特許第5983447号(P5983447)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5983447ポリマー材料のユニット分子同定方法及びポリマー材料のユニット分子同定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983447
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ポリマー材料のユニット分子同定方法及びポリマー材料のユニット分子同定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20160818BHJP
   G01N 27/64 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N27/64 B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-21044(P2013-21044)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-153100(P2014-153100A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100128587
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 一騎
(72)【発明者】
【氏名】西野宮 卓
(72)【発明者】
【氏名】林 俊一
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−233248(JP,A)
【文献】 特開2010−2306(JP,A)
【文献】 特開2012−202852(JP,A)
【文献】 特開平7−280752(JP,A)
【文献】 特開平7−294459(JP,A)
【文献】 特開平10−132789(JP,A)
【文献】 米国特許第4442354(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 27/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射し、該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子に対しレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化し、該イオン化した中性粒子を質量分析するレーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法を用いたポリマー材料のユニット分子の同定方法であって、
前記中性粒子がポリマー材料からスパッタリングされた後、前記ポリマー材料の表面から中性粒子のイオン化位置であるレーザー光照射位置までに要する該中性粒子の移動時間が、前記ポリマー材料のユニット分子の質量に応じて変化することを利用して、前記ポリマー材料中に存在が想定されるユニット分子の質量からレーザー光照射タイミングを決定し、該ユニット分子を検出する
ことを特徴とする、ポリマー材料のユニット分子の同定方法。
【請求項2】
前記ユニット分子の質量は、ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射することで該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子に対しレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化する際のレーザー光照射タイミングから推定する
ことを特徴とする、請求項1に記載のポリマー材料のユニット分子の同定方法。
【請求項3】
前記レーザー光は、波長が200〜350nmの紫外レーザー光である
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のポリマー材料のユニット分子の同定方法。
【請求項4】
前記レーザー光は、パルスエネルギーが50〜300μJ/pulseのパルスレーザー光である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー材料のユニット分子の同定方法。
【請求項5】
ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射し、該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子にレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化し、該イオン化した中性粒子を質量分析するレーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法を用いたポリマー材料のユニット分子の同定装置であって、
前記ポリマー材料に対し前記不活性なイオンビームを照射するイオンビーム照射源と、
前記ポリマー材料からスパッタリングされた前記中性粒子に対して前記レーザー光を照射するレーザー光源と、
前記イオン化した中性粒子を質量分析する質量分析計と、
前記イオンビーム照射源による前記イオンビームの照射タイミングおよび前記レーザー光源による前記レーザー光の照射タイミングを少なくとも制御する制御部と、
を備え、
前記中性粒子がポリマー材料からスパッタリングされた後、前記ポリマー材料表面から中性粒子のイオン化位置であるレーザー光照射位置までに要する該中性粒子の移動時間が、前記ポリマー材料のユニット分子の質量に応じて変化することを利用して、前記ポリマー材料中に存在が想定されるユニット分子の質量からレーザー光照射タイミングを決定し、該ユニット分子を検出する
ことを特徴とする、ポリマー材料のユニット分子の同定装置。
【請求項6】
前記ユニット分子の質量は、ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射することで該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子にレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化する際のレーザー光照射タイミングから推定する
ことを特徴とする、請求項5に記載のポリマー材料のユニット分子の同定装置。
【請求項7】
前記レーザー光は、波長が200〜350nmの紫外レーザー光である
ことを特徴とする、請求項5または6に記載のポリマー材料のユニット分子の同定装置。
【請求項8】
前記レーザー光は、パルスエネルギーが50〜300μJ/pulseのパルスレーザー光である
ことを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載のポリマー材料のユニット分子の同定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料のユニット分子を多光子イオン化スパッタ中性粒子質量分析法により特定する分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池や有機太陽電池をはじめ、近年、高分子有機材料利用は、ますます重要度を増している。これら有機高分子材料の開発には、有機分子の構造情報とその分布状態を、サブミクロン〜ナノメートルの平面および深さ方向分解能で得ることが必要である。
【0003】
質量分析法は分子構造解析の有効手段であるが、空間分解能の優れた質量分析法となると、二次イオン質量分析法(SIMS)(例えば特許文献1を参照。)や、レーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法(レーザーイオン化SNMS)(例えば特許文献2、3を参照。)に限られる。
【0004】
しかしながら、二次イオン質量分析法による測定では、有機高分子の二次イオンの生成効率の低さから測定感度が低いという問題点がある。また、プローブとなる一次イオンビームの照射により高分子材料からユニット分子が開裂した多種の二次イオンが同時に生成するため、質量スペクトルと高分子の種類を対応付けることが難しく、その同定には、多変量解析等の高度な解析手法が必要とされる。
【0005】
これに対し、レーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法(レーザーイオン化SNMS)では、開裂しない中性分子を検出することが可能であるため、選択的に開裂しない有機分子の検出が可能である。しかしながら、従来のSNMSでは、ポリマーのユニット分子を測定することができず、有機高分子材料への応用が困難という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/145232号
【特許文献2】特開平7−294459号公報
【特許文献3】特開2011−233248号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nucl.Instr.Meth.B 78 271−277(1993).
