(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに対向する一対の主面を有し、両主面を貫通する複数の空隙部を有する空隙配置構造体に被測定物を保持し、該被測定物が保持された前記空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の特性を検出することにより、前記被測定物の有無または量を測定する方法であって、
前記被測定物と前記空隙配置構造体とが互いに離れて配置され、前記被測定物と前記空隙配置構造体との間に別の部材が介在せず、
前記空隙配置構造体の前記被測定物側の主面と、前記被測定物との間の距離が、前記空隙配置構造体の最大散乱波長の2/15未満であることを特徴とする、被測定物の測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の測定方法は、被測定物または被測定物を固定するためのシート等を空隙配置構造体上に配置することを必要とする接触型の測定法であるため、測定後は空隙配置構造体が汚染され、次の測定を行うためには、空隙配置構造体を取り換えたり、洗浄したりする必要があるという問題があった。また、被測定物の種類によっては、接触型測定法であるために破壊型の測定法であり、例えば、被測定物が粘着層付きフィルムやセラミックグリーンシートといった製品や半製品である場合に、測定が行われた被測定物をそのまま使用することができないという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、被測定物と空隙配置構造体とを接触させずに、被測定物の特性を高精度で測定することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに対向する一対の主面を有し、両主面を貫通する複数の空隙部を有する空隙配置構造体に被測定物を保持し、該被測定物が保持された前記空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の特性を検出することにより、前記被測定物の有無または量を測定する方法であって、
前記被測定物と前記空隙配置構造体とが互いに離れて配置され、
前記空隙配置構造体の前記被測定物側の主面と、前記被測定物との間の距離が、前記空隙配置構造体の最大散乱波長の2/15未満であることを特徴とする、被測定物の測定方法。
【0008】
前記空隙配置構造体および前記被測定物は、平板状の形態を有することが好ましい。
前記空隙配置構造体と前記被測定物のそれぞれの対向する主面が平行となるように配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被測定物と空隙配置構造体とを接触させずに、被測定物の特性を高精度で測定することのできる方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、互いに対向する一対の主面を有し、両主面を貫通する複数の空隙部を有する空隙配置構造体に被測定物を保持し、該被測定物が保持された前記空隙配置構造体に電磁波を照射して、前記空隙配置構造体で散乱された電磁波の特性を検出することにより、前記被測定物の有無または量を測定する方法に関する。
【0012】
「被測定物の有無または量を測定する」とは、固体や液体などの検体中に含まれる被測定物となる化合物の定量を行うことであり、例えば、検体中の微量の被測定物の含有量を測定する場合や、被測定物の同定を行う場合などが挙げられる。なお、被測定物が平板状の形態を有する場合、測定対象となる被測定物の量として、被測定物の厚みを測定する場合等も含まれる。
【0013】
本発明の測定方法は、
前記被測定物と前記空隙配置構造体とが互いに離れて配置され、
前記空隙配置構造体の前記被測定物側の主面と、前記被測定物との間の距離(L)が、前記空隙配置構造体の最大散乱波長の2/15未満であることを特徴とする。この範囲においては、被測定物と空隙配置構造体とを接触させない場合でも、被測定物の特性を高精度で測定することが可能である。
【0014】
ここで、空隙配置構造体の「最大散乱波長」とは、空隙配置構造体に対して散乱した電磁波の周波数特性(透過率スペクトル、反射率スペクトルなど)において、散乱した電磁波の強度が最大となるときの電磁波の波長(最大透過波長、最大反射波長など)である。また、このときの電磁波の周波数(最大透過周波数、最大反射周波数など)を、空隙配置構造体の最大散乱周波数と呼ぶ。
【0015】
