特許第5984051号(P5984051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許5984051-電極体 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984051
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】電極体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20160823BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20160823BHJP
【FI】
   H01M4/02 Z
   H01G11/26
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-156790(P2012-156790)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-22068(P2014-22068A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】十河 保宏
(72)【発明者】
【氏名】松尾 和明
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 和秀
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−243658(JP,A)
【文献】 特開2010−020986(JP,A)
【文献】 特開2010−212000(JP,A)
【文献】 特開2008−173590(JP,A)
【文献】 特開2009−211956(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0225808(US,A1)
【文献】 特開平10−188952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面側に活物質を含む合剤層が形成され且つ巻回されたシート状の集電体を備え、
前記集電体には、巻回軸の少なくとも一方の端部側に前記合剤層が形成されていない非合剤層部が形成されており、
前記合剤層の前記非合剤層部側の端部は、前記合剤層の前記非合剤層部側の端縁から5mmまでの部分であり、
前記合剤層では、前記端部において、前記非合剤層部側の端縁から1mm内側に入った位置と、前記非合剤層部側の端縁から3mm内側に入った位置と、の間における目付け量が、前記端部以外の部分における目付け量に対して0.3%以上1.0%以下多い電極体。
【請求項2】
前記非合剤層部側の端縁から1mm内側に入った位置と、前記非合剤層部側の端縁から3mm内側に入った位置と、の間における目付け量が、前記端部以外の部分における目付け量に対して0.5%以上0.9%以下多い、請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
前記合剤層の端部以外の部分の目付け量は、40g/m以上300g/m以下である、請求項1または2に記載の電極体。
【請求項4】
電極体と、該電極体を収納するケースとを備え、
前記電極体は、少なくとも一面側に活物質を含む合剤層が形成され且つ巻回されたシート状の集電体を備え、
前記集電体には、巻回軸の少なくとも一方の端部側に前記合剤層が形成されていない非合剤層部が形成されており、
前記合剤層の前記非合剤層部側の端部は、前記合剤層の前記非合剤層部側の端縁から5mmまでの部分であり、
前記合剤層では、前記端部において、前記非合剤層部側の端縁から1mm内側に入った位置と、前記非合剤層部側の端縁から3mm内側に入った位置と、の間における単位面積あたりの質量が、前記端部以外の部分における単位面積あたりの質量に対して0.3%以上1.0%以下多い蓄電素子。
【請求項5】
前記非合剤層部側の端縁から1mm内側に入った位置と、前記非合剤層部側の端縁から3mm内側に入った位置と、の間における単位面積あたりの質量が、前記端部以外の部分における単位面積あたりの質量に対して0.5%以上0.9%以下多い、請求項4に記載の蓄電素子。
【請求項6】
