(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記鋼管の表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さとの差が30HV10以下である、請求項1から請求項6までのいずれかに記載のラインパイプ用継目無鋼管。
前記鋼管表面から1mmの位置における硬さの最大値と最小値との差が40HV10以下である、請求項1から請求項7までのいずれかに記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【背景技術】
【0002】
近年、原油、天然ガス等の油井およびガス井(以下、油井およびガス井を総称して、単に「油井」という。)の採掘条件は過酷になってきている。油井の採掘環境は、採掘深度が増加するに伴って、その雰囲気にCO
2、H
2S、Cl
−等を含有するようになり、採掘される原油および天然ガスもH
2Sを多く含むようになる。そのため、これらを輸送するラインパイプの性能に対する要求も厳しくなってきており、耐硫化物性能を有するラインパイプ用鋼管の需要が増加している。
【0003】
アメリカ防食技術協会(NACE)の規格において、H
2S環境中で使用される鋼は、耐硫化物応力割れ性(以下、「耐SSC性」ともいう。)の観点から、鋼の最高硬さを規定しており、炭素鋼では250HV10以下となっている。また、さらに安全性を確保するため、溶接熱影響部での硬化を考慮して、鋼の最高硬さを230HV10以下にすることが求められる場合もある。そのため、耐硫化物性能が求められる鋼においては、硬さを抑制する技術の向上が重要な課題となっている。なお、「HV10」は、試験力を98.07N(10kgf)として、ビッカース硬さ試験を実施した場合の「硬さ記号」を意味する。
【0004】
高強度ラインパイプの継目無鋼管を製造する場合、制御圧延を行うUO鋼管の製造プロセスとは異なり、強度を確保するために、焼入れ処理を施し、その後焼戻し処理を行うのが一般的である。ラインパイプ用鋼のような低合金鋼では、通常の焼入れ焼戻し処理によってはマルテンサイトとはならず、ベイナイト主体の組織となるが、冷却速度依存性が大きいため、表面と肉中とで組織が異なる場合がある。そのため、冷却速度の遅い肉中に比べて、冷却速度の速い表面では硬さが高くなる傾向にある。その結果、鋼の強度に対して表面での最高硬さが高くなる。この傾向は、高強度かつ厚肉になるほど添加合金元素量が多くなるため、顕著となる。
【0005】
特許文献1には、肉厚が厚さ30mm以上であり、X65級以上(降伏強度448MPa以上)の高強度を有する継目無鋼管が開示されている。また、特許文献2には、X70級以上の強度を有し、耐水素誘起割れ性に優れた継目無鋼管が開示されている。
【0006】
上記の最高硬さが上昇する問題を解決するため、特許文献3では、表面硬化層のみ高周波電流による誘導加熱等の局部加熱により軟化させる方法が提案されている。また、特許文献4では、オーステナイト―フェライトの2相域からの焼入れ焼戻し処理を行う方法が提案されている。さらに、特許文献5では、制御冷却により冷却を途中で停止し、鋼管内表面側の高温部の熱により外表層部を復熱させた後、再度冷却させる方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的にラインパイプ用継目無鋼管は、焼入れ焼戻しプロセスを経て製造される。そのため、必然的に急冷される鋼管表層部の硬さは、鋼管中央部の硬さより高くなる。しかし、特許文献1および2では、表面硬度について考慮されておらず、鋼管表層部の硬度を安定的に250HV10以下にすることは困難であるという問題がある。
【0009】
特許文献3に開示される方法は、焼入れ時に用いる冷却設備に加えて、局部加熱後に用いる冷却設備が必要となる上、熱処理温度のコントロールも複雑である。また、特許文献4に開示される方法には、強度、靱性および耐食性のバランスの観点から必ずしも良い組織が得られないという問題がある。特許文献5に開示される方法には、生産性、熱処理温度のコントロールの難しさ、および強度、靱性等のバランスを確保するのが難しいといった問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決し、表面硬度を低く抑えた高強度かつ高靭性のラインパイプ用継目無鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高強度かつ高靭性であって、表面硬度を低く抑える方法について鋭意検討した結果、以下の知見を得るに至った。
【0012】
鋼管に対して焼入れ焼戻し処理を行い、種々の箇所において表面硬度の測定を行ったところ、値に大きなばらつきがあることが分かった。熱処理条件が一定であれば、鋼管の表面硬度は、化学成分および冷却速度によって決定される。鋼管表面について化学成分の分析を行った結果、成分の偏析は認められなかった。したがって、表面硬度のばらつきは局所的な冷却速度のばらつきに起因すると考えられる。
【0013】
そこで、鋼管表面の冷却速度のばらつきの要因についてさらに検討を行った。鋼管の表面性状について詳細に観察したところ、鋼管表面のスケールが剥離している箇所で硬さが高く、スケールが密着している箇所で硬さが低いことが分かった。すなわち、冷却速度のばらつきは、スケールが表面に密着しているか剥離しているかに依存しているのである。したがって、鋼管表面のスケールを均一に密着させることができれば、硬さのばらつきを抑え、最高硬さを抑制することが可能であると考えられる。
【0014】
発明者らは、スケールの密着性を向上させる方法について検討を行ったところ、鋼管母材に所定の量のNiまたはさらにCuを含有させることで、スケール中にNiまたはCuを主体とする金属粒子が微細に分散し、スケールの密着性を向上させることができることを見出した。
【0015】
