(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電機子巻線を有する電機子と、前記電機子と相対的に回転する界磁たる回転子と含む回転電動機に対し、前記界磁が発生する界磁磁束(Λ0)と、前記電機子に流れる電機子電流([I])によって発生する電機子反作用の磁束(id・Ld,iq・Lq)との合成である一次磁束([λ1])を制御する装置であって、
前記電機子電流を、前記回転子の回転に対して所定の位相(φc)を有する回転座標系(δc−γc)における第1電流([i])に変換する第1座標変換部(101)と、
前記回転電動機の電圧方程式に基づいて、前記一次磁束の指令値たる一次磁束指令値([Λ1*])による誘起電圧(ω*・[Λ1*])と、前記第1電流による電圧降下({R}[i])との和として前記回転電動機に印加する電圧の、前記回転座標系における指令値たる第1電圧指令値([v*])として求める計算部(102A〜102D)と、
前記第1電圧指令値を座標変換して、前記回転電動機に印加する電圧の他の座標系における指令値たる第2電圧指令値([V*])へ変換する第2座標変換部(104)と
を備え、
前記電機子巻線の抵抗値は、前記一次磁束の前記一次磁束指令値に対する偏差([ΔΛ])に基づいて補正される、電動機制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[想定値と実値との乖離]
実施の形態について詳細な説明を行う前に、電機子巻線の抵抗値について、想定値と実値とが乖離した場合の一次磁束制御の振る舞いについて簡単に説明する。
【0031】
図1は、一次磁束制御を説明するベクトル図である。なお、ベクトル[λ1],[Λ1*],はそれぞれ一次磁束、一次磁束指令値を示す。
【0032】
一次磁束制御では、界磁磁束の位相を基準としたd−q座標系(d軸は界磁磁束と同相、q軸はd軸に対して90度進相)に対して(つまり回転電動機の回転子の回転に対して)位相差φcで進相となるδc−γc座標系を設定する。そして一次磁束と同相のδ軸にδc軸が一致するように、回転電動機に対して印加する電圧を調節する。
【0033】
δc−γc座標系において、当該電圧及びその指令値(以下「電圧指令値」と称す)をそれぞれベクトル[v],[v*]で表すと、電圧指令値[v*]に一致するように電圧[v]が制御される。
【0034】
しかしながら、以下に説明するように、[v]=[v*]が実現されても、想定値と実値との乖離があれば一次磁束は一次磁束指令値と一致しない。
【0035】
δc−γc座標系において、電機子巻線の抵抗値の実値及び想定値をそれぞれテンソル量{R0}、{R}で示し、回転電動機に流れる電流をベクトル[i]で表す。想定値と実値との乖離があれば{R0}≠{R}であるので、電機子巻線における電圧降下は、一次磁束制御における推定値{R}[i]と、実際に生じている値{R0}[i]とは相違する。
図1では電機子巻線の抵抗値について、想定値よりも実値が大きい場合が例示されている。
【0036】
回転電動機の回転角速度ωの指令値(以下「回転角速度指令値」と称す)ω*を導入すると、一次磁束指令値[Λ1*]はδc軸において正値Λδ*(これは一次磁束指令値[Λ1*]の大きさ(振幅)でもある)を採るので、これによる誘起電圧ω*[Λ1*]が大きさω*・Λδ*を持ってγc軸上において現れる。
【0037】
よって制御においては、当該誘起電圧ω*[Λ1*]と、電圧降下{R}[i]とのベクトルの和として電圧指令値[v*]が計算される。しかしながら、かかる電圧指令値[v*]に一致する電圧[v]が回転電動機に印加される状態では、実際にはδc軸のd軸に対する位相差φcと、δ軸のd軸に対する負荷角φとが相違することになる。
【0038】
具体的には、一次磁束[λ1]はδ軸において正値Λδ(これは一次磁束指令[λ1]の大きさ(振幅)でもある)を採り、一次磁束による誘起電圧ω[λ1]が大きさω・Λδを持ってγ軸上において現れる。よって回転電動機の電圧方程式に基づいた下式(1)において、一次磁束指令値と一次磁束とが相違したまま[v]=[v*]とする制御が実現されることになる。ここで微分演算子sを導入した。
【0040】
上記に鑑みて、以下の実施の形態では、想定値{R}を実値{R0}へと近づける補正を提案する。具体的には、一次磁束と一次磁束指令値との偏差(以下「磁束偏差」と称する)[ΔΛ]=[−λ1γc Λδ*−λ1δc]