前記合剤層の端部以外の部分の単位面積あたりの質量は、40g/m以上300g/m以下である、請求項4または5に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子等に用いられる電極体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質電池等の電池、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、等の蓄電素子は、種々の用途に多用されている。特に、リチウムイオン電池に代表される非水電解質電池は、小型軽量化が進むパーソナルコンピュータ、携帯電話等の通信機器、等の電子機器の電源、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、電気自動車(EV)、等の自動車の電源、等の民生用途向けの電池として多用されている。
【0003】
このような蓄電素子には、正極および負極を、セパレータを挟んで積層し、巻回した電極体が広く用いられている。前記正極および負極は、集電板の一面または両面に、正極活物質あるいは負極活物質、バインダなどを混合したペースト状の合剤を塗布し、乾燥後、プレスすることで、集電体上に合剤層が形成された極板として形成される。
【0004】
集電体は、通常、矩形状の金属箔などからなり、集電体の長手方向の一辺側には、合剤層が形成されていない非合剤層部が形成される。かかる非合剤層部には、リード線が接続され、非合剤層部が巻回軸のいずれか一方の端部になるように集電体が巻回されて、電極体が製造される。
【0005】
合剤層は、ペースト状の合剤を塗布することで形成される。そのため、合剤層の非合剤層部側の端部においては、ペースト状の合剤がダレて塗布厚みが薄くなる。この状態で合剤層全体をプレスすると、合剤層の非合剤層部側の端部では、合剤層の密度が他の部分に比べて低下するため、合剤層と集電体との接着性が低下する。そして、合剤層の非合剤層部側の端部において、合剤層と集電体との接着性が低い箇所が生じると、電極体の製造工程や、該電極体を組み込む蓄電素子の組み立て工程において、合剤層と集電体とが剥離し、合剤層が集電体から脱落しやすくなるという問題がある。加えて、合剤層が集電体から脱落した場合には、蓄電素子内部の導電性異物となって短絡の原因になるおそれがある。
【0006】
合剤層の脱落を防止することは従来から行われている。例えば、特許文献1には、ペースト状の合剤を塗布する際に、塗布を開始する端部、すなわち始端部の厚みを他の部分よりも厚く塗布しておき、始端部のみに圧をかけて平らにしてから、合剤層全体をプレスする方法が記載されている。かかる方法によれば、合剤層の始端部の密度が他の部分の密度より大きくなるため、始端部の強度を向上させることができる、と記載されている。
【0007】
特許文献2には、ペースト状の合剤の始端部の厚みを、他の部分に対して0.97〜1.03の比率の厚みになるように調整することで、合剤層の塗布の始端部が極端に盛り上がることを抑制し、これにより、始端部から合剤が脱落することが抑制できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−208890号公報
【特許文献2】特開2008−243658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、塗布時の合剤層の厚みを調整することで、合剤層のプレス後の密度を所定の密度にするため、乾燥やプレスによる厚みの減少を考慮した上で、合剤の塗布厚みを調整する必要があり、精度よく目的とする密度を得ることが難しい。
【0010】
また、合剤層の端部と、それ以外の部分とで、過度に大きい密度の差が生じると、合剤層の硬度に部分的な差ができ、巻回工程時に硬い部分から集電板が破断するおそれもある。従って、合剤層の端部における密度の差は、合剤層の接着強度が向上でき、且つ、集電板が破断しない程度の範囲に精度良く調整する必要がある。特に、高出力用であるHEV用のリチウムイオン電池等に用いられる電極体の場合には、高出力にするため合剤層の厚みが薄く形成されており、かかる薄い合剤層では、前記のような方法で合剤層にわずかな密度の差を精度良く設けることは困難である。
【0011】
特許文献2に記載の方法においても、塗布時に乾燥後の厚みを想定して塗布厚みを設定する必要があり、やはり、精度よく目的の厚みを得ることが困難であり、合剤層の端部とその他の部分との厚みにおいてわずかな差を設けることが難しいという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、合剤層と集電体との接着性を精度よく向上させることができる電極体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる電極体は、
少なくとも一面側に活物質を含む合剤層が形成され且つ巻回されたシート状の集電体を備え、