スケール密着性と金属粒子の分散状態との関係についてさらに調査した。その結果、スケール密着性を向上させるためには、スケール中に単にNiまたはCuを主体とする金属粒子を分散させるだけでは十分でなく、スケールを十分成長させ、母材とスケールとの境界からスケール側に向かって広範囲に金属粒子が存在することが重要であることを知見した。
【0016】
一般的に、スケール厚が厚肉化すると、スケール密着性は低下する。しかし、NiまたはCuを主体とする金属粒子が分散したスケールは、厚肉であっても良好な密着性を示した。また、厚肉のスケールは、遮熱効果により、鋼管表面部の冷却速度を緩和するため、表面硬度の上昇を抑制することができる。
【0017】
表層部の冷却速度の低下に伴い、肉厚中央部の冷却速度はより低下するため、強度が上昇しにくい条件となる。しかし、鋼にNiまたはさらにCuを含有させることにより、焼入れ性が担保されるため、高い強度および靭性を維持することが可能となる。
【0018】
さらに、焼入れ硬さは、炭素量に依存するため、C含有量を低く抑えることで、硬さを低くすることが可能となる。また、表面硬度を抑制するためには、焼き戻し時に二次硬化を起こすMo、VおよびNbの含有量を適切に管理する必要がある。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記のラインパイプ用継目無鋼管およびその製造方法を要旨とする。
【0020】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.03〜0.10%、
Si:0.50%以下、
Mn:1.0〜2.0%、
P:0.050%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05〜1.0%、
Mo:0.01〜0.30%、
Al:0.001〜0.10%、
N:0.01%以下、
Ni:0.04〜2.0%、
Ca:0.0005〜0.0050%、および
Ti:0.001〜0.05%
を含有し、
Cu:0.01〜2.0%、
Nb:0.01〜0.05%、および
V:0.02〜0.10%、から選択される1種以上
を含有し、
残部:Feおよび不純物
からなり、
Cu+Ni:0.10%以上および
Mo+V:0.30%以下を満足するラインパイプ用継目無鋼管であって、
降伏強度が448MPa以上であり、
表面から1mmの位置における最高硬さが250HV10以下であり、
前記鋼管の金属組織が、面積率で、50%以上のベイナイトを含み、
該鋼管の表面に形成したスケール中に、平均円相当直径0.1〜5μmのNiまたはCuを主体とする金属粒子が存在し、該鋼管の母材と該スケールとの境界から該金属粒子が存在しなくなる領域までの距離が20μm以上である、ラインパイプ用継目無鋼管。
【0021】
(2)前記化学組成が、質量%で
、
Ti:0.003〜0.05%
、
を含有する、上記(1)に記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【0022】
(3)前記化学組成が、質量%で、
C:0.03〜0.10%、
Si:0.30%以下、
Mn:1.00〜1.80%、
P:0.020%以下、
S:0.003%以下、
Ti:0.001〜0.015%、
Al:0.001〜0.050%、
Ni:0.04〜0.30%、
Cu:0〜0.30%、
Cr:0.05〜0.40%、
Mo:0.02〜0.15%、
V:0.02〜0.09%、
Ca:0.0005〜0.0030%、
N:0.008%以下、
残部Feおよび不純物であり、
Cu+Ni:0.10〜0.50%および
Mo+V:0.05〜0.20%を満足する、上記(1)に記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【0023】
(4)表面から1mmの位置における最高硬さが230HV10以下である、上記(3)に記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【0024】
(5
)前記鋼管の肉厚が30mm以上である、上記(1)から(4)までのいずれかに記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【0025】
(6)前記境界からスケール側に10μm離れた位置において、単位面積当たりに観察される前記金属粒子の個数密度が、5×10
3個/mm
2以上である、上記(1)から(5)までのいずれかに記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【0026】
(7)前記鋼管の表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さとの差が30HV10以下である、上記(1)から(6)までのいずれかに記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【0027】
(8)前記鋼管表面から1mmの位置における硬さの最大値と最小値との差が40HV10以下である、上記(1)から(7)までのいずれかに記載のラインパイプ用継目無鋼管。
【0028】
(9)
上記(1)から(8)までのいずれかに記載のラインパイプ用継目無鋼管を製造する方法であって、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼管を、
熱間圧延終了後に炉内に搬送し、温度がAc
3+50℃以上かつ水蒸気濃度が5%以上の雰囲気で加熱した後に10℃/s以上の速度で加速冷却を行う焼入れ処理を施し、その後、Ac
1−50℃以下の温度で焼戻し処理を行う、ラインパイプ用継目無鋼管の製造方法。
【0029】
(10)前記熱間圧延終了後に前記鋼管の表面温度がAr
