【課題を解決するための手段】
【0005】
前記 背景技術で述べた様な状況にあって、発明者は、ベッド上で手軽に首筋周りのストレッチが出来る道具は出来ないか、長年試作開発して来た。基本的には
我々がベッド上で通常自然発生的に行っているストレッチ動作、即ち 頭を枕に押し付ける、引っ掛ける、こすり付ける、等々の動作が、如何にすれば 意のままに行える様に出来るか、枕の構造、形状、材料等について、長年 試作開発とテストを繰り返した。その結果、一般にクッション材として知られる発泡プラスチック等の弾性のある材料で作られた5角柱体枕が、全面的に課題を解決する事を発見すると共に、長期実用により、その安全性と有効性も確認する事が出来た。以下に、本発明の5角柱体枕が
首筋周りのストレッチ機能としてどの様に生かされ、有効であるかについて説明する。
【0006】
図1は 本発明の5角柱体ストレッチ枕のカバーをはずした状態の説明用鳥瞰図である。5角柱体の中心軸に直角な断面4は正5角形である。又 断面5は、中心軸に斜めに切断した断面が、この様な変形5角形である事を示している。
【0007】
本枕は、睡眠用枕上で 縦、横、斜め、自在の方向や位置に置き使用出来る。
図2には斜めに置いた使用例を示した。
図3の様に睡眠用枕に立てかけて使用する事も出来る。
図4に睡眠用枕上に置いた場合の断面を示す。前述の通り
首筋周りのストレッチでは、枕上で 首を前後、左右に押したり引いたり、更には曲げたり捩じったりする。その様な運動をするには、顎を低く沈めたり
顔や頭部を自由に動かしたり廻し込ませたり出来る高さと空間が必要であるが、本図に示す様にその高さと空間6が確保されている。更に
本ストレッチ枕は、簡単に手で扱いながら移動出来るから、頂点2の稜線を境として向きの異なる二つの斜面3を、頭や顔のいろいろな箇所に任意の方向から容易に当てる事が出来る。又、稜線がはっきりしているから、眼や鼻の近くであっても、目鼻が押しつぶされないギリギリの所まで好みの面を当てる事が出来る。この様に課題の一つであったストレッチに効果的な面を容易に作り出す事が出来るのだ。
【0008】
さて ここで、物体を斜面に載せた時の簡単な力学的性質を思い出して頂きたい。
図5に示す様な重量Wの物体を斜面に置くと、滑りを起こさない傾斜角の範囲では、物体に対して自然に摩擦力Frが働く。又、物体が頭の様な球体や楕円体の場合には、物体には斜面下方への転がり力が働く。即ち
枕に斜面を作りその斜面に頭を載せると、ただ載せるだけでも頭には摩擦力や転がり力が働くのだ。
図6は、人が、床上に仰臥した姿勢で
本ストレッチ枕を使用している時の力学的説明の為の模式図である。斜面と頭の接点には摩擦力Frと垂直抗力Rvが働く。転がり力も働くが、頚椎を通してボデイ側からの力により曲げモーメントや捩じりモーメントに転換されている。ここで、本図に示された抗力やモーメントが、ストレッチ効果としてどの様な意味があるか、簡単に記述する。頭蓋殼の表面には首筋周りの筋肉の靭帯が貼り付いており、頭蓋殼上での摩擦力は、靭帯やそれに連なる筋肉を摩擦力の方向に移動させる働きをする。例えば、頭を左右前後に動かそうとすると、摩擦力や筋肉の移動の方向や大きさが変化する。これは正に指圧モミモミの様な効果がある事になる。やって見ると容易に分かるが、接点での垂直抗力Rvや摩擦力Frの方向や大きさは、斜面の向きやボデイ側からの力の入れ方で自由にコントロール出来る。このボデイ側からの力は、首をすくめたり曲げたり捩じったりする筋肉による力ばかりでなく、例えば
肩や両肘、腰で体重移動したり 或いは 体を回転して半分横臥状態になったりする事で重心が移動し、いろいろの方向の力やモーメントが発生し、
頚椎や首筋を通じて枕と頭蓋の接点へ伝達される。従って、接点での垂直抗力Rvや摩擦力Frの大きさと方向を自分の意思で、自在に変化させる事が出来る事になる。この様に
枕と頭の接点において、大きさ、方向とも任意にコントロール出来る力が得られるのであるから、首筋周りのいろいろな部分にも自在に思いのままの力やモーメントをかける事が出来、満足の行くストレッチが出来るのだ。
【0009】
更に、首筋周りのストレッチの中で重要なものに頚椎と頭蓋をつなぐ環椎(軸)関節の牽引と回旋がある。
