特許第5983952号(P5983952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983952
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】化粧用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20160823BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20160823BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160823BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20160823BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160823BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   A61K8/64
   A61K8/97
   A61K37/18
   A61K37/02
   A61P17/16
   A61Q19/00
   A61K8/34
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-504306(P2013-504306)
(86)(22)【出願日】2011年4月14日
(65)【公表番号】特表2013-523869(P2013-523869A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】FR2011000219
(87)【国際公開番号】WO2011128530
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年4月3日
(31)【優先権主張番号】10/01604
(32)【優先日】2010年4月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】596121138
【氏名又は名称】アイエスピー インヴェストメンツ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ISP INVESTMENTS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ダルファッラ,クローデ
(72)【発明者】
【氏名】ドムロゲ,ノウハ
(72)【発明者】
【氏名】ボット,ジャン−マリー
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−025225(JP,A)
【文献】 特開2007−302615(JP,A)
【文献】 特開2009−120523(JP,A)
【文献】 特開2005−343887(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02033617(EP,A1)
【文献】 特開平11−315007(JP,A)
【文献】 関根茂他編,新化粧品ハンドブック,日光ケミカルズ株式会社,2006年10月30日,503〜510頁
【文献】 フレグランスジャーナル,2005年10月15日,Vol.33, No.10,p.95-100
【文献】 フレグランスジャーナル,2006年10月,Vol.34, No.10,p.19-23
【文献】 フレグランスジャーナル,2008年10月15日,Vol.36, No.10,p.114-115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エンドウ(Pisum sativum L.)のペプチド加水分解物、および(B)生理学的に許容可能な媒体を、含む化粧用組成物の製造方法であって、
前記(A)成分は、前記化粧用組成物の全重量の0.5%〜1%の重量であり、5kDa未満の分子量を有するペプチドを0.5〜5.5g/l含み、分子量が5kDaを超えるペプチドを含まず、
下記の工程:
a)鞘から出したエンドウを、ヘキサンを用いて脱脂することにより、粉砕エンドウを得、
b)前記粉砕エンドウおよび不溶性のポリビニルポリピロリドンを含む水溶液の可溶性部分を、pH値7〜8においてアスペルギルス属由来のプロテアーゼを用いて加水分解することにより、原料エンドウ抽出物を抽出し、
c)前記原料エンドウ抽出物の濾過後、乾燥重量70〜80g/kgm、タンパク質レベル55〜65g/l、糖レベル2〜5g/l及びポリフェノールレベル1〜3g/lのエンドウの加水分解物を含む濾液を得、
d)前記濾液を水−グリセロール混合物中で精製および希釈すること
を含む工程によって、前記(A)成分が皮膚保湿活性作用剤として得られ、
