(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸および4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸を含むテトラカルボン酸成分と、分子内にスルホン基を有するジアミン成分とから得られた芳香族ポリイミドを用いた非対称ガス分離中空糸膜が知られている。
【0003】
このような組成を有する中空糸膜として、特許文献1(特開平5−68859)には、ガスの高い選択透過性と優れた機械的性質を有しているガス分離膜が記載されているが、ガスの選択透過性能のうち代表的な分離係数α(P’O
2/P’N
2)が4.7〜4.9であり、さらに改善の必要があった。
【0004】
特許文献2(特開平6−254367)には、高い分離係数αを持つ優れたガス分離膜が記載されている。このガス分離膜は、窒素富化、酸素富化に好適であり、分離係数α(P’O
2/P’N
2)が5.3以上であるが、多くの例において、透過速度P’O
2が4.4以下と低く、モジュールとした時に透過速度P’O
2、P’N
2のバラツキから性能低下を引き起こしたり、またP’O
2、P’N
2が低い場合には過大な膜面積を必要としたりするため、効率的なモジュールの設計、製造が出来ないという欠点があった。特許文献2には、透過速度P’O
2の大きな例(実施例1)の記載もあるが、機械的物性の記載はない。この例のものは紡糸用ドープ液の溶液濃度が低く、分子量が比較的小さいため、膜の密度が小さいと考えられる。その結果、大きな透過速度P’O
2が得られるが、一方で機械的強度が不足する。特に、α≧5.3以上の性能を得るために330℃という高温で熱処理していることから、さらに破断伸度などの機械的物性が不足する。破断伸度が不足すると、中空糸膜を束ねて分離膜モジュールを作製する際に糸切れを起こしたり、性能の低下およびばらつきの原因になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非対称ガス分離中空糸膜は、可溶性の芳香族ポリイミドで形成され、主としてガス分離性能を担う極めて薄い緻密層(好ましくは厚さが0.001〜5μm)とその緻密層を支える比較的厚い多孔質層(好ましくは厚さが10〜2000μm)とからなる非対称構造を有する非対称ガス分離中空糸膜であって、優れたガス分離性能を有する。好ましくは、内径が10〜3000μmで外径が30〜7000μm程度の中空糸膜である。
【0012】
本発明の非対称ガス分離中空糸膜は、配向性指標が1.3以下である。配向性指標は、緻密層中のポリイミド分子の配向を示す指標であり、配向性指標が小さい中空糸は、酸素ガス透過速度P’O
2が大きく、また伸度が大きいことがわかった。このため、同じ分離係数α(P’O
2/P’N
2)で比較すると、配向性指標が小さい中空糸は、透過速度P’O
2が大きく、また伸度が大きく機械的特性に優れる。配向性指標の測定法については、実施例で説明する。
【0013】
また、40℃における酸素ガスと窒素ガスの透過速度の比を表す分離係数α(P’O
2/P’N
2)は、5.3以上、好ましくは5.6以上である。40℃における酸素ガス透過速度P’O
2は、好ましくは6.0×10
−5cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg以上、より好ましくは7.0×10
−5cm
3(STP)/cm
2・sec・cmHg以上である。
【0014】
さらに、伸度、即ち中空糸膜としての引張り破断伸度が、15%以上であり、好ましくは20%以上である。
【0015】
本発明の非対称ガス分離中空糸膜(以下、単に中空糸膜ともいう)を形成する芳香族ポリイミドは、前記一般式(1)の反復単位で示される。
【0016】
【化1】
[但し、一般式(1)中のAは、その25〜100モル%が式(2)
【0017】
【化2】
で示されるビフェニル構造に基づく4価のユニットで、0〜70モル%が式(3)
【0018】
【化3】
で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造に基づく4価のユニットで、0〜30モル%が式(4)
【0019】
【化4】
で示されるフェニル構造に基づく4価のユニットで、
一般式(1)中のRは、その30〜70モル%が式(5)
【0020】
【化5】
で示され、式(5)のR1及びR2が水素原子または低級アルキル基であるジフェニレンスルホン構造に基づく2価のユニットで、30〜70モル%が式(6)
