特許第5984059号(P5984059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984059
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】薬液混注器具
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/20 20060101AFI20160823BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   A61J1/20 316A
   A61J1/20 314B
   A61M5/24
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-228436(P2012-228436)
(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-79331(P2014-79331A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】久保 朋彦
【審査官】 今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−019704(JP,A)
【文献】 特開2011−194045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/20
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアルの口部が装着されるバイアル装着部と、
注射器の先端開口部が装着される注射器装着部と、
前記バイアル装着部と前記注射器装着部の間に摺動可能に配設された両頭針部材とを備えており、
前記両頭針部材の前記バイアルおよび前記注射器に対する相対位置が、該両頭針部材の第1針部および第2針部が前記注射器および前記バイアルの蓋部材を貫通しない離隔位置と、該両頭針部材の該第1針部および該第2針部がそれらの該蓋部材を貫通する接近位置に切り替え可能となっている薬液混注器具において、
前記注射器装着部には、前記注射器の前記先端開口部を覆蓋する前記蓋部材に係止して該蓋部材を該注射器装着部に保持する係止突起が設けられている一方、
前記注射器を前記注射器装着部に装着することにより、前記注射器の前記蓋部材が前記係止突起を乗り越えて前記注射器装着部の奥方の穿刺位置へ配置され、該穿刺位置に保持された該注射器の前記蓋部材に対して前記第1針部が貫通されるようになっている、
ことを特徴とする薬液混注器具。
【請求項2】
一端側に前記バイアル装着部が設けられ、他端側に前記両頭針部材が設けられた内筒部材と、
一端側に前記注射器装着部が設けられ、他端側に前記内筒部材が摺動装着される内筒部材摺動部が設けられた外筒部材を備え、
前記外筒部材の前記内筒部材摺動部に対して、前記内筒部材が前記両頭針部材側から摺動可能に装着されると共に、前記外筒部材と前記内筒部材の間には、前記両頭針部材を前記離隔位置に仮保持する保持機構が設けられている請求項1に記載の薬液混注器具。
【請求項3】
前記注射器装着部が筒状とされており、該注射器装着部の軸直方向で対向する位置に、それぞれ前記係止突起が内方に向かって突設されている請求項1又は2に記載の薬液混注器具。
【請求項4】
前記係止突起が周方向で相互に離隔して複数設けられている請求項1〜3の何れか1項に記載の薬液混注器具。
【請求項5】
前記係止突起が、斜め下方に傾斜しつつ内方に突出するテーパ形状とされている請求項1〜4の何れか1項に記載の薬液混注器具。
【請求項6】
リング状の保持部の一端側に前記係止突起が内方に突出して一体的に設けられた突起構成部品が別体形成されている一方、該突起構成部品が、前記注射器装着部の前記奥方の内周面に対して、該保持部の外周面を内嵌固定することにより装着されている請求項1〜5の何れか1項に記載の薬液混注器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末製剤等の薬剤が収容されたバイアル内に注射器に収容された溶解液等の液剤を注入し、薬剤と液剤を混合して調製するために使用される薬液混注器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗生物質や血液製剤等、輸液の状態では化学的に不安定となり変質のおそれのある製剤については、ゴム栓等の蓋部材で密封されたバイアル中に乾燥状態で保存する一方、使用直前に蒸留水や生理食塩水、ブドウ糖液等の溶解液に溶解調製して、患者へ投薬等することが行われている。
【0003】
バイアル中に乾燥状態で保存された製剤と溶解液との調製を簡便に行うことができる薬液混注器具として、例えば、特許文献1(特開2007−260162号公報)に記載のものが知られている。この薬液混注器具は、バイアルの口部が装着されるバイアル装着部と、注射器の先端開口部が装着される注射器装着部と、バイアル装着部と注射器装着部の間に摺動可能に配設された両頭針部材とを備えており、両頭針部材のバイアルおよび注射器に対する相対位置を、両頭針部材の第1針部および第2針部が注射器およびバイアルの蓋部材を貫通しない離隔位置と、両頭針部材の第1/第2針部がそれらの蓋部材を貫通する接近位置に切り替えることが可能となっている。