【非特許文献2】Rapid Commun.Mass Spectrom. 12 1226−1231(1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高分子材料から放出される開裂の少ない中性粒子(ユニット分子)を検出するレーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法を利用して、ポリマーのユニット分子を選択的に測定することが可能な、ポリマー材料のユニット分子同定方法及びポリマー材料のユニット分子同定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
金属原子と比較して、試料中の有機高分子材料を構成するユニット分子は、試料表面での結合を切断して放出されるのに必要なエネルギーが大きいため、イオンビーム照射によりユニット分子が開裂しない場合は放出直後の運動エネルギーが小さい、と本発明者は推測した。
【0010】
すなわち、スパッタ位置からレーザー照射位置に到達するまでに要する時間は、ユニット分子の方が金属原子よりも長いと考えられる。特許文献3では、ポリマーからスパークされたユニット分子の検出法に関して到達時間で制御を行う方法が開示されている。そこで本発明は、高感度測定手法を用い、ポリマー材料を構成するユニット分子がパルスイオンビームを試料に照射した後、数μs後に試料1mm直上に到達することを利用して金属原子とポリマーのユニット分子とを選択的に測定すること、またユニット分子の質量の違いにより、イオンスパッタリング後レーザー照射位置までの到達時間が異なることを利用し、レーザー照射タイミングを変化させて測定対象の分子種を特定することを特徴とする。
【0011】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射し、該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子に対しレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化し、該イオン化した中性粒子を質量分析するレーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法を用いたポリマー材料のユニット分子の同定方法であって、前記中性粒子がポリマー材料からスパッタリングされた後、前記ポリマー材料の表面から中性粒子のイオン化位置であるレーザー光照射位置までに要する該中性粒子の移動時間が、前記ポリマー材料のユニット分子の質量に応じて変化することを利用して、前記ポリマー材料中に存在が想定されるユニット分子の質量からレーザー光照射タイミングを決定し、該ユニット分子を検出する
ことを特徴とする、ポリマー材料のユニット分子の同定方法。
(2)前記ユニット分子の質量は、ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射することで該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子に対しレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化する際のレーザー光照射タイミングから推定することを特徴とする、(1)に記載のポリマー材料のユニット分子の同定方法。
(3)前記レーザー光は、波長が200〜350nmの紫外レーザー光であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のポリマー材料のユニット分子の同定方法。
(4)前記レーザー光は、パルスエネルギーが50〜300μJ/pulseのパルスレーザー光であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリマー材料のユニット分子の同定方法。
(5)ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射し、該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子にレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化し、該イオン化した中性粒子を質量分析するレーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法を用いたポリマー材料のユニット分子の同定装置であって、前記ポリマー材料に対し前記不活性なイオンビームを照射するイオンビーム照射源と、前記ポリマー材料からスパッタリングされた前記中性粒子に対して前記レーザー光を照射するレーザー光源と、前記イオン化した中性粒子を質量分析する質量分析計と、前記イオンビーム照射源による前記イオンビームの照射タイミングおよび前記レーザー光源による前記レーザー光の照射タイミングを少なくとも制御する制御部と、を備え、前記中性粒子がポリマー材料からスパッタリングされた後、前記ポリマー材料表面から中性粒子のイオン化位置であるレーザー光照射位置までに要する該中性粒子の移動時間が、前記ポリマー材料のユニット分子の質量に応じて変化することを利用して、前記ポリマー材料中に存在が想定されるユニット分子の質量からレーザー光照射タイミングを決定し、該ユニット分子を検出することを特徴とする、ポリマー材料のユニット分子の同定装置。
