【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の一実施例のRF信号光伝送システムの概略構成ブロック図を示す。本実施例は、親局(又はセンター局)10が光ファイバ50を介して子局(又はアンテナ局)60に光学接続する構成からなる。親局10は、例えば、地下街等の携帯電話の電波が届かない場所に設置され、子局60は屋外の、例えばビルの屋上に設置され、地下街等の携帯電話の電波が届かない場所でも携帯電話による通信を可能にする。光ファイバ50は、例えば、1km程度から数km程度の長さである。子局60には、アレイアンテナ又はMIMO用アンテナ等の多素子アンテナを構成するn台のアンテナ素子90(90−1〜90−n)が接続する。アンテナ素子90−1〜90−nは、用途に応じて、直線、円弧又は円等の所望の形状の電波を形成するように配置される。
【0021】
アレイアンテナ90(90−1〜90−n)からユーザ端末に向け放射される下りRF信号の、親局10から子局60への伝送動作を説明する。
【0022】
半導体レーザ(LD)12−1〜12−nは、互いに異なる波長λ1〜λnで連続レーザ発振し、その発振波長λ1〜λnは外部制御可能である。CPU40は、LD12−1〜12−nのレーザ発振のオン/オフを含めて、その出力パワーおよびレーザ発振波長を制御する。光合波器14は、LD12−1〜12−nの出力レーザ光を合波し、合波レーザ光を光変調器16に出力する。光合波器14は、レーザ光をパワー合分波する光カプラと、互いに異なる波長のレーザ光を合分波する波長合分波器のいずれであっても良い。
【0023】
光変調器16は、無線送信すべき下りRF信号18に従い、光合波器14から入射した合波レーザ光を一括で強度変調する。この強度変調により、下りRF信号18を搬送する下りRF光信号が生成される。なお、下りRF信号18の入力段および光変調器16の出力段には、必要により、それぞれRFアンプおよび光アンプを組み込むことがある。
【0024】
波長分波器として使用される波長合分波器20は、光変調器16から出力される下りRF光信号を波長λ1〜λnの各光波長成分に分離し、分離された波長λ1〜λnの光波長成分をそれぞれ光サーキュレータ(CIR)22−1〜22−nのポートAに供給する。CIR22−1〜22−nは、ポートAの入力光をポートBから出力し、ポートBの入力光をポートCから出力する受動光デバイスである。CIR22−1〜22−nは、波長合分波器20からの各光波長成分をポートBから出力して可変光遅延器24−1〜24−nに供給する。
【0025】
可変光遅延器24−1〜24−nは、入力光をCPU40により制御される遅延時間だけ遅延させて、波長合分波器26に出力する。CPU40は、各可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間を個別に制御可能である。波長合分波器26は、可変光遅延器24−1〜24−nの出力光を合波し、光ファイバ50に出力する。
【0026】
このように親局10から光ファイバ50に出力された下りRF光信号は、光ファイバ50を伝搬する。その際、波長λ1〜λnの各成分は、光ファイバ50の波長分散の波長依存性に応じた相対的な遅延を受ける。
【0027】
光ファイバ50を伝搬した下りRF光信号は、子局60の波長合分波器62に入射する。波長合分波器62は、波長合分波器20,26と同じ波長分離特性を有する。波長合分波器62は、光ファイバ50(即ち、波長合分波器26)からの下りRF光信号を波長λ1〜λnの各光成分に分離し、分離された各波長λ1〜λnの光成分をそれぞれアンテナ送受信部70−1〜70−nに供給する。アンテナ送受信部70−1〜70−nは同じ構成からなり、入射光の波長に依存しない。
【0028】
波長λ1の下り光を処理するアンテナ送受信部70−1を例に、アンテナ送受信部70−1〜70−nの動作を説明する。
【0029】
波長合分波器62で分離された波長λ1の下りRF光信号成分は、光合分波器(CPL)72に入射する。CPL72は、入射光を2分割し、一方を受光器(PD)74に、他方を反射型半導体光増幅器(RSOA)76に入射する。PD74は、入射された光信号を電気信号に変換する。PD74の出力は、光変調器16に入力される下りRF信号(但し、可変光遅延器24−1の遅延時間、及び対応する波長λ1の光ファイバ50での相対遅延時間だけ遅延された下りRF信号)に相当する。
