特許第5983857号(P5983857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983857
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】変速機の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160823BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20160823BHJP
   F16H 59/36 20060101ALI20160823BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20160823BHJP
   F16H 61/684 20060101ALI20160823BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/14
   F16H59/36
   F16H61/68
   F16H61/684
   F16H61/686
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-502963(P2015-502963)
(86)(22)【出願日】2014年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2014054723
(87)【国際公開番号】WO2014133021
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2015年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-36368(P2013-36368)
(32)【優先日】2013年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 洋
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 昌士
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 武史
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅之
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−35256(JP,A)
【文献】 特開2011−208695(JP,A)
【文献】 特開2003−247634(JP,A)
【文献】 特開2008−286226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
61/16−61/24
61/66−61/70
63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された原動機から入力軸に伝達される動力を複数の係合要素の係脱により変速比を複数段に変速して出力軸に伝達可能であり、油圧制御装置から油圧が供給される第1および第2係合要素の係合により発進段を形成すると共に、前記第1係合要素およびワンウェイクラッチの係合により前記発進段よりも変速比の大きい低速段を形成する変速機の制御装置において、
前記車両が発進する際に、前記油圧制御装置を制御して前記変速機が前記発進段を形成するように前記第1および第2係合要素を係合させる発進制御手段と、
前記発進段から前記低速段への移行に応じて前記第2係合要素を解放させる解放制御手段とを備え、
前記発進制御手段は、前記発進段の形成中、係合状態を維持する油圧を前記第1係合要素に供給し、かつ、係合状態を維持すると共に前記発進段から前記低速段へと移行させるトルクが前記入力軸に入力されるに伴って前記第2係合要素に滑りを生じさせる油圧を該第2係合要素に供給するように前記油圧制御装置を制御し、
前記解放制御手段は、前記入力軸の回転数に基づいて前記低速段への変速の開始を検出した時点よりも後に、前記第2係合要素の解放制御を開始することを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項2】
前記解放制御手段は、前記入力軸の回転数が前記発進段での変速比と車速または前記出力軸の回転数とから定まる基準回転数より大きくなった後に、前記第2係合要素の解放制御を開始することを特徴とする請求項に記載の変速機の制御装置。
【請求項3】
前記解放制御手段は、前記入力軸の回転数が前記低速段での変速比と車速または前記出力軸の回転数とから定まる基準回転数に達した後に、前記第2係合要素の解放制御を開始することを特徴とする請求項に記載の変速機の制御装置。
【請求項4】
前記解放制御手段は、前記低速段での変速比と車速または前記出力軸の回転数とから定まる基準回転数から前記入力軸の回転数を減じた値が所定値以下になった後に、前記第2係合要素の解放制御を開始することを特徴とする請求項に記載の変速機の制御装置。
【請求項5】
前記発進段の形成中に、前記第1係合要素の第1目標トルク容量および第2係合要素の第2目標トルク容量を設定する目標トルク容量設定手段を備え、
前記目標トルク容量設定手段は、前記第2目標トルク容量の設定に際して、前記第1目標トルク容量の設定に際して用いる安全率よりも小さな安全率を用いることを特徴とする請求項1からの何れか一項に記載の変速機の制御装置。
【請求項6】
前記発進段の形成中、前記原動機から出力されるトルクが、前記発進段から前記低速段への移行を判定するためのダウンシフトライン上のアクセル開度と車速とに応じたトルクに基づく前記発進段の最大出力トルク以下であれば前記第2係合要素の係合が維持され、前記原動機から出力されるトルクが前記発進段の前記最大出力トルクを超えると前記第2係合要素に滑りが生じることを特徴とする請求項1からの何れか一項に記載の変速機の制御装置。
【請求項7】
前記発進段の前記最大出力トルクは、車速が所定車速未満である場合に、前記発進段の形成中にアクセル開度が最大である際の前記原動機の出力トルクよりも小さいトルクとされ、車速が前記所定車速以上である場合に、前記出力トルクとされることを特徴とする請求項に記載の変速機の制御装置。
【請求項8】
車両に搭載された原動機から入力軸に伝達される動力を複数の係合要素の係脱により変速比を複数段に変速して出力軸に伝達可能であり、油圧制御装置から油圧が供給される第1および第2係合要素の係合により発進段を形成すると共に、前記第1係合要素およびワンウェイクラッチの係合により前記発進段よりも変速比の大きい低速段を形成する変速機の制御方法において、
(a)前記車両が発進する際に、前記油圧制御装置を制御して前記変速機が前記発進段を形成するように前記第1および第2係合要素を係合させるステップと、
(b)前記発進段から前記低速段への移行に応じて前記第2係合要素を解放させるステップとを含み、
ステップ(a)は、前記発進段の形成中、係合状態を維持する油圧を前記第1係合要素に供給し、かつ、係合状態を維持すると共に前記発進段から前記低速段へと移行させるトルクが前記入力軸に入力されるに伴って前記第2係合要素に滑りを生じさせる油圧を該第2係合要素に供給するように前記油圧制御装置を制御し、
ステップ(b)は、前記入力軸の回転数に基づいて前記低速段への変速の開始を検出した時点よりも後に、前記第2係合要素の解放制御を開始することを特徴とする変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1および第2係合要素の係合により発進段を形成し、第1係合要素およびワンウェイクラッチの係合により発進段よりも変速比の大きい低速段を形成する変速機の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の変速機の制御装置として、シフトレンジが非走行レンジから走行レンジに切り替えられた際に、第1クラッチC1と第2クラッチC2との係合により一時的に第1変速段よりも変速比の小さい高速段を形成した後、第2クラッチC2の解放およびワンウェイクラッチの係合により第1変速段を形成するスコート制御を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この変速機の制御装置は、駆動輪の空転を抑制するために変速機が高速段を形成した状態で車両を発進させる場合には、上記スコート制御により高速段が形成された後、第2クラッチC2を解放させることなくスコート制御を終了させる。これにより、変速機が高速段を形成した状態で車両を発進させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−286226号公報
