(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である電力増幅回路を含む送信ユニットの構成例を示す図である。送信ユニット10は、例えば、携帯電話等の移動体通信機において、音声やデータなどの各種信号を基地局へ送信するために用いられる。なお、移動体通信機は基地局から信号を受信するための受信ユニットも備えるが、ここでは説明を省略する。
【0010】
図1に示すように、送信ユニット10は、変調部20、送信電力制御部25、電力増幅回路30、フロントエンド部35、及びアンテナ40を含んで構成される。
【0011】
変調部20は、HSUPAやLTE等の変調方式に基づいて入力信号を変調し、無線送信を行うための高周波(RF)信号を生成する。RF信号は、例えば、数百MHzから数GHz程度である。
【0012】
送信電力制御部25は、送信電力制御信号に基づいて、RF信号の電力を調整して出力する。送信電力制御信号は、例えば、基地局から送信される適応電力制御(APC)信号に基づいて生成される。例えば、基地局は、移動体通信機からの受信信号を測定することにより、移動体通信機における送信電力を適切なレベルに調整するためのコマンドとして、適応電力制御信号を移動体通信機に送信することができる。
【0013】
電力増幅回路30は、送信電力制御部25から出力されるRF信号(RF
IN)の電力を、基地局に送信するために必要なレベルまで増幅し、増幅信号(RF
OUT)を出力する。
【0014】
フロントエンド部35は、増幅信号に対するフィルタリングや、基地局から受信する受信信号とのスイッチングなどを行う。フロントエンド部35から出力される増幅信号は、アンテナ40を介して基地局に送信される。
【0015】
図2は、電力増幅回路30の構成の一例を示す図である。
図2に示すように、電力増幅回路30は、パワーアンプ100,102,104,106、整合回路(Matching Network)110,112,114,116、バイアス電圧生成回路120,122、可変バイアス電圧生成回路124、バイアス電流生成回路130,132,134,136、及びコンデンサ140を含んでいる。
【0016】
パワーアンプ100,102,104は、三段の電力増幅回路を構成しており、入力されるRF信号(RF
IN)を増幅し、増幅信号(RF
OUT)を出力する。ここで、パワーアンプ100,102,104のゲインは、入力信号及びバイアス電圧のレベルに応じたものとなる。例えば、バイアス電圧が固定レベルである場合において、入力信号のレベルの上昇に伴ってバイアス電流(ベース電流I
BE)が増加すると、パワーアンプ100,102,104のゲインは増大することとなる。また例えば、バイアス電圧が低下すると、バイアス電流(ベース電流I
BE)が減少し、パワーアンプ100,102,104のゲインは減少することとなる。なお、パワーアンプ100,102,104の入出力には、インピーダンスマッチングを行うための整合回路110,112,114,116が設けられている。
【0017】
バイアス電圧生成回路120は、所定レベルの電圧V
BIASに基づいて、パワーアンプ100のための固定バイアス電圧V
BIAS1を生成する。そして、バイアス電流生成回路130は、バイアス電圧V
BIAS1に基づいて、パワーアンプ100のバイアス電流(ベース電流)I
BE1を生成する。
【0018】
可変バイアス電圧生成回路124は、パワーアンプ102,104のための可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3を生成する。具体的には、可変バイアス電圧生成回路124は、パワーアンプ106の出力信号のレベルの上昇に伴って低下する可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3を生成する。なお、可変バイアス電圧生成回路124は、フィルタ回路150及び電圧調整回路152を含んでいる。フィルタ回路150は、パワーアンプ106の出力信号に含まれる交流成分(基本波成分及び高調波成分)を減衰させる。そして、電圧調整回路152は、フィルタ回路150の出力信号のレベルに応じた可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3を生成する。
【0019】
バイアス電流生成回路132は、バイアス電圧V
BIAS2に基づいて、パワーアンプ102のバイアス電流(ベース電流)I
BE2を生成する。同様に、バイアス電流生成回路134は、バイアス電圧V
BIAS3に基づいて、パワーアンプ104のバイアス電流(ベース電流)I
BE3を生成する。
【0020】
パワーアンプ106は、パワーアンプ100,102,104において電力増幅を行うトランジスタ(増幅素子)と同等のゲイン特性でサイズの小さいトランジスタを含んで構成される。パワーアンプ106は、整合回路110及びコンデンサ140を介して入力される信号の増幅を行う。つまり、パワーアンプ106は、パワーアンプ100,102,104の動作を模擬する回路である。なお、パワーアンプ106のサイズは、パワーアンプ100,102,104と同程度であってもよいが、小さいサイズとすることにより、チップサイズや消費電力の増大を抑制することができる。
