(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属製剛性内型の外周面に未加硫の台タイヤを配置し、この台タイヤを前記剛性内型とともに加硫用金型の中に配置し、次いで、前記未加硫の台タイヤを加硫するとともに、前記加硫用金型の内周面と前記台タイヤの外周面との間に円筒状に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出して、この未加硫ゴムを加硫させことにより前記台タイヤの外周面にトレッド部を形成し、このトレッド部を前記台タイヤの外周面に一体化させる空気入りタイヤの製造方法であって、
前記キャビティの外周面となる前記加硫用金型の内周面に、周方向に間隔をあけて前記未加硫ゴムの射出口を配置し、この射出口のタイヤ幅方向寸法wをそのタイヤ周方向寸法dよりも大きくして、その寸法比w/dを2以上にするとともに、この幅広の射出口からタイヤ半径方向内側に向かって前記未加硫ゴムを射出することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
前記未加硫ゴムとして、線径が0.1mm以下でアスペクト比が3以上の短繊維をゴム100重量部に対して1重量部未満含有させたゴム組成物を使用する請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
未加硫の台タイヤが外周面に配置される金属製剛性内型と、前記未加硫の台タイヤが前記剛性内型とともに中に配置される加硫用金型と、この加硫用金型の内周面と前記未加硫の台タイヤの外周面との間に形成された円筒状のキャビティに未加硫ゴムを射出する射出機とを備え、前記未加硫の台タイヤを加硫するとともに、前記キャビティに射出した未加硫ゴムを加硫させて形成したトレッド部をこの台タイヤの外周面に一体化させる空気入りタイヤの製造装置であって、
前記キャビティの外周面となる前記加硫用金型の内周面に、前記未加硫ゴムの射出口が周方向に間隔をあけて配置されて、この射出口のタイヤ幅方向寸法wがそのタイヤ周方向寸法dよりも大きく形成されて、その寸法比w/dが2以上に設定されるとともに、この幅広の射出口からタイヤ半径方向内側に向かって前記未加硫ゴムを射出する構成にしたことを特徴とする空気入りタイヤの製造装置。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤトレッドに異方性ゴムを用いた空気入りタイヤが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、異方性ゴムを用いることにより、トレッドのベースゴム層のショルダー部のタイヤ幅方向モジュラスに対してタイヤ周方向モジュラスを高くしている。加えて、このショルダー部のタイヤ周方向モジュラスを、ベースゴム層のセンター部の周方向モジュラスよりも高くしている。これにより、制動荷重時のタイヤの接地幅の伸びを拡大してタイヤの制動性能を向上させるようにしている。
【0003】
引用文献1の記載のタイヤでは、ゴム物性に異方性を付与するために短繊維を配合している。しかしながら、短繊維の配合量が増大するほどゴムの破断伸びが低下し耐摩耗性も低下し、短繊維の配向方向の引裂強度も低下する。また、短繊維をゴムに均等に分散させることは難しく、均等に分散させなければゴム物性の異方性が大きくばらつくという問題がある。さらには、短繊維はゴムに比して高価なのでタイヤの製造コストが増大する要因になる。基本的には、短繊維はゴムにとっては異物になるので極力配合しないことが望ましい。
【0004】
一方、短繊維等の補強材を配合しないと、ゴム物性に異方性を生じさせることは難しい。押出機によりゴムを押出すことで、押出方向と押出方向に直交する方向とでゴム物性に異方性は生じるが、ごく僅かである。
【0005】