【発明の概要】
【0004】
上述のように、変速機が高速段を形成した状態で車両を発進させた後に運転者から大きな駆動力が要求された場合には、変速機の変速段を高速段(発進段)から第1変速段(低速段)へと移行させる必要がある。この際、運転者の駆動力要求を良好に満たすためには、高速段から第1変速段への移行を迅速に実行する必要がある。しかしながら、変速段の変更に際しては、一般に車速やアクセル開度に基づいて変速段の変更を実行するか否かを判定した上で、判定結果に応じて各クラッチやブレーキの係合・解放制御を開始するため、車両発進後の運転者の駆動力要求に応じて変速段を高速段から第1変速段へと迅速に移行させることが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、第1および第2係合要素の係合により発進段を形成し、第1係合要素およびワンウェイクラッチの係合により発進段よりも変速比の大きい低速段を形成する変速機において、車両発進後の運転者の駆動力要求に応じて変速機の変速段を発進段から低速段へとより迅速に移行させることを主目的とする。
【0006】
本発明による変速機の制御装置および制御方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明による変速機の制御装置は、
車両に搭載された原動機から入力軸に伝達される動力を複数の係合要素の係脱により変速比を複数段に変速して出力軸に伝達可能であり、油圧制御装置から油圧が供給される第1および第2係合要素の係合により発進段を形成すると共に、前記第1係合要素およびワンウェイクラッチの係合により前記発進段よりも変速比の大きい低速段を形成する変速機の制御装置において、
前記車両が発進する際に、前記油圧制御装置を制御して前記変速機が前記発進段を形成するように前記第1および第2係合要素を係合させる発進制御手段を備え、
前記発進制御手段は、前記発進段の形成中、係合状態を維持する油圧を前記第1係合要素に供給し、かつ、係合状態を維持すると共に前記発進段から前記低速段へと移行させるトルクが前記入力軸に入力されるに伴って前記第2係合要素に滑りを生じさせる油圧を該第2係合要素に供給するように前記油圧制御装置を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明による変速機の制御装置は、車両が発進する際に、油圧制御装置を制御して変速機が発進段を形成するように第1および第2係合要素を係合させる発進制御手段を備える。発進制御手段は、発進段の形成中、係合状態を維持する油圧を第1係合要素に供給し、かつ、係合状態を維持すると共に発進段から低速段へと移行させるトルクが入力軸に入力されるに伴って第2係合要素に滑りを生じさせる油圧を当該第2係合要素に供給するように油圧制御装置を制御する。このように、発進段の形成中に、発進段から低速段へと移行させるトルクが入力軸に入力されるに伴って第2係合要素に滑りを生じさせることで、運転者の駆動力要求に応じて発進段から低速段へと移行させる変速条件が成立した際に、発進段から低速段への移行が自動的、すなわち、変速条件が成立したか否かを判断することなく開始され、ワンウェイクラッチが係合することで低速段が形成される。これにより、車両発進後の運転者の駆動力要求に応じて変速機の変速段を発進段から低速段へとより迅速に移行させることができる。
【0009】
また、本発明による変速機の制御装置は、前記入力軸の回転数に基づいて前記低速段への変速の開始を検出した時点よりも後に、前記第2係合要素の解放制御を開始する解放制御手段を更に備えてもよい。このように、入力軸の回転数に基づいて低速段への変速の開始(発進段での回転数からの回転変化)を検出した時点よりも後に、解放制御手段による第2係合要素の解放制御を開始させることで、発進段から低速段への移行が開始された後に第2係合要素が滑り続けるのを抑制すると共に、発進段から低速段への移行を迅速に完了させることができる。
【0010】
更に、前記解放制御手段は、前記入力軸の回転数が前記発進段での変速比と車速または前記出力軸の回転数とから定まる基準回転数より大きくなった後に、前記第2係合要素の解放制御を開始するものであってもよい。すなわち、入力軸の回転数が発進段での変速比と車速または出力軸の回転数とから定まる基準回転数より大きくなっていれば、第2係合要素に滑りが生じて発進段から低速段への移行が開始されたと判断することができる。従って、入力軸の回転数が上記基準回転数より大きくなった後に解放制御手段による第2係合要素の解放制御を開始させれば、発進段から低速段への移行が開始された後に第2係合要素が滑り続けるのを良好に抑制すると共に、発進段から低速段への移行をより迅速に完了させて運転者の駆動力要求を良好に満たすことが可能となる。
【0011】
また、前記解放制御手段は、前記入力軸の回転数が前記低速段での変速比と車速または前記出力軸の回転数とから定まる基準回転数に達した後に、前記第2係合要素の解放制御を開始するものであってもよい。すなわち、入力軸の回転数が低速段での変速比と車速または出力軸の回転数とから定まる基準回転数に達していれば、発進段から低速段への移行が実質的に完了していると判断することができる。従って、入力軸の回転数が上記基準回転数に達した後に解放制御手段による第2係合要素の解放制御を開始させれば、第2係合要素の解放およびワンウェイクラッチの係合に伴うショックの発生を良好に抑制しつつ、発進段から低速段への移行を完了させることが可能となる。
【0012】
更に、前記解放制御手段は、前記低速段での変速比と車速または前記出力軸の回転数とから定まる基準回転数から前記入力軸の回転数を減じた値が所定値以下になった後に、前記第2係合要素の解放制御を開始するものであってもよい。これにより、第2係合要素の解放およびワンウェイクラッチの係合に伴うショックの発生を抑制しつつ、発進段から低速段への移行を迅速に完了させることが可能となる。
【0013】
また、本発明による変速機の制御装置は、前記発進段の形成中に、前記第1係合要素の第1目標トルク容量および第2係合要素の第2目標トルク容量を設定する目標トルク容量設定手段を備えてもよく、前記目標トルク容量設定手段は、前記第2目標トルク容量の設定に際して、前記第1目標トルク容量の設定に際して用いる安全率よりも小さな安全率を用いてもよい。このように、第2目標トルク容量の設定に用いる安全率を第1目標トルク容量の設定に用いる安全率よりも小さくすることにより、発進段の形成中に、変速条件の成立に応じて第2係合要素に滑りが生じるように第2目標トルク容量を容易に設定することができる。
【0014】
更に、前記発進段の形成中、前記原動機から出力されるトルクが、前記発進段から前記低速段への移行を判定するためのダウンシフトライン上のアクセル開度と車速とに応じたトルクに基づく前記発進段の最大出力トルク以下であれば前記第2係合要素の係合が維持され、前記原動機から出力されるトルクが前記発進段の前記最大出力トルクを超えると前記第2係合要素に滑りが生じてもよい。これにより、運転者の駆動力要求に応じて、変速段を発進段から低速段へとより適正に移行させることが可能となる。
【0015】
また、前記発進段の前記最大出力トルクは、車速が所定車速未満である場合に、前記発進段の形成中にアクセル開度が最大である際の前記原動機の出力トルクよりも小さいトルクとされてもよく、車速が前記所定車速以上である場合に、前記出力トルクとされてもよい。