【0021】
【化6】
で示され、式(6)のXは塩素原子又は臭素原子でnは1〜3であるビフェニル構造に基づく2価のユニットである。]
【0022】
本願発明において、テトラカルボン酸成分に由来する式(2)で示されるビフェニル構造に基づく4価のユニットとしては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸およびその酸無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸およびその酸無水物等のビフェニルテトラカルボン酸類の残基を例示することができる。式(2)で示されるビフェニル構造に基づく4価のユニットは、25〜100モル%、好ましくは30〜100モル%、より好ましくは30〜80モル%である。このビフェニルテトラカルボン酸類は、膜製造において欠陥のない薄膜形成、中空糸膜形成等を容易にし、その量が少なすぎると、製膜しにくかったり、欠陥が生じたりして実用に適さない。
【0023】
また、式(3)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造に基づく4価のユニットとしては、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンおよびその酸無水物等のジフェニルヘキサフルオロプロパン類の残基を例示することができる。式(3)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造に基づく4価のユニットは、0〜70モル%、好ましくは10〜60モル%、より好ましくは20〜50モル%である。このジフェニルヘキサフルオロプロパン類は、酸素の透過速度を大きくするのによい影響を与えるが、過度に多すぎると分離度が低下してくる。
【0024】
また本発明において、式(4)で示されるフェニル構造に基づく4価のユニットとしては、ピロメリット酸およびその酸無水物等のピロメリット酸類の残基を例示することができる。式(4)で示されるフェニル構造に基づく4価のユニットは、0〜30モル%、好ましくは10〜20モル%が好適である。このピロメリット酸類は、機械的性質を高めるうえで好適であるが、その量が多すぎると製膜時のポリマー溶液が凝固したり、不安定になって中空糸に形成が困難になる。
【0025】
本発明において、ジアミン成分に由来する式(5)で示されるジフェニレンスルホン構造に基づく2価のユニットとしては、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジエチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチル−ジフェニレンスルフォン等のジアミノジフェニレンスルフォン類の残基を例示することができる。式(5)で示されるジフェニレンスルホン構造に基づく2価のユニットは、30〜70モル%、好ましくは、30〜60モル%が好適である。このジアミノジフェニレンスルフォン類は、透過性の向上作用があるが、多すぎると分離度が低下する。
【0026】
また本願発明において、ジアミン成分に由来する式(6)で示されるビフェニル構造に基づく2価のユニットとしては2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、2,2’−ジクロロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジン、2,2’,5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’,5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’−ジブロモベンジジン、2,2’−ジブロモベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジン等のベンジジン類の残基を例示することができる。これらのなかでも式(6)のXが塩素原子であるベンジジンで、nが2のものが透過速度、分離度等からみて好適である。式(6)で示されるビフェニル構造に基づく2価のユニットは、30〜70モル%、好ましくは、30〜60モル%が好適である。このベンジジン類は、分離度の向上に寄与しているが、その量が多すぎるとポリマーが不溶になって製膜が困難になり、少なすぎると分離度が低下するので好ましくない。
【0027】
