(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983991
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
E04B1/30 K
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-105231(P2012-105231)
(22)【出願日】2012年5月2日
(65)【公開番号】特開2013-234420(P2013-234420A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 宏治
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−278179(JP,A)
【文献】
特公昭50−012204(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/30
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の最上階の鉄筋コンクリート柱の柱頭部に対して鉄骨梁を実質的に相対回転可能なピン接合の形式で接合するための構造であって、
前記柱頭部に定着した複数本のアンカーボルトによって前記鉄骨梁を該柱頭部に対して締結するとともに、その接合部において前記鉄骨梁と前記柱頭部との間に敷きモルタルからなる支圧部を形成してなり、
前記支圧部を、前記鉄骨梁の軸方向に間隔をおいて配置されているアンカーボルトの間に形成するとともに、該支圧部を前記鉄骨梁と前記柱頭部の双方に対して少なくとも前記鉄骨梁の軸方向への相対変位不能に係合せしめて、該支圧部を介して前記鉄骨梁と前記柱頭部との間で支圧力および水平せん断力を伝達可能とし、
かつ、前記支圧部を介して前記柱頭部に作用する前記支圧力と前記水平せん断力との相乗作用によって前記支圧部から斜め下方に向かって延びるように生じる仮想の応力作用線が、少なくとも前記柱頭部に配筋されている最上段のせん断補強筋の内側を通るように該せん断補強筋の配筋位置が設定されてなることを特徴とする鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との接合構造。
【請求項2】
建物の最上階の鉄筋コンクリート柱の柱頭部に側部に突出するコーベルを一体に設けて、該コーベルに対して鉄骨梁の先端部を実質的に相対回転可能なピン接合の形式で接合することにより、前記鉄骨梁を前記コーベルを介して前記鉄筋コンクリート柱に対して接合するための構造であって、
前記コーベルに定着した複数本のアンカーボルトによって前記鉄骨梁を該コーベルに対して締結するとともに、その接合部において前記鉄骨梁と前記コーベルとの間に敷きモルタルからなる支圧部を形成してなり、
前記支圧部を、前記鉄骨梁の軸方向に間隔をおいて配置されているアンカーボルトの間に形成するとともに、該支圧部を前記鉄骨梁と前記コーベルの双方に対して少なくとも前記鉄骨梁の軸方向への相対変位不能に係合せしめて、該支圧部を介して前記鉄骨梁と前記コーベルとの間で支圧力と水平せん断力を伝達可能とし、
かつ、前記支圧部を介して前記コーベルに作用する前記支圧力と前記水平せん断力との相乗作用によって前記支圧部から斜め下方に向かって延びるように生じる仮想の応力作用線が、少なくとも前記コーベルに配筋されている最上段のかんざし筋の内側を通るように該かんざし筋の配筋位置が設定されてなることを特徴とする鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の構造に関わり、特に建物の最上階の鉄筋コンクリート柱の柱頭部に対して鉄骨梁を接合するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の最上階における鉄筋コンクリート柱(以下、RC柱と記す)に対して鉄骨梁を架設する場合において、RC柱の柱頭部に鉄骨梁を簡易に接合するための構造として、たとえば
図4に示すように鉄骨梁の先端部(あるいは中間部)を柱頭部に対してアンカーボルトにより締結して接合するという構造が知られている。
これは、RC柱1の柱頭部に鉄骨梁2(図示例ではH形鋼)を敷きモルタル3を介して支持するとともに、柱頭部に定着した複数本(図示例では4本)のアンカーボルト4に対して鉄骨梁2の下フランジを締結することによってそれらを実質的に鉛直面内における相対回転が可能なピン接合の形式で接合するようにしたものである。
なお、
