特許第5984010号(P5984010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984010
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20160823BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20160823BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B62D3/12 503A
   B62D3/12 501B
   B62D5/04
   F16H19/04 N
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-235046(P2012-235046)
(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公開番号】特開2014-84002(P2014-84002A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】米谷 豪朗
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−151132(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0144636(US,A1)
【文献】 特開2005−247080(JP,A)
【文献】 特開平11−020717(JP,A)
【文献】 米国特許第04218933(US,A)
【文献】 特開平03−193556(JP,A)
【文献】 実開昭64−018977(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
B62D 5/04
F16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングを挿通し、軸方向に対向する第1端部と第2端部とを有し、これら両端部のうち前記第1端部に相対的に近い第1ラックと両端部のうち前記第2端部に相対的に近い第2ラックとを中心軸線に対して同側に有するラック軸と、
前記第1ラックに噛み合う第1ピニオンを有する第1ピニオン軸と、
前記第2ラックに噛み合う第2ピニオンを有し、前記ラック軸の中心軸線を含み且つ前記第1ピニオン軸の中心軸線と平行な平面に対して、前記第1ピニオン軸と同側に配置された第2ピニオン軸と、
前記ハウジングにより保持されて、前記第1ラックの背部から前記ラック軸を前記第1ピニオン側に向けて付勢する第1ラックガイドと、
前記ハウジングにより保持されて、前記第2ラックの背部から前記ラック軸を前記第2ピニオン側に向けて付勢する第2ラックガイドと、
前記ハウジングにより支持され、前記ラック軸の第1端部を軸方向に摺動可能に支持し且つ前記ラック軸を前記第1ピニオンに向けて付勢する第1ラックブッシュと、
前記ハウジングにより支持され、前記ラック軸の第1端部を軸方向に摺動可能に支持し且つ前記ラック軸を前記第1ピニオンおよび前記第2ピニオンに向けて付勢する第2ラックブッシュと、を備えるステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第2ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記第1ピニオン軸と前記第2ピニオン軸との間に配置されているステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第1ピニオン軸は、操舵補助力伝達用であり、
前記第2ピニオン軸は、マニュアル操舵力伝達用であり、
前記ラック軸を支持する軸受として、前記第1ラックブッシュおよび前記第2ラックブッシュのみが設けられているステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式のステアリング装置において、ハンドルからのマニュアル操舵力を伝達する主ピニオンと、電動モータによる操舵補助力を伝達する補助ピニオンとを、ラック軸の対応するラックにそれぞれ噛み合わせた2ピニオン式のステアリング装置が提案されている。
