(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983407
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20160818BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20160818BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20160818BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20160818BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/00 M
B23K26/064 K
B23K26/00 N
H01S3/067
H01S3/10
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-533982(P2012-533982)
(86)(22)【出願日】2011年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2011070640
(87)【国際公開番号】WO2012036097
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年8月28日
(31)【優先権主張番号】61/385373
(32)【優先日】2010年9月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2010-206871(P2010-206871)
(32)【優先日】2010年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(72)【発明者】
【氏名】角井 素貴
【審査官】
青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−087041(JP,A)
【文献】
特開2010−171131(JP,A)
【文献】
特開2010−125489(JP,A)
【文献】
特開2007−158012(JP,A)
【文献】
特開2009−172629(JP,A)
【文献】
特開2009−119521(JP,A)
【文献】
特開2002−273582(JP,A)
【文献】
特開2003−181678(JP,A)
【文献】
特開2002−033495(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0207976(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
H01S 3/067
H01S 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ガラス板上に形成されたTCO膜又はMo膜をパルス光照射により加工するレーザ加工方法であって、
電気信号により直接変調されることでパルス光を繰り返し出力する半導体レーザを用意し、
希土類元素が添加されたガラスを光増幅媒体として含むとともに前記半導体レーザから出力されるパルス光を増幅する光増幅器を、少なくとも備えたMOPAファイバレーザを用意し、
前記光増幅器から出力されるパルス光それぞれの半値全幅を、0.2ns以上かつ1ns未満となるよう制御し、そして、
前記MOPAファイバレーザから出射されたパルス光を前記透明ガラス板上に形成されたTCO膜又はMo膜とは逆側から前記TCO膜又はMo膜に照射することにより、前記TCO膜又はMo膜を除去するレーザ加工方法。
【請求項2】
前記光増幅器により増幅されるパルス光それぞれの半値全幅は、0.5ns以下であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記パルス光の出力の繰り返し周波数は、100kHz超であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
予め設定されたパルス光照射の走査速度と繰り返し波数に基づいて前記TCO膜又はMo膜における前記パルスの光照射位置を走査させるパルス光走査の際、前記パルス光の照射スポットの重なり率は60%以下であり、かつ、レーザ出力は前記TCO膜又はMo膜を除去する所定の平均パワーとピークパワーを有することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記光増幅器により増幅されるパルス光のスペクトルは、前記半導体レーザから出力されるパルス光のスペクトルのピーク波長においてピークを有するとともに、前記ピーク波長とは異なる波長にもピークを有しており、