t(括弧の中で先に示した成分がγc軸成分を、後に示した成分がδc軸成分をそれぞれ示し、括弧の後の上付の“t”は行列の転置を示す:特に断らない限り、以下同様)に基づいて、上記補正を行う。また、一次磁束指令値が採る正値Λδ*と一次磁束が採る正値Λδとの差(以下「振幅差」と称す)(Λδ*−Λδ)に基づいて、上記補正を行う。これら磁束偏差、振幅差は、いずれも、一次磁束[λ1]の、一次磁束指令値[Λ1*]に対して相違する量であると把握することができる。
【0041】
[第1の実施の形態]
今、一次磁束制御が正常には行われないものの、定常状態で回転電動機が回転している場合を想定すれば、回転角速度ωと回転角速度指令値ω*とは一致し、微分演算子による演算結果は零となる。テンソル量{R},{R0}はいずれも非対角成分は零であり、対角成分はそれぞれ想定値R、実値R0を有する。更に、[i]=[iγc iδc]
t、[λ1]=[λ1γc λ1δc]
t、[Λ1*]=[0 Λδ*]
t(を導入すると、式(1)において[v]=[v*]のとき、式(2)が得られる。
【0043】
なお、λ1δc=Λδcos(φ−φc)、λ1γc=Λδsin(φ−φc)である。
【0044】
このようにして、{R0}≠{R}であれば、[v]=[v*]が実現されても、λ1δc≠Λδ*及び/又はλ1γc≠0となって、適切な一次磁束制御が行えない。
【0045】
式(2)から下式(3)が得られる。他方、正しく一次制御が行わせるためには下式(4)を成立させる必要がある(電圧指令値[v*]=[vγc* vδc*]
tを導入した)。よって式(4)に対して、式(3)の関係を導入することにより、想定値{R}を用いて正しく一次制御を行わせるための下式(5)を得る。式(5)を更に変形すると下式(6)が得られる。更に磁束偏差[ΔΛ]及び電流[i]を導入して下式(7)が得られる。但し行ベクトル[H]=[ω/iγc ω/iδc]及び、行列に対する演算DIAGを導入した。ここで演算DIAG({Q})は行列{Q}の非対角要素を零に置換して対角要素のみを抽出する演算を行う。
【0047】
式(7)において、電流[i]の係数として表される行列の第2項が、想定値{R}から実値{R0}を得るための補正量を表している。換言すれば、磁束偏差[ΔΛ]に基づいて、想定値Rが実値R0へと補正されたことになる。
【0048】
式(6)に即して言えば、電機子巻線の抵抗値は、その想定値のγc軸成分に対して、一次磁束指令値Λδ*から一次磁束のδc軸成分λ1δcを減じた差に、回転角速度ωを乗じ、更に電流のγc軸成分iγcで除した値を加えて補正される。また電機子巻線の抵抗値は、その想定値のδc軸成分に対して、0(これは一次磁束指令値のγc軸成分と把握できる)から一次磁束のγc軸成分λ1γcを減じた差に回転角速度ωを乗じ、更に電流のδc軸成分iδcで除した値を加えて補正される。
【0049】
以下、かかる補正を実質的に実現する構成について説明する。
図2は本実施の形態にかかる電動機制御装置1の構成及びその周辺装置を示すブロック図である。
【0050】
回転電動機3は不図示の電機子と、界磁を備える。技術的な常識として、電機子は電機子巻線を有する。回転電動機3は例えば埋込磁石型の三相の電動機であり、界磁には界磁磁石が埋め込まれる。
【0051】
電圧供給源2は例えば電圧制御型インバータ及びその制御部を備え、三相の電圧指令値[V*]=[Vu* Vv* Vw*]
tに基づいて、三相電圧を回転電動機3に印加する。これにより、回転電動機3には三相電流[I]=[Iu Iv Iw]
tが流れる。但し、電圧指令値[V*]や三相電流[I]が有する成分は、例えばU相成分、V相成分、W相成分の順に記載されている。
【0052】
電動機制御装置1は、回転電動機3に対し、一次磁束[λ1]及び回転速度(以下の例では回転角速度)を制御する装置である。本実施の形態において一次磁束[λ1]は可観測値、あるいは既に推定済みの値として取り扱う。
【0053】
電動機制御装置1は、第1座標変換部101と、第1計算部102と、第2座標変換部104と、積分器106とを備えている。
【0054】
第1座標変換部101は、三相電流[I]を、一次磁束制御を行うδc−γc回転座標系における電流[i]に変換する。
【0055】
第1計算部102はδc−γc回転座標系における電圧指令値[v*]を求める。
【0056】