【0004】
このような従来構造の薬液混注器具によれば、注射器とバイアルが注射器装着部およびバイアル装着部にそれぞれ装着されると共に、両頭針部材が離隔位置に保持された状態で、製薬会社等から使用者に提供することができる。それ故、使用者は、両頭針部材のバイアルおよび注射器に対する相対位置を接近位置に切り替えるだけで、バイアルと注射器の蓋部材にそれぞれ両頭針部材の第1/第2針部を貫通しバイアルと注射器を相互に連通させることができ、所定の薬剤と液剤の混合調製を簡便且つ速やかに行うことができるようになっている。
【0005】
ところで、混合調製後の薬液を注射器内に吸引して当該注射器を薬液混注器具から取り外す際には、注射器の先端開口部に装着された蓋部材の処理が問題となる。具体的には、蓋部材はゴム等の弾性部材で形成されており、注射器の先端開口部に密接されていることから、注射器を薬液混注器具から取り外す際に、かかる蓋部材が注射器の先端開口部に装着されたままとなる。従って、使用者が調製後の薬液を吸引した注射器を目的のデバイスに取り付ける際には、蓋部材を注射器に先端開口部から取り外す作業が必要となり、作業が煩雑であることに加えて、その際に薬剤が使用者に接触するおそれもあった。
【0006】
そこで、特開2011−19704号公報(特許文献2)に記載の薬液混注器具では、両頭針部材のうち、注射器の蓋部材を貫通する第1針部の周囲に周壁を突設し、かかる周壁から内方に突出する係止突起を設けた構造が提案されている。これによれば、両頭針部材の第1針部に注射器の蓋部材を貫通させるべく、注射器の蓋部材側を両頭針部材に向かって押し込むことにより、蓋部材が係止突起を乗り越えて第1針部の基端部側まで押し込まれることとなる(特許文献2の図5(d),(e)参照)。そして、調製後の薬液を吸引した注射器を薬液混注器具から取り外す際には、蓋部材のフランジ底面に係止突起が係止されることにより、蓋部材が第1針部の周囲に保持される。それ故、使用者が、薬液を吸引した注射器の先端開口部から蓋部材を取り外す作業を不要とすることができるのである。
【0007】
ところが、特許文献1に記載の薬液混注器具では、当該文献の図5(d),(e)に示される、両頭針部材による注射器とバイアルの蓋部材の穿刺作業の際に、注射器の蓋部材を係止突起の反力に抗して第1針部の基端部に向けて押し込み係止突起を乗り越えさせる作業が必要となる。そうすると、使用者には、両頭針部材により両側の蓋部材を貫く力と、係止突起を乗り越えるように注射器側の蓋部材を押し込む力の両方が要求されることとなり、穿刺作業時に非常に大きな力が必要とされて、使用者に過度の負担がかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−260162号公報
【特許文献2】特開2011−19704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、薬液を混合調製する際の作業に必要な力を低減しつつ、注射器の蓋部材を注射器から確実に取り外して保持することができる、新規な構造の薬液混注器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
本発明の第1の態様は、バイアルの口部が装着されるバイアル装着部と、注射器の先端開口部が装着される注射器装着部と、前記バイアル装着部と前記注射器装着部の間に摺動可能に配設された両頭針部材とを備えており、前記両頭針部材の前記バイアルおよび前記注射器に対する相対位置が、該両頭針部材の第1針部および第2針部が前記注射器および前記バイアルの蓋部材を貫通しない離隔位置と、該両頭針部材の該第1針部および該第2針部がそれらの該蓋部材を貫通する接近位置に切り替え可能となっている薬液混注器具において、前記注射器装着部には、前記注射器の前記先端開口部を覆蓋する前記蓋部材に係止して該蓋部材該注射器装着部に保持する係止突起が設けられている一方、前記注射器を前記注射器装着部に装着することにより、前記注射器の前記蓋部材が前記係止突起を乗り越えて前記注射器装着部の奥方の穿刺位置へ配置され、該穿刺位置に保持された該注射器の前記蓋部材に対して前記第1針部が貫通されるようになっていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、注射器を前記注射器装着部に装着する際に、注射器の先端開口部を覆蓋する蓋部材が係止突起を乗り越えて注射器装着部の奥方に配置されるようになっている。これにより、両頭針部材によるバイアルと注射器の両蓋部材に対する穿刺作業の前に、注射器の蓋部材を係止突起を乗り越えて奥方に移動させる作業を完了させることができる。従って、薬液混注器具にバイアルと注射器を取り付けると共に、両頭針部材のバイアルと注射器に対する相対位置が離隔位置に保持された製品の出荷状態では、既に、注射器の蓋部材の係止突起の乗り越え作業が完了している。従って、使用者がバイアルの薬剤と注射器の液剤を混合調整する際には、両頭針部材の第1/第2針部をバイアルと注射器の両蓋部材に穿刺するために必要な力のみが要求されるのであって、薬液の混合調製作業に必要な力の低減が有利に図られている。