前記光増幅器により増幅されたパルス光は、そのビームプロファイルがビームプロファイル均一化手段により均一化した後に、前記TCO膜又はMo膜に照射されることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記ビームプロファイル均一化手段は、矩形の断面形状を有するコアを含む光ファイバを含むことを特徴とする請求項5記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記透明ガラス板の照射表面でのパルス光のフルーエンスは、4J/cm2以上であることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザ光を加工対象物に照射することで該加工対象物を加工することが行われている。非特許文献1に記載されたレーザ加工技術は、透明ガラス板上に形成されたCIS(Copper-Indium-Diselenide、CuInSe
2)薄膜に対してパルス幅ピコ秒程度のパルス光を照射することで該薄膜を加工(アブレーション)するものである。非特許文献1に記載されたレーザ加工技術では、パルスレーザ光源として High Q Laser社製の model "picoREGEN IC-1064-1500" が用いられている。このパルスレーザ光源は、モードロックを採用し再生増幅器を含んでおり、パルス幅ピコ秒程度のパルス光を出力することができる。
【非特許文献1】Heinz P. Huber, et al., "High speed structuring of CIS thin-film solar cells with picosecond laser ablation", Proc. of SPIE, Vol.7203, (2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明者は、上述の従来について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、再生増幅器を含みパルス幅ピコ秒程度のパルス光を出力するモードロックパルスレーザ光源は、一般に高価である。また、このようなパルスレーザ光源では、パルス光出力の繰り返し周波数の設定の自由度がレーザ共振器の構造により制約される。High Q Laser社製の上記パルスレーザ光源は、パルス光出力の繰り返し周波数を僅か30kHzまでしか上げられない。パルス光出力の繰り返し周波数が低いと、加工のスループットも低くなる。
【0004】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、安価な非モードロック(非共振構造)のパルスレーザ光源を用いて高スループットで加工をすることができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のレーザ加工方法は、透明基板上に形成された金属薄膜をパルス光照射により加工するレーザ加工方法である。当該レーザ加工方法は、半導体レーザを用意し、光増幅器を少なくとも備えたMOPA構造を有するファイバレーザ(以下、MOPAファイバレーザという)を用意し、増幅されたパルス光の半値全幅を所望の範囲に制御した後、MOPAファイバレーザからのパルス光を、透明基板を介して金属薄膜に照射する。用意される半導体レーザは、電気信号により直接変調されることにより、パルス光を繰り返し出力する。用意されるMOPAファイバレーザは光増幅器を少なくとも備え、この光増幅器は、希土類元素が添加されたガラスを光増幅媒体として含むとともに半導体レーザから出力されるパルス光を増幅する。また、MOPAファイバレーザでは、光増幅器から出力されるパルス光それぞれの半値全幅が0.2ns以上かつ1ns未満となるように制御される。そして、MOPAファイバレーザから、このように半値全幅が制御されたパルス光が透明基板の金属薄膜とは逆側から金属薄膜に照射されることにより、金属薄膜が除去される。
【0006】
本発明のレーザ加工方法は、構造が簡単であって安価なMOPA構造のパルスレーザ光源を用いる。また、光増幅器から出力される増幅パルス光それぞれの半値全幅は0.2ns以上に制御される。これにより、透明基板の損傷を回避することが可能になる。一方、光増幅器から出力される増幅されたパルス光それぞれの半値全幅は1ns未満、好ましくは0.5ns以下に制御される。この状態でパルス光を透明基板の側から金属薄膜に照射することにより、高スループットで金属薄膜を除去することが可能になる。
