(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トンネル工事に際して切羽の近傍位置に配置した吸気口から坑内の空気を吸引して集塵機により集塵を行うとともに、前記吸気口よりも坑口側の位置に配置した送気口から坑内に新鮮空気を送気する構成のトンネル工事における換気システムであって、
前記送気口よりも坑口側の位置に坑内を切羽側と坑口側に仕切る防塵隔壁を設け、
前記防塵隔壁は、坑内の空気を通気可能かつ空気中の粉塵を捕集可能なフィルターとして機能する通気性シート材により形成されてなることを特徴とするトンネル工事における換気システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のトンネル工事における換気システムの一実施形態について
図1〜
図4を参照して説明する。
本実施形態の換気システムは請求項2記載の発明に対応するもので、
図1〜
図2に示すように、トンネル工事に際して切羽1の近傍位置に配置した吸気口4から坑内の空気を吸引して集塵機2により集塵を行うとともに、吸気口4よりも後方(坑口側)の位置に配置した送気口7から坑内に新鮮空気を送気することを基本とする。
【0011】
具体的には、本実施形態における集塵機2は掘進に追随して坑内を移動可能な自走式のもので、この集塵機2に接続した延伸式の集塵ダクト3の先端を切羽1の近傍位置(たとえば切羽1から5〜10m程度後方の位置)に配置することにより、切羽近傍で発生する高濃度の粉塵を含む汚染空気を集塵ダクト3を通して吸気口4から吸引して集塵処理を行い、集塵後の清浄な空気を坑内の後方(坑口側)に向けて放出するものである。
なお、掘進に伴って集塵ダクト3を漸次前方(切羽側)に延伸していき、かつ集塵機2を漸次前進させていくことになるが、集塵ダクト3はたとえば60〜80m程度の範囲で延伸可能なものとしておくことが好適である。
また、集塵機2の内蔵ファンによる集塵風量(吸気口4からの吸気風量)はトンネル規模その他の状況に応じて適切に設定すれば良いが、本実施形態ではたとえば2400m
3/min程度とすることを想定している。
【0012】
一方、坑内には送気管5も設置されていて、
図2に示すようにその送気管5の坑口側の基端部には送気ファン6が接続されているとともに切羽側の先端に送気口7が設けられていて、送気ファン6によって送気管5を通して坑外の新鮮空気が上記の送気口7から坑内に吹き出されるようになっている。
本実施形態における送気口7は、周面に多数の吹出口が形成された筒状体を送気管5の先端部に装着した形態とされていて、それらの吹出口から新鮮空気を
図3に示すようにトンネル径方向に向けて放射状に吹き出すものとされている。
その送気口7の位置は集塵機2よりも前方(切羽側)かつ吸気口4よりも後方(坑口側)とされていて、たとえば集塵機2よりも40m程度前方の位置とすることが好ましい(その場合、仮に集塵ダクト3の長さが上記のように60〜80m程度の場合には、送気口7の位置は吸気口4からは20〜40m程度後方の位置となる)。
【0013】
なお、送気ファン6により坑内に送気する新鮮空気量(送気口7からの送気風量)は、坑内における酸素量の維持や可燃性ガスの希釈、あるいは冷却効果を得るための必要となる所要換気量を考慮して、送気風量をそれと同等ないしそれよりも多く設定することが好ましく、そのうえで集塵風量を送気風量よりも多くして切羽付近がやや負圧となるようにすることが好ましい。すなわち、所要換気量≦送気風量<集塵風量 とすることが好ましく、本実施形態ではたとえば集塵風量が上記のように2400m
3/min程度の場合には送気風量を2000m
3/min程度とすることを想定している。
【0014】
以上の構成のもとに、本実施形態の換気システムでは、切羽近傍位置に設けた吸気口4から汚染空気を吸引して集塵機2により集塵を行うとともに、吸気口4の後方位置に設けた送気口7から新鮮空気を送気することにより、特に切羽近傍の空気環境を清浄に維持することができる。
すなわち、吸気口4が切羽近傍に設けられているので、そこで発生した多量の粉塵を含む高濃度の汚染空気は吸気口4により速やかに吸引されて集塵機2により集塵処理され、それと同時に送気口7から送気された新鮮空気は前方(切羽側)に向かって流れていくので、送気口7よりも前方の坑内においては自ずと前方に向かって一方向に流れるような空気流が形成される。
【0015】
この場合、送気口7は多数の吹出口から新鮮外気を径方向に放射状に吹き出すので、そのように吹き出された新鮮外気はトンネル断面全体に広がったうえで切羽1に向かって流れることになり、そのような空気流は実質的にエアカーテンとして機能するものとなるから、送気口7と吸気口4との間には坑内を坑口側と切羽側に区画するエアカーテンゾーンが自ずと形成される。
したがって、切羽1で発生した汚染空気はそのエアカーテンゾーンの前方に形成される切羽近傍のごく狭い空間内に封じ込まれたうえで吸気口4から確実かつ速やかに吸引されてしまい、その結果、汚染空気が坑内の広範囲にわたって無用に拡散してしまうことがなく、切羽近傍を除いて坑内全体の空気環境を十分に清浄に維持することが可能である。