3変態点未満に低下する前に炉内に搬送する、上記(9)に記載のラインパイプ用継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、448MPa以上の降伏強度を有すると共に、鋼管表面の最高硬さを250HV10以下、好ましくは230HV10以下に抑制することができるため、耐SSC性に優れる高強度かつ高靭性の継目無鋼管を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る継目無鋼管は、H
2Sを多く含むような原油および天然ガスを輸送するためのラインパイプとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0033】
1.スケール
本発明に係るラインパイプ用継目無鋼管には、鋼管の表面に形成したスケール中に、平均円相当直径0.1〜5μmのNiまたはCuを主体とする金属粒子が存在する。
図1aは、本発明に係る鋼管の母材とスケールとの境界付近の反射電子像であり、
図1bおよび
図1cは、
図1aと同じ領域のEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)による元素マッピング像である。
図1bおよび
図1cは、それぞれNiおよびCuの分布を表している。ここで、本発明において「NiまたはCuを主体とする金属粒子」には、「NiおよびCuを主体とする金属粒子」も含まれるものとする。
【0034】
なお、上記反射電子像および元素マッピング像は、焼入れ後の鋼管におけるものであるが、その後、焼戻し処理を施したとしても、スケールの性状、金属粒子の分散状態にはほとんど変化が生じることはない。焼戻し処理後は放冷するためスケールが剥離することはなく、また、焼戻し温度は焼き入れ温度と比較して低温であるため、NiおよびCuの拡散速度が遅く、金属粒子の成長または移動が起こりにくいためである。
【0035】
図1に示されるように、母材とスケールとの境界付近には、NiまたはCuを主体とする金属粒子が分散していることが分かる。しかしながら、金属粒子はスケール全体に存在しているわけではなく、母材とスケールとの境界から離れたスケールの表面近傍には、金属粒子が存在しなくなる領域が存在する。
【0036】
スケール中に上記の金属粒子が存在していても、母材とスケールとの境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離が20μm未満であると、スケールの密着性が不十分である。したがって、スケールの密着性を向上させて、硬さのばらつきおよび最高硬さを抑制するためには、金属粒子がスケール中に広く分散していなければならず、鋼管の母材とスケールとの境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離が20μm以上である必要がある。
【0037】
ここで、「母材とスケールとの境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離」としては、反射電子像(200μm×200μm)を得た領域内において、境界の全長にわたって、境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離を計測し、その距離の最大値を用いることとする。
【0038】
また、スケール中の広範囲に金属粒子が分布していても、その数が少ないとスケール密着性を向上させる効果が不十分な場合がある。したがって、母材とスケールとの境界からスケール側に10μm離れた位置において、単位面積当たりに観察される平均円相当直径0.1〜5μmのNiまたはCuを主体とする金属粒子の個数密度が、5×10
3個/mm
2以上であるのが望ましい。また、NiまたはCuを主体とする金属粒子の個数密度が上昇する、すなわち、金属粒子サイズが微細化しすぎると、スケールの延性が低下するため、金属粒子の個数密度は、5×10
5個/mm
2以下であるのが望ましい。
【0039】
なお、上記の「母材とスケールとの境界からスケール側に10μm離れた位置」における金属粒子の個数密度としては、境界からスケール側に10μm離れた位置を中心として、境界に対して垂直な方向に20μm、水平な方向に60μmの領域を無作為に3箇所抽出し、当該領域における個数密度の計測結果の平均値を用いることとする。また、金属粒子の個数密度は、EPMAによるNiまたはCuの元素マッピング像に対して、黒白の二値化処理を施し、NiまたはCuが濃化した粒子数を数え上げ、3視野での粒子数を算術平均し、計測面積(1200μm
2)で除することにより算出する。
【0040】
2.化学組成
本発明に係るラインパイプ用継目無鋼管は、質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.50%以下、Mn:1.0〜2.0%、P:0.050%以下、S:0.005%以下、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.01〜0.30%、Al:0.001〜0.10%、N:0.01%以下、Ni:0.04〜2.0%、Ca:0.0005〜0.0050%、Cu:0〜2.0%、Ti:0〜0.05%、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.10%、残部:Feおよび不純物であり、Cu+Ni:0.10%以上およびMo+V:0.30%以下を満足する化学組成を有するものである。
【0041】
ここで「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0042】
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0043】
C:0.03〜0.10%
