特許第5983632号(P5983632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5983632電磁波伝達シート、及び、電磁波伝送装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983632
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】電磁波伝達シート、及び、電磁波伝送装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 3/12 20060101AFI20160823BHJP
   H04B 5/02 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   H01P3/12
   H04B5/02
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-556056(P2013-556056)
(86)(22)【出願日】2012年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2012008161
(87)【国際公開番号】WO2013114507
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2015年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-22506(P2012-22506)
(32)【優先日】2012年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】服部 渉
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131612(WO,A1)
【文献】 特開2009−296550(JP,A)
【文献】 福田浩司(外3名),「2次元通信媒体端部からの漏洩電磁界抑制」,2010年電子情報通信学会総合大会講演論文集,2010年 3月 2日,エレクトロニクス(1),pp.140,C-2-97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 3/12
H04B 5/02
H04B 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と接続し、電磁波を伝達する電磁波伝達シートであって、
平面形状を規定するエッジ部分が、互いに平行に延在する平行部分を有する2つの長端辺と、互いに平行に延在する平行部分を有し、前記長端辺よりも短い2つの短端辺とからなり、
前記2つの長端辺及び前記2つの短端辺は反射終端であり、
前記2つの短端辺のうち、少なくとも第1の前記短端辺の前記平行部分は、第1の部分と第2の部分とを含み、
前記長端辺の前記平行部分に略平行な方向に伝搬する電磁波には、
前記第1の短端辺の前記第1の部分に向かう進行波と、前記第1の部分で反射し第2の前記短端辺に向かう反射波とで形成される第1の定在波、及び、
前記第1の短端辺の前記第2の部分に向かう進行波と、前記第2の部分で反射し前記第2の短端辺に向かう反射波とで形成される第2の定在波が含まれ、
前記第1の定在波及び前記第2の定在波各々の腹の前記長端辺の前記平行部分に略平行な方向の位置は、互いに、電磁波伝達シート内を伝搬する電磁波の波長の1/4ずれている電磁波伝達シート。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波伝達シートにおいて、
前記第1の部分は短絡終端となっており、前記第2の部分は開放終端となっている電磁波伝達シート。
【請求項3】
請求項1に記載の電磁波伝達シートにおいて、
前記第1の部分及び前記第2の部分は、前記長端辺の前記平行部分に平行な方向の位置が互いに異なる電磁波伝達シート。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁波伝達シートにおいて、
前記長端辺の前記平行部分に平行な方向の前記第1の部分及び前記第2の部分間の距離は、電磁波伝達シート内を伝搬する電磁波の波長の半分をM(0以上の整数)倍した値に、前記波長の1/4を加えた値に略等しい電磁波伝達シート。
【請求項5】
請求項4に記載の電磁波伝達シートにおいて、
前記Mは0である電磁波伝達シート。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載の電磁波伝達シートにおいて、
前記第1の部分及び前記第2の部分は、いずれも短絡終端であるか、または、いずれも開放終端である電磁波伝達シート。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか1項に記載の電磁波伝達シートにおいて、
前記2つの長端辺及び前記2つの短端辺は反射終端である電磁波伝達シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電磁波伝達シート、
前記電磁波伝達シートの第2の前記短端辺の近傍に設けられた入力部、及び、
前記入力部と接続した交流電源を有する送電装置と、
前記電磁波伝達シート上に配置され、前記電磁波伝達シートの表面から漏洩する電磁波のうち、電界及び磁界の少なくとも一方と結合可能に構成された結合器を有する受電装置と、
を有する電磁波伝送装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電磁波伝送装置において、
前記電磁波伝達シートは、請求項2から7のいずれか1項の構成であり、
前記電磁波伝達シート上における、前記第1の短端辺の前記第1の部分が前記長端辺の前記平行部分に平行な方向に延在した領域を第1シート、前記第1の短端辺の前記第2の部分が前記長端辺の前記平行部分に平行な方向に延在した領域を第2シートとすると、
前記結合器は、前記第1シート及び前記第2シートに跨って配置されている電磁波伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波伝達シート、及び、電磁波伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波を伝達するシート(以下、「電磁波伝達シート」)を用いた電磁波伝送装置においては、電磁波伝達シート内で定在波を生じることによる電磁波伝送の不安定性が以前から問題視されている。
【0003】
特許文献1(特開2007−281678号公報)には、電磁波伝達シートの端部に抵抗や電磁波吸収体を配置して電磁波の反射を抑制し、定在波を低減する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2010−114696号公報)には、伝達する電磁波の進行方向に垂直方向の幅の長さが、当該垂直方向で共振状態となるように、伝達する電磁波の波長の半分の自然数倍に略等しくなっている電磁波伝達シートが記載されている。そして、当該電磁波伝達シートは、伝達する電磁波の進行方向の反射を低減する電磁波吸収媒体を備え、伝達する電磁波の進行方向に垂直方向の反射を低減する電磁波吸収媒体を備えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−281678号公報
【特許文献2】特開2010−114696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術の場合、電磁波伝達シートの少なくとも一部の端辺は終端となっているので、電子波エネルギーが吸収・廃棄され、電磁波の伝達効率が低下するという問題がある。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、電磁波エネルギーが吸収・廃棄されることを抑制しつつ、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、交流電源と接続し、電磁波を伝達する電磁波伝達シートであって、平面形状を規定するエッジ部分が、互いに平行に延在する平行部分を有する2つの長端辺と、互いに平行に延在する平行部分を有し、前記長端辺よりも短い2つの短端辺とからなり、前記2つの長端辺及び前記2つの短端辺は反射終端であり、前記2つの短端辺のうち、少なくとも第1の前記短端辺の前記平行部分は、第1の部分と第2の部分とを含み、前記長端辺の前記平行部分に略平行な方向に伝搬する電磁波には、前記第1の短端辺の前記第1の部分に向かう進行波と、前記第1の部分で反射し第2の前記短端辺に向かう反射波とで形成される第1の定在波、及び、前記第1の短端辺の前記第2の部分に向かう進行波と、前記第2の部分で反射し前記第2の短端辺に向かう反射波とで形成される第2の定在波が含まれ、前記第1の定在波及び前記第2の定在波各々の腹の前記長端辺の前記平行部分に略平行な方向の位置は、互いに、電磁波伝達シート内を伝搬する電磁波の波長の1/4ずれている電磁波伝達シートが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、前記電磁波伝達シート、前記電磁波伝達シートの第2の前記短端辺の近傍に設けられた入力部、及び、前記入力部と接続した交流電源を有する送電装置と、前記電磁波伝達シート上に配置され、前記電磁波伝達シートの表面から漏洩する電磁波のうち、電界及び磁界の少なくとも一方と結合可能に構成された結合器を有する受電装置と、を有する電磁波伝送装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電磁波エネルギーが吸収・廃棄されることを抑制しつつ、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