【0021】
バイアス電圧生成回路122は、所定レベルの電圧V
BIASに基づいて、パワーアンプ106のための固定バイアス電圧V
BIAS4を生成する。そして、バイアス電流生成回路136は、バイアス電圧V
BIAS4に基づいて、パワーアンプ106のバイアス電流(ベース電流)I
BE4を生成する。
【0022】
図3は、
図2に示した電力増幅回路30の回路構成の一例を示す図である。
図3に示す構成では、パワーアンプ100は、トランジスタ200、コイル210、及びコンデンサ220を含んでいる。トランジスタ200は、例えば、ヘテロバイポーラトランジスタ(HBT)や電界効果トランジスタ(FET)等の増幅素子である。以後、本実施形態で用いられるトランジスタはHBTであることとして説明するが、FET等の他のトランジスタを用いることも可能である。パワーアンプ102も同様に、トランジスタ202、コイル212、及びコンデンサ222を含んでいる。また、パワーアンプ104は、トランジスタ204、コイル214、及びコンデンサ224を含んでいる。
【0023】
バイアス電圧生成回路120は、ダイオード接続されたトランジスタ230,232、及び抵抗240を含んでいる。トランジスタ230,232には、電圧V
BIASが抵抗240を介して印加されている。そして、バイアス電圧生成回路120は、抵抗240とトランジスタ230のコレクタとの間に生じる、固定レベルのバイアス電圧V
BIAS1を、バイアス電流生成回路130に出力する。
【0024】
バイアス電流生成回路130は、トランジスタ250及びコンデンサ260を含んでいる。バイアス電流生成回路130は、トランジスタ250のベースに印加されるバイアス電圧V
BIAS1に基づいてバイアス電流(ベース電流)I
BE1を生成し、該バイアス電流を、抵抗300を介してトランジスタ200のベースに供給する。
【0025】
バイアス電圧生成回路122は、ダイオード接続されたトランジスタ234,236、及び抵抗242を含んでいる。トランジスタ234,236には、電圧V
BIASが抵抗242を介して印加されている。そして、バイアス電圧生成回路122は、抵抗242とトランジスタ234のコレクタとの間に生じる、固定レベルのバイアス電圧V
BIAS4を、バイアス電流生成回路136に出力する。
【0026】
バイアス電流生成回路136は、トランジスタ256及びコンデンサ266を含んでいる。バイアス電流生成回路136は、トランジスタ256のベースに印加されるバイアス電圧V
BIAS4に基づいてバイアス電流(ベース電流)I
BE4を生成し、該バイアス電流を、抵抗306を介してトランジスタ206のベースに供給する。
【0027】
パワーアンプ106は、トランジスタ206を含んでいる。トランジスタ206は、トランジスタ200,202,204と同等のゲイン特性でサイズの小さい増幅素子である。トランジスタ206のベースには、整合回路110から出力される信号がコンデンサ140を介して入力されている。トランジスタ206のコレクタには、バッテリ電圧V
BATTが抵抗270を介して印加され、トランジスタ206のエミッタは接地されている。トランジスタ206は、ベースに入力される信号を増幅した出力信号として、コレクタ電流I
CE4を生成する。
【0028】
なお、トランジスタのサイズとは、HBTなどのバイポーラ接続型トランジスタではエミッタ電極の面積であり、MOSFETなどのFETではゲート電極の電極幅である。また、パワーアンプにおいては出力段に近いトランジスタほどサイズを大きく設計するが、トランジスタ206のサイズを多段接続されたパワーアンプを構成するトランジスタ200,202,204の中で最も小さいトランジスタ200よりも小さくすることで、電力増幅回路30を低消費電力化および小型化することができる。
【0029】
可変バイアス電圧生成回路124は、抵抗270、フィルタ回路150、及び電圧調整回路152を含んでいる。抵抗270は、パワーアンプ106の出力信号(コレクタ電流I
CE4)のレベルの上昇に伴って低下する電圧V
OUT4を生成する。
【0030】
フィルタ回路150は、抵抗280及びコンデンサ282を含むローパスフィルタを構成している。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、例えば、150MHz程度であり、フィルタ回路150は、パワーアンプ106の出力信号に含まれる交流成分(基本波成分及び高調波成分)、すなわち、電圧V
OUT4に含まれる交流成分を減衰させることができる。なお、ローパスフィルタの構成は、抵抗280及びコンデンサ282に限られず、例えば、抵抗280の代わりにコイルを用いることとしてもよい。また、フィルタ回路150は、ローパスフィルタに限られず、帯域除去フィルタ等であってもよい。