通例、ラック軸の一対の端部は、ハウジングに保持されたラックブッシュにより軸方向に摺動可能に支持されている。特許文献1では、ラック軸の一対の端部のうち、補助ピニオンに近い側の端部が、ラックブッシュとしての偏心軸受ブッシュによって受けられている。偏心軸受ブッシュは、その回動位置によってラック軸を枢支する位置を変化させて、補助ピニオンとラック軸との噛合状態を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭64−18977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
補助ピニオンに近い側のラック軸の端部を支持するラックブッシュ(偏心軸受ブッシュ)の付勢力が、補助ピニオンとラック軸との噛合部を支点として、ラック軸に曲げモーメントを働かせ、その曲げモーメントの影響で、主ピニオンとラック軸との噛合部のバックラッシが増大して噛み合いが弱まり、噛み合い音による騒音を発生するおそれがある。
そこで、本発明の目的は、ラックブッシュの付勢に起因するバックラッシの増大を抑制することができるステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、ハウジング(3)を挿通し、軸方向(X1)に対向する第1端部(11)と第2端部(12)とを有し、これら両端部のうち前記第1端部に相対的に近い第1ラック(4)と両端部のうち前記第2端部に相対的に近い第2ラック(5)とを中心軸線(CR)に対して同側に有するラック軸(6)と、前記第1ラックに噛み合う第1ピニオン(7)を有する第1ピニオン軸(8)と、前記第2ラックに噛み合う第2ピニオン(9)を有し、前記ラック軸の中心軸線を含み且つ前記第1ピニオン軸の中心軸線(C1)と平行な平面に対して、前記第1ピニオン軸と同側に配置された第2ピニオン軸(10)と、前記ハウジングにより保持されて、前記第1ラックの背部から前記ラック軸を前記第1ピニオン側に向けて付勢する第1ラックガイド(39)と、前記ハウジングにより保持されて、前記第2ラックの背部から前記ラック軸を前記第2ピニオン側に向けて付勢する第2ラックガイド(49)と、前記ハウジングにより支持され、前記ラック軸の第1端部を軸方向に摺動可能に支持し且つ前記ラック軸を前記第1ピニオンに向けて付勢する第1ラックブッシュ(16)と、前記ハウジングにより支持され、前記ラック軸の第1端部を軸方向に摺動可能に支持し且つ前記ラック軸を前記第1ピニオンおよび前記第2ピニオンに向けて付勢する第2ラックブッシュ(17)と、を備えるステアリング装置(1)を提供する。
【0006】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
請求項2のように、前記第2ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記第1ピニオン軸と前記第2ピニオン軸との間に配置されていてもよい。
【0007】
請求項3のように、前記第1ピニオン軸は、操舵補助力伝達用であり、前記第2ピニオン軸は、マニュアル操舵力伝達用であり、前記ラック軸を支持する軸受として、前記第1ラックブッシュおよび前記第2ラックブッシュのみが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、ラック軸の第1端部に配置されてラック軸を第1ピニオン側へ付勢する第1ラックブッシュによる付勢力が、第1ピニオンと第1ラックガイドとでラック軸を挟持する位置を支点として、ラック軸を第2ピニオンから引き離す方向へのモーメントを生じさせる。その第1ラックブッシュによるモーメントに抗して、第2ラックブッシュが、ラック軸を両ピニオン側へ付勢しているので、第2ピニオンと第2ラックとの間のバックラッシの増大を抑制することができる。
【0009】
具体的には、請求項2のように、ラック軸の軸方向に関して第1ピニオン軸と第2ピニオン軸との間に配置された第2ラックブッシュが、第1ピニオンと第1ラックガイドとでラック軸を挟持する位置を支点として、第1ラックブッシュによるモーメントに抗するモーメントを生じさせる。これにより、第2ピニオンと第2ラックとの間のバックラッシの増大を確実に抑制することができる。
【0010】