【0016】
本発明による変速機の制御方法は、
車両に搭載された原動機から入力軸に伝達される動力を複数の係合要素の係脱により変速比を複数段に変速して出力軸に伝達可能であり、油圧制御装置から油圧が供給される第1および第2係合要素の係合により発進段を形成すると共に、前記第1係合要素およびワンウェイクラッチの係合により前記発進段よりも変速比の大きい低速段を形成する変速機の制御方法において、
(a)前記車両が発進する際に、前記油圧制御装置を制御して前記変速機が前記発進段を形成するように前記第1および第2係合要素を係合させるステップを含み、
ステップ(a)は、前記発進段の形成中、係合状態を維持する油圧を前記第1係合要素に供給し、かつ、係合状態を維持すると共に前記発進段から前記低速段へと移行させるトルクが前記入力軸に入力されるに伴って前記第2係合要素に滑りを生じさせる油圧を該第2係合要素に供給するように前記油圧制御装置を制御することを特徴とする。
【0017】
本発明による変速機の制御方法によれば、車両発進後の運転者の駆動力要求に応じて変速機の変速段を発進段から低速段へとより迅速に移行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による制御装置により制御される自動変速機25を含む動力伝達装置20を搭載した自動車10の概略構成図である。
図2】動力伝達装置20を示す概略構成図である。
図3】自動変速機25の各変速段とクラッチおよびブレーキの作動状態との関係を示す作動表である。
図4】自動変速機25を構成する回転要素間における回転速度の関係を例示する速度線図である。
図5】油圧制御装置50を示す系統図である。
図6】変速マップの一例を示す説明図である。
図7】本発明による制御装置である変速ECU21により実行される発進制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図8】2速最大エンジントルクマップの一例を示す説明図である。
図9図7の発進制御ルーチンが実行される際に第4リニアソレノイドバルブへの油圧指令値Psl4*や入力回転数Nin等が変化する様子を例示するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明による制御装置により制御される自動変速機25を含む動力伝達装置20を搭載した自動車10の概略構成図である。同図に示す自動車10は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を出力する原動機としてのエンジン(内燃機関)12や、エンジン12を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)14、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)16、エンジン12に接続されると共にエンジン12からの動力を左右の駆動輪DWに伝達する動力伝達装置20等を含む。動力伝達装置20は、トランスミッションケース22や、流体伝動装置23、自動変速機25、油圧制御装置50、これらを制御する本発明による制御装置としての変速用電子制御ユニット(以下、「変速ECU」という)21等を有する。
【0021】
エンジンECU14は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。図1に示すように、エンジンECU14には、アクセルペダル91の踏み込み量(操作量)を検出するアクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや車速センサ97からの車速V、クランクシャフトの回転位置を検出する図示しないクランクシャフトポジションセンサといった各種センサ等からの信号、ブレーキECU16や変速ECU21からの信号等が入力され、エンジンECU14は、これらの信号に基づいて電子制御式のスロットルバルブ13や図示しない燃料噴射弁および点火プラグ等を制御する。また、エンジンECU14は、クランクシャフトポジションセンサにより検出されるクランクシャフトの回転位置に基づいてエンジン12の回転数(回転速度)Neを算出する。更に、エンジンECU14は、例えば回転数Neや図示しないエアフローメータにより検出されるエンジン12の吸入空気量あるいはスロットルバルブ13のスロットル開度THR、予め定められたマップあるいは計算式に基づいてエンジン12から出力されているトルクの推定値であるエンジントルクTeを算出する。
【0022】
ブレーキECU16も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。図1に示すように、ブレーキECU16には、ブレーキペダル93が踏み込まれたときにマスタシリンダ圧センサ94により検出されるマスタシリンダ圧や、車速センサ97からの車速V、図示しない各種センサ等からの信号、エンジンECU14や変速ECU21からの信号等が入力され、ブレーキECU16は、これらの信号に基づいて図示しないブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ)等を制御する。
【0023】
変速ECU21も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を備える。図1に示すように、変速ECU21には、アクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや、複数のシフトレンジの中から所望のシフトレンジを選択するためのシフトレバー95の操作位置を検出するシフトレンジセンサ96からのシフトレンジSR、複数の自動変速機25のシフトモード(制御モード)の中から所望のシフトモードを選択するためのシフトモードスイッチ100からの信号、車速センサ97からの車速V、自動変速機25の入力回転数(タービンランナ23tまたは自動変速機25の入力軸26の回転数)Ninを検出する入力回転数センサ98、自動変速機25の出力回転数(出力軸27の回転数)Noutを検出する出力回転数センサ99といった各種センサ等からの信号、エンジンECU14やブレーキECU16からの信号等が入力され、変速ECU21は、これらの信号に基づいて流体伝動装置23や自動変速機25、すなわち油圧制御装置50を制御する。
【0024】
なお、本実施形態において、シフトレバー95のシフトレンジSRとしては、駐車時に用いるパーキングレンジ、後進走行用のリバースレンジ、中立のニュートラルレンジ、前進走行用の通常のドライブレンジが用意されている。また、シフトモードスイッチ100により選択可能な自動変速機25のシフトモードとしては、燃費改善を重視して迅速にシフトアップを実行するためのノーマルモードや、ノーマルモードに比べてシフトアップを遅らせたり、シフトダウンを早めたりして出力軸27に対するトルク出力の応答性を向上させるスポーツモード、ノーマルモードに比べて乗員の快適性を優先した変速を実行するためのコンフォートモードが用意されている。そして、変速ECU21は、シフトモードスイッチ100からの信号に基づいて、シフトモードフラグFsmを運転者により選択されたシフトモードに応じた値に設定し、設定した値を図示しないRAMに記憶させる。
【0025】
動力伝達装置20の流体伝動装置23は、トルク増幅作用を有するトルクコンバータとして構成されており、図2に示すように、エンジン12のクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23pや、自動変速機25の入力軸(入力部材)26に接続される出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油(ATF)の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c等を含むものである。オイルポンプ(機械式ポンプ)24は、ポンプボディとポンプカバーとからなるポンプアッセンブリや、ハブを介して流体伝動装置23のポンプインペラ23pに接続される外歯ギヤ等を含むギヤポンプとして構成されている。エンジン12からの動力により外歯ギヤを回転させれば、オイルポンプ24によりオイルパン(図示省略)に貯留されている作動油が吸引されて油圧制御装置50へと圧送される。
