱気器9の出口に配置され、酸素濃度計18は脱酸素剤のヒドラジンが注入される薬液注入口10の手前に配置される。
【0024】
上記の各設備によって取得されるデータを解析してボイラ水に含まれる水質成分の濃度を算出し、薬液注入口10,11から注入される薬品の量やブロー弁6から排出されるボイラ水の量を制御してボイラ水の水質を維持するために、演算/制御装置19が設けられる。演算/制御装置19は、例えばコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)がプログラムに従って命令を実行することによってその機能を実現する。具体的には、演算/制御装置19は、流量測定器15,16および酸素濃度計17,18の測定値、ならびに薬液注入口10,11から注入された各薬品の量に基づいてボイラ水に含まれるリン酸塩、アンモニア、およびヒドラジンの濃度を算出する。演算/制御装置19は、算出された各水質成分の濃度に基づいて、薬液注入口10,11から注入される薬品の量やブロー弁6から排出されるボイラ水の量を制御する。さらに、演算/制御装置19は、算出結果に基づく電気伝導度と缶水系統サンプリング点13で採取された水の電気伝導度とを比較することによって、例えばボイラ水への不純物の混入やリン酸塩のハイドアウトの発生などといった水質異常を検出してもよい。
【0025】
以下、演算/制御装置19におけるボイラ水の水質成分の濃度計算について、さらに説明する。濃度計算の入力値としては、以下に示す値が用いられる。
【0026】
<ボイラ水の量に関する値>
Q
0・・・ボイラ水の初期水量(L)
Q
in・・・補給水弁7からの補給水量(L/h)
Q
out・・・ブロー弁6からの排出水量(L/h)
<リン酸塩の量に関する値>
C
P0・・・ボイラ水の初期リン酸塩濃度(g/L)
C
Pf・・・薬液注入口11から注入されるリン酸塩の薬品濃度(g/L)
K
P・・・リン酸塩の注入ポンプストローク係数(L/mm・h)
S
P・・・リン酸塩の注入ポンプストローク長(mm)
<アンモニアの量に関する値>
C
A0・・・ボイラ水の初期アンモニア濃度(g/L)
C
Af・・・薬液注入口10から注入されるアンモニアの薬品濃度(g/L)
K
A・・・アンモニアの注入ポンプストローク係数(L/mm・h)
S
A・・・アンモニアの注入ポンプストローク長(mm)
<ヒドラジンの量に関する値>
C
H0・・・ボイラ水の初期ヒドラジン濃度(g/L)
C
Hf・・・薬液注入口10から注入されるヒドラジンの薬品濃度(g/L)
K
H・・・ヒドラジンの注入ポンプストローク係数(L/mm・h)
S
H・・・ヒドラジンの注入ポンプストローク長(mm)
<溶存酸素量に関する値>
O
1・・・酸素濃度計17(脱気器9の出口に配置)の測定値(g/L)
O
2・・・酸素濃度計18(薬液注入口10に配置)の測定値(g/L)
【0027】
ここで、「ポンプストローク係数」は、薬液注入口10,11でそれぞれの薬品を注入するポンプのシリンダ断面積とピストン速度とによって決まる値であり、ポンプのストローク長ごとにどれだけの薬品が注入されるかを示す。薬品の注入量は、ポンプのストローク長を変更することによって調整される。
【0028】
(リン酸塩の濃度計算)
ボイラ水のリン酸塩濃度C
P(g/L)は、以下の式(1)〜(3)を連立方程式として解くことによって算出される。なお、Δtは検出時間(h)である。
【0029】
M
Pin=(K
P×S
P)×C
Pf×Δt ・・・(1)
M
Pout=Q
out×C
P×Δt ・・・(2)
C
P=C
P0+(M
Pin−M
Pout)/(Q
in−Q
out+Q
0) ・・・(3)
【0030】
式(1)は、検出時間Δtの間に薬液注入口11からボイラ水に注入されるリン酸塩の注入量M
Pin(g)を求める式である。式(2)は、検出時間Δtの間にブロー弁6からボイラ水とともに排出されるリン酸塩の排出量M
Pout(g)を求める式である。式(3)は、注入量M
Pinおよび排出量M
Poutに基づいて、初期状態(ボイラ水の量Q
0、リン酸塩濃度C
P0)から検出時間Δtが経過した後のボイラ水のリン酸塩濃度C
Pを求める式である。
【0031】
(アンモニアの濃度計算)
ボイラ水のアンモニア濃度C
A(g/L)は、以下の式(4)〜(7)を連立方程式として解くことによって算出される。
【0032】
M
Ain=(K
A×S
A)×C
Af×Δt ・・・(4)
M
Aout=Q
out×C
A×Δt ・・・(5)
M
At=(K
H×S
H×C