【0016】
このように、本実施形態の換気システムでは基本的に優れた換気効果が得られるものではあるが、汚染空気を処理するために必要となる集塵風量(吸気口4による吸気風量)と、送気口7による送気風量(新鮮空気の供給量)とのバランスによっては換気効果が損なわれることも想定されることから、本実施形態の換気システムではその対策のために坑内を切羽側と坑口側に仕切るための防塵隔壁8を設けている。
【0017】
すなわち、本実施形態の換気システムでは、坑内を良好な空気環境に維持するためには、上述したように基本的には所要換気量よりも送気風量を多くし、かつ送気風量よりも集塵風量を多くするように設定する(すなわち 所要換気量≦送気風量<集塵風量 とする)こととして、切羽近傍に対して十分な新鮮空気を供給したうえで切羽近傍をやや負圧にした状態で運転することが好ましいのではあるが、トンネル工事においては様々な事情によりそのような状態を厳密に維持できない場合もあり、ときには吸気風量と集塵風量との適正な風量バランスが崩れて換気効果が損なわれてしまうことも想定される。
【0018】
たとえば、上記のように 送気風量<集塵風量 に設定する場合において、切羽1が過度に負圧となると集塵風量の一部が坑口側から切羽側に戻り風となって切羽側へ流れ込んでエアカーテンゾーンの粉塵汚染の原因となる場合がある。
また、所要換気量によっては送気風量を特に多くして上記とは逆に 送気風量>集塵風量 とする場合もあり、その場合においては切羽側が正圧になるのであるが、切羽側が過度に正圧になると送気風量の一部が切羽側から坑口側に戻り風となって流れ出ることになり、その結果、エアカーテンゾーンが乱れてしまって汚染空気が坑口側に流出する場合もあり得る。
さらに、送気風量=集塵風量 となる場合も想定されるが、その場合には戻り風は生じないものの集塵機2と送気口7との間においては殆ど空気流が生じないので、そこでは坑内空気が停滞してしまって空気環境を良好に維持し難いものとなる。
【0019】
そこで本実施形態の換気システムでは、集塵風量と送気風量との適切な風量バランスがくずれたような場合においても換気効果が大きく損なわれてしまうことを防止するべく、
図1〜
図2に示すように、送気口7よりも坑口側の位置に防塵隔壁8を設けている。
【0020】
本実施形態における防塵隔壁8は、坑内の空気を通気可能でありかつその空気中の粉塵を捕集可能なフィルターとして機能する通気性シート材により形成されているもので、
図4に示すように集塵ダクト3および送気管5はこの防塵隔壁8の上部を貫通する状態で設置されている。
また、防塵隔壁8の中央部には作業車両等を通過させるための開口部が設けられているとともに、その開口部には同じく通気性シート材からなる巻き取り可能なシャッター9が設けられていて、通常時においてはシャッター9を降ろしてその両側部をファスナーによって仕防塵隔壁8に対して固着することにより開口部を閉じておき、必要時にのみシャッター9を巻き上げて開口部を開くことにより作業車両等を支障なく通過させることができるようにされている。
なお、防塵隔壁8の設置位置は掘進に応じて漸次前方に移設していく必要があるので、可及的に簡易に盛り代え可能に設置し得るものとしておくことが望ましい。
【0021】
このような防塵隔壁8によって坑内を坑口側と切羽側に区画することにより、切羽側が過度に負圧あるいは正圧になったとしても、それに起因して上記のように換気効果が損なわれてしまうことを有効に防止することができる。
【0022】
すなわち、送気風量<集塵風量 として運転している場合において、何らかの事情により切羽側が過度に負圧となって切羽側に向かって戻り風が生じる事態となった際には、その戻り風は防塵隔壁8を形成している通気性シート材を通過して坑口側から切羽側に向かって流れることになるが、その際に防塵隔壁8はそれ自体がフィルターとして機能して戻り風中の粉塵を捕集してしまい、したがって切羽側の粉塵濃度の上昇を有効に防止可能である。
逆に、送気風量>集塵風量 となって切羽側が過度に正圧になった場合には切羽側から坑口側に向かって戻り風が生じる事態となるが、その際にはその戻り風が防塵隔壁8を形成している通気性シート材を通過する際に防塵隔壁8がフィルターとして機能して戻り風中の粉塵を捕集するので、坑口側からの汚染空気がそのまま多量に流出してしまうことを防止可能である。
なお、上記のように防塵隔壁8はそれ自体が両方向の戻り風に対してフィルターとして機能するものであって、戻り風の方向によって坑口側あるいは切羽側の表面において粉塵を捕集するものであるから、捕集した粉塵を除去するための保守作業を定期的あるいは必要に応じて適宜実施すれば良い。
また、防塵隔壁8は必ずしもその全面を通気性シート材により形成することはなく、想定される通気量と通気抵抗を考慮して必要最少限の範囲に通気性シート材を用いるとともに他の部分は通気性を有しない通常のシート材を用いることも考えられ、場合によっては開口部に設けるシャッター9のみを通気性シート材により形成して防塵隔壁8自体は通常のシート材とする(あるいは逆に、防塵隔壁8自体を通気性シート材により形成してシャッター9は通常のシート材とする)ようなことも考えられる。