【0013】
一方、注射器の先端開口部に装着された蓋部材は、注射器装着部に設けられた係止突起を乗り越えて、注射器装着部の奥方に収容配置されていることから、注射器を注射器装着部の開口部側に引き抜いて取り外す際には、蓋部材が係止突起係止され、注射器装着部の奥方に確実に保持される。このように、係止突起を注射器装着部に設けたことにより、両頭針の第1針部側に設けていた従来構造には不可能であった、蓋部材の薬液混注器具側への確実な保持と、薬液の混合調製作業に必要な力の低減の両立を初めて達成できたのである。
【0014】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係る薬液混注器具において、一端側に前記バイアル装着部が設けられ、他端側に前記両頭針部材が設けられた内筒部材と、一端側に前記注射器装着部が設けられ、他端側に前記内筒部材が摺動装着される内筒部材摺動部が設けられた外筒部材を備え、前記外筒部材の前記内筒部材摺動部に対して、前記内筒部材が前記両頭針部材側から摺動可能に装着されると共に、前記外筒部材と前記内筒部材の間には、前記両頭針部材を前記離隔位置に仮保持する仮保持機構が設けられているものである。
【0015】
本態様によれば、内筒部材と外筒部材と摺動を巧く利用して、両頭針部材の第1針部および第2針部のバイアルや注射器に対する離隔位置と接近位置の切り替え構造をコンパクトに実現することが可能となる。しかも、外筒部材と内筒部材の摺接面間に、両頭針部材を離隔位置に仮保持する仮保持機構が設けられていることから、仮保持機構による器具の大型化を有利に回避しつつ、出荷状態を実現する両頭針部材の離隔位置での仮保持を確実に行うことができる。なお、仮保持機構としては、外筒部材と内筒部材の摺接面間に設けらえた凹凸嵌合によるものや、摩擦力の増大を利用したもの等が有利に採用可能である。
【0016】
本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様に係る薬液混注器具において、前記注射器装着部が筒状とされており、該注射器装着部の軸直方向で対向する位置に、それぞれ前記係止突起が内方に向かって突設されているものである。
【0017】
本態様によれば、注射器を注射器装着部の開口部側(軸方向上方)に引き抜いて取り外す際には、注射器装着部の軸直方向両側から突出する係止突起により蓋部材の軸直方向両側を安定して保持することができる。それ故、一層確実に注射器の先端開口部から蓋部材を取り外して、注射器装着部の奥方に、蓋部材を保持することができるのである。
【0018】
本発明の第4の態様は、前記第1乃至第3の何れか一つの態様に係る薬液混注器具において、前記係止突起が周方向で相互に離隔して複数設けられているものである。
【0019】
本態様によれば、係止突起が周方向で相互に離隔して複数設けられていることから、複数の係止突起が蓋部材の広い範囲に係止することができ、一層確実に蓋部材を注射器装着部の奥方に保持することができる。また、係止突起が周方向で複数に分断されていることから、蓋部材が係止突起を乗り越える際の抗力を有利に低減することができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、前記第1乃至第4の何れか一つの態様に係る薬液混注器具において、前記係止突起が、斜め下方に傾斜しつつ内方に突出するテーパ形状とされているものである。
【0021】
本態様によれば、係止突起が斜め下方に傾斜しつつ内方に突出するテーパ形状とされていることから、蓋部材が係止突起を乗り越える際には、蓋部材がテーパ形状に沿って下方に案内されることにより押し込み力の低減を図ることができる。一方、蓋部材に対して注射器装着部の奥方から開口部側へ移動する力が加わると、係止突起が蓋部材に対してくさび状に当接することとなり、蓋部材の変位に対する大きな抵抗力が発生し、蓋部材の注射器装着部の奥方に有利に保持することができるのである。
【0022】
本発明の第6の態様は、前記第1乃至第5の何れか一つの態様に係る薬液混注器具において、リング状の保持部の一端側に前記係止突起が内方に突出して一体的に設けられた突起構成部品が別体形成されている一方、該突起構成部品が、前記注射器装着部の前記奥方の内周面に対して、該保持部の外周面を内嵌固定することにより装着されているものである。
【0023】
本態様によれば、別体形成された突起構成部品を注射器装着部の奥方に内嵌固定する簡単な構造で、注射器装着部に係止突起を設置することができる。従って、本発明の薬液混注器具の製造を容易に行うことができる。また、既存の薬液混注器具に対して、突起構成部品を追加し、本発明と同様の効果を得るようにすることも可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、注射器装着部に係止突起を設けたことにより、注射器を注射器装着部に装着する際に、注射器の蓋部材を係止突起を乗り越えて奥方に移動させる作業を完了させることができる。これにより、蓋部材の薬液混注器具側への確実な保持と、薬液の混合調製作業に必要な力の低減の両立を達成できたのである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1の実施形態としての薬液混注器具であって、図3に示す中心軸Oに対する軸直交線Iにおける断面図。