前記化粧用組成物は、角質層、表皮基底層及び真皮の水分子含有容量を向上させることによって、皮膚の保湿を維持又は修復することを目的とする、
化粧用組成物の製造方法
【請求項2】
前記(A)成分がアクアポリン発現を増大させることを特徴とする、請求項1に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項3】
前記(A)成分がアクアポリン−3の発現を増大させることを特徴とする、請求項2に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項4】
前記(A)成分がグリコサミノグリカン発現を増大させることを特徴とする、請求項1に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項5】
前記(A)成分がフィラグリン発現を増大させることを特徴とする、請求項1に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項6】
前記化粧用組成物が皮膚の乾燥を抑制することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項7】
前記化粧用組成物が皮膚への局所塗布に適応した形態であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項8】
(C)その他の活性作用剤
を少なくとも1つさらに含有し、
前記(C)成分は前記(A)成分が作用する方法を促進することを目的とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項9】
前記(C)成分が植物のペプチド加水分解物又は合成ペプチド化合物であることを特徴とする、請求項8に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項10】
前記化粧用組成物が皮膚の老化中に起こる水分不均衡を修復することを目的とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化粧用組成物の製造方法
【請求項11】
前記化粧用組成物が皮膚の病的乾燥予防又は治療することを目的とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化粧用組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品、及び医薬品の分野、より具体的には皮膚科学の分野である。本発明は、エンドウ(Pisum sativum L.)のペプチド加水分解物の保湿活性成分としての美容的使用に関する。本発明は、より具体的には、そのアクアポリン発現、グリコサミノグリカン発現及びフィラグリン発現を活性化する能力により、皮膚の構成要素の保湿を改善するためにエンドウ(Pisum sativum L.)のプチド加水分解物を美容的に使用することに関する。
【0002】
本発明は、皮膚の老化中に発生する水分バランスの崩れを修復することを目的とする美容処置方法にも関する。
【0003】
前記活性作用剤は、単独でも他の活性作用剤との組合せでも使用できる。
【0004】
本発明は、医薬品、具体的には皮膚の病的乾燥の予防又は処置を目的とする皮膚科学的組成物を創製するために本新規活性成分を使用することにも関する。
【背景技術】
【0005】
皮膚は、数層(真皮、増殖層及び角質層)で構成されるきわめて重要な器官であり、身体の全表面を覆い、本質的に外部環境に対するバリアとして機能する。皮膚の質及び高機能性は表皮及び真皮の各層の水分量に直接関係する。したがって、正常な表皮においては、増殖層は約70%の水分を含有するのに対し、角質層は10〜15%の水分しか含有しない。
【0006】
皮膚の保湿は、生理液の循環によって提供される水分補給、外的環境への水の損失、そして最後に皮膚の各部分の水分子含有容量という、3つの因子に依存する。
【0007】
水分補給は、ホルモン(アルドステロン、性ホルモン)、pH又は浸透圧変動によって調節される。細胞膜は本質的に疎水性であり、したがって透水性が低いが、水路、すなわち水及び特定の溶質の流れを促進する孔が存在する。
【0008】
アクアポリンは、水及び溶液中の小分子を輸送するための膜貫通蛋白質の一種である。3型アクアポリン、すなわちAQP3は、ヒト表皮中、より具体的には表皮の増殖層の角化細胞中に存在する(R.Sougrat et al., J.Invest.Dermatol.,2002)。AQP3は、水及びグリセロールを輸送することができ、後者は表面の水−脂質被膜の構成において重要な役割を果たし、角質層の柔軟性及び感覚的品質を維持する。保湿と角化細胞のAQP3含有量とは直接関係する。したがって、皮膚のAQP3を増大することで、表皮のより優れた保湿が可能になる(M.Dumas,J.Drugs Dermatol.,6 June 2007)。他方、アクアポリンは、リンク及び密着結合細胞伝達の確立を積極的に調節することによってバリア機能を果たす(J.Kawedia et al.,104(9),2007)。