【0007】
本発明のレーザ加工方法において、パルス光の出力の繰り返し周波数は、100kHz超であるのが好適である。この場合、スループットを高めることができる。
【0008】
本発明のレーザ加工方法において、予め設定されたパルス光照射の走査速度と繰り返し波数で金属薄膜におけるパルス光照射位置を走査させるパルス走査の際、パルス光の照射スポットの重なり率は60%以下であるのが好ましく、また、そのレーザ出力は、金属薄膜を除去する所定の平均パワーとピークパワーを有するのが好ましい。この場合、加工品質を向上させることができる。なお、矩形の断面形状を有するコアを含む光ファイバを用いる場合は、重なり率は50%以下に設定されても良い。
【0009】
本発明のレーザ加工方法において、光増幅器から出力される増幅パルス光のスペクトルは、半導体レーザから出力されるパルス光のスペクトルのピーク波長にピークを有するとともに、このピークは長とは異なる波長にもピークを有する。そして、光増幅器から出力される増幅パルス光のビームプロファイルがビームプロファイル均一化手段により均一化した後に、そのパルス光が金属薄膜に照射されるのが好適である。また、このとき、ビームプロファイル均一化手段としては、例えば、矩形の断面形状を有するコアを含む光ファイバが好適である。さらに、透明基板の照射表面でのパルス光のフルーエンスは、4J/cm
2以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレーザ加工方法は、安価なパルスレーザ光源を用いて高スループットの加工を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】は、パルスレーザ光源1を用いたレーザ加工方法を説明する図である。
【
図3】は、パルスレーザ光源1から出力されるパルス光の波形の一例を示す図である。
【
図4】は、透明ガラス板上のTCO膜の除去を行ったときのSEM写真である。
【
図5】は、パルスレーザ光源1から出力されるパルス光の波形の他の一例を示す図である。
【
図6】は、透明ガラス板上のMo膜の除去を行ったときの(a)顕微鏡写真,(b)SEM写真および(c)EDX解析結果の図である。
【
図7】は、透明ガラス板上のMo膜の除去を行ったときのSEM写真である。
【
図8】は、パルスレーザ光源1から出力されるパルス光のスペクトルを示す図である。
【
図9】は、パルスレーザ光源1の他の光源での、パルス波形の図である。
【
図10】は、
図9における半値全幅0.96nsのパルスで、透明ガラス板上のMo膜の除去を行ったときの(a)SEM写真および(b)その3次元画像の図である。
【
図11】は、
図8中に破線でスペクトルが示されたパルス光が矩形コア光ファイバを伝搬した後のビームプロファイルを示す図である。
【
図12】は、
図8中に実線でスペクトルが示されたパルス光が矩形コア光ファイバを伝搬した後のビームプロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0012】
1…パルスレーザ光源、2…透明基板、3…金属薄膜、10…種光源、20…YbDF、21…光カプラ、22…励起光源、23,24…光アイソレータ、30…バンドパスフィルタ、40…YbDF、41…光カプラ、42…励起光源、43,44…光アイソレータ、50…YbDF、51…コンバイナ、52〜55…励起光源、60…エンドキャップ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態を、
図1〜12を参照しながら詳細に説明する、なお、図面の説明において同一部位、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0014】
先ず、本実施形態のレーザ加工方法において好適に用いられるパルスレーザ光源の構成の一例を説明する。
図1は、パルスレーザ光源1の構成図である。この図に示されるパルスレーザ光源1は、種光源10、YbDF(Yb-Doped Fiber)20、バンドパスフィルタ30、YbDF40およびYbDF50等を備えていて、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)構造を有している。このパルスレーザ光源1は、非モードロック(非共振構造)であり、レーザ加工に好適である波長1060nm付近のパルス光を出力する。
【0015】