図2図1に示した薬液混注器具であって、図3における中心線Oに対する軸直交線IIにおける断面図。
図3図1に示した薬液混注器具の分解斜視図。
図4図1に示した薬液混注器具に用いられる突起構成部品の斜視図。
図5図1に示した方向から見た注射器を注射器装着部に装着する工程を説明する断面説明図。
図6図1に示した方向から見た薬液混注器具の使用方法を説明する断面説明図。
図7図2に示した方向から見た薬液混注器具の使用方法を説明する断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0027】
先ず、図1図4に、本発明の第1の実施形態としての薬液混注器具10を示す。薬液混注器具10は、略円筒形状の内筒部材12に対して、同じく略円筒形状の外筒部材14が軸方向で摺動可能に外嵌状態で組み付けられた構成とされている。この薬液混注器具10は、バイアル16と注射器18を相互に連通して薬剤と液剤を混合調製するために使用されるものである。ここで、図1は、図3に示す薬液混注器具10の中心軸:Oに直交する直交線Iで縦断した断面を示し、図2は、図3に示す直交線Iにさらに直交する直交線IIで縦断した断面を示している。なお、以下の説明において、特に断りの無い限り、上下方向とは、鉛直上下方向である図1中の上下方向をいうものとする。
【0028】
また、薬液混注器具10に装着されるバイアル16や注射器18は、公知の規格形状を有しているものが何れも装着可能である。バイアル16は、粉末製剤等の薬剤を収容するガラス製の容器部20と、容器部20の口部22を密封するゴム製の蓋部材24と、蓋部材24を容器部20に固定する金属製のリング部材26から構成されているものである。また、注射器18は、溶解液を収容するバレル28と、バレル28の内部と進退動するプランジャ30と、バレル28の先端開口部32の外周を囲繞する筒状の連結部34を有しており、先端開口部32と連結部34の間に先端開口部32を密封するゴム製の蓋部材36が装着されているものである。
【0029】
薬液混注器具10を構成する内筒部材12は、ポリプロピレンやポリエチレン,ABS樹脂,ポリカーボネート,ポリスチレン等の合成樹脂材料等の公知の材料から形成されており、略円筒形状の筒体部40を有している。筒体部40は、一方の端部(図1中、下側)が開口されており、これにより、内筒部材12の一端側にバイアル16の口部22が装着されるバイアル装着部44が構成されるようになっている。一方、筒体部40の他方の端部(図1中、上側)は、軸直方向に広がる仕切壁46で塞がれている。そして、仕切壁46の一方の側(図1中、上側)に第1針部48が突設されていると共に、他方の側(図1中、下側)に第2針部50が突設されている。この仕切壁46と第1針部48および第2針部50によって、内筒部材12の他端側に設けられた両頭針部材52が構成されるようになっている。
【0030】
両頭針部材52において、第1針部48および第2針部50は、仕切壁46の略中心部から上下両側に突出して、筒体部40の中心軸状を延伸する形状とされている。第1針部48の突出寸法は、外筒部材14に設けられた後述する注射器装着部72に装着される注射器18の蓋部材36を貫通するに十分な長さに設定されている。一方、第2針部50の突出寸法は、筒体部40の軸寸法よりも所定寸法短くされており、バイアル装着部44にバイアル16の口部22が装着された際に、第1針部48の先端部が、バイアル16の蓋部材24に至らないようにされている。なお、第1針部48は第2針部50よりも小さな径寸法で細く形成されており、第1針部48が注射器18の蓋部材36を貫通する穿刺抵抗が、第2針部50がバイアル16の蓋部材24を貫通する穿刺抵抗よりも小さくなるようにされている。
【0031】
第1針部48および第2針部50の内部には、それらを連続して軸方向に延びる通路54が貫設されている。通路54の一端部は第1針部48の先端部に開口している一方、通路54の他端部は第2針部50の外周面に開口しており、この通路54を介して、バイアル16の容器部20の内部空間と注射器18のバレル28の内部空間が相互に連通されるようになっている。
【0032】
内筒部材12には、さらに仕切壁46から上方に突出する一対の注射器離脱防止部材56,56が突設されている。この一対の注射器離脱防止部材56, 56は、仕切壁46の中心部に突設する第1針部48を、軸直方向で間に挟んで相互に離隔した対向位置にそれぞれ軸方向上方に突出して設けられている(図2参照)。各注射器離脱防止部材56は、僅かに円弧状に湾曲した矩形突片58と、矩形突片58の先端部に設けられて軸直方向内方に突出する部分ねじ部60から構成されている。なお、各矩形突片58の外周面上には、補強リブ62が設けられており、細長く突出する矩形突片58の強度が確保されている。この注射器離脱防止部材56の機能については、後述の使用方法において詳述する。
【0033】