【0026】
自動変速機25は、6段変速式の変速機として構成されており、図2に示すように、シングルピニオン式遊星歯車機構30や、ラビニヨ式遊星歯車機構35、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための3つのクラッチC1,C2およびC3、2つのブレーキB1およびB2並びにワンウェイクラッチF1等を含む。シングルピニオン式遊星歯車機構30は、トランスミッションケース22に固定された外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置されると共に入力軸26に接続された内歯歯車であるリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを有する。
【0027】
ラビニヨ式遊星歯車機構35は、外歯歯車である2つのサンギヤ36a,36bと、自動変速機25の出力軸(出力部材)27に固定された内歯歯車であるリングギヤ37と、サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、互いに連結された複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在かつ公転自在に保持すると共にワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22に支持されたキャリア39とを有する。また、自動変速機25の出力軸27は、ギヤ機構28および差動機構29を介して駆動輪DWに接続される。
【0028】
クラッチC1は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、シングルピニオン式遊星歯車機構30のキャリア34とラビニヨ式遊星歯車機構35のサンギヤ36aとを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC2は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、入力軸26とラビニヨ式遊星歯車機構35のキャリア39とを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC3は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、シングルピニオン式遊星歯車機構30のキャリア34とラビニヨ式遊星歯車機構35のサンギヤ36bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
【0029】
ブレーキB1は、油圧サーボを含むバンドブレーキあるいは多板摩擦式ブレーキとして構成されており、ラビニヨ式遊星歯車機構35のサンギヤ36bをトランスミッションケース22に固定すると共にサンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキである。ブレーキB2は、油圧サーボを含むバンドブレーキあるいは多板摩擦式ブレーキとして構成されており、ラビニヨ式遊星歯車機構35のキャリア39をトランスミッションケース22に固定すると共にキャリア39のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキである。また、ワンウェイクラッチF1は、例えばインナーレースやアウターレース、複数のスプラグ等を含み、インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した際にスプラグを介してトルクを伝達すると共に、インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した際に両者を相対回転させるものである。ただし、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式といったようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
【0030】
これらのクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2は、油圧制御装置50による作動油の給排を受けて動作する。図3に自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2の作動状態との関係を表した作動表を示し、図4に自動変速機25を構成する回転要素間における回転数の関係を例示する速度線図を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2を図3の作動表に示す状態とすることで第1速から第6速の前進段と後進段とを提供する。図3に示すように、自動変速機25の第1速(低速段)は、クラッチC1が係合した状態でワンウェイクラッチF1が係合することにより形成される。また、第2速(発進段)は、クラッチC1を係合させると共にブレーキB1を係合させることにより形成され、第3速および第4速は、クラッチC1を係合させると共にクラッチC2およびC3の何れかを係合させることにより形成される。更に、自動変速機25の第5速および第6速は、クラッチC2を係合させると共にクラッチC3およびブレーキB1の何れかを係合させることにより形成される。なお、ブレーキB1を除くクラッチC1〜C3およびブレーキB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチといった噛み合い係合要素とされてもよい。
【0031】
図5は、油圧制御装置50を示す系統図である。油圧制御装置50は、エンジン12からの動力により駆動されてオイルパンから作動油を吸引して吐出する上述のオイルポンプ24に接続されるものであり、流体伝動装置23や自動変速機25により要求される油圧を生成すると共に、各種軸受などの潤滑部分に作動油を供給する。油圧制御装置50は、図示しないバルブボディや、オイルポンプ24からの作動油を調圧してライン圧PLを生成するプライマリレギュレータバルブ51、シフトレバー95の操作位置に応じてプライマリレギュレータバルブ51からのライン圧PLの供給先を切り替えるマニュアルバルブ52、アプライコントロールバルブ53、それぞれマニュアルバルブ52等(プライマリレギュレータバルブ51)から供給される元圧としてのライン圧PLを調圧して対応するクラッチ等への油圧を生成する調圧バルブとしての第1リニアソレノイドバルブSL1、第2リニアソレノイドバルブSL2、第3リニアソレノイドバルブSL3および第4リニアソレノイドバルブSL4等を含む。
【0032】
プライマリレギュレータバルブ51は、変速ECU21により制御されてオイルポンプ24側(例えばライン圧PLを調圧して一定の油圧を出力するモジュレータバルブ)からの作動油をアクセル開度Accあるいはスロットルバルブ13のスロットル開度THRに応じて調圧するリニアソレノイドバルブSLTからの油圧により駆動される。マニュアルバルブ52は、シフトレバー95と連動して軸方向に摺動可能なスプールや、ライン圧PLが供給される入力ポート、第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の入力ポートと油路を介して連通するドライブレンジ出力ポート、リバースレンジ出力ポート等を有する(何れも図示省略)。運転者によりドライブレンジが選択されている際には、マニュアルバルブ52のドライブレンジ出力ポートを介して、プライマリレギュレータバルブ51からのライン圧(ドライブレンジ圧)PLが第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4に元圧として供給される。また、運転者によりリバースレンジが選択された際には、マニュアルバルブ52のスプールにより入力ポートがリバースレンジ出力ポートのみと連通され、パーキングレンジやニュートラルレンジの選択時には、マニュアルバルブ52の入力ポートとドライブレンジ出力ポートおよびリバースレンジ出力ポートとの連通が遮断される。