図1において符号5はRC柱1に埋設されている柱主筋、6はせん断補強筋(帯筋)、7は鉄骨梁2に設けた補強リブである。また、図示例では柱主筋5およびアンカーボルト4の先端にそれぞれフックを設けてRC柱1に対して強固に定着するものとしているが、フックに代えて適宜の定着頭部を形成しておく場合もある。
また、敷きモルタル3は、接合部において鉄骨梁2の下面全体を支持するようにRC柱1のほぼ全断面にわたって形成することが通常である。
【0003】
また、同様の接合構造として、
図5に示すように、RC柱1の柱頭部にコーベル8(ブラケット、「持ち送り」とも称する)を側部に突出させて一体に形成し、そのコーベル8に対して鉄骨梁2の先端部を支持して接合することも知られている。
この場合は、コーベル8にはコーベル主筋9およびコーベルせん断補強筋10を配筋するとともに、アンカーボルト4をコーベル8内において折り曲げてその先端部をRC柱1に対して定着することにより定着長を確保することが通常である。
【0004】
上記のような接合構造は実質的に鉄骨梁2とRC柱1との間で曲げモーメントを伝達しないピン接合であって、簡易な構造ではあるものの所望の接合強度を確保し得るものではある。
しかし、地震等により過大な水平力を受けることを想定した場合には、構造的な機能と安全性は保持し得るものの、鉄骨梁2から敷きモルタル3を介して柱頭部ないしコーベル8に対して過大な支圧力が伝達されてしまうばかりでなく、接合部に過大な抵抗曲げモーメントが生じてしまう場合があり、それにより柱頭部やコーベル8の表層部のコンクリート(いわゆる被りコンクリート)が剥落する被害や、さらにそれに起因してアンカーボルト4の定着強度が早期に低下するといった事態も想定されることから、より万全の対策が必要とも考えられている。
【0005】
そのため、上記のような一般的な接合構造に代わるものとして、たとえば特許文献1に示されるように、RC柱に鋼製ブラケットをボルト接合して、その鋼製ブラケットに対して鉄骨梁をボルト接合するという構造が提案されている。
また、特許文献2に示されるように、RC柱に鉄筋コンクリート造のブラケット(上記のコーベルに相当)を一体に形成したうえで、鉄骨梁をブラケットとRC柱の双方に対して多数のアンカーボルトにより定着するようにしたり、あるいは接合部に鋼材によるブラケットを介在させたり、鉄骨梁を大断面の束材を介してRC柱に対して接合するという構造も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−126973号公報
【特許文献2】特開2004−278179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示される構造は鋼製ブラケットを用いることから鋼材量が増大してかなりのコスト増とならざるを得ず、柱を鉄骨造ではなく低コストのRC造としていることの利点が薄れて好ましくない。
また、特許文献2に示される構造は接合部の挙動が複雑で構造性能を適切に評価することは困難であり、その設計も必ずしも容易ではない。
したがって、特許文献1,2に示される構造はいずれもRC柱に対して鉄骨梁を接合するための構造としては有効なものとはなり得ておらず、普及するに至っていない。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明はRC柱に対して鉄骨梁を簡易に接合するための合理的にして有効適切な接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、建物の最上階の鉄筋コンクリート柱の柱頭部に対して鉄骨梁を実質的に相対回転可能なピン接合の形式で接合するための構造であって、前記柱頭部に定着した複数本のアンカーボルトによって前記鉄骨梁を該柱頭部に対して締結するとともに、その接合部において前記鉄骨梁と前記柱頭部との間に敷きモルタルからなる支圧部を形成してなり、前記支圧部を、前記鉄骨梁の軸方向に間隔をおいて配置されているアンカーボルトの間に形成するとともに、該支圧部を前記鉄骨梁と前記柱頭部の双方に対して少なくとも前記鉄骨梁の軸方向への相対変位不能に係合せしめて、該支圧部を介して前記鉄骨梁と前記柱頭部との間で支圧力および水平せん断力を伝達可能とし、かつ、前記支圧部を介して前記柱頭部に作用する前記支圧力と前記水平せん断力との相乗作用によって前記支圧部から斜め下方に向かって延びるように生じる仮想の応力作用線が、少なくとも前記柱頭部に配筋されている最上段のせん断補強筋の内側を通るように該せん断補強筋の配筋位置が設定されてなることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、建物の最上階の鉄筋コンクリート柱の柱頭部に側部に突出するコーベルを一体に設けて、該コーベルに対して鉄骨梁の先端部を実質的に相対回転可能なピン接合の形式で接合することにより、前記鉄骨梁を前記コーベルを介して前記鉄筋コンクリート柱に対して接合するための構造であって、前記コーベルに定着した複数本のアンカーボルトによって前記鉄骨梁を該コーベルに対して締結するとともに、その接合部において前記鉄骨梁と前記コーベルとの間に敷きモルタルからなる支圧部を形成してなり、前記支圧部を、前記鉄骨梁の軸方向に間隔をおいて配置されているアンカーボルトの間に形成するとともに、該支圧部を前記鉄骨梁と前記コーベルの双方に対して少なくとも前記鉄骨梁の軸方向への相対変位不能に係合せしめて、該支圧部を介して前記鉄骨梁と前記コーベルとの間で支圧力と水平せん断力を伝達可能とし、かつ、前記支圧部を介して前記コーベルに作用する前記支圧力と前記水平せん断力との相乗作用によって前記支圧部から斜め下方に向かって延びるように生じる仮想の応力作用線が、少なくとも前記コーベルに配筋されている最上段のかんざし筋の内側を通るように該かんざし筋の配筋位置が設定されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極めて簡易かつ単純な構造でありながら、柱頭部に対する鉄骨梁の鉛直面内における相対回転が拘束され難いものとなって可及的に本来のピン接合に近い構造となり、したがって曲げモーメントの伝達が十分に防止されて従来の接合構造の場合には懸念される過度の曲げモーメントが伝達されてしまうことによる柱頭部の想定外の損壊を確実に防止し得る。
【0012】
また、支圧部を介して支圧力を柱頭部の中心部に集中させ、かつ同時に水平せん断力を伝達するので、支圧部がアンカーボルトによるせん断力伝達機能を補完して全体として十分かつ安定なせん断力伝達性能を確保し得ることはもとより、柱頭部に作用する支圧力と水平せん断力の双方を考慮したうえでせん断補強筋を適切な位置に配筋することにより、格別の補強筋を増強せずとも柱頭部やコーベルにおける被りコンクリートが早期に剥落してしまうといった被害や、それに伴うアンカーボルトの定着強度が早期に低下してしまうような事態を確実に防止することができ、構造安全性と信頼性を十分に向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の接合構造の実施形態を示すもので、(a)は立断面図、(b)は平断面図((a)におけるb−b線視図)である。
【
図2】同、他の実施形態を示すもので、(a)は立断面図、(b)は平断面図((a)におけるb−b線視図)である。
【
図3】同、さらに他の実施形態を示すもので、(a)は立断面図、(b)は平断面図((a)におけるb−b線視図)、(c)は平断面図((a)におけるc−c線視図)である。
【
図4】従来の接合構造を示すもので、(a)は立断面図、(b)は平断面図((a)におけるb−b線視図)、(c)は平断面図((a)におけるc−c線視図)である。
【
図5】従来の他の接合構造を示すもので、(a)は立断面図、(b)は平断面図((a)におけるb−b線視図)、(c)は平断面図((a)におけるc−c線視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下で説明する実施形態の接合構造において
図4および
図5に示した従来の接合構造と共通する構成要素については同一符号を付してある。
【0015】
図1は第1実施形態を示すものである。
これは、基本的には
図4に示した従来の構造による場合と同様に、建物の最上階のRC柱1(鉄筋コンクリート柱)の柱頭部に対して鉄骨梁2(図示例ではH形鋼)の先端部を実質的に鉛直面内において相対回転可能なピン接合の形式で接合する場合の適用例である。
本実施形態では、従来と同様に柱頭部に定着した複数本(図示例では4本)のアンカーボルト4によって鉄骨梁2の先端部を柱頭部に対して締結することを基本とするが、鉄骨梁2と柱頭部との間に従来の敷きモルタル3に代えて支圧部20を介在させたことを主眼とする。
【0016】
本実施形態における支圧部20は、従来において敷きモルタル3を形成する場合と同様にモルタルを柱頭部に盛って硬化させることで形成されるものであり、その点では本実施形態における支圧部20も敷きモルタルとして形成されるものではあるが、本実施形態における支圧部20は従来一般の単なる敷きモルタル3とは具体的な構成と構造的機能が大きく異なるものである。
【0017】
すなわち、上述したように従来の敷きモルタル3は単に鉄骨梁2の下面全体を支持するように柱頭部のほぼ全断面に対して面的に形成されているのに対し、本実施形態の支圧部20は、鉄骨梁2の軸方向に間隔をおいて配置されているアンカーボルト4の間において鉄骨梁2の幅方向に細長い形状に形成されたものとなっている(
