(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1乃至3いずれか1項記載のガラス繊維織物の洗浄方法において、前記2種以上の非イオン界面活性剤はHLB値の異なるポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とするガラス繊維の洗浄方法。
請求項1乃至5いずれか1項記載のガラス繊維織物の洗浄方法において、前記HLB値12.0〜15.5のHLB値の異なる2種以上の非イオン界面活性剤は、各々0.01%〜5.0%の範囲で含むことを特徴とするガラス繊維織物の洗浄方法。
請求項2乃至6いずれか1項記載のガラス繊維織物の洗浄方法において、前記陰イオン界面活性剤を0.01%〜5.0%の範囲で含むことを特徴とするガラス繊維織物の洗浄方法。
請求項1乃至7いずれか1項記載のガラス繊維織物の洗浄方法において、洗浄液のpHは、pH3.0〜pH8.0に調整することを特徴とするガラス繊維織物の洗浄方法。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は強度、電気絶縁性に優れていることから、住宅設備から電子製品まで、様々な分野で広く用いられている。特にガラス繊維織物は、電気絶縁性に非常に優れていることから、その特性を活かしエポキシ樹脂やポリイミド樹脂と組み合されプリント配線基板材料として用いられている。
【0003】
前記ガラス繊維織物は、以下のようにガラス繊維束を製織することによって得られる。まず、溶融ガラスを紡糸して得られたガラス繊維フィラメントの表面にサイズ剤を被覆処理して集束することにより繊維束(ストランド)を形成する。次に、前記繊維束に、さらに、サイズ剤を被覆処理し、糸切れ、毛羽立ち等を防止した後に製織する。これらの工程で使用される前記サイズ剤は、澱粉、油剤を主原料としている。
【0004】
前記ガラス繊維織物は、樹脂との複合材料とすることにより、FRP、積層プリント配線基板用の絶縁体等に用いられる。ここで、前記複合材料は、前記ガラス繊維織物と樹脂との結合を強化するために、前記ガラス繊維織物の表面にカップリング剤が被覆処理されている。
【0005】
ところが、前記ガラス繊維織物の表面に有機物が存在すると、前記カップリング剤の効果が阻害されるので、該ガラス繊維織物では該有機物源となる前記サイズ剤を除去しておく必要がある。サイズ剤が完全に除去できず、クロス汚れが残存している場合には、絶縁体として用いた場合に絶縁体の絶縁抵抗性、耐熱性の点で問題が生じる。
【0006】
従来、前記ガラス繊維織物の表面から前記サイズ剤を除去するために、熱処理(ヒートクリーニング)を行うことが知られている(例えば特許文献1参照)。前記熱処理としては、雰囲気温度が400℃〜500℃の加熱炉内に前記ガラス繊維織物を連続的に通しながら前記有機物を加熱分解する連続方式や、前記ガラス繊維織物を巻芯に巻いて雰囲気温度が400℃〜500℃の加熱炉内に配置し、該有機物を加熱分解処理するバッチ方式、及び連続方式とバッチ方式とを組み合わせた二段階方式等が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記熱処理によれば、ガラス繊維強度が低下することが一般的に知られており、樹脂強化材料として使用するときに不利になるという不都合がある。また、前記熱処理は膨大な熱エネルギーを要するので、製造コストが増大する上、熱源の化石燃料と前記有機物との燃焼により大量の二酸化炭素が排出され、環境に対する負荷が大になるという問題もある。
【0009】
前記熱処理に代わるサイズ剤除去方法として、前記ガラス繊維織物をアミラーゼ等の酵素により処理する技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。前記ガラス繊維織物をアミラーゼ等の酵素によりサイズ剤の除去を行う方法では、熱処理を行わないので繊維強度を低下させることはないが、前記サイズ剤を前記熱処理の場合ほど除去することができない。
【0010】