Hf)×(4G
A/3G
H)×Δt ・・・(6)
C
A=C
A0+(M
Ain−M
Aout+M
At)/(Q
in−Q
out+Q
0) ・・・(7)
【0033】
式(4)および式(5)は、検出時間Δtの間に薬液注入口10からボイラ水に注入されるアンモニアの注入量M
Ain(g)と、ブロー弁6からボイラ水とともに排出されるアンモニアの排出量M
Aout(g)とを求める式である。
【0034】
一方、式(6)は、検出時間Δtの間のヒドラジンの熱分解量M
At(g)を求める式である。ヒドラジンは、加熱(350℃以上)によって以下の化学反応式(A)に示すように自己分解してアンモニアと窒素とを生じる。ボイラ水循環系1において、ボイラ2で発生する蒸気の温度は500℃程度であるため、ヒドラジンの熱分解が生じている。
3N
2H
4 → 4NH
3 + N
2 ・・・(A)
【0035】
そこで、本実施形態におけるアンモニアの濃度計算では、式(6)において、アンモニアの分子量G
A(g/mol)とヒドラジンの分子量G
H(g/mol)とを用いてヒドラジンの熱分解量M
Atを求め、これを式(7)に反映させる。式(7)は、注入量M
Ain、排出量M
Aoutおよびヒドラジンの熱分解量M
Atに基づいて、初期状態(ボイラ水の量Q
0、アンモニア濃度C
A0)から検出時間Δtが経過した後のボイラ水のアンモニア濃度C
Aを求める式である。なお、他の実施形態において、ボイラ水にアンモニアが注入されるがヒドラジンは注入されないような場合、アンモニアの濃度計算にあたってヒドラジンの熱分解量M
Atは考慮しなくてよい。
【0036】
(ヒドラジンの濃度計算)
ボイラ水のヒドラジン濃度C
H(g/L)は、以下の式(8)〜(10)を連立方程式として解くことによって算出される。なお、算出には、上記のアンモニアの濃度計算で算出されたヒドラジンの熱分解量M
Atが用いられる。
【0037】
M
Hin=(K
H×S
H)×C
Hf×Δt ・・・(8)
M
Hout=Q
out×C
H×Δt+(O
1−O
2)×(Q
in−Q
out+Q
0)×Δt ・・・(9)
C
H=C
H0+(M
Hin−M
Hout−M
At)/(Q
in−Q
out+Q
0) ・・・(10)
【0038】
式(8)は、検出時間Δtの間に薬液注入口10からボイラ水に注入されるヒドラジンの注入量M
Hin(g)を求める式である。式(9)は、検出時間Δtの間のヒドラジンの排出量M
Hout(g)を求める式であるが、ヒドラジンがボイラ水に溶存している酸素と反応して減少する分を考慮している点で、リン酸塩やアンモニアの排出量を求める式とは異なる。
【0039】
ヒドラジンは、以下の化学反応式(B)に示すように、酸素と反応して窒素および水を生成する。そこで、本実施形態におけるヒドラジンの濃度計算では、式(9)において、脱気器9を通過した後の溶存酸素濃度O
1とヒドラジンを注入する前の溶存酸素濃度O
2とに基づいて反応によって減少したヒドラジンの量を算出し、ブロー弁6からボイラ水とともに排出されるヒドラジンの量と合わせて、ヒドラジンの排出量M
Houtとする。
N
2H
4 + O
2 → N
2 +H
2O ・・・(B)
【0040】
式(10)は、注入量M
Hin、排出量M
Houtおよびヒドラジンの熱分解量M
Atに基づいて、初期状態(ボイラ水の量Q
0、ヒドラジン濃度C
H0)から検出時間Δtが経過した後のボイラ水のヒドラジン濃度C
Hを求める式である。
【0041】
(水質管理の例)
以下、上記のようにして算出されたボイラ水の水質成分の濃度を用いた水質管理の例について説明する。なお、以下の水質管理の過程では、缶水系統サンプリング点13で採取された水の電気伝導度の測定値が利用されるが、電気伝導度の測定は周知技術であるため、測定方法についての詳細な説明は省略する。
【0042】
図2は、ボイラ水の水質成分の濃度と電気伝導度との関係の例を示すグラフである。図示されるように、各水質成分については、所定の条件での濃度と電気伝導度との関係が既知である。従って、算出された各水質成分の濃度から、ボイラ水の電気伝導度を推定することができる。以下、この値を電気伝導度の推定値ともいう。なお、図示された例は、リン酸塩についてはpH9.3かつモル比2.6の場合、アンモニアおよびヒドラジンについては温度25℃の場合である。
【0043】