第2座標変換部104は、電圧指令値[v*]を座標変換して、回転電動機3に印加する電圧の他の座標系における電圧指令値[V*]へ変換する。この「他の座標系」は例えばd−q回転座標系であっても良いし、α−β固定座標系(例えばα軸はU相と同相に設定される)であっても良いし、UVW固定座標系であっても良いし、極座標系であっても良い。いずれの座標系を「他の座標系」として採用するかは、電圧供給源2がどのような制御を行うかに依存する。例えば電圧指令値[V*]がα−β固定座標系で設定される場合、[V*]=[Vα* Vβ*](但し先に示された成分がα軸成分であり、後に示された成分はβ軸成分である)となる。以下では特に断らない限り、電圧指令値[V*]をUVW固定座標系で考察する。
【0057】
積分器106は回転角速度ωに基づいて、δc軸のα軸に対する位相θを計算する。位相θに基づいて、第1座標変換部101及び第2座標変換部104は、上述の座標変換を行うことができる。回転角速度ωは、減算器109の出力として得られる。電流のγc軸成分iγcをハイパスフィルタ110で直流分を除去し、更に定数倍部108で所定ゲインKm倍した値が、減算器109によって回転角速度の指令値ω*から差し引かれて、回転角速度ωが得られる。電圧[v]が安定に制御されていれば、ω=ω*となる。
【0058】
図3は、第1計算部102として採用される第1計算部102Aの構成を示すブロック図である。図中、円で囲まれた×は乗算器を、円で囲まれた+は加算器を、+−が付記された円は減算器を、それぞれ示している。想定値R、γc軸での一次磁束指令値(=0)は既知であるので、第1計算部102Aにおいて設定することができる。
【0059】
式(6)では、想定値{R}と磁束偏差[ΔΛ]とを用いて実値{R0}を表した。しかし式(6)で示された計算をその通りに実行すると、電機子電流iγc、iδcで一旦除算された値に対して更に乗算が施されることになり、演算が冗長である。そこで第1計算部102Aでは式(6)と等価な式(5)に基づいて、電圧指令値[v*]を求める構成を採用する。
【0060】
具体的には、第1計算部102Aは一次磁束指令値[Λ1*]=[0 Λδ*]
tを入力する。また一次磁束[λ1]=[λ1γc λ1δc]
tをも入力し、減算器によって値(−λ1γc)(=0−λ1γc)を生成する。更に減算器によって値(Λδ−λ1δc)も生成される。
【0061】
更に乗算器によって回転角速度ωが値(−λ1γc),(Λδ*−λ1δc)、一次磁束指令値Λδ*にそれぞれ乗算され、それぞれ加算器1021,1022,1023に与えられる。
【0062】
第1計算部102Aは電流[i]=[iγc iδc]
tも入力し、乗算器によってそれぞれ想定値Rが乗じられ、値R・iγc、R・iδcが生成される。値R・iγc、R・iδcは、それぞれ加算器1022,1021に与えられる。
【0063】
加算器1022によって値(R・iγc+ω(Λδ*−λ1δc))が生成され、これが加算器1023に与えられる。加算器1023は加算結果(ω・Λδ*+(R・iγc+ω(Λδ*−λ1δc)))を生成し、これが電圧指令値[v*]のγc軸成分vγc*として、第1計算部102Aから出力される。加算器1021によって値(R・iδc−ω・λ1γc)が生成され、これが電圧指令値[v*]のδc軸成分vδc*として、第1計算部102Aから出力される。
【0064】
[第2の実施の形態]
式(1)から理解されるように、想定値{R}と実値{R0}とが相違することで、一次磁束指令値[Λ1*]と一次磁束[λ1]とが相違しつつ、電圧指令値[v*]と電圧[v]とを一致させる制御が行われる。換言すれば、磁束偏差[ΔΛ]が小さくなるように想定値{R}を補正すればよい。
【0065】
図1から、実値R0が想定値Rより大きい場合に、磁束偏差[ΔΛ]のδc軸成分(Λδ*−λ1δc)は、正となることが判る。実値R0が想定値Rと等しければ、[v*]=[v]とする制御によって当該δc軸成分(Λδ*−λ1δc)は零となる。よってδc軸成分(Λδ*−λ1δc)が大きいほど、想定値Rを増大させる補正を行うことで、δc軸成分(Λδ*−λ1δc)が減少することになる。
【0066】
同様に、実値R0が想定値Rより大きい場合に、磁束偏差[ΔΛ]のγc軸成分(−λ1γc)(=0−λ1γc)は、負となることが判る。実値R0が想定値Rと等しければ、[v*]=[v]とする制御によって当該γc軸成分(−λ1γc)は零となる。よってγc軸成分(−λ1γc)が小さいほど、想定値Rを増大させる補正を行うことで、γc軸成分(−λ1γc)が増大することになる。