また、ガラス繊維の洗浄に特化したものではないが、非イオン界面活性剤を用いて処理する技術も提案されている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載の方法をガラス繊維織物に適用した場合には、前記サイズ剤を前記熱処理の場合ほど除去することができない。
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、熱処理によらず、ガラス繊維織物の表面からのサイズ剤を除去することができるガラス繊維織物の洗浄方法を提供することを目的とする。本発明の方法によれば、熱処理を行わないため、繊維強度の低下を防止することができ、化石燃料を使わないために環境に負荷がかからない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明のガラス繊維織物の洗浄方法は、ガラス繊維フィラメントの表面にサイズ剤を被覆処理して形成された繊維束を製織することにより得られたガラス繊維織物のガラス繊維表面からサイズ剤を除去するための洗浄方法であって、該ガラス繊維織物を、澱粉分解酵素とHLB値12.0〜15.5の2種以上の異なるHLB値を有する非イオン界面活性剤を含む洗浄液に浸漬する第1洗浄処理と、洗浄流体による第2洗浄処理との少なくとも2つの工程で処理することを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、洗浄に用いる酵素、界面活性剤の種類及び組合せを詳細に検討した結果、熱処理と同等の洗浄効果を有する洗浄液の組成を見出し、本発明を完成するにいたった。本発明のガラス繊維織物の洗浄方法では、前記ガラス繊維織物に付着しているサイズ剤に含まれる成分を澱粉分解酵素によって分解する。さらに、非イオン界面活性剤が洗浄液に含まれていることにより、酵素浸透性を向上させ、洗浄に要する時間を短縮することが可能になる。このとき、HLB値が12.0〜15.5の非イオン界面活性剤を複数混合して用いることにより、効果的にサイズ剤を洗浄除去できることが本発明者らにより明らかとなった。本発明者らの見出した特定のHLB値の組合せの非イオン界面活性剤は、サイズ剤の除去に相乗的に作用し、効果的にサイズ剤を除去する。
【0014】
また、本発明のガラス繊維織物の洗浄方法では、前記洗浄液によって第1洗浄処理された前記ガラス繊維織物を、前記第2洗浄処理する。この結果、前記酵素により含有成分が分解されている前記サイズ剤を、前記ガラス繊維織物の表面から熱処理の場合と同等に除去することができる。
【0015】
また、本発明のガラス繊維織物の洗浄方法によれば、熱処理を行うことがないので、前記ガラス繊維織物の繊維強度を低下させることがなく、しかも熱エネルギーを低減することができるため、二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0016】
さらに、本発明の前記洗浄液には、スルホン酸型や硫酸エステル型のような陰イオン界面活性剤を添加することができる。陰イオン界面活性剤を洗浄液に添加することによって、サイズ剤の再付着が起こらず、より洗浄効果を上げることができる。
【0017】
本発明の非イオン界面活性剤はHLB値の異なるポリオキシエチレンアルキルエーテルがよい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルはHLB値の異なる界面活性剤が入手しやすい。また、澱粉分解酵素はアミラーゼを用いることができる。サイズ剤の主成分は澱粉であり、アミラーゼによって効果的に分解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0020】
まず、本発明の実施形態のガラス繊維織物の洗浄方法を実施する装置について概説する。
図1に示すように、第1の巻芯1aに巻き取られたガラス繊維織物2を引き出し、複数のローラー3を介して搬送する。そして、まず洗浄液槽4に貯留されている澱粉分解酵素及びHLB値12.0〜15.5の2種以上の異なるHLB値を有する非イオン界面活性剤を含む洗浄液5に浸漬し、第1洗浄処理工程を行う。その後、ガラス繊維織物2は、洗浄流体による第2洗浄処理工程6でガラス織物よりサイズ剤が除去され、乾燥工程7で乾燥された後、第2の巻芯1bに巻き取られる。