Cは、焼入れ性を高め、強度を上昇させるために必要な元素である。C含有量が0.03%未満では、必要とする強度を確保することができない。一方、その含有量が0.10%を超えると表面硬度が上昇し、耐SSC性を劣化させる。また、溶接した場合には溶接熱影響部の硬化と靭性劣化が起こる。したがって、C含有量は0.03〜0.10%とする必要がある。C含有量は0.04%以上であるのが好ましく、0.08%以下であるのが好ましい。
【0044】
Si:0.50%以下
Siは、脱酸作用があり、強度上昇に寄与する元素である。ただし、0.50%を超えて含有させるとセメンタイトの析出が抑制され、島状マルテンサイト(MA)が析出しやすくなる。したがって、Si含有量は0.50%以下とする。Si含有量は0.30%以下であるのが好ましい。なお、本発明の継目無鋼管では、Siは鋼の脱酸に支障をきたさない限り、いくら少なくても問題ないため、下限は特に規定しない。
【0045】
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、焼戻し軟化抵抗を増加させずに焼入れ性を高めるとともに、強度確保に有効な元素である。Mn含有量が1.0%未満では448MPa以上の高強度を確保できない。一方、2.0%を超えて含有させると、偏析が増すとともに焼入れ性が高くなりすぎ、母材、溶接熱影響部ともに靭性が劣化する。したがって、Mn含有量は1.0〜2.0%とする必要がある。Mn含有量は1.2%以上であるのが好ましく、1.8%以下であるのが好ましい。
【0046】
P:0.050%以下
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する元素である。しかし、その含有量が0.050%を超えると、粒界に偏析して靭性を劣化させるおそれがある。したがって、P含有量は0.050%以下とする。P含有量は0.020%以下であるのが好ましい。
【0047】
S:0.005%以下
Sは、不純物として鋼中に不可避的に存在する元素である。しかし、その含有量が0.005%を超えると、MnS等の硫化物系の非金属介在物を生成して、耐水素誘起割れ性を劣化させるおそれがある。したがって、S含有量は0.005%以下とする。S含有量は0.003%以下であるのが好ましい。
【0048】
Cr:0.05〜1.0%
Crは、焼入れ性と焼戻し軟化抵抗を高め、強度を上昇させる元素であるため、0.05%以上含有させる必要がある。しかし、1.0%を超えて含有させると靭性が劣化する。したがって、Cr含有量は0.05〜1.0%とする。Cr含有量は0.15%以上であるのが好ましく、0.60%以下であるのが好ましい。
【0049】
Mo:0.01〜0.30%
Moは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を大きく高め、強度を上昇させる元素であるため、0.01%以上含有させる必要がある。しかし、0.30%を超えて含有させると焼戻し軟化抵抗が過剰になり、焼戻し後の表面硬度が下がらなくなる。したがって、Mo含有量は0.01〜0.30%とする。Mo含有量は0.05%以上であるのが好ましく、0.25%以下であるのが好ましい。
【0050】
Al:0.001〜0.10%
Alは、脱酸作用を有する元素である。含有量が少ないと脱酸不足となり、鋼質劣化を招くため、0.001%以上含有させる必要がある。しかし、0.10%を超えて含有させると、Al
2O
3等のアルミナ系の非金属介在物を生成させるだけでなく、セメンタイトの析出が抑制され、MAが析出しやすくなる。したがって、Al含有量は0.001〜0.10%とする。Al含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以下であるのが好ましい。
【0051】
N:0.01%以下
Nは、不純物として鋼中に存在するが、その含有量が0.01%を超えると鋼質劣化を招く。したがって、N含有量は0.01%以下とする。
【0052】
Ni:0.04〜2.0%
Niは、焼入れ性および靭性を向上させる元素である。さらに、本発明ではNiを単体またはCuとともに含有させることにより、NiまたはCuを主体とする金属粒子が表面スケール中に微細に分散し、表面スケールの密着性を向上させるため、Niを0.04%以上含有させる必要がある。しかし、2.0%を超えて含有させると溶接熱影響部の耐SSC性が劣化する。したがって、Ni含有量は0.04〜2.0%とする。Ni含有量は0.10%以上であるのが好ましく、1.8%以下であるのが好ましい。なお、Niは連続鋳造時、および熱間圧延時におけるCuによる表面赤熱脆性の防止にも有効な元素である。この効果を得たい場合、Ni含有量は、Cu含有量の1/3以上とする必要がある。
【0053】
Ca:0.0005〜0.0050%
Caは、MnS、Al
2O
3等の非金属介在物の形態制御に用いられ、靭性および耐水素誘起割れ性を向上させる。そのため、Caを0.0005%以上含有させる必要がある。しかし、0.0050%を超えて含有させるとCa系介在物がクラスター化しやすくなる。したがって、Ca含有量は0.0005〜0.0050%とする。Ca含有量は0.0010%以上であるのが好ましく、0.0040%以下であるのが好ましい。
【0054】
Cu:0〜2.0%
Cuは、焼入れ性および靭性を向上させる元素である。さらに、本発明ではNiとともに含有させることにより、NiまたはCuを主体とする金属粒子が表面スケール中に微細に分散し、表面スケールの密着性を向上させるため、必要に応じて含有させても良い。しかし、2.0%を超えて含有させると溶接熱影響部の耐SSC性が劣化する。したがって、含有させる場合のCu含有量は2.0%以下とする。Cu含有量は1.5%以下であるのが好ましく、1.2%以下であるのがより好ましい。
【0055】