【0031】
電圧調整回路152は、抵抗290,292を含んでいる。電圧調整回路152は、フィルタ回路150の出力信号からバイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3を生成し、それぞれ、トランジスタ252,254のベースに印加する。なお、抵抗290,292の抵抗値は、パワーアンプ102,104のゲインに応じて任意に定めることができる。
【0032】
バイアス電流生成回路132は、トランジスタ252及びコンデンサ262を含んでいる。バイアス電流生成回路132は、トランジスタ252のベースに印加される可変バイアス電圧V
BIAS2に基づいてバイアス電流(ベース電流)I
BE2を生成し、該バイアス電流を、抵抗302を介してトランジスタ202のベースに供給する。
【0033】
バイアス電流生成回路134は、トランジスタ254及びコンデンサ264を含んでいる。バイアス電流生成回路134は、トランジスタ254のベースに印加される可変バイアス電圧V
BIAS3に基づいてバイアス電流(ベース電流)I
BE3を生成し、該バイアス電流を、抵抗304を介してトランジスタ204のベースに供給する。
【0034】
図3に示した構成に基づいて、電力増幅回路30の動作について説明する。パワーアンプ100,102,104は、三段の増幅回路を構成しており、入力信号RF
INを増幅し、増幅信号RF
OUTを出力する。この入力信号RF
INは、整合回路110及びコンデンサ140を介してパワーアンプ106にも入力されている。パワーアンプ106を構成するトランジスタ206は、ベースに入力される信号を増幅した出力信号(コレクタ電流I
CE4)を生成する。
【0035】
トランジスタ206は、トランジスタ200,202,204と同様に、送信電力のレベル(入力信号RF
INのレベル)が高い領域において非線形なゲイン特性を有する。そのため、
図4Aに示すように、送信電力のレベル(入力信号RF
INのレベル)が高い領域において、バイアス電流(ベース電流)I
BE4が上昇する。これに伴い、
図4Bに示すように、パワーアンプ106のゲインが増大し、パワーアンプ106の出力信号(コレクタ電流I
CE4)のレベルが上昇することとなる。
【0036】
可変バイアス電圧生成回路124は、抵抗270によって、パワーアンプ106の出力信号を電圧V
OUT4に変換する。なお、電圧V
OUT4は、出力信号のレベルの上昇に伴って低下する。フィルタ回路150は、電圧V
OUT4から交流成分(基本波成分及び高調波成分)を減衰させて直流成分を抽出する。そして、電圧調整回路152は、抵抗290,292により、フィルタ回路150の出力から可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3を生成し、バイアス電流生成回路132,134に供給する。なお、可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3は、パワーアンプ106の出力信号(コレクタ電流I
CE4)のレベルの上昇に伴って低下する電圧となる。
【0037】
図4Cは、送信電力のレベルとバイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3との関係の一例を示す図である。
図4Dは、送信電力のレベルとバイアス電流(ベース電流)I
BE2,I
BE3との関係の一例を示す図である。また、
図4Eは、送信電力のレベルと電力増幅用のパワーアンプのゲインとの関係の一例を示す図である。
図4C〜
図4Eにおいて、実線は、バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3が可変である場合を示し、破線は、バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3が固定である場合を示している。
【0038】
図4Cに示すように、可変バイアス電圧生成回路124は、送信電力のレベル(入力信号RF
INのレベル)が高い領域において、可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3を低くすることができる。そのため、
図4Dに示すように、送信電力のレベル(入力信号RF
INのレベル)が高い領域において、パワーアンプ102,104のためのバイアス電流(ベース電流)I
BE2,I
BE3の上昇を抑制することができる。そして、バイアス電流(ベース電流)I
BE2,I
BE3の上昇が抑制されることにより、
図4Eに示すように、送信電力のレベル(入力信号RF
INのレベル)が高い領域において、パワーアンプ102,104のゲインが増大することを抑制することができる。これにより、電力増幅回路30における線形性を高めることが可能となる。
【0039】
なお、
図2及び
図3では、電力増幅回路30の一例として、三段のパワーアンプによる構成を示したが、パワーアンプの段数はこれに限られず、一段や二段であってもよいし、四段以上であってもよい。また、