本発明の発明者は、種々検討した結果、未加硫ゴムを射出した際のゴムの流動方向と流動方向に直交する方向とで、従来に比してゴム物性に大きな異方性が生じることを見出した。即ち、射出された未加硫ゴムの流動方向ではモジュラスが低くなり、流動方向に直交する方向ではモジュラスが高くなることが明らかになった。そこで、この知見に基づいて更なる検討を加えることにより、本発明を創作するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、短繊維等の補強材を用いなくてもトレッドゴムのモジュラスの異方性を従来に比して顕著にすることができ、乗り心地性と操縦安定性を同時に向上させることが可能な空気入りタイヤの製造方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤの製造方法は、金属製剛性内型の外周面に未加硫の台タイヤを配置し、この台タイヤを前記剛性内型とともに加硫用金型の中に配置し、次いで、前記未加硫の台タイヤを加硫するとともに、前記加硫用金型の内周面と前記台タイヤの外周面との間に円筒状に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出して、この未加硫ゴムを加硫させことにより前記台タイヤの外周面にトレッド部を形成し、このトレッド部を前記台タイヤの外周面に一体化させる空気入りタイヤの製造方法であって、前記キャビティの外周面となる前記加硫用金型の内周面に、周方向に間隔をあけて前記未加硫ゴムの射出口を配置し、この射出口のタイヤ幅方向寸法wをそのタイヤ周方向寸法dよりも大きくして、
その寸法比w/dを2以上にするとともに、この幅広の射出口からタイヤ半径方向内側に向かって前記未加硫ゴムを射出することを特徴とする。
【0009】
本発明の空気入りタイヤの製造装置は、未加硫の台タイヤが外周面に配置される金属製剛性内型と、前記未加硫の台タイヤが前記剛性内型とともに中に配置される加硫用金型と、この加硫用金型の内周面と前記未加硫の台タイヤの外周面との間に形成された円筒状のキャビティに未加硫ゴムを射出する射出機とを備え、前記未加硫の台タイヤを加硫するとともに、前記キャビティに射出した未加硫ゴムを加硫させて形成したトレッド部をこの台タイヤの外周面に一体化させる空気入りタイヤの製造装置であって、前記キャビティの外周面となる前記加硫用金型の内周面に、前記未加硫ゴムの射出口が周方向に間隔をあけて配置されて、この射出口のタイヤ幅方向寸法wがそのタイヤ周方向寸法dよりも大きく形成され
て、その寸法比w/dが2以上に設定されるとともに、この幅広の射出口からタイヤ半径方向内側に向かって前記未加硫ゴムを射出する構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加硫用金型の内周面と台タイヤの外周面との間に円筒状に形成されたキャビティに未加硫ゴムを射出して、この未加硫ゴムを加硫させことにより台タイヤの外周面にトレッド部を形成するので、短繊維等の補強材を配合しなくてもトレッドゴムのゴム物性に大きな異方性を生じさせることができる。しかも、キャビティの外周面となる加硫用金型の内周面に、周方向に間隔をあけて配置したタイヤ幅方向に幅広の射出口からタイヤ半径方向内側に向かって未加硫ゴムを射出することで、タイヤ半径方向の弾性率を低減させつつ、タイヤ幅方向の弾性率を向上させることができる。これにより、製造した空気入りタイヤの乗り心地性と操縦安定性とを同時に向上させることが可能になる。
【0011】
ここで、
例えば、タイヤ幅方向寸法wを前記台タイヤのタイヤ幅Wbの30%以上にすることもできる。これにより、トレッドゴムのタイヤ幅方向に対するタイヤ半径方向および周方向のゴム物性の異方性が一段と顕著になる。これに伴い、乗り心地性および操縦安定性をより向上させ易くなる。
【0012】
前記射出口を周方向に等間隔に配置することもできる。この場合、トレッドゴムのタイヤ周方向の物性のばらつきが小さくなり、ひいては、ユニフォミティの向上に寄与する。
【0013】
周方向に隣り合う前記射出口の周方向間隔を、前記台タイヤのタイヤ幅Wbよりも大きくすることもできる。この場合、トレッドゴムのタイヤ幅方向におけるモジュラスをより安定して向上させることができる。これに伴い、製造した空気入りタイヤの乗り心地性および操縦安定性をより向上させ易くなる。
【0014】
前記未加硫ゴムとして、線径が0.1mm(100μm)以下でアスペクト比が3以上の短繊維をゴム100重量部に対して1重量部未満含有させたゴム組成物を使用することもできる。短繊維はできるだけ配合しない方がゴムの耐久性を悪化させないが、この程度の配合量であれば実質的に耐久性に悪影響がない。そして、配合した短繊維によって、ゴム物性の異方性をより顕著にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の空気入りタイヤの製造方法および装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0017】