【0067】
かかる補正を行うため、本実施の形態では磁束偏差[ΔΛ]に基づいて、とりわけ、それぞれのδc軸成分、γc軸成分のすくなくともいずれか一方に着目して、想定値Rを補正する技術を提案する。
【0068】
図4は第1計算部102として採用される第1計算部102Bの構成を示すブロック図である。図中、乗算器、は加算器、減算器の表記は
図3に倣った。
【0069】
第1計算部102Bは、減算器によって磁束偏差[ΔΛ]のδc軸成分(Λδ*−λ1δc)を求める。δc軸成分(Λδ*−λ1δc)はゲインKδp(>0),Kδi(>0)を用いた比例積分項(Kδp+Kδi/s)を用いて比例積分演算が施され、その演算結果は加算器によって想定値Rに加算される。これにより電機子巻線の抵抗値の推定値R^が得られる。つまり一次磁束指令値Λδ*から一次磁束のδc軸成分λ1δcを減じた差に、比例積分演算を行って得られる補正値を加えて、電機子巻線の抵抗値が補正される。
【0070】
第1計算部102Bにおいて乗算器を用いることにより、回転角速度ωと一次磁束指令値Λδ*との積ω・Λδ*、推定値R^と電流[i]のγc軸成分iγc、δc軸成分iδcとの積R^・iγc,R^・iδcが得られる。そして積R^・iδcが電圧指令値[v*]のδc軸成分vδc*として、第1計算部102Bから出力される。また積R^・iγcと積ω・Λδ*との和(R^・iγc+ω・Λδ*)が電圧指令値[v*]のγc軸成分vγc*として、第1計算部102Bから出力される。
【0071】
上記の説明では、推定値R^を得るために比例積分演算を行う場合について例示した。積分演算を採用することは、磁束偏差[ΔΛ]のδc軸成分(Λδ*−λ1δc)が過渡的に増大することを抑制しつつ、これを減少させるために好適である。もちろん、δc軸成分(Λδ*−λ1δc)を減少させるための時間を短縮するために、更に微分演算を用いて、比例積分微分演算を行ってもよい。あるいは単に積分演算のみ、比例演算のみを行ってもよい。
【0072】
図5は第1計算部102として採用される第1計算部102Cの構成を示すブロック図である。図中、乗算器、加算器、減算器の表記は
図3に倣った。
【0073】
第1計算部102Cは、一次磁束[λ1]のγc軸成分λ1γcを入力する。そして一次磁束のγc軸成分λ1γcを一次磁束指令のγc軸成分と把握できる0から差し引いた値(−λ1γc)は符号反転器1024に入力される。
【0074】
符号反転器1024は制御信号Detの値に依存して、入力した値(−λ1γc)の符号を維持/反転する。具体的には、後述するように制御信号Detは値“+1”,“−1”のいずれかを採る。符号反転器1024は制御信号Detが値“+1”を採れば値(−λ1γc)を出力し、制御信号Detが値“−1”を採れば値λ1γcを出力する。
【0075】
符号反転器1024の出力はゲインKγp(>0),Kγi(>0)を用いた比例積分項(Kγp+Kγi/s)を用いて比例積分演算が施され、その演算結果は加算器によって想定値Rに加算される。これにより電機子巻線の抵抗値の推定値R^が得られる。
【0076】
上述のような符号反転器1024における処理は下記の事項に由来する。即ち、磁束偏差のγc軸成分たる値(−λ1γc)についての比例積分演算(上述の通りKγ>0とする)の結果を想定値Rに加算するか減算するかは、電圧[v]と電流[i]との位相関係によって相違する。
図1で示された場合では電圧[v]よりも電流[i]の方が遅相であるので減算を行う。他方、
図12に示される場合では電圧[v]よりも電流[i]の方が進相であるので加算を行う(いずれも磁束偏差のγc軸成分(−λ1γc)を一旦生成して比例積分演算をする場合)。
【0077】
磁束偏差[ΔΛ]に基づいて抵抗値を補正するという考えからは、磁束偏差のγc軸成分(−λ1γc)を一旦生成し、これに対して正のゲインを有する比例積分演算を行って想定値Rに加減算を行うことになる。しかしそのような演算では減算処理が増えてしまうので、一次磁束[λ1]のγc軸成分λ1γcに対して比例積分演算を行った結果を、電圧[v]よりも電流[i]の方が遅相であれば加算し、電圧[v]よりも電流[i]の方が進相であれば減算してもよい。
【0078】
このような電圧[v]と電流[i]との位相の関係を得るために、第1計算部102Cにおいて座標変換器1025,1026、逆正接処理部1027,1028及び比較器1029が設けられる。また
