特許第5984126号(P5984126)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5984126
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ダイカスト金型
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/22 20060101AFI20160823BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B22D17/22 F
   B22D17/22 R
   B22C9/06 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-108032(P2015-108032)
(22)【出願日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】307031253
【氏名又は名称】RTM 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136560
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 衛
(72)【発明者】
【氏名】滝北 高憲
(72)【発明者】
【氏名】土屋 健二
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4775521(JP,B2)
【文献】 特開昭60−083765(JP,A)
【文献】 特開2003−145249(JP,A)
【文献】 特開2002−221080(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/029920(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0007931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/06
B22D 15/00,17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティに溶融金属を圧入してダイカスト製品を鋳造するダイカスト金型であって、
前記ダイカスト製品が肉厚部を有し、
前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部が、ピットの形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピットを200個/cm以上有するピット形成領域であることを特徴とするダイカスト金型。
【請求項2】
キャビティに溶融金属を圧入してダイカスト製品を鋳造するダイカスト金型であって、
前記ダイカスト製品が肉厚部を有し、
ピットの形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピットの開口部の面積が、前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部の面積の70%以上を占めることを特徴とするダイカスト金型。
【請求項3】
キャビティに溶融金属を圧入してダイカスト製品を鋳造するダイカスト金型であって、
前記ダイカスト製品が肉厚部を有し、
前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部が、ピットの形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピットを200個/cm以上有するピット形成領域であり、
前記ピットの開口部の面積が、前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部の面積の70%以上を占めることを特徴とするダイカスト金型。
【請求項4】
前記ピットのアスペクト比が、0.1以上である請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のダイカスト金型。
【請求項5】
前記ピットのピット深さが、30μm〜200μmである請求項4記載のダイカスト金型。
【請求項6】
前記ダイカスト金型と前記肉厚部の前記接触部に金型内部冷却装置を有する請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のダイカスト金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト金型に関し、特に、ダイカスト製品の肉厚部に発生する引け欠陥を防止、あるいは軽減するためのダイカスト金型に関する。
【背景技術】
【0002】
肉厚部を有するダイカスト製品は、該肉厚部に、「キャビティの局部的過熱が原因で、その部位の凝固だけが遅れ、体積の減少から表面のくぼみとなる現象あるいは割れを生ずる現象、または内部に空隙を生ずる現象」、いわゆる「引け」が発生し、問題となっていた。そこで、従来、肉厚部の引けを防止するために、かかる肉厚部に接触する金型の部位の内部冷却を強化する、あるいは当該部位への離型剤などの外冷を増やすなどにより対応していた。
【0003】
しかしながら、金型構造によっては、肉厚部への内部冷却のための冷却管の数を増やしたり、管径を大きくしたりすることが困難である場合も少なくなかった。また、肉厚部に接触する金型の部位への離型剤あるいは水などの外部冷却は簡単で効果的であるが、当該部位の金型の加熱冷却が過酷な状態になり、金型の早期破損の原因になっていた。さらに、前記部位が過剰に冷却され、その結果、離型剤の乾燥不良が生じ、ガス欠陥の原因となる場合もあった。
【0004】
そこで、確実に前記肉厚部の引けをなくす方法として、当該肉厚部に金型を貫通する加圧ピンを設け、加圧力で引けを潰す機構も一部では採用されていた。しかしながら、金型構造によっては加圧シリンダーの設置が困難な場合もあり、加圧タイミングなどの加圧条件の設定を適切に管理しなければ効果が十分に発揮されるものではなかった。