本願発明の非対称性中空糸ポリイミド気体分離膜は、実質的に前記テトラカルボン酸成分とジアミン成分とに由来する一般式(1)の反復単位を有することによって、その作用効果を奏するが、本願発明の課題を逸脱しない範囲において他のテトラカルボン酸成分とジアミン成分に由来するユニットが含まれていてもよい。他のテトラカルボン酸成分としては、例えばジフェニルエ−テルテトラカルボン酸類、ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類、ナフタレンテトラカルボン酸類、ジフェニルメタンテトラカルボン酸類、ジフェニルプロパンテトラカルボン類等を挙げることができる。またその他のジアミン成分としては、例えばジアミノジフェニルメタン類、ジアミノジフェニルエーテル類、ジアミノジベンゾチオフェン類、ジアミノベンゾフェノン類、ビス(アミノフェニル)プロパン類、フェニレンジアミン類、ジアミノ安息香酸類等を挙げることができる。
【0028】
前記芳香族ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対するテトラカルボン酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が5〜50重量%程度、好ましくは5〜40重量%にするのが好適である。
【0029】
重合イミド化して得られた芳香族ポリイミド溶液は、そのまま紡糸用ドープ液として紡糸に用いることもできる。また、例えば得られた芳香族ポリイミド溶液を芳香族ポリイミドに対し非溶解性の溶媒中に投入して芳香族ポリイミドを析出させて単離後、改めて有機極性溶媒に所定濃度になるように溶解させて芳香族ポリイミド溶液を調製し、それを紡糸に用いることもできる。紡糸ドープ液中のポリイミドの濃度は、好ましくは5〜50重量%程度、より好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは10〜30重量%である。濃度が低すぎると粘度が低くなって成形性時に中空糸の変形が引き起こされるだけでなく、貧溶媒で重合溶媒を抽出する際に膜サイズの収縮率が大きくなりサイズのコントロールが難しくなる。また、重合溶媒の量が増加し経済的でない。濃度が高くなりすぎると粘度が高くなり紡糸ノズル部での背圧が高くなりすぎて、過剰な製造設備が必要となる。また、粘度が高すぎて吐出量を上げることが困難(背圧上昇)であり、生産性も低下することとなる。
【0030】
紡糸に用いる芳香族ポリイミド溶液は、ポリイミドの濃度が5〜40重量%、更には8〜25重量%になるようにするのが好ましく、溶液粘度(回転粘度)は100℃で100〜15000ポイズ好ましくは200〜10000ポイズ、特に300〜5000ポイズであることが好ましい。溶液粘度が100ポイズ未満では、均質膜(フィルム)は得られるかもしれないが、機械的強度、伸度の大きな非対称膜を得ることは難しい。また、15000ポイズを越えると、紡糸ノズルから押し出しにくくなるため目的の形状の非対称中空糸膜を得ることは難しい。本発明では、特に1000〜4000ポイズが好ましい。
【0031】
有機極性溶媒(重合用または紡糸用)としては、得られる芳香族ポリイミドを好適に溶解できるものであれば限定されるものではないが、例えばフェノール、クレゾール、キシレノールのようなフェノール類、2個の水酸基をベンゼン環に直接有するカテコール、レゾルシンのようなカテコール類、3−クロルフェノール、4−クロルフェノール(後述のパラクロロフェノールに同じ)、3−ブロムフェノール、4−ブロムフェノール、2−クロル−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノール類などからなるフェノール系溶媒、又はN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類からなるアミド系溶媒、あるいはそれらの混合溶媒などを好適に挙げることができる。
【0032】
本発明の中空糸膜は、前記芳香族ポリイミド溶液を用いて、乾湿式法による紡糸(乾湿式紡糸法)によって好適に得ることができる。乾湿式法は、中空糸形状にしたポリマー溶液の表面の溶媒を蒸発させて薄い緻密層(分離層)を形成し、更に、凝固液(ポリマー溶液の溶媒とは相溶し、ポリマーは不溶な溶剤)に浸漬し、その際生じる相分離現象を利用して微細孔を形成して多孔質層(支持層)を形成させる方法(相転換法)であり、Loebらが提案(例えば、米国特許3133132号)したものである。
【0033】