上述した目的、および、その他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、および、それに付随する以下の図面によって、さらに明らかになる。
図1】(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る電磁波伝送装置の構成を模式的に示した図であり、(b)はその構成のうちの電磁波伝達シートの上面図を模式的に示している。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る、自由端における進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を模式的に示したグラフである。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る、固定端における進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を模式的に示したグラフである。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る電磁波伝達シート内の第1の短端辺近傍の定在波の様子を示した濃淡図である。
図5】本発明の第3の実施の形態に係る電磁波伝送装置の構成うちの電磁波伝達シートの一例の上面図を模式的に示した図である。
図6】本発明の第3の実施の形態に係る、第1の短端辺が自由端の場合の、電磁波伝達シート内の進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を模式的に示したグラフである。
図7】本発明の第3の実施の形態に係る、第1の短端辺が自由端の場合の、電磁波伝達シート内の進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を模式的に示したグラフである。
図8】本発明の第3の実施の形態に係る、第1の短端辺が自由端の場合の、第1の短端辺近傍の電磁波伝達シート内の定在波の様子を示した濃淡図である。
図9】本発明の第3の実施の形態に係る、第1の短端辺が固定端の場合の、電磁波伝達シート内の進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を模式的に示したグラフである。
図10】本発明の第3の実施の形態に係る、第1の短端辺が固定端の場合の、電磁波伝達シート内の進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を模式的に示したグラフである。
図11】本発明の第3の実施の形態に係る電磁波伝送装置の構成うちの、電磁波伝達シートの第1の短端辺の他の一例の上面図を模式的に示した図である。
図12】本発明の第3の実施の形態に係る電磁波伝送装置の構成うちの、電磁波伝達シートの第2の短端辺の他の一例の上面図を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
本実施形態の電磁波伝送装置は、送電装置と受電装置を有する。
【0014】
送電装置は、電磁波伝達シートと、当該電磁波伝達シート上に設けられた入力部と、当該入力部に接続した交流電源とを有する。
【0015】
電磁波伝達シートの平面形状は、略長方形である。すなわち、電磁波伝達シートの平面形状を規定するエッジ部分は、互いに平行に延在する平行部分を有する2つの長端辺と、互いに平行に延在する平行部分を有し、長端辺よりも短い2つの短端辺とからなる。長端辺の平行部分と、短端辺の平行部分の関係は、例えば垂直である。なお、2つの長端辺は、平行部分と異なる部分(例:互いに平行になっていない部分)をさらに有してもよいし、有さなくてもよい。同様に、2つの短端辺は、平行部分と異なる部分(例:互いに平行になっていない部分)をさらに有してもよいし、有さなくてもよい。
【0016】
入力部は、電磁波伝達シートの外周沿いの4つの端辺(2つの長端辺、及び、2つの短端辺)のうち、1つの短端辺(第2の短端辺)の近傍に設けられている。そして、交流電源の出力が、当該入力部と接続している。
【0017】
受電装置は、電磁波伝達シート上に配置される。なお、複数の受電装置が電磁波伝達シート上に配置される場合、当該シートの長端辺に沿って配置される。受電装置は、電磁波伝達シートの表面から漏洩する該シート内の電磁波のうち、電界、または磁界の、どちらか一方と主として結合する結合器を有し、当該結合器により電力を受電する。
【0018】
電磁波伝達シートの4つの端辺は、電磁波吸収媒体を備えない反射終端で構成される。また、第2の短端辺と異なる短端辺(第1の短端辺)は、少なくとも2つの部分から構成される。
【0019】
ここで、電磁波伝達シート内を長端辺に略平行に伝搬する電磁波のうち、第1の短端辺に向かう進行波と、第1の短端辺で反射され、第2の短端辺に向かう反射波と、から形成される定在波群のうち、第1の短端辺の少なくとも2つの部分の中の少なくとも1つ以上の部分において反射波を生じ、該シートの長端辺に略垂直な線分上で位置が略同一となる定在波を第1の定在波群とする。また、上記定在波群の内、第1の短端辺の少なくとも2つの部分の中の第1の定在波群が反射波を生じる部分と異なる1つ以上の部分において反射波を生じ、該シートの長端辺に略垂直な線分上で位置が略同一となる定在波を第2の定在波群とする。
【0020】
結合器は、少なくとも第1の定在波群と、第2の定在波群と、の両方から電力を受電する構成であって、第1の定在波群の腹の位置と、第2の定在波群の腹の位置と、の電磁波伝達シートの長端辺に略平行な方向の間隔が、該シート内を長端辺に略平行に伝搬する電磁波の波長の1/4に略等しくなっている。
【0021】
なお、「電磁波伝達シートの平面形状が略長方形」とは、例えば短端辺が長端辺に垂直な線分形状である長方形状だけでなく、短端辺が凸形状、凹形状、婉曲部などを有する場合であって、長端辺に平行な方向のバラつきの範囲が、長端辺の長さより十分短く、且つ長端辺が短端辺より長い形状も含む概念である。ここで、「十分短い」とは、例えば長端辺の1/4以下の長さであることをいう。また、当業者が電磁波伝達シートを実際に作製する場合には、理想的で完全な直角、完全な直線などは作製公差などにより実現できない。このような状況を鑑みて、略長方形と表記した。以下、略平行、略垂直と表記した理由も同様である。
【0022】
また、入力部の設置位置の説明において用いた「第2の短端辺の近傍」とは、第2の短端辺と入力部の間隔が電磁波伝達シートの長端辺の長さより十分短い状態を指し、例えば、第2の短端辺と入力部の間隔が電磁波伝達シートの長端辺の1/4以下の長さであることをいう。
【0023】
また、「定在波の位置」とは、定在波の最大振幅を与える腹の位置や最小振幅を与える節の位置を基準として測定した位置のことを指す。したがって、電磁波伝達シートの長端辺に垂直な線分上で位置が同一な定在波群とは、電磁波伝達シートの長端辺を軸とした場合に腹や節の位置座標が一致する一連の定在波を指す。
【0024】
さらに、交流電源から出力され、電磁波伝達シート内を伝搬する電磁波の周波数は単一周波数とは限らず、周波数スペクトルは広がり、すなわち帯域幅を持っていてもよい。その場合には、おおむね周波数帯域の中心周波数を代表させて、電磁波伝達シートを伝搬する電磁波の波長とすればよい。あるいは変調波などの場合には搬送波の周波数を基本としてもよい。そのため、上記の定在波においても、腹や節の位置が幅を持ったり、節では振幅が0にならなかったりする。このような状況を鑑みて、定在波群の位置が略同一と表記した。
【0025】
また、従来から結合器には、ダイポールアンテナにみられるような電界結合器、あるいはループアンテナにみられるような磁界結合器が存在する。これらの結合器は、各々主に電界と結合するか、主に磁界と結合するが、決して電界結合器は全く磁界を受けない、あるいは磁界結合器は全く電界を受けないわけではない。したがって、「前記電磁波伝達シートの表面から漏洩する該シート内の電磁波のうち、電界、または磁界の、どちらか一方と主として結合する結合器」という表現において、「主として」と記載した。
【0026】
さらに、短絡終端や開放終端を作成した場合に寄生容量や寄生インダクタンス、寄生抵抗などの寄生回路素子成分により、理想的な短絡終端や開放終端を実際には作製できないことは言うまでもない。したがって、本実施形態では、位相は本実施形態の効果を得るのに十分な精度であることを意味している。具体的には、概ね、位相の相違が180度の前後20度以内に収まることを示す。また、波長においても、電磁波伝達シートの作製公差などにより、完全に長さを規定できない場合や、高周波電源から、例えば実施の形態に詳述する変調波を入力した場合に搬送波成分で波長を規定せざるをえないような場合があるため、上記と同じく、本実施形態の効果を得るのに十分な精度である、位相換算で前後20度以内、即ち前後1/18波長以内に収まることを意味する。このような理由から、「電磁波の波長の1/4に略等しくなる」という表現を使用している。
