(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機には、ジェットエンジンに燃料を供給するための燃料システムが搭載されている。この燃料システムは、燃料をジェットエンジンに適した圧力に昇圧する定容積型の燃料ポンプを備え、燃料ポンプから吐出された燃料をジェットエンジンに供給する。また、燃料システムには、燃料ポンプにおけるキャビテーションを防止するために、燃料ポンプに供給される燃料を燃料ポンプにてキャビテーションが発生しない程度にまで昇圧する遠心ポンプが設置されている。
【0003】
従来、上述の燃料ポンプ及び遠心ポンプは、ジェットエンジンに接続されており、昇圧のための動力をジェットエンジンから入力されている。すなわち、燃料ポンプ及び遠心ポンプの駆動軸が補機用ギアボックスを介してジェットエンジンのタービンシャフトと連結されており、ジェットエンジンで生成された動力によって駆動軸が回転される。
【0004】
ところで、定容積型の燃料ポンプでは、駆動軸の回転数に応じて吐出流量が変化する。ただし、ジェットエンジンは、燃料ポンプを回転させることを主目的として駆動されるものではない。このため、燃料ポンプに入力される回転動力の回転数は、ジェットエンジンの出力に依存し、常に、おおよそ定格運転における回転数の70%〜100%となる。この結果、ジェットエンジン側が必要とする燃料流量が少ない場合であっても、燃料ポンプからは常に大流量の燃料が吐出される。そこで、従来の燃料システムでは、燃料ポンプを含む循環流路と、この循環経路からジェットエンジン側が必要とする流量の燃料だけを送り出す燃料制御部とが設置されている。このような従来の燃料システムでは、燃料ポンプから吐出された大流量の燃料が循環流路にて循環され、この中から必要な分のみが燃料制御部によってジェットエンジンに供給される。
【0005】
ただし、従来の燃料システムは、ジェットエンジンにおいて必要とされる流量以上の燃料(余剰燃料)を循環させることから、余分な動力を消費していることになる。そこで、近年は、非特許文献1に示すように、燃料ポンプの駆動系をジェットエンジンと切り離し、燃料ポンプに電動モータを接続する構成が提案されている。このような構成によれば、燃料ポンプの回転数を、ジェットエンジン側が必要とする燃料流量に応じて変化させることができ、余剰燃料を循環させる必要がなくなる。結果、余分な動力の消費を抑えてジェットエンジンの効率を向上させることができ、さらには燃料制御部や補機用ギアボックスが不要となることから機体の軽量化を図ることが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような燃料ポンプの電動化に加え、燃料ポンプの上流に配置される遠心ポンプを電動化する試みも行われている。しかしながら、燃料ポンプを駆動する電動モータと別に、遠心ポンプを駆動する電動モータを設置すると、燃料制御部や補機用ギアボックスが不要となったことにより軽量化のメリットを相殺することになってしまう。
【0008】
このため、例えば、燃料ポンプに定容積ポンプ、ブーストポンプに遠心ポンプを使用した場合、燃料ポンプと遠心ポンプとを単一の電動モータで駆動することが考えられる。ただし、このような場合には、電動モータの回転数は、燃料ポンプにおける吐出量によって決定付けられるため、遠心ポンプの回転数は、燃料ポンプに入力される回転動力の回転数に依存することになる。現在の航空機等におけるジェットエンジンに供給する燃料流量の変動幅を考慮すると、燃料ポンプに入力される回転動力の回転数(すなわち電動モータの回転数)は、定格運転の回転数の3%〜100%程度の範囲で変動することが予測される。ところが、遠心ポンプ等のターボ型のポンプでは、吐出圧が回転数の二乗に比例する。このため、定格運転の回転数の3%程度の回転では、遠心ポンプによる燃料の昇圧は望めず、燃料ポンプにおけるキャビテーションの防止効果が期待できない。
【0009】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ジェットエンジンに燃料を供給する燃料システムにおいて、ジェットエンジンから直接動力を取ることなくかつ電動モータの数を増やすことなく、燃料ポンプに供給する燃料を昇圧することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0011】