本発明では、空隙配置構造体および被測定物は、平板状の形態を有することが好ましい。そして、空隙配置構造体と被測定物のそれぞれの対向する主面が平行となるように配置されることが好ましい。これにより、被測定物全体について均一な条件で測定を行うことができる。この場合、上記L(空隙配置構造体の被測定物側の主面と、被測定物との間の距離)は、空隙配置構造体の被測定物側の主面と、被測定物の空隙配置構造体側の主面との間の距離である。
【0016】
(空隙配置構造体)
本発明で用いられる空隙配置構造体は、互いに対向する一対の主面を有し、両主面を貫通する複数の空隙部を有している。例えば、複数の該空隙部は、空隙配置構造体の主面上の少なくとも一方向に周期的に配置されている。ただし、空隙部は、その全てが周期的に配置されていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、一部の空隙部が周期的に配置され、他の空隙部が非周期的に配置されていてもよい。
【0017】
空隙配置構造体は、好ましくは準周期構造体や周期構造体である。準周期構造体とは、並進対称性は持たないが配列には秩序性が保たれている構造体のことである。準周期構造体としては、例えば、1次元準周期構造体としてフィボナッチ構造、2次元準周期構造体としてペンローズ構造が挙げられる。周期構造体とは、並進対称性に代表される様な空間対称性を持つ構造体のことであり、その対称の次元に応じて1次元周期構造体、2次元周期構造体、3次元周期構造体に分類される。1次元周期構造体は、例えば、ワイヤーグリッド構造、1次元回折格子などが挙げられる。2次元周期構造体は、例えば、メッシュフィルタ、2次元回折格子などが挙げられる。これらの周期構造体のうちでも、2次元周期構造体が好適に用いられる。
【0018】
2次元周期構造体としては、例えば、
図1に示すようなマトリックス状に一定の間隔で空隙部が配置された板状構造体(格子状構造体)が挙げられる。
図1(a)に示す空隙配置構造体1は、その主面10a側からみて正方形の空隙部11が、該正方形の各辺と平行な2つの配列方向(図中の縦方向と横方向)に等しい間隔で設けられた板状構造体である。なお、空隙配置構造体は、その両主面が平面上にある平板状の形態を有することが好ましい。ただし、空隙配置構造体の空隙部の開口形状は正方形に限らず、円形や多角形でもよい。また、空隙配置構造体の両主面における空隙部の開口形状やサイズが異なっていてもよく、例えば、空隙部の厚み方向の断面がテーパ形状であってもよい。
【0019】
空隙部の寸法は、測定方法や、空隙配置構造体の材質特性、使用する電磁波の周波数等に応じて適宜設計されるものであるが、空隙部が
図1(a)に示すように縦横に規則的に配置された空隙配置構造体1では、
図1(b)にsで示される空隙部の格子間隔が、測定に用いる電磁波の波長の10分の1以上、10倍以下であることが好ましい。これにより、散乱する電磁波の強度がより強くなり、信号をより検出しやすくなる。また、空隙部の孔サイズとしては、
図1(b)にdで示される空隙部の孔サイズが、測定に用いる電磁波の波長の10分の1以上、10倍以下であることが好ましい。このようにすることで、散乱がより生じやすくなる。
【0020】
また、空隙配置構造体の厚みは、特に制限されないが、測定に用いる電磁波の波長の数倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましい。このようにすることで、散乱する電磁波の強度がより強くなって信号を検出しやすくなる。
【0021】
空隙配置構造体の全体の寸法は、特に制限されず、照射される電磁波のビームスポットの面積等に応じて適宜決定される。
【0022】
空隙配置構造体は、少なくともその表面の一部が導体で形成されていることが好ましい。空隙配置構造体1の表面とは、
図1(a)に示す主面10a、側面10bおよび空隙部の内壁11aの表面である。なお、空隙配置構造体の全体が導体で形成されていてもよい。
【0023】
ここで、導体とは、電気を通す物体(物質)のことであり、金属だけでなく半導体も含まれる。具体的には、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム、シリコン、ゲルマニウム、コバルト、および、これらの金属を含む合金などが挙げられ、好ましくは金、銀、銅、ニッケル、クロムであり、さらに好ましくは金、ニッケルである。また、半導体としては、例えば、IV族半導体(Si、Geなど)や、II−VI族半導体(ZnSe、CdS、ZnOなど)、III−V族半導体(GaAs、InP、GaNなど)、IV族化合物半導体(SiC、SiGeなど)、I−III−VI族半導体(CuInSe