請求項3の発明によれば、下記の作用効果を奏する。すなわち、仮に、マニュアル操舵力伝達用の第2ピニオンに相対的に近いラック軸の第2端部に、ラックブッシュを配置した場合、そのラックブッシュは、前記支点からの距離が遠いので、前記支点を中心として大きなモーメントを生じさせる。その大きなモーメントに抗して、第1ラックブッシュが、大きな反力モーメント成分を生じることになる。したがって、第2端部に配置されたラックブッシュおよび第1ラックブッシュが、ともにラック軸に対して大きな摩擦抵抗を生じ、操舵フィーリングが悪くなるおそれがある。これに対して、本発明では、第2端部にラックブッシュが配置されていないので、ラック軸の移動に抗する摩擦抵抗の増大を抑制して、良好な操舵フィーリングを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態のステアリング装置の概略図である。
図2図1のステアリング装置において、ラック軸と両ピニオン軸の模式的側面図であり、ラック軸の軸方向から見た両ピニオン軸の配置態様を示している。
図3】ラック軸と両ピニオン軸の模式的側面図であり、ラック軸の軸方向から見た両ピニオン軸の配置態様の変更例を示している。
図4】ラック軸と両ピニオン軸の模式的正面図であり、ラック軸の中心軸線および第1ピニオン軸の中心軸線の双方に直交する方向から見た両ピニオン軸の配置態様の変更例を示している。
図5図1のステアリング装置の要部の概略断面図であり、操舵補助力伝達用の第1ピニオン軸の中心軸線に沿って切断した断面を示している。
図6図1のステアリング装置の要部の概略断面図であり、マニュアル操舵力伝達用の第2ピニオン軸の中心軸線に沿って切断した断面を示している。
図7】第1ラックブッシュの概略斜視図である。
図8A】第1ラックブッシュによる支持構造の概略断面図である。
図8B図8Aの8B−8B線に沿う断面図であり、第1ラックブッシュの環状部とラック軸との関係を示している。
図8C図8Aの8C−8C線に沿う断面図であり、第1ラックブッシュの断面円弧状部とラック軸との関係を示している。
図9】第2ラックブッシュの概略斜視図である。
図10A】第2ラックブッシュによる支持構造の概略断面図である。
図10B図10Aの10B−10B線に沿う断面図であり、第2ラックブッシュの環状部とラック軸との関係を示している。
図10C図10Aの10C−10C線に沿う断面図であり、第2ラックブッシュの断面円弧状部とラック軸との関係を示している。
図11図1のステアリング装置においてラック軸を支持する構造の模式図である。
図12】本発明の参考形態形態のステアリング装置においてラック軸を支持する構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態のステアリング装置の概略図である。図1を参照して、ステアリング装置1は、ラックアンドピニオン機構からなる転舵機構2を備えている。転舵機構2は、車体に固定された筒状の第1ハウジング3(ラックハウジングに相当)を挿通し、軸方向X1に離隔したはす歯の第1ラック4とはす歯の第2ラック5とを有する転舵軸としてのラック軸6と、第1ラック4に噛み合うはす歯の第1ピニオン7を有する第1ピニオン軸8と、第2ラック5に噛み合うはす歯の第2ピニオン9を有する第2ピニオン軸10と、ラック軸6の軸方向X1の第1端部11および第2端部12にそれぞれタイロッド13およびナックル14を介して連結された転舵輪15とを備えている。
【0013】
第2ピニオン軸10は、マニュアル操舵力伝達用であり、運転者がステアリングホイール等の操舵部材18に与えるマニュアル操舵力を伝達する。すなわち、操舵部材18は、ステアリングシャフト19、自在継手20、中間軸21、自在継手22を介してトルク伝達可能に第2ピニオン軸10に連結されている。
運転者が操舵部材18を操作することで、そのマニュアル操舵力(操舵トルク)により、ステアリングシャフト19、自在継手20、中間軸21、自在継手22、第2ピニオン軸10、ラック軸6、タイロッド13およびナックル14を介して転舵輪15を操舵することができる。すなわち、操舵部材18、ステアリングシャフト19、自在継手20、中間軸21、自在継手22、第2ピニオン軸10、ラック軸6によってマニュアル操舵系MSが構成されている。
【0014】
第1ピニオン軸8は、操舵補助力伝達用である。すなわち、ステアリング装置1は、操舵補助機構23を備えている。操舵補助機構23は、操舵補助力を発生する電動モータ24と、電動モータ24の回転出力を減速して第1ピニオン軸8に伝達するウォームギヤ機構等の減速機構25とを備えている。
電動モータ24は、車体に固定されたモータハウジング26と、出力軸としての回転軸27とを備えている。減速機構25は、継手28を介して回転軸27とトルク伝達可能に連結されたウォーム軸等の駆動ギヤ29と、駆動ギヤ29と噛み合い第1ピニオン軸8と一体回転可能に連結されたウォームホイール等の被動ギヤ30とを備えている。
