特許第5983347号(P5983347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5983347-糖鎖精製方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983347
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】糖鎖精製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20160818BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20160818BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   G01N30/88 N
   G01N30/00 E
   G01N30/00 C
   G01N30/26 A
   G01N30/88 101P
   G01N30/88 201X
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-255761(P2012-255761)
(22)【出願日】2012年11月22日
(65)【公開番号】特開2014-102216(P2014-102216A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阪口 碧
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−046666(JP,A)
【文献】 特開2012−201653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 − 30/96
G01N 33/48 − 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中に含有する糖鎖を精製する方法であって、
(a)生体試料から糖鎖を特異的に捕捉する物質である糖鎖捕捉物質に糖鎖を捕捉する工程、
(b)糖鎖を捕捉した糖鎖捕捉物質を洗浄する工程
(c)糖鎖捕捉物質から糖鎖を遊離させる工程、
を含み、(a)、(b)、(c)の工程を同一の反応容器内で連続して行い
(b)の工程では、(a)の工程で糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質を、非イオン性界面活性剤を添加した水溶性洗浄液で洗浄することを
特徴とする糖鎖精製方法。
【請求項2】
非イオン性界面活性剤の濃度が0.05〜5重量%である請求項1に記載の糖鎖精製方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤である請求項1または2に記載の糖鎖精製方法。
【請求項4】
前記ポリオキシエチレンを有する界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリレートである請求項3記載の糖鎖の精製方法。
【請求項5】
(a)の工程において、糖鎖捕捉物質が糖鎖のアルデヒド基と特異的に反応する官能基を有する担体である請求項1乃至4いずれか1項に記載の糖鎖精製方法。
【請求項6】
前記官能基が、ヒドラジド基又はアミノオキシ基である請求項5記載の糖鎖精製方法。
【請求項7】
前記糖鎖捕捉物質が下記の(式1)で表される架橋型ポリマー構造を有するものである請求項6記載の糖鎖精製方法。
【化1】

(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
【請求項8】
前記糖鎖捕捉物質が下記の(式2)で表される架橋型ポリマー構造を有するものである請求項7記載の糖鎖精製方法。
【化2】

(m,nはモノマーユニット数を示す。)
【請求項9】
(c)の工程において、糖鎖捕捉物質に酸処理を行なう工程を有する請求項1乃至8いずれか1項に記載の糖鎖精製方法。
【請求項10】
(a)および(c)の工程において、反応溶媒を蒸発させる工程を有する請求項1乃至9いずれか1項に記載の糖鎖精製方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中に含まれる糖鎖を効率よく精製、標識するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖鎖、糖タンパク、糖ペプチド、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク、核酸、脂質などといった生体高分子は、医学、細胞工学、臓器工学などのバイオテクノロジー分野において重要な役割を担っており、これら物質による生体反応の制御機構を明らかにすることはバイオテクノロジー分野の発展に繋がることになる。
この中でも、糖鎖は、非常に多様性に富んでおり、天然に存在する生物が有する様々な機能に関与する物質である。糖鎖は生体内でタンパク質や脂質などに結合した複合糖質として存在することが多く、生体内の重要な構成成分の一つである。生体内の糖鎖は細胞間情報伝達, タンパク質の機能や相互作用の調整などに深く関わっていることが明らかにな