なお、スケールの密着性を向上させる効果は、Ni単体で含有させた場合であっても十分に得られるため、Cuを必ずしも積極的に含有させる必要はない。しかし、Niは高価な元素であるため、その一部をCuで代用することが望ましい。また、通常、鋼には不純物元素としてCuが含まれるため、Cu含有量を過度に減少させることは経済的に好ましくない。したがって、Cu含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがより好ましい。
【0056】
Ti:0〜0.05%
Tiは、鋼中のNを固定して鋳片の割れ防止に有効な元素であるため、必要に応じて含有させても良い。しかしながら、0.05%を超えて含有させるとTiの炭窒化物が粗大化し、靭性を劣化させる。したがって、含有させる場合のTi含有量は0.05%以下とする。Ti含有量は0.01%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合は、Ti含有量は0.003%以上であるのが好ましい。
【0057】
Nb:0〜0.05%
Nbは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を大きく高め、強度を上昇させる元素であるため、必要に応じて含有させても良い。しかしながら、0.05%を超えて含有させると焼戻し軟化抵抗が過剰になり、焼戻し後の表面硬度が下がらなくなる。したがって、含有させる場合のNb含有量は0.05%以下とする。Nb含有量は0.04%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合は、Nb含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがより好ましい。
【0058】
V:0〜0.10%
Vは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を大きく高め、強度を上昇させる元素であるため、必要に応じて含有させても良い。しかしながら、0.10%を超えて含有させると焼戻し軟化抵抗が過剰になり、焼戻し後の表面硬度が下がらなくなる。したがって、含有させる場合のV含有量は0.10%以下とする。V含有量は0.07%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を得たい場合は、V含有量は0.02%以上であるのが好ましい。
【0059】
Cu+Ni:0.10%以上
上述のように、CuおよびNiは、表面スケール中に金属粒子として分散することでスケールの密着性を向上させる効果を有し、本発明において重要な元素である。そのため、CuとNiとの合計含有量を0.10%以上とする必要がある。また、CuとNiとの合計含有量は、4.0%以下であれば良いが、CuとNiとの合計含有量が過剰になると耐SSCが劣化するおそれがあるとともに経済的でないため、3.0%以下とするのが好ましい。
【0060】
Mo+V:0.30%以下
上述のようにMoおよびVは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を大きく高め、強度を上昇させる元素である。しかしながら、MoおよびVは、焼戻し軟化抵抗を著しく増加させるため、過剰に含有させると焼戻し後も硬度が下がらない。したがって、MoとVとの合計含有量は0.30%以下に制限する必要がある。
【0061】
なお、鋼管表面の最高硬さをより安定的に230HV10以下に抑制するためには、鋼管の化学組成は、質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.30%以下、Mn:1.00〜1.80%、P:0.020%以下、S:0.003%以下、Ti:0.001〜0.015%、Al:0.001〜0.050%、Ni:0.04〜0.30%、Cu:0〜0.30%、Cr:0.05〜0.40%、Mo:0.02〜0.15%、V:0.02〜0.09%、Ca:0.0005〜0.0030%、N:0.008%以下、残部Feおよび不純物であり、Cu+Ni:0.10〜0.50%およびMo+V:0.05〜0.20%を満足することが好ましい。
【0062】
3.金属組織
本発明に係るラインパイプ用継目無鋼管は、低合金鋼であるため、通常の焼入れ焼戻し処理によってはマルテンサイトとはならず、ベイナイト主体の組織となる。前述のように、ベイナイト主体の組織は、硬度の冷却速度依存性が大きい。そのため、鋼管表面のスケールが剥離している箇所では、冷却速度が速くなるため硬さが高く、スケールが密着している箇所では、冷却速度が遅いため硬さが低くなる。
【0063】
本発明ではスケールを均一に密着させることが可能であるため、鋼管表面の最高硬さを抑制することが可能である。すなわち、本発明の効果は、ベイナイト主体の金属組織を有する鋼管に対して顕著に発揮される。したがって、本発明のラインパイプ用継目無鋼管は、面積率で、50%以上のベイナイトを含む金属組織を有することが好ましい。金属組織中のベイナイトは、面積率で、70%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明において、ベイナイトには島状マルテンサイトも含まれるものとする。
【0064】
4.鋼管の肉厚
鋼管の肉厚は、厚ければ厚いほど、表面と肉中とで冷却速度に差が生じ、結果的に、鋼の強度に対して表面での最高硬さが高くなる。しかしながら、本発明では厚いスケールを鋼管表面に均一に密着させることが可能である。そのため、厚いスケールによる遮熱効果により、鋼管表面の冷却速度を緩和させ、表面硬度の上昇を抑制することができる。すなわち、本発明の効果は、厚肉の鋼管に対して顕著に発揮される。したがって、本発明のラインパイプ用継目無鋼管は、肉厚が30mm以上であるのが好ましい。鋼管の肉厚は、40mm以上であることがより好ましく、45mm以上であることがさらに好ましい。
【0065】
5.表面硬さ
本発明に係るラインパイプ用継目無鋼管は、表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さとの差が30HV10以下であることが望ましく、また、表面から1mmの位置における硬さの最大値と最小値との差が40HV10以下であることが望ましい。