種光源10は、電気信号により直接変調されてパルス光を繰り返して出力する半導体レーザを含む。この半導体レーザは、ハイパワー化の観点から、また、誘導ブリユアン散乱(SBS)などの非線形効果を避ける観点から、ファブリーペロ型のものであるのが好適である。また、この半導体レーザは、増幅用光ファイバであるYbDF20,40,50が利得を有する波長1060nm付近のパルス光を出力する。YbDF20,40,50は、石英ガラスを主成分とする光ファイバのコアに活性物質としてYb元素(希土類元素)が添加された光増幅媒体であり、励起光波長と被増幅光波長とが互いに近くパワー変換効率的の点で有利であり、また、波長1060nm付近において高い利得を有する点でも有利である。これらYbDF20,40,50は、3段の光ファイバ増幅器(MOPAファイバレーザの少なくとも一部を構成している)を構成している。
【0016】
第1段のYbDF20は、励起光源22から出力されて光カプラ21を経た励起光が順方向に供給される。そして、YbDF20は、種光源10から出力されて光アイソレータ23および光カプラ21を経たパルス光を入力し、このパルス光を増幅し、光アイソレータ24を経て該パルス光を出力させる。
【0017】
バンドパスフィルタ30は、種光源10から出力され第1段のYbDF20により増幅されたパルス光を入力して、その入力したパルス光の波長帯域のうちのパルス光のピーク波長より短波長側および長波長側の一方を他方より減衰させて出力する。なお、バンドパスフィルタに替えてハイパスフィルタまたはローパスフィルタが用いられてもよいが、ハイパスフィルタは種光源スペクトルの長波長側しか切り出すことができず、ローパスフィルタは種光源スペクトルの短波長側しか切り出すことができない。バンドパスフィルタは両者の機能を併せ持つので好適である。
【0018】
第2段のYbDF40は、励起光源42から出力されて光カプラ41を経た励起光が順方向に供給される。そして、YbDF40は、バンドパスフィルタ30から出力されて光アイソレータ43および光カプラ41を経たパルス光を入力し、このパルス光を増幅し、光アイソレータ44を経て該パルス光を出力させる。第3段のYbDF50は、励起光源52〜55それぞれから出力されコンバイナ51を経た励起光が順方向に供給される。そして、YbDF50は、第2段のYbDF40により増幅されたパルス光を入力して更に増幅し、エンドキャップ60を経て該パルス光を外部へ出力させる。
【0019】
より好適な構成例は以下のとおりである。第1段のYbDF20は、コア励起方式で、励起波長975nmでパワー200mW一定の励起光が順方向に注入される。YbDF20として、波長975nmの非飽和吸収係数が240dB/mであるものが長さ5m使用される。YbDF20のコア径は6μmであり、NAは0.12程度である。第2段のYbDF40は、コア励起方式で、励起波長975nmでパワー200mW一定の励起光が順方向に注入される。YbDF40として、波長975nmの非飽和吸収係数が240dB/mであるものが長さ7m使用される。YbDF40のコア径は6μmであり、NAは0.12程度である。第3段のYbDF50は、クラッド励起方式で、励起波長975nmでパワー20W(5W級の励起LDを4個)が順方向に注入される。YbDF50として、コア部分の非飽和吸収係数が1200dB/mであるものが長さ5m使用される。YbDF50のコアは、直径が10μmであり、NAが0.06程度である。YbDF50の内クラッドは、直径が125μmであり、NAが0.46程度である。
【0020】
このようなMOPA構造のパルスレーザ光源1は、構造が簡単であることから安価であり、また、パルス光出力の繰り返し周波数を任意に設定することができる。特に、このパルスレーザ光源1は、種光源10から出力され第1段のYbDF20により増幅されたパルス光についてバンドパスフィルタ30によりピーク波長より短波長側および長波長側の一方を他方より減衰させて出力するので、パルス幅が1ns以下まで圧縮されたパルス光を出力することができる。
【0021】
そして、本実施形態のレーザ加工方法では、このようなMOPA構造のパルスレーザ光源1が用いられて、
図2に示されるように、透明基板2上に形成された金属薄膜3がパルス光照射により加工される。このとき、パルスレーザ光源1から出力される個々のパルス光の半値全幅が0.5ns以下となるように制御をされて、このパルス光が透明基板2の側から金属薄膜3に照射されることにより金属薄膜3が除去される。パルスレーザ光源1から出力される個々のパルス光の半値全幅が0.2ns以上となるように制御をされるのが好適である。パルス光出力の繰り返し周波数が100kHz超であるのが好適である。また、予め設定されたパルス光照射の走査速度と繰り返し波数で金属薄膜3におけるパルス光照射位置が走査されるパルス光走査の際、パルス光の照射スポットの重なり率は60%以下とし、そのレーザ出力は金属薄膜を除去する所定の平均パワーとピークパワーを有するのが好適である。