りつつある。
【0003】
なお、糖鎖とは、グルコース, ガラクトース, マンノース, フコース, キシロース,
N− アセチルグルコサミン, N − アセチルガラクトサミン, シアル酸などの単糖およびこれらの誘導体がグリコシド結合によって鎖状に結合した分子の総称である。
例えば、糖鎖を有する生体高分子としては、細胞の安定化に寄与する植物細胞の細胞壁のプロテオグリカン、細胞の分化、増殖、接着、移動等に影響を与える糖脂質、及び細胞間相互作用や細胞認識に関与している糖タンパク質等が挙げられる。これらの生体高分子に含まれる糖鎖が、この生体高分子と互いに機能を代行、補助、増幅、調節、あるいは阻害しあいながら高度で精密な生体反応を制御する機構が次第に明らかにされつつある。さらに、このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、及び細胞の癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖工学と、医学、細胞工学、あるいは臓器工学とを密接に関連させて新たな展開を図ることが期待できる。
【0004】
また、糖タンパク質性医薬品ではその糖鎖が生物活性発現等に重要な役割を担っている場合が多い。したがって、糖タンパク質性医薬品の品質管理のパラメーターとして、糖鎖の評価はきわめて重要であり、特に抗体医薬品についてはその糖鎖構造が抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)を左右するとの報告がされており、糖鎖構造解析の重要性が高まっている。
【0005】
そのため近年糖鎖構造を迅速、簡便に、かつ精度高く解析する方法が求められるようになり、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、核磁気共鳴法、キャピラリー電気泳動法(CE法)、質量分析法、レクチンアレイ法などの多種多様の方法により糖鎖解析が行われている。
【0006】
これら種々の手法を用いて糖鎖を解析するためには、あらかじめ生体試料中に含まれるタンパク質、ペプチド、脂質、核酸などと糖鎖を分離・精製することが必要である。MALDI−TOF−MSは簡便でハイスルーップト性に優れるため、広く普及している。しかし、糖鎖はイオン化効率が、ペプチドなど他の夾雑物に比べ悪いため高い感度を得るためには精度の良い精製が必要である。しかしながら、これら糖鎖の精製や標識化は時間と工数がかかり、一度に多種多量の試料を調整するのは困難を要する。
上述した課題を解決する技術として、例えば特許文献1 に記載された特定の糖鎖捕捉物
質を用いて実現される試料調整方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/018170号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
夾雑物の混入の多い生体試料から糖鎖のみを効率よく確実に精製する方法を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の通りである。
(1)生体試料中に含有する糖鎖を精製する方法であって、(a)生体試料から糖鎖を特異的に捕捉する物質である糖鎖捕捉物質に糖鎖を捕捉する工程、(b)糖鎖を捕捉した糖鎖捕捉物質を洗浄する工程(c)糖鎖捕捉物質から糖鎖を遊離させる工程、を含み、(a)、(b)、(c)の工程を同一の反応容器内で連続して行い(b)の工程では、(a)の工程で糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質を、非イオン性界面活性剤を添加した水溶性洗浄液で洗浄することを特徴とする糖鎖精製方法。
(2)非イオン性界面活性剤の濃度が0.05〜5重量%である(1)に記載の糖鎖精製方法。
(3)前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤である(1)または(2)に記載の糖鎖精製方法。
(4)前記ポリオキシエチレンを有する界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリレートである(3)記載の糖鎖の精製方法。
(5)(a)の工程において、糖鎖捕捉物質が糖鎖のアルデヒド基と特異的に反応する官能基を有する担体である(1)乃至(4)いずれか1項に記載の糖鎖精製方法。
(6)前記官能基が、ヒドラジド基又はアミノオキシ基である(5)記載の糖鎖精製方法。
(7)前記糖鎖捕捉物質が下記の(式1)で表される架橋型ポリマー構造を有するものである(6)記載の糖鎖精製方法。
【化1】

(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
(8)前記糖鎖捕捉物質が下記の(式2)で表される架橋型ポリマー構造を有するものである(7)記載の糖鎖精製方法。
【化2】

(m,nはモノマーユニット数を示す。)
(9)(c)の工程において、糖鎖捕捉物質に酸処理を行なう工程を有する(1)乃至(8)いずれか1項に記載の糖鎖精製方法。