2など)などの化合物半導体、有機半導体が挙げられる。
【0024】
(測定方法)
本発明の測定方法の一例の概略について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明に用いられる測定装置の一例の全体構造を示す模式図である。この測定装置は、レーザ7(例えば、短光パルスレーザ)から照射されるレーザ光を半導体材料に照射することで発生する電磁波(例えば、20GHz〜120THzの周波数を有するテラヘルツ波)パルスを利用するものである。
【0025】
図2の構成において、レーザ7から出射したレーザ光を、ハーフミラー70で2つの経路に分岐する。一方は、電磁波発生側の光伝導素子77に照射され、もう一方は、複数のミラー71(同様の機能のものは付番を省略)を用いることで、時間遅延ステージ76を経て受信側の光伝導素子78に照射される。光伝導素子77、78としては、LT−GaAs(低温成長GaAs)にギャップ部をもつダイポールアンテナを形成した一般的なものを用いることができる。また、レーザ7としては、ファイバー型レーザやチタンサファイアなどの固体を用いたレーザなどを使用できる。さらに、電磁波の発生、検出には、半導体表面をアンテナなしで用いたり、ZnTe結晶の様な電気光学結晶を用いたりしてもよい。ここで、発生側となる光伝導素子77のギャップ部には、電源80により適切なバイアス電圧が印加されている。
【0026】
発生した電磁波は放物面ミラー72で平行ビームにされ、放物面ミラー73によって、空隙配置構造体1に照射される。なお、空隙配置構造体と被測定物を配置した状態で、被測定物側から電磁波を照射してもよく、空隙配置構造体側から電磁波を照射してもよい。
【0027】
空隙配置構造体1を透過した電磁波は、放物面ミラー74,75によって光伝導素子78で受信される。光伝導素子78で受信された電磁波信号は、アンプ84で増幅されたのちロックインアンプ82で時間波形として取得される。そして、算出手段を含むPC(パーソナルコンピュータ)83でフーリエ変換などの信号処理された後に、空隙配置構造体1の透過率スペクトルなどが算出される。ロックインアンプ82で取得するために、発振器81の信号で発生側の光伝導素子77のギャップに印加する電源80からのバイアス電圧を変調(振幅5V〜30V)している。これにより同期検波を行うことでS/N比を向上させることができる。
【0028】
以上に説明した測定方法は、一般にテラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)と呼ばれる方法である。THz−TDSの他に、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)などを用いることもできる。
【0029】
図2では、散乱が透過である場合、すなわち電磁波の透過率を測定する場合を示している。本発明において「散乱」とは、前方散乱の一形態である透過や、後方散乱の一形態である反射などを含む広義の概念を意味し、好ましくは透過や反射である。さらに好ましくは、0次方向の透過や0次方向の反射である。
【0030】
なお、一般的に、回折格子の格子間隔をs、入射角をi、回折角をθ、波長をλとしたとき、回折格子によって回折されたスペクトルは、
s(sin i −sin θ)=nλ …(1)
と表すことができる。上記「0次方向」の0次とは、上記式(1)のnが0の場合を指す。sおよびλは0となり得ないため、n=0が成立するのは、sin i− sin θ=0の場合のみである。従って、上記「0次方向」とは、入射角と回折角が等しいとき、つまり電磁波の進行方向が変わらないような方向を意味する。
【0031】
本発明で用いられる電磁波は、空隙配置構造体の構造に応じて散乱を生じさせることのできる電磁波であれば特に限定されないが、テラヘルツ波であることが好ましく、その周波数は、好ましくは20GHz〜200THz、より好ましくは100GHz〜150THz、最も好ましくは1THz〜100THzである。
【0032】
電磁波としては、例えば、所定の偏波方向を有する直線偏光の電磁波(直線偏波)や無偏光の電磁波(無偏波)を用いることができる。直線偏光の電磁波としては、例えば、短光パルスレーザを光源としてZnTe等の電気光学結晶の光整流効果により発生するテラヘルツ波や、半導体レーザから出射される可視光や、光伝導アンテナから放射される電磁波等が挙げられる。無偏光の電磁波としては、高圧水銀ランプやセラミックランプから放射される赤外光等が挙げられる。
