特許第5983732号(P5983732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983732
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】長尺延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/04 20060101AFI20160823BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20160823BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20160823BHJP
【FI】
   B29C55/04
   G02B5/30
   B29L7:00
【請求項の数】6
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2014-505995(P2014-505995)
(86)(22)【出願日】2013年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2013001421
(87)【国際公開番号】WO2013140728
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2015年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-63671(P2012-63671)
(32)【優先日】2012年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】北條 大介
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 真治
(72)【発明者】
【氏名】畠山 晋平
(72)【発明者】
【氏名】植野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】南部 博
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−119774(JP,A)
【文献】 特開2010−201659(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119328(WO,A1)
【文献】 特開2008−238514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/02−55/20
G02B 5/30
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる長尺フィルムを製膜する工程、前記長尺フィルムを延伸後のフィルムの走行方向とは異なる特定の方向から斜め延伸装置に繰入れ、該長尺フィルムの両端部を斜め延伸装置の把持具によって把持して搬送しつつ前記長尺フィルムを幅手方向に対して0°より大きく90°未満の方向に斜め延伸する斜め延伸工程、及び、斜め延伸工程後の長尺延伸フィルムを巻き取る工程を少なくとも有する長尺延伸フィルムの製造方法において、
前記斜め延伸装置は、延伸前の長尺フィルムの走行方向と斜交する方向に延伸後の長尺延伸フィルムの走行方向がくるように、延伸方向を任意に変更でき、かつ、加熱炉と、前記長尺フィルムの両側に設けられた把持具走行支持具とを有し、
前記把持具走行支持具は、前記長尺フィルムが走行する水平位置よりも下部に駆動軸を備え、
前記斜め延伸工程において、前記長尺フィルムは、前記加熱炉内の少なくとも延伸ゾーンにおいて、前記駆動軸と前記長尺フィルムとの間に設けられた面状ヒータにより連続的に加熱される、長尺延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記長尺フィルムは、前記加熱炉内の全体において、前記面状ヒータにより連続的に加熱される、請求項1記載の長尺延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
得られる長尺延伸フィルムの面内リタデーションが、120〜160nmである、請求項1または2記載の長尺延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ノルボルネン系樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の長尺延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記把持具の走行速度は、15〜150m/分である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の長尺延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
得られる長尺延伸フィルムの膜厚は、10〜35μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の長尺延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を延伸してなる延伸フィルムは、その光学異方性を利用して、各種ディスプレイ装置において様々な光学的機能を果たす光学フィルムとして用いられている。たとえば、液晶表示装置において、該延伸フィルムを着色防止、視野角拡大などの光学補償などのための光学補償フィルムとして用いたり、該延伸フィルムと偏光子とを貼り合わせることで、該延伸フィルムを、偏光板保護フィルムを兼ねた位相差フィルムとして用いたりすることが知られている。
【0003】
一方、近年では新たなディスプレイ装置として、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下、有機ELディスプレイともいう)のような自発光型の表示装置が注目されている。自発光型表示装置は、バックライトが常に点灯している液晶表示装置に対して消費電力を抑制できる余地があり、さらに、有機ELディスプレイのような各色に対応した光源がそれぞれ点灯する自発光型表示装置では、コントラスト低減の要因となるカラーフィルターを設置する必要がないため、コントラストをさらに高めることが可能である。しかしながら、有機ELディスプレイにおいては、光取り出し効率を高めるためにディスプレイの背面側に設けられるアルミニウム板等の反射体により、ディスプレイに入射した外光が反射されることで画像のコントラストを低下させる問題がある。そこで、外光反射防止による明暗コントラスト向上のために該延伸フィルムと偏光子とを貼り合わせて円偏光板をディスプレイの表面側に用いることが知られている。このような円偏光板は、立体映像を表示するいわゆる3D液晶表示装置においても用いられる場合がある。
【0004】
上記の円偏光板は、偏光子の吸収軸に対して、該延伸フィルムの面内遅相軸が所望の角度で傾斜するように貼り合わされる必要がある。
【0005】
しかしながら、一般的な偏光子(偏光フィルム)は、搬送方向に高倍率延伸することで得られ、その吸収軸が搬送方向と一致している。従来の位相差フィルムは、縦延伸、または横延伸で製造され、原理的に面内の遅相軸がフィルムの長尺方向に対し0°または90°方向になる。そのため、上記のように偏光子の吸収軸と延伸フィルムの遅相軸との関係を傾斜した所望の角度にするには長尺の偏光フィルムおよび/または延伸フィルムを特定の角度で切り出してフィルム片同士を1枚ずつ貼り合せるバッチ式で行わざるを得ず、生産性の悪化や切り屑等の付着による製品の歩留まりの低下が問題として挙げられていた。特に、有機ELディスプレイが大型化されつつある昨今においては、得られた延伸フィルムを斜めに切りだして偏光子に貼り合わせる方法では、さらにフィルムの利用効率が悪くなり生産性が悪化するため、改善が必要とされていた。
【0006】
これに対し、所望の角度で斜め方向に延伸し、遅相軸がフィルムの幅手方向に対し、0°でも90°でもない方向に自在に制御可能な長尺の位相差フィルムの製造方法が種々提案されている(たとえば特許文献1〜4参照)。これらの方法では、樹脂フィルムを延伸後のフィルム巻取り方向と異なる方向から繰出して、該樹脂フィルムの両端部を一対の把持具によって把持して搬送しながら、その搬送方向を変える際に一方の把持部と他方の把持部の移動距離を異ならせることで、前記樹脂フィルムを斜め延伸し、その幅手方向に対して0°を超え90°未満の所望の角度に遅相軸を有する長尺状の延伸フィルムを製造している。このような幅手方向に対して遅相軸が傾斜配向した延伸フィルムを使用することにより、従来のバッチ式の貼り合わせではなく、長尺の偏光フィルムと延伸フィルムをロール・トウ・ロールで貼り合わせて円偏光板を製造することが可能になることから生産性を飛躍的に向上させ、歩留まりも大幅に改善することができる。
【0007】
また、ロール・トウ・ロールで貼り合わせて円偏光板を作成することができるため、大型のディスプレイに用いられる場合においても、長尺延伸フィルムの利用面積を高め、円偏光板の製造コストを大幅に低減することが可能となる。
【0008】
ところが、上記のような従来の斜め延伸装置で製造した長尺延伸フィルムを用いて作成した円偏光板を有機ELディスプレイに搭載した際に、有機ELディスプレイの黒表示時の画像を見てみると、黒に対して赤あるいは青の色味がかかり、さらにはディスプレイ上の場所によって色味が異なる、いわゆる「色ムラ」という現象が見られた。
【0009】
また、上記現象は円偏光板を搭載した3D液晶表示装置では観察されず、円偏光板を搭載する有機ELディスプレイにて顕著に観察されることが判った。
【0010】
これらの課題を検討した結果、液晶表示装置とは異なり、有機ELディスプレイのような各色に対応した光源がそれぞれ点灯する自発光型表示装置では、コントラスト低減の要因となるカラーフィルター等の部材が少なく、非常にコントラストが高い反面、わずかな光学特性のばらつきが色ムラとなって顕著に観察されることが判明した。
【0011】
このような問題をさらに検討した結果、上記した従来の斜め延伸装置で製造された長尺延伸フィルムには、延伸角度によって、製品の幅手方向にわたって配向角のばらつきが発生し、このようなわずかな配向角のばらつきが色ムラとなって観察されることが判った。この問題は、斜め延伸フィルムを作成する場合に生じる問題であり、通常の横延伸装置では生じない。
【0012】
本発明者らは、研究の末、この問題が、延伸方向(延伸角度)を任意に変更することができる斜め延伸装置において、延伸を行う際に長尺フィルムに温度ムラが発生していることによって引き起こされることを突き止めた。
【0013】
ここで、斜め延伸装置は、把持具が走行する経路を備えた把持具走行支持具の一部が加熱炉を通過するように設置することにより、搬送される長尺フィルムを加熱してから斜め方向に延伸することができる。なお、後記により詳述するが、延伸装置の加熱炉は複数のゾーンに分けられる。長尺フィルムは、加熱炉内において加熱され、延伸ゾーンにおいて斜め延伸される。
【0014】
そして、延伸装置は、走行する長尺フィルムの両側に備えられる把持具走行支持具の形状を変更することにより種々のレールパターンを実現することができる。具体的には、把持具走行支持具は、通常は走行する長尺フィルムの厚み方向の下部に設けられた駆動軸を調整することにより、形状を変更することができる。斜め延伸装置は、通常の横延伸等の延伸装置と比較して、種々の延伸角度に対応できるように、多くの駆動軸が設けられている。
【0015】
上記のとおり、長尺フィルムは加熱炉内で加熱され、延伸ゾーンにおいて延伸される。そして、一般的に、加熱炉では、長尺フィルムは、走行する長尺フィルムの厚み方向の上下に配置されたヒータにより加熱される。しかしながら、多くの駆動軸が設けられた斜め延伸装置では、長尺フィルムの厚み方向の下部にヒータを均等に設置しにくい。
【0016】
すなわち、斜め延伸装置では、駆動軸を避けてヒータを設置せざるを得ないという問題がある。図1は、従来の斜め延伸装置1の加熱炉内に配置されたヒータ4を説明するための概略図である。図2は、図1の延伸装置1の側面図である。こういった従来の斜め延伸装置1の場合、図1および図2に示されるように、ヒータ4からの熱は、走行する長尺フィルムに不均一に放射される。把持具走行支持具2には、所定の間隔ごとに、把持具走行支持具2の形状を変更するための駆動軸3が設けられている。不均一に熱が放射される場合には、長尺フィルムには衝突風(図示せず)が吹き付けられる。なお、本明細書において、衝突風とは、ヒータ4から放射される熱により空気が滞留し、長尺フィルムに吹き付けられる風をいう。図2において、矢印は、ヒータ4から長尺フィルムFに加えられる熱の位置および方向を示している。また、飛び石状に配置されたヒータ4から不連続的に放射された熱は、一部が駆動軸3に伝導されるため、充分かつ均一な熱が長尺フィルムFに付与されない。その結果、得られる長尺フィルムFには温度ムラが生じ、配向角の幅手方向のばらつきが大きくなることが判った。
【0017】
また、駆動軸3が配置してある箇所において長尺フィルムFを加熱する方法としては、図3および図4に示されるように、飛び石状に配置したヒータ4にノズル4aを設け、当該ノズル4aから長尺フィルムFに熱風を吹き付ける等の方法がある。しかしながら、ノズル4aから長尺フィルムFに付与し得る熱量は、ヒータ4から長尺フィルムFに付与し得る熱量よりも小さい。そのため、この方法では、長尺フィルムFの搬送方向に対して充分かつ均一に熱を付与することができず、得られる長尺延伸フィルムの温度ムラを充分に改善できない。
【0018】
他にも、駆動軸3が配置してある箇所において長尺フィルムFを加熱する方法としては、図5図7に示されるように、駆動軸3そのものがヒータとしての機能を備え、当該ヒータから放射される熱により長尺フィルムFを加熱する方法がある。図5に示される駆動軸3は、複数の孔3aを有しており、長尺フィルムFは、当該孔3aから吹きつけられる熱風により加熱される。また、図6および図7に示される駆動軸3は、把持具走行支持具2を支える支柱土台3bと接続されており、長尺フィルムFは、当該支柱土台3bに設けられた孔(図示せず)から吹き付けられる熱風により加熱される。
【0019】
しかしながら、これらの方法により孔から付与される熱量は、ヒータ4から長尺フィルムFに付与し得る熱量よりも小さい。そのため、この方法では、長尺フィルムFの搬送方向に対して充分かつ均一に熱を付与することができず、得られる長尺延伸フィルムの温度ムラを充分に改善できない。
【0020】
また、斜め延伸装置では、延伸角度を変更するために駆動軸3を調整する際に、設置されていたヒータ4により移動が妨げられるため、効率よく延伸角度を変更しにくいという問題がある。
【0021】
また、長尺フィルムが高速搬送される場合には、走行する長尺フィルムに加えられる熱が充分でなく、かつ、一定でなくなり、温度ムラを生じやすい。
【0022】
さらに、長尺フィルムの膜厚が薄いほど、温度ムラによる幅手方向の配向角のばらつきが大きくなりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2008−80674号公報
【特許文献2】特開2009−78474号公報
【特許文献3】特開2010−173261号公報
【特許文献4】特開2006−159775号公報
【発明の概要】
【0024】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、延伸される長尺フィルムに充分かつ一定の熱を加えることができ、配向角の幅手方向のばらつきが小さい長尺延伸フィルムが得られる長尺延伸フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0025】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討した結果、斜め延伸装置において、少なくとも加熱炉内の延伸ゾーンにおいて、長尺フィルムと駆動軸との間に面状ヒータを設けて長尺フィルムを連続的に加熱することにより、延伸される長尺フィルムに充分かつ一定の熱が加えられ、上記目的が達成できることを見出した。そして、本発明者らは、さらに検討を進め、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明の一局面による長尺延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂からなる長尺フィルムを製膜する工程、前記長尺フィルムを延伸後のフィルムの走行方向とは異なる特定の方向から斜め延伸装置に繰入れ、該長尺フィルムの両端部を斜め延伸装置の把持具によって把持して搬送しつつ前記長尺フィルムを幅手方向に対して0°より大きく90°未満の方向に斜め延伸する斜め延伸工程、及び、斜め延伸工程後の長尺延伸フィルムを巻き取る工程を少なくとも有する長尺延伸フィルムの製造方法において、前記斜め延伸装置は、延伸前の長尺フィルムの走行方向と斜交する方向に延伸後の長尺延伸フィルムの走行方向がくるように延伸方向を任意に変更でき、かつ、加熱炉と、前記長尺フィルムの両側に設けられた把持具走行支持具とを有し、前記把持具走行支持具は、前記長尺フィルムが走行する水平位置よりも下部に駆動軸を備え、前記斜め延伸工程において、前記長尺フィルムは、前記加熱炉内の少なくとも延伸ゾーンにおいて、前記駆動軸と前記長尺フィルムとの間に設けられた面状ヒータにより連続的に加熱されることを特徴とする。