【0022】
図3は、パルスレーザ光源1から出力されるパルス光の波形の一例を示す図である。この図には、パルス光出力の繰り返し周波数を500kHzおよび2MHzそれぞれとした場合のパルス光波形が示されている。何れの場合にもパルスの半値全幅を200ps以下まで短くすることができる。
【0023】
ただし、
図3に示されるパルス波形を有するパルス光の照射により透明ガラス板上のTCO(Transparent Conductive Oxide)膜の除去を行ったところ、
図4に示されるように透明ガラス板に微小クラックを生じさせてしまう結果となった。
図4は、透明ガラス板上のTCO膜の除去を行ったときのSEM写真である。このときの加工条件は、パルスの半値全幅が200psであり、パルス光出力の繰り返し周波数が150kHzであり、パルス光照射の平均パワーが6.8Wであり、走査速度が2000mm/sであった。このときのパルスのフルーエンスは、3.1J/cm
2であった。
【0024】
そこで、
図5に示されるように、パルス幅を拡げる一方でパルスピーク値を低くしたパルス光を用いた。このパルスの半値全幅は0.5nsであり、パルス光出力の繰り返し周波数は250kHzであった。この
図5に示されるパルス波形を有するパルス光の照射により透明ガラス板上のMo膜(融点2620℃)の除去を行った。パルス光照射の平均パワーが5.7Wであり、走査速度が5000mm/sであった。パルス光を透明ガラス板の側からMo膜に照射した。この透明ガラス板上のMo膜は、スパッタリングやCVDなどの方法で透明ガラス板上に形成されたものであって、CIS系太陽電池に使われる。
【0025】
上記のパルス光の照射によりMo膜除去を行った結果、
図6に示されるように、マイクロクラック、剥離、および、スポットとスポットとの間の捲れ上がりといった欠陥を生じることなく、Mo膜の除去に成功した。
図6は、透明ガラス板上のMo膜の除去を行ったときの(a)顕微鏡写真,(b)SEM写真および(c)EDX解析結果の図である。この加工品質は、非特許文献1に記載されたパルス幅10psのパルス光の照射による加工の結果に対して遜色ない。走査速度は、非特許文献1では240mm/sであったのに対して、本実施例では20倍以上の5000mm/sを達成することができた。このときのパルスのフルーエンスは、4.5J/cm
2であった。なお、これより小さいフルーエンスでは、Moの残渣が観測されるケースがあった。非特許文献1に記載されたパルス幅10psより大きなパルス幅でも上記の加工が可能になったのは、フルーエンスの設定による影響が推定される。フルーエンスとパルス幅、加工対象との関係は、ケースバイケースであり、今回では、これまで想定のないパルス幅でも加工が現実に可能になったので、提示されている。
【0026】
なお、スポットとスポットとの間の捲れ上がりとは、
図7のSEM写真において破線丸内に示されるように、隣り合う2つのパルス光照射スポットの間でMo膜が捲れ上がる欠陥をいう。同図の加工条件は、パルスの半値全幅が10〜20nsに設定されてあり、パルス光出力の繰り返し周波数が250kHzであり、パルス光照射の平均パワーが8Wであり、走査速度が5000mm/sであった。
【0027】
また、上記の構成のパルスレーザ光源1は数百mA(200mAを超える)の駆動電流を直接変調された半導体レーザを種光源10として備えるMOPA構造であって、このパルスレーザ光源1から出力されるパルス幅がサブナノ秒であるパルス光を用いて加工を行うことから、以下のような有利な点がある。すなわち、パルスレーザ光源1は、種光源10から出力され第1段のYbDF20により増幅されたパルス光についてバンドパスフィルタ30によりピーク波長より短波長側および長波長側の一方を他方より減衰させて出力するので、パルス幅がサブナノ秒に圧縮されたパルス光を出力することができる。
【0028】
その結果、
図8中に実線で示されるように、
図1のパルスレーザ光源1から種光源10のチャーピング成分をBPFで切り出すことで、パルス幅がサブナノ秒に圧縮されて出力されるパルス光のスペクトルは、種光源10としての半導体レーザから出力されるパルス光のスペクトルのピーク波長に加えて、これと異なる波長にもサブピークを有し、ピークおよびサブピークを含めた全体のスペクトルの半値全幅が10nm以上になる。サブピーク値はピーク値の2分の1程度である。なお、同図中に破線で示されるスペクトルは、