図3は、本発明の一実施形態における通常操業時の電気伝導度の推定値と測定値との関係の例を示すグラフである。図示されるように、通常操業時は、電気伝導度の推定値と測定値とは、例えば薬液注入口10,11からの薬品の注入に対して、ほぼ同様の変化を示す。計算値と測定値との間の誤差は、補給水に含まれる不純物(カルシウムやマグネシウムなど)によって生じるものと考えられる。この誤差は微小であり、図示された例では0.3μS/cm以下である。
【0044】
図4は、本発明の一実施形態における海水混入時の電気伝導度の推定値と測定値との関係の例を示すグラフである。ボイラ水循環系1では、例えば復水器4が海水を用いる場合に、配管からの漏洩(リーク)によって多量の海水がボイラ水に混入する可能性がある。この場合、混入した海水によって塩化物イオンが発生し、電気伝導度の測定値は増加する。ところが、上記の濃度計算では塩化物イオンの濃度が考慮されないため、電気伝導度の推定値は海水の混入によっては変化しない。
【0045】
従って、図示された例のように、電気伝導度の測定値が計算値に比べて増加した場合には、海水の漏洩などによってボイラ水に不純物イオンが混入していると判断し、塩化物イオンの手分析によって漏洩の有無を確認する、ボイラ水のpHを維持するために清缶剤(例えばリン酸塩など)を手動で注入する、またはプラントを停止させる、などの処置をとることが適切である。
【0046】
図5は、本発明の一実施形態におけるリン酸塩のハイドアウト発生時の電気伝導度の推定値と測定値との関係の例を示すグラフである。ハイドアウトは、ボイラ負荷が変化した場合などに、ボイラ水に溶存していたリン酸塩が析出する現象である。この場合、リン酸塩が析出するため、ボイラ水のリン酸塩濃度は低下し、従って電気伝導度の測定値は減少する。ところが、上記の濃度計算ではリン酸塩の析出が考慮されていないため、電気伝導度の推定値はハイドアウトの発生によっては変化しない。
【0047】
従って、図示された例のように、電気伝導度の測定値が計算値に比べて減少した場合には、リン酸塩のハイドアウトが発生していると判断し、リン酸塩の注入を停止するとともに、ボイラ負荷を下げることで局所的に析出したリン酸塩を再びボイラ水に溶解する温度まで下げることが適切である。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明した。なお、計算に用いるそれぞれの値に付された単位は一例であり、例えば続く実施例において示されるように、同じ次元をもつ別の単位が代わりに用いられてもよい。その場合、上記の計算式には、単位を換算するための係数が適宜追加されうる。また、各薬品の注入量は、必ずしも上記の例のようにポンプストローク係数とストローク長とを用いて算出されなくてもよく、例えば流量計によって直接測定されてもよい。
【0049】
また、上記の説明では、ボイラ水にpH調整剤としてアンモニアが、脱酸素剤としてヒドラジンが、清缶剤としてリン酸ナトリウムが注入される実施形態について説明したが、本発明の適用範囲はこのような実施形態に限定されるものではない。本発明の実施形態は、ボイラ水の排出量および補給量、ならびに電解質の初期濃度および注入量に基づいて電解質の濃度を算出するものであるため、他のボイラ水処理方式にも適用可能である。例えば、本発明の実施形態は、pH調整剤として水酸化ナトリウムなどを用いるアルカリ処理や、pH調整剤としてもリン酸ナトリウムなどのリン酸塩を用いるリン酸塩処理、pH調整剤としてアンモニアまたは揮発性のアミンを用い、脱酸素剤としてヒドラジンを用いる揮発性物質処理などにも適用可能である。
【実施例】
【0050】
続いて、本発明の実施形態を適用した水質管理の実施例について説明する。この実施例では、以下のような条件のボイラ水循環系1において、上述した本発明の実施形態に係る水質管理方法を適用した。なお、ボイラ2の蒸発量は400(t/h)である。
【0051】
<ボイラ水の量に関する値>
ボイラ水の初期水量Q
0=270(m
3)
補給水量Q
in=排出水量Q
out=0
<リン酸塩の量に関する値>
初期リン酸塩濃度C
P0=1.0(mg/L)
リン酸塩の薬品濃度C
Pf=150(g/L)
リン酸塩の注入ポンプストローク係数K
P=0.267(L/mm・h)
リン酸塩の注入ポンプストローク長S
P=22.5(mm)
<アンモニアの量に関する値>
初期アンモニア濃度C
A0=0.6(mg/L)
アンモニアの薬品濃度C
Af=280(g/L)
アンモニアの注入ポンプストローク係数K
A=0.0972(L/mm・h)
アンモニアの注入ポンプストローク長S
A=18(mm)
<ヒドラジンの量に関する値>
初期ヒドラジン濃度C
H0=0.05(mg/L)
ヒドラジンの薬品濃度C