【0027】
なお、本明細書において、「長尺フィルム」とは、製膜されたフィルムであって延伸前のフィルムをいう。一方、「長尺延伸フィルム」とは、延伸工程を経て延伸されたフィルムをいう。後述するように、長尺フィルムの作製方法としては特に限定されず、共押出成形法、共流延成形法(溶液流延法や溶融流延法)、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法を採用することができる。これらの方法により得られた長尺フィルムは、斜め延伸工程を経て延伸され、長尺延伸フィルムとされる。
【0028】
本発明の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、従来の斜め延伸装置の加熱炉内に配置されたヒータを説明するための概略図である。
図2図2は、従来の延伸装置の側面図である。
図3図3は、従来の延伸装置の加熱炉内に配置されたヒータを説明するための概略図である。
図4図4は、従来の延伸装置の側面図である。
図5図5は、従来の延伸装置の加熱炉内に配置されたヒータを説明するための概略図である。
図6図6は、従来の延伸装置の加熱炉内に配置されたヒータを説明するための概略図である。
図7図7は、従来の延伸装置の側面図である。
図8図8は、本発明の一実施形態の長尺延伸フィルムの製造方法に用いられる斜め延伸装置を説明するための模式図である。
図9図9は、本発明の一実施形態の製造方法において使用する斜め延伸装置の加熱炉内に配置された面状ヒータを説明するための概略図である。
図10図10は、本発明の一実施形態の製造方法において使用する斜め延伸装置の側面図である。
図11図11は、本発明の一実施形態の製造方法において使用する斜め延伸装置において、延伸ゾーンおよび面状ヒータの位置を説明するための概略図である。
図12図12は、本発明の一実施形態の製造方法において使用する斜め延伸装置において、面状ヒータの位置の別例を説明するための概略図である。
図13図13は、本発明の一実施形態の有機ELディスプレイの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の実施態様は、熱可塑性樹脂からなる長尺フィルムを製膜する工程、前記長尺フィルムを延伸後のフィルムの走行方向とは異なる特定の方向から斜め延伸装置に繰入れ、該長尺フィルムの両端部を斜め延伸装置の把持具によって把持して搬送しつつ前記長尺フィルムを幅手方向に対して0°より大きく90°未満の方向に斜め延伸する斜め延伸工程、及び、斜め延伸工程後の長尺延伸フィルムを巻き取る工程を少なくとも有する長尺延伸フィルムの製造方法において、前記斜め延伸装置は、延伸前の長尺フィルムの走行方向と斜交する方向に延伸後の長尺延伸フィルムの走行方向がくるように、延伸方向を任意に変更でき、かつ、加熱炉と、前記長尺フィルムの両側に設けられた把持具走行支持具とを有し、前記把持具走行支持具は、前記長尺フィルムが走行する水平位置よりも下部に駆動軸を備え、前記斜め延伸工程において、前記長尺フィルムは、前記加熱炉内の少なくとも延伸ゾーンにおいて、前記駆動軸と前記長尺フィルムとの間に設けられた面状ヒータにより連続的に加熱される、長尺延伸フィルムの製造方法である。
【0032】
本実施形態は、上記工程のうち、斜め延伸工程に特徴を有しているため、斜め延伸工程を特に詳細に説明する。
【0033】
本明細書において長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)をいう。
【0034】
以下において、本実施形態を、適宜図面を参照して具体的に説明する。
【0035】
<長尺延伸フィルムの製造方法>
(斜め延伸工程)
斜め延伸工程は、製膜された長尺フィルムを幅手方向に対して斜めの方向に延伸する工程である。長尺フィルムの製造方法では、フィルムを連続的に製造することにより、所望の長さにフィルムを製造しうる。なお、長尺延伸フィルムの製造方法は、長尺フィルムを製膜した後に一度巻芯に巻き取り、巻回体(原反ともいう)にしてから斜め延伸工程に供給するようにしてもよいし、製膜後のフィルムを巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給してもよい。製膜工程と斜め延伸工程とを連続して行うことは、延伸後の膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
【0036】
本実施形態の長尺延伸フィルムの製造方法では、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度に遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造する。ここで、フィルムの幅手方向に対する角度とは、フィルム面内における角度である。フィルム面内の遅相軸は、通常延伸方向または延伸方向に直角な方向に発現するので、本実施形態の製造方法では、フィルムの延長方向に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、このような遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造しうる。
【0037】
長尺延伸フィルムの幅手方向と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
【0038】
(斜め延伸装置による延伸)
本実施形態における延伸に供される長尺フィルムに斜め方向の配向を付与するために、斜め延伸装置を用いる。本実施形態で用いられる斜め延伸装置は、把持具走行支持具の経路パターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやリタデーションを制御できるフィルム延伸装置であることが好ましい。
【0039】
図8は、本実施形態の長尺延伸フィルムの製造方法に用いられる斜め延伸装置を説明するための模式図である。ただし、これは一例であって本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0040】
延伸装置に繰入る際の長尺フィルムの走行方向(延伸前の長尺フィルムの走行方向)D1は、延伸装置から繰出る際の長尺延伸フィルムの走行方向(延伸後の長尺延伸フィルムの走行方向)D2と異なっており、繰出角度θiを成している。繰出角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
【0041】
長尺フィルムは斜め延伸装置入口(把持具が長尺フィルムを把持する把持開始点であり、当該把持開始点を結んだ直線を参照符号Aで示す)においてその両端を左右の把持具(一対の把持具対)によって把持され、把持具の走行に伴い搬送される。
【0042】
把持具対は、斜め延伸装置入口で、長尺フィルムの走行方向(延伸前の長尺フィルムの走行方向D1)に対して略垂直な方向に相対している左右の把持具Ciおよび把持具Coからなる。左右の把持具CiおよびCoは、それぞれ左右非対称な経路を走行し、延伸終了時の位置(把持具が把持を解放する把持解放点であり、当該把持解放点を結んだ直線を参照符号Bで示す)で把持した長尺延伸フィルムを解放する。
【0043】
このとき、斜め延伸装置入口(図中Aの位置)で相対していた左右の把持具Ciおよび把持具Coは、それぞれ内側の把持具走行支持具Riおよび外側の把持具走行支持具Roを走行するにつれて、内側の把持具走行支持具Riを走行する把持具Ciが外側の把持具走行支持具Roを走行する把持具Coに対して進行する位置関係となる。
【0044】
すなわち、斜め延伸装置入口で長尺フィルムの走行方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ciおよび把持具Coが、位置Bにある状態では、該把持具Ciおよび把持具Coを結んだ直線が延伸後の長尺延伸フィルムの走行方向D2に対して略垂直な方向からに対して角度θLだけ傾斜する位置関係となる。本明細書において略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。以上の所作をもって、長尺フィルムは、θLの方向に斜め延伸される。
【0045】
本実施形態の製造方法は、斜め延伸可能な延伸装置を用いて行う。この延伸装置は、長尺フィルムを延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。この延伸装置は、加熱ゾーン(加熱炉)と、長尺フィルムの両側を把持して走行するための両側で一対となる複数の把持具と、前記把持具の走行を支持するための把持具走行支持具とを備えている。延伸装置の入口部(把持開始点)に順次供給される長尺フィルムの両端を、把持具で把持し、加熱炉内に長尺フィルムを導き、延伸装置の出口部(把持解放点)で把持具から長尺延伸フィルムを解放する。把持具から解放された長尺延伸フィルムは巻芯に巻き取られる。把持具を備える把持具走行支持具は無端状の連続軌道を有し、延伸装置の出口部で長尺延伸フィルムの把持を解放した把持具は、把持具走行支持具によって順次把持開始点に戻されるようになっている。
【0046】
把持具走行支持具は、たとえば、ガイドレールやギアによってそれぞれ経路を規制されている無端状のチェーンが把持具を備える形態であってもよいし、無端状のガイドレールが把持具を備える形態であってもよい。すなわち、本実施形態では、把持具走行支持具は、たとえば無端状のチェーンを備えた有端状のガイドレールであってもよく、無端状のチェーンを備えた無端状のガイドレールであってもよく、チェーンを備えない無端状のガイドレールであってもよい。把持具は、把持具走行支持具がチェーンを備えない場合には、把持具走行支持具そのものの経路を走行し、チェーンを備える場合には、当該チェーンを介して把持具走行支持具の経路を走行する。以下、本実施形態では、一例として、把持具走行支持具の経路を把持具が走行する場合を説明するが、把持具は、把持具が設けられたチェーンを介して把持具走行支持具の経路を走行してもよい。
【0047】
それぞれの把持具走行支持具に設けられた把持具の数は特に限定されないが、同数であることが好ましい。
【0048】
なお、延伸装置の把持具走行支持具は左右で非対称な形状となっており、製造すべき長尺延伸フィルムに与える配向角、延伸倍率等に応じて、把持具走行支持具の経路のパターンは手動で、または自動で調整できるように構成されている。把持具走行支持具の経路のパターンは、後記により詳述する駆動軸を調整することにより行う。
【0049】
本実施形態の延伸装置では、各把持具走行支持具の経路を自由に設定でき、把持具走行支持具の経路のパターンを任意に変更できることが好ましい。
【0050】
把持具走行支持具の長さ(全長)としては特に限定されず、通常は10〜100m程度である。また、両側の把持具走行支持具の全長は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0051】
本実施形態において、延伸装置の把持具の走行速度は適宜選択できるが、なかでも15〜150m/分が好ましい。延伸装置の把持具の走行速度が150m/分より高速になると、屈曲部において、フィルムの端部にかかる局所的な応力が大きくなり、フィルムの端部にシワや寄りが発生し、延伸終了後に得られるフィルムの全幅のうち、良品として得られる有効幅が狭くなる傾向がある。また、一般に、把持具の走行速度が上記範囲内の場合には、長尺フィルムには、熱の供給不足に伴う温度ムラが発生しやすい。しかしながら、本実施形態で使用する延伸装置には、後記により詳述するように、少なくとも延伸ゾーンにおいて面状ヒータが連続的に設けられているため、長尺フィルムを高速搬送した場合であっても、走行する長尺フィルムに充分かつ均一に熱を付与することができる。その結果、得られる長尺フィルムの配向角の幅手方向のばらつきを小さくすることができる。
【0052】
把持具対を構成する2つの把持具の走行速度は、同じであってもよく、異なっていてもよい。把持解放点で長尺延伸フィルムの左右に走行速度差があると、把持解放点において長尺延伸フィルムにシワ、寄りが発生する可能性があるため、把持具対を構成する左右の把持具の速度差は、実質的に等速であることが好ましい。
【0053】
把持具対を構成する把持具の走行速度を等速とする場合において、それぞれの把持具の走行速度の差は、1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。一般的な延伸装置等では、チェーンを駆動するスプロケット(ギア)の歯の周期、駆動モーターの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本実施形態で述べる速度差には該当しない。
【0054】
本実施形態で用いられる斜め延伸装置の把持具の軌跡を規制する把持具走行支持具には、特に長尺フィルムの搬送が斜めになる箇所において、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が円弧を描くように湾曲していることが望ましい。
【0055】
本実施形態において、長尺フィルムは、斜め延伸装置入口(図8の直線Aの位置)において、その両端が左右の把持具(一対の把持具対)によって順次把持されて、把持具の走行に伴い走行される。斜め延伸装置入口で、長尺フィルム進行方向D1に対して略垂直な方向に相対している把持具対は、左右非対称な経路を走行し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンを有する加熱炉を通過する。
【0056】
予熱ゾーンとは、加熱炉入口において、両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。
【0057】
延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具の間隔が開きだし、所定の間隔になるまでの区間をさす。本実施形態では、延伸ゾーン内で斜め方向に延伸することができるが、斜め方向の延伸だけに限らず、延伸ゾーン内で横延伸した後に斜め延伸してもよいし、斜め延伸した後にさらに幅手方向に延伸してもよい。
【0058】
熱固定ゾーンとは、延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、両端の把持具が互いに平行を保ったまま走行する区間をさす。熱固定ゾーンを通過した後に、ゾーン内の温度が長尺フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。このとき、冷却による長尺延伸フィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具間隔を狭めるような経路パターンとしてもよい。
【0059】
本実施形態では、フィルムの機械物性や光学特性を調整する目的で斜め延伸装置に長尺フィルムを導入する前後の工程において必要に応じて横延伸および縦延伸を実施してもよい。
【0060】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度はTg〜Tg+30℃、延伸ゾーンの温度はTg〜Tg+30℃、冷却ゾーンの温度はTg−30℃〜Tgに設定することが好ましい。
【0061】
なお、幅方向の厚みムラの制御のために延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けて調整する方法や、ヒータを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが通常100〜150%、熱固定ゾーンの長さが通常50〜100%である。
【0062】
延伸工程における延伸倍率R(W/W0)は、好ましくは1.3〜3.0、より好ましくは1.5〜2.8である。延伸倍率がこの範囲にあると幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。また必要に応じ、幅方向の厚みムラをさらに良好なレベルにするために、延伸ゾーンにおいて幅方向で延伸温度に差を付けてもよい。なお、W0は延伸前の長尺フィルムの幅をあらわし、Wは延伸後の長尺延伸フィルムの幅をあらわす。