【0030】
PD74はPINフォトダイオードからなり、好ましくは、数GHz〜数10GHz帯に対応し、数10mWの電気信号を出力可能な高速・高出力フォトダイオードからなる。PD74としてアバランシェフォトダイオード(APD)を用いても良い。これらのフォトダイオードは、図示しないバッテリから直流バイアスを印加されている。アンテナ素子90−1〜90−nを直接励振するには、PD74の入力レーザ光の変調度を可能な限り高く設定しておく必要がある。他方、出力パワーが高くない一般的なフォトダイオードをPD74として使用する場合は、PD74の出力段にRFアンプを挿入する。
【0031】
PD74の出力信号はデュプレクサ(DPLX)80−1に入力する。アンテナ送受信部70−2〜70−nの同様の出力は、それぞれ、デュプレクサ(DPLX)80−2〜80−nに入力する。各デュプレクサ(DPLX)80−1〜80−nは、対応するアンテナ送受信部70−1〜70−nから出力される下りRF信号を対応するアンテナ素子90−1〜90−nに供給する。これにより、各アンテナ素子90−1〜90−nは、可変光遅延器24−1〜24−nの各遅延時間及び対応する波長λ1〜λnの光ファイバ50での相対遅延時間に相当する位相差を持つ同じ下りRF信号で駆動又は励振され、下りRF信号を電波として空間に無線放射する。可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間及び波長λ1〜λnの調整(による光ファイバ50上での相対遅延時間の調整)により、各アンテナ素子90−1〜90−nを駆動又は励振する下りRF信号間の位相差が変化し、この結果、アンテナ素子90−1〜90−nで構成されるアレイアンテナの指向性が変化する。すなわち、個々の光キャリアの発振波長λ1〜λn及び/又は可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間の調整により、アンテナ素子90−1〜90−nで構成されるアレイアンテナの指向性を制御できる。
【0032】
本実施例では、各アンテナ素子90−1〜90−nを励振する下りRF信号の位相差を、光キャリア波長λ1〜λnと、可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間により調整できる。LD12−1〜12−nの発振波長λ1〜λn及び出力パワーの初期値において、光ファイバ50の波長分散による各下りRF信号の位相差を解消するように可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間を事前に調整しておくことで、CPU40は、以後、LD12−1〜12−nの発振波長λ1〜λn及び出力パワーの制御のみで、アンテナ素子90−1〜90−nで構成されるアレイアンテナの指向性を制御できる。また、アンテナ素子90−1〜90−nで構成されるアレイアンテナの指向性の初期方向に対して、可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間を事前に調整してもよい。初期状態でこのように可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間を調節しておけば、それ以降、CPU40は、可変光遅延器24−1〜24−nの遅延時間を調節する必要はなく、LD12−1〜12−nの光出力パワーおよび発振波長を制御すれば良い。
【0033】
本実施例では、アンテナ素子90−1〜90−nは、波長λ1〜λnのレーザ光で搬送された同じ下りRF信号で励振され、アンテナ素子90−1〜90−nで構成されるアレイアンテナの指向特性は、LD12−1〜12−nの出力パワー及び発振波長λ1〜λnに依存して決定される。換言すると、CPU40はLD12−1〜12−nの光出力パワーおよび発振波長を制御することで、アンテナ素子90−1〜90−nで構成されるアレイアンテナの指向特性の方向及び利得プロファイルを自在に変更できる。
【0034】
上りRF信号の伝送動作を説明する。図示しないユーザ端末は、アンテナ素子90−1〜90−nから放射される下りRF信号を受信すると共に、他端末又はネットワーク上のサーバ等に向けた上りRF信号を出力する。各アンテナ素子90−1〜90−nは、ユーザ端末から放射される上りRF信号を受信し、DPLX80−1〜80−nに出力する。DPLX80−1〜80−nは、周波数分割(FDD)又は時間分割(TDD)等により、アンテナ素子90−1〜90−nから送信すべき下りRF信号と、アンテナ素子90−1〜90−nで受信される上りRF信号とを分離する回路素子であり、機能的には、RFサーキュレータであってもよい。
【0035】
アンテナ素子90−1〜90−nで受信された上りRF信号は、それぞれ、DPLX80−1〜80−nを介してミキサ82−1〜82−nに入射する。ミキサ82−1〜82−nは乗算回路からなり、DPLX80−1〜80−nからの上りRF信号をより低い周波数帯のIF(中間周波数)信号にダウンコンバートするために、当該上りRF信号に所定周波数の発振器(LO)84の出力を乗算する。ミキサ82−1〜82−nは機能的には、いわゆるRF/IF変換手段である。
【0036】
図2は、上りRF信号、発振器84の出力、及び、ミキサ82−1〜82−nの出力の周波数配置例を示す。上りRF信号の周波数をf1、発振器84の出力をf2とすると、ミキサ送受信部−1〜送受信部−nの出力は、和周波数(f1+f2)の成分と差周波数(f1−f2)の成分からなるが、本実施例では、和周波数成分は、利用されないのと、後段でのRSOA76での変調過程で減衰し、親局10でフィルタ処理により除去されるので、
図2には図示していない。例えばf1が10GHz、f2が9GHzである場合、ミキサ82−1〜82−nは周波数1GHzのダウンコンバートされた上りRF信号、即ち上りIF信号を出力する。発振器(LO)84の周波数f2は、差周波数(f1−f2)が下りRF光信号で搬送される下りRF信号の周波数から十分に離れるような周波数に設定される。
【0037】
アンテナ送受信部70−1〜70−nでは、RF増幅器78が、ミキサ82−1〜82−nから出力される上りIF信号を増幅する。ミキサ82−1〜82−nから出力される上りIF信号の周波数f1−f2は一般に低周波であるので、RF増幅器78は周波数f1−f2を増幅可能であれば良く、広帯域RFアンプと比較して安価なものでよくなる。RF増幅器78の出力は、RSOA76の電気端子に印加される。RSOA76には、別途、CPL72から下りRF光信号が入射している。
【0038】
RSOA76の、CPL72から下りRF光信号が入射する端面には、
図3に断面図として図示するように、低反射膜76aを塗布し、反対端面には高反射膜76bを塗布してある。低反射膜76aを透過してRSOA76に入射した下りRF光信号は、高反射膜76bで反射され、低反射膜76aを透過して、CPL72に再入射する。下りRF光信号は、RSOA76内を往復する間に、光増幅されると共に、RF増幅器78から出力される上りIF信号により強度変調される。
【0039】
上りIF信号の周波数(f1−f2)は、下りRF光信号における下りRF信号の変調成分のそれとは十分に離れることになる。従って、下りRF光信号を上りIF信号で再変調しても、親局10で上りRF信号を精度良く分離及び復調できる。
【0040】
RSOA76で上りIF信号により強度変調され、低反射膜76aを透過した光信号、即ち上りRF光信号は、CPL72を介して波長合分波器62に入射する。波長合分波器62は、アンテナ送受信部70−1〜70−nから供給される波長λ1〜λnの上りRF光信号を波長合波する。波長合分波器62で合波された上りRF光信号は、光ファイバ50を伝搬して親局10に入射する。
【0041】
アンテナ送受信部70−1〜70−nとミキサ82−1〜82−nは、機能的には、下りRF光信号を電気の下りRF信号に変換し、上りRF信号を光伝送用に上りRF光信号に変換するRF信号処理手段として機能する。すなわち、アンテナ送受信部70−i(但し、i=1〜n)とミキサ82−iは、波長λiの下りRF光信号から下りRF信号を抽出して対応するアンテナ素子90−iを駆動し、対応するアンテナ素子90−iで受信する上りRF信号をより低い周波数のIF信号に変換した上で、波長λiの下りRF光信号の一部を当該IF信号で強度変調して上りRF光信号とする。