第1の発明は、ジェットエンジンに燃料を供給する燃料システムであって、駆動軸の回転数の変動に連動して吐出流量を変動する定容積型ポンプからなる燃料ポンプと、上記燃料ポンプの上流に配置されると共に駆動軸の単位回転あたりの吐出流量が上記燃料ポンプよりも多い定容積型ポンプからなるブーストポンプと、上記燃料ポンプの上記駆動軸と上記ブーストポンプの上記駆動軸とを回転数が一致された状態で回転駆動する単一の電動モータと、上記ブーストポンプの上流と下流とを接続する返流流路と、上記返流流路に設置されると共に上記返流流路の内圧が基準圧力を超えたときに開口するリリーフバルブとを備えるという構成を採用する。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記燃料ポンプ及び上記ブーストポンプがギアポンプであるという構成を採用する。
【0013】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、上記ブーストポンプが2つの昇圧部を有する三連ギアポンプであり、上記2つの昇圧部が直列接続される状態と上記2つの昇圧部が並列接続される状態とを切替える第1切替機構を備えるという構成を採用する。
【0014】
第4の発明は、上記第1または2の発明において、上記ブーストポンプに併設される補助ポンプと、上記ブーストポンプ及び上記補助ポンプが直列接続される状態と上記ブーストポンプ及び上記補助ポンプが並列接続される状態とを切替える第2切替機構とを備えるという構成を採用する。
【0015】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記補助ポンプは、上記電動モータによって回転駆動されるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、定容積型ポンプからなるブーストポンプが燃料ポンプの上流に配置され、燃料ポンプと共に単一の電動モータによって駆動される。このブーストポンプの単位回転あたりの吐出量は、燃料ポンプよりも多く設定されている。このため、電動モータによって燃料ポンプとブーストポンプとが駆動されると、電動モータの回転数に関わらず、常に、燃料ポンプの吐出量よりブーストポンプの吐出量が多くなり、ブーストポンプと燃料ポンプとの間にて燃料が昇圧される。この結果、常に、燃料ポンプに供給される燃料が昇圧された状態となる。なお、燃料ポンプに供給される燃料の圧力が基準圧力(例えば、燃料ポンプにてキャビテーションが生じないように規定された圧力)を超えたときには、リリーフバルブが開放されて返流流路を介して燃料がブースとポンプの下流から上流に返流される。このため、燃料ポンプに供給される燃料の圧力を常に一定の圧力に安定させることができる。このような本発明によれば、ジェットエンジンに燃料を供給する燃料システムにおいて、ジェットエンジンから直接動力を取ることなくかつ電動モータの数を増やすことなく、燃料ポンプに供給する燃料を昇圧することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る燃料システムの一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の燃料システム1の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態の燃料システム1は、主流路2と、燃料ポンプ3と、ブーストポンプ4と、電動モータ5と、シャフト6と、返流流路7と、リリーフバルブ8と、流量計9とを備えている。
【0020】
主流路2は、航空機の燃料タンク(不図示)と、ジェットエンジンの燃料ノズル(不図示)とを繋ぐ流路であり、燃料タンクから燃料ノズルに燃料Fを案内する。燃料ポンプ3は、主流路2の途中部位に設置されており、互いに噛み合うギア3aとギア3bとを備えるギアポンプ(定容積型ポンプ)からなる。この燃料ポンプ3は、ギア3a及びギア3bの他に、駆動軸3cと、不図示のハウジングを備えている。なお、
図1においては、ギア3a及びギア3bを模式的示しているため円形にて図示しているが、実際にはギア3a及びギア3bは歯車形状とされている。駆動軸3cは、ギア3aの中央に接続されており、シャフト6及びブーストポンプ4の後述する駆動軸4cを介して電動モータ5と連結されている。このため、ギア3aは、電動モータ5によって直接回転される。一方、ギア3bは、ギア3aの回転に伴って従動回転される。すなわち、ギア3aが駆動ギアとされ、ギア3bが従動ギアとされている。ハウジングは、ギア3a及びギア3bを収容すると共に、ギア3a及びギア3bの収容空間に繋がる流路を備えている。このような燃料ポンプ3では、ギア3a及びギア3bとハウジングの内壁面との間で燃料Fがジェットエンジンの燃料ノズルに供給するのに適した圧力まで昇圧され、その後ハウジングから燃料Fが吐出される。なお、このような燃料ポンプ3は、定容積型ポンプであることから、駆動軸3cの回転数(すなわちギア3a及びギア3bの回転数)に応じて吐出流量を変化させる。例えば、回転数を減少させたときには吐出流量も減少し、回転数を増加させたときには吐出流量も増加する。