【0027】
特許文献2(特開2010−114696号公報)開示の技術と異なり、本発明によれば、電磁波伝達シートの略長方形を構成する4つの端辺に電磁波吸収媒体を備えないため、電磁波伝達シートの短端辺に平行に進行する電磁波のみならず、長端辺に平行に進行する電磁波においても、電磁波エネルギーが電磁波吸収媒体により吸収・廃棄されることが抑制される。
【0028】
なお、電磁波伝達シートの4つの端辺のうち、近傍に入力部を設けた第2の短端辺に対向する第1の短端辺においても電磁波吸収媒体を備えず、反射終端とする。したがって、電磁波伝達シートの長端辺に平行に、第2の短端辺から第1の短端辺に向かって電磁波伝達シート内を進行する電磁波は、第1の短端辺で反射され、少なくとも電磁波伝達シートの長端辺に沿って定在波を生じる。
【0029】
しかしながら、本実施形態では、第1の短端辺は少なくとも2つの部分からなるため、電磁波伝達シートに生じる定在波は、第1の短端辺の各々異なる部分で反射する第1の定在波群及び第2の定在波群に分類することができる。さらに、第1の定在波群の位置と、第2の定在波群の位置と、の電磁波伝達シートの長端辺に略平行な間隔が、該シート内を長端辺に略平行に伝搬する電磁波の波長の1/4に略等しくなる構成を取るため、該シートの長端辺に略垂直な線分上の位置では、一方の定在波群が腹の場合、他方は節となる。したがって、該シートの長端辺に略垂直な線分上で相補的に並ぶ腹と節により、該シートの長端辺に略垂直な線分上で平均化して観察した場合における、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一は緩和される。
【0030】
さらに、電磁波伝達シートの長端辺に沿って配置される受電装置に搭載される結合器は、少なくとも第1の定在波群と、第2の定在波群と、の両方から電力を受電する構成を取るため、例え節の部分に結合器の一部分が掛っていても、該シートの長端辺に略垂直な線分上の位置に相補的に並ぶ腹から電力を受電することにより、送電装置から電力を受け取ることができる。
【0031】
以上の通り、上記の構成によれば、シート内に生じる定在波に起因する電磁波強度の不均一を緩和した状態で、電磁波伝達シートの短端辺に平行に進行する電磁波のみならず、長端辺に平行に進行する電磁波においても、電磁波エネルギーが吸収・廃棄されることを抑制した電磁波伝送装置を提供することができる。
【0032】
なお、本実施形態の電磁波伝送装置は、電磁波伝達シートの第1の短端辺のうち、第1の定在波群を生じる部分は短絡終端で構成され、且つ、第2の定在波群を生じる部分は開放終端で構成され、第1の短端辺は、電磁波伝達シートの長端辺に略垂直に構成することができる。すなわち、第1の短端辺を構成する少なくとも2つの部分の内、少なくとも1つの部分は短絡終端で構成し、少なくとも1つの他の部分は開放終端で構成する。
【0033】
このようにした場合、第1の定在波群の腹の位置と、第2の定在波群の腹の位置と、の電磁波伝達シートの長端辺に略平行な方向の間隔が、該シート内を長端辺に略平行に伝搬する電磁波の波長の1/4に略等しくなる。
【0034】
短絡終端と開放終端では、進行波に対する反射波の位相が180度異なる。そして、第1の短端辺は、長端辺に略垂直に構成されるため、第1の定在波群と第2の定在波群とは腹と節の位置を基準とする定在波の位置が、該シートの長端辺に略平行に測って1/4波長互いにずれる。すなわち、第1の定在波群の腹の位置と、第2の定在波群の腹の位置と、の電磁波伝達シートの長端辺に略平行な間隔が、該シート内を長端辺に略平行に伝搬する電磁波の波長の1/4に略等しくなる構成が実現される。したがって、一方が節の場合、他方は腹となるため、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和できる。
【0035】
また、本実施形態の電磁波伝送装置は、電磁波伝達シートの第1の短端辺のうち、第1の定在波群を生じる部分と、第2の定在波群を生じる部分とが、短絡終端か、開放終端かの同一の種類の反射終端で構成され、且つ、第1の定在波群を生じる部分と、第2の定在波群を生じる部分との、電磁波伝達シートの長端辺に略平行な方向の間隔が、該シートの長端辺に略平行に該シート内を進行する電磁波の波長の半分をM(0以上の整数)倍した値に、該波長の1/4を加えた長さに略等しくすることができる。
【0036】
上述のように構成した場合、定在波の腹と節は1/4波長ごとに交互に現れるため、第1の定在波群の位置と、第2の定在波群の位置と、の電磁波伝達シートの長端辺に略平行な方向の間隔が、該シート内を長端辺に略平行に伝搬する電磁波の波長の1/4に略等しくなる構成を実現できる。すなわち、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和する構成を実現できる。
【0037】
なお、同一の種類の反射終端とは、定在波を生じさせる当該端部に入射する進行波の位相に対して端部において生じる反射波の位相が十分な精度で同一である、寄生抵抗などの入射波の減衰が十分小さい反射終端を意味する。
【0038】
また、本実施形態の電磁波伝送装置は、上記Mを「0(ゼロ)」とすることができる。
【0039】
このように構成した場合、電磁波伝達シートの端部の、長端辺に平行に測った幅を、特に前記進行する電磁波の波長のほぼ1/4まで短くできるため、電磁波伝達シートの製造コストを低減でき、その結果電磁波伝送装置の製造コストを低減できる。
【0040】
また、本実施形態の電磁波伝送装置においては、電磁波伝達シートの4つの端辺を短絡終端で構成することができる。
【0041】
このように構成した場合、電磁波伝達シートの4つの端辺(短絡終端)からは電磁波が漏洩しない。したがって、周辺環境への電磁波漏洩による影響を少なくできる。また、周辺環境の変化による電磁波伝達シート内の電磁波伝搬の変化も抑制できる。さらに容易に作製しやすいため、安定して、低コストで電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供することができる。
【0042】
(第2の実施の形態)
図1は本発明の第2の実施の形態を説明する模式図である。図1(a)は本実施の形態の構成を説明する模式図であり、図1(b)はその構成のうち、電磁波伝達シート103の上面図を模式的に示している。なお、本実施形態の電磁波伝達シートは略長方形であり、図1(a)でL>Wの関係を満たすものとする。
【0043】
図1(a)に示されている交流電源101は交流電力を出力する。その出力は配線102を通して、電磁波伝達シート103の入力部104に接続される。入力部104は、電磁波伝達シート103の外周沿いの4つの端辺(2つの長端辺108a、108b、及び、2つの短端辺107、109)のうち、一つの短端辺109(以下、近傍に入力部104を設けられた短端辺を「第2の短端辺」という)の近傍に設けられる。このように、交流電源101と電磁波伝達シート103を含んで、送電装置が構成される。
【0044】
なお、交流電源101が出力する交流電力は単一周波数とは限らず、周波数スペクトルは広がり、すなわち帯域幅を持っていてもよい。その場合には、おおむね周波数帯域の中心周波数を代表させて、電磁波伝達シート103を伝搬する電磁波の波長とすればよい。あるいは変調波などの場合には搬送波の周波数を基本としてもよい。
【0045】
電磁波伝達シート103の上面には、電磁波伝達シート103の長辺にほぼ平行に並んで受電装置105a、105bが配置される。電磁波伝達シート103の上面に配置される受電装置の数は1個でもよいが、複数でもよい。本実施の形態では複数配置されるものとする。各受電装置105a、105bには結合器106a、106bが搭載される。電磁波伝達シート103を伝搬する電磁波は、シート表面から交流電界、または交流磁界として漏洩しており、各々結合器106a、106bなどを介して受電装置105a、105bに給電することができる。なお、多くの先行文献があるため、電界結合器と磁界結合器についての具体的な構成については、特に詳述しない。
【0046】
電磁波伝達シート103に沿って配置される受電装置105a、105bの順序(第2の短端辺側から受電装置を数えた場合の順序)によらず、受電装置の受電電力を適切な範囲に収めるため、受電装置105a、105bの受電電力は、電磁波伝達シート103内部を伝搬する電力より十分小さくすることが望ましい。その場合、図1における電磁波伝達シート103の右端の短端辺107(入力部104が近傍に設けられる短端辺と異なる短端辺:以下、「第1の短端辺」という)に到達する電力は大きくなる。ここで、特許文献2に記載の通りにこの電力を電磁波吸収媒体により吸収・廃棄すると、電力利用効率は極めて低くなってしまう。本実施の形態では、この問題を解決するため、電磁波伝達シート103の第1の短端辺107を反射終端とし、また、電磁波伝達シート103の長端辺108a、108bも、おなじく反射終端とする。この構成により、電磁波伝達シート103の第1の短端辺107に平行に進行する電磁波のみならず、長端辺108a、108bに平行に進行する電磁波においても、電磁波エネルギーが吸収・廃棄されることを抑制した電磁波伝送装置を提供することができる。
【0047】