前記集電体には、巻回軸の少なくとも一方の端部側に前記合剤層が形成されていない非合剤層部が形成されており、
前記合剤層の前記非合剤層部側の端部は、前記合剤層の前記非合剤層部側の端縁から5mmまでの部分であり、
前記合剤層では、前記端部において、前記非合剤層部側の端縁から1mm内側に入った位置と、前記非合剤層部側の端縁から3mm内側に入った位置と、の間における目付け量が、前記端部以外の部分における目付け量に対して0.3%以上1.0%以下多いものである。
本発明にかかる蓄電素子は、電極体と、該電極体を収納するケースとを備え、
前記電極体は、少なくとも一面側に活物質を含む合剤層が形成され且つ巻回されたシート状の集電体を備え、
前記集電体には、巻回軸の少なくとも一方の端部側に前記合剤層が形成されていない非合剤層部が形成されており、
前記合剤層の前記非合剤層部側の端部は、前記合剤層の前記非合剤層部側の端縁から5mmまでの部分であり、
前記合剤層では、前記端部において、前記非合剤層部側の端縁から1mm内側に入った位置と、前記非合剤層部側の端縁から3mm内側に入った位置と、の間における単位面積あたりの質量が、前記端部以外の部分における単位面積あたりの質量に対して0.3%以上1.0%以下多いものである。
【0014】
本発明において、前記合剤層の前記非合剤層部側の端部における上記の間の部分の目付け量(単位面積あたりの質量)が、前記端部以外の部分に対して0.3%以上1.0%以下多くなるようにすることで、合剤層と集電体との接着強度を向上させると同時に、製造工程において集電体の破断を抑制することができる。また、塗布時に合剤の塗布量を調整することで目付け量を調整することができ、わずかな目付け量の調整も精度良く行える。
【0016】
また、本発明において、集電板とは、正極集電板および負極集電板のうちの少なくともいずれか一方をいう。
【0017】
本発明の一態様として、前記非合剤層部側の端縁から1mm内側に入った位置と、前記非合剤層部側の端縁から3mm内側に入った位置と、の間における目付け量(単位面積あたりの質量)は、前記端部以外の部分における目付け量(単位面積あたりの質量)に対して0.5%以上0.9%以下多くてもよい。
【0019】
本発明の他の一態様として、前記合剤層の端部以外の部分の目付け量(単位面積あたりの質量)は、40g/m以上300g/m以下であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、合剤層と集電体との接着性を精度よく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)本実施形態の合剤層を示す概略上面図、(b)は同側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1を参照しつつ、本発明の実施形態の電極体について具体的に説明する。
【0024】
本実施形態の電極体は、少なくとも一面側に活物質を含む合剤層が形成され且つ巻回されたシート状の集電体が備えられ、前記集電体には、巻回軸の少なくとも一方の端部側に前記合剤層が形成されていない非合剤層部が形成されており、前記合剤層は、前記非合剤層部側の端部における目付け量が、前記端部以外の部分における目付け量に対して0.3%以上1.0%以下多い電極体である。
【0025】
本実施形態の電極体は、非水電解二次電池等の蓄電素子用の電極体として用いられる。特に、HEV用のリチウムイオン電池等用の高出力用電池の電極体として適している。
【0026】
本実施形態の前記集電体は、正極用あるいは負極用の集電体である。正極用の集電体としては、例えば、アルミニウム箔等の矩形状の金属箔が使用でき、負極用の集電体としては、例えば、銅箔等の矩形状の金属箔が使用できる。正極用の集電体の厚みは5〜30μm程度であることが好ましく、負極用の集電体の厚みは4〜20μm程度であることが好ましい。集電体の合剤が塗布される面には、合剤層との接着性を向上させるために、カップリング処理やその他の表面処理を施してもよい。あるいは、集電体の合剤が塗布される面にアンダーコート層等の合剤層との接着性を向上させる層を設けてもよい。
【0027】
前記合剤層は、活物質を含むペースト状の合剤を塗布することで形成される。
前記合剤は、正極用の集電体上に塗布される正極合剤の場合は、正極活物質を含み、負極用の集電体上に塗布される負極合剤の場合には、負極活物質をそれぞれ含むペースト状の混合物である。
【0028】