【0021】
ブーストポンプ4は、主流路2の途中部位に設置され、燃料ポンプ3よりも上流に配置されている。このブーストポンプ4は、互いに噛み合うギア4aとギア4bとを備えるギアポンプ(定容積型ポンプ)からなる。このブーストポンプ4は、ギア4a及びギア4bの他に、駆動軸4cと、不図示のハウジングを備えている。ブーストポンプ4のギア4a及びギア4bは、燃料ポンプ3のギア3a及びギア3bよりも大径とされている。なお、
図1においては、ギア4a及びギア4bを模式的示しているため円形にて図示しているが、実際にはギア4a及びギア4bは歯車形状とされている。駆動軸4cは、ギア4aの中央に接続されており、電動モータ5と連結されている。このため、ギア4aは、電動モータ5によって直接回転される。一方、ギア4bは、ギア4aの回転に伴って従動回転される。すなわち、ギア4aが駆動ギアとされ、ギア4bが従動ギアとされている。ハウジングは、ギア4a及びギア4bを収容すると共に、ギア4a及びギア4bの収容空間に繋がる流路を備えている。このようなブーストポンプ4は、定容積型ポンプであることから、燃料ポンプ3と同様に、駆動軸4cの回転数(すなわちギア4a及びギア4bの回転数)に応じて吐出流量を変化させる。
【0022】
また、ブーストポンプ4は、燃料ポンプ3のギア3a及びギア3bよりも大径のギア4a及びギア4bを備えているため、同じように駆動ギアであるギア3aとギア4aとを一回転させたときには、燃料ポンプ3よりも多くの燃料Fを吐出する。すなわち、ブーストポンプ4は、駆動軸4cの単位回転あたりの吐出流量が燃料ポンプ3よりも大きい定容積型ポンプである。なお、ブーストポンプ4の吐出流量は、燃料ポンプ3の吐出流量の1.45倍以上であることが好ましい。
【0023】
電動モータ5は、ブーストポンプ4の駆動軸4cと直結され、さらにシャフト6を介して燃料ポンプ3の駆動軸3cと間接的に接続されている。このような電動モータ5は、ブーストポンプ4の駆動軸4cと燃料ポンプ3の駆動軸3cとを回転数が一致された状態で回転駆動する。なお、電動モータ5は、航空機に搭載される不図示のECU(Engine Control Unit)と電気的に接続され、ECUの制御の下、燃料ポンプ3から吐出される燃料流量が必要量となるように回転数が制御される。このような電動モータ5としては、例えばサーボモータを用いる。
【0024】
シャフト6は、ブーストポンプ4の駆動軸4cと燃料ポンプ3の駆動軸3cとを接続し、電動モータ5で生成された回転動力を燃料ポンプ3の駆動軸3cに伝達するものである。なお、
図1においてシャフト6は、屈曲して図示している。しかしながら、実際には、
図2(a)に示すように、燃料ポンプ3とブーストポンプ4とが、駆動軸3cの軸方向と駆動軸4cと軸方向とが一致するように配置されており、シャフト6は直線状の棒状部材として駆動軸3cと駆動軸4cとを接続している。
【0025】
返流流路7は、ブーストポンプ4の下流とブーストポンプ4の上流とを繋ぐ流路であり、一方の端部がブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間において主流路2と接続され、他方の端部がブーストポンプ4の上流において主流路2と接続されている。この返流流路7は、ブーストポンプ4から吐出された燃料Fのうち余剰分(以下、余剰燃料F1)をブーストポンプ4の上流側に返流する。なお、余剰燃料F1とは、ブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間における内圧を、予め定められた基準圧力を超えさせてしまう分の燃料Fである。
【0026】
リリーフバルブ8は、返流流路7の途中部位に設置されている。このリリーフバルブ8は、
図2(b)に示すように、返流流路7を開閉する弁体8aと、この弁体8aを返流流路7が閉じられる方向に付勢するバネ8bとを備えている。このバネ8bは、返流流路7の内圧(すなわちブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間における内圧)が基準圧力であるときに弁体8aが受ける押圧力と同一の付勢力によって弁体8aを付勢する。このようなリリーフバルブ8は、返流流路7の内圧が基準圧力を超えたときに返流流路7を開放して余剰燃料F1が流れるようにする。
【0027】