【0033】
上述のようにして求められる空隙配置構造体において散乱した電磁波の周波数特性に関する少なくとも1つのパラメータに基づいて、被測定物の特性が測定される。例えば、空隙配置構造体1において前方散乱(透過)した電磁波の周波数特性に生じたディップ波形や、後方散乱(反射)した電磁波の周波数特性に生じたピーク波形などが、被測定物の存在により変化することに基づいて被測定物の特性を測定することができる。
【0034】
ここで、ディップ波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の透過率)が相対的に大きくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、透過率スペクトル)に部分的に見られる谷型(下に凸)の部分の波形である。また、ピーク波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の反射率)が相対的に小さくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、反射率スペクトル)に部分的に見られる山型(上に凸)の波形である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
空隙配置構造体として、
図1に示すような空隙配置構造体を作製した。メッシュ部はNi薄膜に正方形孔の正方格子配列で構成され、格子間隔(ピッチ)は260μm、孔の一辺(孔サイズ)は156μm、厚さ30μmであった。
図6に、この空隙配置構造体のみの電磁波に対する透過率スペクトルを示す。
【0037】
次に、上記空隙配置構造体を用いて被測定物の検出を行った。被測定物は、厚み12.5μmの平行平板(複素屈折率の実部:1.85、複素屈折率の虚部:0)を用意した。なお、平行平板とは、互いに平行な2つの平面状の主面を有する板状体である。
【0038】
図3に示すように、空隙配置構造体1と被測定物3とが、スペーサー2を介して、それぞれの対向する主面が平行となるように配置した。このとき対向する主面間の距離(空隙配置構造体の被測定物側の主面と、被測定物との間の距離)をLと定義すると、Lを0〜60μmの範囲内で変化させた。なお、Lはスペーサー2の厚みによって調整した。
【0039】
それぞれの場合について、空隙配置構造体1と被測定物3を配置した状態で、被測定物3側から電磁波を照射し、透過率スペクトルを測定した。
図7に、透過率スペクトルの測定結果を示す(ただし、Lが50、60μmの場合の結果は省略している。)。
図7により、L=0の場合(従来例)以外でも、被測定物を検出できることが分かる。
【0040】
次に、
図6から、本実施例で用いた空隙配置構造体のみの最大散乱周波数(最大透過周波数)は約1THzであることが分かる(なお、本実施例の空隙配置構造体の最大散乱波長(最大透過波長)は、約300μmとなる。)。この空隙配置構造体のみの最大散乱周波数と、
図7に示されるLの間隔を空けて被測定物を配置した空隙配置構造体の最大散乱周波数(最大透過周波数)と差を求め、この差とLとの関係を
図8に示した。
図8より、L=40μmの点(
図6の最大透過波長300μmの2/15)を変曲点として、測定感度が変化していることが明らかとなった。
【0041】
このことから、Lは、空隙配置構造体のみの最大散乱波長に対して、2/15未満であることが好ましいと考えられる。この範囲においては、被測定物と空隙配置構造体とを接触させない場合でも、被測定物の特性を高精度で測定することが可能である。
【0042】
なお、本実施例では、共に平板状の空隙配置構造体1と被測定物3とを、それぞれの対向する主面が平行となるように配置したが(
図3)、本発明においては、これに限定されず、例えば、
図4に示すように、空隙配置構造体1と被測定物3とのそれぞれの対向する主面が角度をなすように(斜めに)配置されていてもよく、
図5に示すように、被測定物3が平板上ではなく、表面に凹凸を有するような形状であってもよい。
【0043】
また、本発明では、被測定物と空隙配置構造体とが互いに離れて配置されるが、上記実施例のように、スペーサー2の部分を除き、被測定物と空隙配置構造体との間には別の部材が介在しない(例えば、空気のみが介在している)ことが好ましい。
【0044】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。