【0005】
一方、非特許文献1には、金型にショットブラストや化学的な腐食により、金型表面に微細な凹凸を形成することが開示され、特許文献1には、金型表面にショットブラストを施すことにより、湯流れ改善を図る技術が開示されている。また、特許文献2には、金型内部に熱伝導の高いCuを用い、かつ金型鋼材との接合面に凹凸を設ける技術が開示され、特許文献3には、ショットブラストにより金型表面に微細な凹凸を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平野雅雄、外5名、「ダイカスト製品の鋳造不良を低減する金型ディンプル加工技術の開発」、素形材、一般財団法人素形材センター、2010、Vol.51、No.12、p38〜43
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4775521号公報
【特許文献2】特開2014−161888号公報
【特許文献3】特開2012−040744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1記載の技術は、湯流れを改善したり、金型寿命を延ばしたりすることはできるものの、引け防止の効果についてはまったくわからないものであった。また、特許文献1記載の技術は、ディンプルの形状は半球状で、形成方法もショットブラストに限られ、ディンプル形状は比較的浅いため、湯流れ改善の効果は期待できるものの、金属との接触面積の増加が小さく、引けの改善はまったく期待できるものではなかった。さらに、特許文献2記載の技術は、冷却能力を高める工夫はしているものの、金型の構造が複雑になりかつ高価で、十分な引けの防止効果を有するものではなかった。さらにまた、特許文献3記載の技術は、製品の金型からの離型性を向上させかつ金型の耐久性を向上させることはできるものの、十分な引けの防止効果を有するものではなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、前記の従来技術の問題点を解決し、肉厚部を有するダイカスト製品の肉厚部に発生する引け欠陥を防止、あるいは軽減するためのダイカスト金型を提供することにある。特に、特別な加圧装置などを用いることなく、さらに外部冷却によるガス欠陥などの新たな欠陥の可能性を生じることなく、肉厚部の引けを防止、あるいは軽減することができる金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ダイカスト製品の肉厚部を形成する金型との接触部に、微細な凹部を付与することで当該接触部の溶融金属と接触する面積を増大させ、冷却効果を大きくすることによって、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明のダイカスト金型は、キャビティに溶融金属を圧入してダイカスト製品を鋳造するダイカスト金型であって、前記ダイカスト製品が肉厚部を有し、前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部が、ピットの形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピットを200個/cm以上有するピット形成領域であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のダイカスト金型は、キャビティに溶融金属を圧入してダイカスト製品を鋳造するダイカスト金型であって、前記ダイカスト製品が肉厚部を有し、ピットの形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピットの開口部の面積が、前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部の面積の70%以上を占めることを特徴とするものである。
【0013】
本発明のダイカスト金型は、キャビティに溶融金属を圧入してダイカスト製品を鋳造するダイカスト金型であって、前記ダイカスト製品が肉厚部を有し、前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部が、ピットの形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピットを200個/cm以上有するピット形成領域であり、前記ピットの開口部の面積が、前記ダイカスト金型と前記肉厚部の接触部の面積の70%以上を占めることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のダイカスト金型は、前記ピットのアスペクト比が、0.1以上であることが好ましく、前記ピットのピット深さが、30μm〜200μmであることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明のダイカスト金型は、前記ダイカスト金型と前記肉厚部の前記接触部に金型内部冷却装置を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、ダイカスト製品の肉厚部に発生する引け欠陥を防止、あるいは軽減するためのダイカスト金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のダイカスト金型の一例を示す図である。
図2】本発明におけるピットの一例を示す上面図である。
図3】本発明におけるピットの一例を示す断面図である。
図4】本発明におけるピットの他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のダイカスト金型ついて具体的に説明する。