【0023】
以上のように、本実施形態の換気システムによれば、切羽1の近傍位置に配置した吸気口4から坑内の空気を吸引して集塵機2により集塵処理を行うとともに、吸気口4よりも坑口側の位置に配置した送気口7から坑内に新鮮空気を送気することにより、送気口7と吸気口4との間にエアカーテンゾーンを形成したうえでその前方において発生する高濃度粉塵を含む汚染空気を効率的に集塵処理することが可能である。
しかも、送気口7よりも坑口側の位置にフィルターとして機能する防塵隔壁8を設けたことにより、送気風量と集塵風量との風量バランスが大きくくずれたような場合においても換気効果が低下してしまうことを有効に防止でき、トンネル内の空気環境を常に良好に維持できるものである。
勿論、本実施形態における防塵隔壁8は土木建築工事分野において仮設資材等として多用されている安価な通気性シート材を利用することで簡易に設置することができるし、その防塵隔壁8を利用して戻り風に対する粉塵捕集を行うために何らの操作や制御も必要としないから、これを設置するために要する設備費のコスト増は些少であるし、それを設置したがために換気に要する運転費が増大することもない。
【0024】
以上で本発明の基本的な一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、たとえば以下のような変形や応用が可能である。
【0025】
本発明では上記実施形態(請求項2記載の発明に対応)のように防塵隔壁8がフィルターとして機能するように構成することが好ましく、そのために防塵隔壁8の少なくとも一部を通気性シート材により形成することが最適ではあるが、本発明はそれに限るものではなく、請求項3に記載の発明のように防塵隔壁8を通気不能に形成したうえで、
図5に示すようにその防塵隔壁に坑内の空気を通過させつつ集塵処理を行うために内蔵ファンを備えた集塵装置10を組み込む構成とすることも考えられる。
この場合、防塵隔壁8としては通気性を有しない通常のシート材により形成することが現実的であるが、あるいは適宜の壁パネル等の壁材を利用することでも良い。いずれにしても、上記実施形態の場合と同様に掘進に応じて防塵隔壁8の設置位置を適宜変更する必要があるので、可及的に簡易にかつ安価に設置し得るものであることが望ましく、作業車両等を通すための開口部とそれを開閉するシャッターないし扉を設けておけば良い。
また、その防塵隔壁8に組み込む集塵装置10は、上記実施形態と同様に、切羽側が過度に負圧となった場合における坑口側から切羽側へ向かって流れる戻り風と、逆に切羽側が過度に正圧となった場合における切羽側から坑口側に向かって流れる戻り風の双方に対して集塵処理を行うことが好ましい。
そのためには双方向の集塵機能を有する集塵装置10を用いるか、あるいはいずれか一方向の集塵機能を有する少なくとも2台の集塵装置10を逆向きとして設置することでも良い。なお、戻り風がいずれか一方向にのみ生じることを想定することで十分な場合(他方向の戻り風を考慮する必要がない場合)には、その方向の戻り風に対する集塵処理を行うための集塵装置10を設置すれば良い。いずれにしても、防塵隔壁8の前後の差圧に応じて集塵装置10を適切に運転し制御するように構成すれば良い。
【0026】
さらに、本発明では上記各実施形態のように防塵隔壁8の前後において差圧が生じた際には坑内空気を通過させてその際に集塵処理を行うように構成することが好ましいが、要は請求項1に記載の発明のように送気口7よりも坑口側の位置に防塵隔壁8を設けることによって防塵効果が確保できれば良く、その限りにおいて防塵隔壁8は坑内空気の通過を完全に遮断するものであって良い。
その場合、防塵隔壁8は
図5に示した実施形態と同様に通気性を有しないシート材や適宜の壁パネル等の壁材により構内を単に気密裡に区画するものとして設置すれば良く、必要に応じて作業車両等を通すための開口部とそれを開閉するシャッターないし扉を設けておけば良い。
この場合には、防塵隔壁8よりも切羽側の領域は坑口側とは完全に仕切られた閉鎖空間となるので、切羽近傍で発生する汚染空気が坑口側に流出したり坑口側から切羽側に向かって坑内空気が無用に流入することを確実に防止できる。
但し、この場合は必然的に 送気風量=集塵風量となるように双方の風量を制御する必要があるし、送気風量≠集塵風量 の場合には集塵機2の内蔵ファンと送気ファン6の能力およびこの換気システム全体の通風抵抗との兼ね合いによって自ずと一定の風量にバランスすることになる。そのため、この場合には送気口7と吸気口4との間では十分な空気流が生じてそこにはエアカーテンゾーンが安定に形成されるものの、防塵隔壁8と送気口7との間においては殆ど空気流が生じないのでそこでは坑内空気が停滞してしまうから、その領域では空気環境が良好に維持されないことが許容される場合に限って適用すべきである。