(6)前記ユニット分子の質量は、ポリマー材料に対し不活性なイオンビームを照射することで該ポリマー材料からスパッタリングされた中性粒子にレーザー光を照射して該中性粒子をイオン化する際のレーザー光照射タイミングから推定することを特徴とする、(5)に記載のポリマー材料のユニット分子の同定装置。
(7)前記レーザー光は、波長が200〜350nmの紫外レーザー光であることを特徴とする、(5)または(6)に記載のポリマー材料のユニット分子の同定装置。
(8)前記レーザー光は、パルスエネルギーが50〜300μJ/pulseのパルスレーザー光であることを特徴とする、(5)〜(7)のいずれか1項に記載のポリマー材料のユニット分子の同定装置。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、レーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法を用いて、ポリマー材料中のユニット分子をその分子量に応じて選択的に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に用いるレーザーイオン化SNMS装置およびタイミングダイアグラム例を示した説明図である。
図2】ユニット分子質量とレーザー照射遅延時間の関係を示した説明図である。
図3】レーザー照射遅延時間とレーザーイオン化SNMS信号の関係を示した説明図である。
図4】レーザー照射遅延時間ごとの質量スペクトルの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
本発明に用いるレーザーイオン化SNMS装置の例を、図1に示す。レーザーイオン化SNMSは、一次イオンビームにより標的試料からスパッタリングされた中性粒子をレーザー光でイオン化し、質量分析する手法である。
【0016】
本発明の実施形態に係るレーザーイオン化SNMS装置は、図1に示したように、測定試料3に対して一次イオンビーム2を照射するイオンビーム照射源であるイオン銃1と、生成する中性粒子5をポストイオン化するレーザー光を射出するレーザー光源4と、ポストイオン化された中性粒子5を加速しつつ分析計方向に向かわせる引出し電極6と、イオン種を分離し検出する質量分析計7と、分析計の終端に設けられ、イオンを検出するイオン検出器8と、このイオン検出器8との同期を取るとともに計数記録部9との同期をとるための制御回路10と、から構成されている。制御回路10は、パルスジェネレータ、Time−to−Digital Converter(TDC)およびMulti Channel Scaler(MCS)から構成されており、レーザー光入射、イオンビーム照射、イオン検出のタイミングの同期をとっている。
【0017】
ポリマー材料に不活性なイオンビーム2を照射し、発生した中性のユニット分子を、そのイオン化ポテンシャルエネルギーを1光子もしくは2光子以上のエネルギーで超える波長のレーザー光で△t[μs]後にイオン化し(ポストイオン化と定義する。)、引き出し電極6で質量分析計7に引き込み、質量分析した後、正のユニット分子イオンを検出し、その質量からユニット分子を同定する。
【0018】
このとき△t[μs]は、試料表面からレーザーによるイオン化位置までの中性粒子の移動時間に相当し、この時間は、中性粒子の質量に応じて変化する。この際、存在が想定されるユニット分子の質量M[amu]に応じて、下記式(1)により、イオンビーム照射後、一次イオンが試料に到着してから、試料表面からレーザー光照射位置までの高さd[mm]に対してレーザー光を照射するまでの時間(レーザー照射遅延時間)△t[μs]を算出し、レーザー光照射タイミングを決定する。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで、上記式(1)中のA[μs/mm/amu1/2]は、比例定数である。また、式(1)を用いれば、質量Mが未知のユニット分子に対しても、レーザー照射遅延時間△tからその質量Mを推定できる。
【0021】
図2に、ユニット分子の質量Mに対して最適なレーザー照射遅延時間Δtを示す。図2において、横軸はユニット分子の質量[amu]に対応し、縦軸はレーザー照射遅延時間Δt[μs]である。図2中のポリマー(Polymer)で示された曲線は、式(1)より導出した。また、図2から明らかなように、金属原子(Metal)は△t=0.5μs程度であり、多環芳香族炭化水素(PAHs)は△t=1.5μs程度であって、△tの誤差±1μs内ではほぼ質量によらず、運動エネルギーの違いにもよらない。つまり、金属原子(Metal)および多環芳香族炭化水素(PAHs)のレーザー照射遅延時間Δtは、式(1)によらない。
