特許第5984012号(P5984012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5984012-積層ゴム支承 図000002
  • 特許5984012-積層ゴム支承 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984012
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】積層ゴム支承
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/40 20060101AFI20160823BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20160823BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   F16F1/40
   F16F15/04 P
   E04H9/02 331A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-266626(P2012-266626)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-111969(P2014-111969A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】小槻 祥江
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓二
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−261484(JP,A)
【文献】 特開2002−188122(JP,A)
【文献】 特開平10−252823(JP,A)
【文献】 特開平11−210091(JP,A)
【文献】 特開昭64−029540(JP,A)
【文献】 特開平10−168821(JP,A)
【文献】 実開昭62−188637(JP,U)
【文献】 実開平02−132146(JP,U)
【文献】 米国特許第05161338(US,A)
【文献】 特開2002−146106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D1/00−24/00
E04H9/00−9/16
F16F1/00−6/00
15/00−15/315
15/32−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゴム層と複数の鋼板とを積層した積層ゴム本体を備え、下部構造物と上部構造物との間に介在させて上部構造物を支持する積層ゴム支承であって、
前記積層ゴム本体は、前記ゴム層よりも減衰定数の小さいゴム材料を用いた強化層を有し、
前記強化層は、前記積層ゴム本体におけるゴム層と鋼板との積層方向の両端面全域に亘って設けられていることを特徴とする積層ゴム支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ゴム支承に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の免震構造には、下部構造物と上部構造物との間に介在させた積層ゴム支承により上部構造物を支持する構造がある。
【0003】
積層ゴム支承は、ゴム層と鋼板とを交互に積層した積層ゴムと、積層ゴムにおけるゴム層と鋼板との積層方向の両端に接合された一対のフランジとを備える。この積層ゴム支承は、一対のフランジのうちの一方のフランジが下部構造物に固定され、他方のフランジが上部構造物に固定される。
【0004】
この種の積層ゴム支承には、減衰性能を付加した高減衰ゴム材料をゴム層に用いた高減衰ゴム系積層ゴム支承がある(例えば特許文献1を参照。)。高減衰ゴム系積層ゴム支承は、ゴム層により地震エネルギーを減衰することで、上部構造物の揺れ幅を小さくするとともに揺れを早期に収束させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−146106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層ゴム支承は、水平2方向加力を受けると積層ゴムにねじれモーメントが発生し、ゴム層にねじれ変形が生じる。この際、ゴム層には、せん断変形によるせん断ひずみに、ねじれ変形によるせん断ひずみが付加される。そのため、水平2方向加力を受けると、水平1方向加力により破断するせん断変形量よりも小さなせん断変形量で破断することがある。特に、高減衰ゴム系積層ゴム支承は、減衰性能を付加したことによりゴム層のねじれ変形が大きくなり、ねじれ変形により付加されるせん断ひずみが大きくなることが知られている。そのため、高減衰ゴム系積層ゴム支承を用いた免震構造では、水平2方向の大きな地震力を受けた場合に積層ゴムが早期に破断してしまい、免震性能が低下する恐れがある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ねじれ変形による免震性能の低下を防ぐことが可能な積層ゴム支承を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る積層ゴム支承は、複数のゴム層と複数の鋼板とを積層した積層ゴム本体を備え、下部構造物と上部構造物との間に介在させて上部構造物を支持する積層ゴム支承であって、前記積層ゴム本体は、前記ゴム層よりも減衰定数の小さいゴム材料を用いた強化層を有し、前記強化層は、前記積層ゴム本体におけるゴム層と鋼板との積層方向の両端面全域に亘って設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る積層ゴム支承は、ゴム層と鋼板とを積層した積層ゴムに、ゴム層よりも減衰定数の小さいゴム材料を用いた強化層を設けている。積層ゴムのねじれ変形はゴム層の減衰性能が高いほど大きくなる傾向があるため、強化層はゴム層に比べてねじれ変形が生じにくい。そのため、強化層を有する積層ゴム支承は、ゴム層及び鋼板のみを積層した積層ゴム支承に比べて、ねじれ変形により付加されるせん断ひずみを小さくできる。したがって、本発明に係る積層ゴム支承は、ねじれ変形による早期の破断等で免震性能が低下することを防げる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態である積層ゴム支承の縦断面図である。