【0021】
本発明のガラス繊維織物の洗浄方法では、前記第1洗浄処理工程において超音波処理やバイブロ装置を用いた処理を併用してもよい。これらを併用することによって、より短時間で第1洗浄処理を行うことができる。
【0022】
また、本発明のガラス繊維織物の前記第2洗浄処理工程において、洗浄処理に用いられる洗浄流体としては、以下に限定されるわけではないが、例えば、水、温水、界面活性剤含有溶液、水蒸気、有機溶剤、オゾン水、亜臨界水、超臨界水、超臨界二酸化炭素等から選択される少なくとも1つの流体を用いることができる。尚、前記界面活性剤含有溶液は、界面活性剤を含有する水溶液であってもよく、界面活性剤と共にアルコール等の有機溶媒を含有する水溶液であってもよい。
【0023】
また、本発明のガラス繊維織物の洗浄方法の処理方法として、以下に限定されるわけではないが、洗浄流体に波動を加えるようにしたバイブロ装置、超音波振動子、拡散スプレー、ウォーターカーテン、蒸気噴霧、マングル、エアカーテン、マイクロバブル、揺動洗浄等から選択される少なくとも1種の手段により処理することができる。
【0024】
次に、
図1の第1洗浄工程に用いる洗浄液5の界面活性剤の組成について以下詳細に実験結果を示しながら説明する。
【0025】
まず、サイズ剤の主成分が澱粉であることから、澱粉分解酵素及び界面活性剤を含む洗浄液1、澱粉分解酵素及び2種の界面活性剤を含む洗浄液2を用い、IPC規格2116、及びIPC規格106のガラスクロスを処理し結果を解析した。
【0026】
図2は、洗浄液1として、澱粉分解酵素として0.05%アミラーゼ、界面活性剤として0.05%ポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB15)、洗浄液2として、洗浄液1に加えて、0.1%ポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB13)を添加した例を示している。
【0027】
洗浄後、各ガラスクロスはJISR3420に従って、強熱減量率を測定した。水のみを用いて洗浄すると、クロスタイプにもよるが、洗浄前の1/10程度の質量にまで、サイズ剤を除去することができる。この水洗後に残存しているサイズ剤を基準(100%)とし、水洗の代わりに洗浄液を用いて洗浄し、各洗浄液により除去できたサイズ剤の質量をサイズ剤除去率とした。各洗浄液を用いたときのサイズ剤除去率を
図2に示す。
【0028】
クロスタイプ106の場合には、2種の界面活性剤とアミラーゼを添加している洗浄液2を用いた場合には、サイズ剤が100%除去されている。これは、熱処理(図示せず)によりサイズ剤を除去した場合と同等である。また、クロスタイプ2116を用いた場合は、100%のサイズ除去率は得られなかったが、洗浄液2の洗浄効果のほうが優れている。
【0029】
すなわち、2種の界面活性剤とアミラーゼを添加している洗浄液2を用いた場合に、いずれのクロスタイプでも、優れたサイズ剤除去率を得ることができる。
【0030】
データは示さないが、アミラーゼ濃度0.01%〜5.0%、非イオン性界面活性剤濃度は2種類とも0.01%〜5.0%の範囲で同様の結果が得られる。
【0031】
また、洗浄温度は、洗浄液に酵素が含まれていることから、10℃以下の低温では酵素活性が低く、洗浄に時間がかかる。また、95℃を超える高温では、酵素が変性し不活化する。また、ここで用いている非イオン性界面活性剤は、高温にすると曇点に達し、作用しなくなる。したがって、洗浄工程の温度は、用いる酵素の至適温度と、用いる非イオン性界面活性剤の曇点を加味して、設定すればよい。
【0032】
また、洗浄液のpHは、弱酸性から中性に調整する。ガラス成分がアルカリによって溶出するため、アルカリ性ではガラス繊維の強度が弱くなる。したがって、洗浄液のpHは、pH3.0〜pH8.0の弱酸性から中性付近のpHであることが好ましい。また、澱粉分解酵素を洗浄液に添加して用いているため、酵素の至適pH範囲内に調整する必要がある。用いる澱粉分解酵素によって、pHを設定することができるが、ここで用いている澱粉分解酵素、アミラーゼの場合は、pH5.5〜7.5であれば十分な活性を有するため、ここではpH6.5付近に調整している。