【0063】
図9図11を参照しながら、より具体的に本実施形態の製造方法の斜め延伸工程について説明する。図9は、本実施形態において使用する斜め延伸装置5の加熱炉内に配置された面状ヒータ8を説明するための概略図である。図10は、斜め延伸装置5の側面図である。図11は、斜め延伸装置5において、延伸ゾーン7および面状ヒータ8の位置を説明するための概略図である。
【0064】
上記のとおり、長尺フィルムFは、把持具に把持された状態で加熱炉6内に搬送される。加熱炉6は、長尺フィルムFを加熱するための装置である。本実施形態の製造方法では、長尺フィルムFは、少なくとも延伸ゾーン7において長尺フィルムFと駆動軸3との間に設けられた面状ヒータ8により長尺フィルムFの下側から加熱される。後記により詳述するように、面状ヒータ8は、加熱炉6内の全体に設けられていることが好ましい。面状ヒータ8により加熱炉6内が加熱されるとともに、走行する長尺フィルムFが加熱される。
【0065】
加熱炉6は、面状ヒータ8が設けられた位置以外にも加熱源を設けることができる。加熱源の位置は特に限定されない。面状ヒータ8を設けた位置以外の位置では、加熱源は、長尺フィルムFを均一に加熱する観点から、長尺フィルムFの上下の少なくとも一方に設けることができる。さらに、面状ヒータ8を設けた位置では、長尺フィルムFの厚み方向の上側に加熱源を設けて、面状ヒータ8とともに長尺フィルムFを上下から加熱してもよい。加熱源による加熱方法は特に限定されず、たとえば熱風を吹き付ける方法を採用することができる。
【0066】
図9および図10に示されるように、駆動軸3は、把持具走行支持具2と連結されている。駆動軸3は、長尺フィルムFの走行方向と略直交する方向に所定の距離だけ移動可能に構成されており、移動により把持具走行支持具2の形状を変更する。
【0067】
駆動軸3を移動させる方法としては特に限定されない。たとえば、図9および図10に示されるように、把持具走行支持具2の一部と駆動軸3の一部とを連結杆9により連結することができる。この場合、駆動軸3を長尺フィルムFの走行方向と略直交する方向に移動させることにより、連結杆9を介して把持具走行支持具2の形状を変更することができる。
【0068】
把持具(図示せず)は、長尺フィルムFを把持しながら把持具走行支持具2の経路を走行する。搬送される長尺フィルムFは、下面に連続的に設けられた面状ヒータ8により加熱される。
【0069】
面状ヒータ8は、図9および図10に示されるように、加熱炉6の少なくとも延伸ゾーン7において、長尺フィルムFと駆動軸3との間に設けられている。面状ヒータ8は、走行する長尺フィルムFを下面から連続的に均一に加熱することができるとともに、長尺フィルムFの下面に存在する周辺空気を均一に移動させ、衝突風を生じにくくすることができる。そのため、長尺フィルムFは、温度ムラが生じにくい。また、延伸方向を変更するために駆動軸3を調整して把持具走行支持具2の形状を変更した場合であっても、面状ヒータ8は、長尺フィルムFと駆動軸3との間に設けられているため、駆動軸3の調整を妨げることがない。
【0070】
なお、本明細書において、「連続的に加熱する」とは、図10に示されるように、面状ヒータ8が、走行する長尺フィルムFに熱を均一に付与する動作をいう。図10では、均等に配置された矢印により、連続的に付与される熱の流れを示している。すなわち、図2に示される飛び石状に配置されたヒータ(ヒータ4)からの熱は、不連続に配置された矢印が示すとおり、長尺フィルムFを連続的に加熱していない。
【0071】
本実施形態の面状ヒータ8は、図2に示されるヒータ4のように駆動軸の間に飛び石状に配置されておらず、長尺フィルムFと駆動軸3との間に設けられている。そのため、駆動軸3の本数が多い斜め延伸装置5において、駆動軸3の本数や配置とは無関係に、長尺フィルムFと駆動軸3との間に設けることができる。
【0072】
面状ヒータ8の種類としては特に限定されず、従来公知の電気ヒータなどを使用することができる。面状ヒータ8は、たとえば、導電線を織り込んだ布地にカーボン塗料を塗布または含浸させ、両面から耐熱性の合成樹脂シート(たとえばポリイミドシート等)で熱融着させた面状ヒータ、金属箔を耐熱性のある樹脂シートで両側から挟んで一体成形した面状ヒータなどを採用することができる。他にも、高絶縁性に加え、高温性、高耐熱性にも優れ、昇温速度が速く、寿命が長い等の観点から、アルミナや窒化アルミなどのセラミック基板を用いたセラミックヒータを採用することができる。さらに、マイカヒータ、石英ヒータ等を採用することができる。
【0073】
面状ヒータ8の形状は特に限定されず、長尺フィルムFと駆動軸3との間に設けることができる形状であればよい。本実施形態では、扁平な形状を呈する面状ヒータ8を採用している。
【0074】
面状ヒータ8を設ける水平位置は、長尺フィルムFと駆動軸3との間であれば特に限定されない。すなわち、面状ヒータ8は、長尺フィルムFに充分かつ均一な熱を付与できる距離を空けて、長尺フィルムFの下面側に設置することができる。また、面状ヒータ8は、長尺フィルムFと比較的近い位置に設けることができる。そのため、面状ヒータ8から駆動軸3に伝導される熱が少なく、面状ヒータ8からの熱は、長尺フィルムFに効率よく付与される。
【0075】
面状ヒータ8を設ける方法は特に限定されず、長尺フィルムFと駆動軸3との間に設ける方法であればよい。たとえば、把持具走行支持具2と連結するか、一体的に形成することができる。
【0076】
面状ヒータ8は、把持具走行支持具2と連結するか、一体的に形成することにより、駆動軸3を調整することにより把持具走行支持具2の形状が変更した場合であっても、変更した把持具走行支持具2の形状に追従して面状ヒータ8の形状を変更することができる。面状ヒータ8の形状を変更する方法としては特に限定されず、たとえば面状ヒータ8はガレージシャッターのようなスライド機構を有していてもよいし、九十九折状の構造を有していてもよい。
【0077】
長尺フィルムFの幅方向における面状ヒータ8の占有面積は特に限定されず、図11に示されるように、少なくとも延伸ゾーン7を走行する長尺フィルムFの下面に設けられていればよく、延伸ゾーン7の全体に設けられていてもよい。
【0078】
図11に示されるように、走行する長尺フィルムFの下面にのみ面状ヒータ8を設ける場合、延伸ゾーン7の余分な空間に熱を付与しないため、長尺フィルムFへの熱効率がよい。一方、延伸ゾーン7の全体に面状ヒータ8を設ける場合、たとえば延伸角度を変更して把持具走行支持具2の形状が変化した場合であっても、常に走行する長尺フィルムFの下面から熱を加えることができる。また、形状を変化した後の把持具走行支持具2の形状に合わせて面状ヒータ8を設ける必要がなく、利便性に優れる。なお、長尺フィルムFの下面にのみ面状ヒータ8を設ける場合、延伸角度を変更する際に、面状ヒータ8の側面と連結杆9とが接触する可能性がある。そのため、面状ヒータ8は、あらかじめ連結杆9の移動経路に沿う形で、面状ヒータ8が長孔機構および折りたたみ機構のような接触回避機構を具備することができる。この場合、面状ヒータ8は、必要に応じて自動または手動で長孔の内側に折りたたむことで連結杆9との接触を回避できる。
【0079】
また、面状ヒータ8を延伸ゾーン7の全体に設ける場合、延伸角度を変更すると面状ヒータ8が連結杆9と接触する可能性がある。そのため、面状ヒータ8は、あらかじめ連結杆9の移動経路に沿う形で、面状ヒータ8が長孔機構および折りたたみ機構のような接触回避機構を具備することができる。この場合、面状ヒータ8は、必要に応じて自動または手動で長孔の内側に折りたたむことで連結杆9との接触を回避できる。また、面状ヒータ8は、面状ヒータ8の表裏面に、連結杆9の移動経路に沿うようガイド機構を備えることができる。この場合、連結杆9は面状ヒータ8に対して上下から前記ガイド機構を走行する稼働式部材によって挟まれた構造とすることができる。
【0080】
図12に示されるように、延伸ゾーン7を含む加熱炉5内の全体に連続的に面状ヒータ8を設けてもよい。このように面状ヒータ8が、加熱炉3内の全体に連続的に設けられている場合には、延伸ゾーン7の前後においても長尺フィルムFが温度ムラ無く均一に加熱される。その結果、延伸角度によらず、得られる長尺延伸フィルムの配向角の幅手方向のばらつきを小さくすることができ、安定した品質の長尺延伸フィルムが得られる。
【0081】
面状ヒータ8は、走行する長尺フィルムFの下面にのみ設けることができる。この場合、加熱炉6内の余分な空間に熱を付与しないため、長尺フィルムFへの熱効率がよい。一方、加熱炉6内の全体に設ける場合、たとえば延伸角度を変更して把持具走行支持具2の形状が変化した場合であっても、常に走行する長尺フィルムFの下面から熱を加えることができる。また、形状を変化した後の把持具走行支持具2の形状に合わせて面状ヒータ8を設ける必要がなく、利便性に優れる。
【0082】
次に、本実施形態が採用し得るその他の工程について説明する。なお、本実施形態は、上記した斜め延伸工程を有していればよく、その他の工程については特に限定されない。そのため、以下に説明するその他の工程は、例示であり、適宜設計変更を行うことができる。
【0083】
(長尺フィルムの製膜工程)
製膜工程は、熱可塑性樹脂からなる長尺フィルムを製膜する工程である。
【0084】
本実施形態で製膜する長尺フィルムとしては、特に限定されず、熱可塑性樹脂から構成されている長尺フィルムであればよい。
【0085】
たとえば、延伸後の長尺延伸フィルムを光学用途に使用する場合には、所望の波長に対して透明な樹脂からなるフィルムが好ましい。このような樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂、セルロースエステル系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、透明性や機械強度などの観点からポリカーボネート系樹脂、脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂、セルロースエステル系樹脂が好ましい。その中でも光学フィルムとした場合の位相差を調整することが容易である、脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂とセルロースエステル系樹脂とがさらに好ましく、脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂は延伸応力が低いために、高速搬送で斜め延伸した際においても、フィルム端部にシワや寄りが発生しにくい点から特に好ましい。
【0086】
<脂環式オレフィンポリマー系樹脂>
脂環式オレフィンポリマー系樹脂としては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体およびその水素添加物等を採用することができる。
【0087】
脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂をより具体的に説明する。脂環式オレフィンポリマー系樹脂は、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などの脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、特に制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個であるときに、機械強度、耐熱性および長尺フィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0088】
脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本実施形態の長尺延伸フィルムより得られる位相差フィルム等の光学材料の透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
【0089】
脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂およびこれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。また、ノルボルネン系樹脂を用いて得られた長尺延伸フィルムは、延伸応力が低いために、高速搬送した際においても、長尺延伸フィルムの端部にシワや寄りの発生が軽減され、配向角の長手方向のばらつきを抑制することができる。
【0090】
ノルボルネン系樹脂としては、たとえば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体またはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体またはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、またはそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0091】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(たとえば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、たとえばアルキル基、アルキレン基および極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、たとえば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子およびハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基およびスルホ基などが挙げられる。
【0093】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテンおよびシクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類やその誘導体;並びにシクロヘキサジエンおよびシクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンやその誘導体;などが挙げられる。
【0094】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0095】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、たとえば、エチレン、プロピレンおよび1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンやこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテンおよびシクロヘキセンなどのシクロオレフィンやこれらの誘導体;並びに1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエンおよび5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0096】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0097】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0098】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ〔3.3.0〕オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、本実施形態の長尺延伸フィルムにより得られる光学材料を、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものにすることができる。
【0099】
ノルボルネン系樹脂の分子量は、使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(熱可塑性樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、本実施形態の長尺延伸フィルムにより得られる光学材料の機械的強度および成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0100】
ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にあると、本実施形態の長尺延伸フィルムにより得られる光学材料を、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れるものにすることができる。
【0101】
ノルボルネン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0102】
ノルボルネン系樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、Δn/σで表される値である。熱可塑性樹脂の光弾性係数がこのような範囲にあると、後述する、面内方向のリタデーション(Re)のばらつきを小さくすることができる。
【0103】
本実施形態に用いる熱可塑性樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤および溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。
【0104】
ノルボルネン系樹脂を用いた長尺延伸フィルム中の残留揮発性成分の含有量は特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下である。揮発性成分の含有量をこのような範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、前記Reの経時変化を小さくすることができ、さらには本実施形態の長尺延伸フィルムから得られる位相差フィルム、偏光板または有機ELディスプレイ等の画像表示装置の劣化を抑制でき、長期的に有機ELディスプレイ等の画像表示装置の表示を安定で良好に保つことができる。残留揮発性成分は、長尺フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、たとえば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。残留揮発性成分の含有量は、長尺フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、長尺フィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0105】
ノルボルネン系樹脂を用いた長尺延伸フィルムの飽和吸水率は、好ましくは0.03質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、Reの経時変化を小さくすることができ、さらには本実施形態の長尺延伸フィルムから得られる位相差フィルム、偏光板または有機ELディスプレイ等の画像表示装置の劣化を抑制でき、長期的に有機ELディスプレイ等の画像表示装置の表示を安定で良好に保つことができる。
【0106】
飽和吸水率は、長尺フィルムの試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。本実施形態の長尺延伸フィルムにおける飽和吸水率は、たとえば、熱可塑性樹脂中の極性基の量を減少させることにより、前記値に調節することができる。飽和吸水率を前記値に調整するために、本実施形態では、極性基を持たないノルボルネン系樹脂が使用されることが好ましい。
【0107】
上記した好ましいノルボルネン系樹脂を用いた長尺フィルムを成形する方法としては、溶液製膜法や溶融押出法の製造方法が好まれる。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法等が挙げられるが、生産性や厚さ精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
【0108】
Tダイを用いる溶融押出法では、特開2004−233604号公報に記載されているような、冷却ドラムに密着させる時の溶融状態の熱可塑性樹脂を安定な状態に保つ方法により、リタデーションや配向角といった光学特性のバラツキが良好な長尺フィルムを製造できる。
【0109】
具体的には、1)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;2)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で覆い、囲い部材からダイス開口部または最初に密着する冷却ドラムまでの距離を100mm以下とする方法;3)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂より10mm以内の雰囲気の温度を特定の温度に加温する方法;4)関係を満たすようにダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;5)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂に、最初に密着する冷却ドラムの引取速度との速度差が0.2m/s以下の風を吹き付ける方法;が挙げられる。
【0110】
この長尺フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
【0111】
<セルロースエステル系樹脂>
セルロースエステル系樹脂としては、下記式(i)および(ii)を満たすセルロースアシレートを含有し、かつ、下記一般式(A)で表される化合物を含有することを特徴とするものが挙げられる。
【0112】
式(i) 2.0≦Z1<3.0
式(ii) 0≦X<3.0
(式(i)および式(ii)において、Z1はセルロースアシレートの総アシル置換度を表し、Xはセルロースアシレートのプロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和を表す)
【0113】
(一般式(A)の化合物)
以下、一般式(A)の化合物について詳細に説明する。
【0114】
【化1】
一般式(A)において、LおよびLは各々独立に単結合または2価の連結基を表す。
【0115】
およびLとしては、たとえば、下記構造が挙げられる。(下記Rは水素原子または置換基を表す)
【0116】
【化2】
およびLとして、好ましくは−O−、−COO−、−OCO−である。R、RおよびRは各々独立に置換基を表す。
【0117】
、RおよびRで表わされる置換基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基(2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等)が挙げられる。
【0118】
およびRとしては、好ましくは、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のシクロヘキシル基である。より好ましくは置換基を有するフェニル基、置換基を有するシクロヘキシル基であり、さらに好ましくは4位に置換基を有するフェニル基、4位に置換基を有するシクロヘキシル基である。
【0119】
として、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、シアノ基、アミノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基、アルコキシ基である。
【0120】
WaおよびWbは水素原子または置換基を表すが、
(I)WaおよびWbが互いに結合して環を形成してもよく、
(II)WaおよびWbの少なくとも1つが環構造を有してもよく、または
(III)WaおよびWbの少なくとも1つがアルケニル基またはアルキニル基であってもよい。
【0121】
WaおよびWbで表わされる置換基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基(2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等)が挙げられる。
【0122】
上記の置換基は、さらに上記の置換基で置換されていてもよい。
【0123】
(1)WaおよびWbが互いに結合して環を形成する場合、以下のような構造が挙げられる。
【0124】
WaおよびWbが互いに結合して環を形成する場合、好ましくは、含窒素5員環または含硫黄5員環であり、特に好ましくは、下記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物である。
【0125】
【化3】
一般式(1)において、AおよびAは各々独立に、−O−、−S−、−NRx−(Rxは水素原子または置換基を表す)またはCO−を表す。Rxで表される置換基の例は、上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。Rxとして、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基である。一般式(1)において、Xは第14〜16族の非金属原子を表す。Xとしては、=O、=S、=NRc、=C(Rd)Reが好ましい。ここでRc、Rd、Reは置換基を表し、例としては上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。L、L、R、R、R、nは、一般式(A)におけるL、L、R、R、R、nと同義である。
【0126】
【化4】
一般式(2)において、Qは−O−、−S−、−NRy−(Ryは水素原子または置換基を表す)、−CRaRb−(RaおよびRbは水素原子または置換基を表す)またはCO−を表す。ここで、Ry、Ra、Rbは水素原子または置換基を表し、置換基の例としては上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。
【0127】
Yは置換基を表す。Yで表わされる置換基の例としては、上記WaおよびWbで表される置換基の具体例と同義である。Yとして、好ましくは、アリール基、ヘテロ環基、アルケニル基、アルキニル基である。Yで表わされるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0128】
ヘテロ環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含むヘテロ環基が挙げられ、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基が好ましい。
【0129】
これらのアリール基またはヘテロ環基は、少なくとも1つの置換基を有していてもよく、置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキルスルフィニル基、炭素数1〜6のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数1〜6のN−アルキルアミノ基、炭素数2〜12のN,N−ジアルキルアミノ基、炭素数1〜6のN−アルキルスルファモイル基、炭素数2〜12のN,N−ジアルキルスルファモイル基等が挙げられる。
【0130】
、L、R、R、R、nは、一般式(A)におけるL、L、R、R、R、nと同義である。
【0131】
(2)一般式(A)において、WaおよびWbの少なくとも1つが環構造を有する場合の具体例としては、好ましくは、下記一般式(3)である。
【0132】
【化5】
一般式(3)において、Qは=N−または=CRz−(Rzは水素原子または置換基)を表し、Qは第14〜16族の非金属原子を表す。ZはQおよびQと共に環を形成する非金属原子群を表す。Q、QおよびZから形成される環は、さらに別の環で縮環していてもよい。Q、QおよびZから形成される環として、好ましくは、ベンゼン環で縮環した含窒素5員環または6員環である。L、L、R、R、R、nは、一般式(A)におけるL、L、R、R、R、nと同義である。
【0133】
(3)WaおよびWbの少なくとも1つがアルケニル基またはアルキニル基である場合には、好ましいアルケニル基またはアルキニル基は、置換基を有するビニル基、エチニル基である。
【0134】
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表される化合物のうち、特に、一般式(3)で表される化合物が好ましい。
【0135】
一般式(3)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物に比べて耐熱性および耐光性に優れており、一般式(2)で表される化合物に比べ、有機溶媒に対する溶解性やポリマーとの相溶性が良好である。
【0136】
一般式(A)で表される化合物は、所望の波長分散性、および滲み防止性を付与するのに適宜量を調整して含有させることができるが、添加量としてはセルロース誘導体に対して、1〜15質量%含むことが好ましく、特には、2〜10質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、セルロース誘導体に充分な波長分散性、および滲み防止性を付与することができる。
【0137】
なお、一般式(A)、一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表わされる化合物は、既知の方法を参照して合成することができる。具体的には、Journal of Chemical Crystallography(1997);27(9);512−526)、特開2010−31223号公報、特開2008−107767号公報等を参照して合成することができる。
【0138】
(セルロースアシレート)
本実施形態で用いることができるセルロースアシレートフィルムは、セルロールアシレートを主成分として含有する。
【0139】
セルロースアシレートフィルムは、フィルムの全質量100質量%に対して、セルロースアシレートを好ましくは60〜100質量%の範囲で含む。また、セルロースアシレートの総アシル基置換度は、2.0以上3.0未満であり、2.2〜2.7であることがより好ましい。
【0140】
セルロースアシレートとしては、セルロースと、炭素数2〜22程度の脂肪族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸とのエステルが挙げられ、特に、セルロースと炭素数が6以下の低級脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
【0141】
セルロースの水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐していてもよく、また環を形成してもよい。さらに別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、上述した炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましく、プロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和は0以上3.0未満である。前記セルロースアシレートとしての炭素数が2〜4であることが好ましく、炭素数が2〜3であることがより好ましい。
【0142】
具体的には、セルロースアシレートとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートまたはセルロースアセテートフタレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基、ブチレート基またはフタリル基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、ブチレートを形成するブチリル基は、直鎖であっても分岐していてもよい。
【0143】
セルロースアシレートとしては、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートが特に好ましく用いられる。
【0144】
また、セルロースアシレートとしては、下記の数式(iii)および数式(iv)を同時に満足するものが好ましい。
【0145】
式(iii) 2.0≦X+Y<3.0
式(iv) 0≦X<3.0
式中、Yはアセチル基の置換度を表し、Xはプロピオニル基もしくはブチリル基またはその混合物の置換度を表す。
【0146】
また、目的に叶う光学特性を得るために、置換度の異なる樹脂を混合して用いてもよい。その際の混合比としては、1:99〜99:1(質量比)が好ましい。
【0147】
上述した中でも、特にセルロースアセテートプロピオネートが、セルロースアシレートとして好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、0≦Y≦2.5であり、かつ、0.5≦X<3.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことが好ましく、0.5≦Y≦2.0であり、かつ、1.0≦X≦2.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことがより好ましい。なお、アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定されうる。