【0033】
アプライコントロールバルブ53は、第3リニアソレノイドバルブSL3からの油圧をクラッチC3に供給する第1状態と、プライマリレギュレータバルブ51からのライン圧PLをクラッチC3に供給すると共にマニュアルバルブ52のリバースレンジ出力ポートからのライン圧PL(リバースレンジ圧)をブレーキB2に供給する第2状態と、マニュアルバルブ52のリバースレンジ出力ポートからのライン圧PL(リバースレンジ圧)をクラッチC3とブレーキB2とに供給する第3状態と、第3リニアソレノイドバルブSL3からの油圧をブレーキB2に供給する第4状態とを選択的に形成可能なスプールバルブである。
【0034】
第1リニアソレノイドバルブSL1は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してクラッチC1への油圧Psl1を生成可能な常閉型リニアソレノイドバルブである。第2リニアソレノイドバルブSL2は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してクラッチC2への油圧Psl2を生成可能な常閉型リニアソレノイドバルブである。第3リニアソレノイドバルブSL3は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してクラッチC3あるいはブレーキB2への油圧Psl3を生成可能な常閉型リニアソレノイドバルブである。第4リニアソレノイドバルブSL4は、印加される電流に応じてマニュアルバルブ52からのライン圧PLを調圧してブレーキB1への油圧Psl4を生成可能な常閉型リニアソレノイドバルブである。すなわち、自動変速機25の摩擦係合要素であるクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB2への油圧は、それぞれに対応する第1、第2、第3または第4リニアソレノイドバルブSL1,SL2,SL3またはSL4により直接制御(設定)される。
【0035】
上述の第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4(それぞれに印加される電流)は、変速ECU21により制御される。すなわち、変速ECU21は、変速段の変更すなわちアップシフトまたはダウンシフトに際して、予め定められた変速マップからアクセル開度Acc(またはエンジン12のスロットルバルブ13のスロットル開度THR)および車速Vに対応した目標変速段を取得し、取得した目標変速段が形成されるように第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4を制御する。図6に変速マップの一例を示す。同図に示す変速マップ中の各実線は、ダウンシフトを実行すべきアクセル開度Accおよび車速Vからなる動作点により規定され、各破線は、アップシフトを実行すべきアクセル開度Accおよび車速Vからなる動作点により規定される。
【0036】
また、本実施形態において、変速マップは、例えばエンジン12の回転数Neの上昇を抑制して燃費向上を図ることを目的として、自動車10の発進に際して、基本的に目標変速段が第2速に設定されるように作成されている。従って、変速ECU21は、運転者によりシフトレバー95が操作されてシフトレンジSRがパーキングレンジ等から前進走行用のドライブレンジへと変更された際や、自動車10が減速して停車してから再発進するまでの間等にクラッチC1およびブレーキB1の係合により発進段である第2速が形成されるように第1および第4リニアソレノイドバルブSL1,SL4を制御する。そして、自動変速機25の第2速が形成された状態で自動車10が発進した後、アクセル開度Accおよび車速Vからなる動作点が図6において太い実線で示す2−1ダウンシフトラインの図中右側または下側あるいは当該2−1ダウンシフトライン上から、図中左側または上側へと移動した場合、発進段である第2速から低速段としての第1速へと移行させる変速条件が成立したとして、目標変速段が第2速から第1速に変更される。更に、アクセル開度Accおよび車速Vからなる動作点が図6において太い破線で示す2−3アップシフトラインの図中左側または上側あるいは当該2−3アップシフトライン上から、図中右側または下側へと移動した場合、発進段としての第2速から高速段である第3速へと移行させる変速条件が成立したとして、目標変速段が第2速から第3速に変更される。
【0037】
変速ECU21は、上述の変速マップから取得された目標変速段が形成されるように、変速段の変更に伴って係合させられるクラッチまたはブレーキ(係合側要素)に対応した第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の何れか1つへの油圧指令値Psl1*〜Psl4*を設定する。また、変速ECU21は、変速段の変更すなわちアップシフトまたはダウンシフトに際して、当該変速段の変更に伴って解放されるクラッチまたはブレーキに対応した第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の何れか1つへの油圧指令値Psl1*〜Psl4*を設定する。更に、変速ECU21は、変速段の変更中や変速完了後に、係合しているクラッチやブレーキ(係合側要素)に対応した第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4の何れか1つまたは2つへの油圧指令値Psl1*〜Psl4*を設定する。そして、変速ECU21は、設定した油圧指令値Psl1*〜Psl4*に基づいて、第1〜第4リニアソレノイドバルブSL1〜SL4への電流を設定する図示しない駆動回路を制御する。
【0038】
次に、図7から図9を参照しながら、自動車10の発進時における自動変速機25の制御手順について説明する。
【0039】
図7は、パーキングレンジ等からドライブレンジへの変更等に応じて自動車10を発進させるべくクラッチC1およびブレーキB1の係合により自動変速機25の第2速が形成された際に、変速ECU21により実行開始される発進制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。発進制御ルーチンの開始に際して、変速ECU21は、まず、車速センサ97からの車速VやエンジンECU14により算出されたエンジントルクTeを入力する(ステップS100)。次いで、変速ECU21は、自動変速機25の第2速が形成される(保持される)ように、車速VやエンジントルクTeに基づいてクラッチC1およびブレーキB1を係合させる係合制御を実行する(ステップS110)。
【0040】
クラッチC1の係合制御は、クラッチC1の目標トルク容量(第1目標トルク容量)Tc1を設定すると共に、クラッチC1が目標トルク容量Tc1をもって係合するように第1リニアソレノイドバルブSL1を制御するものである。ステップS110において、変速ECU21は、ステップS100にて入力したエンジントルクTeとクラッチC1のトルク分担比と安全率(例えば、値1.2〜1.4)との積値を目標トルク容量Tc1として設定する。トルク分担比は、ある変速段の形成に際して係合されるクラッチやブレーキによりエンジン12から自動変速機25の出力軸27に伝達されるトルクのエンジントルクTe(自動変速機25の入力トルク)に対する割合を示すものである。本実施形態では、自動変速機25の変速段ごとに当該変速段の形成に際して係合されるクラッチやブレーキのトルク分担比を規定した図示しないトルク分担比マップが予め作成されており、当該トルク分担比マップから第2速を形成するクラッチC1のトルク分担比が取得される。そして、変速ECU21は、目標トルク容量Tc1に応じた第1リニアソレノイドバルブSL1への油圧指令値Psl1*を設定すると共に、設定した油圧指令値Psl1*に基づいて上述の図示しない駆動回路を制御し、それにより目標トルク容量Tc1をもつようにクラッチC1を係合させる(係合を維持する)。