(10)(a)および(c)の工程において、反応溶媒を蒸発させる工程を有する(1)乃至(9)いずれか1項に記載の糖鎖精製方法。
【発明の効果】
【0010】
夾雑物の混入の多い未精製の生体試料から糖鎖のみを効率よく確実に精製する方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例および比較例のMALDI−TOF−MS測定結果
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、生体試料中に含有する糖鎖を標識化する方法であって、
(a)生体試料から糖鎖を特異的に捕捉する物質である糖鎖捕捉物質に糖鎖を捕捉する工程、
(b)糖鎖を捕捉した糖鎖捕捉物質を洗浄する工程
(c)糖鎖捕捉物質から糖鎖を遊離させる工程、
を含み、(a)、(b)、(c)の工程を同一の反応容器内で連続して行う糖鎖精製方法である。
【0013】
(a)の工程において、糖鎖を特異的に捕捉する物質は糖鎖のアルデヒド基と反応する官能基を有していることが好ましい。官能基としてはヒドラジド基又はオキシルアミノ基で
あることがより好ましい。
このような糖鎖捕捉物質としては、下記(式1)又は(式2)で表される構造を有する架橋型ポリマーを担体として用いることが好ましい。
【0014】
【化1】

(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CON H−で中断されてもよい
炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m , n はモノマーユニット数を示す。)
R 1 は、−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−で中断されてもよい炭素
数1〜20の炭化水素鎖を示し、例えば下記のものを挙げることができる。なお式中、a、b、dは1から5の整数を表し、cは1から10の整数を表す。
【0015】
【化2】
(m,nはモノマーユニット数を示す。)
その他市販のヒドラジド基含有架橋粒子、例えば、アフィゲルHz(BIO−RAD、153−6047)、CarboLink(TM)CouplingGel(PIERCE、20391)、UltraLink(R)HydrazideGel(PIERCE、53149)などを用いても良い
【0016】
(b)の洗浄工程は、(a)の工程で糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質を洗浄し、捕捉された糖鎖以外の生体由来物質を除去する工程である。
糖鎖以外の生体由来物質を除去する方法としては、例えば、疎水結合を解離する能力のあるカオトロピック試薬であるグアニジン水溶液や、単純に純水や水溶性緩衝液で洗浄する場合が多いが、本願発明において、界面活性剤、特に非イオン性界面活性剤が効果的であることを見出した。
【0017】
非イオン性界面活性剤としては、種々の界面活性剤が存在するが、例えばポリオキシエチレンを有する界面活性剤が好適に使用することができる。具体的には、入手のし易さ、取り扱いの容易さより、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリレートを好適に使用することができる。特に、ポリオキシオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウリレート(Tween20TM)を使用することが好ましい。
【0018】
ポリオキシエチレンを有する界面活性剤を用いる場合、水溶液にして使用する。
当該水溶液としては、純水、緩衝液を好適に使用することができる。
ここで使用する緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液等を使用することができる。
ポリオキシエチレンを有する界面活性剤水溶液の濃度としては、好ましくは0.05〜5
重量%、より好ましくは0.1〜1重量%である。
洗浄工程における洗浄条件としては、温度が4〜40℃、洗浄時間が10秒〜30分である。
【0019】
洗浄方法としては、ビーズの場合は、洗浄液に浸漬し、洗浄液の交換を繰り返すことで洗浄することができる。
【0020】
具体的には、遠沈管やチューブにビーズを入れ、洗浄液を加え、振とうの後、遠心操作によりビーズを沈殿させて、上清を除去する操作を繰り返すことにより洗浄する。
例えば、遠心チューブ内にビーズを入れ、洗浄液を加え、ビーズを自然沈降、または、遠心分離により強制的に沈降させた後、上清を除去する操作を繰り返すことで洗浄することができる。前記洗浄操作は3〜6回行うことが好ましい。
プレートの場合は、各ウェル内に洗浄液を分注、吸引除去を繰り返すことで簡便に洗浄することができる。また、必要に応じてプレートを遠心可能な遠心分離機を用いても良い。
【0021】
また、チューブ状の容器であって、底面部に、液体透過可能で該ビーズが不透過な孔径を有するフィルターを装着するフィルターチューブを用いることも可能である。該フィルターチューブにビーズを入れて使用することで、洗浄に要した洗浄液を、フィルターを介して除去することが可能となり、前記の遠心操作後の上清除去の工程が必要なくなり、作業性の向上を図ることができる。