Hf=100(g/L)
ヒドラジンの注入ポンプストローク係数K
H=0.123(L/mm・h)
ヒドラジンの注入ポンプストローク長S
H=15(mm)
<溶存酸素量に関する値>
脱気器9の出口での溶存酸素量O
1=0(ppb)で一定
薬液注入口10での溶存酸素量O
2=0.3(ppb)で一定
<管理目標値>
リン酸塩濃度C
P=0.1(mg/L)〜3.0(mg/L)
アンモニア濃度C
A=0.5(mg/L)〜1.05(mg/L)
ヒドラジン濃度C
H=0.01(mg/L)以上
【0052】
(リン酸塩の濃度管理)
上記の条件で、薬液注入口11からリン酸塩を5時間注入した場合、式(1)および式(3)でΔt=5(h)として計算すると、リン酸塩濃度C
Pは1.28(mg/L)になり、初期濃度よりも上昇することがわかる。
【0053】
さらにここで、薬液注入口11からのリン酸塩の注入を停止し(ポンプストローク長S
P=0(mm)にする)、ボイラ2でのブロー率を1%、つまりQ
in=Q
out=4(t/h)にして、3時間ブローした場合、式(2)および式(3)でΔt=3(h)として計算すると、リン酸塩濃度C
Pは0.956(mg/L)まで低下することがわかる。
【0054】
このように、ボイラ水のリン酸塩濃度が連続的に監視されることによって、リン酸塩濃度を管理目標値の範囲内に維持するように注入ポンプのストローク長やブロー弁6からのボイラ水排出量を自動的に制御することができる。
【0055】
なお、上記の濃度計算は、従来の手分析による濃度測定と併用されてもよい。例えば、リン酸濃度の計算値が、手分析による濃度測定値よりも、計器誤差の範囲を超えて大きい場合(例えば、計算値が1.0(mg/L)であり、測定値が0.8(mg/L)であるような場合)、リン酸塩のハイドアウトが発生していると推定される。上述の通り、濃度計算ではリン酸塩の析出は考慮されていないため、計算値と測定値との差分のリン酸塩が析出していると推定されるためである。この場合、リン酸塩の注入を停止するとともに、ボイラ負荷を下げることで局所的に析出したリン酸塩を再びボイラ水に溶解する温度まで下げることが適切である。
【0056】
(ヒドラジンの濃度管理)
上記の条件で、薬液注入口10からヒドラジンを3時間注入した場合、式(6)および式(8)〜式(10)でΔt=3(h)として計算すると、ヒドラジン濃度C
Hは0.084(mg/L)になり、初期濃度よりも上昇することがわかる。
【0057】
さらにここで、薬液注入口10からのヒドラジンの注入を停止し(ポンプストローク長S
H=0(mm)にする)、ボイラ2でのブロー率を1%、つまりQ
in=Q
out=4(t/h)にして、3時間ブローした場合、式(6)および式(8)〜式(10)でΔt=3(h)として計算すると、ヒドラジン濃度C
Hは0.475(mg/L)まで低下することがわかる。
【0058】
このように、ボイラ水のヒドラジン濃度が連続的に監視されることによって、ヒドラジン濃度を管理目標値の範囲内に維持するように注入ポンプのストローク長やブロー弁6からのボイラ水排出量を自動的に制御することができる。
【0059】
(アンモニアの濃度管理)
上記の条件で、薬液注入口10からアンモニアおよびヒドラジンを3時間注入した場合、式(4)〜(7)でΔt=3(h)として計算すると、アンモニア濃度C
Aは0.69(mg/L)になり、初期濃度よりも上昇することがわかる。
さらにここで、薬液注入口10からのアンモニアおよびヒドラジンの注入を停止し(ポンプストローク長S
A=S
H=0(mm)にする)、ボイラ2でのブロー率を1%、つまりQ
in=Q
out=4(t/h)にして、3時間ブローした場合、式(4)〜式(7)でΔt=3(h)として計算すると、アンモニア濃度C
Aは0.574(mg/L)まで低下することがわかる。
【0060】
このように、ボイラ水のアンモニア濃度が連続的に監視されることによって、アンモニア濃度を管理目標値の範囲内に維持するように注入ポンプのストローク長やブロー弁6からのボイラ水排出量を自動的に制御することができる。
【0061】
なお、アンモニア濃度C
Aの算出では、上述したヒドラジンの熱分解によるアンモニアの発生のために、ヒドラジンの注入量が条件として必要になる。一方、ヒドラジンの熱分解に関与しないリン酸塩濃度C
Pの算出や、熱分解によって減る側であるヒドラジン濃度C
Hの算出では、対象以外の薬品の注入量は必ずしも必要ではない。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。