【実施例】
【0025】
次に、本発明の実施例を説明する。ここでは以上のように構成された装置を用いてポリマー材料のユニット分子を検出する手順も併せて説明する。なお、以下で説明する実施例は、本発明を説明するためのあくまでも一具体例であって、本発明が下記に示す実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
飛行時間型質量分析器(リフレクトロン型)を有するSIMS装置を利用して、レーザー光照射手段と組み合わせてレーザーイオン化SNMS装置を構築し、ポリマー材料のユニット分子の検出を行った。一次イオンビームには、30keV−Ga
+ビーム(12nA)を使用した。一次イオンビームの照射領域であるラスター領域は、300×300μmを使用した。質量分析器への引き込み電圧を−1.4kVとし、ポストイオン化されたユニット分子イオンは、飛行時間型質量分析器を経て電子増倍管で検出された。電子増倍管からの信号は高速前置増幅器で増幅され、PCにより処理された。スパッタリング過程で生成する二次イオンとポストイオン化されたユニット分子イオンとを区別するため、レーザー光は、試料の直上0.5mmを通過するように調整した。ポストイオン化用のレーザー光には、Nd:YAGレーザー第四高調波(266nm)を使用した。パルス幅は8nsであり、パルス繰り返し周波数は20Hzであり、パルスエネルギーは250μJ/pulseであった。
【0027】
試験結果を、下記の表1に示す。総合判断は、ポリマー材料のユニット分子の検出ができたときを○とし、できなかったときを×とした。
【0028】
試験(1)〜(4),(12)〜(16)では、試料としてポリスチレン(ユニット分子の分子量=104)を使用し、試験(5)では、ポリアニリン(ユニット分子の分子量=93)を使用し、試験(6)〜(11)では、ポリビニルナフタレン(ユニット分子の分子量=154)を使用した。
【0029】
試験(1)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にSIMSを使用した。SIMSでは、ユニット分子が開裂した二次イオン(77、91等)しか検出できず、ユニット分子(分子量104)を検出することはできなかったため、総合判断としては×であった。
【0030】
試験(2)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用したが、レーザー照射遅延時間△t=0.5μsと式(1)から外れた値を使用したため、ユニット分子(分子量104)を検出することはできず、総合判断としては×であった。
【0031】
試験(3)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したため、ユニット分子(分子量104)を検出することができ、総合判断としては○であった。
【0032】
試験(4)では、試験(3)と同じ条件で、波長355nm、パルスエネルギー250μJ/pulseのパルスレーザー光を使用した。この場合、二光子イオン化ではイオン化には達せず、ユニット分子(分子量104)を検出することはできなかったため、総合判断としては×であった。
【0033】
試験(5)では、ポリアニリンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.1μsと式(1)から導出した値を使用し、ユニット分子(分子量91)を検出することができたため、総合判断としては○であった。
【0034】
試験(6)では、ポリビニルナフタレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.8μsと式(1)から導出した値を使用し、ユニット分子(分子量154)を検出することができたため、総合判断としては○であった。
【0035】
試験(7)では、ポリビニルナフタレンに対し、分子量128(ナフタレン相当)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いて、分子量128の分子の検出に成功したため、総合判断としては○であった。実際に△tを変えて測定すると、
図4のように分子量128で検出される中性粒子の量は変化する。
【0036】
試験(8)では、ポリビニルナフタレンに対し、ユニット分子の二量体(分子量308)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=4.0μsを用いて、分子量308の分子を検出に成功したため、総合判断としては○であった。
【0037】
試験(9)では、ポリビニルナフタレンに対し、ユニット分子の二量体(分子量308)が検出可能な式(1)から外れたレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いたが、分子量308の分子を検出することができなかったため、総合判断としては×であった。
【0038】
試験(10)では、ポリビニルナフタレンに対し、分子量128(ナフタレン相当)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いたが、パルスエネルギーが25μJ/pulseと小さく、分子量128の分子を検出できなかったため、総合判断としては×であった。
【0039】
試験(11)では、ポリビニルナフタレンに対し、分子量308(メチルナフタレン二量体相当)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いたが、パルスエネルギーが400μJ/pulseと大きく、分子量308の分子は開裂してしまい検出できなかったため、総合判断としては×であった。
【0040】
試験(12)〜(14)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したため、ユニット分子(分子量104)を検出することができ、総合判断としては○であった。
【0041】
試験(15)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したが、パルスエネルギーが40μJ/pulseと小さく、分子量104の分子を検出できなかったため、総合判断としては×であった。
【0042】
試験(16)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したが、パルスエネルギーが300μJ/pulseと大きく、分子量104の分子を検出することができ、総合判断としては○であった。なお、本試験結果では、分子量104よりも小さなフラグメントイオンが多数検出された。
【0043】
試験(7)および試験(8)に関しては、レーザー遅延照射時間とレーザーイオン化SNMS信号の関係を
図3に示す。
図3に示すように、Metalを代表するInの場合、△t=0.5μsが最適(カウント数が最大となる)であるが、分子量128(多環式芳香族炭化水素PAHsに該当するナフタレンに相当)は△t=2.4μsが最適であり、分子量308(ポリマーのユニット分子に該当するビニルナフタレンの二量体に相当)は△t=4.0μsが最大である。
図4は、分子量128に対して△tを変えて測定したものである。式(1)の計算結果に近い△t=2.5μsで検出カウント数が最大となることが分かる。
【0044】
【表1】
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。