【0042】
光ファイバ50を伝搬した上りRF光信号は、親局10の波長合分波器26に入射する。波長合分波器26は、光ファイバ50からの上りRF光信号を波長λ1〜λnの光成分に分離し、各光成分を可変光遅延器24−1〜24−nに供給する。可変光遅延器24−1〜24−nを通過した波長λ1〜λnの上りRF光信号は、それぞれCIR22−1〜22−nのポートBに入射する。CIR22−1〜22−nは、可変光遅延器24−1〜24−nからの光波長成分を受光器(PD)28−1〜28−nに入射する。
【0043】
PD28−1〜28−nは、PD74と同じくPINフォトダイオード等で構成され、入射光信号を電気信号に変換する。すなわち、PD28−1〜28−nは、上りRF光信号を電気信号、ここでは上りIF信号に変換する。PD28−1〜28−nの出力信号はそれぞれ、ミキサ82−1〜82−nの出力信号に対応する。PD28−1〜28−nは高速・高出力フォトダイオードであるのが好ましいが、出力が高くない一般的なフォトダイオードを用いる場合は、PD28−1〜28−nの出力段にRFアンプを接続する。
【0044】
PD28−1〜28−nの出力はそれぞれ、低域通過フィルタ(LPF)30−1〜30−nに入力する。LPF30−1〜30−nは、PD28−1〜28−nの出力から、周波数f1−f2の成分を含む低周波成分のみを通過させ、周波数f1,f2等の高周波成分を除去する。すなわち、LPF30−1〜30−nのカットオフ周波数は、周波数f1−f2より高く、周波数f1,f2よりも低く設定される。LPF30−1〜30−nにより、RSOA76において下りRF光信号を上りIF信号で再変調する際に発生する残留変調成分を除去できる。
【0045】
図4は、上りRF信号の伝送に関する各部の波形例を示す。
図4(a)は下りRF信号を搬送する下りRF光信号の波形例を示す。下りRF信号の周波数を10GHz、上りIF信号の周波数を1MHzとしている。
図4(a)に示す波形の下りRF光信号がCPL72からRSOA76に入射する。
図4(b)は、アンプ78からRSOA76に印加される上りIF信号(ダウンコンバートされた上りRF信号)の波形を示す。
図4(c)は、RSOA76からCPL72に供給される上りRF光信号の波形例、即ち、
図4(a)に示す波形を
図4(b)に示す波形で強度変調した波形を示す。
図4(d)は、LPF30−1の出力波形例を示す。
図4(d)に示す波形は、原理的に、
図4(b)に示す波形と同じになる。上りIF信号の周波数(f1−f2)が、下りRF光信号の重畳する下りRF信号の周波数成分から十分に離れているので、LPF30−1〜30−nの出力段階で、下りRF信号の残留変調成分を確実に除去できる。これにより、下りRF光信号を上りRF信号の伝送に使用することによる上りRF信号の品質劣化を防止できる。
【0046】
RSOA76として、変調帯域の狭いRSOA、即ち、周波数f1,f2より低く、周波数f1−f2より高い変調帯域を持つRSOAを用いることで、LPF30−1〜30−nを省略できる。
【0047】
LPF30−1〜30−nから出力される上りIF信号は、それぞれミキサ32−1〜32−nに入力する。ミキサ32−1〜32−nには、周波数f2の発振器(LO)34の出力が印加されている。ミキサ32−1〜32−nは、LPF30−1〜30−nの出力にLO34の出力を乗算する。これにより、LPF30−1〜30−nの出力IF信号がアップコンバートされ、周波数f1の上りRF信号に戻される。ミキサ32−1〜32−nはいわゆるIF/RF変換手段として機能する。
【0048】
図5は、親局10における上りRF信号の周波数配置を示す。LPF30−1〜30−nの出力信号の周波数がf1−f2となるのに対し、LO34が周波数f2のRF信号を出力する。ミキサ32−1〜32−nは、両者の和周波数成分である周波数f1のRF信号をそれぞれRF分配器(SPL)36−1〜36−nに供給する。例えば、f1−f2が1GHz、f2が9GHzである場合、ミキサ32−1〜32−nは、周波数10GHzのRF信号を出力する。