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオン電池の電極体として使用する場合には、リチウムを吸蔵・放出可能な化合物であれば、特に限定されるものではない。例えば、LixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LixCoO2、LixNiO2、LixMn24、LixMnO3、LixNiyCo(1-y)2、LixNiyMnzCo(1-y-z)2、LixNiyMn(2-y)4等)、あるいは、LiwMex(XOyz(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li32(PO43、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等)からなる群から選択することができる。また、これらの化合物中の元素又はポリアニオンは一部他の元素又はアニオン種で置換されていてもよい。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等も挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオン電池の電極体として使用する場合には、リチウム金属、リチウム合金(リチウム―アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、およびウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li4Ti512等)、ポリリン酸化合物等が挙げられる。
前記負極活物質の中でも、合剤として集電体上に塗布しやすいという観点から、グラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等の炭素材料、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li4Ti512等)、ポリリン酸化合物等を用いることが好ましい。
【0030】
前記正極および負極活物質の粉体は、平均粒子サイズd50が1〜20μm程度であることが望ましい。各粉体を所定のサイズおよび形状として得るためには、粉砕機や分級機が用いられる。
【0031】
本実施形態で用いられる合剤は、正極または負極活物質と、必要に応じて結着剤、導電剤、増粘剤、フィラー等の任意の成分とが混合されたペースト状の合剤であることが好ましい。
【0032】
前記合剤層は、前記合剤を、正極用の合剤の場合は正極用の集電体に、負極用の合剤の場合は負極用の集電体の表面に塗布することで形成される。この時、図1(a)(b)に示すように、上面視矩形状の集電体1の一辺側の端縁部に沿って、合剤層2が形成されていない非合剤層部1aが設けられるように合剤を塗布する。すなわち、前記一辺側は、後述するように集電板を積層して巻回する際の巻回軸の一端側に位置する。
【0033】
前記合剤層2は、前記非合剤層部1a側の端部(合剤層端部)2aと、それ以外の部分では目付け量が異なるように形成される。
【0034】
前記合剤層端部2aとは、図1に示すように、合剤層2の非合剤層部1a側の端縁2bから所定幅x内側に入った合剤層2の端部をいう。この合剤層端部2aにおいては、目付け量が該合剤層端部2a以外の部分における目付け量よりも0.3%〜1.0%多くなるように形成されている。
合剤層の非合剤層部側の端部における目付け量とは、非合剤層部側の端縁から所定の幅までの範囲に存在する合剤層の単位面積(m)あたりの質量(g)をいい、合剤層の非合剤層部側の端部以外の部分における目付け量とは、非合剤層部側の端部以外の部分に存在する合剤層の単位面積(m)あたりの質量(g)をいう。
【0035】
合剤層2の目付け量としては、合剤層端部2a以外の部分においては40g/m2〜300g/m2、好ましくは60g/m2〜160g/m2程度であることが好ましい。
かかる目付け量の範囲であれば、合剤層において十分な活物質量を確保できる。
【0036】
一方、合剤層端部2aの目付け量は40.12g/m2〜303.00g/m2、好ましくは60.18g/m2〜161.60g/m2程度であることが好ましい。
合剤層端部2aの合剤の目付け量が前記範囲であれば、乾燥、プレスした後でも、合剤層端部2aと集電体1との接着性が良好に維持でき、端部からの合剤層の脱落を抑制できると同時に、合剤層2の硬度が部分的に硬くなりすぎて集電体が、製造工程時に破断することも抑制できる。
【0037】
合剤層端部2aの幅xは、1mm〜5mm程度であることが好ましい。合剤層端部2aの幅xが前記範囲であれば、乾燥、プレスした後でも、合剤層端部2aと集電体1との接着性が良好に維持でき、端部からの合剤層の脱落を抑制できると同時に、集電体がプレス時や巻回時に破断することも抑制できる。
【0038】