【0022】
また、6〜384穴のマルチウェルプレートの底部が前記フィルターを装着したものが各種市販されており、これらのプレートを用いることでハイスループット化することが可能である。特に96穴マルチウェルプレートは、溶液分注機器、吸引除去システム、およびプレートの搬送システム等が開発されており、ハイスループット化に最適である。
【0023】
この洗浄処理は、連続式にて糖鎖捕捉反応を行った場合には、カラムに洗浄溶液を通して糖鎖捕捉反応から連続的に処理してもよい。また、マルチプレートを用いた場合には、ろ過操作あるいは遠心操作により糖鎖捕捉物質以外の物質を除去してもよい。
【0024】
(c)の工程では、糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質から糖鎖を遊離させる、すなわち糖鎖を糖鎖捕捉物質から切り出す反応を行う。この工程では、酸と有機溶媒の混合溶媒あるいは酸と水と有機溶媒の混合溶媒にて、糖鎖捕捉物質に酸処理を行うのが好ましい。酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、水の含有率は好ましくは0.1%〜90%、より好まし
くは0.1%〜80%、さらに好ましくは0.1%〜50%である。水の代わりに水性緩衝液を含有しても良い。緩衝液の濃度は好ましくは0.1mM〜1M、より好ましくは0.1mM〜500mM、さらに好ましくは1mM〜100mMである。反応溶液のpHは好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。使用する酸は例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸が好ましく、より好ましくは酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、さらに好ましくは酢酸、トリフルオロ酢酸である。反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃で、さらに好ましくは40〜90℃である。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜3時間である。反応は、糖鎖を遊離させる反応を効率よく行う観点から、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。
【0025】
弱酸性から中性付近で、糖鎖遊離反応を行うことができるため、従来の強酸性処理、たとえば10%トリフルオロ酢酸処理による切出しのような強酸の存在下での切出し反応に比べて、シアル酸残基の脱離など糖鎖の加水分解などを引き起こすことを抑制することができるようになる。
【0026】
次の工程としては、糖鎖捕捉担体から糖鎖を切り離す工程になる。
糖鎖捕捉担体から糖鎖を切り離す方法には、還元的アミノ化法と交換反応法がある。
還元アミノ化法は、例えばアミノ基を有する物質を過剰に加えることにより還元的アミノ化反応を惹起し、糖鎖捕捉担体より糖鎖を遊離する方法である。
また、交換反応法とは、ヒゾラゾン結合からオキシム試薬を用いたオキシム交換反応を利用した糖鎖を遊離する方法である。
【0027】
まず、還元アミノ化法について詳細に記載する。
還元アミノ化法は、糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質から糖鎖を遊離させる、すなわち糖鎖を糖鎖捕捉物質から切り出す反応である。この工程では、酸と有機溶媒の混合溶媒あるいは酸と水と有機溶媒の混合溶媒にて、糖鎖捕捉物質に酸処理を行うのが好ましい。酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、水の含有率は好ましくは0.1%〜90%、より好ましくは0.1%〜80%、さらに好ましくは0.1%〜50%である。水の代わりに水性緩衝液を含有しても良い。緩衝液の濃度は好ましくは0.1mM〜1M、より好ましくは0.1mM〜500mM、さらに好ましくは1mM〜100mMである。反応溶液のp H は好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。使用する酸は例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸が好ましく、より好ましくは酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、さらに好ましくは酢酸、トリフルオロ酢酸である。反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃で、さらに好ましくは40〜90℃である。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜3時間である。反応は、糖鎖を遊離させる反応を効率よく行う観点から、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。
【0028】