【0015】
マニュアル操舵系MSのステアリングシャフト19から第2ピニオン軸10までの経路の何れかの位置に、操舵部材18に加えられた操舵トルクを検出するトルクセンサ31が配置されている。
トルクセンサ31のトルク検出結果は、ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)32に与えられる。ECU32では、トルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、内蔵の駆動回路を介して電動モータ24を駆動制御する。電動モータ24の出力回転が減速機構25を介して減速されて第1ピニオン軸8に伝達され、ラック軸6の直線運動に変換されて、操舵が補助される。
【0016】
第1ラック4と第2ラック5とは、ラック軸6の中心軸線CRに対して同側の面に設けられ、第1ピニオン軸8と第2ピニオン軸10とは、ラック軸6に対して同側に配置されている(概略図である図11も参照)。具体的には、ラック軸6を軸方向から見た模式図である図2ないし図3図2および図3において、紙面と直交する方向がラック軸6の軸方向X1に相当する)に示すように、第2ピニオン軸10は、ラック軸6の中心軸線CRを含み且つ第1ピニオン軸8の中心軸線C1と平行な平面PPに対して、第1ピニオン軸8と同側に配置されている。
【0017】
第1ピニオン軸8と第2ピニオン軸10とは概ね平行に配置されている。具体的には、ラック軸6の軸方向から見たときに、図2に示すように、第1ピニオン軸8の中心軸線C1と第2ピニオン軸10の中心軸線C2とが一致するか、或いは、図3に示すように、第1ピニオン軸8の中心軸線C1と第2ピニオン軸10の中心軸線C2とのなす角度θ1の絶対値|θ1|が、0<|θ1|≦30°の範囲内の角度に設定されている。
【0018】
また、ラック軸6の中心軸線CRおよび第1ピニオン軸8の中心軸線C1の双方に直交する方向から見たときに、図1に示すように、第1ピニオン軸8の中心軸線C1と第2ピニオン軸10の中心軸線C2とが平行であるか、或いは、図4に示すように、第1ピニオン軸8の中心軸線C1と第2ピニオン軸10の中心軸線C2とのなす角度θ2の絶対値|θ2|が、0<|θ2|≦30°の範囲内の角度に設定されている。
【0019】
再び図1を参照して、ラック軸6は、第1ハウジング3により保持され、ラック軸6の軸方向X1に離隔した第1ラックブッシュ16と第2ラックブッシュ17とにより、軸方向X1に摺動可能に支持されている。図1において、第1ラックブッシュ16と第2ラックブッシュ17とは、模式的に示されている。
ラック軸6の第1端部11は、第1ピニオン軸8に相対的に近く且つ第2ピニオン軸10から相対的に遠い。また、ラック軸6の第2端部12は、第1端部11とは反対側の端部であり、第2ピニオン軸10に相対的に近く且つ第1ピニオン軸8から相対的に遠い。
【0020】
第1ラックブッシュ16は、ラック軸6の第1端部11を軸方向X1に摺動可能に支持し、且つラック軸6を第1ピニオン7側へ付勢する機能を果たしている。
第2ラックブッシュ17は、ラック軸6の軸方向X1に関して両ピニオン軸8,10の間に配置されている。第2ラックブッシュ17は、ラック軸6を第1ピニオン7および第2ピニオン9側へ付勢する機能を果たしている。
【0021】
より具体的には、第2ラックブッシュ17は、ラック軸6の軸方向X1に関して、第1ピニオン軸8と第2ピニオン軸10との間の中央位置P1よりも、第1ピニオン軸8側に配置されている。
図5は、操舵補助力伝達用の第1ピニオン軸8の中心軸線に沿って切断した、ステアリング装置1の要部の概略断面図である。図5に示すように、ラック軸6が挿通された第1ハウジング3と交差状に連続した筒状の第2ハウジング33が設けられている。第2ハウジング33内には、ラック軸6が挿通されるとともに、第1ピニオン軸8および減速機構25が収容されている。
【0022】
第2ハウジング33は、第1ピニオン軸8および被動ギヤ30を収容した本体部34と、本体部34の一端の開口を閉塞した蓋部35と、本体部34に連続し駆動ギヤ29を収容した駆動ギヤ収容部(図示せず)とを備えている。