【0041】
また、ブレーキB1の係合制御は、ブレーキB1の目標トルク容量(第2目標トルク容量)Tb1を設定すると共に、ブレーキB1が目標トルク容量Tb1をもって係合するように第4リニアソレノイドバルブSL4を制御するものである。ステップS110において、変速ECU21は、図8に示す2速最大エンジントルクマップからステップS100にて入力した車速Vすなわち現在の車速Vに対応した2速最大トルクTemax2を取得し、取得した2速最大トルクTemax2とブレーキB1のトルク分担比と安全率との積値を目標トルク容量Tb1として設定する。
【0042】
図8に示す2速最大エンジントルクマップは、図6の変速マップにおける2−1ダウンシフトライン上の動作点(車速Vおよびアクセル開度Acc)でエンジン12により出力されるトルクに基づいて、第2速の形成時における車速Vと、第2速の形成時にエンジン12により出力されるトルクの最大値である2速最大トルクTemax2(発進段の最大出力トルク)との関係を規定するように予め作成される。本実施形態において、2速最大トルクTemax2は、図示するように、車速Vが所定車速Vref未満である場合、第2速の形成中にアクセル開度Accが最大(100%)である際のエンジン12の出力トルクよりも小さいトルクとされ、車速Vが所定車速Vref以上である場合、第2速の形成中にアクセル開度Accが最大(100%)である際のエンジン12の出力トルクとされる。ただし、2速最大エンジントルクマップは、出力回転数Noutと2速最大トルクTemax2との関係を規定するように予め作成されてもよく、この場合、ステップS100では、車速Vの代わりに出力回転数センサ99からの出力回転数Noutを入力すればよい。また、ブレーキB1のトルク分担比は、上述の図示しないトルク分担比マップから取得される。更に、目標トルク容量Tb1の設定に際して用いられる安全率は、目標トルク容量Tc1の設定に際して用いられるものよりも小さく(例えば、値1.0〜1.1に)定められ、本実施形態では、値1.0とされる。そして、変速ECU21は、目標トルク容量Tb1に応じた第4リニアソレノイドバルブSL1への油圧指令値Psl4*を設定すると共に、設定した油圧指令値Psl4*に基づいて上述の図示しない駆動回路を制御し、それにより目標トルク容量Tb1をもつようにブレーキB1を係合させる(係合を維持する)。なお、クラッチC1の目標トルク容量Tc1は、安全率として十分に大きな値を用いれば、2速最大トルクTemax2とクラッチC1のトルク分担比と当該安全率との積値として設定されてもよい。
【0043】
上述のようなステップS110における係合制御によりクラッチC1およびブレーキB1が係合され(両者の係合が保持され)、自動変速機25の第2速が形成された状態で自動車10を走行(発進)させることができる。また、クラッチC1の目標トルク容量Tc1を上述のように設定することで、クラッチC1を良好に係合状態に維持することができる。更に、ブレーキB1の目標トルク容量Tb1は、上述のように、現在の車速Vに対応した2速最大トルクTemax2とブレーキB1のトルク分担比と安全率(値1.0)との積値に設定される。従って、自動車10の発進後にアクセル開度Accおよび車速Vからなる動作点が図6の変速マップに示す2−1ダウンシフトライン上、あるいは当該2−1ダウンシフトラインよりも図中右側または下側にあれば、ブレーキB1を係合させて(係合状態に維持して)自動変速機25の変速段を第2速に維持することができる。
【0044】
これに対して、自動車10の発進後に運転者がアクセルペダル91を踏み込んで、より大きな駆動力を要求したことでアクセル開度Accおよび車速Vからなる動作点が図6の変速マップに示す2−1ダウンシフトラインの図中左側または上側へと移動すると、第2速から第1速へと移行させる変速条件が成立すると共に、エンジン12の出力トルクが上述の2速最大トルクTemax2よりも大きくなる(第2速から第1速へと移行させるトルクが入力軸26に入力される)。これにより、自動変速機25では、第2速から第1速へと移行させる変速条件が成立すると、エンジン12の出力トルクの増加、すなわち入力軸26へ入力されるトルクの増加に対してブレーキB1のトルク容量が不足し、当該ブレーキB1に滑りが生じる。また、この際、クラッチC1は、上述のように目標トルク容量Tc1が設定されることで係合状態に維持され、ブレーキB1の滑りが生じることでワンウェイクラッチF1が係合することになる。従って、自動変速機25では、第2速から第1速へと移行させる変速条件の成立に応じて変速段を自動的に第2速から第1速へと移行させることができる。この結果、自動変速機25では、変速マップ等を用いて変速段を第2速から第1速へと移行させるべきか否かを判定すると共に判定結果に応じてブレーキB1の解放制御を開始させる場合に比べて、自動車10の発進後の運転者の駆動力要求に応じて変速段を発進段である第2速から低速段としての第1速へとより迅速に移行させることができる。
【0045】
ステップS110の処理の後、変速ECU21は、アクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや、車速センサ97からの車速Vを入力すると共に(ステップS120)、入力したアクセル開度Accと車速Vと図6の変速マップとに基づいて自動変速機25の目標変速段が第3速に設定されていないか否か、すなわち、第2速から第3速へのアップシフト要求がなされていないか否かを判定する(ステップS130)。ステップS120にて第2速から第3速へのアップシフト要求がなされていると判定した場合、変速ECU21は、本ルーチンを終了させた上で、自動変速機25の変速段を第2速から第3速へと移行させる変速制御を実行する。
【0046】
一方、ステップS120にて第2速から第3速へのアップシフト要求がなされていないと判定した場合、変速ECU21は、入力回転数センサ98からの入力回転数NinやRAMに記憶されたシフトモードフラグFsmの値を入力する(ステップS140)。更に、変速ECU21は、ステップS120にて入力した車速Vと、自動変速機25の第1速および第2速におけるギヤ比γ1,γ2と、ギヤ機構28および差動機構29における最終減速比γfやタイヤの外径等に基づく換算係数Kとから第1基準回転数Nin1および第2基準回転数Nin2を算出する(ステップS150)。第1基準回転数Nin1は、自動変速機25の第1速が形成された状態かつ現在の車速Vで自動車10が走行する際の入力軸26の回転数を示し、Nin1=K・V・γ1として算出される。また、第2基準回転数Nin2は、自動変速機25の第2速が形成された状態かつ現在の車速Vで自動車10が走行する際の入力軸26の回転数を示し、Nin2=K・V・γ2として算出される。なお、ステップ150では、車速Vの代わりに自動変速機25の出力回転数Noutを用いて第1および第2基準回転数Nin1,Nin2を算出してもよい。
【0047】
続いて、変速ECU21は、ステップS140にて入力したシフトモードフラグFsmの値に基づいて、運転者によりスポーツモード,ノーマルモードおよびコンフォートモードのうち何れがシフトモードとして選択されているかを判定する(ステップS160)。ステップS160にて運転者によりスポーツモードが選択されていると判定した場合、変速ECU21は、ステップS140にて入力した自動変速機25の入力回転数NinがステップS150にて算出した第2基準回転数Nin2より大きくなっているか否かを判定する(ステップS170)。ステップS170にて入力回転数Ninが第2基準回転数Nin2以下であると判定した場合、変速ECU21は、上述のステップS100以降の処理を再度実行する。これに対して、ステップS170にて入力回転数Ninが第2基準回転数Nin2より大きくなっていると判定した場合、変速ECU21は、ステップS110と同様のクラッチC1の係合制御を実行すると共に、ブレーキB1が解放されるように第4リニアソレノイドバルブSL4への油圧指令値Psl4*を設定するブレーキB1の解放制御を開始する(ステップS180)。変速ECU21は、ステップS190にてブレーキB1が完全に解放されたと判定されるまで、クラッチC1の係合制御およびブレーキB1の解放制御を実行する。そして、変速ECU21は、ステップS190にてブレーキB1が完全に解放されたと判定すると、本ルーチンを終了させ、ブレーキB1の目標トルク容量Tb1を上述のようにして設定しない通常の変速制御を開始する。