【0009】
角質層(strata cornea)は、水分損失を制限するために不可欠なバリアを形成する。角質層の最下層では、角質細胞の形成中に、顆粒状の角化細胞中に存在する不溶性のプロフィラグリンがフィラグリンに変わり、その結果ケラチン繊維と接続してミクロフィブリルを形成することができるようになる。フィラグリンは角質層の水分量維持にも関与する。角質細胞成長中にフィラグリンに何が起こるかは、角質層の水勾配に依存する。正常な皮膚では、周囲湿度が低い場合、フィラグリンが加水分解されて「天然保湿因子」(NMF)の一部であるアミノ酸及びアミノ酸誘導体からなる吸湿性及び可溶性の物質を発生する。NMFは周囲から水分を集め、その水分を角質層内に保持することができるため、しなやかで柔らかい皮膚を維持し、角質細胞が最終段階の落屑へと進むために必要な酵素反応を可能にする。ただし、特定の条件(例えば、乾燥症、アトピー)において、又は皮膚が老化した場合にも、NMFの量が保湿機能を確実とする又は細胞膜の分解若しくは交差を可能にするには不十分となり、水分が徐々に失われて外的環境中に蒸発する。
【0010】
しかし、主な水分貯蔵部分は真皮に見出すことができ、当該部分は皮膚が若いときには最大で80%の水を含有する(この比率は年齢とともに低下する)。真皮の水分は血漿に由来し、グリコサミノグリカン(GAGs)及び構造糖タンパク質に直接関係する。グリコサミノグリカンの主な機能は、コラーゲンおよびエラスチン線維の確実に構造化することである。ヒアルロン酸は、皮膚に最も豊富に存在するグリコサミノグリカンである。また、真皮の主成分であり、表皮の角化細胞周辺にも存在する。GAGsは、最大でその重量の1000倍の水を保持することができる、極めて吸湿性の高い分子である。(JE.Silbert,Proteoglycans and glycosaminoglycans.In:Goldsmith LA,ed. Biochemistry and Physiology of the Skin. New York,NY:Oxford University;1983:448−461)。この並外れた特性により、グリコサミノグリカン及びコラーゲン複合体は、細胞外マトリックスに水を貯蔵する主要作用剤である。
【0011】
皮膚の水分損失には、遺伝性、後天性又は環境など、複数の原因がある。非常に乾燥した環境では、角質層からの蒸発による水分損失が大きく、細胞間拡散による補充量を超える可能性がある。
【0012】
皮膚の老化中に皮膚は乾燥する。したがって、高齢者、特に50歳を超える被験者で、皮脂分泌レベルの低下、ホルモンレベルの変化又は表皮を通る水の流れの速度低下に関係する乾燥症又は粘膜の完全乾燥が顕在化する。そのため、皮膚は、乾燥皮膚に特徴的な2つの症状である痒み及びつっぱりが起こる主な場所である。光化学療法及び湿疹に誘発される感染症は、皮膚の乾燥で顕在化する後天的症状の例である。シェーグレン症候群又は頸部放射線療法は、口の乾燥、すなわち口腔乾燥症を生じる後天的症状の例として引用できる。最後に、眼球又は膣乾燥は、粘膜の乾燥を伴う症状の例である。
【0013】
乾燥皮膚の治療の第1の代替法は、皮膚バリアの修復を目的とした製品、又は水分保持を目的とした被膜形成剤の局所投与からなる。しかし、これらの製品は表面的に作用し、慢性的脱水に見舞われる皮膚の生物学的欠陥を是正しない。仏国特許第2801504号及び仏国特許第2874502号も引用することができ、これはアクアポリン活性を刺激するため及び皮膚の保湿を改善するための植物抽出物の使用を記載している。しかしながら、これらの活性成分は皮膚の全部分の構成要素の保湿を改善しない。エンドウのペプチド抽出物はその着色作用(仏国特許第2904556号)又は落屑作用(特許第09025225号)に関する記述はあるが、皮膚の保湿に対する有益な作用に関して記述されたことはない。
【0014】
本発明者らは、アクアポリン、グリコサミノグリカン及びフィラグリンの発現を活性化することができる活性作用剤としてエンドウ(Pisum sativum L.)のペプチド加水分解物を使用することで、皮膚の構成要素の保湿における全体的な改善が得られることを明らかにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】仏国特許第2801504号
【特許文献2】仏国特許第2874502号
【特許文献3】仏国特許第2904556号
【特許文献4】特許第09025225号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】R.Sougrat et al., J.Invest.Dermatol.,2002)