第1ピニオン軸8は、蓋部35によって支持された例えば玉軸受からなる第1軸受36と、本体部34によって支持された例えば玉軸受からなる第2軸受37とによって回転可能に支持されている。第1ピニオン軸8の軸方向に関して、第1軸受36と第2軸受37との間に、被動ギヤ30が配置されている。また、第1ピニオン軸8の先端部は、本体部34によって支持された例えば針状ころ軸受からなる第3軸受38によって回転可能に支持されている。第1ピニオン軸8の軸方向に関して、第2軸受37と第3軸受38との間に、第1ピニオン7が配置されている。
【0023】
また、ステアリング装置1は、ラック軸6を挟んで第1ピニオン軸8とは反対側に配置され、第1ラック4の背部からラック軸6を第1ピニオン7側へ付勢する第1ラックガイド39を備えている。
第1ラックガイド39は、第2ハウジング33の本体部34に設けられた筒状の第1ガイドハウジング40と、第1ガイドハウジング40に形成された第1保持孔41内に第1保持孔41の深さ方向Z1およびその反対方向に摺動可能に収容され且つラック軸6を軸方向(図5において、紙面とは直交する方向)に摺動可能に支持する第1サポートヨーク42とを備えている。また、第1ラックガイド39は、第1保持孔41の入口にねじ込み固定された第1調整ねじ43と、第1調整ねじ43によって受けられ第1サポートヨーク42をラック軸6側に弾性的に付勢する例えば圧縮コイルばねからなる第1付勢部材44と、第1調整ねじ43を第1ガイドハウジング40に止定する第1ロックナット45とを備えている。
【0024】
第1調整ねじ43は、深さ方向Z1およびその反対方向に関して第1サポートヨーク42を可動させる隙間の量(第1調整ねじ43と第1サポートヨーク42との間の隙間量に相当)を規制する。第1付勢部材44が、第1サポートヨーク42を介して、ラック軸6の第1ラック4を第1ピニオン軸8の第1ピニオン7に押圧する。これにより、第1ラック4と第1ピニオン7との噛み合い部に予圧が与えられ、バックラッシが抑制される。
【0025】
次いで、図6は、マニュアル操舵力伝達用の第2ピニオン軸10の中心軸線に沿って切断した、ステアリング装置1の要部の概略断面図である。図6に示すように、ラック軸6が挿通された第1ハウジング3と交差状に第3ハウジング46が設けられている。第3ハウジング46内には、ラック軸6が挿通されるとともに、第2ピニオン軸10が収容されている。
【0026】
第2ピニオン軸10は、第3ハウジング46によって支持された例えば玉軸受からなる第4軸受47と、第3ハウジング46によって支持された例えば針状ころ軸受からなる第5軸受48とによって回転可能に支持されている。第2ピニオン軸10の軸方向に関して、第4軸受47と第5軸受48との間に、第2ピニオン9が配置されている。
また、ステアリング装置1は、ラック軸6を挟んで第2ピニオン軸10とは反対側に配置され、第2ラック5の背部からラック軸6を第2ピニオン9に向けて付勢する第2ラックガイド49を備えている。
【0027】
第2ラックガイド49は、第3ハウジング46に設けられた筒状の第2ガイドハウジング50と、第2ガイドハウジング50に形成された第2保持孔51内に第2保持孔51の深さ方向Z2およびその反対方向に摺動可能に収容され且つラック軸6を軸方向(図6において、紙面とは直交する方向)に摺動可能に支持する第2サポートヨーク52とを備えている。また、第2ラックガイド49は、第2保持孔51の入口にねじ込み固定された第2調整ねじ53と、第2調整ねじ53によって受けられ第2サポートヨーク52をラック軸6側に弾性的に付勢する例えば圧縮コイルばねからなる第2付勢部材54と、第2調整ねじ53を第2ガイドハウジング50に止定する第2ロックナット55とを備えている。
【0028】
第2調整ねじ53は、深さ方向Z2およびその反対方向に関して第2サポートヨーク52を可動させる隙間の量(第2調整ねじ53と第2サポートヨーク52との間の隙間量に相当)を規制する。第2付勢部材54が、第2サポートヨーク52を介して、ラック軸6の第2ラック5を第2ピニオン軸10の第2ピニオン9に押圧する。これにより、第2ラック5と第2ピニオン9との噛み合い部に予圧が与えられ、バックラッシが抑制される。
【0029】
第2ピニオン軸10の一端は、第3ハウジング46の一端の開口にねじ込み固定された蓋部材56を挿通して第3ハウジング46から突出し、図6では図示していないが、自在継手22を介して中間軸21に連結されている(図1を参照)。
ラック軸6の第1端部11を支持し、ラック軸6を第1ピニオン7側に向けて付勢する第1ラックブッシュ16は、図7および図8Aに示すように、第1ハウジング3に支持されてラック軸6の第1端部11の全周を取り囲む環状部60と、環状部60から軸方向に延びる断面円弧状部61とを備えており、例えば樹脂により形成されている。