図2および図3に示すように、内筒部材12の筒体部40の外周面上には、一対の注射器離脱防止部材56,56が対向する軸直線上で対向する周上の2箇所において、軸方向に延びる位置決め凹溝64,64が形成されている。また、図3に示すように、筒体部40の外周面上には、軸方向の同一位置で且つ周方向で相互に離隔した複数箇所(本実施形態では90°ピッチで4箇所)に、複数の当接突起68が突出形成されている。
【0034】
さらに、筒体部40の内周面上には、周方向で離隔する複数箇所(本実施形態では4箇所)において、バイアル装着部44に装着されるバイアル16の口部22に圧接される圧接リブ66が軸方向に延出して設けられている。図1に示すように、軸直方向で対向する圧接リブ66,66間の内径寸法:φ1が、バイアル16の口部22の外径寸法:φ2よりも僅かに小さくされており、バイアル装着部44に装着されたバイアル16の口部22が圧接リブ66の弾性復元力により、強固に保持されるようになっている。なお、各圧接リブ66の開口側端部(図1中下方側)には、下方に向かって次第に外方に広がるテーパ面67が形成されている。そして、バイアル装着部44の開口部にバイアル16の口部22を挿入する際には、かかるテーパ面67に案内されて、バイアル16がバイアル装着部44と略同軸状に位置決めされるようになっている。
【0035】
一方、薬液混注器具10を構成する外筒部材14は、内筒部材12と同様の合成樹脂材料等から形成されており、軸方向の中間部分で径寸法が異ならされた段付きの略円筒形状を呈している。図1および図2に示すように、外筒部材14の軸方向中間部分に設けられた段差面70を挟んで上方側に位置する一端側には、略円筒形状の注射器装着部72が設けられている。また、外筒部材14の段差面70を挟んで下方側に位置する他端側には、内筒部材12の外径寸法よりも僅かに大きな内径寸法を備えた円筒形状の内筒部材摺動部74が下方に向かって開口形成されており、内筒部材12が摺動装着されるようになっている。
【0036】
外筒部材14の注射器装着部72は、段差面70の内周縁部に連接して軸方向上方に立ち上がる略円筒形状を呈しており、軸方向の上方開口部76から注射器18の連結部34が挿入されるようになっている。注射器装着部72の内径寸法:φ3は、注射器18の連結部34の外径寸法:φ4よりも僅かに大きくされており、注射器装着部72の内周面には、注射器18の連結部34の外周面に形成された雄ねじ部78に螺合する雌ねじ部80が形成されている。
【0037】
図1および図2に示すように、注射器装着部72の内周面には、軸直方向で対向する位置に軸方向に連続して延びる一対の凹溝部82,82が形成されており、これにより、雌ねじ部80が途中で寸断された不連続な形状とされている。なお、一対の凹溝部82,82の溝幅寸法(周方向長さ)は、そこに挿入される一対の注射器離脱防止部材56,56の矩形突片58の幅寸法(周方向長さ)よりも僅かに大きくされている。また、凹溝部82,82の底面は、挿入される一対の注射器離脱防止部材56,56の補強リブ62が収容可能なように、幅方向中央部分が最も深く、幅方向両側に向かって次第に浅くなる略V字断面形状とされている。
【0038】
さらに、注射器装着部72の奥方となる下方開口部84側には、別体形成されたリング状の突起構成部品86が内嵌される嵌合凹所88が形成されている。図4に示すように、突起構成部品86は、内筒部材12および外筒部材14と同様の公知の合成樹脂材料等から形成されており、一定の略楕円形断面を有するリング状の保持部90を有している。一対の保持部90,90の軸直方向で対向する位置には、軸直方向の外方に傍出する一対の凹溝部91,91が一体形成されている。この一対の凹溝部91,91は、注射器装着部72の内周面に開口形成された一対の凹溝部82,82よりも僅かに小さな相似形状を有しており、突起構成部品86が嵌合凹所88に嵌め入れられた状態で、一対の凹溝部91,91の内面と、一対の凹溝部82,82の内面とが滑らかに連接されるように構成されている。
【0039】
また、保持部90の一端側(図1中上側)には、斜め下方に傾斜しつつ保持部90の内方に片持ち状態で突出する複数の舌片状の係止突起92が一体的に形成された構造とされている。本実施形態では、保持部90の軸直方向で対向する位置に、周方向で相互に離隔した3つの係止突起92が、それぞれ設けられている(図4参照)。
【0040】
このような突起構成部品86は、注射器装着部72の奥方の内周面に形成された嵌合凹所88に対して、保持部90の外周面を内嵌固定することにより、装着保持されている。図1に部分的に拡大して示すように、突起構成部品86の外周面には係合突起94が突設されており、嵌合凹所88の内周面に開口形成された係合凹部96に嵌合することにより、突起構成部品86が嵌合凹所88に固定的に位置決め保持されるようになっている。さらに、突起構成部品86の保持部90における下フランジ部98が嵌合凹所88の下方側軸直端面100に当接することや、保持部90の上端面102が嵌合凹所88の上方側軸直端面104に当接することにより、突起構成部品86が上方への引き抜き力に対抗して強固に位置決め保持されるようになっている。
【0041】