弱酸性から中性付近で、糖鎖遊離反応を行うことができるため、従来の強酸性処理、たとえば1 0 % トリフルオロ酢酸処理による切出しのような強酸の存在下での切出し反応
に比べて、シアル酸残基の脱離など糖鎖の加水分解などを引き起こすことを抑制することができるようになる。
【0029】
続けて上記工程で得られた遊離の糖鎖を標識化することも可能である。
標識化の方法は、アミノ基を有する化合物により、例えば還元的アミノ化反応を用いて任意のアミノ化合物で標識化する反応であることが好ましい。反応系においてp H が酸性から中性の条件であるのが好ましく、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜8であり、さらに好ましくは2〜7である。反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃ で、さらに好ましくは40〜90℃である。アミノ化合物の濃度は、1m
M 〜10Mであるのが好ましく、還元剤の濃度は、1mM〜10Mであるのが好ましい
。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜 3時間である。
【0030】
ここで、アミノ基を有する化合物は、紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有することが好ましく、具体的には下記の群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
8−Aminopyrene−1,3,6−trisulfonate,8−Aminonaphthalene−1,3,6−trisulphonate,7−amino−1,3−naphtalenedisulfonicacid,2−Amino9(10H)−acridone,5−Aminofluorescein,Dansylethylenediamine,2−Aminopyridine,7−Amino−4−methylcoumarine,2−Aminobenzamide,2−Aminobenzoicacid,3−Aminobenzoicacid,7−Amio−1−naphthol,3−(Acetylamino)−6−aminoacrdine,2
−Amino−6−cyanoethylpyridine,Ethylp−aminobenzoate,p−Aminobenzonitrile,及び7−aminonaphthalene−1,3−disulfonicacid。
【0031】
特に、アミノ化合物が2−aminobenzamideの場合、pHが酸性から中性の条件で、好ましくは2〜9、より好ましくは2〜8であり、さらに好ましくは2〜7である。反応温度に関しては4〜90℃、好ましくは30〜90℃で、さらに好ましくは40〜80℃である。アミノ化合物の濃度は1mM〜10M、好ましくは10mM〜10Mで、さらに好ましくは100mM〜1Mである。還元剤の濃度は、1mM〜10M、好ましくは10mM〜10M 、さらに好ましくは100mM〜2Mである。反応時間は、10
分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、さらに好ましくは1時間〜3時間である。
また、還元剤は例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボラン、ピリジンボランなどが使用可能であるが、シアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用するのが反応性の面から考えて好ましい。
【0032】
先の糖鎖切り離し工程後、得られる溶液は標識された糖鎖と過剰量加えた未反応アミノ化合物、還元剤が存在するため、これら余剰試薬を除去する工程を行うのが好ましい。シリカカラムによる除去、ゲル濾過による除去、イオン交換樹脂による除去、いずれの方法を用いても良いが、シアル酸の離脱を防ぐために使用する溶媒は中性であるのが好ましい。
【0033】
もう一方の交換反応は、洗浄操作後、アミノオキシ基を有する化合物を作用させることにより、ヒドラゾン−オキシム交換反応によって糖鎖がポリマー粒子から切り離され、同時にアミノオキシ化合物によってラベル化される反応を用いて糖鎖を遊離させる。
【0034】
アミノオキシ基を有する化合物としては、下記から選ばれた物質またはその塩であることが好ましい。
O−benzylhydroxylamine; O-phenylhydroxylamine; O−(2,3,4,5,6−pentafluorobenzyl)hydroxylamine; O−(4−nitrobenzyl)hydroxylamine;
2−aminooxypyridine; 2−aminooxymethylpyr
idine; 4−[(aminooxyacetyl)amino]benzoic a
cid methyl ester; 4−[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid ethyl ester; 4−[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid n−butylester.