図1(b)に示した電磁波伝達シート103の上面図の通り、本実施の形態においては特に第1の短端辺107を、電磁波伝達シート103の長端辺108a、108bに対して略垂直にし、且つ、少なくとも2つの部分に分けている。そして、当該2つの部分の中の一つの部分は短絡終端とすることにより反射終端とし、他の部分は開放終端とすることにより反射終端とする。
【0048】
図1(b)においては、第1の短端辺107を第1部分107aと第2部分107bに二分(図中、上下に二分)している。なお、この際、受電装置105a、105bが動作するに足る電力を電磁波伝達シート103上で得られるならば、第1部分107aと第2部分107bの長さは、特に等しくなくてもよい。このうち、例えば第1部分107aは短絡終端、第2部分107bは開放終端とする。なお、ここでいう、短絡終端または開放終端は、完全に寄生容量や寄生インダクタンス、寄生抵抗などの寄生回路素子成分のない理想的な完全反射終端を意味するわけではなく、現実に当業者の作成できる範囲内の反射終端としての短絡終端または開放終端を意味している。
【0049】
ここで、図1(b)に示す一点鎖線A−A´より分離された電磁波伝達シート103の図中上側部分を「第1シート103a」とし、下側部分を「第2シート103b」と定義する。なお、言うまでもなく、一点鎖線は仮想的なもので、実際には電磁波伝達シート103上に存在しない。この領域分けは、あくまで本実施の形態の作用を説明するために用いるものであって、実際のシートには必ずしも必要ではない。
【0050】
但し、意図的に入力部104に到達しない程度に第1の短端辺107から切れ込みを入れ、電磁波伝達シート103が第1シート103aと第2シート103bにおおむね分離した状態で動作するようにしてもよい。そのようにすれば、第1シート103a内に生じる定在波と第2シート103bに生じる定在波の相互に与える影響を小さくすることができるため、安定的に定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和することができる。
【0051】
図1(b)では不図示とした結合器106a、106bは、電磁波伝達シート103の第1シート103a及び第2シート103bに跨って配置される。例えば、結合器106a、106bが電界結合器の場合、結合器106a、106bは、第1シート103a表面から漏洩する電磁波に起因する交流電界と、第2シート103b表面から漏洩する電磁波に起因する交流電界の、両方の電界と結合できる。したがって、第1シート103a表面からも、第2シート103b表面からも、結合器106a、106bなどを介して受電装置105a、105bに給電することができる。なお、本実施の形態では電磁波伝送装置の製造コストを抑制するため、受電装置1個につき1個の結合器を搭載する構成としたが、これに限られるものではない。受電装置には、例えば第1シート103a専用の結合器と第2シート103b専用の結合器といったように、第1の短端辺107を分割した部分の数や定在波群の数に合わせて複数の結合器を1個の受電装置に搭載することもできる。
【0052】
さらに、本実施の形態では交流電源101や入力部104の数は、電磁波伝送装置の製造コストを抑制するため各々一個としたが、これに限られるものではない。上記の通り、第1シート103a内に生じる節の位置と第2シート103bに生じる節の位置の相互に与える影響を小さくするため、図1(b)の一点鎖線A−A´に沿って電磁波伝達シート103を上下に完全に切り離し、第1シート103aと第2シート103bを完全に独立して動作させてもよい。この場合、入力部は第1シート103aと第2シート103bとに各々独立に設けることが望ましい。これら独立に設けた入力部への交流電力の入力は、一個の交流電源101の出力を分岐して行ってもよいし、あるいは2個の交流電源を用いて各々の入力部に各々の電源から入力してもよい。
【0053】
本実施の形態では、交流電源101から出力され、配線102を通して入力部104に入力された交流電力は主に第1の短端辺107に向かって進行する。ここで、「主に」と記した理由は、長端辺108a、108bで反射されながらx方向(図1参照)へ進行する成分と、y方向に進行する成分が合成され、一般的には斜めに進行するが、電磁波伝達シート103が略長方形であることから、巨視的に見れば入力部104から第1の短端辺107に向かう進行波とみなせるためである。
【0054】
第1の短端辺107に到達した交流電力の進行波は、第1部分107a(短絡終端)または第2部分107b(開放終端)にて反射される。ここで、第1の短端辺107は電磁波伝達シート103の長端辺108a、108bに略垂直であるため、この際、電圧でみれば第1部分107a(短絡終端)では固定端反射、第2部分107b(開放終端)では自由端反射、電流でみれば第1部分107a(短絡終端)では自由端反射、第2部分107b(開放終端)では固定端反射となる。すなわち、第1部分107a(短絡終端)及び第2部分107b(開放終端)は、一方が自由端であれば他方は固定端となる。
【0055】
上記状況を説明するため、図2に反射端を自由端とした場合における進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を示した。また、図3に反射端を固定端とした場合における進行波、反射波、およびそれらの合成により形成される定在波の様子を示した。
【0056】
図2図3の横軸は、電磁波伝達シート103内部をy方向に進行する電磁波の波長を単位として、図1の原点0からy方向に測ったシート上の位置を示している。したがって、図2の自由端と図3の固定端は横軸で0の位置、即ち第1の短端辺107に相当する。
【0057】
図2図3は各々3個のグラフから構成され、上から進行波の振幅、反射波の振幅、それらを合成した波の振幅をプロットしている。実線のグラフは定在波の最大振幅を与える位相の電磁波の振幅を示し、この位相を基準に、一点鎖線は60°、二点鎖線は120°、破線は180°位相が進んだ状態を各々示している。なお、本実施形態の作用を簡単に説明するため、図2図3では理想的な完全反射終端としてグラフを描いている。完全に寄生容量や寄生インダクタンス、寄生抵抗などの寄生回路素子成分のない理想的な反射終端を実現できないことは周知の事実であり、実際には当業者の作成できる範囲内の反射終端としての短絡終端、または開放終端となる。しかしながら、その実際の反射終端においても、本実施の形態で説明される作用はおおむね再現され、同様の効果が提供されることは言うまでもない。
【0058】
図2では進行波(一番上のグラフ)は自由端において進行波と同位相で反射され、反射波(真ん中のグラフ)を形成する。その進行波と反射波の合成により、電磁波伝達シート103内部にはy方向に定在波(一番下のグラフ)を生じる。定在波の腹は自由端、即ち位置座標が0.00(第1の短端辺107)に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。一方、節は、位置座標が0.00(第1の短端辺107)からy方向に−1/4波長、即ち位置座標が−0.25の点に現れたのち、位置座標がー0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。
【0059】
図3では進行波(一番上のグラフ)は固定端において進行波と180°位相が進んで反射され、反射波(真ん中のグラフ)を形成する。その進行波と反射波の合成により、電磁波伝達シート103内部にはy方向に定在波(一番下のグラフ)を生じる。定在波の節は固定端、即ち位置座標が0.00(第1の短端辺107)に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。一方、腹は、位置座標が0.00(第1の短端辺107)からy方向に−1/4波長、即ち位置座標が−0.25の点に現れたのち、位置座標が−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。
【0060】
さらに詳細に説明するため、図4に第1の短端辺107の第1部分107aと第2部分107b近傍における第1シート103a及び第2シート103b内の定在波の様子を濃淡図で示した。なお、実験により確認した結果、第1シート103a内に生じる定在波と第2シート103bに生じる定在波の相互に与える影響は十分小さいことが分かったため、図4ではこの影響を無視している。
【0061】
上下の濃淡図の間に記載した横軸は、電磁波伝達シート103内部をy方向に進行する電磁波の波長を単位として、図1の原点0(第1の短端辺107)からy方向に測ったシート上の位置を示している。縦軸は第1シート103aと第2シート103bのx軸を示す。この図では一例として第1シート103aと第2シート103bのx軸方向のサイズが1波長の場合をプロットした。図中の濃淡は電圧の絶対値の最大振幅を示しており、黒の部分から白の部分になるにつれて電圧の絶対値の最大振幅が大きくなっていることを示している。
【0062】