図1〜
図6に例示する本発明の空気入りタイヤの製造装置1は、未加硫の台タイヤBTが外周面に配置される金属製剛性内型2(以下、剛性内型2という)と、この台タイヤBTが剛性内型2とともに中に配置される加硫用金型6と、射出機11とを備えている。
【0018】
未加硫の台タイヤBTとは、通常のグリーンタイヤにおいてトレッド部TRのゴムがない状態のタイヤをいう。したがって、公知のグリーンタイヤの成形方法においてトレッドゴムの準備工程、すなわち、トレッドゴムの押出工程および台タイヤへの貼り付け工程を省略することにより未加硫の台タイヤBTを得ることができる。
【0019】
図2、
図3に例示するように、円筒状の剛性内型2は、周方向に複数に分割可能になっていて、周方向に分割された複数のセグメント3(3A、3B)が、円筒状に組み付けられる構造になっている。剛性内型2の材質としては、炭素鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属を例示できる。この実施形態では、周方向長さが相対的に大きい4つの長セグメント3Aと、相対的に小さい4つの短セグメント3Bの2種類で構成されている。短セグメント3Bの周方向両端面は平面視で平行になっている。長セグメント3Aと短セグメント3Bとは周方向に交互に配置されている。
【0020】
それぞれのセグメント3A、3Bは中心軸4から放射状に延設された支持アーム5に取り付けられている。それぞれのセグメント3A、3B、中心軸4、支持アーム5は別々に分離可能になっている。即ち、剛性内型2は拡縮する構造ではなく、それぞれのセグメント3に別々に分離、分割されて細分化される構造になっている。周方向に隣り合うセグメント3A、3Bどうしは必要であれば、その内周側で適宜の連結部材によって連結される。
【0021】
互いが分離して分割状態のセグメント3A、3Bを円筒状に組み付けるとともに、中心軸4および支持アーム5を連結することにより剛性内型2が形成される。形成した剛性内型2では、それぞれのセグメント3A、3Bの外側表面は円環状に連続して台タイヤBTのトレッド部TRに対応するタイヤ内面の範囲に当接する。
【0022】
加硫用金型6は、周方向に分割された複数の分割型6aと上下一対のリング状型6bとで構成されている。例えば、4〜8個の分割型6aが環状に組み付けられる。組み付けられた円筒状の分割型6aの上下端部の内周側にはリング状型6bが配置される。
【0023】
それぞれの分割型6aが半径方向内周側に移動して周方向に隣り合う分割型6aどしが当接するとともに、これらが上下一対のリング状型6bと当接することにより加硫用金型6が閉型する。一方、それぞれの分割型6aが半径方向外周側に移動して周方向に隣り合う分割型6aどうしが分離するとともに、これらが上下一対のリング状型6bと分離することにより加硫用金型6が開型する。
【0024】
閉型した加硫用金型6は、剛性内型2が内側に配置されている台タイヤBTの外周面を覆う。この加硫用金型6の内周面と台タイヤBTの外周面との間には円筒状のキャビティ9が形成される。
【0025】
加硫用金型6の内周面はキャビティ9の外周面となり、製造する空気入りタイヤTのトレッドパターンを成形する形状になっている。加硫用金型6の内周面には、注入路10の一端部に接続する射出口12が配置されている。注入路10の他端部は射出機11に接続されている。
【0026】
図5に例示するように、射出口12は周方向に間隔をあけて複数配置されている。射出口12は例えば、4〜16ヶ所程度の周方向位置に配置される。この実施形態では、射出口12が周方向に等間隔に配置され、1ヶ所の周方向位置に1個の射出口12が配置されている。また、周方向に隣り合う射出口12の周方向間隔が、台タイヤBTのタイヤ幅Wbよりも大きく設定されている。
【0027】
1ヶ所の周方向位置に複数の射出口12をタイヤ幅方向に並んで配置することもできる。1ヶ所の周方向位置に1個の射出口12が配置される場合は、タイヤ幅方向中央部に配置される。
【0028】