ダイカスト製品の引け欠陥は、通常当該ダイカスト製品において相対的に肉厚である部位(肉厚部)に発生する。これは、前記肉厚部は、相対的に凝固速度が他の部位より遅くなり、そのため、凝固収縮に伴う体積減少が、最終凝固部となる肉厚部に集中して、引け欠陥を生ずることになる。従って、肉厚部の冷却速度を速くし、凝固速度をその他の部位と同等の速度にすることで、肉厚部への引け欠陥の発生を防止できる。また、肉厚部の冷却速度を早くする手法としては様々な方法があるが、その一つとして溶融金属と接する金型の表面積を増加させる方法がある。金型内の溶融金属が凝固する際、溶融金属の熱は金型表面を通じて金型内部に伝達され、溶融金属の温度が低下し凝固する。この時、金型表面から金型内部に伝達される熱は、熱伝達の原理により溶融金属と接する金型の表面積に比例する。さらに、金型の表面積を増加させる方法としては、金型表面に微細なピット(凹部)を作る方法がある。そこで、本発明は、ダイカスト製品の引け欠陥の生ずる肉厚部に接する金型の表面に、微細なピット(凹部)を形成し、前記肉厚部の冷却速度を速くすることによって、引けを防止等するものである。さらに引けに伴う割れに関しては、表面の微細な凹凸が凝固時の収縮応力を分散させ割れの発生を防止することができる。なお、一般にダイカスト製品では、その製品で相対的に板厚の厚い部分を「肉厚部」と呼んでいるが、もちろん製品の大きさ、形状により「肉厚部」の範囲、厚さなどは異なり、本発明では、一般的な概念に従い、その製品の部位で相対的に肉厚であり、約10mm以上の部位を「肉厚部」とする。
【0019】
図1は、本発明のダイカスト金型の一例を示す図である。図1において、1がダイカスト金型(2が固定型、3が可動型)で、5がキャビティで、4がダイカスト製品を示し、41がダイカスト製品の肉厚部であり、31がピット形成領域(図中の斜線部)であり、このピット形成領域31にピット32を設けて、ダイカスト製品4の肉厚部41の引けを防止するものである。
【0020】
具体的には、本発明のダイカスト金型1は、キャビティ5に溶融金属を圧入してダイカスト製品4を鋳造するダイカスト金型1であって、前記ダイカスト製品4が肉厚部41を有し、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部が、ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピット32を200個/cm以上有するピット形成領域31であることを特徴とするものである。前記ダイカスト製品の肉厚部41と前記ダイカスト金型1が接触するピット形成領域31に、ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上とし、ピット32を200個/cm以上有することで、ダイカスト製品の肉厚部41に発生する引け欠陥を防止、あるいは軽減するためのダイカスト金型1を提供することができる。なお、本発明において、肉厚部の冷却速度を他の部分と同等にするため、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31以外の領域は、ピット32を有していないことが好ましい。
【0021】
本発明のダイカスト金型1は、キャビティ5に溶融金属を圧入してダイカスト製品4を鋳造するダイカスト金型1であって、前記ダイカスト製品4が肉厚部41を有し、ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上となり、ピット32の開口部の面積が、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31の面積の70%以上を占めることを特徴とするものである。ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上とし、ピット32の開口部の面積が、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31の面積の70%以上を占めることにより、ダイカスト製品の肉厚部41に発生する引け欠陥を防止・軽減するためのダイカスト金型1を提供することができる。なお、本発明において、肉厚部の冷却速度を他の部分と同等にするため、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31以外の領域は、ピット32を有していないことが好ましい。
【0022】
本発明のダイカスト金型1は、キャビティ5に溶融金属を圧入してダイカスト製品4を鋳造するダイカスト金型1であって、前記ダイカスト製品4が肉厚部41を有し、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部が、ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピット32を200個/cm以上有するピット形成領域31であり、前記ピット32の開口部の面積が、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部の面積の70%以上を占めることを特徴とするものである。これにより、ダイカスト製品の肉厚部41に発生する引け欠陥を防止・軽減するためのダイカスト金型1を提供することができる。なお、本発明において、肉厚部の冷却速度を他の部分と同等にするため、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31以外の領域は、ピット32を有していないことが好ましい。
【0023】
本発明において、ピット32の形成による表面粗さRzが50μm以上であり、Rzが70μm以上であることが好ましい。表面粗さをかかる範囲とすることで、前記肉厚部41の冷却速度を速くすることができる。また、凝固時の収縮応力を分散させることができる。ここで、表面粗さとは、JIS B 0601:2001に規定される方法で測定したものであり、具体的には、この規格に準拠した小形表面粗さ測定機、例えば、株式会社ミツトヨ製のサーフテスト SJ−400等を用いて測定を行った。なお、表面粗さRzの上限は特にないが、200μmとすることもできる。
【0024】
本発明において、ピット32の数が200個/cm以上、あるいは平面上のピット32の占有面積率が70%以上、またはピット32の数が200個/cm以上で平面上のピット32の占有面積率が70%以上であることが必要である。