また、外筒部材14における内筒部材摺動部74の内周面には、内筒部材12の外周面に設けられて、軸直方向で対向する一対の位置決め凹溝64,64に嵌め入れられる、一対の位置決めリブ106,106が、軸直方向で対向する位置で、軸方向に連続して延出形成されている。さらに、内筒部材摺動部74の内周面には、異なる3つの軸方向位置で、周方向に連続して延びる第1周溝108,第2周溝110,第3周溝112が形成されている。内筒部材摺動部74に対して内筒部材12が摺動可能に装着された際には、内筒部材12の外周面に形成された当接突起68が、各第1、第2、第3周溝108,110,112に嵌め入れられて仮保持されることにより、内筒部材12と外筒部材14の相対位置が切り替え可能とされるようになっている。これにより、薬液混注器具10に装着されたバイアル16および注射器18に対する両頭針部材52の相対位置が切り替え可能となるのである。要するに、本実施形態では、内筒部材12と外筒部材14の摺動を巧く利用して、両頭針部材52の第1針部48および第2針部50のバイアル16や注射器18の蓋部材24,36に対する離隔位置と接近位置の切り替え構造をコンパクトに実現できるのである。
【0042】
このような構造とされた内筒部材12と外筒部材14は、図3に示すように、外筒部材14の内筒部材摺動部74に対して、内筒部材12を両頭針部材52側から挿し入れて組み付けることにより、本実施形態の薬液混注器具10が構成されることとなる。ここで、内筒部材12を外筒部材14に組み付ける際には、はじめに、内筒部材12の外周面に形成された一対の位置決め凹溝64,64に対して、外筒部材14の内筒部材摺動部74の内周面に形成された一対の位置決めリブ106,106が嵌め入れられることにより、内筒部材12と外筒部材14の周方向の相対位置が位置決めされる。そして、かかる位置決め状態を保持して、内筒部材12が外筒部材14の内筒部材摺動部74に対して軸方向で摺動可能に装着されるのである。
【0043】
さらに、内筒部材12を内筒部材摺動部74の奥方に挿入すると、内筒部材12の外周面に形成された当接突起68が、内筒部材摺動部74の内周面に形成された第1周溝108に嵌まり込む。これにより、内筒部材12が外筒部材14から最も突出した状態で組み付けられた、図1および図2に示す薬液混注器具10の準備状態に仮保持される。かかる組み付け状態において、内筒部材12と外筒部材14の周方向の相対位置が、位置決め凹溝64と位置決めリブ106の嵌合により安定して保持されていることから、内筒部材12に設けられた一対の注射器離脱防止部材56,56が、外筒部材14の注射器装着部72に設けられた一対の凹溝部82,82,91,91に確実に位置合わせされており、各注射器離脱防止部材56が各凹溝部82,91にスムーズに挿入されるようになっている(図2参照)。
【0044】
次に、図5図7に基づき、本実施形態の薬液混注器具10の使用方法について説明する。なお、図5は、図1に示した断面において、注射器18を注射器装着部72に装着する工程を説明するものである。そして、図6は、図1に示した断面において、注射器18が装着された薬液混注器具10を、さらにそのバイアル装着部44にバイアル16を装着した状態からの各使用状態を示している。また、図7は、図2に示した断面において、注射器18が装着された薬液混注器具10を、さらにそのバイアル装着部44にバイアル16を装着した状態からの各使用状態を示している。
【0045】
図5(a)に示すように、注射器装着部72では、注射器18の雄ねじ部78を注射器装着部72の雌ねじ部80に対して螺合させることにより、注射器18が注射器装着部72に装着される。この螺合に伴い、注射器18の先端開口部32を覆蓋する蓋部材36が、注射器装着部72の内方に突出する係止突起92に当接されることとなる。蓋部材36は、注射器装着部72の内径寸法より僅かに小さな外径寸法を有していることから、注射器装着部72の内方に突出する片持ち状の係止突起92を下方に弾性変形させつつ下方に押し込まれることとなる。なお、本実施形態では、係止突起92が周方向で相互に離隔して3つ設けられていることから、蓋部材36が係止突起92を乗り越える際の抗力の低減が有利に図られている。
【0046】
さらに、図5(b)に示すように、注射器18の雄ねじ部78と注射器装着部72の雌ねじ部80が最終端まで完全に螺合された注射器18の注射器装着部72への装着状態では、蓋部材36が、注射器装着部72の内周面に突設された係止突起92を乗り越えて、さらに注射器装着部72の奥方(図5(b)中、下方)に配置されている。また、蓋部材36が係止突起92を乗り越えて奥方に配置されたことにより、係止突起92は初期形状に弾性復帰して、蓋部材36よりも軸方向上方に位置して、蓋部材36よりも軸直方向で内方に突出されている。この状態から、さらに、内筒部材12を内筒部材摺動部74の奥方に挿入すると、図5(c)に示すように、内筒部材12の外周面に形成された当接突起68が、内筒部材摺動部74の内周面に形成された第2周溝110に嵌まり込み、その位置で内筒部材12が内筒部材摺動部74に対して仮保持される。なお、後述する図6(a)から明らかなように、図5(c)に示す状態では、注射器離脱防止部材56に設けられた部分ねじ部60が、注射器装着部72の雌ねじ部80に連続することなく、軸方向でずらされた位置に配設されるようになっている。これにより、この状態で注射器18を回転させても、注射器18の雄ねじ部78を注射器装着部72の雌ねじ部80に螺合させることができなくなり、薬剤の調整前に、注射器装着部72から注射器18を離脱させる誤作動が防止されるようになっている。