前記合剤を集電体に塗布する方法については、特に限定されないが、例えば、ダイヘッドコーター、コンマロール、グラビアコーター、アプリケーターロール等のローラーコーティング、スプレーコート、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いることができる。特に、ダイヘッドコーターを用いることが好ましい。
【0039】
ダイヘッドコーターを用いて合剤を集電体に塗布する場合には、ペースト吐出部の端部のシム形状により、合剤の吐出量を精度良く制御することが容易に行え、微量の吐出量も正確にコントロールできるため、前記のような目付け量の調整も容易に行える。
【0040】
尚、ダイヘッドコーターを用いて、合剤の吐出量を塗布する位置によって調整する以外にも、集電体の合剤層を形成する面に均一に合剤を塗布した後に、合剤層端部2aのみ再度合剤を塗布することによって、目付け量を調整してもよい。
【0041】
上述のような目付け量となる合剤層は、正極用および負極用の両方の集電体に対して形成されていてもよく、あるいは、正極用または負極用の集電体のいずれか一方のみに対して形成されていてもよい。
【0042】
本実施形態の電極体の前記合剤層2を形成するには、前記合剤を塗布する塗布工程の次に、プレス工程を実施する。プレス工程では、まず、塗布された合剤を、乾燥した後、プレスする。プレスする方法およびプレス時の条件は、公知の手段および条件で行うことができるが、例えば、ロールプレスを用いて、合剤層をプレスすること等が好ましい。
【0043】
本実施形態の前記合剤層2が形成された集電体は、前記プレス工程の前に、前記合剤が塗布された集電体を一度巻き取り機で巻き取る巻き取り工程を実施して製造されてもよい。
かかる巻き取り工程を実施した場合には、前記塗布工程と、プレス工程とにおける集電体を送るスピードが異なる場合であっても、かかるスピード差を調整することができ、前記電極の製造効率が向上する。
かかる巻き取り工程を実施する場合には、上述した各目付け量の合剤層を形成することで、巻き取り工程における集電体の破断をより抑制することができる。
【0044】
上述のような方法で形成された本実施形態の合剤層は、前記非合剤層部側の端部の合剤層の平均厚みと、前記端部以外の部分の合剤層の平均厚みとが略等しくなるように形成されることが好ましい。
前記合剤層の各部の厚みが前記のように略等しくなるように合剤層が形成されることにより、合剤層全体の表面が平坦になる。よって、かかる合剤層が形成された集電板を用いて電極体を形成した場合には、正極負極間の距離が均一になり、充放電反応に偏りが生じることが抑制できる。
【0045】
本実施形態の電極体は、それぞれ合剤層が形成された負極用の集電板と正極用の集電板とを、セパレータを介して積層し、前記集電体の一辺側(非合剤層部が形成されている集電体の一辺側)が巻回軸の一方の端部になるように巻回することで形成される。具体的には、負極用の集電板の合剤層と、正極用の集電板の合剤層とがセパレータを挟んで対向するように積層されてなる。また、各集電板に形成された前記非合剤層部1aはリード線が接続される端部となるような方向で巻回されてなる。
【0046】
本実施形態において用いられるセパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択して用いることが可能である。例えば、織布、不織布、合成樹脂微多孔膜等のセパレータが挙げられる。特に、本実施形態で製造する電極体が非水電解質電池用の電極体の場合には、セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂;ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0047】
本実施形態の電極体を使用して、例えば、非水電解質とともに電池ケースに収納することで、蓄電素子としての非水電解質電池(例えば、リチウムイオン電池)とすることができる。
【0048】
本実施形態の電極体は、巻き取り工程、プレス工程、巻回工程などの各電極体の製造工程において、合剤層が集電体から剥離して、脱落することが抑制されるため、蓄電素子の電極体として使用される場合に、合剤層が導電性異物となって短絡が生じることを抑制できる。また、各製造工程において、集電体が破断することが抑制されるため、製造工程における不良発生率を抑制できる。
【0049】
また、本実施形態の電極体は、前記集電体に形成された合剤層の剥離強度が高いため、より、短絡発生の抑制や、製造工程における不良発生が抑制できる。合剤層の剥離強度としては、例えば、合剤層の前記非合剤層部側の端部の剥離強度の、前記端部以外の部分の剥離強度に対する比率が104%以上であれば、短絡発生および不良発生の抑制効果がより向上する。