なお、上記基準圧力とは、燃料ポンプ3においてキャビテーションが生じないように定められるものであり、燃料システム1の設計段階で定められる値である。なお、返流流路7の内圧(すなわちブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間における内圧)は、リリーフバルブ8のバネ8bの付勢力によって決まる。よって、バネ8bのバネ定数は、返流流路7の内圧(すなわちブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間における内圧)が基準圧力を超えたときに弁体8aが移動するように設定される。
【0028】
流量計9は、燃料ポンプ3の下流側において主流路2の途中部位に設置されている。この流量計9は、燃料ポンプ3から吐出される燃料Fの流量を計測し、その値を不図示のECU等に向けて出力する。
【0029】
続いて、このような構成を有する本実施形態の燃料システム1の動作について説明する。
図1に示す電動モータ5が駆動されると、電動モータ5で生成された回転動力が生成される。なお、電動モータ5の回転数によって燃料ポンプ3の回転数(吐出流量)が決定するため、電動モータ5の回転数は、燃料ポンプ3から吐出すべき流量に基づいて定められる。このように電動モータ5にて回転動力が生成されると、これらの回転動力は、燃料ポンプ3の駆動軸3cとブーストポンプ4の駆動軸4cとに伝達される。これによって、燃料ポンプ3の駆動軸3cとブーストポンプ4の駆動軸4cとが回転数を一致させた状態で回転駆動される。
【0030】
図3の模式図に示すように、ブーストポンプ4の駆動軸4cが回転駆動されると、ギア4a及びギア4bが回転駆動され、これによってブーストポンプ4に供給される燃料Fが昇圧され、その後吐出される。また、燃料ポンプ3の駆動軸3cも回転駆動されているため、ギア3a及びギア4bが回転駆動され、これによってブーストポンプ4から燃料ポンプ3に供給される燃料Fが燃料ノズルから噴霧するのに適した圧力にまで昇圧される。
【0031】
ここで、本実施形態の燃料システム1においては、駆動軸の単位回転あたりの吐出流量が燃料ポンプ3よりもブーストポンプ4の方が多い。このため、ブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間に燃料Fが強制的に押し込まれ、ブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間の内圧が上昇する。なお、ブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間の内圧が基準圧力を超えたときにはリリーフバルブ8が開放されて余剰燃料F1が返流されるため、ブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間の内圧は常に基準圧力となる。したがって、燃料ポンプ3に対しては、常に基準圧力の燃料Fが供給される。
【0032】
続いて、本実施形態の燃料システム1の作用及び効果について説明する。以上のような本実施形態の燃料システム1においては、定容積型ポンプからなるブーストポンプ4が燃料ポンプ3の上流に配置され、燃料ポンプ3と共に単一の電動モータ5によって駆動される。このブーストポンプ4の単位回転あたりの吐出量は、燃料ポンプ3よりも多く設定されている。このため、電動モータ5によって燃料ポンプ3とブーストポンプ4とが駆動されると、電動モータ5の回転数に関わらず、常に、燃料ポンプ3の吐出量よりブーストポンプ4の吐出量が多くなり、ブーストポンプ4と燃料ポンプ3との間にて燃料Fが昇圧される。この結果、常に、燃料ポンプ3に供給される燃料Fが昇圧された状態となる。なお、燃料ポンプ3に供給される燃料Fの圧力が基準圧力を超えたときには、リリーフバルブ8が開放されて返流流路7を介して燃料Fがブースとブーストポンプ4の下流から上流に返流される。このため、燃料ポンプ3に供給される燃料Fの圧力を常に一定の圧力に安定させることができる。このような本実施形態の燃料システム1によれば、ジェットエンジンから直接動力を取ることなくかつ電動モータ5の数を増やすことなく、燃料ポンプ3に供給する燃料Fを昇圧することが可能となる。
【0033】
また、本実施形態の燃料システム1においては、燃料ポンプ3及びブーストポンプ4がギアポンプとされている。ギアポンプは、異物等の付着によるコンタミネーションに対する耐久性が高い。このため、信頼性の高い燃料システム1とすることができる。
【0034】
また、本実施形態の燃料システム1においては、リリーフバルブ8が、返流流路7を開閉する弁体8aと、基準圧力のときに弁体8aが受ける押圧力と同一の付勢力にて弁体8aを付勢するバネ8bとからなる。このため、リリーフバルブ8を駆動するために別途動力源を設置する必要はない。