図2の第1計算部102には示されていなかったが、第1計算部102Cには電圧指令値[V*]及び電流[I]が入力する。
【0079】
座標変換器1025は電圧指令値[V*]を三相/二相変換する。具体的にはUVW相と、α−β固定座標系の座標変換を行ってα相電圧指令値Vα*、β相電圧指令値Vβ*を得る。例えばこのような三相/二相変換は下式で求められる。
【0081】
同様にして、座標変換器1026は電流[I]を三相/二相変換する。具体的にはUVW相と、α−β固定座標系の座標変換を行ってα相電流Iα、β相電流Iβを得る。
【0082】
逆正接処理部1027は比Vβα*/Vα*の逆正接値Θvを、逆正接処理部1028は比Iβα/Iαの逆正接値Θiを、それぞれ求める。
【0083】
比較器1029は逆正接値Θv,Θiを比較する。電圧[v]に対する電流[i]の位相差は、差(Θi−Θv)であると推察される。よってΘi<Θvであれば電流[i]が電圧[v]よりも遅相であると推察され(
図1の場合に相当)、符号反転器1024に自身へ入力した値の符号を反転させる。Θi>Θvであれば電流[i]が電圧[v]よりも進相であると推察され(
図12の場合に相当)、符号反転器1024に自身へ入力した値の符号を維持させる。
【0084】
例えば比較器1029が上述の制御信号Detを出力する。制御信号Detは差(Θi−Θv)が正であれば値(+1)を、負であれば値(−1)を、それぞれ出力する。
【0085】
第1計算部102Cにおいても、第1計算部102Bと同様にして、推定値R^を用いて、積R^・iδcが電圧指令値[v*]のδc軸成分vδc*として、和(R^・iγc+ω・Λδ*)が電圧指令値[v*]のγc軸成分vγc*として、それぞれ出力される。
【0086】
上記の説明では推定値R^を得るために比例積分演算を行う場合について例示した。積分演算を採用することは、磁束偏差[ΔΛ]のγc軸成分(−λ1γc)が過渡的に増大することを抑制しつつ、これを減少させるために好適である。もちろん、γc軸成分(−λ1γc)を減少させるための時間を短縮するために、更に微分演算を用いて、比例積分微分演算を行ってもよい。あるいは単に積分演算のみ、比例演算のみを行ってもよい。
【0087】
また、電圧[V]が実測できるのであれば、電圧指令値[V*]の代わりに電圧[V]を用いて逆正接値Θvを得てもよい。あるいは図示されない構成において、電流[i]や電圧[v]の共通の座標系における位相が得られている場合、それらを用いて制御信号Detを得てもよい。
【0088】
[第3の実施の形態]
第2の実施の形態で説明したように、一次磁束指令値[Λ1*]と一次磁束[λ1]との相違が小さくなるように想定値{R}を補正すればよい。かかる補正を行うため、本実施の形態では振幅差(Λδ*−Λδ)に基づいて、想定値Rを補正する技術を提案する。
【0089】
図6は第1計算部102として採用される第1計算部102Dの構成を示すブロック図である。図中、乗算器、加算器、減算器の表記は
図3に倣った。
【0090】
第1計算部102Dは、一次磁束[λ1]=[λ1γc λ1δc]
tを入力し、その大きさである振幅√(λ1δc
2+λ1γc
2)を求める。
図6ではこの振幅を求める演算を積和演算部ABSによって行うことを例示している。
図1から判るように、これは一次磁束[λ1]がδ軸においてとる正値Λδ(これは一次磁束[λ1]の大きさでもある)と等しい。よって減算器によって値(Λδ*−√(λ1δc
2+λ1γc
2))として振幅差(Λδ*−Λδ)を得ることができる。
【0091】
そして振幅差(Λδ*−Λδ)はゲインKmp(>0),Kmi(>0)を用いた比例積分項(Kmp+Kmi/s)を用いて比例積分演算が施され、その演算結果は加算器によって想定値Rに加算される。これにより電機子巻線の抵抗値の推定値R^が得られる。
【0092】
第1計算部102Dにおいても、第1計算部102B,102Cと同様にして、推定値R^を用いて、積R^・iδcが電圧指令値[v*]のδc軸成分vδc*として、和(R^・iγc+ω・Λδ*)が電圧指令値[v*]のγc軸成分vγc*として、それぞれ出力される。
【0093】
なお、本実施の形態において推定値R^を得るために比例積分演算を行う場合について例示した。積分演算を採用することは、振幅差(Λδ*−Λδ)を、これが過渡的に増大することを抑制しつつ、減少させるために好適である。もちろん、振幅差(Λδ*−Λδ)を減少させるための時間を短縮するために、更に微分演算を用いて、比例積分微分演算を行ってもよい。あるいは単に積分演算のみ、比例演算のみを行ってもよい。