図6において、前述の通り、頭と枕の接点での抗力(垂直抗力Rvと摩擦力Frの合力)は
ボデイ側からの力をコントロールする事により、環椎(軸)関節を引き抜く方向に働かせる事が出来る。この行為は、まさに環椎(軸)関節や頚椎を頭頂方向へ引き伸ばす、いわゆる「牽引」をしている様なものだ。又、斜面の方向や体位を変え、
図13の様な位置でストレッチをすれば、垂直抗力Rvと摩擦力Frが環椎(軸)関節に対してモーメントを発生させる。その方向は、XYZ軸を
図6の様に取れば、捩じりモーメントMzであったり、前後屈モーメントMy、側屈モーメントMxとなる。周知の通り、この関節は、首の前後屈や左右の回転の機能を持つ。関節には
構造上、それぞれの回転に限界があるが、ストレッチとしてはその限界を越えて強制的に更に旋回させる刺激を与える必要が有る。このストレッチは巧くやって貰うと非常に気持ちが良いのだが、力の入れ加減が難しく危険を伴うからマッサージ師などの専門家以外、うっかり素人の他人には頼めない。しかし本ストレッチ枕では、自分自身で、その力の強さ加減や危険度を感じながら
力を加えられるので、安心してストレッチ動作が出来る。電動モーターなどで機械的に力を加える装置の様な危険性もない。
【0010】
ここで課題の一つであった、頭を枕にこすり付けた時の滑りについて触れたい。高級ホテルの枕には非常にふあふあの柔らかいものがあるが、一般的に柔らかい枕ほど如何に強く頭をこすり付けようとしても、暖簾に腕押し、力が入らないし滑りを起こしてしまう。この現象を力学的に考えると次の様になる。大きな摩擦力を引き出すには強く面を押し付けながら面に平行な力を加える事になる。しかし、柔らかい材料では
頭からの押し付け力によって 接点の面が押し潰され、力と面の角度が簡単に摩擦限界を越えて変化する。これが滑りや暖簾に腕押しの原因なのだ。これは材料の硬さの問題である。発泡プラスチックの中でも
やや硬めの材料さえ使えばこの問題は回避出来る。その様な材料は、幾らでも市販品から調達できる。
【0011】
次に 頭の様な球状物体を枕にこすり付ける場合の滑りについて考察する。こすり付け運動は面を押し付けながら摩擦力を引き出す訳だが、ベッド上での押し付け力は、頭や体の自重(鉛直方向)に加えて、首の曲げや回転などによる水平力を加える事で発生させる。従ってその合力は、必ず水平面に対して鉛直斜め方向の力であるから、平面と斜面では、滑りに関して明らかに斜面の方が滑り難い。その様子を
図7に示す。即ち、斜面はこすり付け運動をした時、滑りを起こさずにしっかりと強い抗力、強い摩擦力を引き出してくれるのだ。
図4に示した正5角柱体枕の斜面3は、正に
その機能を果たしてくれる。そして この正5角柱体枕の形状や傾斜度は、他の角柱体や円筒体に比べて、人間が仰臥、横臥の姿勢で行う、こすり付けや引っ掛け等のストレッチ運動において、そのし易さ、安定度等の点で非常に優れているのだ。例えば、底面を床に置いた時、頂点が真上に来て斜面を作れるのは、奇数角柱体であるが、3角柱体は、急斜面過ぎて使い難い。7角以上の柱体では、一辺の長さが5角柱体に比べ小さく、転がり安く不安定だ。又、頭との接触幅が小さいので感触も劣る。
【0012】
図8は、頭を斜面に載せ、斜面に沿って首を左右に捩じらせ頭を転がす様子を模式化したものである。首筋周りの力を抜き
極限までだらりと首を回転させる。重力による捩じりモーメントが首筋に掛かる。頭の自重だけではなく更にボデイ側から力を加えれば、より大きな捩じりモーメントを首筋に掛ける事が出来る。
【0013】
図9は、5角柱の頂点(稜線)を床または睡眠用枕上に置き、頭を水平な上面に載せて行うストレッチを模式的に説明するものである。枕と床面の接点である頂点は当然押し潰されるが、その接点を中心に
頭と枕を一体として旋廻させる事が出来る。それに伴い、頭に繋がる首筋や頚椎も大きく巻き込まれて伸ばされたり捩じられたりする。その様子を
図10に模式的に示す。
【0014】
図11は 本ストレッチ枕の両端を両手で握り、後頭部半周に押付けるように巻きつけて 首を頚椎軸を中心に捩じると、大きな捩りモーメントが発生し 捩りストレッチが出来る。この時 首をすくめる様な力をボデイ側から加えれば、頚椎を吊り上げながら捩りストレッチが出来る事となる。