【非特許文献2】M.Dumas,J.Drugs Dermatol.,6 June 2007
【非特許文献3】J.Kawedia et al.,104(9),2007
【非特許文献4】JE.Silbert,Proteoglycans and glycosaminoglycans.In:Goldsmith LA,ed. Biochemistry and Physiology of the Skin. New York,NY:Oxford University;1983:448−461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の主な目的は、エンドウ(Pisura sativum L.)のペプチド加水分解物の皮膚保湿活性作用剤としての新規使用である。
【0018】
皮膚は、頭皮を包含する皮膚及び粘膜を構成する被覆組織の集合であると理解される。
【0019】
本発明は、哺乳類全体、より明確にはヒトを対象とするものであることは明白である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、実際には、皮膚の構成要素の保湿改善に有用な生物学的活性である、エンドウのペプチド加水分解物を識別した。
【0021】
本発明による特徴的で有用な生物活性は、エンドウ加水分解物のアクアポリン、グリコサミノグリカン及びフィラグリンの発現を増大する能力によって生体外で明確にされた。
【0022】
「アクアポリン、グリコサミノグリカン及びフィラグリンの発現を改善することができる活性作用剤」は、遺伝子発現を直接的又は間接的に調節することによって又は翻訳後集合若しくはタンパク質安定化のようなその他の生物学的プロセスによって、前記化合物のタンパク質合成を改善することができるいかなる物質でもあると理解される。
【0023】
本発明によると、アクアポリンは3型アクアポリン、すなわちAQP3であることが好ましく、該アクアポリンは角化細胞膜に存在する。
【0024】
本発明は、より具体的には、エンドウ(Pisum sativum L.)のペプチド加水分解物を、その水流へのプラス作用並びに角質層、表皮の基底層、及び真皮における貯水能力の改善により、皮膚の構成要素の保湿を改善するために美容的に使用することに関する。
【0025】
「構成要素の保湿」は、皮膚の全部分、すなわち真皮、表皮の基底層(又は増殖性表皮)及び角質層に関係する水分量と理解される。
【0026】
「ペプチド加水分解物」は、ペプチドによって主に代表される化合物の混合物と理解される。
【0027】
「局所塗布」は、本発明による活性作用剤、又は前記作用剤を含有する組成物を、皮膚又は粘膜の表面に塗布又は広げることであると理解される。
【0028】
「生理学的に許容可能な」は、本発明による活性作用剤、又は前記作用剤を含有する組成物が、毒性又は不耐性反応を引き起こすことなく皮膚又は粘膜に接触するのに好適であることを表すと理解される。
【0029】
本発明による活性作用剤は、植物由来タンパク質を抽出した後、生物学的に活性なペプチドフラグメントを放出する制御加水分解を行うことによって得ることができる。
【0030】
植物中に存在する多数のタンパク質はその構造内に生物学的に活性なペプチドフラグメントを含有する可能性が高い。制御加水分解は、このペプチフラグメントの放出を可能にする。本発明を実施するには、最初に問題のタンパク質を抽出し、その後該タンパク質を加水分解すること、又は未最初に加工の抽出物を加水分解し、その後ペプチドフラグメントを精製することが可能であるが、必ずしも必要ではない。本発明による生物学的に活性なペプチドに相当するペプチドフラグメントを精製せずに特定の加水分解した抽出物を使用し、同時に適切な分析手段を用いることによって前記フラグメントの存在を確実とすることも可能である。
【0031】
植物全体、又は植物の特定部分(葉、種子等)を使用して抽出を実施することができる。
【0032】
本発明によると、より具体的には、マメ科(fabaceae)エンドウ種Pisum sativum L由来の植物種子を使用する。用語「エンドウ」は種子も包含し、種子自体はタンパク質に富む(25%)。
【0033】
本発明の加水分解物の調製には、当業者に既知のすべての抽出又は精製方法が使用できる。
【0034】
第1段階で、種子は植物粉砕機を用いて粉砕される。得られた粉末を、その後標準的な有機溶媒(アルコール、ヘキサン又はアセトン)によって「脱脂」することができる。
【0035】