【0033】
図2に示したように、澱粉分解酵素アミラーゼに加えて、HLB値の異なる2種の非イオン性界面活性剤を添加した場合(
図2、洗浄液2)は、1種の界面活性剤を添加している洗浄液1に比べ、いずれもサイズ剤除去率は優れていた。HLB値は界面活性剤の水と油の親和性の程度を表す値であり、HLB値によって界面活性剤の性質や用途もある程度規定されることが知られている。そこで、HLB値の違いによるサイズ剤除去効果、複数の界面活性剤の相乗効果の2つの観点から、洗浄効果の解析を行い、優れた洗浄効果を得るためのHLB値の範囲、組み合わせを検討した。
【0034】
まず、HLB値10.0〜17.8までの異なるHLB値を有する非イオン性界面活性剤0.1%の洗浄液を用いて、サイズ剤除去率を測定した(
図3、棒グラフ)。用いた非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、HLB値は図中、1、HLB値10.0;2、HLB値10.7;3、HLB値12.4;4、HLB値12.9;5、HLB値13.6;6、HLB値14.9;7、HLB値15.3;8、HLB値16.9;9、HLB値17.8を示す。
【0035】
なお、HLB値4.9及び8.4のポリオキシエチレンアルキルエーテルも用いたが、洗浄効果は劣っており、いずれも界面活性剤を加えていない水洗のものよりもサイズ剤が付着していた。また、ここではサイズ剤の油剤成分に着目して解析を行っているため、系に澱粉分解酵素を添加していない。データは示していないが、実験室レベルでの解析では、澱粉分解酵素を系に添加しなくても、油剤の付着に関して評価可能であることを確認している。
【0036】
また、
図2と同様に、界面活性剤濃度0.01%〜5.0%の範囲で、同様の結果が得られる。
【0037】
図3から明らかなように洗浄効果はHLB値に依存しており、非イオン界面活性剤を単独で用いた場合、HLB値12.4〜16.9(
図3、3〜8)のものを用いた場合に、サイズ剤除去率は75%を超えており、この範囲のHLB値の界面活性剤が効率良くサイズ剤を除去するものと認められる。特にHLB値12.9、13.9、14.9(
図3、4〜6)のものは、サイズ剤除去率がいずれも90%となっており、洗浄効果が非常に高い。
【0038】
一般に、積層プリント配線基板等にガラスクロスを用いた場合には、サイズ剤の残存が、その性能を損ねることが知られている。そこで、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS−QP2010 ultra、島津製作所社製)を用いて、合わせて残存成分の分析を行った。残存している油剤汚れの相対的割合を
図3に折れ線グラフで示している。
【0039】
残存油剤はHLB値13.6(
図3、5)で低値を示し、HLB値13付近の界面活性剤が非常に効率良く油剤を除去することが明らかとなった。
【0040】
以上の結果から、HLB値12.0〜15.5の非イオン性界面活性剤を用いれば、サイズ剤除去率は75%を超え、残存油剤も比較的低い値であり、効率良くサイズ剤の除去ができる。
【0041】
ここでは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの例を示したが、本発明の非イオン界面活性剤は、HLB値12.0〜15.5のHLB値を有するものであれば、どのようなものを用いてもよく、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を用いることができ、具体的には例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンミリステルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等を挙げることができる。
【0042】