【0148】
セルロースアシレートの数平均分子量は、60000〜300000の範囲であると、得られる長尺延伸フィルムの機械的強度が強くなるため、好ましい。より好ましくは、数平均分子量が70000〜200000のセルロースアシレートが用いられる。
【0149】
セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される。測定条件は以下の通りである。なお、本測定方法は、他の重合体の測定方法としても使用することができる。
【0150】
溶媒:メチレンクロライド;
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製)を3本接続して使用する;
カラム温度:25℃;
試料濃度:0.1質量%;
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製);
ポンプ:L6000((株)日立製作所製);
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0151】
セルロースアシレート中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜45質量ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が45質量ppmを超えると、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に長尺フィルムが破断しやすくなる傾向がある。なお、残留硫酸含有量は、1〜30質量ppmの範囲がより好ましい。残留硫酸含有量は、ASTM D817−96に規定の方法により測定することができる。
【0152】
また、セルロースアシレート中の遊離酸含有量は、1〜500質量ppmであることが好ましい。上記の範囲であると、上記と同様に長尺フィルムが破断しにくい。なお、遊離酸含有量は、1〜100質量ppmの範囲であることが好ましく、長尺フィルムがさらに破断しにくくなる。特に1〜70質量ppmの範囲であることが好ましい。遊離酸含有量はASTM D817−96に規定の方法により測定することができる。
【0153】
合成したセルロースアシレートの洗浄を、溶液流延法に用いられる場合に比べて、さらに充分に行うことによって、残留アルカリ土類金属含有量、残留硫酸含有量、および残留酸含有量を上記の範囲とすることができ好ましい。
【0154】
また、セルロースアシレートは、長尺延伸フィルムにしたときの輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)を意味する。輝点異物は、直径0.01mm以上の輝点の個数が200個/cm以下であることが好ましく、100個/cm以下であることがより好ましく、50個/cm以下であることがさらに好ましく、30個/cm以下であることがいっそう好ましく、10個/cm以下であることが特に好ましく、皆無であることが最も好ましい。
【0155】
また、直径0.005〜0.01mmの輝点についても、200個/cm以下であることが好ましく、100個/cm以下であることがより好ましく、50個/cm以下であることがさらに好ましく、30個/cm以下であることがいっそう好ましく、10個/cm以下であることが特に好ましく、皆無であることが最も好ましい。
【0156】
セルロースアシレートの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどが挙げられる。また、それらから得られたセルロースアシレートは、それぞれ任意の割合で混合使用されうる。
【0157】
セルロースアシレートは、公知の方法により製造することができる。具体的には、たとえば、特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0158】
また、セルロースアシレートは、セルロースアシレート中の微量金属成分によっても影響を受ける。これらの微量金属成分は、製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となりうるような成分は少ない方が好ましく、特に、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。また、カルシウム(Ca)成分は、カルボン酸やスルホン酸等の酸性成分と、また多くの配位子と配位化合物(すなわち、錯体)を形成しやすく、多くの不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する虞があるため、少ないことが好ましい。
【0159】
具体的には、鉄(Fe)成分については、セルロースアシレート中の含有量が1質量ppm以下であることが好ましい。また、カルシウム(Ca)成分については、セルロースアシレート中の含有量が好ましくは60質量ppm以下であり、より好ましくは0〜30質量ppmである。さらに、マグネシウム(Mg)成分については、多過ぎると不溶分を生ずるため、セルロースアシレート中の含有量が0〜70質量ppmであることが好ましく、特に0〜20質量ppmであることが好ましい。
【0160】
なお、鉄(Fe)成分の含有量、カルシウム(Ca)成分の含有量、マグネシウム(Mg)成分の含有量などの金属成分の含有量は、絶乾したセルロースアシレートをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理を行った後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析することができる。
【0161】
(添加剤)
本実施形態により得られる長尺延伸フィルムは後述するセルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、長尺延伸フィルムにした時の透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。
【0162】
添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、リタデーション調整剤、酸化防止剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤、染料、微粒子等がある。本実施形態において、微粒子以外の添加剤についてはセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。有機ELディスプレイ等の画像表示装置に使用する偏光板には耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等を添加することが好ましい。
【0163】
これらの化合物は、セルロースエステルに対して1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%となるように含まれていることが好ましい。また、延伸および乾燥中のブリードアウト等を抑制させるため、200℃における蒸気圧が1400Pa以下の化合物であることが好ましい。
【0164】
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0165】
(リタデーション調整剤)
リタデーションを調整するために添加する化合物としては、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、2つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物を使用することができる。
【0166】
また、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
【0167】
(ポリマーまたはオリゴマー)
本実施形態におけるセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルと、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、およびスルホ基から選ばれる置換基を有しかつ重量平均分子量が500〜200,000の範囲内であるビニル系化合物のポリマーまたはオリゴマーとを含有することが好ましい。当該セルロースエステルと、当該ポリマーまたはオリゴマーとの含有量の質量比が、95:5〜50:50の範囲内であることが好ましい。
【0168】
(マット剤)
本実施形態では、マット剤として微粒子を長尺延伸フィルム中に含有させることができ、これによって、延伸フィルムが長尺の場合、搬送や巻き取りをしやすくすることができる。
【0169】
マット剤の粒径は10nm〜0.1μmの一次粒子もしくは二次粒子であることが好ましい。一次粒子の針状比は1.1以下の略球状のマット剤が好ましく用いられる。
【0170】
微粒子としては、ケイ素を含むものが好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。好ましい二酸化珪素の微粒子としては、たとえば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されているものを挙げることができ、アエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812を好ましく用いることができる。ポリマーの微粒子の例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂を挙げることができる。ポリマーの微粒子としては、シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、たとえば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(東芝シリコーン(株)製)を挙げることができる。
【0171】
二酸化珪素の微粒子は、一次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。一次粒子の平均径は5〜16nmがより好ましく、5〜12nmがさらに好ましい。一次粒子の平均径が小さい方が、ヘイズが低く好ましい。見かけ比重は90〜200g/L以上が好ましく、100〜200g/L以上がより好ましい。見かけ比重が大きいほど、高濃度の微粒子分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が発生せず好ましい。
【0172】
本実施形態におけるマット剤の添加量は、長尺延伸フィルム1m当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましく、0.08〜0.16gがさらに好ましい。
【0173】
(その他の添加剤)
その他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。さらに界面活性剤、剥離促進剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加えてもよい。
【0174】
本実施形態で用いることができるセルロースエステル系樹脂フィルムは公知の方法で製膜することができ、その中でも溶液流延法や溶融流延法が好ましい。
【0175】
<ポリカーボネート系樹脂>
次に、ポリカーボネート系樹脂について説明する。
【0176】
ポリカーボネート系樹脂としては、特に限定なく種々のものが使用でき、化学的性質および物性の点から芳香族ポリカーボネート系樹脂が好ましく、特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。その中でも、ビスフェノールAにベンゼン環、シクロヘキサン環、および脂肪族炭化水素基等を導入したビスフェノールA誘導体を用いたものがより好ましい。さらに、ビスフェノールAの中央の炭素に対して、非対称に上記官能基が導入された誘導体を用いて得られた、単位分子内の異方性を減少させた構造のポリカーボネート系樹脂が特に好ましい。このようなポリカーボネート系樹脂としては、たとえば、ビスフェノールAの中央の炭素の2個のメチル基をベンゼン環に置き換えたもの、ビスフェノールAのそれぞれのベンゼン環の1つの水素をメチル基やフェニル基などで中央炭素に対し非対称に置換したものを用いて得られるポリカーボネート系樹脂が特に好ましい。具体的には、4,4′−ジヒドロキシジフェニルアルカンまたはこれらのハロゲン置換体からホスゲン法またはエステル交換法によって得られるものであり、たとえば、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルブタン等が挙げられる。この他にもたとえば、特開2006−215465号公報、特開2006−91836号公報、特開2005−121813号公報、特開2003−167121号公報等に記載されているポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0177】
前記ポリカーボネート系樹脂は、ポリスチレン系樹脂、メチルメタクリレート系樹脂、およびセルロースアセテート系樹脂等の透明性樹脂と混合して使用してもよい。また、セルロースアセテート系樹脂を用いて形成した樹脂フィルムの少なくとも一方の面にポリカーボネート系樹脂を含有する樹脂層を積層してもよい。
【0178】
前記ポリカーボネート系樹脂は、ガラス転移点(Tg)が110℃以上であって、吸水率(23℃水中、24時間の条件で測定した値)が0.3%以下のものであることが好ましい。また、Tgが120℃以上であって、吸水率が0.2%以下のものがより好ましい。
【0179】
本実施形態で用いることができるポリカーボネート系樹脂フィルムは公知の方法で製膜することができ、その中でも溶液流延法や溶融流延法が好ましい。
【0180】
次に、熱可塑性樹脂の製膜方法について説明する。以下の説明では、セルロースエステル系樹脂の長尺フィルムを製膜する方法を例に説明する。
【0181】
<溶液流延法>
フィルムの着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制、フィルムの平面性、透明度に優れるなどの観点からは溶液流延法が好ましい。
【0182】
(有機溶媒)
セルロースエステル系樹脂フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースアセテート、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
【0183】
たとえば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
【0184】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのセルロースアセテートの溶解を促進する役割もある。
【0185】
特に、メチレンクロライド、および炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、アクリル樹脂と、セルロースエステル樹脂と、アクリル粒子の3種を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
【0186】
炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらの中でも、ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
【0187】
(溶液流延法)
溶液流延法では、樹脂および添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルト状もしくはドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、さらに乾燥する工程、仕上がった長尺延伸フィルムを巻き取る工程により行われる。
【0188】
ドープ中のセルロースアセテートの濃度は、濃度が高い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースアセテートの濃度が高過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、さらに好ましくは、15〜25質量%である。流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0189】