【0047】
このように、注射器18が注射器装着部72に装着され、図5(c)に示した状態とされた薬液混注器具10は、さらに、図6(a)および図7(a)に示すように、薬液混注器具10のバイアル装着部44にバイアル16が装着される。バイアル装着部44では、バイアル装着部44に設けられた圧接リブ66のテーパ面67に案内されて、バイアル16の蓋部材24がバイアル装着部44に僅かに入り込んだ状態で、バイアル装着部44がバイアル16に装着されている。この状態で、両頭針部材52の第2針部50は、バイアル16の蓋部材24を貫通しない離隔位置に保持されている。また、内筒部材12は、その外周面に設けられた当接突起68が、外筒部材14の内筒部材摺動部74に設けられた第2周溝110に嵌合される位置まで、内筒部材摺動部74の奥方に押し込まれている。このように、内筒部材12と外筒部材14の相対位置が仮保持された図6(a),図7(a)の状態で、両頭針部材52の第1針部48は、注射器18の蓋部材36を貫通しない離隔位置に保持されている。これらの説明から明らかなように、本実施形態では、バイアル装着部44の圧接リブ66と、内筒部材12の当接突起68と外筒部材14の第2周溝110の協働により、両頭針部材52の第1針部48および第2針部50を蓋部材24,36から離隔した離隔位置に仮保持する、仮保持機構が構成されているのである。
【0048】
本実施形態の薬液混注器具10によれば、図6(a),図7(a)に示すように、薬液混注器具10のバイアル装着部44にバイアル16を装着すると共に、注射器装着部72に注射器18が装着されると共に、両頭針部材52が離隔位置に保持された状態で、製薬会社等から使用者向けに出荷して提供することができる。要するに、図5(a),(b),(c)に示す注射器18の注射器装着部72への装着工程および図6(a),図7(a)に示すバイアル16のバイアル装着部44への装着工程までを製造工場で行うことができ、これにより、使用者による使用工程の削減を図ることも可能となる。前述のとおり、かかる出荷状態において、注射器離脱防止部材56に設けられた部分ねじ部60が、注射器装着部72の雌ねじ部80に連続することなく、軸方向でずらされた位置に配設されており(図6(a)参照)、薬剤の調整前に、注射器装着部72から注射器18を離脱させる誤作動が防止されるようになっている。
【0049】
続いて、図6(b),図7(b)に示すように、使用者は、バイアル16に収容された薬剤120を注射器18に収容された溶解液122で溶解すべく、両頭針部材52の第1針部48と第2針部50を注射器18の蓋部材36とバイアル16の蓋部材24を貫通する接近位置に切り替える作動を行う。具体的には、注射器18を下方に向けて押し込む。これにより、先ず、内筒部材12の当接突起68と外筒部材14の第2周溝110との嵌合が外れて、内筒部材12が内筒部材摺動部74のさらに奥方まで移動して、当接突起68が第3周溝112に嵌合すると共に、内筒部材12の仕切壁46が外筒部材14の段差面70に当接保持される。これにより、両頭針部材52の第1針部48が、注射器18の蓋部材36を貫通する接近位置に移動保持される。また、これと略同時に、バイアル16がバイアル装着部44の奥方まで圧入されて、バイアル16の蓋部材24の天面が仕切壁46に当接保持される。これにより、両頭針部材52の第2針部50が、バイアル16の蓋部材24を貫通する接近位置に移動保持される。その結果、両頭針部材52の通路54を通じて、バイアル16の容器部20の内部と注射器18のバレル28の内部が連通されて、薬液の混合調整が可能となる。
【0050】
そして、使用者は、図6(c),(d),図7(c),(d)に示すように、注射器18のプランジャ30を押圧してバレル28内の溶解液122をバイアル16の容器部20内に注入して、容器部20内の薬剤120と混合調整する。次に、使用者は、図6(e),図7(e)に示すように、調整された混合薬液124を注射器18のバレル28内に移動させるべく、バイアル16と注射器18の位置を上下反転した状態で、注射器18のプランジャ30を引くことにより、バイアル16の容器部20内の混合薬液124を注射器18のバレル28内に吸引する。
【0051】
混合薬液124のバレル28内への吸引が完了すると、図6(f),図7(f)に示すように、使用者は注射器18を回転させて、注射器18の連結部34を注射器装着部72から離脱される。この時、内筒部材12が外筒部材14の内筒部材摺動部74の奥方に押し込まれて、図6(b)〜図6(f)に示すように、注射器装着部72に形成された雌ねじ部80と注射器離脱防止部材56の部分ねじ部60とが連接されている。従って、注射器装着部72に形成された雌ねじ部80と注射器18の連結部34に形成された雄ねじ部78の相対回転が許容され、注射器18を注射器装着部72から離脱させることができるのである。
【0052】