【0048】
また、ステップS160にて運転者によりコンフォートモードが選択されていると判定した場合、変速ECU21は、ステップS140にて入力した自動変速機25の入力回転数NinがステップS150にて算出した第1基準回転数Nin1以上であるか否かを判定する(ステップS200)。ステップS200にて入力回転数Ninが第1基準回転数Nin1未満であると判定した場合、変速ECU21は、上述のステップS100以降の処理を再度実行する。これに対して、ステップS200にて入力回転数Ninが第1基準回転数Nin1以上であると判定した場合、変速ECU21は、ステップS110と同様のクラッチC1の係合制御を実行すると共に、ブレーキB1の解放制御を開始する(ステップS180)。この場合も、変速ECU21は、ステップS190にてブレーキB1が完全に解放されたと判定されるまで、クラッチC1の係合制御およびブレーキB1の解放制御を実行する。そして、変速ECU21は、ステップS190にてブレーキB1が完全に解放されたと判定すると、本ルーチンを終了させ、ブレーキB1の目標トルク容量Tb1を上述のようにして設定しない通常の変速制御を開始する。
【0049】
更に、ステップS160にて運転者によりノーマルモードが選択されていると判定した場合、変速ECU21は、ステップS150にて算出した第1基準回転数Nin1からステップS140にて入力した自動変速機25の入力回転数Ninを減じた値が所定値α(例えば、50rpm程度の値)以下であるか否かを判定する(ステップS210)。ステップS210にて第1基準回転数Nin1から入力回転数Ninを減じた値が所定値αを上回っていると判定した場合、変速ECU21は、上述のステップS100以降の処理を再度実行する。これに対して、ステップS210にて第1基準回転数Nin1から入力回転数Ninを減じた値が所定値α以下であると判定した場合、変速ECU21は、ステップS110と同様のクラッチC1の係合制御を実行すると共に、ブレーキB1の解放制御を開始する(ステップS180)。この場合も、変速ECU21は、ステップS190にてブレーキB1が完全に解放されたと判定されるまで、クラッチC1の係合制御およびブレーキB1の解放制御を実行する。そして、変速ECU21は、ステップS190にてブレーキB1が完全に解放されたと判定すると、本ルーチンを終了させ、ブレーキB1の目標トルク容量Tb1を上述のようにして設定しない通常の変速制御を開始する。
【0050】
上述のような発進制御ルーチンが実行される結果、自動変速機25では、自動車10の発進後に運転者によりアクセルペダル91が踏み込まれて第2速から第1速へと移行させる変速条件が成立し、当該変速条件の成立に応じてブレーキB1に滑りが生じると、変速段の第2速から第1速への移行が開始され(図9における時刻t1)、ワンウェイクラッチが係合することで第2速から第1速への移行が完了して第1速が形成される。そして、第2速から第1速への移行に伴って自動変速機25の入力回転数Ninは、上述の第2基準回転数Nin2を上回り、上述の第1基準回転数Nin1へと近づいていく。
【0051】
ここで、ブレーキB1に滑りが生じた状態が必要以上に継続されてしまうと、第2速から第1速への移行完了に時間を要してしまうと共に、ブレーキB1を構成する摩擦材等が発熱してしまったり、引き摺り損失が大きくなってしまったりするおそれがある。従って、第2速から第1速へと移行させる変速条件の成立に応じてブレーキB1に滑りが生じた後には、ブレーキB1の解放制御を開始する必要があるが、ブレーキB1に滑りが生じた時点で一律にブレーキB1の解放制御を開始すると、運転者の駆動力要求を良好に満たすことができても、ブレーキB1の解放およびワンウェイクラッチF1の係合に伴う自動変速機25の出力トルクToutの変動に起因したショックが顕在化してしまうおそれがある。
【0052】
これを踏まえて、自動変速機25では、上述のようにシフトモードに応じてブレーキB1の解放制御の開始タイミングが変更される。すなわち、運転者によりシフトモードとしてスポーツモードが選択されている場合には、図7のステップS170にて入力回転数Ninが第2基準回転数Nin2より大きくなったと判定された時点(図9における時刻t10)で、ブレーキB1に滑りが生じて第2速から第1速への移行が開始されたとみなされ、図9において実線で示すように油圧指令値Psl4*を低下させるブレーキB1の解放制御が開始される。なお、図9に示すタイムチャートにおいては、時間経過に伴い車速Vが一定加速度で上昇しているものと仮定する。
【0053】
このように、スポーツモードが選択されている場合には、入力回転数Ninが第2基準回転数Nin2より大きくなったときにブレーキB1を解放すべきと判断して当該ブレーキB1の解放制御を開始させることで、発進段である第2速から低速段としての第1速への移行が開始された後にブレーキB1が滑り続けるのを良好に抑制すると共に、第2速から第1速への移行をより迅速に完了させ、出力軸27に対するトルク出力の応答性を向上させるスポーツモードのもとで運転者の駆動力要求を良好に満たすことが可能となる。そして、このようにスポーツモードが選択されている場合、ブレーキB1の解放およびワンウェイクラッチF1の係合に伴う自動変速機25の出力トルクToutの変動に起因したショックにより運転者が違和感を覚える可能性は低い。
【0054】
また、運転者によりシフトモードとしてコンフォートモードが選択されている場合には、図7のステップS200にて入力回転数Ninが第1基準回転数Nin1以上であると判定されたときに(図9における時刻t3)ブレーキB1を解放すべきと判断される。すなわち、入力回転数Ninが第1速での変速比γ1と車速Vとから定まる第1基準回転数Nin1以上になっていれば、第2速から第1速への移行が実質的に完了していると判断することができる。従って、コンフォートモードの選択中に入力回転数Ninが第1基準回転数Nin1以上になったときに図9において細かい破線で示すように油圧指令値Psl4*を低下させるブレーキB1の解放制御が開始させれば、ブレーキB1の解放およびワンウェイクラッチF1の係合に伴う自動変速機25の出力トルクToutの変動に起因したショックの発生を良好に抑制することができる。そして、このように入力回転数Ninが第1基準回転数Nin1以上になったときにブレーキB1の解放制御を開始しても、変速マップ等を用いて変速段を第2速から第1速へと移行させるべきか否かを判定すると共に判定結果に応じてブレーキB1の解放制御を開始させる場合に比べて、発進段である第2速から低速段としての第1速への移行を迅速に完了させることが可能となる。
【0055】
更に、運転者によりシフトモードとしてノーマルモードが選択されている場合には、図7のステップS210にて第1基準回転数Nin1から入力回転数Ninを減じた値が所定値α以下であると判定されたときに(図9における時刻t2)ブレーキB1を解放すべきと判断され、図9において粗い破線で示すように油圧指令値Psl4*を低下させるブレーキB1の解放制御が開始される。これにより、ノーマルモードが選択されている場合には、ブレーキB1の解放およびワンウェイクラッチF1の係合に伴うショックの発生を抑制しつつ、発進段である第2速から低速段としての第1速への移行を迅速に完了させることが可能となる。
【0056】