【0025】
具体的には、ピット形成領域31にピット32を200個/cm以上有するものであり、ピットの大きさ、形状により異なるが、ピット開口部の大きさが小さい場合、例えば100μm以下の場合、5000個/cm〜10000個/cm有することが好ましい。ピット形成領域31のピット32の数をかかる範囲とすることで、前記肉厚部41の冷却速度を速くすることができ、単位面積当たりのピット32の数が200個/cmより少ないと表面積の増加が少なく冷却効果が期待できない。一方、単位面積当たりのピット32の数をあまりにも多くしすぎると、ピット32同士が重なり表面積はピット32の数ほどには増加しなくなるおそれがある。なお、ピット32の個数は複数個が重なっている場合には、それぞれを1個とする。
【0026】
また、ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上となり、前記ピット32が、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31の面積の70%以上を占めるものであり、球状ピットの場合80%以上を占めることが好ましく、平面上のピット32の占有面積率をかかる範囲とすることで、前記肉厚部41の冷却速度を速くすることができる。なお、占有面積率の上限は特にないが、90%または99%とすることもできる。
【0027】
さらに、開口部の大きさDが大きい場合、例えば、400μm以上の場合には、表面粗さRzが50μm以上であり、平面状のピットの占める面積が70%以上であれば、凝固時の収縮応力を分散させ、引けによる割れを防止あるいは軽減することができる。
【0028】
図2は、本発明におけるピット32の一例を上から見た場合を示す上面図であり、図3は、本発明におけるピットの一例を示す断面図である。ここで、図中、Lはピット32の深さ、Dはピット32の開口部の一辺の長さである。図2および図3に示すように、開口部の一辺の長さDが100μmで深さLが87μmで、L/Dが0.87のようにL/Dが大きい四角錐の場合、このピット32をピット形成領域31に5000個/cm形成すると、ピット形成領域31の面積から四角錐の開口部の面積を除き、ピット32の側面部の表面積を加えると、もとのピット形成領域31の面積の1.5倍となり、ダイカスト製品の肉厚部41の引けを防止・軽減するのに十分な速さの冷却速度が得られる。なお、この時のピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積率は50%である。
【0029】
図4は、本発明におけるピットの他の一例を示す断面図である。図4に示すように、球の半径rが60μmで、深さLが半径rの1/2の30μmの球状のピット32の場合、L/Dは0.29であり、球状部の開口部の面積は0.00848mmである。そこで、ピット32を約9000個/cm形成した場合、ピット形成領域31の面積から球状部の開口部の面積を除き、ピット32の側面部の表面積を加えると、もとのピット形成領域31の面積の約1.25倍となり、球状部の開口部の面積は、ピット形成領域31の面積に対する面積比が約76%となり、ダイカスト製品の肉厚部41の引けを防止・軽減するのに十分な速さの冷却速度が得られる。
【0030】
また、図2図4では、模式的な図で示したが、プログラミングされたレーザー加工のような場合を除いて、決まった形状で規則的にピット32を形成することは困難である場合が多く、放電加工や機械的な打痕でピット32を形成した場合は、通常ピット32が重なり合い単純な形状ではなくなるが、代表的な単独のピット32を用いて上記と同様の計算を行えば適切なピット32の形成が可能となる。
【0031】
本発明のダイカスト金型1は、前記ピット32のアスペクト比(L/D)が、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらにより好ましい。これにより、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31の面積を、前記ピット32を設けない場合の接触面積と比べて20%以上増加させることができ、ダイカスト製品の肉厚部に発生する引け欠陥をより防止・軽減できる。なお、前記ピット32の開口部の長さDは、円形の場合は直径、正方形の場合は一辺の長さであり、前記ピットの最短の部分の長さであり、前記ピット32の深さLは、前記ピット32の最長の長さである。また、アスペクト比の上限は特にないが、0.9または0.95とすることもできる。
【0032】
また、本発明のダイカスト金型1は、前記ピット32のピット深さLが、30μm〜200μmであることが好ましく、30μm〜100μmであることがより好ましく、40μm〜80μmであることがさらにより好ましい。ピット32の深さLが、開口部のDに比べてあまりに浅いと、表面積の増加による効果が得られず冷却効果が小さくなるおそれがあり、好ましくない。また、あまりにも前記ピット32のピット深さLが深すぎると、ダイカスト製品4をダイカスト金型1から取り出す際に、ダイカスト製品4を形成する溶融金属の一部がピット32の底に残り、ダイカスト製品4の表面品質を低下させると同時に焼きつき、むしれ等の原因となるおそれがあり、好ましくない。さらに、ピット深さを上記範囲とすることで、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の接触部31の面積を、前記ピット32を設けない場合の接触面積と比べて20%以上増加させることができ、ダイカスト製品の肉厚部に発生する引け欠陥をより防止・軽減できる。
【0033】
さらに、本発明において、ピット32の形成方法としては、化学的な腐食(エッチングシボ)、ショットブラストまたはショットピーニング、あるいは放電加工、レーザー加工、機械的な打痕などを挙げることができるが、本発明では、いずれかのピット形成方法に限定されるものではない。ただし、本発明において、ショットブラストまたはショットピーニングによるピット形成の場合はピット深さが浅く、アスペクト比を0.2以上にすることが困難となるおそれがあるため、ピット形成方法としては、機械的な打痕、放電加工等がより好ましい。