尚、合剤層の前記非合剤層部側の端部の剥離強度の、前記端部以外の部分の剥離強度に対する比率とは、前記合剤層の前記非合剤層部側の端部および前記端部以外の部分において、JIS K 6854−2に準拠してそれぞれ剥離強度を測定し、以下の式で算出した値をいう。
前記非合剤層部側の端部の剥離強度÷前記端部以外の部分の剥離強度×100(%)
剥離強度の測定方法は、より詳しくは、後述する方法で測定する。
【0050】
本実施形態にかかる電極体は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
下記方法で極板を作製した。
(材料)
集電体:正極用集電体:材質 アルミ、厚み 20μm
負極用集電体:材質 銅、厚み 10μm
合剤:正極用合剤 LiMn1/3Ni1/3Co1/32 90重量%、アセチレンブラック 4重量%、PVDF 6重量%、溶剤 N−メチルピロリドン(NMP)
負極用合剤 ハードカーボン 90重量%、PVDF 10重量%、溶剤 N−メチルピロリドン
セパレータ:材質 ポリオレフィン製微多孔膜
【0053】
(作製方法)
正極用合剤を、正極用集電体の一面側に塗布して合剤層を形成した。
塗布装置としては、ダイヘッドコーターを用いた。
前記集電体の一辺の周縁部に合剤が塗布されていない非合剤層部が形成されるように合剤層を形成した。
この時、前記合剤層の非合剤層部側の端から1mmから3mm幅における目付け量が他の部分における合剤層の目付け量より0.3%多くなるように塗布した。
すなわち、前記合剤層端部の目付け量(a)の、前記合剤層のその他の部分の目付け量(b)に対する目付け量比率((a−b)/b×100)が0.3%であった。
さらに、前記合剤層を乾燥させた後に、ロールプレスでプレスして、乾燥させて正極を作製した。プレス圧は、前記合剤層端部およびその他の部分の厚みが均一になるような圧を調整した。
【0054】
一方、負極は前記負極用集電体の一面側全体に前記正極用合剤を均一な厚みとなるように塗布して、正極と同様にロールプレスでプレスし、乾燥させて作製した。
作製した正極及び負極をセパレータを介して各合剤層が対向するように積層し、巻回し、電極体を作製した。電極体をアルミニウム製ケース内に電解液とともに封入し、エージング処理を施して、電池を作製した。
【0055】
(剥離強度試験)
剥離強度試験用に正極用集電体の一面側に合剤層を形成した正極集電体を試料として作製した。前記集電体の一面側全体に、前記合剤層の非合剤層部側の端から1mmから3mm幅の目付け量と同じ目付け量となるように塗布した以外は、前述と同様に作製した。
剥離強度は、JIS K 6854−2に記載の方法に準拠して行なった。
前記試料は、150℃、12時間真空乾燥させた後35×60mmに定寸裁断して治具に固定した。また、被着材およびたわみ性被着材に代えて、50mmの長さのメンディングテープ(商品名:MP−18、住友スリーエム社製)を使用した。
【0056】
(短絡試験)
前記エージング後の電池を、3.0Vに定電圧充電し開回路電圧を測定した。その状態で1週間放置し、その後再度開回路電圧を測定した。エージング後に開回路電圧10mV以上下がっていた場合を微短絡とした。
【0057】
(外観試験)
前記のように作製した負極板をコイルに巻き取った。巻き取られた負極が破断していないかどうかを、外観を観察して調査した。
【0058】
(実施例2〜6、比較例1〜8)
正極の合剤層の目付け量が表1に示す関係になるように調整した以外は、実施例1と同様に実施例2〜6、および比較例1〜8を作製し、実施例1と同様に、剥離強度試験、短絡試験、および外観試験を行った。尚、実施例1〜6、および比較例2〜8において、正極用合剤層の非合剤層部側の端から1mmから3mm幅以外の部分における合剤層の目付け量はすべて比較例1と同じになるように調整した。
さらに、剥離強度については、実施例1乃至6、および比較例2乃至8の剥離強度(gf)を、比較例1の剥離強度(gf)を100%とした場合の比率(%)を算出して表1に記載した。
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から、各実施例の電池は比較例に比べて剥離強度が高いことが明らかである。また、端部の目付け量比率が低い比較例1および2では、微短絡が生じていた。また、前記目付け量比率が大きい比較例3〜8では、集電体の破断が生じていた。
【符号の説明】
【0061】
1:電極体
1a:非合剤層部
2:合剤層
2a:合剤層端部
図1