図1(b)参照)。
これにより、鉄骨梁2の自重等による鉛直方向の長期せん断力が支圧部20を介して柱頭部の中心部に対して集中して支圧力として支障なく伝達されることはもとより、その支圧部20が柱頭部に対する鉄骨梁2の鉛直面内における相対回転の明確な中心となり、したがって単に面的に形成した敷きモルタル3を介して接合する従来の接合構造による場合よりもさらに本来のピン接合に近い形式となって曲げモーメントが伝達され難いものとなっている。
【0018】
なお、
図1に示す実施形態では支圧部20の断面形状を(a)に示すように略台形状としているが、必ずしもそうすることはなく、上記のように鉄骨梁2の相対回転の中心となり、かつ上記の支圧力と後述する水平せん断力の双方を柱頭部に対して有効に伝達可能な機能を備えたものとして形成すれば良いのであって、その限りにおいて支圧部20の断面形状は任意である。
いずれにしても、支圧部20をアンカーボルト4の間において鉄骨梁の幅方向に細長い形状に形成することから、従来の接合構造による場合のようにアンカーボルト4の全体が敷きモルタル3内に埋設されてしまうことがなく、本実施形態においてはアンカーボルト4の一部が接合部において露出することになる。
そのようにアンカーボルト4の一部が露出しても構造的には特に支障はないが、防災上あるいは意匠上の都合により必要であれば露出部を適宜の耐火材により被覆したり適宜の仕上げ材により隠蔽する等の処理を施せば良い。但し、そのための耐火材や仕上げ材が鉄骨梁2の相対回転を無用に拘束したり、軽微な相対回転により容易に損傷してしまうことは好ましくなく、そのようなものは避けるべきであることは当然である。
【0019】
また、従来の敷きモルタル3は鉄骨梁2の自重等による支圧力を柱頭部のほぼ全面に対して伝達する支圧機能を有するものでしかないが、本実施形態の支圧部20はそのような支圧機能に加えて地震等による水平力による水平せん断力を伝達する機能も有するものとされている。
そして、本実施形態では、支圧部20にそのような水平せん断力の伝達機能を持たせるために、支圧部20は鉄骨梁2と柱頭部の双方に対して少なくとも鉄骨梁2の軸方向へは相対変位不能な状態で係合せしめられている。具体的には、柱頭部にはシアコッターとしての溝21が形成されていて、その溝21内に支圧部20の下端部が嵌め込まれた状態で支圧部20が形成されている。また、鉄骨梁2の下面には鉄筋あるいはスタッド等のシアキー22が突設されていて、支圧部20はそのシアキー22を埋設する状態で形成されている。
これにより、支圧部20は鉄骨梁2および柱頭部の双方に対して少なくとも鉄骨梁2の軸方向への相対変位が拘束され、したがって鉄骨梁2と柱頭部との間での鉄骨梁2の軸方向の水平せん断力はアンカーボルト4を介して伝達されるばかりでなく、主としてこの支圧部20を介して有効に伝達可能とされている。
【0020】
このように、鉄骨梁2と柱頭部との間に支圧部20を介装するとともに、その支圧部20を介して支圧力(鉛直方向のせん断力)のみならず水平方向の水平せん断力も伝達する構造とすることにより、本実施形態においては支圧部20を介して柱頭部に伝達される支圧力と水平せん断力の双方の相乗作用によって柱頭部にそれらの合力が作用し、その合力の方向は
図1(a)に仮想の応力作用線Sとして示すように支圧部20の両側から斜め下方に向かうものとなる。
【0021】
この場合、柱頭部にはそのような斜め下方の合力を受けることによって特に応力作用線Sの外側において被りコンクリートに剥落が生じ易いものとなるので、本実施形態ではそれを防止するために、RC柱1に多段に埋設されているせん断補強筋6のうちの少なくとも最上段に配筋されているせん断補強筋6aの内側を応力作用線Sが通るように、そのせん断補強筋6aの配筋位置を適切に設定している。
換言すれば、上記の支圧力と水平せん断力の合力として作用する仮想の応力の方向を考慮したうえで、その応力作用線Sを外側から少なくとも最上段のせん断補強筋6aによって囲繞することで被りコンクリートを補強しているのであり、最上段に配筋されるせん断補強筋6aの位置はそのような補強効果が確実に得られるように、想定される支圧力と水平せん断力の双方の大きさと関連づけて適切に設定されている。
具体的には、応力作用線Sの水平に対する傾斜角は支圧力と水平せん断力の大きさにより決定され、支圧力よりも水平せん断力が卓越すれば水平に近くなり、逆であれば鉛直に近くなるから、それに応じて少なくとも最上段のせん断補強筋6aが応力作用線Sの外側になるようにその上下方向の位置を適切に調整すれば良い。