【0049】
SPL36−1〜36−nは、入力信号を2分岐する受動RF部品であり、一方をRF合波器38に、他方をCPU40に供給する。RF合波器38は、SPL36−1〜36−nから供給された上りRF信号を合波し、合波された上りRF信号42を上位ネットワークに転送する。
【0050】
SPL36−1〜36−nがCPU40に供給する各上りRF信号間の位相差は、ユーザ端末から放射され各アンテナ素子90−1〜90−nに入射する上りRF信号間の位相差を反映し、強度差は、各アンテナ素子90−1〜90−nに入射する上りRF信号の強度分布を反映している。従って、CPU40は、SPL36−1〜36−nからの各上りRF信号を時間及び強度に関して分析することで、各アンテナ素子90−1〜90−nに対するユーザ端末の方角θを決定でき、決定した角度θに下りRF信号を放射するようにLD12−1〜12−nの波長及び出力パワーを制御する。すなわち、CPU40は、各アンテナ素子に対してユーザ端末がどの方向及び距離に集中しているかを把握して、アンテナ素子90−1〜90−nが構成するアレイアンテナ90の合成指向性を制御できる。LPF30−1〜30−nが高周波成分を除去するので、下りRF光信号の変調度を極限まで高く設定しても、上りRF信号の光伝送に影響を与えることはない。
【0051】
図6を参照して、アレイアンテナ90の両端に位置する2つのアンテナ素子90−1,90−nの出力から上りRF信号の入射角を決定する方法を説明する。
図6は、アンテナ素子90−1〜90−nに対する上りRF信号の入射角θの説明図である。
【0052】
アンテナ素子90−1および90−nの間隔をdとし、上りRF信号のアンテナ素子90−1,90−nへの到来角又は入射角をθとする。この場合、アンテナ素子90−1,90−nで受信する上りRF信号にはdsinθの経路差が生じる。上りRF信号は、更に、光ファイバの波長分散による遅延を受ける。光ファイバ50の波長分散パラメータをD、光ファイバ50の長さをL、上りRF信号を搬送する光キャリアの波長をそれぞれλ1およびλnとすると、両者の遅延差は、DL・|λ1−λn|で表わされる。なお、上りRF光信号と下りRF光信号は同じ光ファイバ50を通過するので、上りRF光信号と下りRF光信号が受ける波長分散量は同じである。また、上りRF信号は、ダウンコンバートされたIF信号として光ファイバ50を伝送するが、光ファイバ50で受ける波長分散の絶対量は、IF信号の周波数、即ち、上りRF信号の周波数に依存しない。
【0053】
SPL36−1,36−nからCPU40に入力する上りRF信号の遅延差Δτは、経路差dsinθと光ファイバ50における波長分散量との合計となり、
Δτ=dsinθ/c+DL・|λ1−λn| (1)
で表される。ここに、cは光速を示す。アンテナ素子間隔d、波長分散パラメータD、光ファイバ長Lは固定値である。これらは既知であり、CPU40は、波長λ1,λnを知っているので、上式(1)から上りRF信号の到来角θを推定又は算出できる。
【0054】
CPU40は算出した到来角θに対してアレイアンテナ90の指向性が向くように、LD12−1,12−nの波長及び出力パワーを制御する。
【0055】
ユーザ端末の方向を検出するのに両端のアンテナ素子90−1,90−nの上りRF信号出力のみを利用する場合、CPU40には、SPL36−1,36−nの出力のみを入力すればよい。また、上りRF信号42を上位ネットワークに中継する必要が無い場合には更に、PD28−1〜28−nからSPL36−1〜36−nの系の内、両端のアンテナ素子90−1,90−nの上りRF信号を処理するもの以外を省略できる。
【0056】
全アンテナ素子90−1〜90−nからの上りRF信号(又はそのIF信号)をCPU40に入力しておくことで、任意の複数の上りRF信号(又はそのIF信号)を使って、ユーザ端末方向を決定できる。これは、何れかのLD12−1〜12−nの出力パワーをゼロに制御することがあるときに有用である。
【0057】
もちろん、全アンテナ素子90−1〜90−nの出力を入射角θの推定に用いても良いが、その場合、CPU40の計算負荷が大きくなる。
【0058】