前述の通り、第1の短端辺107の第1部分107aは短絡終端、第2部分107bは開放終端であり、この図4では電磁波伝達シート103の長端辺108aと108bをともに短絡した場合に相当する。その結果、第1シート103aでは、図中黒く表わされる節は位置座標が0.00(第1部分107a)に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。また、白く表わされる腹は位置座標が−0.25の点に現れたのち、位置座標が−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。一方、第2シート103bでは、図中白く表わされる腹は位置座標が0.00(第2部分107b)に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。また、黒く表わされる節は位置座標が−0.25の点に現れたのち、位置座標が−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。
【0063】
なお、図4では一例として第1シート103aと第2シート103bのx軸方向のサイズが1波長の場合をプロットしたため、A−A´で示された線(第1シート103aと第2シート103bの境界線)では両シートともに節となっている。これにより、第1シート103a内に生じる定在波と第2シート103bに生じる定在波の相互に与える影響を小さくすることができる。但し、本実施形態はこの条件に限られるものではなく、第1シート103a内に生じる定在波と第2シート103bに生じる定在波が相互に影響を与える場合にも適用できることは言うまでもない。
【0064】
以上図面で示した通り、第1の短端辺107の状態が自由端(第2部分107b)である場合と、固定端(第1部分107a)である場合を比較すると、原点Oからy方向に測ったシート上の位置座標が同じ場合、一方が腹の場合には他方に節が、一方が節の場合には他方に腹が現れる。すなわち、第1の短端辺107が短絡終端(第1部分107a)となっている第1シート103aと、開放終端(第2部分107b)となっている第2シート103bとを比較すると、原点Oからy方向に測ったシート上の位置座標が同じ場合、一方が腹の場合には他方が節に、一方が節の場合は他方が腹になる。このように、第1の短端辺107を一種類の反射終端とした場合と比較して、本実施の形態では第1シート103aと第2シート103bで相補的に腹と節が現れるため、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供できる。
【0065】
さらに前述の通り、電磁波伝達シート103の長端辺108a、108bに沿って配置される受電装置105a、105bに搭載される結合器106a、106bは、第1シート103aと第2シート103bに跨って配置され、第1シート103aと第2シート103bの両方から電力を受電できる。したがって、例え第1シート103aと第2シート103bの一方が節の部分に、結合器106a、106bの一部が掛っていても、該シートの長辺(端部108a、108b)に略垂直な線分上の位置に相補的に並ぶ、他方のシートの腹から電力を受電することにより、送電装置から電力を受け取ることができる。
【0066】
さらに、電磁波伝達シート103の外周沿いの4つの端辺(2つの長端辺108a、108b、及び、2つの短端辺107、109)に電磁波吸収媒体を備えないため、電磁波の進行方向に垂直方向のみならず、電磁波の進行方向においても、電磁波エネルギーが吸収・廃棄されることを抑制した電磁波伝送装置を提供することができる。
【0067】
また、前述の通り、入力部104を第1シート103a及び第2シート103b各々に独立して設け、これら独立に設けた入力部104への交流電力の入力は、例えば2個の交流電源を用いて行う場合、あるいは1個の交流電源101の出力を分岐して行う場合、一般的に第1シート103aと第2シート103b内部で生じている各々の定在波は独立の位相となる。例えば、図2図3に実線で示した基準位相の実現される時刻は、第1シート103aと第2シート103bとで各々異なる。しかしながら、第1シート103aと第2シート103b内部で生じている各々の定在波の位置、特に腹の位置と節の位置は前記位相に依存しない。したがって、入力部104や電源の個数にかかわらず、本実施形態の効果が得られる。
【0068】
また、第1の短端辺107で反射され、入力部104に戻ってきた反射電力を交流電源101に戻すこともできる。さらに前記反射電力を、サーキュレータなどのデバイスを使用して進行波電力と分離、回収することも可能である。このような構成にすると、電力利用効率を高めることができる。
【0069】
なお、本実施の形態では、第1の短端辺107を第1部分107aと第2部分107bの2つの部分に分け、一方を短絡終端、他方を開放終端としたが、構成はこれに限らない。
【0070】
例えば、図1(b)における第1の短端辺107を上から奇数個の部分に分け、上から短絡終端と開放終端を交互に配置してもよい。この場合、例えば電磁波伝達シート103の長端辺108a、108bをともに短絡し、長端辺108a、108bから漏洩する電磁波や、電磁波伝達シート103の周囲から当該シート内に侵入する電磁波の影響をなくし、安定な動作を確保できる。その長端辺108a、108bの延長として、これらと繋がる第1の短端辺107の上下端部も短絡終端とすることができる。その場合、さらに電磁波の漏洩しやすい、電磁波伝達シート103の角の部分も容易にシールドできる。
【0071】
または、図1(b)における第1の短端辺107を奇数個の部分に分け、上から開放終端と短絡終端を交互に配置し、長端辺108a、108bをともに開放してもよい。この場合、短絡と異なり開放は電磁波伝達シート103を切り出した状態でよいため、低コストで製造できる。
【0072】
あるいは、図1(b)における第1の短端辺107を偶数部分に分け、上から短絡終端と開放終端を交互に配置し、合わせて長端辺108aは短絡終端、長端辺108bは開放終端としてもよい。
【0073】
同様に電源の数や入力部104の数も、前述の通り、本実施形態の効果を同様に得られる様々な構成が考えられ、第1の短端辺107を奇数個の部分に分けた場合、それに応じて入力部104の個数や交流電源の個数を様々に変えることもできる。
【0074】
なお、入力部104に近接する電磁波伝達シート103の第2の短端辺109(図1(b)参照)も短絡してもよい。その場合、交流電源101から入力部104を通して電磁波伝達シート103に効率よく電力を送るため、インピーダンス整合するように電磁波伝達シート103上の入力部104の配置位置を少し第1の短端辺107側に向かって移動させ、さらに必要に応じてスタブなどの整合回路を設けるといった設計を行うことが望ましい。このような設計をすれば、電磁波伝送装置の動作に問題を生じることなく、電磁波伝達シート103の第2の短端辺109も短絡でき、さらに周辺環境と電磁波伝達シート103内の電磁波伝搬の相互依存性を弱くすることができる。なお、第2の短端辺109は開放してもよい。この場合、短絡処理が不要のため、電磁波伝達シート103を低コストに製造できる。
【0075】
さらに、第1の短端辺107同様、第2の短端辺109も、短絡終端と開放終端の組み合わせとしてもよい。この場合、第1の短端辺107と第2の短端辺109との反射終端の構成を対称性の低い構成とすることが望ましい。さらに望ましくは、第1の短端辺107と第2の短端辺109との反射終端の構成を、線対称でも回転対称でもない構成とすることが望ましい。そうすれば、意図しない節の出現をさらに抑制でき、さらに定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供できる。例えば、n、mを1以上の異なる奇数であって、互いに素とすると、上述のように第1の短端辺107をn分割、第2の短端辺109はm分割し、上から短絡終端と開放終端を交互に配置する構成を取ることができる。この場合、第1の短端辺107と第2の短端辺109の分割数が異なり、且つ分割数が互いに素であるため、第1の短端辺107と第2の短端辺109との反射終端の構成を、線対称でも回転対称でもない構成とすることができる。
【0076】
さらに、反射終端は短絡終端と開放終端に限定されない。特許文献2(特開2010−114696号公報)にシート103の構造の記載がある通り、電磁波伝達シート103表面の絶縁フィルム直下にあるメッシュ状導体部と、電磁波伝達シート103下部にグランド面として配置されたシート状導体部との間に、インダクターやキャパシターを挿入して接続することにより、短絡終端や開放終端と比較して進行波に対する反射波の位相差を0度や180度ではない状態にすることもできる。なお、この電磁波伝達シート103表面の絶縁フィルム直下にあるメッシュ状導体部を、電磁波伝達シート103下部にグランド面として配置されたシート状導体部に短絡した場合、反射終端は短絡終端となり、当該メッシュ状導体部を、電磁波伝達シート103下部にグランド面として配置されたシート状導体部と絶縁した場合、反射終端は絶縁終端となる。
【0077】
特許文献2(特開2010−114696号公報)には上記絶縁フィルムは樹脂等からなる保護層と記載されている。このようなインダクターやキャパシターの第1の短端辺107への装荷により、例えば短絡終端と開放終端とは異なる、反射終端の組み合わせであって、前述の短絡終端と開放終端の組み合わせと同様、腹と節が相補的に並ぶ構成を実現できる。
【0078】