それぞれの射出口12は実質的に同じ仕様であり、そのタイヤ幅方向寸法wは、そのタイヤ周方向寸法dよりも大きく形成されてタイヤ幅方向に幅広の仕様になっている。注入路10は、途中で複数本に分岐してそれぞれの射出口12に接続されている。
【0029】
加硫用金型6には、加熱機8に接続される加熱路7が形成されている。加熱機8はスチーム等の加熱媒体を供給し、供給された加熱媒体が加熱路7を流れて加硫用金型6が加熱される。
【0030】
射出機11は、未加硫ゴムRを所定温度で加温しつつ収容するシリンダ11aと、シリンダ11aに収容されている未加硫ゴムRを押出すプランジャ11bと備えている。プランジャ11bを前進させることにより、未加硫ゴムRを所定の射出圧力で射出する。この射出圧力は例えば10MPa〜50MPaである。
【0031】
未加硫ゴムRは射出できる流動特性を有し、加硫が可能な仕様であればよく、例えば、天然ゴム、IR、SBR、BRなどのジエン系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、EPDMなどの非ジエン系ゴム、カーボンブラック、オイル、老化防止剤、加工助剤、軟化剤、可塑剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等の各種配合材料が適宜配合されている。
【0032】
この製造装置1を用いて空気入りタイヤを製造する方法の手順の一例を説明する。
【0033】
まず、剛性内型2の外周面に未加硫の台タイヤBTを配置する。この工程は加硫用金型6の外で行なう。例えば、剛性内型2の外周面に順次未加硫の台タイヤBTを構成する部材を積層して台タイヤBTを成形することにより、剛性内型2の外周面に未加硫の台タイヤBTを配置する。或いは、成形ドラム等で既に成形した未加硫の台タイヤBTの内側にセグメント3を挿入して円筒状に組み付けることにより、剛性内型2の外周面に未加硫の台タイヤBTを配置する。この工程により、それぞれのセグメント3が台タイヤBTの内周面に当接した状態になって剛性内型2によって内周側から強固に支えられることになる。
【0034】
次いで、台タイヤBTを剛性内型2とともに、開型した加硫用金型6の中に配置する。次いで、加硫用金型6を閉型することにより、台タイヤBTの外周面を加硫用金型6で覆う。これにより、加硫用金型6の内周面と台タイヤBTの外周面との間には円筒状のキャビティ9が形成される。
【0035】
次いで、
図4、
図5に例示するように、射出機11から射出、供給された未加硫ゴムRを注入路10を通じてキャビティ9に射出、充填する。この際に、未加硫ゴムRは、それぞれの射出口12からタイヤ半径方向内側に向かって射出される。
【0036】
キャビティ9の中に射出された未加硫ゴムRは、
図7の破線で例示するように流動する。
図7では、Wがタイヤ幅方向、Cがタイヤ周方向、rがタイヤ半径方向(厚み方向)を示している。即ち、未加硫ゴムRは、タイヤ半径方向外側から内側に流動した後、タイヤ周方向に流動して、キャビティ9は未加硫ゴムRで充填される。
【0037】
キャビティ9に射出、充填された未加硫ゴムRは、キャビティ9によって所定形状に成形される。そして、加熱路7を流れる加熱媒体によって加熱された加硫用金型6により、射出した未加硫ゴムRおよび台タイヤBTを形成する未加硫ゴムを加硫させる。剛性内型2も必要に応じて加熱して台タイヤBTの加硫を促進させる。剛性内型2には加硫用金型6の熱を伝熱させる、或いは、独立した加熱手段を設けることもできる。
【0038】
未加硫ゴムRが加硫されると、台タイヤBTの外周面に、この加硫したゴムからなるトレッド部TRが形成されるとともにこのトレッド部TRが台タイヤBTの外周面に加硫接着して一体化する。これにより、空気入りタイヤTが完成する。
【0039】
次いで、この空気入りタイヤTを、この空気入りタイヤTの内側に配置されている剛性内型2とともに加硫用金型6の外に取り出す。その後、加硫用金型6の外において空気入りタイヤTの内側の剛性内型2をセグメント3に分離、分割して空気入りタイヤTの内側から取り外す。
【0040】
空気入りタイヤTのトレッドゴムが製造される過程においては、未加硫ゴムRがタイヤ半径方向外側から内側に流動しているので、従来の一般的な製造方法でタイヤを製造した場合に比して、トレッドゴムのタイヤ半径方向のモジュラスが低くなる。これに伴い、製造された空気入りタイヤTの半径方向の弾性率が小さくなり、乗り心地性が従来に比して向上する。