1本の光ファイバ50で波長分割多重伝送を使用したが、その代わりに、同じ波長分散特性及び長さを有するn本の光ファイバを用いてもよい。この場合、親局10の波長合分波器26と、子局60の波長合分波器62は不要になる。
【実施例2】
【0059】
上記実施例では、個々のアンテナ素子90−1〜90−nを励振する下りRF信号の初期位相差を可変光遅延器24−1,24−nで光学的に調整したが、電気段階で調整しても良い。
図7は、そのように変更した第2実施例の概略構成ブロック図を示す。親局110の構成が変更される。子局60の構成は
図1と同じになるので、その構成と動作の詳細な説明は省略する。
【0060】
親局110から子局60への下りRF信号の伝送動作を説明する。半導体レーザ(LD)112−1〜112−nは、互いに異なる波長λ1〜λnで連続レーザ発振し、その発振波長λ1〜λnは外部制御可能である。CPU140は、LD112−1〜112−nのレーザ発振のオン/オフを含めて、その出力パワーおよびレーザ発振波長を制御する。LD112−1〜112−nの出力レーザ光は、それぞれ光変調器116−1〜116−nに入射する。
【0061】
各光変調器116−1〜116−nの変調信号端子に、無線送信すべき下りRF信号118がRF移相器119−1〜119−nを介して印加されている。RF移相器119−1〜119−nはいわゆるフェーズシフタであり、光ファイバ50の波長分散により生じる波長λ1〜λnの下り光信号の位相差を打ち消すために、親局110の設置時に個々の移相量に調整される。各光変調器116−1〜116−nは、RF移相器119−1〜119−nにより位相オフセットが与えられた下りRF信号に従い、LD112−1〜112−nからのレーザ光をそれぞれ強度変調する。これにより、下りRF信号118を搬送する、互いに異なる波長λ1〜λnの光キャリアが生成される。
【0062】
各光変調器116−1〜116−nから出力される個別波長λ1〜λnの下りRF光信号は、光サーキュレータ(CIR)122−1〜122−nのポートAに入力し、ポートBに転送され、ポートBから波長合分波器126に入力する。波長合分波器126は、CIR122−1〜122−nからの個別波長λ1〜λnの下りRF光信号を合波し、光ファイバ50に出力する。
【0063】
このように親局110から光ファイバ50に出力された下りRF光信号は、光ファイバ50を伝搬する。その際、波長λ1〜λnの各成分は、光ファイバ50の波長分散の波長依存性に応じた相対的な遅延を受ける。光ファイバ50を伝搬した下りRF光信号は、先に説明したように子局60で処理され、各波長λ1〜λnで伝送された下りRF信号が、それぞれアンテナ素子90−1〜90−nから放射される。
【0064】
子局60から親局110への上りRF信号の伝送動作を説明する。
【0065】
子局60は、第1実施例で説明したのと同様の動作で、ユーザ端末からの上りRF信号をIF信号にダウンコンバージョンし、当該IF信号を搬送する上りRF光信号を生成して、光ファイバ50に出力する。上りRF光信号は、光ファイバ50を伝搬して、親局110の波長合分波器126に入射する。
【0066】
光ファイバ50を伝搬した上りRF光信号は、親局110の波長合分波器126に入射する。波長合分波器126は、光ファイバ50からの上りRF光信号を波長λ1〜λnの光成分に分離し、各光成分をCIR122−1〜122−nのポートBに入射する。CIR122−1〜122−nは、波長合分波器126からの波長λ1〜λnの上りRF光信号成分を受光器(PD)128−1〜128−nに入射する。
【0067】
PD128−1〜128−nは、PD28−1〜28−n,74と同じくPINフォトダイオード等で構成され、入射光信号を電気信号に変換する。すなわち、PD128−1〜128−nはそれぞれ、CIR122−1〜122−nからの波長λ1〜λnの上りRF光信号を電気信号、ここでは上りIF信号に変換する。PD128−1〜128−nは高速・高出力フォトダイオードであるのが好ましいが、出力が高くない一般的なフォトダイオードを用いる場合は、PD128−1〜128−nの出力段にRFアンプを接続する。
【0068】