【0035】
また、本実施形態の燃料システム1においては、駆動軸の単位回転あたりの吐出流量が、燃料ポンプ3に対してブーストポンプ4が1.45倍以上であることが好ましい。特に航空機においては、何らかの原因によって、燃料システム1に送り込まれる燃料FのVL比(蒸気と液体との割合)が上昇した非常時であっても、燃料ポンプ3におけるキャビテーションを防止し、燃料ノズルに燃料を安定供給する必要がある。このため、VL比が0.45の状態であっても燃料ポンプ3におけるキャビテーションを防止することが規格において要求されている。駆動軸の単位回転あたりの吐出流量を、燃料ポンプ3に対してブーストポンプ4が1.45倍以上とすることによって、VL比0.45の燃料Fを昇圧し、燃料ポンプ3におけるキャビテーションを防止することができる。ただし、ブーストポンプ4が大型化するにつれて発熱量及び重量が増加し、平常時におけるエネルギロスが大きくなる。このため、ブーストポンプ4の吐出流量は、燃料ポンプ3の1.45倍から1.45倍を大きく超えない範囲に設定することが望ましい。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0037】
図4は、本実施形態の燃料システム1Aの概略構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態の燃料システム1Aは、上記第1実施形態の燃料システム1の二連式のブーストポンプ4に換えて、三連式のブーストポンプ10と、流量切替部11(第1切替機構)とを備えている。なお、
図4においては、電動モータ5及びシャフト6は省略されている。
【0038】
ブーストポンプ10は、ギア10aと、ギア10bと、ギア10cと、不図示のケーシングとを備える。ギア10a〜10cは、互いに噛み合わされた状態で、不図示のケーシングに収容されている。ギア10b及びギア10cは、ギア10aを挟んで対向配置されている。以下の説明では、ギア10bとギア10cとが対向する方向をギアの対向方向という。電動モータ5は、ギア10aに接続されている。
【0039】
ギア10aは、電動モータ5から供給されるトルクによって回転する。ギア10b及びギア10cは、ギア10aとの噛み合わせにより回転する従動ギアである。すなわち、電動モータ5は、ギア10aを介してギア10bを回転駆動する。
【0040】
燃料Fは、ギア10a〜10cのそれぞれと不図示のケーシングの内壁面とに囲まれる空間に閉じ込められて下流に運ばれる。ギアの対向方向におけるギア10b側のギア10aのほぼ半分を含んで、第1のポンプ部12(昇圧部)が構成される。同様に、ギアの対向方向におけるギア10c側のギア10aのほぼ半分を含んで、第2のポンプ部13(昇圧部)が構成される。
【0041】
第1のポンプ部12と第2のポンプ部13のそれぞれが、二連式のギアポンプと同様に機能する。これらの第1のポンプ部12と第2のポンプ部13の実質的な吐出量の総量が、ブーストポンプ10の吐出量になる。
【0042】
ギア10a及びギア10bが回転すると、燃料Fは第1のポンプ部12で加圧されて下流に吐出される。第2のポンプ部13を経由する燃料Fの流路及び吐出量については、流量切替部11の構成と合わせて説明する。
【0043】
本実施形態の流量切替部11は、逆止弁11a及び可変絞り11bを含んでいる。逆止弁11aは、ブーストポンプ10の上流において主流路2から分岐した流路に設けられている。逆止弁11aは、逆止弁11aの上流側に向かって下流側から燃料Fが流れることを防止する。逆止弁11aを通った燃料Fは、第2のポンプ部13に流入する。第2のポンプ部13の吐出側の流路は、バイパス流路14と吐出流路15とに分岐している。バイパス流路14は、その下流が第2のポンプ部13の流入側と逆止弁11aとの間に合流している。吐出流路15は、その下流が第1のポンプ部12の吐出側と合流している。
【0044】
可変絞り11bは、バイパス流路14に設けられている。可変絞り11bは、第2のポンプ部13から吐出された燃料Fの量に占める、バイパス流路14に流れる燃料Fの量の比率(以下、開口率という)を調整する。可変絞り11bは、可変絞り11bを経由する前後の燃料Fの圧力を監視し、ECU等に制御されて、可変絞りによる調整量である上記の開口率を調整する。
【0045】
可変絞り11bの開口率が最小(全閉)であるときに、第2のポンプ部13から吐出された燃料Fは、そのほぼ全部が吐出流路15を通って、第1のポンプ部12から吐出された燃料Fとともにブーストポンプ10から吐出される。このときに、第2のポンプ部13の実質的な吐出量は、第1のポンプ部12の吐出量とほぼ同じになる。この場合、