製造方法は、通常、紡糸工程(紡糸ドープ吐出工程)、凝固工程、洗浄工程、乾燥工程および熱処理工程を含む。これらの各工程は、中空糸を連続的に送り出し/引き取りをしながら中空糸を連続的に処理することが必須の工程と、ボビン等に巻いた状態でバッチ処理しても、または連続的に処理しても良い工程とがある。
【0034】
まず、紡糸工程(紡糸ドープ吐出工程)において、紡糸ドープ液の吐出のために使用される紡糸ノズルは、紡糸ドープ液を中空糸状体に押し出すものであればよく、チューブ・イン・オリフィス型ノズルなどが好適である。通常、押し出す際の芳香族ポリイミド溶液の温度範囲は約20℃〜150℃、特に30℃〜120℃が好適である。好適な温度範囲はドープの溶媒種類、粘度などによって異なる。また、ノズルから押し出される中空糸状体の内部へ気体または液体を供給しながら紡糸がおこなわれる。
【0035】
紡糸工程から連続する凝固工程では、ノズルから吐出された中空糸状体が、一旦、大気中または窒素等の不活性ガス雰囲気中等に押し出され、引き続き、凝固浴に導かれ、凝固液に浸漬される。凝固液は、芳香族ポリイミド成分を実質的には溶解せず且つ芳香族ポリイミド溶液の溶媒と相溶性があるものが好適である。特に限定するものではないが、水や、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコール類や、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどの低級アルキル基を有するケトン類など、あるいは、それらの混合物が好適に用いられる。また、芳香族ポリイミド溶液の溶媒がアミド系溶媒であるときは、アミド系溶媒の水溶液も好ましい。
【0036】
凝固工程では、ノズルから中空糸形状に吐出された芳香族ポリイミド溶液がその形状を保持できる程度に凝固させる一次凝固液に浸漬し、次いで完全に凝固させるための二次凝固液に浸漬するのが好ましい。一次凝固液と二次凝固液は同一の凝固液でも構わないし、別々の凝固液でもかまわない。また、凝固液槽を多数化することでポリイミド溶液中の溶媒を効率的に抽出する事も可能である。
【0037】
紡糸工程及び凝固工程は、中空糸を連続的に送り出し/引き取りをしながら中空糸を連続的に処理する連続処理工程であることが必須である。
【0038】
次の洗浄工程では、必要によりエタノール等の洗浄溶媒で洗浄し、次いで置換溶媒、例えばイソペンタン、n−ヘキサン、イソオクタン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素を使用して、中空糸の外側および内側の凝固液および/または洗浄溶媒を置換する。
【0039】
次の乾燥工程では、置換溶媒を含む中空糸を適当な温度で乾燥する。そして、熱処理工程において、好ましくは、用いられた芳香族ポリイミドの軟化点又は二次転移点よりも低い温度で、熱処理を行うことで、非対称ガス分離中空糸膜が得られる。
【0040】
前記の洗浄・乾燥・熱処理工程は、中空糸を連続的に送り出し/引き取りをしながら中空糸を連続的に処理する連続処理工程でも良いし、ボビン等に巻いた状態でバッチ処理しても良い。
【0041】
製造工程中、連続処理工程においては、中空糸膜に張力が掛かった状態で処理が実施される。各工程でのテンションが過剰である場合に、酸素透過速度の低下を引き起こすことがわかった。そのために、本発明の中空糸膜を得るためには、各工程での張力の管理を適切に行う必要があり、張力は、1.5N以下であることが好ましく、1.0N以下であることがより好ましい。
【0042】
まず、ガス透過性能の向上、安定化には、中空糸膜表面に存在し性能を決定づけるスキン層で、分子配向の低い(乱れた)状態を作り出し、この低い配向状態をなるべく維持しながら最終の中空糸膜まで成形することが重要である。それ以降の洗浄工程、乾燥、熱処理工程などで中空糸膜にテンションが過剰にかかると、延伸によって分子配向が進み、透過速度の低下が発生することになる。
【0043】
具体的には、紡糸工程で、紡糸ノズルからの吐出線速度を小さくする、ドラフト比を小さくする、スリット幅を大きくすることが効果的であり、さらに洗浄工程、乾燥、熱処理工程、さらには中空糸膜を引きとる収束工程などで、張力の管理を行う事で、所定の配向性指標を保持した中空糸膜を製造することができる。
【0044】