この際、注射器18の先端開口部32に装着された蓋部材36には、注射器18の注射器装着部72からの離脱に伴い、注射器装着部72の開口部側(図6(f),図7(f)中、下側)に向かう外力が及ぼされる。しかしながら、蓋部材36の直下において、蓋部材36の外周縁部よりも軸直方向の内方に突出する係止突起92が突設されていることから、係止突起92が蓋部材36に係止されて、蓋部材36の注射器装着部72からの抜け出しが阻止される。その結果、注射器18の先端開口部32から蓋部材36が離脱されて注射器装着部72の奥方にそのまま保持される。従って、図6(f),図7(f)に示すように、使用者は、注射器18を注射器装着部72から離脱させるのみでよく、蓋部材36を注射器18の先端開口部32から取り外す等の作業が不要となるのである。
【0053】
以上述べてきたように、本実施形態における薬液混注器具10によれば、注射器18を注射器装着部72に装着する際に、蓋部材36が係止突起92を乗り越えて注射器装着部72の奥方に配置されるようになっている(図6(a),図7(a)参照)。すなわち、かかる作業を、図6(b),図7(b)に示す両頭針部材52によるバイアル16と注射器18の両蓋部材24,36に対する穿刺作業の前の出荷状態までに、完了させることができる。従って、使用者がバイアル16の薬剤120と注射器18の溶解液122を混合調整する際には、両頭針部材52の第1針部48と第2針部50をバイアル16と注射器18の両蓋部材24,36に穿刺するために必要な力のみが要求されるのであって、薬液の混合調製作業に使用者に要求される作業力の低減を有利に図ることができる。
【0054】
しかも、注射器18の蓋部材36は、注射器装着部72に設けられた係止突起92を乗り越えて、注射器装着部72の奥方に収容配置されていることから、注射器18を注射器装着部72の開口部側に引き抜いて取り外す際には、蓋部材36が係止突起92に係止され、注射器装着部72の奥方に確実に保持することができる。要するに、本実施形態では、係止突起92を注射器装着部72の所定位置に設けたことにより、蓋部材36の薬液混注器具10側への確実な保持と、薬剤120と溶解液122の混合調製作業に必要な力の低減の両立を有利に達成できるのである。
【0055】
特に、注射器装着部72の軸直方向で対向する位置に、それぞれ複数の係止突起92(本実施形態では3つずつ)が内方に向かって突設されていることから、注射器18と共に蓋部材36が注射器装着部72の開口部側へ引き抜かれる際に、係止突起92により蓋部材36の軸直方向両側を安定して保持することができ、確実に蓋部材36を注射器18の先端開口部32から取り外して、注射器装着部72の奥方に保持することができるのである。しかも、各係止突起92は、注射器装着部72の開口部から奥方に向かう軸方向において、斜め下方に傾斜しつつ、注射器装着部72の軸直方向内方に突出するテーパ形状とされている。これにより、蓋部材36が係止突起92を乗り越える際には、蓋部材36がテーパ形状に沿って下方に案内されることにより押し込み力の低減が図られている。一方、蓋部材36に対して注射器装着部72の奥方から開口部側へ移動する力が加わると、係止突起92が蓋部材36に対してくさび状に当接して大きな抵抗力を生じさせることができ、蓋部材36を一層確実に注射器装着部72の奥方に保持できるのである。
【0056】
また、本実施形態では、別体形成された突起構成部品86を、注射器装着部72の奥方に形成されて内筒部材摺動部74側に開口する嵌合凹所88に対して、内嵌固定する簡単な構造で、注射器装着部72の所定位置に係止突起92を設置することができ、薬液混注器具10の製造を容易に行うことができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。上記実施形態では、内筒部材12と外筒部材14の摺動を利用して、両頭針部材52の第1針部48および第2針部50のバイアル16や注射器18の蓋部材24,36に対する離隔位置と接近位置の切り替え構造を実現していたが、かかる構造以外にも、例えば、特許文献1に記載の如き、筒体の上方と下方に注射器装着部72とバイアル装着部44を備え、当該筒体の内部に摺動可能に両頭針部材52を収容した構造も、採用可能である。この場合には、筒体の上方に設けられた注射器装着部72の所定位置に係止突起92を突設し、注射器18が注射器装着部72に装着されて、両頭針部材52が離隔位置に保持された状態で、注射器18の蓋部材36が係止突起92を乗り越えて注射器装着部72の奥方に位置されているようにすればよい。
【0058】
また、別体の突起構成部品86は、必ずしも採用する必要はなく、注射器装着部72の内面に、直接ボス状の係止突起を形成してもよい。さらに、係止突起の形状や配設個数等は、注射器18の蓋部材36の形状等を考慮して、任意に設定可能である。
【符号の説明】
【0059】
10:薬液混注器具、12:内筒部材、14:外筒部材、16:バイアル、18:注射器、22:口部、24:蓋部材、26:リング部材、32:先端開口部、36:蓋部材、44:バイアル装着部、48:第1針部、50:第2針部、52:両頭針部材、68:当接突起(保持機構)、72:注射器装着部、86:突起構成部品、92:係止突起、110:第2周溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7