【0022】
上記のような本実施形態の接合構造によれば、鉄骨梁2と柱頭部との間に支圧部20を介在させるとともに、その支圧部20を鉄骨梁2の幅方向に細長い形状としているので、柱頭部に対する鉄骨梁2の鉛直面内における相対回転が拘束され難いものとなり、したがって可及的に本来のピン接合に近い構造となって曲げモーメントの伝達が十分に防止され、以て、従来においては懸念される過度の曲げモーメントが伝達されてしまうことによる柱頭部の想定外の損壊を確実に防止し得る。
【0023】
また、支圧部20を介して支圧力を柱頭部の中心部に集中させ、かつ同時に水平せん断力を伝達するので、支圧部20がアンカーボルト4によるせん断力伝達機能を補完して全体として十分かつ安定なせん断力伝達性能を確保し得る。
そして、鉄骨梁2から支圧部20を介して柱頭部に伝達される支圧力と水平せん断力の双方を考慮したうえで、それらの相乗作用により柱頭部に作用する斜め下方の合力に対して被りコンクリートを補強するべく、最上段のせん断補強筋6aを適切な位置に配筋しているので、従来のように大規模地震により柱頭部の被りコンクリートが早期に剥落してしまうといった被害や、それに伴うアンカーボルト4の定着強度が早期に低下してしまうような事態を確実に防止することができ、以上のことから構造安全性と信頼性を十分に向上させることが可能である。
【0024】
勿論、本実施形態における支圧部20は、従来のように敷きモルタル3を単に面的に形成することに代えて、柱頭部において鉄骨梁2の幅方向に細長い敷きモルタルとして形成すれば良く、かつその支圧部20を鉄骨梁2と柱頭部の双方に対して少なくとも鉄骨梁2の軸方向の水平変位を拘束する状態で形成すれば良いので、実質的にピン接合とするために何ら特殊な機構や面倒な施工の手間を必要とせず、
図4に示した従来一般の接合構造に比較してコスト増になる要素はない。また、柱頭部の被りコンクリートの剥落を防止するためには最上段のせん断補強筋6aの配筋位置を適切に設定するだけで良く、他の格別の補強筋を増強する必要もないから、この点においても極めて合理的である。
【0025】
以上で本発明の基本的な実施形態について説明したが、
図2〜
図3を参照して他の実施形態を説明する。
上記実施形態はRC柱1が外周柱であってその柱頭部に鉄骨梁2の先端部を接合する場合の適用例であるが、
図2に示す実施形態はRC柱1が内周柱である場合においてその柱頭部に対して鉄骨梁2の中間部を接合する場合の適用例である。
この場合は
図2に示すようにRC柱1の軸芯を挟んで左右対称形をなすように構成すれば良く、それにより上記実施形態と全く同様の効果が得られる。
【0026】
図3はさらに他の実施形態を示すもので、
図5に示した従来の構造のようにRC柱1の柱頭部に側部に突出するコーベル8を一体に設けて、鉄骨梁2の先端部をコーベル8を介して柱頭部に対して接合する場合の適用例である。
この場合も基本的には鉄骨梁2の先端部をコーベル8に対して上記実施形態と同様の支圧部20を介して支圧伝達可能かつ水平せん断力伝達可能に接合し、かつ、それにより想定される仮想の応力作用線Sがコーベル8に配筋されているかんざし筋23のうちの少なくとも最上段のかんざし筋23aの内側を通るように(換言すればその最上段のかんざし筋23aの配筋位置が応力作用線Sの外側となるように)設定することにより、上記実施形態と同様に機能し同様の効果が得られる。
【0027】
なお、
図3に示す実施形態における支圧部20は、
図1,
図2に示した実施形態の場合と同様にコーベル8の上面の中心部において鉄骨梁2の幅方向に細長い形状に形成することで十分であるが、図示例のように支圧部20の外側(RC柱1側)に対して通常の敷きモルタル3を延長する形態で一体に形成しておいても特に支障はない。
この場合、その敷きモルタル3を介してコーベル8に対して支圧力や水平せん断力が伝達されたとしても、RC柱1側の被りコンクリートの剥落の懸念はない。しかし、敷きモルタル3を介して過大な支圧力がコーベル8や柱頭部に対して無用に作用してしまったり、コーベル8に対する鉄骨梁2の相対回転が大きく損なわれてしまうことは好ましくないから、そのような敷きモルタル3を設けるとしても、上述したような本発明の効果が支障なく得られる範囲に限定すべきであることは当然である。
【符号の説明】
【0028】
1 RC柱(鉄筋コンクリート柱)
2 鉄骨梁
3 敷きモルタル
4 アンカーボルト
5 柱主筋
6、6a せん断補強筋
7 補強リブ
8 コーベル
9 コーベル主筋
10 コーベルせん断補強筋
20 支圧部
21 溝(シアコッター)
22 シアキー
23、23a かんざし筋
S 応力作用線