図5の模式図に示すように、第1のポンプ部12と第2のポンプ部13とは直列接続された状態となる。
【0046】
可変絞り11bの開口率が最大(全開)であるときに、第2のポンプ部13から吐出された燃料Fは、そのほぼ全部がバイパス流路14を通って、第2のポンプ部13の流入側に戻される。このときに、逆止弁11aが閉止状態となり、主流路2から第2のポンプ部13へ燃料Fが流れなくなる。また、第2のポンプ部13は、燃料Fに対してほぼ仕事をしなくなり、ブーストポンプ10の吐出量にほぼ寄与しなくなる。すなわち、第2のポンプ部13の実質的に吐出量は、ほぼ0になる。この場合、
図6の模式図に示すように、第1のポンプ部12と第2のポンプ部13とは並列接続された状態となる。
【0047】
このような本実施形態の燃料システム1Aにおいては、可変絞り11bが全開であるときに、第1のポンプ部12と第2のポンプ部13とは直列接続されて吐出流量が少なくなる。また、可変絞り11bが全閉であるときに、第1のポンプ部12と第2のポンプ部13とは並列接続されて吐出流量が多くなる。ここで、本実施形態の燃料システム1Aにおいては、第1のポンプ部12と第2のポンプ部13とが直列接続されているときの駆動軸の単位回転(ギア10aの単位回転)あたりのブーストポンプ10の吐出流量が、燃料ポンプ3よりも多くなるように設定されている。
【0048】
このような本実施形態の燃料システム1Aによれば、平常時においては第1のポンプ部12と第2のポンプ部13と直列接続することによって、ブーストポンプ10の吐出流量を燃料ポンプ3よりも僅かに多くし、非常時においては第1のポンプ部12と第2のポンプ部13とを並列接続することによって、ブーストポンプ10の吐出流量を増大させてVL比の増加に対応することができる。このため、VL比が増大する非常時のみ、ブーストポンプ10から吐出流量を大幅に増大させるため、平常時におけるエネルギロスを小さく抑えることができる。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0050】
例えば、上記実施形態においては、燃料ポンプ3及びブーストポンプ4,10がギアポンプである構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、定容積型のポンプであれば、燃料ポンプ及びブーストポンプとして用いることが可能である。例えば、プランジャーポンプやベーンポンプ等を燃料ポンプ及びブーストポンプとして用いることも可能である。
【0051】
また、上記第1実施形態においては、燃料ポンプ3の駆動軸3cとブーストポンプ4の駆動軸4cとをシャフト6によって接続する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、駆動軸3cと駆動軸4c同士を直結させる構成を採用することも可能である。
【0052】
また、上記第2実施形態においては、三連式のギアポンプからなるブーストポンプ4を用いて流量を切替える構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、
図7に示すように、二連式のギアポンプ等からなるブーストポンプ20に対して、同じく定容積型の補助ポンプ21を併設し、開閉弁22a、開閉弁22b及び開閉弁22cからなる切替機構22(第2切替機構)によってブーストポンプ20と補助ポンプ21との接続状態を直列接続と並列接続とに切替えるようにしても良い。具体的には、
図7(a)に示すように、開閉弁22aを開け、開閉弁22bを閉じ、開閉弁22cを開けることによって並列接続となり、吐出流量が増大する。また、
図7(b)に示すように、開閉弁22aを開け、開閉弁22bを閉じ、開閉弁22cを閉じることによって直列接続となり、吐出流量が減少する。このような構成によっても、上記第2実施形態と同様に、VL比が増大する非常時のみ、ブーストポンプ10から吐出流量を大幅に増大させ、平常時におけるエネルギロスを小さく抑えることができる。なお、ブーストポンプ20よりも補助ポンプ21の容量が大きい場合には、ブーストポンプ20と補助ポンプ21の間の圧力が主流路2よりも高圧となるようにリリーフバルブ23を調節する。また、ブーストポンプ20よりも補助ポンプ21の容量が小さい場合には、ブーストポンプ20と補助ポンプ21の間の圧力が低くなる(主流路2と同じとなる)ようにリリーフバルブ23を調節する。また、補助ポンプ21は、電動モータ5によって回転駆動されることが好ましい。これによって、補助ポンプを駆動するための動力源を別途設置する必要がなくなる。