流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤が沸騰して発泡しない温度以下に設定される。温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
【0190】
好ましい支持体温度としては0〜100℃で適宜決定され、5〜30℃がさらに好ましい。または、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。
【0191】
温風を用いる場合は溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。特に、流延から剥離するまでの間で支持体の温度および乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
【0192】
セルロースエステル系樹脂フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、さらに好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0193】
残留溶媒量は下記式で定義される。
【0194】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブまたは長尺フィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、Nはウェブまたは長尺フィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料を115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0195】
また、セルロース系樹脂フィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、さらに乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0196】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0197】
<溶融流延法>
溶融流延法は、斜め延伸後の厚み方向のリタデーションRtを小さくすることが容易となり、残留揮発性成分量が少なくフィルムの寸法安定性にも優れる等の観点から好ましい製膜法である。溶融流延法は、樹脂および可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースアセテートを含む溶融物を流延する方法である。溶融流延法は、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れる長尺フィルムが得られる、溶融押出し法が好ましい。
【0198】
溶融押出しに用いる複数の原材料は、通常予め混錬してペレット化しておくことが好ましい。
【0199】
ペレット化は、公知の方法でよく、たとえば、乾燥セルロースアセテートや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出し機に供給し1軸や2軸の押出し機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷または空冷し、カッティングする方法を採用することができる。
【0200】
添加剤は、押出し機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。
【0201】
粒子や酸化防止剤等少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
【0202】
押出し機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。たとえば、2軸押出し機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
【0203】
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。なお、ペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出し機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
【0204】
上記ペレットを1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出す際の溶融温度を200〜300℃程度とし、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ロールと弾性タッチロールでフィルムをニップし、冷却ロール上で固化させる。
【0205】
供給ホッパーから押出し機へ導入する際は真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
【0206】
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、濾過精度を調整できる。
【0207】
可塑剤や粒子などの添加剤は、予め樹脂と混合しておいてもよいし、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0208】
冷却ロールと弾性タッチロールでフィルムをニップする際のタッチロール側のフィルム温度はフィルムのTg以上Tg+110℃以下にすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するロールは、公知のロールが使用できる。
【0209】
弾性タッチロールは挟圧回転体ともいう。弾性タッチロールとしては、市販されているものを用いることもできる。
【0210】
冷却ロールから長尺フィルムを剥離する際は、張力を制御して長尺フィルムの変形を防止することが好ましい。
【0211】
長尺フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
【0212】
上記方法により製膜された長尺フィルムは、上記した延伸装置に搬送され、斜め方向に延伸される。
【0213】
長尺フィルムの厚さは、好ましくは20〜400μm、より好ましくは30〜200μmである。
【0214】
本実施形態では、延伸に供給される長尺フィルムの流れ方向の厚みムラσmは、上記した斜め延伸テンター入口での長尺フィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリタデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満であることが好ましい。長尺フィルムの流れ方向の厚みムラσmが0.30μm以上となると長尺延伸フィルムのリタデーションや配向角といった光学特性のバラツキが顕著に悪化する。
【0215】
また、長尺フィルムとして、幅方向の厚み勾配を有する長尺フィルムが供給されてもよい。長尺フィルムの厚みの勾配は、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルム厚みを最も均一なものとしうるよう、実験的に厚み勾配を様々に変化させた長尺フィルムを延伸することにより、経験的に求めることができる。長尺フィルムの厚みの勾配は、たとえば、厚みの厚い側の端部の厚みが、厚みの薄い側の端部よりも0.5〜3%程度厚くなるように調整することができる。
【0216】
長尺フィルムの幅は、特に限定されないが、500〜4000mm、好ましくは1000〜2000mmとすることができる。
【0217】
長尺フィルムの斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01MPa以上5000MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以上500MPa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、シワが消えにくくなり、また高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、長尺フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる。
【0218】
長尺フィルムとしては、無配向なものを用いてもよいし、あらかじめ配向を有する長尺フィルムが供給されてもよい。また、必要であれば長尺フィルムの配向の幅手分布が弓なり状、いわゆるボウイングを成していてもよい。すなわち、長尺フィルムの配向状態を、後工程の延伸が完了した位置における長尺延伸フィルムの配向を所望なものとしうるよう、調整することができる。
【0219】
(斜め延伸工程)
斜め延伸工程は、すでに上記したとおりである。斜め延伸工程を経た長尺延伸フィルムは、長尺フィルムの幅手方向に対して0°より大きく90°未満の方向に斜め延伸されている。延伸された長尺延伸フィルムは、後続する巻取り工程により巻き取られる。
【0220】
(巻取り工程)
巻取り装置は、斜め延伸装置の出口に設けられている。巻取り装置は、延伸装置に対して所定角度で長尺延伸フィルムを引き取れるように配置することにより、長尺延伸フィルムの引き取り位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺延伸フィルムを巻き取ることが可能となる。そのため、長尺延伸フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、長尺延伸フィルムの巻き取り性が向上するため、延伸フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。本実施形態において、延伸後の長尺フィルムの引取張力T(N/m)は、100N/m<T<300N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整することが好ましい。
【0221】
前記引取張力が100N/m以下では長尺延伸フィルムのたるみや皺が発生しやすく、リタデーション、配向軸の幅方向のプロファイルも悪化する傾向がある。一方、引取張力が300N/m以上となると幅方向の配向角のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させてしまう傾向がある。
【0222】
また、本実施形態においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御することが好ましい。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向および流れ方向の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、テンター出口部の最初のロールにかかる荷重、すなわち長尺延伸フィルムの張力を測定し、その値を一定とするように、一般的なPID制御方式により引取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。前記荷重を測定する方法としては、ロールの軸受部にロードセルを取り付け、ロールに加わる荷重、すなわち長尺延伸フィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
【0223】
延伸後の長尺フィルムは、把持具による把持が開放され、テンター出口から排出され、順次巻芯(巻取りロール)に巻き取られて、長尺延伸フィルムの巻回体にすることができる。
【0224】
また、テンターの把持具で把持されていた長尺延伸フィルムの両側についた把持痕を切除したり、所望の幅を得たりする目的で、長尺延伸フィルムの両端(両側)をトリミングすることが望ましい。
【0225】
上記トリミングは、一度に行ってもよいし、複数回に分けて実施してもよい。
【0226】
また、長尺延伸フィルムを一旦巻き取った後に、必要に応じて再度長尺延伸フィルムを繰り出して、長尺延伸フィルムの両端をトリミングし、再度巻き取って長尺延伸フィルムの巻回体としてもよい。
【0227】
また、巻き取る前に、長尺延伸フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを重ねて同時に巻き取ってもよいし、長尺延伸フィルムの少なくとも一方、好ましくは両方の端にテープ等を張り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、上記長尺延伸フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
【0228】
<長尺延伸フィルム>
本実施形態の製造方法により得られた長尺延伸フィルムは、配向角が巻取り方向に対して、0°より大きく90°未満の範囲に傾斜している。具体的な値は用途によって適宜選択することができるが、たとえば15°、22.5°、45°、67.5°、75°などの値があげられる。
【0229】
本実施形態の製造方法により得られた長尺延伸フィルムの幅方向の配向角のバラツキは、少なくとも1300mmの幅において、0.6°以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.4°以下である。配向角のバラツキが0.6°を超える長尺延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板を得、これを有機ELディスプレイなどの自発光型画像表示装置に据え付けると、黒画像表示時に色ムラが生じることがある。
【0230】
本実施形態の製造方法により得られた長尺延伸フィルムの面内リタデーションの値は120〜160nmであることが好ましく、さらに好ましくは130〜150nmである。面内リタデーションの値を上記範囲にすることにより、有機ELディスプレイ用の円偏光板用の位相差フィルムとして用いた場合に外光反射を抑制し、表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0231】
本実施形態の製造方法により得られた長尺延伸フィルムの面内リタデーションのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、3nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1nm以下である。面内リタデーションのバラツキを、上記範囲にすることにより、有機ELディスプレイ用の位相差フィルムとして用いた場合に黒画面表示時の色ムラ等を抑制することが可能となる。
【0232】
本実施形態の製造方法により得られた長尺延伸フィルムの面内リタデーションは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択される。なお、前記フィルムの面内リタデーションは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差に長尺延伸フィルムの平均厚みdを乗算した値((nx−ny)×d)である。
【0233】
本実施形態の製造方法により得られた長尺延伸フィルムの膜厚としては機械的強度などの観点から、たとえば、10〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、10〜60μmであり、さらに好ましくは、10〜35μmである。
【0234】
また、幅方向の厚みムラは、巻取りの可否に影響を与えるため、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
【0235】
<円偏光板>
本実施形態の円偏光板は、偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4位相差フィルム(上記した実施形態で得られた長尺延伸フィルム)、粘着層がこの順で積層されており、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度が45°である。
【0236】
本実施形態においては、長尺状偏光板保護フィルム、長尺状偏光子、長尺状λ/4位相差フィルムがこの順で積層されることが好ましい。
【0237】
円偏光板は、偏光子としてヨウ素または二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、λ/4位相差フィルム/偏光子の構成で貼合して製造することができる。
【0238】
偏光子の膜厚は、5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
【0239】