続いて、タンパク質が(改良)標準方法(Osborne,1924)に従って抽出される。粉砕された植物材料は、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)型の不溶性(0.01〜20%)吸着製品を含有するアルカリ溶液中に懸濁される。実際には、加水分解操作及びその後の精製がこの手法によって促進されることが観察された。特に、タンパク質と相互作用するフェノール性物質の濃度は明らかに低かった。
【0036】
タンパク質、炭水化物及びおそらくは脂質を含有する可溶性タンパク質が、遠心分離及び濾過の段階の後に回収される。この未処理溶液は、その後制御条件下で加水分解され、可溶性ペプチドを生成する。加水分解は、分子が水によって分解される化学反応と定義され、この反応は中性、酸性又は塩基性媒体中で起こることができる。本発明によると、加水分解はタンパク質加水分解酵素によって化学的に及び/又は有利に実施される。したがって、植物由来のエンドプロテアーゼ(パパイン、ブロメライン、フィシン)及び微生物(アスペルギルス属、リゾプス属、バチルス属)の使用を本明細書で引用することができる。前記と同じ理由で、すなわち、ポリフェノール性物質を排除するために、この制御加水分解段階の間に多量のポリビニルポリピロリドンを反応媒体に添加する。酵素の熱的不活性化及び濾過によって残渣の酵素及びポリマーを除去した後、低分子量のペプチド化合物を選択するために得られた濾液(溶液)を再度精製する。分離は限外濾過及び/又はクロマトグラフィー法により有利に起こすことができる。
【0037】
この段階で、エンドウの加水分解物は、乾燥重量70〜80g/kgm、タンパク質レベル55〜65g/l、糖レベル2〜5g/l及びポリフェノールレベル1〜3g/lによって特徴づけられる。
【0038】
本発明により得られる加水分解物を、当業者が周知の代表的技法を用いて、物理化学的特性並びにタンパク質及びペプチド化合物の含有量について、定性的及び定量的に分析する。得られる加水分解物は、分子量が5kDa未満のペプチドで構成される。
【0039】
次の段階は、水又は水性溶媒の混合物への希釈段階である。したがって、本発明の活性作用剤は、水、グリセロール、エタノール、プロパンジオール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、エトキシ化又はプロポキシ化グリコール、環状ポリオール又はこれらの溶媒のいずれかの混合物のような1つ又はそれ以上の生理学的に許容可能な溶媒で有利に可溶化される。希釈された活性作用剤は、その後滅菌濾過によって滅菌される。
【0040】
この段階の後、エンドウのペプチド加水分解物は、0.5〜5.5g/lのペプチド化合物含有量で特徴づけられる。このペプチド加水分解物は本発明の活性作用剤に相当する。
【0041】
この希釈段階の後、活性作用剤を、リポソーム又は美容分野で使用されるその他のマイクロカプセルのような美容又は薬学的キャリアに封入又は含有することも、粉末状有機ポリマー又はタルク及びベントナイトのような鉱物支持体上に吸着させることもできる。
【0042】
本発明の第2の態様は、生理学的に許容可能な媒体中に本発明によるエンドウのペプチド加水分解物を活性作用剤として有効量を含む美容組成物を、皮膚の保湿を維持又は修復するために使用することである。
【0043】
本発明の特定の態様によると、エンドウのペプチド加水分解物は、皮膚の乾燥を抑制するための美容組成物に活性作用剤として使用することもできる。
【0044】
本発明の有利な実施形態によると、本発明による活性作用剤は、有効量、すなわち最終組成物の全重量を基準にして約0.0001%〜20%の濃度、好ましくは約0.05%〜5%の濃度で存在する。
【0045】
本発明に従って使用できる組成物は、いかなる適切な方法でも、特に経口、非経口又は局所的に適用することができ、さらに組成物の配合は、当業者によって、特に美容又は皮膚科学的組成物用に適応されるであろう。本発明の組成物は局所適用されるように有利に設計される。したがって、これらの組成物は、生理学的に許容可能な媒体を含有しなければならず、すなわち皮膚及び上皮付属器への適合性があり、すべての美容又は皮膚科学的形態を網羅する。
【0046】
本発明の組成物は、具体的には水溶液、水性アルコール溶液又は油性溶液、水中油型乳剤、油中水型乳剤、又は複数の乳剤の形態で存在することができ、また皮膚、粘膜、唇及び/又は上皮付属器上への塗布に適応されたクリーム、懸濁液、さらには粉末の形態でも存在できる。これらの組成物は、多少の流体であることもでき、クリーム、ローション、ミルク、漿液、ポマード、ジェル、ペースト又はムースの外観を有することもできる。また、スティックとして固体形態で存在すること、又はエアゾールとして皮膚に適用されることもできる。さらにはスキンケア製品として及び/又はメーキャップ製品としても使用できる。
【0047】