【0022】
スパッタリング後の運動エネルギーは、文献でも、MetalとPAHs(〜1eV、非特許文献1を参照。)よりPolymer(〜0.1eV、非特許文献2を参照。)が一桁程度小さい。運動エネルギーは△tの逆数の二乗に比例することから、Polymerは、スパッタリングされてからレーザー光照射位置まで到着するのに要する時間は大きく、その質量依存性も大きい。スパッタリングされてからレーザー光照射位置まで到着するのに要する時間の質量依存性は、式(1)で表されるようなレーザー照射遅延時間△tの質量依存性を持つ。
【0023】
本発明者の知見によれば、実験結果から外挿した比例定数はA=0.44±0.04[μs/mm/amu1/2]程度であり、△tの誤差は±1μs程度である。また、本発明者の知見によれば、イオン化に必要なレーザーの波長は200〜350nmの紫外レーザー光であることが望ましく、パルスエネルギーが50〜300μJ/pulseのパルスレーザー光が望ましい。なお、現状では、レーザーの波長が200nm未満であり、かつ、イオン化に適したパワーを有するレーザーは存在しない。また、レーザーの波長が350nm超過である場合には、三光子イオン化となり、中性粒子がイオン化と同時に壊れる可能性があり、好ましくない。また、パルスエネルギーが50μJ/pulse未満である場合には、ユニット分子がイオン化されない場合が生じうるため好ましくなく、パルスエネルギーが300μJ/pulse超過である場合には、イオン化したユニット分子に加え、ユニット分子よりも分子量の小さなフラグメントイオンが発生する可能性が高くなるため好ましくない。
【0024】
以上説明したように、本発明の実施形態に係るポリマー材料のユニット分子の同定装置および同定方法は、高分子材料から放出される開裂の少ない中性粒子(ユニット分子)を検出するレーザーイオン化スパッタ中性粒子質量分析法であり、プローブとなる一次イオンビームとレーザーの照射タイミングを測定対象高分子材料の違いで変化させて、ポリマーのユニット分子を選択的に測定するものである。
【実施例】
【0025】
次に、本発明の実施例を説明する。ここでは以上のように構成された装置を用いてポリマー材料のユニット分子を検出する手順も併せて説明する。なお、以下で説明する実施例は、本発明を説明するためのあくまでも一具体例であって、本発明が下記に示す実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
飛行時間型質量分析器(リフレクトロン型)を有するSIMS装置を利用して、レーザー光照射手段と組み合わせてレーザーイオン化SNMS装置を構築し、ポリマー材料のユニット分子の検出を行った。一次イオンビームには、30keV−Gaビーム(12nA)を使用した。一次イオンビームの照射領域であるラスター領域は、300×300μmを使用した。質量分析器への引き込み電圧を−1.4kVとし、ポストイオン化されたユニット分子イオンは、飛行時間型質量分析器を経て電子増倍管で検出された。電子増倍管からの信号は高速前置増幅器で増幅され、PCにより処理された。スパッタリング過程で生成する二次イオンとポストイオン化されたユニット分子イオンとを区別するため、レーザー光は、試料の直上0.5mmを通過するように調整した。ポストイオン化用のレーザー光には、Nd:YAGレーザー第四高調波(266nm)を使用した。パルス幅は8nsであり、パルス繰り返し周波数は20Hzであり、パルスエネルギーは250μJ/pulseであった。
【0027】
試験結果を、下記の表1に示す。総合判断は、ポリマー材料のユニット分子の検出ができたときを○とし、できなかったときを×とした。
【0028】
試験(1)〜(4),(12)〜(16)では、試料としてポリスチレン(ユニット分子の分子量=104)を使用し、試験(5)では、ポリアニリン(ユニット分子の分子量=93)を使用し、試験(6)〜(11)では、ポリビニルナフタレン(ユニット分子の分子量=154)を使用した。
【0029】
試験(1)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にSIMSを使用した。SIMSでは、ユニット分子が開裂した二次イオン(77、91等)しか検出できず、ユニット分子(分子量104)を検出することはできなかったため、総合判断としては×であった。
【0030】
試験(2)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用したが、レーザー照射遅延時間△t=0.5μsと式(1)から外れた値を使用したため、ユニット分子(分子量104)を検出することはできず、総合判断としては×であった。
【0031】