【0066】
鋼管の表面から1mmの位置および肉厚中央部における硬さの測定については、例えばAPI規格等で規定されている方法により行うことができる。鋼管断面から試験片を切り出し、鋼管の内外表面から1mmの位置および肉厚中央部の、それぞれ少なくとも5箇所についてビッカース硬さ試験を実施し、硬さの平均値および最大値と最小値との差を求める。
【0067】
上述のように、鋼管の強度を高めつつ耐SSC性を確保するためには、表面硬さを低く抑える必要がある。鋼管表面から1mmの位置および肉厚中央部の平均硬さの差が30HV10を超えると、高強度と耐SSC性との両立が困難になる場合がある。したがって、鋼管の表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さとの差が、30HV10以下であることが望ましい。
【0068】
また、鋼管の表層付近と肉厚中央部とで平均硬さの差が少なかったとしても、表層での硬さのばらつきが大きいと、局所的に耐SSC性に劣る部分が生じてそこを起点として割れが発生するおそれがある。したがって、表面から1mmの位置における硬さの最大値と最小値との差が40HV10以下であることが望ましい。
【0069】
6.製造方法
本発明に係るラインパイプ用継目無鋼管の製造方法については特に制限はないが、例えば以下の方法を用いることで、448MPa以上の降伏強度を有すると共に、鋼管表面の最高硬さを250HV10以下である継目無鋼管を製造することができる。
【0070】
<溶解および鋳造>
溶解および鋳造については一般的な継目無鋼管の製造方法で行われる方法を用いることができ、鋳造はインゴット鋳造でも連続鋳造でも良い。
【0071】
<熱間加工>
上記の鋳造後、鍛造、穿孔、圧延等の熱間加工を施し、継目無鋼管を製造する。熱間加工における条件については継目無鋼管の製造方法で行われる一般的な条件を採用すれば良く、例えば、連続鋳造で製造したビレットを1200℃以上に加熱して、傾斜ロール穿孔機を用いて中空素管を得る。この中空素管をマンドレルミルおよびサイザーを用いて鋼管に仕上げ圧延を行う。なお、鋼管を焼入れ炉へAr
3変態点未満に冷却することなく直送する場合には、製管仕上温度は950℃以上の温度とするのが望ましい。
【0072】
<焼入れ処理>
熱間加工後は放冷させた後、再加熱して焼入れ処理を施しても良いが、最高硬さを低減させるためには、放冷させずに鋼管の表面温度がAr
3変態点を下回る前に炉内に搬送して加熱し、焼入れ処理を施すことが望ましい。焼入れ時の加熱温度については特に制限は設けないが、Ac
3+50℃以上の温度とするのが望ましい。また、加熱時間についても特に制限は設けないが、均熱時間を5min以上とするのが望ましい。
【0073】
本発明において、NiまたはCuを主体とする金属粒子を広範囲に分散させ、密着性の高いスケールの成長速度を加速させるためには、炉内の雰囲気を酸化環境にするのが望ましく、具体的には水蒸気濃度を5%以上とするのが望ましい。安定的にスケールの成長速度を加速させるためには、水蒸気濃度を10%以上とするのがより望ましい。水蒸気濃度の上限については特に制限はないが、水蒸気濃度が過剰であると炉壁寿命が短くなるため、25%以下とするのが望ましい。
【0074】
焼入れ時の冷却速度については、10℃/s未満であると十分な強度が得られなくなるため、10℃/s以上の加速冷却を行うのが望ましい。また、冷却方法について、加速冷却を行う方法であれば特に制限はないが、水冷を行うのが望ましい。
【0075】
<焼戻し処理>
焼入れ処理後には、焼戻し処理を行うのが望ましい。焼戻し温度については特に制限は設けないが、Ac
1−50℃を超える温度で行うと、強度が著しく低下し、448MPa以上の降伏強度を確保することができない場合がある。そのため、Ac
1−50℃以下とするのが望ましい。
【0076】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0077】
表1に示す化学組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造でビレットを得た。このビレットをマンネスマン・マンドレルミル法により外径323.9mm、肉厚37.0mm、長さ12000mmの管に成形した。なお、上記の熱間加工は、全てビレットを1250℃まで加熱した後、開始温度が1200℃、仕上温度が1050℃となる条件で行った。
【0078】
【表1】
【0079】
熱間加工後の上記の管を、表2に示す温度で炉内へと搬送し、焼入れのための加熱を行った。その際の炉内の水蒸気濃度は表2に示すとおりである。950℃で15min保持した後、水冷により加速冷却を行い、焼入れ処理を施した。その後、表2に示す温度で30min保持する焼戻し処理を施した。
【0080】
【表2】
【0081】
得られた鋼管の母材とスケールとの境界付近について、反射電子像およびEPMAによる元素マッピング像を取得し、それらを基にNiまたはCuを主体とする金属粒子の分布を調査した。そして、母材とスケールとの境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離と、境界からスケール側に10μm離れた位置における単位面積当たりに観察される金属粒子の個数密度とを計測した。それらの結果を表2に併せて示す。
【0082】
また、上記の継目無鋼管からそれぞれ試験片を切り出し、金属組織の観察ならびに降伏強度および表面硬度の測定を行った。金属組織観察は、以下の手順により行った。まず、金属組織は、鋼管肉厚中央部において、ナイタル腐食液で現出させた。その後、鋼管肉厚中央部において500μm四方の光学顕微鏡組織写真を3枚撮影した。各組織写真上に25μmピッチで縦方向と横方向に直線を引き、フェライト組織上にある格子点の数を数え上げた。そして、全格子点数からフェライト組織上にある格子点数を引き、割合を100分率で求めたものを、各組織写真におけるベイナイトの面積率とした。平均のベイナイト面積率は、各組織写真から得られたベイナイト面積率を算術平均することにより求めた。