【0094】
[第4の実施の形態]
第1の実施の形態及び第2の実施の形態で説明されたように、適切な一次制御を行うためには磁束偏差[ΔΛ]を用いて電機子巻線の抵抗値を補正することが望ましい。しかし、磁束偏差[ΔΛ]を用いた補正の対象は、電機子巻線の抵抗値に限定されるものではない。
【0095】
下式(8)は、式(7)の右辺に対して、新たな補正項として第3項{G}[ΔΛ]を追加したものである。第3項は磁束偏差[ΔΛ]を用いた電圧指令値[v*]へのフィードバック項であると把握することができる。
【0097】
磁束偏差[ΔΛ]に対して演算を行う行列{G}の各成分Gγγ,Gγδ,Gδγ,Gδδは、少なくともいずれか一つが非零である。即ち行列{G}は非零行列である。
【0098】
例えば行列{G}を構成する列ベクトル[Gγγ Gδγ]
tの二要素のいずれもが非零であれば、磁束偏差のγc軸成分(−λ1γc)をγc軸及びδc軸の両方について電圧指令値[v*]にフィードバックできる。あるいは[Gγδ Gδδ]
tの二要素のいずれもが非零であれば、磁束偏差のδc軸成分(Λδ*−λ1δc)をγc軸及びδc軸の両方について電圧指令値[v*]にフィードバックできる。
【0099】
また、列ベクトル[Gγγ Gδγ]
t、[Gγδ Gδδ]
tのいずれもが非零ベクトルであれば、両軸の磁束成分をフィードバックできるので、制御系の安定性、及び、応答性が向上する。
【0100】
このように、磁束偏差[ΔΛ]を用いた電圧指令値[v*]へのフィードバックを、磁束偏差[ΔΛ]を用いた電機子巻線の抵抗値の補正と併用することができる。
【0101】
図7は、本実施の形態で採用される、電動機制御装置1の構成及びその周辺装置を示すブロック図である。
図2で示された第1の実施の形態における電動機制御装置1の構成に対し、第2計算部103が、第1計算部102と第2座標変換部104との間に介在して設けられている。第2計算部103は第1計算部102からの演算結果(これは第1乃至第3の実施の形態においては電圧指令値[v*]として採用されていた)に対し、フィードバック項{G}[ΔΛ]を加算して電圧指令値[v*]として出力する。
【0102】
具体的には、第2計算部103は一次磁束[λ1]、一次磁束指令値[Λ1*]とを入力し、磁束偏差[ΔΛ]を求める。そして磁束偏差[ΔΛ]に対して行列{G}を用いた演算を行い、フィードバック項{G}[ΔΛ]を求める。そして第1計算部102からの演算結果に対してフィードバック項{G}[ΔΛ]を加算し、その結果を電圧指令値[v*]として出力する。
【0103】
磁束偏差[ΔΛ]は、一次磁束[λ1]、一次磁束指令値[Λ1*]を入力する第1計算部102によって求められ、第2計算部103に入力してもよい。この場合、当然、第2計算部103への一次磁束[λ1]、一次磁束指令値[Λ1*]の入力を省略することができる。
【0104】
また、行列{G}は第2計算部103が予め有していてもよいし、外部から与えられてもよい。
図7では行列{G}は第2計算部103が予め有している場合を例示した。
【0105】
[第5の実施の形態]
第1乃至第4の実施の形態において、電動機制御装置1は与えられた一次磁束に基づいて電圧指令値[v*]を求める態様が説明された。しかしながら、一次磁束の推定値[λ1^]を用いても、同様にして電圧指令値[v*]を求めることができる。
【0106】
本実施の形態及び第6の実施の形態では、一次磁束の推定値[λ1^]を、具体的に求める技術について説明する。もちろん、下記で説明される技術以外の方法で一次磁束の推定値[λ1^]を求め、これを第1乃至第4の実施の形態における一次磁束[λ1]として採用し、それぞれの実施の形態を実施することができる。
【0107】
本実施の形態における電動機制御装置1の構成は、
図8に示されるように、第1の実施の形態における電動機制御装置1の構成に対して、一次磁束推定部105を更に備える。もちろん、第4の実施の形態で説明された第2計算部103を更に有していてもよい。第1計算部102は、一次磁束[λ1]としてその推定値[λ1^]を採用する。
【0108】
一般に、界磁磁束Λ0の位相をd軸に採用し、これに対して90度進相のq軸を想定する。このようなd−q回転座標系が角速度ωで回転するとき、回転電動機に印加される電圧のd軸成分たるd軸電圧vd、回転電動機に印加される電圧のq軸成分たるq軸電圧vq、電機子巻線のインダクタンスのd軸成分たるd軸インダクタンスLd、電機子巻線のインダクタンスのq軸成分たるq軸インダクタンスLq、微分演算子sを導入すると、下式(9)が成立する。