本発明の中空糸膜はモジュール化して好適に用いることができる。通常のガス分離膜モジュールは、例えば、適当な長さの中空糸膜100〜1000000本程度を束ね、その中空糸束の両端部を、中空糸の少なくとも一方の端が開口状態を保持した状態になるようにして、熱硬化性樹脂などからなる管板で固着し、得られた中空糸束と管板などからなる中空糸膜エレメントを、少なくとも混合ガス導入口と透過ガス排出口と非透過ガス排出口とを備える容器内に、中空糸膜の内側に通じる空間と中空糸膜の外側へ通じる空間とが隔絶するように収納し取り付けることによって得られる。このようなガス分離膜モジュールでは、混合ガスが混合ガス導入口から中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給され、中空糸膜に接して流れる間に混合ガス中の特定成分が選択的に膜を透過し、透過ガスが透過ガス排出口から、膜を透過しなかった非透過ガスが非透過ガス排出口からそれぞれ排出されることによって、ガス分離が行われる。
【0045】
本発明の中空糸膜は、種々のガス種を高分離度(透過速度比)で分離回収することができる。分離度が高いと目的とするガスの回収率が高くできるので好適である。分離できるガス種には特に限定はない。例えば水素ガス、ヘリウムガス、炭酸ガス、メタンやエタンなどの炭化水素ガス、酸素ガス、窒素ガスなどの分離回収に好適に用いることができる。とりわけ、空気から窒素の濃度を高めた窒素富化空気や酸素の濃度を高めた酸素富化空気を得るのに好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例によって本発明を更に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(中空糸膜のガス透過性能の測定方法)
6本の非対称中空糸膜と、ステンレスパイプと、エポキシ樹脂系接着剤とを使用して有効長が8cmの透過性能評価用のエレメントを作成し、これをステンレス容器に装着してペンシルモジュールとした。それに酸素および窒素純ガスを1MPaGの圧力、40℃の温度で中空糸膜の外側に供給し、透過流量を測定した。測定した透過流量、供給圧、および有効膜面積から酸素ガスおよび窒素ガスの透過速度を算出した。透過速度の単位は、10
−5×cm
3(STP)/(cm
2・s・cmHg)である。
【0048】
(中空糸膜の破断伸度および破断応力の測定)
引張試験機を用いて有効長20mm、引張り速度10mm/分で測定した。測定は23℃で行った。中空糸断面積は中空糸の断面を光学顕微鏡で観察し、光学顕微鏡像から寸法を測定して算出した。
【0049】
(溶液粘度の測定方法)
ポリイミド溶液の溶液粘度は、回転粘度計(ローターのずり速度1.75sec
−1)を用い温度100℃で測定した。
(配向性指標の測定方法)
偏光子付き1回反射ATR−FTIR装置(PerkinElmer社製Spectrum One)を使用して、次のようにして求める。
【0050】
ポリイミド主鎖に平行な振動の大きさを表す指標として、A
‖/⊥を次のように定義する。
A
‖/⊥= (1500cm
−1の吸光度)/(1715cm
−1の吸光度)
ここで、1500cm
−1の吸収は、ベンゼン環の主鎖に平行方向の振動モードによる吸収であり、1715cm
−1の吸収は、イミド環のカルボニルの主鎖に垂直方向の振動モードによる吸収である。
【0051】
FT−IR装置に、中空糸を
図1および
図2のようにセットし、X(
図1)では、中空糸の長さ方向(x軸方向)から光を入射させて、反射光を偏光子に通し、s偏光(垂直偏光:入反射面と垂直)のみを検出器にいれて赤外吸収スペクトルを測定する。Y(
図2)では、中空糸の長さ方向と垂直方向(y軸方向)から光を入射させて、反射光を偏光子に通し、s偏光(垂直偏光:入反射面と垂直)のみを検出器にいれて赤外吸収スペクトルを測定する。ポリイミド分子鎖が中空糸の長さ方向(x軸方向)に配向している場合、A
‖/⊥はX(
図1)では小さくなり、Y(
図2)では大きくなる。そこで、中空糸膜表面(2〜3μm)において、中空糸の長さ方向への分子の配向を示す配向性指標を次の式から求める。
【0052】
配向性指標=(YにおけるA
‖/⊥)/(XにおけるA
‖/⊥)
【0053】
以下の例で用いた化合物は以下のとおりである。
【0054】
【化7】
【0055】
【化8】
【0056】
尚、6FDAは、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物ともいう。また、TSNは、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドを主成分とし、メチル基の位置が異なる異性体3,7−ジアミノ−2,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド、3,7−ジアミノ−4,6−ジメチルジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシドを含む混合物である。