【0083】
降伏強度の測定は、以下の手順により行った。各鋼板の中央部から、JIS Z 2241(2011)で規定される14A号引張試験片(丸棒試験片:径8.5mm)を採取した。採取された試験片を用いて、JIS Z 2241(2011)に準拠した引張試験を、常温(25℃)の大気中で実施し、降伏強度(0.2%耐力)を求めた。
【0084】
さらに、上記試験片の断面について表面から1mm間隔で8箇所ずつ試験力を98.07N(10kgf)として、ビッカース硬さ試験を実施した。ベイナイトの面積率ならびに表面から1mmの位置における最高硬さ、硬さのばらつき、および、表面と肉厚中央部との硬さの差を表2に併せて示す。なお、表2における硬さのばらつきとは、硬さの最大値と最小値との差を示したものである。
【0085】
図2は、試験番号1および6における、硬さの測定結果を示した図である。図中のプロットは8箇所での測定値の平均値を示したもので、エラーバーは硬さの最大値と最小値との差を示している。なお、実施例1においては最高硬さが230HV10以下となるのを良好な結果として判断した。
【0086】
表2および
図2から分かるように、比較例である試験番号6では、スケール中にNiまたはCuを主体とする金属粒子が存在しなかったため、スケールの密着性が悪い結果となった。そして、スケールが剥離し冷却速度にばらつきが生じることに起因して、表面から1mmの位置における硬さのばらつきが40HV10を超える結果となった。また、表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さの差が比較的大きくなった。さらに、最高硬さが255HV10と高く、耐硫化物性に劣る結果となった。
【0087】
同様に試験番号5はNi含有量が規定範囲外であるため、スケール中に金属粒子が十分に存在せず、密着性が悪い結果となった。
【0088】
一方、本発明例である試験番号1では、平均円相当直径1.1μmのNiまたはCuを主体とする金属粒子が2.2×10
4個/mm
2存在し、かつ、母材/スケール境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離が31μmとなったため、スケールの密着性が良好であった。そのため、表面の冷却速度が均一であり、表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さの差が10Hv10と低く、かつ、表面から1mmの位置における硬さのばらつきが25Hv10と良好な結果となった。また、最高硬さも218Hv10と低く、耐硫化物性に優れることが分かる。
【0089】
同様に試験番号2〜4は、降伏強度が496MPa以上であり、優れた強度を有していた。また、NiまたはCuを主体とする金属粒子が、母材/スケール境界から20μm以上の距離まで存在し、かつ、個数密度も1.5×10
4個/mm
2以上存在していたため、スケールの密着性が良好であった。そのため、表面から1mmの位置における最高硬さが229HV10以下と低く、耐硫化物性に優れる結果となった。
【実施例2】
【0090】
表3に示す化学組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造で複数のビレットを得た。これらのビレットをマンネスマン・マンドレルミル法により肉厚が表4に示す値であり、長さが12000mmの管に成形した。なお、上記の熱間加工は、全てビレットを1250℃まで加熱した後、開始温度が1200℃、仕上温度が1050℃となる条件で行い、加工後は放冷によって冷却させた。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
熱間加工後の上記の管を放冷させた後、表4に示す温度で炉内へと搬送し、焼入れのための加熱を行った。その際の炉内の水蒸気濃度は表4に示すとおりである。950℃で15min保持した後、水冷により加速冷却を行い、焼入れ処理を施した。その後、表4に示す温度で30min保持する焼戻し処理を施した。
【0094】
得られた鋼管について、実施例1と同様に、母材とスケールとの境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離と、境界からスケール側に10μm離れた位置における単位面積当たりに観察される金属粒子の個数密度とを計測した。
【0095】
また、上記の継目無鋼管からそれぞれ試験片を切り出し、実施例1と同様の方法により、金属組織の観察ならびに降伏強度および表面硬度の測定を行った。さらに、上記試験片の断面について表面から1mm間隔で8箇所ずつ試験力を98.07N(10kgf)として、ビッカース硬さ試験を実施し、表面から1mmの位置における最高硬さを求めた。それらの結果を表4に併せて示す。なお、実施例2においては最高硬さが250HV10以下となるのを良好な結果として判断した。
【0096】
表4から分かるように、比較例である試験番号9および10では、スケール中にNiまたはCuを主体とする金属粒子が存在しなかったため、スケールの密着性が悪い結果となった。そして、スケールが剥離し冷却速度にばらつきが生じることに起因して、最高硬さが255HV10以上と高く、耐硫化物性に劣る結果となった。
【0097】
一方、本発明例である試験番号7および8は、降伏強度が510MPa以上であり、優れた強度を有していた。また、平均円相当直径1.1μm以上のNiまたはCuを主体とする金属粒子が、母材/スケール境界から20μm以上の距離まで存在し、かつ、個数密度も1.9×10
4個/mm