【0110】
上式をd軸に対して位相差ψを維持しつつ回転するξ軸及びξ軸に対して90度進相するη軸を有するξ−η回転座標系で表すと、下式(10)(11)(12)が成立する。但し電機子電流のξ軸成分iξ、電機子電流のη軸成分iη、回転電動機に印加される電圧のξ軸成分vξ、η軸成分vη、一次磁束のξ軸成分λξ、η軸成分λη、を導入した。ここで、一次磁束制御がされているという前提はない。
【0112】
式(11)の右辺第1項は電機子電流が流れることによって発生する磁束(電機子反作用)であり、第2項は界磁磁束Λ0が寄与する磁束である。
【0113】
式(10)(11)(12)は位相差ψに拘わらず成立するので、当該位相差ψを位相差φcに置き換えても、つまりξ−η回転座標系をδc−γc回転座標系に置き換えても、式(10)(11)(12)が意味するところは変わらない。d軸に対して負荷角φを有する実際の一次磁束Λδの位相をδ軸に採るので、上記の置き換えにより、式(11)の値λξは一次磁束Λδのδc軸成分λ1δcを、値ληは一次磁束Λδのγc軸成分λ1γcを、それぞれ示すことになる。このときのベクトル図を
図9に示す。
【0114】
よって位相差φcと、d軸インダクタンスLdと、q軸インダクタンスLqと、電機子電流iγc,iδcと、界磁磁束Λ0とから、一次磁束λ1の推定値[λ1^]=[λ1γc^ λ1δc^]
tを下式(13)(14)で求める。
【0116】
ここで界磁磁束Λ0をδc−γc回転座標系において表現した界磁磁束ベクトル[Λ0]=[−Λ0・sinφc Λ0・cosφc]
tを導入した。
【0117】
また式(13)の行列{L}は式(14)の右辺第1項の電流ベクトル[iγc iδc]
tの係数であって、電機子巻線のインダクタンスをδc−γc回転座標系において表現したテンソルであると把握することができる。回転電動機に突極性がない場合にはLd=Lqであるので、式(14)から明白なように、行列{L}は非対角成分が零となる。換言すれば、式(14)は突極性がある回転電動機にも採用できる。
【0118】
式(13)(14)のそれぞれの右辺第1項はいずれも電機子反作用による磁束として把握することができる。
【0119】
なお、位相差φcは式(15)に基づいて推定された値を採用することもできる。但しこの際、用いられる電圧vγc,vδcは、既に求められた電圧指令値vγc*,vδc*を採用し、新たな位相差φcの推定に用いてもよい。
【0120】
図10は一次磁束推定部105の構造を例示するブロック図である。一次磁束推定部105は、遅延部105a、負荷角推定部105b、電機子反作用推定部105c、界磁磁束ベクトル生成部105d、加算器105eを備えている。
【0121】
電機子反作用推定部105cは位相差φcと、d軸インダクタンスLdと、q軸インダクタンスLqと、電機子電流iγc,iδcとを入力し、式(14)の右辺第1項を計算する。
図10では式(13)の右辺第1項の表現{L}[i]を用いており、γc軸成分とδc軸成分との二つの値が出力されることを二つの斜線で示している。
【0122】
界磁磁束ベクトル生成部105dは界磁磁束Λ0を入力し、式(14)の右辺第2項を計算する。
図10では式(13)の右辺第2項の表現{Λ0]を用いており、γc軸成分とδc軸成分との二つの値が出力されることを二つの斜線で示している。
【0123】
加算器105eはγc軸成分とδc軸成分との二つの成分のそれぞれにおいて加算を行うことによって、式(13)(14)のそれぞれの右辺の第1項と第2項の加算を実現し、一次磁束の推定値[λ1^]を出力する。
【0124】
なお、位相差φcを推定する場合には、一つ前の制御タイミングにおいて第2計算部103で求められた電圧指令値vγc*,vδc*を用いる。換言すれば、第2計算部103で求められた電圧指令値vγc*,vδc*を、遅延部105aによって遅延し、一つ後の制御タイミングにおいて負荷角推定部105bで式(15)に従って位相差φcが計算される。なお、一つ前の制御タイミングにおいて求められた電圧指令値vγc*,vδc*を採用するのではなく、現時点で得られている電圧指令値vγc*,vδc*を採用してもよい。この場合には遅延部105aを省略することができる。
【0125】