【0041】
一方、未加硫ゴムRはゲートから出た後、タイヤ周方向に流動しているので、タイヤ幅方向に対しては直交する方向に流動している。異方性が生ずるメカニズムとしては、ゲートから射出されたゴムが各点から同心円状に広がる力が働くと同時に、金型の壁との相互作用があり、全体としてはゴム分子鎖や充填剤がタイヤ幅方向に配向しやすくなると考えられる。本発明のように、タイヤ周方向寸法dに対するそのタイヤ幅方向寸法wの比w/dを2以上にすることで、その効果がよりいっそう高くなる。そのため、従来の一般的な製造方法でタイヤを製造した場合に比して、トレッドゴムのタイヤ幅方向のモジュラスが高くなる。これに伴い、製造されたタイヤTのタイヤ幅方向の弾性率が大きくなり、操縦安定性が従来に比して向上する。
【0042】
このように本発明によれば、短繊維等の補強材を配合しなくてもトレッドゴムのゴム物性に大きな異方性を生じさせることができる。しかも、加硫用金型6の内周面に、周方向に間隔をあけて配置したタイヤ幅方向に幅広の複数の射出口12からタイヤ半径方向内側に向かって未加硫ゴムRを射出することでモジュラスの異方性が顕著になり、製造したタイヤTの乗り心地性と操縦安定性とを同時に向上させることが可能になる。即ち、未加硫ゴムRの流動方向を巧みに利用することで、タイヤTの乗り心地性と操縦安定性とを同時に向上させることができるゴム物性の異方性を実現している。
【0043】
射出する未加硫ゴムRは1種類でだけでよく、異なる複数のゴム種の未加硫ゴムRを射出させなくてもよい。また、ゴム物性の異方性を得る目的で短繊維等の補強材をゴムに配合する必要もないので、ゴムの耐久性にも悪影響が生じない。
【0044】
本発明では例えば、射出口12のタイヤ周方向寸法dに対するそのタイヤ幅方向寸法wの比w/dを2以上に設定するとともに、そのタイヤ幅方向寸法wを台タイヤBTのタイヤ幅Wbの30%以上に設定するとより好ましい。これにより、トレッドゴムのタイヤ幅方向に対するタイヤ半径方向および周方向のゴム物性の異方性が一段と顕著になる。これに伴い、タイヤTの乗り心地性および操縦安定性をより向上させ易くなる。比w/dは、例えば2以上10以下、さらに好ましくは4以上8以下に設定する。射出口12のタイヤ幅方向寸法wは、例えばWbの30%以上100以下、さらに好ましくは50%以上90%以下にする。
【0045】
射出口12を周方向に等間隔に配置すると、トレッドゴムのタイヤ周方向の物性のばらつきが小さくなる。これに伴い、タイヤTのユニフォミティが向上する。
【0046】
周方向に隣り合う射出口12の周方向間隔を、台タイヤBTのタイヤ幅Wbよりも大きくすると、未加硫ゴムRがタイヤ周方向に安定して流動するので、トレッドゴムのタイヤ幅方向においてモジュラスをより安定して高くすることができる。これに伴い、製造したタイヤTの乗り心地性および操縦安定性をより向上させ易くなる。
【0047】
本発明では、ゴムにとって異物となる短繊維等の補強材を配合していない未加硫ゴムRを用いることが望ましい。しかしながら、未加硫ゴムRとして、線径が0.1mm以下でアスペクト比が3以上の短繊維をゴム100重量部に対して1重量部未満含有させたゴム組成物を使用することもできる。使用する短繊維のアスペクト比の上限は例えば10〜20である。様々な材質の周知の短繊維を用いることができる。
【0048】
短繊維の配合量がこの程度の僅かな割合であれば実質的にゴムの耐久性には悪影響が生じない。そして、配合した短繊維によって、ゴム物性の異方性をより顕著にすることができる場合がある。
【0049】
本発明では、加硫用金型6の内周面と未加硫の台タイヤBTの外周面との間に形成されたキャビティ9に未加硫ゴムRを射出することによりトレッド部TRを形成するので、射出した未加硫ゴムRをキャビティに広く行き渡らせることができる。そのため、従来では適切なゴムボリュームにすることが困難で加硫故障が発生し易かった剛性内型2を用いた方法でありながらも、ゴムボリュームを精度よく適切な量にコントロールしてトレッド部TRおよび台タイヤBTを加硫させつつ一体化させて空気入りタイヤTを製造することができる。それ故、加硫故障を防止しつつ、ユニフォミティ等のタイヤ性能に優れた高品質の空気入りタイヤTを製造することができる。