以上説明したように、自動変速機25の制御装置としての変速ECU21は、自動車10が発進する際に、自動変速機25が発進段である第2速を形成するようにクラッチC1(第1係合要素)およびブレーキB1(第2係合要素)を係合させると共に、自動変速機25の変速段を第2速から低速段としての第1速へと移行させる変速条件が成立した際にクラッチC1を係合状態に維持する(ステップS180)。そして、変速ECU21は、第2速の形成中に、第2速から第1速へと移行させる変速条件の成立に応じて滑りが生じるようにブレーキB1を係合させる(ステップS100,S110)。すなわち、変速ECU21は、第2速の形成中、目標トルク容量Tc1(エンジントルクTeとクラッチC1のトルク分担比と安全率との積値)に応じた係合状態を維持する油圧をクラッチC1に供給するように油圧制御装置50を制御する。また、変速ECU21は、第2速の形成中、目標トルク容量Tb1(現在の車速Vに対応した2速最大トルクTemax2とブレーキB1のトルク分担比と安全率(値1.0)との積値)に応じた係合状態を維持すると共に第2速から第1速へと移行させるトルク(現在の車速Vに対応した2速最大トルクTemax2よりも大きいトルク)が入力軸26に入力されるに伴ってブレーキB1に滑りを生じさせる油圧をブレーキB1に供給するように油圧制御装置50を制御する。このように、発進段である第2速の形成中に、第2速から第1速へと移行させるトルクが入力軸26に入力されるに伴ってブレーキB1に滑りを生じさせることで、運転者の駆動力要求に応じて第2速から第1速へと移行させる変速条件が成立した際に、第2速から第1速への移行が自動的、すなわち、変速条件が成立したか否かを判断することなく開始され、ワンウェイクラッチF1が係合することで第1速が形成される。これにより、自動車10の発進後の運転者の駆動力要求に応じて自動変速機25の変速段を第2速から第1速へとより迅速に移行させることができる。
【0057】
また、変速ECU21は、自動変速機25の入力回転数Ninに基づいてブレーキB1を解放すべきか否かを判定し(ステップS170,S200およびS210)、入力回転数Ninに基づいて第1速への変速の開始(第2速での回転数からの回転変化)を検出してブレーキB1を解放すべきと判定した後に、ブレーキB1の解放制御を開始する(ステップS180)。このように、入力回転数Ninに基づいて第1速への変速の開始が検出された時点よりも後にブレーキB1の解放制御を開始させることで、第2速から第1速への移行が開始された後にブレーキB1が滑り続けるのを抑制すると共に、第2速から第1速への移行を迅速に完了させることができる。
【0058】
更に、変速ECU21は、運転者によりシフトモードとしてスポーツモードが選択されている場合、入力回転数Ninが第2速での変速比γ2と車速V(または出力回転数Nout)とから定まる第2基準回転数Nin2より大きくなったときに、ブレーキB1を解放させるべきと判定する(ステップS170)。すなわち、入力回転数Ninが第2速での変速比γ2と車速Vとから定まる第2基準回転数Nin2より大きくなっていれば、ブレーキB1に滑りが生じて第2速から第1速への移行が開始されたと判断することができる。従って、入力回転数Ninが第2基準回転数Nin2より大きくなった後にブレーキB1の解放制御を開始させれば(ステップS180)、第2速から第1速への移行が開始された後にブレーキB1が滑り続けるのを良好に抑制すると共に、第2速から第1速への移行をより迅速に完了させてスポーツモードのもとで運転者の駆動力要求を良好に満たすことが可能となる。
【0059】
また、変速ECU21は、運転者によりシフトモードとしてコンフォートモードが選択されている場合、入力回転数Ninが第1速での変速比γ1と車速V(または出力回転数Nout)とから定まる第1基準回転数Nin1以上になったときに、ブレーキB1を解放させるべきと判定する(ステップS210)。すなわち、入力回転数Ninが第1速での変速比γ1と車速Vとから定まる第1基準回転数Nin1以上になっていれば(Nin1に達していれば)、ブレーキB1に滑りが生じて第2速から第1速への移行が実質的に完了していると判断することができる。従って、コンフォートモードの選択中に入力回転数Ninが第1基準回転数Nin1に達した後にブレーキB1の解放制御が開始させれば、ブレーキB1の解放およびワンウェイクラッチF1の係合に伴うショックの発生を良好に抑制しつつ、第2速から第1速への移行を完了させることが可能となる。
【0060】
更に、変速ECU21は、運転者によりシフトモードとしてノーマルモードが選択されている場合、上記第1基準回転数Nin1から入力回転数Ninを減じた値が所定値α以下になったときに、ブレーキB1を解放させるべきと判定し(ステップ200)、その後にブレーキB1の解放制御を開始する。これにより、ノーマルモードが選択されている場合には、ブレーキB1の解放およびワンウェイクラッチF1の係合に伴うショックの発生を抑制しつつ、第2速からの第1速への移行を迅速に完了させることが可能となる。
【0061】
また、変速ECU21は、発進制御ルーチンの実行中に、クラッチC1およびブレーキB1の目標トルク容量Tc1,Tb1を設定するときには、目標トルク容量Tb1の設定に際して、目標トルク容量Tc1の設定に際して用いる安全率よりも小さな安全率を用いる。このように、目標トルク容量Tb1の設定に用いる安全率を目標トルク容量Tc1の設定に用いる安全率よりも小さくすることにより、第2速の形成中に、変速条件の成立に応じてブレーキB1に滑りが生じるように目標トルク容量Tb1を容易に設定することができる。
【0062】
更に、上記実施形態では、発進段である第2速の形成中、エンジン12から出力されるトルクが、第2速から第1速への移行を判定するための2−1ダウンシフトライン上のアクセル開度Accと車速Vとに応じたトルクに基づく2速最大トルクTemax2(発進段の最大出力トルク)以下であればブレーキB1の係合が維持され、エンジン12から出力されるトルクが2速最大トルクTemax2を超えるとブレーキB1に滑りが生じることになる。これにより、運転者の駆動力要求に応じて、変速段を発進段である第2速から低速段である第1速へとより適正に移行させることが可能となる。
【0063】
また、2速最大トルクTemax2(発進段の最大出力トルク)は、車速Vが所定車速Vref未満である場合に、第2速の形成中にアクセル開度Accが最大(100%)である際のエンジン12の出力トルクよりも小さいトルクとされ、車速Vが所定車速Vref以上である場合に、第2速の形成中にアクセル開度Accが最大(100%)である際のエンジン12の出力トルクとされる。
【0064】
なお、上述の自動変速機25は、単一のクラッチC1(第1係合要素)とブレーキB2(第2係合要素)との係合により第2速(発進段)を形成すると共に、単一のクラッチC1(第1係合要素)とワンウェイクラッチF1との係合により第1速(低速段)を形成するものであるが、本発明の適用対象は、このような変速機に限られるものではない。すなわち、本発明は、複数のクラッチやブレーキ(第1係合要素)と第2係合要素との係合により発進段を形成すると共に、複数のクラッチ等(第1係合要素)とワンウェイクラッチとの係合により低速段を形成する変速機に適用されてもよい。
【0065】
また、上記実施形態における主要な要素と発明の概要の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が発明の概要の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、発明の概要の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施形態はあくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、変速機の製造産業等において利用可能である。
図1
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図9