さらにこのようなインダクターやキャパシターの第1の短端辺107への装荷により、定在波の位置を自由に操作できる。すなわち、定在波の腹と節の位置を自由に配置できる。このようにすれば、第1の短端辺107を固定端と自由端の2種類のみで構成した場合に、緩和されてなお残る電磁波強度の不均一、即ちリップルをこのような構成を利用することによりさらに低減できる。例えば、本実施の形態では、一例として、第1の短端辺107を第1部分107aと第2部分107bに二分したが、さらに多数に分割し、その端部をインダクターやキャパシターを装荷した反射終端とすることができる。短絡終端と開放終端の組み合わせで残存する受電電力の低下する位置に、このような構成によりさらに腹を追加すれば、さらに定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供できる。
【0079】
なお、上記のインダクターやキャパシーは、例えば可変コイルやバリコン、トリマーキャパシターのような可変素子であってもよい。この場合、製造後も、必要に応じてインダクタンスやキャパシタンスを調整することにより、定在波の位置を調整できる。
【0080】
電磁波伝達シート103の短辺の幅W(第1の短端辺107及び第2の短端辺109の長さ)は特に限定されないが、図4に一例を示したように、長端辺108a、108bの反射終端の種類を同じにした場合には、電磁波伝達シート103の短辺の幅Wを、電磁波伝達シート103内部をx方向に伝搬する電磁波の波長の半分の自然数倍に略等しくしてもよい。これにより、電磁波伝達シート103の長端辺108a、108bにおいて電磁波が反射されることにより横幅方向で共振状態となり、電磁波伝達シート103の電磁界の横幅方向の分布が安定する。したがって、電磁波伝達シート103から漏洩する電界、または磁界分布も安定する。
【0081】
なお、略等しくすると表現した理由は、電磁波伝達シート103を伝搬する電磁波の周波数スペクトルは広がり、すなわち帯域幅を持っていてもよく、その場合には電磁波伝達シート103を伝搬する電磁波が単一波長では表せないためである。このような場合は、おおむね周波数帯域の中心周波数に該当する波長を代表させて、電磁波伝達シート103を伝搬する電磁波の波長とすればよい。あるいは変調波などの場合には搬送波の周波数に対応する波長としてもよい。なお、電磁波伝達シート103の長端辺108a、108bにおいて電磁波が反射されることにより横幅方向で共振状態とするために、前記のように電磁波伝達シート103の2つの長端辺108a、108bの終端方法を一方は短絡、他方は開放のように異なる反射終端とし、短辺の幅を電磁波の1/4波長の奇数倍に略等しくしてもよい。この場合、上記と同様の効果が得られる。
【0082】
(第3の実施の形態)
図5は本発明の第2の実施の形態に係る電磁波伝送装置の構成のうち、略長方形の電磁波伝達シート403の一例の上面図を模式的に示した図である。なお、本実施形態の電磁波伝送装置のその他の構成は、第1の実施の形態に準じるものとする。
【0083】
図5の電磁波伝達シート403の略長方形を構成する4つの端辺(2つの長端辺408a、408b、及び、2つの短端辺407、409)のうち、第2の短端辺409の近傍に入力部404が設けられる。そして、入力部404には、不図示の交流電源の出力が接続される。なお、交流電源の出力する交流電力は単一周波数とは限らず、周波数スペクトルは広がりを持つ、すなわち帯域幅を持っていてもよい。その場合には、おおむね周波数帯域の中心周波数を代表させて、電磁波伝達シート403を伝搬する電磁波の波長とすればよい。あるいは変調波などの場合には搬送波の周波数を基本としてもよい。
【0084】
電磁波伝達シート403に沿って配置される複数の受電装置の順序によらず、受電装置の受電電力を適切な範囲に収めるためには、受電装置の受電電力は電磁波伝達シート403を伝搬する電力より、十分小さくすることが望ましい。その場合、図5における電磁波伝達シート403の第1の短端辺407に到達する電力は大きくなり、この電力を単に電磁波吸収媒体により吸収・廃棄すると、電力利用効率は極めて低くなってしまう。本実施の形態では、この問題を解決するため、電磁波伝達シート403の第1の短端辺407を反射終端とし、略長方形の電磁波伝達シート403の2つの長端辺408a、408bも、おなじく反射終端とする。
【0085】
図5に示した電磁波伝達シート403の上面図の通り、本実施の形態においては、入力部404が近傍に位置する第2の短端辺409に対向する第1の短端辺407は3つの部分(第1部分407a、第2部分407b、第3部分407c)から構成される。このうち、第1部分407aと第2部分407bの間の長端辺408a、408bと平行な方向(図5に示すy方向)の間隔は、長端辺408a、408bに平行に電磁波伝達シート403内を進行する電磁波の波長λの1/4に略等しくする。なお、以下に説明する本実施の形態の作用は、このy方向の間隔が、電磁波の波長λの半分をM(0以上の整数)倍した値に、波長λの1/4を加えた長さに略等しい場合においても成立するが、1/4波長に略等しくした場合、特に電磁波伝達シート403の端部のy方向の幅を短くできる。ここで、略等しくするとは、先に述べたとおり、波長が代表値にすぎない場合や、電磁波伝達シート403の製造公差などを考慮したものである。
【0086】
第1の短端辺407の第1部分407a、第2部分407b、第3部分407cは全て、短絡終端か、開放終端かの同一の種類の終端とする。
【0087】
ここで、図5に示す一点鎖線B−B´、及び、C−C´より分離された電磁波伝達シート403の3つの領域各々を、図中上から順に、「第1シート403a」、「第3シート403c」、「第2シート403b」と定義する。一点鎖線B−B´、及び、C−C´は、電磁波伝達シート403の長端辺408a、408bに平行であり、各々、第1の短端辺407の第1部分407aと第3部分407cの間、及び、第3部分407cと第2部分407bの間に位置する。なお、言うまでもなく、一点鎖線は仮想的なもので、実際には電磁波伝達シート403上に存在しない。この領域分けは、あくまで本実施の形態の作用を説明するために用いるものであって、実際のシートには必ずしも必要ではない。
【0088】
但し、意図的に入力部404に到達しない程度に第1の短端辺407から切れ込みを入れ、電磁波伝達シート403がおおむね三つの部分に分離した状態で動作するようにしてもよい。そのようにすれば、第1シート403a内に生じる節の位置と第2シート403bに生じる節の位置の相互に与える影響を小さくすることができるため、安定的に定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和することができる。なお、この際、受電装置が動作するに足る電力を電磁波伝達シート403上で得られるならば、第1の短端辺407の第1部分407a、第2部分407b、及び、第3部分407cの、電磁波伝達シート403の長端辺408a、408bに略垂直な方向の長さは、等しくなくてもよい。
【0089】
図5では不図示とした結合器は、第1の実施の形態同様、第1シート403a、第2シート403b、第3シート403cに跨って配置される。結合器が電界結合器の場合、当該結合器は、各々のシート表面から漏洩する電磁波に起因する交流電界、または交流磁界と結合する。したがって、第1シート403a、第2シート403b、第3シート403c全てから、結合器を介して受電装置に給電することができる。なお、本実施形態で受電装置1個につき搭載する結合器の数は1個以上であれば、特に制限はない。例えば分割した部分の数や定在波群の数に合わせて専用の結合器を用意し、1個の受電装置に搭載してもよい。
【0090】
さらに、本実施形態では電磁波伝達シート403に設ける入力部404の数や、その入力部404に接続する交流電源の数は、各々一個に限られるものではない。例えば、第1シート403a、第2シート403b、第3シート403c各々に生じる定在波の間で相互に与える影響を小さくするため、図5の一点鎖線B−B´とC−C´に沿って、電磁波伝達シート403を完全に切り離し、第1シート403a、第2シート403b、第3シート403cを完全に独立して動作させてもよい。この場合、入力部404はシートごとに独立に設けることが望ましい。これら独立に設けた入力部404への交流電力の入力は、一個の交流電源の出力を分岐して行ってもよいし、あるいは3個の交流電源を用いて各々の入力部に各々の電源から入力してもよい。
【0091】
本実施の形態では、不図示の交流電源から出力され、入力部404に入力された交流電力は主に第1の短端辺407に向かって進行する。ここで、「主に」と記した理由は、長端辺408a、408bで反射されながらx方向(図5参照)へ進行する成分と、y方向に進行する成分が合成され、一般的には斜めに進行するが、電磁波伝達シート403が略長方形であることから、巨視的に見れば入力部404から第1の短端辺407に向かう進行波とみなせるためである。
【0092】
第1の短端辺407の第1部分407a、第2部分407b、及び、第3部分407c各々に到達した交流電力の進行波は、各々反射される。第1の短端辺407が短絡終端の場合、電圧でみれば固定端反射、電流で見れば自由端反射する。逆に第1の短端辺407が開放終端の場合、電圧でみれば自由端反射、電流で見れば固定端反射する。したがって、以下の動作の説明では、まず自由端反射の場合を説明し、次に固定端反射の場合を説明する。
【0093】