さらに、この組成物の組は想定される出願範囲において従来使用されている添加剤並びにその配合に必要な添加剤、例えば共溶媒(エタノール、グリセロール、ベンジルアルコール、ダンパ…)、増粘剤、薄め液、乳化剤、酸化防止剤、着色剤、遮光剤、顔料、充填剤、防腐剤、香料、消臭剤、精油、少数元素、必須脂肪酸、界面活性剤、被膜形成ポリマー、ケミカルフィルタ又は鉱物、保湿剤又は温泉水等を含む。水溶性の、好ましくは天然の、ポリマー、例えば多糖又はポリペプチド、メチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース型のセルロース誘導体、又は合成ポリマー、ポロキサマー、カーボマー、シロキサン、PVA又はPVP、及び特にISP社が販売するポリマーを例として挙げることできる。
【0048】
いかなる場合にも、当業者はこれらの添加剤及びその割合が、本発明の組成物に所望される有利な特性に有害でないような形で選択されることを確実とするであろう。これらの添加剤は、例えば、組成物の全重量の0.01%〜20%の濃度で存在することができる。本発明の組成物が乳剤である場合、脂肪相は組成物の全重量を基準にして5〜80重量%、好ましくは5〜50重量%で存在することができる。組成物に使用される乳化剤及び共乳化剤は、関連分野で一般的に使用されるものから選択される。例えば、組成物の全重量を基準にして0.3〜30重量%の割合で使用できる。
【0049】
本発明の活性作用剤は、単独でも他の活性作用剤と共にでも使用できることは十分に理解される。
【0050】
さらに、本発明に従って使用できる組成物は、本発明による活性作用剤の作用形式を促進するよう設計された他の活性作用剤を少なくとも1つ有利に含有する。非限定的には、次の種類の成分を挙げることができる:他のペプチド活性作用剤、植物抽出物、治癒剤、老化防止剤、しわ防止剤、無痛化剤、抗フリーラジカル、抗UV剤、真皮微小分子合成又はエネルギー代謝を刺激するための作用剤、保湿剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗炎症剤、麻酔剤、並びに皮膚分化、皮膚着色又は脱色の調節剤、並びに爪及び毛髪の成長を刺激する作用剤。
【0051】
抗フリーラジカル剤、酸化防止剤、又は真皮微小分子合成若しくはエネルギー代謝の刺激剤を使用することが好ましい。より具体的な実施形態において、本発明の組成物は、エンドウのペプチド加水分解物に加えて、以下を含む。
−少なくとも1つの、シトクロムc活性化化合物、及び/又は
−少なくとも1つの、アクアポリン活性化化合物のような保湿化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、サーチュイン活性化化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、細胞接着改善化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカンのような基質タンパク質産生を改善するための化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、プロテアソーム活性を調節するための化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、概日リズムを調節するための化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、HSPタンパク質を調節するための化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、細胞内エネルギーを増大するための化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、皮膚の着色を調節するための化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、コエンザイムQ10を活性化するための化合物、及び/又は、
−少なくとも1つの、トランスグルタミナーゼ又はHMG−CoA還元酵素のようなバリア機能を改善するための化合物。
−少なくとも1つの、ミトコンドリアを保護するための化合物。
【0052】
上記の化合物は、植物のペプチド加水分解物のような天然物であるこることも、ペプチド化合物のような合成物であることもできる。
【0053】
本発明の第3の目的は、本発明のエンドウのペプチド加水分解物を含む組成物を処置すべき皮膚に局所塗布することを特徴とする、皮膚の老化中に起こる水分バランスの崩れを修復することを目的とする美容処置方法である。
【0054】
本発明の第4の目的は、エンドウ(Pisum sativum L.)のペプチド加水分解物の有効量を、保湿活性作用剤として、皮膚の病的乾燥の処置を目的とする医薬組成物の調製に使用することである。
【0055】