【0030】
図8Aの8B−8B線に沿う断面図である図8Bに示すように、環状部60の外周60aには、径方向外方へ突出する係合凸部62が設けられている。環状部60の外周60aの係合凸部62は、第1ハウジング3の内周3aに設けられた係合凹部63に係合している。係合凸部62と係合凹部63との係合により、第1ラックブッシュ16の回転と軸方向移動とが規制されている。
【0031】
図8Aの8C−8C線に沿う断面図である図8Cに示すように、断面円弧状部61の内周61aには、複数の断面山形の弾性凸部64,65,66が、軸方向に延びる凸条として形成されている。各弾性凸部64,65,66は、断面円弧状部61の内周61aを構成する基準面である円筒面から突出する平坦面を形成している。弾性凸部64は、ラック軸6の周方向に関して、弾性凸部65と弾性凸部66との間の中央位置に配置されている。例えば弾性凸部64は、両弾性凸部65,66から、例えば45度の角度ピッチでラック軸6の周方向に離隔している。
【0032】
これら複数の弾性凸部64〜66が、互いに協力してラック軸6を第1ピニオン7側へ付勢している。すなわち、第1ラックブッシュ16は、複数の弾性凸部64〜66の合力である付勢力F1によって、ラック軸6を第1ピニオン7側に向けて付勢している。
また、ラック軸6の軸方向X1に関して両ピニオン軸8,10間の中間部に配置されてラック軸6を支持しつつ、ラック軸6を第1ピニオン7および第2ピニオン9側に向けて付勢する第2ラックブッシュ17は、図9および図10Aに示すように、第1ハウジング3に支持されてラック軸6の軸方向X1の中間部の全周を取り囲む環状部70と、環状部70から軸方向に延びる断面円弧状部71とを備えており、例えば樹脂により形成されている。
【0033】
図10Aの10B−10B線に沿う断面図である図10Bに示すように、環状部70の外周70aには、径方向外方へ突出する係合凸部72が設けられている。環状部70の外周70aの係合凸部72は、第1ハウジング3の内周3aに設けられた係合凹部73に係合している。係合凸部72と係合凹部73との係合により、第1ラックブッシュ16の回転と軸方向移動とが規制されている。
【0034】
図10Aの10C−10C線に沿う断面図である図10Cに示すように、断面円弧状部71の内周71aには、複数の断面山形の弾性凸部74,75,76が、軸方向に延びる凸条として形成されている。各弾性凸部74,75,76は、断面円弧状部71の内周71aを構成する基準面である円筒面から突出する平坦面を形成している。弾性凸部74は、ラック軸6の周方向に関して、弾性凸部75と弾性凸部76との間の中央位置に配置されている。例えば弾性凸部74は、両弾性凸部75,76から、例えば45度の角度ピッチでラック軸6の周方向に離隔している。
【0035】
これら複数の弾性凸部74〜76が、互いに協力してラック軸6を第1ピニオン7および第2ピニオン9側へ付勢している。すなわち、第2ラックブッシュ17は、複数の弾性凸部74〜76の合力である付勢力F2によって、ラック軸6を第1ピニオン7および第2ピニオン9側に向けて付勢している。
本実施形態によれば、概略図である図11に示すように、ラック軸6の第1端部11に配置されてラック軸6を第1ピニオン7側へ付勢する第1ラックブッシュ16による付勢力F1が、第1ピニオン7と第1ラックガイド39とでラック軸6を挟持する位置P2を支点として、ラック軸6を第2ピニオン9から引き離す方向へのモーメントM1を生じさせる。その第1ラックブッシュ16によるモーメントM1に抗して、第2ラックブッシュ17が、ラック軸6を両ピニオン7,9側へ付勢しているので、第2ピニオン9と第2ラック5との間のバックラッシの増大を抑制することができる。
【0036】
具体的には、すなわち、ラック軸6の軸方向X1に関して第1ピニオン軸8と第2ピニオン軸10との間に配置された第2ラックブッシュ17が、第1ピニオン7と第1ラックガイド39とでラック軸6を挟持する位置P2を支点として、第1ラックブッシュ16によるモーメントM1に抗するモーメントM2を生じさせる。これにより、第2ピニオン9と第2ラック5との間のバックラッシの増大を確実に抑制することができる。
【0037】