2以上存在していたため、スケールの密着性が良好であった。そのため、表面から1mmの位置における最高硬さが240HV10以下と低く、耐硫化物性に優れることが分かる。
【実施例3】
【0098】
次に、実験室内において、均熱炉の雰囲気を調整し実験を行った。表5に示す化学組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、鋼ごとに180kgのインゴットを製造した。製造されたインゴットを加熱炉に装入し、1250℃で1h均熱した。加熱炉から抽出されたインゴットを熱間鍛造して直方体状のブロックを製造した。ブロックを加熱炉に装入し、1250℃で30min均熱した。均熱されたブロックに対して、熱間圧延を実施し、肉厚30mmの鋼板を製造した。
【0099】
【表5】
【0100】
製造された鋼板を、表6に示す温度で炉内へと搬送し、焼入れのための加熱を行った。その際の炉内の水蒸気濃度は表6に示すとおりである。950℃で15min保持した後、水冷により加速冷却を行い、焼入れ処理を施した。その後、650℃で30min保持する焼戻し処理を施した。
【0101】
【表6】
【0102】
その後、実施例1および2と同様の方法により、母材とスケールとの境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離と、境界からスケール側に10μm離れた位置における単位面積当たりに観察される金属粒子の個数密度とを計測した。そして、金属組織の観察、降伏強度の測定ならびに表面および肉厚中央部における硬度の測定を行った。なお、実施例3においては最高硬さが230HV10以下となるのを良好な結果として判断した。
【0103】
その結果を表6に示す。試験番号12は、Ni含有量が本発明の規定から外れているため、均熱炉の雰囲気が適切であっても、NiまたはCuを主体とする微細な金属粒子は存在しなかった。そのため、スケールの密着性は低く、表面から1mmの位置における硬さのばらつきが44Hv10と大きくなった。また、表層の硬度上昇を抑制できず、表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さの差も54Hv10と大きくなった。さらに、最高硬さが253Hv10と高く、耐硫化物性が劣る結果となった。
【0104】
また、試験番号13は、成分は本発明の規定を満足するものの、均熱炉の雰囲気が適切でなかった。そのためほとんどの領域においてスケールが剥離していた。表面にわずかに付着していたスケールに対して解析したところ、NiまたはCuを主体とする金属粒子は、母材とスケールの境界から13μmの位置までしか存在しておらず本発明の規定を満足していなかった。その結果、スケールの密着性が低いため、表層の硬度上昇を抑制できず、表面から1mmの位置における平均硬さと肉厚中央部における平均硬さの差も43Hv10と大きくなった。さらに、最高硬さが254Hv10と高く、耐硫化物性が劣る結果となった。
【0105】
一方、試験番号11は、成分および均熱炉の雰囲気が適切であったため、NiまたはCuを主体とする微細な金属粒子が母材とスケールの境界から63μmにわたる領域に存在することが確認された。そのため、スケールの密着性が高く、表層の硬度上昇を抑制できた。
【実施例4】
【0106】
実施例3と同様に、実験室内において、均熱炉の雰囲気を調整し実験を行った。表7に示す化学組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、鋼ごとに180kgのインゴットを製造した。製造されたインゴットを加熱炉に装入し、1250℃で1h均熱した。加熱炉から抽出されたインゴットを熱間鍛造して直方体状のブロックを製造した。ブロックを加熱炉に装入し、1250℃で30min均熱した。均熱されたブロックに対して、熱間圧延を実施し、表8に示す厚さの鋼板を製造した。
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
製造された鋼板を放冷させた後、表8に示す温度で炉内へと搬送し、焼入れのための加熱を行った。その際の炉内の水蒸気濃度は表8に示すとおりである。表8に示す温度で15min保持した後、水冷により加速冷却を行い、焼入れ処理を施した。その後、表8に示す温度で30min保持する焼戻し処理を施した。
【0110】
その後、実施例1〜3と同様の方法により、母材とスケールとの境界から金属粒子が存在しなくなる領域までの距離と、境界からスケール側に10μm離れた位置における単位面積当たりに観察される金属粒子の個数密度とを計測した。そして、金属組織の観察ならびに降伏強度および表面硬度の測定を行った。なお、実施例4においては最高硬さが250HV10以下となるのを良好な結果として判断した。
【0111】
その結果を表8に示す。試験番号22〜24は、MoおよびVの合計含有量が本発明の規定から外れているため、最高硬さが253HV10と高く、耐硫化物性が劣る結果となった。特に、試験番号24はNi含有量も本発明の規定から外れているため、均熱炉の雰囲気が適切であっても、NiまたはCuを主体とする微細な金属粒子は存在しなかった。そのため、スケールの密着性が低いため、表層の硬度上昇を抑制することができなかった。
【0112】
また、試験番号25〜28は、成分は本発明の規定を満足するものの、均熱炉の雰囲気が適切でなかった。そのため、NiまたはCuを主体とする金属粒子は、母材とスケールの境界から15μm以下の位置までしか存在しておらず本発明の規定を満足していなかった。その結果、スケールの密着性が低く、表面の最高硬さが251HV10以上と高く、耐硫化物性が劣る結果となった。
【0113】
一方、試験番号14〜21は、成分および均熱炉の雰囲気が適切であったため、NiまたはCuを主体とする微細な金属粒子が母材とスケールの境界から20μm以上の領域まで存在することが確認された。そのため、スケールの密着性が高く、表層の硬度上昇を抑制できた。