図2図2は、積層ゴム支承のゴム層に用いるゴム材料とねじれによるせん断ひずみとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る積層ゴム支承の実施の形態を詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態である積層ゴム支承の縦断面図である。
【0014】
本実施の形態の積層ゴム支承1は、免震装置の1種であり、図1に示すように下部構造物2と上部構造物3との間に介在させて上部構造物3を支持するものである。下部構造物2は、建築物の基礎であり、地盤4に固定されている。上部構造物3は、家、ビル、工場等の建物である。なお、下部構造物2と上部構造物3との間には、複数の積層ゴム支承1が所定の間隔で配置されている。
【0015】
積層ゴム支承1は、積層ゴム101と、第1のフランジ102と、第2のフランジ103とを備える。積層ゴム101は、ゴム層104a,104bと鋼板105とを交互に積層した積層ゴム本体と、積層ゴム本体の外周に設けられた被覆ゴム106とからなる。第1のフランジ102は、積層ゴム101におけるゴム層104a,104bと鋼板105との積層方向の一端に接合した円板状の金属部材である。第2のフランジ103は、積層ゴム101における積層方向の他端に接合した円板状の金属部材である。この積層ゴム支承1は、積層ゴム101における積層方向が上下方向になり、第1のフランジ102が下部構造物2に対向するように下部構造物2と上部構造物3との間に配置している。そして、ボルト5により第1のフランジ102を下部構造物2に固定するとともに、第2のフランジ103を上部構造物3に固定している。
【0016】
下部構造物2と上部構造物3との間に積層ゴム支承1を介在させた建築物では、水平地震力を受けると、下部構造物2と積層ゴム支承1の積層ゴム101との間、及び積層ゴム101と上部構造物3との間でせん断力が伝達される。これにより、積層ゴム101がせん断変形し、上部構造物3に伝達する地震力や揺れを軽減できる。
【0017】
積層ゴム101における積層ゴム本体は、上記のようにゴム層104a,104bと鋼板105とを交互に積層している。なお、積層ゴム101における積層方向の両端にあるゴム層104bは、天然ゴムを用いたゴム層であり、積層ゴム101のせん断耐力を強化する強化層として設けている。一方、ゴム層(強化層)104bを除く他のゴム層104aは、高減衰ゴム材料を用いたゴム層である。
【0018】
高減衰ゴム材料は、天然ゴムに合成ゴムや配合剤を混合して減衰性能を付加したゴム材料である。そのため、地震力を受けた際にはゴム層104aにより地震エネルギーを減衰でき、上部構造物3の揺れ幅を小さくするとともに揺れを早期に収束させることができる。
【0019】
一方、天然ゴムを用いたゴム層104bは、高減衰ゴム材料に比べて減衰定数が小さくほぼ弾性挙動を示す。積層ゴムのねじれ変形はゴム層の減衰性能が高いほど大きくなる傾向があるため、減衰定数の小さいゴム層104bはねじれ変形が生じにくい。このゴム層104bを積層ゴム101に設けることで、水平2方向の地震力を受けた際のねじれによるせん断ひずみを小さくできる。そのため、ねじれ変形による早期の破断等で免震性能が低下することを防げる。
【0020】
図2は、積層ゴム支承のゴム層に用いるゴム材料とねじれによるせん断ひずみとの関係を示す図である。
【0021】
ゴム層に高減衰ゴム材料を用いた高減衰ゴム系積層ゴム支承では、水平2方向加力を受けると、図2に丸印で示したように長軸方向のせん断ひずみγが大きくなるとともに、ねじれによる最大せん断ひずみγφが大きくなる。また、ゴム層に天然ゴムを用いた天然ゴム系積層ゴム支承も、水平2方向加力を受けると、図2に三角印で示したように長軸方向のせん断ひずみγが大きくなるとともに、ねじれによる最大せん断ひずみγφが大きくなる。しかしながら、長軸方向のせん断ひずみγが同じ値のときには、天然ゴム系積層ゴム支承のほうがねじれによる最大せん断ひずみγφが小さい。すなわち、ゴム層に天然ゴムを用いると、高減衰ゴム材料を用いた場合に比べてねじれによるせん断ひずみが発生しにくくなる。
【0022】
また、ねじれによるせん断ひずみは、積層ゴムにおける積層方向の両端で最大となる。そのため、天然ゴムを用いたゴム層104bを積層方向の両端に設けることで、ねじれによるせん断ひずみを小さくする効果が高くなる。
【0023】
このように、本実施の形態の積層ゴム支承1は、減衰性能を持たせた上で、ねじれ変形による免震性能の低下を防ぐことができる。そのため、水平2方向の地震力を受けた場合においても、水平1方向の地震力を受けた場合と同等の免震性能を発揮することができる。
【0024】
また、積層ゴム支承は、ゴムシートと鋼板とを交互に重ねて高温で加硫して製作する。本実施の形態の積層ゴム101は、高減衰ゴム系積層ゴム支承の積層ゴムにおける両端のゴム層を高減衰ゴムから天然ゴムに置き換えたものといえる。そのため、本実施の形態の積層ゴム支承1を製作するときには、積層方向の両端を天然ゴムシートに置き換えるだけでよい。すなわち、本実施の形態の積層ゴム支承1は、既知の方法を用いて製作することが可能である。
【0025】
また、積層ゴム101にねじれ変形が生じた場合、長周期地震動のような継続時間が長く振幅の大きい地震動に対して十分な免震性能を発揮できない恐れがある。本実施の形態の積層ゴム支承1であれば、積層ゴム101のねじれ変形を小さくすることができるので、そのような懸念も払拭できる。
【0026】
なお、天然ゴムを用いたゴム層104bは、積層ゴム101における積層方向の両端部に複数層ずつ設けてもよい。
【0027】
また、天然ゴムを用いたゴム層104bは、積層方向の両端に限らず、積層方向のいずれの位置に設けてもよい。しかしながら、ねじれによるせん断ひずみは積層方向の両端で最大となるため、ゴム層104bは積層ゴム101における積層方向の両端を含む両端部に1層から複数層設けることが好ましい。
【0028】
さらに、積層ゴム101に強化層として設けるゴム層は、高減衰ゴムを用いたゴム層104aよりも減衰定数の小さいゴム材料であればよい。すなわち、強化層は、天然ゴムを用いたゴム層104bに限らず、他のゴム材料を用いたゴム層であってもよい。また、減衰定数が異なる複数種類のゴム層を、積層方向の中央部側から最端に向かうにつれて減衰定数が段階的に小さくなるように設けてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 積層ゴム支承
101 積層ゴム
102 第1のフランジ
103 第2のフランジ
104a ゴム層
104b ゴム層(強化層)
105 鋼板
106 被覆ゴム
2 下部構造物
3 上部構造物
4 地盤
5 ボルト
図1
図2