【0057】
PCP:パラクロロフェノール
【0058】
<実施例1>
BPDA/6FDA/PMDA/TSN/TCB=225/200/75/250/250mmolのモノマーをPCP1882gと共に、N
2ガスパージ可能なセパラブルフラスコに入れ、N
2ガスでパージしながら攪拌機で撹拌、190℃で20時間重合させ、17wt%の芳香族ポリイミド溶液を得た。100℃での粘度(回転粘度)は1,940poiseであった。得られたポリイミド溶液を400meshの金網フィルターで濾過しドープ液とした。
【0059】
使用した紡糸装置を
図3に示す。中空糸紡糸用ノズル2(ドープ吐出部外径1,000μm、吐出部スリット幅200μm、芯液吐出部径400μm)を備えた紡糸装置にドープ液16を仕込、ノズル2からドープ液とチューブ3から芯液をギヤポンプで吐出させ中空糸状体4を形成し、N
2雰囲気中を通過させた後、一次凝固液17(0℃、85wt% エタノール水溶液)を満たした一次凝固液槽6に浸漬し、浸漬ロール5を通過させ、案内ロール7を経由して、周回ロール8,9で25m/分で引き取りながら二次凝固液18を満たした二次凝固液槽11(0℃)内を往復させて中空糸膜14を得た。得られた中空糸膜14を連続的にボビン12に25m/分で巻き取った。中空糸に加わっていた張力は、0.5N以下であった。一旦、巻き出してカセ状に巻き取って、エタノール洗浄しPCPを完全に取り除いた後、イソオクタンでエタノールを置換し、100℃にて乾燥した後、255℃、30分熱処理を行い、中空糸膜を得た。
【0060】
<実施例2>
実施例1と同条件でイソオクタン置換後に乾燥して得た中空糸を、連続的に熱処理した。使用した連続熱処理装置の模式図を
図4に示す。280℃で、前ロール19での速度を50m/分、後ロール22での速度を50.5m/分とし、0.5〜1.0Nの張力でコントロールし、熱処理槽20を使用して連続熱処理を行い、中空糸膜を得た。
【0061】
<実施例3>
実施例1において、周回ロールでの引き取り速度を23m/分とし、ボビンでの巻き取り速度を25m/分とした以外は、実施例1と同様にして、中空糸膜を製造した。
【0062】
<実施例4
(参考例)>
実施例4では、得られた中空糸膜を、エタノール洗浄した後、イソオクタンでエタノールを置換し、100℃にて乾燥、連続的に熱処理する際、熱処理槽の前後のロール速度に差をつけ延伸操作を行って中空糸膜を製造した。このとき、前ロールでの速度を45m/分とし、後ロールでの速度を50.5m/分とし、中空糸には1.0〜1.5N程度の張力が加わっていた。それ以外は、実施例2と同様にして中空糸膜を製造した。
【0063】
<比較例1>
ノズルからドープ液と芯液をギヤポンプで吐出させ、N
2雰囲気中を通過させた後、一次凝固液(0℃、85wt% エタノール水溶液)に浸漬、周回ロールで25m/分で引取りながら、二次凝固浴(0℃)の周回ロールで槽内を往復させドープ液中のPCPを抽出して中空糸膜を得る際に、
図1中に示す案内ロール7を後ろ側(
図1の紙面に対して奥側)に70mmずらして中空糸への摩擦を大きくして、連続的にボビンに25m/分で巻き取った。その他は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造した。
【0064】
<比較例2>
実施例1において、周回ロールでの引き取り速度を20m/分とし、ボビンでの巻き取り速度を25m/分とした以外は実施例1と同様にして、中空糸膜を製造した。
【0065】
<比較例3、4>
得られた中空糸膜を、エタノール洗浄した後、イソオクタンでエタノールを置換し、100℃にて乾燥、連続的に熱処理する際、熱処理槽の前後のロール速度に差をつけ延伸操作を行った以外は実施例2と同様に中空糸膜を製造した。比較例3では、前ロールでの速度を40m/分、後ロールでの速度を50.5m/分とし、このとき中空糸膜には1.5Nより大きく2.0N以下程度の張力が加わっていた。比較例4では、前ロールでの速度を35m/分、後ロールでの速度を50.5m/分とし、このとき中空糸膜には2.0Nより大きく、2.5N以下程度の張力が加わっていた。
【0066】
実施例および比較例で製造した中空糸膜の特性評価結果を、表1に示す。
【0067】
【表1】