本実施の形態の動作を説明するため、第1の短端辺407の第1部分407aでの自由端反射の振幅を説明するグラフを図6に、第2部分407bでの自由端反射の振幅を説明するグラフを図7に示す。図6図7はともに3個のグラフから構成され、各々上から進行波の振幅、反射波の振幅、それらを合成した波の振幅をプロットしている。横軸は、電磁波伝達シート403内部をy方向に進行する電磁波の波長λを単位として、図5の原点Oからy方向に測った電磁波伝達シート403上の位置を示している。実線のグラフは定在波の最大振幅を与える位相の電磁波の振幅を示し、この位相を基準に、一点鎖線は60°、二点鎖線は120°、破線は180°位相が進んだ状態を各々示している。
【0094】
なお、本実施形態の作用を簡単に説明するため、図6図7では理想的な完全反射終端としてグラフを描いている。完全に寄生容量や寄生インダクタンス、寄生抵抗などの寄生回路素子成分のない理想的な反射終端を実現できないことは周知の事実であり、実際には当業者の作成できる範囲内の反射終端としての短絡終端、または開放終端となる。しかしながら、その実際の反射終端においても、本実施の形態で説明される作用はおおむね再現され、本実施形態の効果が提供されることは言うまでもない。
【0095】
図6では第1部分407aの自由端において進行波は同位相で反射され、反射波を形成する。その進行波と反射波の合成により、電磁波伝達シート403内部にはy方向に定在波を生じる。定在波の腹は自由端、即ち位置座標が0.00の位置に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。一方、節は、位置座標が−0.25の点に現れたのち、位置座標が−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。
【0096】
図7では第2部分407bの自由端において進行波は同位相で反射され、反射波を形成する。その進行波と反射波の合成により、電磁波伝達シート403内部にはy方向に定在波を生じる。第2部分407bは原点Oからy方向に0.25の位置にあるため、定在波の腹は位置座標が0.25の位置に現れたのち、位置座標が−0.25、−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。一方、節は、位置座標が0.00の点に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。
【0097】
従って、第1部分407aと第2部分407bを自由端とする電磁波伝達シート403では、原点Oからy方向に測った電磁波伝達シート403上の位置座標が同じ場合、一方が腹の場合には他方が節に、一方が節の場合には他方が腹になる。このように、第1の短端辺407を一種類の反射終端とした場合と比較して、本実施の形態では、第1部分407aと第2部分407bで相補的に腹と節が現れるため、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供できる。さらに電磁波伝達シート403の4つの端辺に電磁波吸収媒体を備えないため、電磁波の進行方向に垂直方向のみならず、電磁波の進行方向においても、電磁波エネルギーが吸収・廃棄されることを抑制した電磁波伝送装置を提供することができる。
【0098】
さらに詳細に説明するため、図8に、第1部分407a近辺の第1シート403a、及び、第2部分407b近辺の第2シート403b各々内の定在波の様子を濃淡図で示した。なお、実験により確認した結果、第1シート403a内に生じる定在波と第2シート403bに生じる定在波の相互に与える影響は十分小さいことが分かったため、この図8ではこの影響を無視している。上下の濃淡図の間に記載した横軸は、電磁波伝達シート403内部をy方向に進行する電磁波の波長を単位として、図5の原点Oからy方向に測ったシート上の位置を示している。縦軸は第1シート403a及び第2シート403bのx軸を示す。この図では一例として、第1シート403a及び第2シート403bのx軸方向のサイズが半波長の場合をプロットした。図中の濃淡は電圧の絶対値の最大振幅を示しており、黒の部分から白の部分になるにつれて電圧の絶対値の最大振幅が大きくなっていることを示している。
【0099】
前述の通り、第1部分407aと第2部分407bは開放終端されており、この図8では電磁波伝達シート403の長端辺408a、408bをともに短絡した場合に相当する。その結果、第1シート403aでは、白く表された腹は位置座標が0.00(第1部分407a)に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。また、黒く表された節は位置座標が−0.25の点に現れたのち、位置座標が−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。一方、第2シート403bでは、白く現わされた腹は位置座標が0.25(第2部分407b)に現れたのち、位置座標が−0.25、−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。また、黒く表わされる節は位置座標が0.00の点に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。
【0100】
なお、図8では一例として第1シート403a及び第2シート403bのx軸方向のサイズが半波長の場合をプロットしたが、本実施形態はこの条件に限られるものではなく、第1シート403a内に生じる定在波と第2シート403bに生じる定在波が相互に影響を与える場合にも適用できることは言うまでもない。
【0101】
次に固定端反射の場合を説明する。第1部分407aでの固定端反射の振幅を説明するグラフを図9に、第2部分407bでの固定端反射の振幅を説明するグラフを図10に示す。図9、10ともに3個のグラフから構成され、各々上から進行波の振幅、反射波の振幅、それらを合成した波の振幅をプロットしている。横軸は、電磁波伝達シート403内部をy方向に進行する電磁波の波長を単位として、図5の原点Oからy方向に測った電磁波伝達シート403上の位置を示している。実線のグラフは定在波の最大振幅を与える位相の電磁波の振幅を示し、この位相を基準に、一点鎖線は60°、二点鎖線は120°、破線は180°位相が進んだ状態を各々示している。なお、本実施形態の作用を簡単に説明するため、図9図10では理想的な完全反射終端としてグラフを描いている。完全に寄生容量や寄生インダクタンス、寄生抵抗などの寄生回路素子成分のない理想的な反射終端を実現できないことは周知の事実であり、実際には当業者の作成できる範囲内の反射終端としての短絡終端、または開放終端となる。しかしながら、その実際の反射終端においても、本実施の形態で説明される作用はおおむね再現され、同様の効果が提供されることは言うまでもない。
【0102】
図9では第1部分407aの固定端において進行波は180度位相回転して反射され、反射波を形成する。その進行波と反射波の合成により、第1シート403a内部にはy方向に定在波を生じる。定在波の節は固定端、即ち位置座標が0.00の位置に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。一方、腹は、位置座標が−0.25の点に現れたのち、位置座標が−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。
【0103】
図10では第2部分407bの固定端において進行波は180度位相回転して反射され、反射波を形成する。その進行波と反射波の合成により、第2シート403b内部にはy方向に定在波を生じる。第2シート403bの終端は原点Oからy方向に0.25の位置にあるため、定在波の節は位置座標が0.25の位置に現れたのち、位置座標が−0.25、−0.75、−1.25と半波長ごとに現れる。一方、腹は、位置座標が0.00の点に現れたのち、位置座標が−0.50、−1.00、−1.50と半波長ごとに現れる。
【0104】
従って、第1部分407aと第2部分407b各々を右端とする第1シート403a及び第2シート403bでは、原点Oからy方向に測ったシート上の位置座標が同じ場合、一方が腹の場合には他方が節に、一方が節の場合には他方が腹になる。このように、第1の短端辺407を一種類の反射終端とした場合と比較して、本実施の形態では第1シート403a及び第2シート403bで相補的に腹と節が現れるため、定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供できる。
【0105】
さらに前述の通り、電磁波伝達シート403の長端辺408a、408bに沿って配置される受電装置に搭載される結合器は、第1シート403a、第2シート403b、及び、第3シート403cに跨って配置され、各々から電力を受電できる。したがって、例え第1シート403a及び第2シート403bの一方が節の部分に、結合器の一部が掛っていても、電磁波伝達シート403の長端辺408a、408bに略垂直な線分上の位置に相補的に並ぶ、他方のシートの腹から電力を受電することにより、送電装置から電力を受け取ることができる。
【0106】
さらに電磁波伝達シート403の4つの端辺に電磁波吸収媒体を備えないため、電磁波の進行方向垂直方向のみならず、電磁波の進行方向においても、電磁波エネルギーが吸収・廃棄されることを抑制した電磁波伝送装置を提供することができる。
【0107】