本発明のこの形態によると、組成物は、医薬的使用のための経口投与に好適である。したがって、組成物は、特に錠剤、液体カプセル、粉末カプセル、チューイングガム、飲み込み用粉末、例えば単独で又は液体、シロップ、ジェル及び当業者に既知のその他の形態との即時混合の形態であることができる。これらの組成物はさらに、想定される出願範囲において一般的に使用されるいずれかの添加剤、並びにその配合に必要な添加剤、例えば溶剤、増粘剤、薄め液、酸化防止剤、防腐剤、精油、その他の活性医薬成分、ビタミン類、必須脂肪酸等を含む。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本美容処置方法の具体的な実施形態は、上記の記述からも得られる。本発明のさらなる利点及び特徴は、提供される例示的な非限定的実施例を読むことでより詳細に理解できる。
【実施例1】
【0057】
実施例1:エンドウ(Pisum sativum L.)のペプチド加水分解物の調製
【0058】
ペプチド加水分解物は、Pisuin sativum L.種の植物抽出物から得られる。第1段階では、鞘から出したエンドウ1kgを、有機溶媒のヘキサンを用いて脱脂する。こうして得られた粉砕エンドウを、2%POLYCLAR(登録商標)10(ポリビニルポリピロリドン−PVPP−不溶性)の存在下で10倍量の水の溶液に入れる。当該混合物を、1Mソーダ水溶液を用いてpH値7〜8に調節する。
【0059】
pHを調節した後、2%のflavourzym(登録商標)を反応媒体に添加する。50℃で2時間の攪拌の後、加水分解物が得られる。続いて、該溶液を80℃で2時間加熱することで、酵素を不活性化する。こうして得られた反応混合物が原料エンドウ抽出物に相当する。
【0060】
精製プロセスは最初に、孔径を縮小(0.2μmまで)しながらSeitz−Orionフィルタを使用した逐次的濾過を行い、澄んだ透明な液体を得る。この段階で、エンドウの加水分解物は、乾燥重量70〜80g/kg、タンパク質レベル55〜65g/l、糖レベル2〜5g/l及びポリフェノールレベル1〜3g/lによって特徴づけられる。
【0061】
この加水分解物のタンパク質成分を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって同定する。この分析には、NuPAGE(登録商標)Bis−Trisプレキャスト(インビトロジェン(Invitrogen))ゲルを使用する。エンドウのペプチド加水分解物を、NuPAGE(登録商標)LDSサンプルバッファ中、還元的変性条件において70℃で10分間加熱する。還元されたタンパク質が電気泳動中に再酸化されないよう、NuPAGE(登録商標)酸化防止剤溶液を内部チャンバ(カソード)に加え、タンパク質の泳動は、NuPAGE(登録商標)ランニングバッファと共に、分子量のマーカーとして標準的なSeeBlue Plus2を用いて実施する。タンパク質染色は、Coomassie(登録商標)ブリリアントブルーR−250を用いて実施する。上記の条件で、2つの大きなタンパク質ファミリーが観察される。第1のファミリーは分子量25〜20kDaのタンパク質に相当し、第2のファミリーは分子量5kDa未満のタンパク質に相当する。
【0062】
続いて、この溶液を、クロスフロー濾過を用いて分子量が5kDaを超えるタンパク質を除去することによって精製する。
【0063】
このため、Pellicon(登録商標)2Biomax−30kDaカセットを装着したPellicon(登録商標)サポート材を通してエンドウの加水分解物を加圧下でポンプ輸送する。最初の濾液を回収した後、別のPellicon(登録商標)2Biomax−5kDaカセットで濾過する。精製が完了すると、黄色がかったベージュ色の澄んだ透明なペプチド加水分解物が得られる。該加水分解物は、乾燥重50〜55k/kg及びタンパク質含有量50〜52g/lによって特徴づけられる。
【0064】
次の段階は、水−グリセロール混合物での希釈段階である。希釈された活性作用剤は、次に滅菌濾過により滅菌される。この段階の後、エンドウのペプチド加水分解物は、約2.5g/lのタンパク質含有量によって特徴づけられる。
【実施例2】
【0065】
実施例2:実施例1によるエンドウ抽出物のアクアポリン発現に関する刺激作用の特定
【0066】
この研究の目的は、実施例1によるエンドウ加水分解物が正常なヒト角化細胞(NHKs)におけるアクアポリン−3発現に与える影響を明らかにすることである。
【0067】
方法:NHKsを、LabTek(登録商標)スライドで80%コンフルエントになるまで培養した後、実施例1によるエンドウ加水分解物で0.5%又は1%にて24時間処理する。
【0068】
続いて、アクアポリン−3に特異的に結合するヤギポリクロナール抗体(Tebu Santa Cruz,sc―9885)、蛍光マーカーに結合した二次抗体を順に用いて免疫標識を実施する。その後細胞を落射蛍光顕微鏡(ニコン・エクリプスE600顕微鏡)で観察する。
【0069】