図7にSEM写真が示された加工の際のパルス光のスペクトルで、BPFを実線のようにチャーピング成分を切り出さず、種光源出力の透過量が最大になるように設定したものである。
【0029】
図9に、上記
図3、
図5に使用したパルスレーザ光源とは異なるパルスレーザ光源(
図1で示したものと同じ構造)でのスペクトル波形(光出力と時間)を示す。パルス幅の半値幅は、0.96nsである。このパルス光を使用して、
図6での事例と同様の加工を行ったところ、
図10の結果が得られた。
図10は、透明ガラス板上のMo膜の除去を行ったときの(a)SEM写真および(b)その3次元画像の図である。この加工品質は、非特許文献1に記載されたパルス幅10psのパルス光の照射による加工の結果に対して遜色ない。走査速度は、4000mm/sを達成することができた。このときのパルス光の繰り返し周波数は150kHzであり、パルスの平均パワーは8Wであり、フルーエンスは、8.9J/cm
2であった。
【0030】
図8中に実線で示されるようなスペクトルのブロードバンド化は、矩形の断面形状を有するコアを含む光ファイバにパルス光を伝搬させることによってビームホモジナイズ(ビームプロファイル均一化)を行う際に有利である。何故なら、ビームホモジナイズのメカニズムは、マルチ横モード化に依るからである。パルス光のスペクトル幅が広くなれば、複数の横モード間の干渉によるスペックルが抑圧され、ダークスポットの生成を避けることができる。
【0031】
図11は、
図8中に破線でスペクトルが示されたパルス光が矩形コア光ファイバを伝搬した後のビームプロファイルを示す図である。また、
図12は、
図8中に実線でスペクトルが示されたパルス光が矩形コア光ファイバを伝搬した後のビームプロファイルを示す図である。何れの場合も、矩形コア光ファイバのコアサイズは50μm×50μmであり、矩形コア光ファイバのNAは0.18であり、矩形コア光ファイバの長さは10mであった。
【0032】
図11に示されるビームプロファイルでは、極小値(Valley)と最大値(peak)との比であるV/P比率は45%でしかない。これに対して、
図12に示されるビームプロファイルではV/P比率は63%である。したがって、直接変調された半導体レーザを種光源とするMOPA構造のパルスレーザ光源1を用いてビームホモジナイズを行う場合は、種光源10のチャーピング成分をBPFで切り出し、パルス幅を圧縮する方が、スペクトル幅が広がり、ビームホモジナイズしたレーザ光加工を行う方法には有利であることが明らかである。
【0033】
また、
図7のSEM写真において破線丸内に示されるようなスポットとスポットとの間のMo膜の捲れ上がりはMo膜の剥離や捲れの原因となるが、これを防ぐには、ビームホモジナイズを行ってパルス光の断面形状を矩形とし矩形のスポットをMo膜上に並べることが一つの有効な解決策となる。
【0034】
図11および
図12それぞれにビームプロファイルが示された例は、MOPA光源の出力ファイバ(コア径10μmの単一モードファイバ)の端面を上記矩形コアファイバの端面に直接融着するという簡易的手段を採ったものである。しかし、出力ファイバと矩形コアファイバとの光学的な接続に際して、両者の間に空間光学系を設けてもよく、出力ファイバの端面から出射されたパルス光を高NAのレンズにより集光して矩形コアファイバの端面に結合することで、横モードのマルチ化が更に促進されて、V/P比率が一層改善されると期待される。なお、矩形コアファイバを使用する際は、重なり率は、50%以下となるように設定しても良い。
【0035】
尚、
図4に示した透明ガラス板上のTCO(Transparent Conductive Oxide)膜の除去は、半値全幅5ns程度の比較的広いパルス幅を有するパルスで、パルス光出力の繰り返し周波数を160kHzとし、パルス光照射の平均パワーを10Wとし、更に走査速度が2500mm/sとした時に成功した。尚、この時のTCO膜は主に二酸化スズで構成されていた。即ち、半導体レーザを電気信号により直接変調してパルス光を繰り返して出力し、希土類元素が添加されたガラスを光増幅媒体として含む光増幅器で増幅するMOPA構造を有するファイバレーザは、上述のようなパルス列を出力でき、ガラス上のTCO膜であれ、ガラス上のMoなどの金属膜であれ、何れも除去できる能力を有する点で、好適である。
【0036】
なお、本実施形態のレーザ加工方法は、透明ガラス板上のMo膜に限らず、その他の透明材料からなる基板上に形成された接着性の比較的弱い金属膜の加工の全般に有効である。