なお、第3部分407cは長端辺408a、408bと垂直ではないため、上記のようなきれいな定在波にはならず、反射波の位相がさらに分散されるため、さらに電磁波強度の不均一を緩和することに役立つ。なお、図示した通り、第3部分407cは直線状ではなく曲線状であるが、このようにして、反射波の位相が分散される量に重みを付けることにより、さらに電磁波強度の不均一を緩和することができる。例えば、上記のように第1シート403aと第2シート403bで相補的に腹と節が現れる構成を取った場合であって、その漏れ電界、または磁界を1個の結合器で受電する場合には、第1シート403aと第2シート403b内で生じている定在波の位相にも依存するが、一例として位置座標で−0.375、−0.875、−1.375といった1/8波長を基本とし、−3/8波長、−7/8波長、−11/8波長で電磁波強度の小さい部分を生じやすい。したがって、第3部分407cにおいて、第1部分407aと第2部分407bのy方向の間隔λ/4のさらに半分、λ/8の位置座標で特に第3部分407cのx方向の長さが長くなる構成が望ましい。この場合、先ほどの電磁波強度の小さい部分を、x方向の長さを長くした第3部分407cの一部分の定在波の腹で補うことができる。したがって、さらに定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和することができる。
【0108】
また、前述の通り、第1シート403a、第2シート403b、及び、第3シート403c各々独立に入力部404を設け、これら独立に設けた入力部404への交流電力の入力は、例えば3個の交流電源を用いて行う場合、あるいは1個の交流電源の出力を分岐して行う場合、2個の交流電源のうち1個の交流電源の出力を2分岐して合計3出力用意して行う場合など、一般的に第1シート403a、第2シート403b、及び、第3シート403c内部で生じている各々の定在波は独立の位相となる。例えば、図6図7に実線で示した基準位相の実現される時刻は、第1シート403aと、第2シート403bと、で各々異なる。しかしながら、第1シート403a、及び、第2シート403bの内部で生じている各々の定在波の位置、特に腹の位置と節の位置は位相に依存しない。したがって、入力部や電源の個数にかかわらず、本実施形態の効果が得られる。
【0109】
なお、第1の短端辺407で反射され、入力部404に戻ってきた反射電力を交流電源に戻すこともできる。さらに上記反射電力を、サーキュレータなどのデバイスを使用して進行波電力と分離、回収することも可能である。このような構成にすると、電力利用効率を高めることができる。
【0110】
なお、本実施の形態では、第1の短端辺407を第1部分407a、第2部分407b、及び、第3部分407cの3つの部分に分けたが、構成はこれに限らない。他の例として、図11に電磁波伝達シート503の略長方形を構成する4つの端辺のうち、第1の短端辺に相当する部分様態を示す。この場合は、第1の短端辺507における長端辺と平行な方向(y方向:図中、左右方向)の長さは、長端辺に平行に電磁波伝達シート503内を進行する電磁波の波長λの3/4に略等しくし、凹凸形状を複雑にしている。このように、y方向の間隔の条件を守りながら、複雑な形状とすることで、さらに定在波を抑制でき、電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供できる。
【0111】
同様に電源の数や入力部の数も、前述の通り、本実施形態の効果を同様に得られる様々な構成が考えられ、図11のように第1の短端辺507の分割数を変更した場合、それに応じて入力部の個数や交流電源の個数を様々に変えることもできる。
【0112】
なお、第1の短端辺同様、第2の短端辺(入力部が近傍に位置する短端辺)も複数の部分から構成してもよい。例えば図12に示すように、第2の短端辺609の長端辺と平行な方向(y方向:図中、左右方向)長さは、長端辺に平行に電磁波伝達シート603内を進行する電磁波の波長λの1/4に略等しくし、凹凸形状を複雑にしている。この場合、第1の短端辺と第2の短端辺の反射終端の構成を対称性の低い構成とすることが望ましい。さらに望ましくは、第1の短端辺と第2の短端辺の反射終端の構成を、線対称でも回転対称でもない構成とすることが望ましい。そうすれば、意図しない節の出現をさらに抑制でき、さらに定在波に起因して生じる電磁波強度の不均一を緩和した電磁波伝送装置を提供できる。さらに図12では、3個の入力部604a、604b、604cを設けている。
【0113】
さらに、本実施形態においては、反射終端は短絡終端と開放終端に限定されない。特許文献2(特開2010−114696号公報)に電磁波伝達シートの構造の記載がある通り、電磁波伝達シート403表面の絶縁フィルム直下にあるメッシュ状導体部と電磁波伝達シート403下部にグランド面として配置されたシート状導体部の間にインダクターやキャパシターを挿入して接続することにより、短絡終端や開放終端と比較して進行波に対する反射波の位相差を0度や180度ではない反射終端を実現できる。なお、特許文献2(特開2010−114696号公報)には上記絶縁フィルムは樹脂等からなる保護層と記載されている。このようなインダクターやキャパシターの第1部分407a、第2部分407b、第3部分407cへの装荷により、これら3つの右端で同一種類の反射終端、例えば短絡終端や開放終端とは異なる、反射終端であって、腹と節が相補的に並ぶ構成を実現できる。さらにこのようなインダクターやキャパシターの第1部分407a、第2部分407b、第3部分407cへの装荷により、定在波の位置を自由に操作できる。なお、上記のインダクターやキャパシターは、例えば可変コイルやバリコン、トリマーキャパシターのような可変素子であってもよい。この場合、製造後も、必要に応じてインダクタンスやキャパシタンスを調整することにより、定在波の位置を調整できる。
【0114】
電磁波伝達シート403の短端辺の幅W(長端辺に垂直な方向の幅)は特に限定されないが、図8に一例を示したように、長端辺408a、408bの反射終端の種類を同じにした場合には、電磁波伝達シート403の短端辺の幅Wを、電磁波伝達シート403内部をx方向に伝搬する電磁波の波長の半分の自然数倍に略等しくしてもよい。これにより、電磁波伝達シート403の長端辺408a、408bにおいて電磁波が反射されることにより横幅方向で共振状態となり、電磁波伝達シート403の電磁界の横幅方向の分布が安定する。したがって、電磁波伝達シート403から漏洩する電界、または磁界分布も安定する。
【0115】
なお、略等しくすると表現した理由は、電磁波伝達シート403を伝搬する電磁波の周波数スペクトルは広がり、すなわち帯域幅を持っていてもよく、その場合には電磁波伝達シート403を伝搬する電磁波が単一波長では表せないためである。このような場合は、おおむね周波数帯域の中心周波数に該当する波長を代表させて、電磁波伝達シート403を伝搬する電磁波の波長とすればよい。あるいは変調波などの場合には搬送波の周波数に対応する波長としてもよい。なお、電磁波伝達シート403の長端辺408a、408bにおいて電磁波が反射されることにより横幅方向で共振状態とするために、前記のように電磁波伝達シート403の2つの長端辺408a、408bの終端方法を一方は短絡、他方は開放と異なる反射終端とし、短端辺の幅を電磁波の1/4波長の奇数倍に略等しくしてもよい。この場合、上記と同様の効果が得られる。
【0116】
さらに、本実施の形態の電磁波伝達シート403の略長方形を構成する4つの端辺は全て短絡終端とすることができる。この構成により、端辺部から漏洩する電磁波や電磁波伝達シート403周囲から当該シート内に侵入する電磁波の影響をなくし、安定な動作を確保できる。
【0117】
また、電磁波伝達シート403の略長方形を構成する4つの端辺は全て開放終端としてもよい。この構成の場合、端辺から漏洩する電磁波や電磁波伝達シート403周囲から当該シート内に侵入する電磁波の影響があるが、一方で電磁波伝達シート403端部はシートを切り出したままの状態でよく、終端処理が不要になり、低コストに製造できる。なお、ここでいう、短絡終端、または開放終端は完全に寄生容量や寄生インダクタンス、寄生抵抗などの寄生回路素子成分のない理想的な完全反射終端を意味するわけではなく、現実に当業者の作成できる範囲内の反射終端としての短絡終端、または開放終端を意味している。
【0118】
なお、電界結合器と磁界結合器については、従来例などに詳述されているため、本実施形態では特にその実現方法を詳述することはしない。さらに、図示していないが、インピーダンス整合回路やアイソレータ、保護回路、制御回路などは必要に応じて適宜挿入される。
【0119】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0120】
この出願は、2012年2月3日に出願された日本特許出願特願2012−22506号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
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図7
図8
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図10
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図12