試験(3)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したため、ユニット分子(分子量104)を検出することができ、総合判断としては○であった。
【0032】
試験(4)では、試験(3)と同じ条件で、波長355nm、パルスエネルギー250μJ/pulseのパルスレーザー光を使用した。この場合、二光子イオン化ではイオン化には達せず、ユニット分子(分子量104)を検出することはできなかったため、総合判断としては×であった。
【0033】
試験(5)では、ポリアニリンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.1μsと式(1)から導出した値を使用し、ユニット分子(分子量91)を検出することができたため、総合判断としては○であった。
【0034】
試験(6)では、ポリビニルナフタレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.8μsと式(1)から導出した値を使用し、ユニット分子(分子量154)を検出することができたため、総合判断としては○であった。
【0035】
試験(7)では、ポリビニルナフタレンに対し、分子量128(ナフタレン相当)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いて、分子量128の分子の検出に成功したため、総合判断としては○であった。実際に△tを変えて測定すると、図4のように分子量128で検出される中性粒子の量は変化する。
【0036】
試験(8)では、ポリビニルナフタレンに対し、ユニット分子の二量体(分子量308)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=4.0μsを用いて、分子量308の分子を検出に成功したため、総合判断としては○であった。
【0037】
試験(9)では、ポリビニルナフタレンに対し、ユニット分子の二量体(分子量308)が検出可能な式(1)から外れたレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いたが、分子量308の分子を検出することができなかったため、総合判断としては×であった。
【0038】
試験(10)では、ポリビニルナフタレンに対し、分子量128(ナフタレン相当)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いたが、パルスエネルギーが25μJ/pulseと小さく、分子量128の分子を検出できなかったため、総合判断としては×であった。
【0039】
試験(11)では、ポリビニルナフタレンに対し、分子量308(メチルナフタレン二量体相当)が検出可能な式(1)から導出したレーザー照射遅延時間△t=2.4μsを用いたが、パルスエネルギーが400μJ/pulseと大きく、分子量308の分子は開裂してしまい検出できなかったため、総合判断としては×であった。
【0040】
試験(12)〜(14)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したため、ユニット分子(分子量104)を検出することができ、総合判断としては○であった。
【0041】
試験(15)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したが、パルスエネルギーが40μJ/pulseと小さく、分子量104の分子を検出できなかったため、総合判断としては×であった。
【0042】
試験(16)では、ポリスチレンのユニット分子の検出にレーザーイオン化SNMSを使用し、レーザー照射遅延時間△t=2.3μsと式(1)から導出した値を使用したが、パルスエネルギーが300μJ/pulseと大きく、分子量104の分子を検出することができ、総合判断としては○であった。なお、本試験結果では、分子量104よりも小さなフラグメントイオンが多数検出された。
【0043】
試験(7)および試験(8)に関しては、レーザー遅延照射時間とレーザーイオン化SNMS信号の関係を図3に示す。図3に示すように、Metalを代表するInの場合、△t=0.5μsが最適(カウント数が最大となる)であるが、分子量128(多環式芳香族炭化水素PAHsに該当するナフタレンに相当)は△t=2.4μsが最適であり、分子量308(ポリマーのユニット分子に該当するビニルナフタレンの二量体に相当)は△t=4.0μsが最大である。図4は、分子量128に対して△tを変えて測定したものである。式(1)の計算結果に近い△t=2.5μsで検出カウント数が最大となることが分かる。
【0044】
【表1】
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0046】
1 イオン銃
2 一次イオンビーム
3 測定試料
4 レーザー光源
5 中性粒子
6 引き出し電極
7 質量分析計
8 イオン検出器
9 計数記録部
10 制御回路

図1
図2
図3
図4