図2及び
図3で示した構成では、二段目及び三段目のパワーアンプ102,104のためのバイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3を制御することとしたが、制御対象のバイアス電圧はこれに限られない。例えば、パワーアンプ104のためのバイアス電圧V
BIAS3のみを制御することとしてもよいし、全段のパワーアンプ100,102,104のためのバイアス電圧V
BIAS1,V
BIAS2,V
BIAS3を制御することとしてもよい。
【0040】
図5は、全段のパワーアンプのためのバイアス電圧を制御する場合の電力増幅回路30の構成例を示す図である。
図2に示した構成との違いは、バイアス電圧生成回路120の代わりに、可変バイアス電圧生成回路400の電圧調整回路410が、パワーアンプ100のための可変バイアス電圧V
BIAS1を生成する点である。なお、電圧調整回路410は、
図2の構成と同様に、パワーアンプ102,104のための可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3も生成する。
【0041】
図6は、
図5に示した電力増幅回路30の回路構成の一例を示す図である。
図3に示した構成との違いは、電圧調整回路410が、フィルタ回路150と抵抗290,292の間に、抵抗420を備える点である。そして、電圧調整回路410は、抵抗420のフィルタ回路150側の端子に生じる電圧を、可変バイアス電圧V
BIAS1として、バイアス電流生成回路130に供給する。したがって、可変バイアス電圧V
BIAS1は、可変バイアス電圧V
BIAS2,V
BIAS3と同様に、送信電力のレベル(入力信号RF
INのレベル)が高い領域において低くなるように制御される。
【0042】
図7は、電力増幅回路30を含む電力増幅モジュール(複合モジュール)の構成の一例を示す図である。電力増幅モジュール500は、多層基板510を用いて構成されている。多層基板510の主面上には、電力増幅回路30を集積化した半導体集積回路520が実装されている。なお、電力増幅回路30を構成する全ての素子を集積化する必要はなく、一部の素子は半導体集積回路520の外部に設けてもよい。例えば、フィルタ回路150を構成するコンデンサ282は、サイズが大きくなることがあるため、多層基板510の主面上にチップコンデンサ530として形成してもよい。また、多層基板510の隣接する層間の電極対540により形成される層間容量を、コンデンサ282として用いてもよい。
【0043】
以上、本実施形態の電力増幅回路及び電力増幅モジュールについて説明した。本実施形態によれば、電力増幅用のパワーアンプ(増幅用パワーアンプ)の動作を模擬するパワーアンプ(模擬パワーアンプ)の出力信号のレベルの上昇に伴って、増幅用パワーアンプのためのバイアス電圧を低下させることができる。つまり、増幅用パワーアンプに固定バイアス電圧を供給した場合にゲインが増大する領域において、バイアス電圧を低下させることによってゲインの増大を抑制することができる。これにより、電力増幅回路における線形性を高めることが可能となる。
【0044】
そして、本実施形態の電力増幅回路によれば、模擬パワーアンプのサイズを増幅用パワーアンプのサイズより小さくすることにより、チップサイズや消費電力の増大を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態の電力増幅回路によれば、電力増幅回路が複数段のパワーアンプによって構成される場合において、最終段のパワーアンプや、最終段に近いパワーアンプのためのバイアス電圧を制御することにより、電力増幅回路全体でのゲインの変動を効果的に抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態の電力増幅回路によれば、電力増幅回路が複数段のパワーアンプによって構成される場合において、各パワーアンプのためのバイアス電圧のレベルを、各パワーアンプのゲインに応じたレベルとすることができる。
【0047】
また、本実施形態の電力増幅回路によれば、フィルタ回路によって模擬パワーアンプの出力信号の交流成分を減衰させることにより、交流成分によるバイアス電圧の変動を抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態の電力増幅モジュールによれば、電力増幅回路におけるフィルタを構成するコンデンサを、電力増幅用のパワーアンプの半導体集積回路とは別に形成することができる。例えば、半導体集積回路を多層基板上に実装し、多層基板上に実装されるチップコンデンサや、多層基板の層間容量を、フィルタを構成するコンデンサとして用いることができる。これにより、半導体集積回路のサイズの増大を抑制することができる。
【0049】
なお、本実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。