本実施の形態によれば、一次磁束の直接的な検出が不要となる。また突極性の有無に拘わらずに一次磁束を推定でき、第1乃至第4の実施の形態の実施に資する。
【0126】
[第6の実施の形態]
一次磁束[λ1]の、第5の実施の形態で示された手法以外の手法による推定を以下に種々例示する。
【0127】
図9を参照して、内部誘起電圧ω・Λδのγc軸成分(vγc−R・iγc)、δc軸成分(vδc−R・iδc)を考慮すると、推定値λ1γc^,λ1δc^はそれぞれ、−(vδc−R・iδc)/ω,(vγc−R・iγc)/ωで得られる。
【0128】
また、一次磁束Λδの推定値Λδ^が得られていれば、
図9を参照してχ=φ−φcとおいて、角度χの推定値χ^は式(16)で求められる。
【0130】
よって推定値λ1γc^,λ1δc^はそれぞれ、−sin(χ^)・Λδ^,cos(χ^)・Λδ^で得られる。
【0131】
さて、一次磁束Λδの推定値Λδ^は例えば回転電動機3のα−β固定座標系における一次磁束の推定値を用いて計算することができる。ここでα−β固定座標系はα軸とβ軸とを有し、β軸をα軸に対して90度進相の位相において採用する。既述のように、例えばα軸はU相と同相に選定される。
【0132】
一次磁束Λδの推定値Λδ^のα軸成分λ1α^、β軸成分λ1β^を導入すると、一次磁束Λδの推定値Λδ^は式(17)で求められる。
【0134】
さて、α軸成分λ1α^、β軸成分λ1β^は式(18)に示されるように、内部誘起電圧ω・Λδのα軸成分V0α、β軸成分V0βの時間についての積分で求められる。α軸成分V0αは、外部で観測される印加電圧V(あるいはその指令値[V*])のα軸成分Vαと、回転電動機3に流れる電流のα軸成分iαから、Vα−R・iαとして計算できる。同様に、β軸成分V0βは、外部で観測される印加電圧Vのβ軸成分Vβと、回転電動機3に流れる電流[I]のβ軸成分iβから、Vβ−R・iβとして計算できる。印加電圧Vは例えば
図4に即して言えば、電圧供給源2から回転電動機3へ供給される三相電圧から得ることができる。
【0136】
なお、α軸成分λ1α^、β軸成分λ1β^が得られる場合には、他の手法で推定値λ1γc^,λ1δc^を得ることもできる。即ち、δc軸のα軸に対する位相θを用いて式(19)で推定値λ1γc^,λ1δc^が得られる。
【0138】
またα軸成分λ1α^、β軸成分λ1β^は他の手法によって得ることもできる。上述のように、印加電圧Vは電圧供給源2から回転電動機3へ供給される三相電圧から得ることができるのであるから、そのU相成分Vu、V相成分Vv、W相成分Vwが測定可能である。また上述のように、回転電動機3に流れる三相電流Iu,Iv,Iwが測定可能である。よって一次磁束Λδの推定値Λδ^のU相成分λ1u^、V相成分λ1v^、W相成分λ1w^は式(18)と同様にして下式(20)で求められる。
【0140】
UVW相と、α−β固定座標系の座標変換を行ってα軸成分λ1α^、β軸成分λ1β^が下式(21)から得られる。よって更に式(19)を用いて推定値λ1γc^,λ1δc^を得ることができる。
【0142】
但し、式(18)、(20)の積分計算において完全積分を行うと、直流成分が重畳して磁束推定の誤差が大きくなる。よって公知の不完全積分を行うことが望ましい。
【0143】
式(11)の代わりに、以下のようにして位相差φcを推定することができる。
図11は
図9と対応しているが、新たにq’軸を採用している。ここでq’軸は電圧V’と同相に選定される。電圧V’は、一次磁束による誘起電圧ω・Λδと、δc軸成分ω・Ld・iγc及びγc軸成分(−ω・Ld・iδc)成分を有する電圧との合成である。
【0144】
q’軸から見たγc軸の進相角度φc’と、q軸から見たq’軸の進相角度ζとを導入すると位相差φcの推定値は角度φc’,ζの和で求めることができる。そして角度φc’,ζはそれぞれ式(22),(23)で求められる。
【0146】
上記のいずれの実施の形態においても、電動機制御装置1はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。
【0147】
なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、電動機制御装置1はこれに限らず、電動機制御装置1によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。