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理したλ/4位相差フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0240】
偏光板は、さらに当該偏光板の偏光板保護フィルムの反対面に剥離フィルムを貼合して構成することができる。保護フィルムおよび剥離フィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0241】
<有機ELディスプレイでの実施態様>
また、上記した実施形態の長尺延伸フィルムを用いた円偏光板は、有機ELディスプレイのような自発光型表示装置の反射防止の用途に用いられる円偏光板として特に好ましく用いられる。上記した実施形態に係る長尺延伸フィルムは、幅手方向における遅相軸の方向(配向角)の均一性に優れるため、有機ELディスプレイに用いられた場合には、特に色味の均一性に優れた表示装置とすることができる。
【0242】
図13に、有機ELディスプレイDの構成の一例を示すが、本実施形態は、これに限定されるものではない。
【0243】
図13に示されるように、有機ELディスプレイDは、ガラスやポリイミド等を用いた基板F1上に順に金属電極F2、発光層F3、透電極(ITO等)F4、封止層F5を有する有機EL素子上に、接着層F6を介して、偏光子F8をλ/4位相差フィルムF7と保護フィルムF9によって挟持した円偏光板を設けて、有機ELディスプレイを構成する。該保護フィルムF9には硬化層が積層されていることが好ましい。硬化層は、有機ELディスプレイの表面のキズを防止するだけではなく、円偏光板による反りを防止する効果を有する。さらに硬化層上には、反射防止層を有していてもよい。上記有機EL素子自体の厚さは1μm程度である。
【0244】
一般に、有機ELディスプレイは、透明基板上に金属電極と発光層と透明電極とを順に積層して発光体である素子(有機EL素子)を形成している。ここで、発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、たとえばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0245】
有機ELディスプレイは、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0246】
有機ELディスプレイにおいては、発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0247】
このような構成の有機ELディスプレイにおいて、発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機ELディスプレイの表示面が鏡面のように見える。
【0248】
上記した実施形態により得られた長尺延伸フィルムからなる円偏光板は、このような外光反射が特に問題となる有機ELディスプレイに適している。
【0249】
上記長尺延伸フィルムの製造方法の技術的特徴を下記にまとめる。
【0250】
本発明の一局面による長尺延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂からなる長尺フィルムを製膜する工程、前記長尺フィルムを延伸後のフィルムの走行方向とは異なる特定の方向から斜め延伸装置に繰入れ、該長尺フィルムの両端部を斜め延伸装置の把持具によって把持して搬送しつつ前記長尺フィルムを幅手方向に対して0°より大きく90°未満の方向に斜め延伸する斜め延伸工程、及び、斜め延伸工程後の長尺延伸フィルムを巻き取る工程を少なくとも有する長尺延伸フィルムの製造方法において、前記斜め延伸装置は、延伸前の長尺フィルムの走行方向と斜交する方向に延伸後の長尺延伸フィルムの走行方向がくるように延伸方向を任意に変更でき、かつ、加熱炉と、前記長尺フィルムの両側に設けられた把持具走行支持具とを有し、前記把持具走行支持具は、前記長尺フィルムが走行する水平位置よりも下部に駆動軸を備え、前記斜め延伸工程において、前記長尺フィルムは、前記加熱炉内の少なくとも延伸ゾーンにおいて、前記駆動軸と前記長尺フィルムとの間に設けられた面状ヒータにより連続的に加熱されることを特徴とする。
【0251】
本発明の製造方法において使用する延伸装置には、長尺フィルムが延伸される延伸ゾーンにおいて、面状ヒータが、駆動軸と長尺フィルムとの間に連続的に設けられている。面状ヒータは、走行する長尺フィルムを温度ムラなく連続的に加熱し、充分かつ均一に熱を加えることができる。また、面状ヒータは、長尺フィルムに均一に熱を加えることができるため、衝突風の発生を防ぐことができる。その結果、配向角の幅手方向のばらつきが小さい長尺延伸フィルムを製造することができる。
【0252】
前記長尺フィルムは、前記加熱炉内の全体において、前記面状ヒータにより連続的に加熱されることが好ましい。
【0253】
このように、面状ヒータが加熱炉内の全体に設けられている場合、長尺フィルムの温度ムラがより確実に抑制される。その結果、延伸角度によらず、得られる長尺延伸フィルムの配向角の幅手方向のばらつきが小さくなり、安定した品質の長尺延伸フィルムが得られる。
【0254】
得られる長尺延伸フィルムの面内リタデーションが、120〜160nmであることが好ましい。
【0255】
本発明では、面状ヒータを用いて長尺フィルムを均一に加熱できるため、得られる長尺延伸フィルムの面内リタデーションを上記範囲内とすることができる。このような長尺フィルムは、有機ELディスプレイ用の円偏光板に用いた際に、外光反射を抑制することができ、画像表示品質が向上する。
【0256】
前記熱可塑性樹脂が、ノルボルネン系樹脂であることが好ましい。
【0257】
ノルボルネン系樹脂を用いて得られた長尺延伸フィルムは、延伸応力が低いために、高速搬送した際においても、長尺延伸フィルムの端部にシワや寄りの発生が軽減され、配向角の幅手方向のばらつきが抑制される。
【0258】
前記把持具の走行速度は、15〜150m/分であることが好ましい。
【0259】
一般に、把持具の走行速度が上記範囲内の場合には、長尺フィルムには、熱の供給不足に伴う温度ムラが発生しやすい。しかしながら、本発明の製造方法で使用する延伸装置には、少なくとも延伸ゾーンにおいて面状ヒータが連続的に設けられているため、長尺フィルムを高速搬送した場合であっても、走行する長尺フィルムに充分かつ均一に熱を付与することができる。その結果、得られる長尺フィルムの配向角の幅手方向のばらつきを小さくすることができる。
【0260】
得られる長尺延伸フィルムの膜厚は、10〜35μmであることが好ましい。
【0261】
一般に、長尺フィルムが薄膜であると、わずかな温度ムラであっても延伸時に配向角のばらつきが起こりやすいが、本発明の製造方法で使用する延伸装置には、少なくとも延伸ゾーンにおいて面状ヒータが連続的に設けられており、長尺フィルムの温度ムラを効果的に抑制することができる。そのため、得られる長尺延伸フィルムの膜厚が上記のような範囲にある場合であっても、長尺延伸フィルム配向角の幅手方向のばらつきが抑制される。
【実施例】
【0262】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0263】
<長尺フィルムの作製>
製膜工程では、以下の方法により、長尺フィルムA1〜C2を作製した。
【0264】
(長尺フィルムA1)
長尺フィルムA1は、脂環式オレフィンポリマー系樹脂フィルムであり、以下の製造方法により作製した。
【0265】
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500質量部に、1−ヘキセン1.2質量部、ジブチルエーテル0.15質量部、トリイソブチルアルミニウム0.30質量部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)20質量部、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)140質量部および8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン(以下、MTDと略記)40質量部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40質量部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06質量部とイソプロピルアルコール0.52質量部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
【0266】
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100質量部に対して、シクロヘキサン270質量部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮触媒化成(株)製)5質量部を加え、水素により5MPaに加圧して攪拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/MTF/MTD開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。
【0267】
濾過により水素化触媒を除去した後、軟質重合体((株)クラレ製;セプトン2002)および酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製;イルガノックス1010)を、得られた溶液にそれぞれ添加して溶解させた(いずれも重合体100質量部あたり0.1質量部)。次いで、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器((株)日立製作所製)を用いて除去し、水素化ポリマーを溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化して回収した。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/MTD=10/70/20でほぼ仕込組成に等しかった。この開環重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は31,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.5、水素添加率は99.9%であった。
【0268】
得られた開環重合体水素添加物のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した。次いで、前記ペレットを、コートハンガータイプのTダイを有する短軸押出機(三菱重工業(株)製:スクリュー径90mm、Tダイリップ部の材質は炭化タングステン、溶融樹脂との剥離強度44N)を用いて溶融押出成形して厚み75μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺延伸フィルムの厚みではない)のシクロオレフィンポリマーフィルムを製造した。押出成形は、クラス10,000以下のクリーンルーム内で、溶融樹脂温度240℃、Tダイ温度240℃の成形条件にて幅1000mmの長尺フィルムA1を得た。
【0269】
(長尺フィルムA2)
上記長尺フィルムA1の作成方法のうち、溶融押出成形後の厚みが35μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺延伸フィルムの厚みではない)となるようにTダイリップのダイスギャップを適宜調整した他は長尺フィルムA1と同様にして、長尺フィルムA2を得た。
【0270】
(長尺フィルムB1)
長尺フィルムB1は、セルロースエステル系樹脂フィルムであり、以下の製造方法により作製した。
【0271】
<微粒子分散液>
微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製)11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0272】
<微粒子添加液>
以下の組成に基づいて、メチレンクロライドを入れた溶解タンクに充分攪拌しながら、上記微粒子分散液をゆっくりと添加した。さらに二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
【0273】
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液 5質量部
【0274】
<主ドープ液>
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテートを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。なお、糖エステル化合物およびエステル化合物は、以下の合成例により合成した化合物を用いた。また、化合物(B)は、以下のものを用いた。
【0275】
<主ドープ液の組成>
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.39、プロ
ピオニル基置換度0.50、総置換度1.89) 100質量部
化合物(B) 5.0質量部
糖エステル化合物 5.0質量部
エステル化合物 2.5質量部
微粒子添加液 1質量部
【0276】
【化6】
(糖エステル化合物の合成)
以下の工程により、糖エステル化合物を合成した。
【0277】
【化7】
【0278】
攪拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.6モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、攪拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
【0279】
次に、コルベン内を4×10Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。
【0280】
最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×10Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4およびA−5の混合物(糖エステル化合物)を得た。
【0281】
得られた混合物をHPLCおよびLC−MASSで解析したところ、A−1が1.3質量%、A−2が13.4質量%、A−3が13.1質量%、A−4が31.7質量%、A−5が40.5質量%であった。平均置換度は5.5であった。
【0282】
<HPLC−MSの測定条件>
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサ−(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):HO(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
【0283】
(エステル化合物の合成)
以下の工程により、エステル化合物を合成した。
【0284】
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、攪拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、攪拌しながら徐々に昇温した。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、エステル化合物を得た。エステル化合物は、1,2−プロピレングリコール、無水フタル酸およびアジピン酸が縮合して形成されたポリエステル鎖の末端に安息香酸のエステルを有した。エステル化合物の酸価は0.10、数平均分子量は450であった。
【0285】
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ステンレスベルト支持体上に均一に流延した。
【0286】
無端ベルト流延装置では、上記主ドープ液をステンレススティールベルト支持体上に均一に流延した。流延(キャスト)した長尺フィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレススティールベルト支持体上から剥離し、多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、幅1000mmの長尺フィルムB1を得た。このとき長尺フィルムB1の膜厚は100μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺延伸フィルムの厚みではない)であった。
【0287】
(長尺フィルムB2)