また、各非イオン界面活性剤の濃度は、0.01%〜5.0%の濃度範囲で用いることにより、十分な洗浄効果を得ることができる。非イオン界面活性剤を洗浄液に加えることによって、サイズ剤に含まれる油剤を効果的に洗浄することが可能となる。
【0043】
次に、
図2で示したように、複数の界面活性剤を加えると、洗浄効果が高いと思われることから、界面活性剤を組み合わせて用い、洗浄効果を解析した。HLB値の異なる複数の非イオン性界面活性剤を加え、上記と同様にしてサイズ剤除去率を求めた。表1に、解析に用いた界面活性剤のHLB値の組合せを、
図4に解析結果を示す。
【0045】
図4に示すように、HLB値12.9〜15.3の非イオン性界面活性剤の組合せ(試料3〜6)は、いずれもサイズ剤除去率が90%以上であり、サイズ剤の除去に非常に効果がある。特に、試料3〜5の組み合わせではサイズ剤除去率が95%を超えており、極めて洗浄効果に優れていることが示された。
【0046】
一方、HLB値12.0以下の界面活性剤の組合せ(試料1)、2種の界面活性剤のうち、1種がHLB値12.0以下の場合(試料2)では、サイズ剤除去率が低く、実用性がない。
【0047】
図3に示した結果より、サイズ剤の除去、特に油剤の除去にはHLB値12.0〜16.9の範囲の非イオン界面活性剤が有効に作用する。さらに、
図4に示した結果より、HLB値12.0〜15.5の値の異なる2種以上のHLB値を有する非イオン界面活性剤を加えれば、さらに有効にサイズ剤を除去することができる。
【0048】
また、非イオン界面活性剤は、HLB値12.0〜15.5の範囲内で各々のHLB値が0.5以上異なるものを用いた方がより強い洗浄効果を得ることができる。
【0049】
上記非イオン性界面活性剤に関する実験室レベルでの検討結果から、澱粉分解酵素とHLB値12.0〜15.5の2種以上の異なるHLB値を有する非イオン界面活性剤を含む洗浄液を用いれば、十分な洗浄効果が得られると考えられる。そこで、実際のラインを使用してガラスクロスの洗浄を行い、サイズ剤除去率を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
IPC規格2116のガラスクロスの場合には、洗浄液によるサイズ剤除去率が93.5%であり、満足なサイズ剤除去が行えているとはいえない。しかしながら、IPC規格1080及び106のガラスクロスは、洗浄液によってサイズ剤除去率が100%であり、十分な洗浄効果が得られている。さらに洗浄時間に関しても、長時間を要する熱処理に比べて極めて短時間に処理を完了することが可能となる。
【0052】
IPC規格2116のクロスタイプのものでは、洗浄効果が不十分である。また、実際にラインで行う場合には、
図1で示す装置を用いて洗浄を行っているので、洗浄液の効果を高めることができれば、ライン速度を上げることができ、処理時間を短くすることができる。そこで、さらに洗浄効果の高い組成となるように検討を行った。
【0053】
陰イオンイオン界面活性剤には優れた洗浄力と汚れの再付着防止効果があることが知られている。そこで、上記の洗浄液にさらに陰イオン界面活性剤を添加して、洗浄効果を検討した。
【0054】
陰イオン界面活性剤としては、スルホン酸型、カルボン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型等の界面活性剤が存在する。
【0055】
そこで、どのような陰イオン界面活性剤がサイズ剤除去に効果を有するか検討を行った。IPC規格2116のクロスタイプを用い、HLB値13の非イオン性界面活性剤、HLB値15の非イオン性界面活性剤の組み合わせを含有する洗浄液に下記の陰イオン界面活性剤を0.1%加え、洗浄しサイズ剤除去率を求めた。結果を表3に示す。なお、各界面活性剤濃度0.01%〜5.0%の範囲で、同様の結果を得ている。
【0057】
上記結果に示すように、スルホン酸型、硫酸エステル型の界面活性剤を、HLB値の異なる2種の非イオン性界面活性剤とともに用いた場合には、サイズ剤の除去に対して優れた相乗効果がある。特にスルホン酸型のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルフォオレフィンスルホン酸塩、硫酸エステル型のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル硫酸トリエタノールアミンは洗浄効果が高い。