【0035】
アミノオキシ基を有する化合物は、アルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含むことが好ましい。特に下記(式3)で表される構造を有するものが好ましい。
【化3】
【0036】
交換反応時の反応液のpHは、pH2〜7が好ましく、pH3〜6がより好ましく、pH3.5〜5.5が最も好ましい。酢酸/アセトニトリル溶液を加えることにより、反応液を上記のpHに調整することができる。交換反応時の温度は、50〜95℃が好ましく、60〜90℃がより好ましく、70〜90℃が最も好ましい。交換反応時、反応容器を開放して加熱操作を行うことにより、溶媒を蒸発させながら反応を進め、最終的に乾固させることにより、効率よく交換反応を行うことができる。
【0037】
回収したラベル化糖鎖溶液はそのまま、あるいは、過剰に含まれるアミノオキシ化合物を除去したのち、質量分析法やHPLCなどの分析手段によって分析することができる。以上、糖鎖精製方法について説明したが、次にその具体的方法について実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例で本発明を説明するがこれに限定されるものではない。
【0039】
<実施例>
(糖鎖サンプルの調整)
ウシ血清由来IgG(SIGMA、I5506)1 mgを100mM重炭酸アンモニウ
ム(和光純薬、017−02875)50μLに溶解させた後、120mM DTT(ジ
チオスレイトール、SIGMA、D9779)を5μL加え、60℃で30分間反応させた。反応終了後、123mM IAA(ヨードアセトアミド、和光純薬、093−02152)10μLを加えて遮光下、室温で1時間反応させた。続いて400Uのトリプシン(SIGMA、T0303)によってプロテアーゼ処理をし、タンパク質部分をペプチド断片化した。反応溶液を90℃で5分処理した後、5UのグリコシダーゼF(Roche、1−365−193)による処理を行って糖鎖をペプチドから遊離させ、予備処理済の生体試料を得た。
【0040】
(糖鎖捕捉担体による糖鎖精製)
糖鎖捕捉用の担体であるヒドラジド基を有する粒子5mg(BlotGlyco(R))、住友ベークライト株式会社製、BS−45603)が入ったディスポカラムに上記糖鎖溶液20μLおよび180μLの2%酢酸/アセトニトリル溶液を加え、80℃で1時間反応させた。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発し粒子が乾固した状態であることを
目視で確認した。0.5%Tween20水溶液で洗浄後、さらに水、トリエチルアミン溶液にて粒子を洗浄した。続いて10%無水酢酸/メタノールを添加し、室温で30分間反応させ、未反応のヒドラジド基をキャッピングした。キャッピング後、水にて粒子を洗浄した。
【0041】
続いて、粒子の入ったディスポカラムに超純水20μLおよび2%酢酸/アセトニトリ
ル溶液180μLを加え、70℃で1.5時間反応させ、糖鎖捕捉用担体から糖鎖を遊離した。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発し粒子が乾固した状態であることを目視で確認した。
【0042】
(糖鎖の回収)
乾固した粒子に水50μLを加え、溶液のみを回収した。同様の操作をさらに2回実施し、合計150μLの糖鎖溶液を得た。
【0043】
(糖鎖の検出)
得られた糖鎖溶液を得られた糖鎖サンプルをマトリックス支援レーザーイオン化−飛行時間型質量分析器(MALDI-TOF-MS)(MALDI-TOF-MS, Bruker社製 'autoflex III')によ
り分析した。マトリックスには2,5-ジヒドロキシ安息香酸を用いた。測定結果を図1(下段)に示す。
【0044】
<比較例>
(糖鎖サンプルの調整)
実施例と同様に実施。
【0045】
(糖鎖捕捉担体による糖鎖精製)
粒子の洗浄に用いる洗浄液を0.5%Tween20水溶液からグアニジン塩酸塩水溶液に変更した以外は実施例に同じ。
【0046】
(糖鎖の回収)
実施例と同様に実施。
【0047】
(糖鎖の検出)
実施例と同様に実施。測定結果を図1の上段に示す。
【0048】
(効果)
グアニジン塩酸塩水溶液による洗浄では除き切れなかった、夾雑物ピークをTween20による洗浄によって排除することができる。


図1