結果:顕微鏡観察の結果、実施例1によるエンドウ加水分解物で0.5%及び1%にて処理した細胞に、より強い蛍光が観察された。
【0070】
結論:実施例1によるエンドウ加水分解物は、ヒト角化細胞においてアクアポリン−3の発現を増大する。
【実施例3】
【0071】
実施例3:実施例1によるエンドウ加水分解物の存在下でのヒト皮膚生検材料におけるプロ/フィラグリン発現の研究
【0072】
本研究の目的は、実施例1によるエンドウ加水分解物がヒト皮膚生検材料に存在するフィラグリン及びプロフィラグリンの質に与える影響を明らかにすることである。
【0073】
方法:ヒト皮膚検体を気液界面培養する。検体を実施例1によるエンドウ加水分解物で、0.5%及び1%にて24時間処理する。続いて前記皮膚検体を、ホルマリン固定パラフィン包埋する。4μmの切片を作製する。ペプシンインキュベーションにより特異部位を露出した後で免疫標識を実施する。続いて免疫標識を、フィラグリンに特異的に結合するマウスモノクロナール抗体(Tebu Santa Cruz,sc−66192)、蛍光マーカーに結合した二次抗体を順に用いて実施する。続いて皮膚切片を落射蛍光顕微鏡(ニコン・エクリプスE600顕微鏡)で観察する。
【0074】
結果:実施例1によるエンドウ加水分解物で処理した生検材料において、未処理の皮膚生検材料と比較して、プロフィラグリン標識の強度低下が認められた。
【0075】
結論:実施例1によるエンドウ加水分解物は、皮膚におけるプロフィラグリン及びフィラグリン発現の増大を可能にした。
【実施例4】
【0076】
実施例4:実施例1によるエンドウ加水分解物の存在下でのヒト皮膚生検材料におけるグリコサミノグリカン発現の研究
【0077】
本研究の目的は、実施例1によるエンドウ加水分解物がヒト皮膚生検材料においてグリコサミノグリカン(GAG)の質に与える影響を明らかにすることである。
【0078】
方法:ヒト皮膚検体を気液界面培養する。検体を実施例1によるエンドウ加水分解物で0.5%にて48時間処理する。続いて前記皮膚検体を、ホルマリン固定パラフィン包埋する。4μmの切片を作製する。コロイド鉄溶液を用いたグリコサミノグリカン染色の後、フェロシアニド−塩酸との反応を行うと、GAGが青色に染色される。
【0079】
結果:抽出物で処理した生検材料において、GAG発現の増大が認められた。
【0080】
結論:実施例1によるエンドウ加水分解物は、皮膚におけるグリコサミノグリカン発現の増大を可能にした。
【実施例5】
【0081】
実施例5:実施例1によるエンドウ加水分解物の誘発された皮膚乾燥に関する保護作用の評価
【0082】
この研究は、誘発された皮膚乾燥によるストレスを受ける生体外培養に関する実施例1によるエンドウ加水分解物の保護作用を明らかにすることである。
【0083】
方法:ヒト皮膚生検材料を培養液中で24時間生体外に維持し、実施例1によるエンドウ加水分解物の0.5%及び1%溶液で処理する。続いて前記生検材料を3時間通気乾燥する。続いて前記皮膚検体を、ホルマリン固定パラフィン包埋する。4μmの切片を作製する。組織学的ヘマトキシリン・エオリン(H&E)染色により、皮膚構造の質を評価することができる。
【0084】
結果:乾燥ストレスを受けた管理生検材料は、角質層の薄化、浮腫の存在及び基底角化細胞の組織崩壊といった特徴的なストレスの徴候を示す。乾燥され、実施例1によるエンドウ加水分解物で処理された皮膚検体は、細胞ストレスの徴候の明らかな減少及び皮膚構造保全の改善を示した。他方、角質層は未処理の皮膚生検材料と比べて保湿改善の典型的な徴候を示す。
【0085】
結論:実施例1によるエンドウ加水分解物は皮膚を乾燥に誘発されるストレスから効果的に保護する。
【実施例6】
【0086】
実施例6:組成物の調製
1−デイクリーム
【0087】
【表1】
【0088】
方法:
成分を脂肪相から秤量し、攪拌しながら70℃に加熱する。相Bを調製し、70℃に加熱する。相Aを相B中に乳化する。相Dを攪拌下約50℃で添加する。40℃未満になったときに活性作用剤を添加する(相D)。芳香化し周囲温度まで冷却する。
【0089】
2.O/W保湿クリーム
【0090】
【表2】
【0091】
方法:
相Aを秤量し、攪拌しながら70℃に加熱する。相Bを調製し、75℃に加熱する。ロータ/スターラで激しく攪拌しながら、相Bを相A中に乳化する。
【0092】
数分間均質化する。激しく攪拌しながら、氷浴を用いて素早く冷却する。約50℃で相Cを添加し、40℃で芳香剤(相D)を添加する(相D)。周囲温度に達するまで冷却を続ける。
【0093】
3−保湿ローション
【0094】
【表3】
【0095】
方法:
成分を個別に必要量の水に添加し、完全に溶解するまで攪拌する。必要であればpHを約5.5に再調節する。配合の最後に活性作用剤を添加する。穏やかに攪拌しながら水溶性芳香剤で芳香化する。