【0050】
タイヤ内周面は堅牢な剛性内型2によって支えられた状態でキャビティ9に未加硫ゴムRを射出するので、未加硫ゴムRの射出圧力によって台タイヤBTが内側に凹むという不具合を回避できる。これに伴い、加硫用ブラダによって台タイヤBTの内側を支える場合に比して、未加硫ゴムRの射出圧力を高く設定することが可能になる。そのため、射出時間を短縮できるという利点があり、タイヤ生産性の向上に寄与する。また、未加硫ゴムRをキャビティ9の全範囲に十分に行き渡らせ易くなるという利点もある。したがって、複雑なトレッドパターンであっても成形するには有利になる。これら利点は寸法精度を向上させるにも有利である。
【0051】
また、本発明では従来の製造方法とは異なり、グリーンタイヤに対して外周側に押し広げる過大な力が作用することがない(いわゆるリフトによる力が作用しない)。そのため、加硫されたトレッド部TRには、この力に起因する残留応力が小さくなり、耐摩耗性の向上等が期待できる。
【0052】
この実施形態では、剛性内型2を台タイヤBTの内側に配置する作業、製造した空気入りタイヤTの内側から剛性内型2を取り外す作業を加硫用金型6の外部にて行なうことができる。そのため、これら作業を行なうための機構を製造装置1に設ける必要がなくなり、製造装置1の簡素化には有利になる。
【0053】
この実施形態で用いる剛性内型2は拡縮する構造ではなく、それぞれのセグメント3に別々に分離、分割されて細分化される構造であるが、その構造は上記実施形態に限らず、公知の種々の構造を採用することができる。したがって、拡縮する構造の剛性内型2を採用することもできる。
【実施例】
【0054】
同一の空気入りタイヤを表1に示すように、3種類(従来例、比較例、実施例)の異ならせた方法で製造し、製造した空気入りタイヤの操縦安定性、乗り心地性、耐摩耗性を評価した。その結果を表1に示す。従来例は従来の一般的なタイヤの製造方法であり、押出機によって押し出した未加硫ゴムをトレッドゴムに用いたグリーンタイヤを加硫した。比較例は、従来例に対してトレッドゴムにした未加硫ゴムだけを異ならせた。この未加硫ゴムにナイロン製の短繊維(線径10μm、長さ2.0mm)を配合したことのみが相違点であり、短繊維をゴム100重量部に対して5重量部配合した。実施例は、上述した実施形態と同様に未加硫の台タイヤに未加硫のトレッドゴムを射出し加硫して一体化させたものである。トレッドゴムとして使用した未加硫ゴムは従来例と同じである。射出口のタイヤ周方向寸法dに対するタイヤ幅方向寸法wの比w/dは3に設定し、タイヤ幅方向寸法wは台タイヤのタイヤ幅Wbの40%に設定した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1のタイヤ幅方向M100(100%モジュラス)/タイヤ半径方向M100(100%モジュラス)とは、製造した空気入りタイヤのトレッドゴムから切り出したゴムサンプルで測定したタイヤ幅方向の100%モジュラスとタイヤ半径方向(タイヤ厚さ方向)の100%モジュラスとの比である。この比が大きい程、ゴム物性の異方性が大きいことを意味する。この100%モジュラスはJIS K6251(3号ダンベル使用)に準拠して、室温にてゴムサンプルの引っ張り試験を行って測定した。
【0057】
操縦安定性は、製造した空気入りタイヤを定常転動させた状態においてタイヤに舵角を1度与えたときに、横方向に発生する力の大きさ(コーナーリングパワー)の大きさで評価した。従来例を基準の100とした指数で評価し、指数の数値が大きい程、操縦安定性が優れることを示す。
【0058】
乗り心地性は車搭乗者による官能評価であり、従来例を基準の100とした指数で評価した。指数の数値が大きい程、乗り心地性が優れていることを示す。
【0059】
耐摩耗性は、JIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機を用いて測定した。従来例を基準の100とした指数で評価した。指数の数値が大きい程、耐摩耗性が優れていることを示す。
【0060】
表1の結果から、実施例は従来例および比較例に対して、トレッドゴムのゴム物性(100%モジュラス)の異方性が大きいことが分かる。また、実施例は従来例および比較例に対して、操縦安定性、乗り心地性および耐摩耗性が優れていることが分かる。