上記長尺フィルムB1の作成方法のうち、乾燥工程後の厚みが50μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺延伸フィルムの厚みではない)となるように流延時の膜厚を適宜調整した他は長尺フィルムB1と同様にして、長尺フィルムB2を得た。
【0288】
(長尺フィルムC1)
長尺フィルムC1は、ポリカーボネート系樹脂フィルムであり、以下の製造方法により作製した。
【0289】
<ドープ組成物>
ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量4万、ビスフェノールA型)
100質量部
2−(2′ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−ベンゾト
リアゾール 1.0質量部
メチレンクロライド 430質量部
メタノール 90質量部
【0290】
上記組成物を密閉容器に投入し、加圧下で80℃に保温し攪拌しながら完全に溶解して、ドープ組成物を得た。
【0291】
次いで、このドープ組成物を濾過し、冷却して33℃に保ち、ステンレスバンド上に均一に流延し、33℃で5分間乾燥した。その後、65℃でリタデーションが5nmになるように乾燥時間を調整し、ステンレスバンド上から剥離後、多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ膜厚85μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺延伸フィルムの厚みではない)、幅1000mmの長尺フィルムC1を得た。
【0292】
(長尺フィルムC2)
上記長尺フィルムC1の作成方法のうち、乾燥を終了させた時点での厚みが40μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺延伸フィルムの厚みではない)となるように流延時の膜厚を適宜調整した他は長尺フィルムC1と同様にして、長尺フィルムC2を得た。
【0293】
<長尺延伸フィルムの作製>
斜め延伸工程および巻取り工程では、以下の条件に調整された斜め延伸装置(T1〜T3)により、長尺フィルムA1〜C2を延伸し、長尺延伸フィルムとした後に、ロール状に巻き取った。
【0294】
(延伸装置T1)
延伸装置T1は、図9図11に示される。すなわち、延伸装置T1には、加熱炉の延伸ゾーンにおいて、駆動軸と長尺フィルムとの間に面状ヒータを設け、長尺フィルムFが面状ヒータにより連続的に加熱される構成とした。面状ヒータは、ポリイミドフィルムにステンレス箔のヒータを取り付けた構成のもので、発熱密度として1W/cmのものを延伸ゾーンに沿って連続的に配置した。両側の把持具走行支持具は、同数の把持具を設けた。延伸装置T1は、長尺フィルムの繰り出し方向と巻取り方向とがなす角度(延伸角度)を任意に変更することができる構成とした。内側の把持具走行支持具の全長は43mとした。外側の把持具走行支持具の全長は43mとした。
【0295】
延伸装置T1から排出された長尺延伸フィルムの端部トリミング処理を施し、最終的な長尺延伸フィルムのフィルム幅が1600mmとなるように調整した。その後、出口に設けられた巻取り装置により、引取り張力200(N/m)でロール状に巻き取った。得られた長尺延伸フィルムは、全長2000mであった。
【0296】
(延伸装置T2)
延伸装置T2は、図12に示される。延伸装置T2では、加熱炉内の全体において、把持具走行支持具の経路に沿って駆動軸と長尺フィルムとの間に面状ヒータを設けた以外は、延伸装置T1と同様の構成とした。
【0297】
(延伸装置T3)
延伸装置T3は、図1および図2に示される。延伸装置T3では、延伸ゾーンにおいて、延伸装置T1記載の面状ヒータの代わりに、隣接する駆動軸の間に発熱体を、計5個配置した以外は、延伸装置T1と同様の構成とした。それぞれの発熱体は、一般的なテンターオーブン用のプレナムダクトを採用した。
【0298】
<実施例1〜6、比較例1〜3>
表1に示す組み合わせに基づいて、長尺フィルムA1〜C1を、延伸装置T1〜T3により延伸した。このときの延伸角度は22.5°および45°とし、それぞれの延伸角度で得られた長尺延伸フィルムを長尺延伸フィルム1−1〜9−2(実施例1〜6、比較例1〜3)とした。このときの把持具の走行速度は12m/分とした。また、長尺フィルムA1を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは140℃、延伸ゾーンは140℃、熱固定ゾーンは137℃、冷却ゾーンは80℃に調整した。また、長尺フィルムB1を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは180℃、延伸ゾーンは180℃、熱固定ゾーンは177℃、冷却ゾーンは90℃に調整した。また、長尺フィルムC1を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは160℃、延伸ゾーンは160℃、熱固定ゾーンは157℃、冷却ゾーンは80℃に調整した。
【0299】
<実施例7〜9、比較例4〜6>
表2に示す組み合わせに基づいて、長尺フィルムA1〜C1を、延伸装置T2およびT3により延伸した。このときの延伸角度は22.5°および45°とし、それぞれの延伸角度で得られた長尺延伸フィルムを長尺延伸フィルム10−1〜15−2(実施例7〜9、比較例4〜6)とした。このときの把持具の走行速度は100m/分とした。また、長尺フィルムA1を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは150℃、延伸ゾーンは148℃、熱固定ゾーンは144℃、冷却ゾーンは90℃に調整した。また、長尺フィルムB1を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは187℃、延伸ゾーンは187℃、熱固定ゾーンは181℃、冷却ゾーンは95℃に調整した。また、長尺フィルムCを用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは166℃、延伸ゾーンは166℃、熱固定ゾーンは164℃、冷却ゾーンは90℃に調整した。
【0300】
<実施例10〜12、比較例7〜9>
表3に示す組み合わせに基づいて、長尺フィルムA2〜C2を、延伸装置T2およびT3により延伸した。このときの延伸角度は22.5°および45°とし、それぞれの延伸角度で得られた長尺延伸フィルムを長尺延伸フィルム16−1〜21−2(実施例10〜12、比較例7〜9)とした。このときの把持具の走行速度は12m/分とした。また、長尺フィルムA2を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは140℃、延伸ゾーンは140℃、熱固定ゾーンは137℃、冷却ゾーンは80℃に調整した。また、長尺フィルムB2を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは180℃、延伸ゾーンは180℃、熱固定ゾーンは177℃、冷却ゾーンは90℃に調整した。また、長尺フィルムC2を用いた際のテンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは160℃、延伸ゾーンは160℃、熱固定ゾーンは157℃、冷却ゾーンは80℃に調整した。
【0301】
<実施例13>
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0302】
長尺フィルム1−2を、ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として、上記偏光子の片面に貼合した。その際、偏光子の透過軸と作製した長尺延伸フィルム(λ/4位相差フィルム)の遅相軸とが45°の向きになるように貼合した。偏光子のもう一方の面に、コニカミノルタタックフィルムKC6UA(コニカミノルタオプト(株)製)を、同様にアルカリケン化処理して貼り合わせて円偏光板1を作製した。
【0303】
(有機ELディスプレイの作成)
ガラス基板上にスパッタリング法によって厚さ80nmのクロムからなる反射電極、反射電極上に陽極としてITO(酸化インジウムスズ)をスパッタリング法で厚さ40nmに製膜し、陽極上に正孔輸送層としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)をスパッタリング法で厚さ80nm、正孔輸送層上にシャドーマスクを用いて、RGBそれぞれの発光層を100nmの膜厚で形成した。
【0304】
赤色発光層としては、ホストとしてトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq)と発光性化合物[4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran](DCM)とを共蒸着(質量比99:1)して100nmの厚さで形成した。緑色発光層としては、ホストとしてAlqと、発光性化合物クマリン6とを共蒸着(質量比99:1)して100nmの厚さで形成した。青色発光層としては、ホストとして、以下に示すBAlqと発光性化合物Peryleneとを共蒸着(質量比90:10)して厚さ100nmで形成した。
【0305】
【化8】
【0306】
さらに、発光層上に電子が効率的に注入できるような仕事関数の低い第1の陰極としてカルシウムを真空蒸着法により4nmの厚さで製膜し、第1の陰極上に第2の陰極としてアルミニウムを2nmの厚さで製膜した。ここで、第2の陰極として用いたアルミニウムはその上に形成される透明電極をスパッタリング法により製膜する際に、第1の陰極であるカルシウムが化学的変質をすることを防ぐ役割がある。以上のようにして、有機発光層を得た。次に、陰極上にスパッタリング法によって透明導電膜を80nmの厚さで製膜した。ここで透明導電膜としてはITOを用いた。さらに、透明導電膜上にCVD法(化学蒸着法)によって窒化珪素を200nmの厚さで製膜することで、絶縁膜とした。
【0307】
上記作製した有機EL素子の発光面積は1296mm×784mmであった。また、この有機EL素子に6Vの直流電圧を印加した際の正面輝度は1200cd/mであった。正面輝度の測定は、コニカミノルタセンシング(株)製分光放射輝度計CS−1000を用いて、2℃視野角正面輝度を、発光面からの法線に分光放射輝度計の光軸が一致するようにして、可視光波長430〜480nmの範囲を測定し、積分強度をとった。
【0308】
上記作製した有機EL素子の絶縁膜上に、円偏光板1を、作製した長尺延伸フィルム(λ/4位相差フィルム)の面が絶縁膜の面に向くように粘着剤で固定化し、有機ELディスプレイ1を作製した(実施例13)。
【0309】
<実施例14〜24、比較例10〜18>
実施例13と同様の方法により、長尺延伸フィルム2−2〜21−2を用いて、円偏光板2〜21および有機ELディスプレイ2〜21を作製した(実施例14〜24、比較例10〜18)。使用した長尺延伸フィルムおよび得られた有機ELディスプレイについて表4に示す。
【0310】
<参考例1>
作成した円偏光板7を用いて、市販の液晶表示パネル(ソニー(株)製:型名BRAVIA KDL−26J5)の視認側の偏光板を剥がし、上記作製した円偏光板7と貼合して、液晶パネルを作製した。次に液晶パネルを液晶テレビにセットし、液晶表示装置1を作製した。
【0311】
<参考例2〜3>
上記液晶表示装置1の作製において、円偏光板7を円偏光板8および9に、それぞれ変更した以外は同様にして液晶表示装置2および3を作製した。使用した長尺延伸フィルムおよび得られた液晶表示装置について表5に示す。
【0312】
<評価>
得られた長尺延伸フィルムについて、以下の評価を行った。
【0313】
(配向角および配向角の幅手方向のばらつき)
作成した長尺延伸フィルム1−1〜21−2の配向角を位相差測定装置(王子計測(株)製、KOBRA−WXK)を用いて測定した。
【0314】
(配向角の幅手方向のばらつきの評価基準)
◎:配向角の幅手方向のばらつきが0.4°未満であった。
○:配向角の幅手方向のばらつきが0.4°以上0.6°未満であった。
△:配向角の幅手方向のばらつきが0.6°以上1.0°未満であった。
×:配向角の幅手方向のばらつきが1.0°以上であった。
【0315】
(面内リタデーションおよび面内リタデーションの幅手分布)
作成した長尺延伸フィルム1−1〜21−2の面内リタデーションを位相差測定装置(王子計測(株)製、KOBRA−WXK)を用いて測定した。評価方法としては、長尺延伸フィルムのフィルム幅方向に長尺延伸フィルムの50mmの間隔で測定を行い、評価した。
【0316】
得られた有機ELディスプレイおよび液晶表示装置について、以下の評価を行った。
【0317】
(色ムラ)
上記作成した有機ELディスプレイおよび液晶表示装置において、黒表示した際のディスプレイ全面における色ムラを、以下の基準で目視評価した。
【0318】
(色ムラの評価基準)
◎:作成した有機ELディスプレイおよび液晶表示装置において、箇所ごとの色味に違いは見られなかった。
○:作成した有機ELディスプレイおよび液晶表示装置において、箇所ごとに色味に違いが見られるが使用に際して問題がない程度であった。
△:作成した有機ELディスプレイおよび液晶表示装置において、箇所ごとに色味に違いが見られ、製品として使用できない程度であった。
×:作成した有機ELディスプレイおよび液晶表示装置において、箇所ごとに色味違いが大きく、製品として使用できない程度であった。
【0319】
上記各種長尺延伸フィルムと有機ELディスプレイおよび液晶表示装置の概要と各種評価の結果をまとめて表1〜表5に示す。なお、表1〜3において、膜厚、配向角、面内リタデーション(面内Re)は、すべて得られた長尺延伸フィルムに関する物性値を示している。
【0320】
【表1】
【0321】
【表2】
【0322】
【表3】
【0323】
【表4】
【0324】
【表5】
表1に示されるように、実施例1〜6に相当する長尺延伸フィルム1−1〜6−2は、比較例1〜3に相当する長尺延伸フィルム7−1〜9−2と比較して、配向角の幅手方向のばらつきが±0.6°未満であり良好であった。特に、延伸装置T2を使用して得られた長尺延伸フィルム4−1〜6−2は、配向角の幅手方向のばらつきが±0.4°未満であり、特に良好であった。
【0325】
表2に示されるように、実施例7〜9に相当する長尺延伸フィルム10−1〜12−2は、比較例4〜6に相当する長尺延伸フィルム13−1〜15−2と比較して、配向角の幅手方向のばらつきが±0.6°未満であり良好であった。特に、熱可塑性樹脂としてノルボルネン系樹脂を使用して得られた長尺延伸フィルム10−1および10−2は、配向角の幅手方向のばらつきが±0.4°未満であり、特に良好であった。
【0326】
表3に示されるように実施例10〜12に相当する長尺延伸フィルム16−1〜18−2は、比較例7〜9に相当する長尺延伸フィルム19−1〜21−2と比較して、配向角の幅手方向のばらつきが±0.6°未満であり良好であった。特に、熱可塑性樹脂としてノルボルネン系樹脂を使用して得られた長尺延伸フィルム16−1および16−2は、配向角の幅手方向のばらつきが±0.4°未満であり、特に良好であった。
【0327】
表4に示されるように、実施例13〜18に相当する有機ELディスプレイ1〜6は、比較例10〜12に相当する有機ELディスプレイ7〜9と比較して、色味の違いがないか、製品として問題のない程度の色味の違いしかなく、良好であった。特に、延伸装置T2を使用して得られた有機ELディスプレイ4〜6は、色味の違いがなく、特に良好であった。
【0328】
また、実施例19〜24に相当する有機ELディスプレイ10〜12および有機ELディスプレイ16〜18は、比較例13〜18に相当する有機ELディスプレイ13〜15および有機ELディスプレイ19〜12と比較して、色味の違いがないか、製品として問題のない程度の色味の違いしかなく、良好であった。特に、熱可塑性樹脂としてノルボルネン系樹脂を使用して得られた長尺延伸フィルムを用いて作成した有機ELディスプレイ10および16は、色味の違いがなく、特に良好であった。
【0329】
表5に示されるように、参考例1〜3に相当する液晶表示装置1〜3は、比較例10〜12に相当する有機ELディスプレイ7〜9と比較して、色味の違いがなく、これらの課題が有機ELディスプレイに長尺延伸フィルムを適用した際に観察されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0330】
本発明は、長尺延伸フィルムの製造方法等の技術分野において広く利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13