また、第1ピニオン軸8が操舵補助力伝達用であり、第2ピニオン軸10がマニュアル操舵力伝達用であり、ラック軸6を支持する軸受としては、第1ラックブッシュ16および第2ラックブッシュ17のみが設けられているので、下記の利点がある。すなわち、仮に、マニュアル操舵力伝達用の第2ピニオン9に相対的に近いラック軸6の第2端部12に、ラックブッシュを配置した場合、そのラックブッシュは、前記支点(位置P2)からの距離が遠いので、前記支点を中心として大きなモーメントを生じさせる。その大きなモーメントに抗して、第1ラックブッシュが、大きな反力モーメント成分を生じることになる。したがって、第2端部12に配置されたラックブッシュおよび第1ラックブッシュ16が、ともにラック軸6に対して大きな摩擦抵抗を生じ、操舵フィーリングが悪くなるおそれがある。これに対して、本実施形態では、第2端部12にラックブッシュが配置されていないので、ラック軸6の移動に抗する摩擦抵抗の増大を抑制して、良好な操舵フィーリングを得ることができる。
【0038】
図12は本発明の参考形態のステアリング装置1Rのラック軸6Rの支持構造を模式的に示している。図12を参照して、本参考形態が図11の実施形態と異なるのは、下記である。すなわち、図11の実施形態では、第1ラック4と第2ラック5とが、ラック軸6の中心軸線CRに対して同側に設けられて、第1ピニオン軸8と第2ピニオン軸10とが、ラック軸6に対して同側に配置されている。
【0039】
これに対して、本参考形態では、第1ラック4Rと第2ラック5とが、互いにラック軸6の中心軸線CRに対して反対側に設けられて、操舵補助力伝達用の第1ピニオン軸8Rとマニュアル操舵力伝達用の第2ピニオン軸10とが、ラック軸6を挟んで反対側に配置されている。第1ピニオン軸8Rの第1ピニオン7Rが第1ラック4Rと噛み合っている。ラック軸6Rの第1端部11Rに配置された第1ラックブッシュ16Rが、ラック軸6を第1ピニオン7R側に向けて付勢する付勢力F3を生じている。ラック軸6の軸方向X1に関して両ピニオン軸8R,10間に配置された第2ラックブッシュ17Rが、ラック軸6を第1ピニオン7R側へ向けて付勢する付勢力F4を生じている。ラック軸6Rの第2端部12Rには、ラックブッシュが配置されていない。
【0040】
本参考形態の構成要素において、図11の実施形態の構成要素と同じ構成要素には、図11の実施形態の構成要素の参照符号と同じ参照符号を付してある。本参考形態によれば、第1ラックブッシュ16Rによる付勢力F3が、第1ピニオン7Rと第1ラックガイド39とでラック軸6を挟持する位置P2を支点として、ラック軸6を第2ピニオン9へ押圧する方向へのモーメントM3を生じさせる。
【0041】
一方、第2ラックブッシュ17Rによる付勢力F4が、位置P2を支点として、ラック軸6を第2ピニオン9から離反させる方向へのモーメントM4を生じさせる。しかしながら、第2ラックブッシュ17Rは、両ピニオン軸8R,10間に配置されていて、支点となる位置P2に比較的近くに(例えばラックブッシュが第2端部12Rに配置される場合と比較して近くに)配置することが可能なので、モーメントM4を比較的小さくすることができる。したがって、第2ピニオン9と第2ラック5との間のバックラッシの増大を抑制することができる。
【0042】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、各弾性凸部を断面山形に形成してもよい。その他、本発明の請求項記載の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0043】
1…ステアリング装置、2…転舵機構、3…第1ハウジング、4…第1ラック、5…第2ラック、6…ラック軸、7…第1ピニオン、8…第1ピニオン軸、9…第2ピニオン、10…第2ピニオン軸、11…(ラック軸の)第1端部、12…(ラック軸の)第2端部、16…第1ラックブッシュ、17…第2ラックブッシュ、18…操舵部材、19…ステアリングシャフト、20,22…自在継手、21…中間軸、23…操舵補助機構、24…電動モータ、25…減速機構、29…駆動ギヤ、30…被動ギヤ、33…第2ハウジング、39…第1ラックガイド、49…第2ラックガイド、C1…(第1ピニオン軸の)中心軸線、C2…(第2ピニオン軸の)中心軸線、CR…(ラック軸の)中心軸線、PP…ラチック軸の中心軸線を含み且つ第1ピニオン軸の中心軸線と平行な平面、X1…(ラック軸の)軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12