PD128−1〜128−nの出力はそれぞれ、低域通過フィルタ(LPF)130−1〜130−nに入力する。LPF130−1〜130−nは、PD128−1〜128−nの出力から、周波数f1−f2の成分を含む低周波成分のみを通過させ、周波数f1,f2等の高周波成分を除去する。すなわち、LPF130−1〜130−nのカットオフ周波数は、周波数f1−f2より高く、周波数f1,f2よりも低く設定される。LPF130−1〜130−nにより、子局60のRSOA76において下りRF光信号を上りIF信号で再変調する際に発生する残留変調成分を除去できる。
【0069】
本実施例でも、RSOA76として、変調帯域の狭いRSOA、即ち、周波数f1,f2より低く、周波数f1−f2より高い変調帯域を持つRSOAを用いることで、LPF130−1〜130−nを省略できる。
【0070】
LPF130−1〜130−nから出力される上りIF信号は、それぞれミキサ132−1〜132−nに入力する。ミキサ132−1〜132−nには、周波数f2の発振器(LO)134の出力が印加されている。ミキサ132−1〜132−nは、LPF130−1〜130−nの出力にLO134の出力を乗算する。これにより、LPF130−1〜130−nの出力IF信号がアップコンバートされ、周波数f1の上りRF信号に戻される。
【0071】
ミキサ132−1〜132−nは、和周波数成分である周波数f1のRF信号をそれぞれRF移相器135−1〜135−nに供給する。例えば、f1−f2が1GHz、f2が9GHzである場合、ミキサ132−1〜132−nは、周波数10GHzのRF信号を出力する。RF移相器135−1〜135−nは、RF移相器119−1〜119−nにそれぞれ対応しており、その移相量は、RF移相器119−1〜119−nのそれと等しく設定されている。RF移相器135−1〜135−nは、移相した上りRF信号をRF分配器(SPL)136−1〜136−nに供給する。
【0072】
SPL136−1〜136−nは、入力信号を2分岐する受動RF部品であり、一方をRF合波器138に、他方をCPU140に供給する。RF合波器138は、SPL136−1〜136−nから供給された上りRF信号を合波し、合波された上りRF信号142を上位ネットワークに転送する。
【0073】
SPL136−1〜136−nがCPU140に供給する各上りRF信号間の位相差は、ユーザ端末から放射され各アンテナ素子90−1〜90−nに入射する上りRF信号間の位相差を反映し、強度差は、各アンテナ素子90−1〜90−nに入射する上りRF信号の強度分布を反映している。従って、CPU140は、CPU40と同様に、SPL136−1〜136−nからの各上りRF信号を時間及び強度に関して分析することで、各アンテナ素子90−1〜90−nに対してユーザ端末がどの方向及び距離に集中しているかを把握して、アンテナ素子90−1〜90−nが構成するアレイアンテナ90の合成指向性を制御できる。LPF130−1〜130−nが高周波成分を除去するので、下りRF光信号の変調度を極限まで高く設定しても、上りRF信号の光伝送に影響を与えることはない。
【0074】
下りRF信号118のキャリア周波数が数GHz程度であれば、LD112−1〜112−nの外部に光変調器116−1〜116−nを配置する外部変調方式ではなく、LD112−1〜112−nを直接変調する方式を採用することもできる。
【0075】
RF移相器119−1〜119−n,135−1〜135−nの移相量を制御することで、アレイアンテナ90の指向性を制御するようにしてもよい。その場合、CPU140は、RF移相器119−1〜119−nの移相量とRF移相器135−1〜135−nの移相量を連動して制御することになる。
【0076】
本実施例でも、光ファイバ50の代わりに、同じ波長分散特性及び長さを有するn本の光ファイバを用いてもよい。この場合、親局110の波長合分波器126と、子局60の波長合分波器62は不要になる。
【0077】
特定の説明用の実施例を参照して本発明を説明したが、特許請求の範囲に規定される本発明の技術的範囲を逸脱しないで、上述の実施例に種々の変更・修整を施しうることは、本発明の属する分野の技術者にとって自明であり、このような変更・修整も本発明の技術的範囲に含まれる。