【0058】
上記のように洗浄液には、非イオン界面活性剤の他に陰イオン界面活性剤を0.01%〜5.0%の濃度範囲で添加することができる。陰イオン界面活性剤を添加することにより、汚れが再付着することが防止され、さらに洗浄効果を増すことができる。陰イオン界面活性剤は、非イオン界面活性剤の総量に対して0.1〜2倍量添加することにより、高い相乗効果が得られ、洗浄効果が増強する。
【0059】
上記のように、陰イオン界面活性剤をさらに添加することによって、洗浄に相乗効果が得られることから、実際のラインを使用し、IPC規格106のクロスタイプのものを用い検討を行った。結果を
図5に示す。
【0060】
図5中1、3は陰イオン界面活性剤を添加していないもの、図中、2、4は陰イオン界面活性剤としてアルキル硫酸エステル塩を添加したものを示している。また、ここでは、用いた非イオン性界面活性剤の組み合わせは、HLB値13と15である。ここでは、アルキル硫酸エステル塩を添加した結果を例示しているが、上記表3で示したように、スルホン酸型、硫酸エステル型の界面活性剤であれば、同様の高い洗浄効果が得られる。また、非イオン界面活性剤の組み合わせも、HLB値12.0〜15.5の2種以上の異なるHLB値を有するものであれば、どのような組み合わせを用いても同様の効果を得ることができる。
【0061】
陰イオン界面活性剤を添加した洗浄液を用いたものでは、サイズ剤除去率が100%であり、洗浄効果が高いことが示された。図中3、4で示した結果はライン速度を
図5中1、2で示した通常の1.5倍の速度に上げて洗浄を行っているものである。ライン速度を上げて、つまり第1洗浄処理工程での処理時間を短くしても、陰イオン界面活性剤を添加して洗浄液で洗浄を行えば十分な洗浄効果が得られている。
【0062】
したがって、澱粉分解酵素、HLB値12.0〜15.5の2種以上の異なるHLB値を有する非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤を組み合わせて洗浄を行えば、優れた相乗効果を得ることができる。
【0063】
洗浄効果は、クロスタイプ、界面活性剤の濃度に依存するが、洗浄時間等にも依存する。一般に洗浄液に浸漬している時間が長いほど、サイズ剤除去率は向上する。しかし、
図1に示すような実際のラインで洗浄を行う際には洗浄に要する時間も非常に重要である。洗浄効率を考慮に入れると、澱粉分解酵素0.02%〜1.0%、HLB値の異なる2種の非イオン性界面活性剤濃度は各々0.05%〜2.0%、陰イオン界面活性剤濃度は0.05%〜2.0%の範囲で洗浄を行うことにより、実際のラインでも十分効率的に洗浄を行うことが可能である。
【0064】
また、本発明では、澱粉分解酵素としてアミラーゼを用いて結果を示してきたが、澱粉分解酵素としては、アミラーゼ、グルコシダーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ、プルラナーゼ等を用いることができる。澱粉分解酵素は、一次サイズ剤原料としてどのようなものを用いるかにより、適宜選択すればよい。また、澱粉分解酵素は、全量に対して0.01%〜5.0%の範囲で含有することにより、サイズ剤の除去を行うことができる。
【0065】
また、サイズ剤の主原料は澱粉であるが、油脂やタンパク質が含まれていることから、洗浄液には油脂分解酵素やタンパク質分解酵素を含んでいても良い。前記油脂分解酵素としては、リパーゼ等を挙げることができ、前記タンパク質分解酵素としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、プロテイナーゼ等を挙げることができる。
【0066】
本発明の洗浄方法によれば、澱粉分解酵素と特定の界面活性剤の組み合わせにより、従来法の熱処理と同等の結果を得ることができる。また、熱処理を行わないことから、ガラス繊維織物の強度が低下することもなく、また、環境に対する負荷も小さい。