【0034】
また、本発明において、ピット32の形状は、球形、円錐形、四角錐など、特定の形状に限定するものではない。
【0035】
本発明において、ダイカスト金型1へのピット32の形成に際しては、その製品形状、要求品質度合いに応じて、ピット個数、アスペクト比(L/D)、Lを決めることが好ましく、特に製品表面性状が問題となる可能性がある場合には、ダイカスト製品4の裏側に当たるダイカスト金型面に施工することが必要であり、また製品脱型方向に対して垂直な金型面への施工が好ましい。
【0036】
また、本発明のダイカスト金型1は、前記ダイカスト金型1と前記肉厚部41の前記接触部31に金型内部冷却装置を有することが好ましい。前記ダイカスト金型1の内部に冷却管を配することで、前記ダイカスト金型1の内部冷却を行うことができ、ダイカスト製品の肉厚部に発生する引け欠陥をより防止・軽減効果をさらに高めることができる。かかる金型内部冷却装置としては、特に限定されないが、例えば、アーレスティテクノサービス社製のジェットクールシステムを使用することができる。
【0037】
さらに、本発明において、ダイカスト金型1の寿命を高めるために、窒化処理などの表面処理を施しても、本発明の効果を損ねることはない。
【0038】
また、本発明において、前記溶融金属としては、本発明の効果が得られれば限定されないが、例えば、JIS ADC12等のアルミニウム合金、マグネシウム合金などを挙げることができ、前記ダイカスト金型1としては、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの鋳造に用いられるダイカスト金型1等を挙げることができる。さらに、ダイカスト金型1の組成としては、本発明の効果が得られれば特に限定されないが、鋼材等を挙げることができる。
【0039】
さらにまた、本発明のダイカスト金型1は、本発明の効果が損なわれない範囲で、他の処理等がされていてもよい。
【0040】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型1であり、平面の切削加工を施す肉厚部41を有するダイカスト製品4の当該肉厚部41と接するダイカスト金型1の表面に、機械的な打痕により、アスペクト比が0.5で、ピット深さが30〜70μmで、ピット32の形成による表面粗さRzが62μmで、ピット32をピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比を80%で形成し、切削後の切削面の欠陥検査を行った。溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。不良の判定は、下記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表1に併記した。
【0042】
(実施例2)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型1であり、平面の切削加工を施す肉厚部41を有するダイカスト製品4の当該肉厚部41と接するダイカスト金型1の表面に、機械的な打痕により、アスペクト比が0.5で、ピット深さが40〜80μmで、ピット32の形成による表面粗さRzが75μmで、ピット32をピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比を80%で形成し、切削後の切削面の欠陥検査を行った。溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。不良の判定は、下記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表1に併記した。
【0043】
(比較例1)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型であり、平面の切削加工を施す肉厚部41を有するダイカスト製品4の当該肉厚部41と接するダイカスト金型の表面にピット32を形成しない条件でダイカスト金型を用いてダイカスト製品4を作製し、欠陥検査を行った。溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。不良の判定は、下記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表1に併記した。
【0044】
(欠陥・割れ検査の判定)
目視で観察し、欠陥・割れ品の標準サンプルと照合し、標準サンプルと同等の欠陥や割れのある場合を不良品とした。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果から、比較例1は、ピットがないため肉厚部41に引けの欠陥が発生する割合が高かった。一方、実施例1および実施例2は、本発明におけるピット32を設けることで、肉厚部41での引けの欠陥の発生を軽減することができた。
【0047】
(実施例3)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型1であり、旋盤加工により、穴あけを必要とするダイカスト製品4の肉厚部41と接するダイカスト金型1の表面にピット32形成による表面粗さRzが58μmとなるようにピット32を形成し、孔加工時の加工面の欠陥検査を2回行った。このときのピット32のアスペクト比は0.4であり、ピット深さは20〜70μm、ピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比75%であり、不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表2に併記した。なお、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0048】
(比較例2)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型であり、ダイカスト製品4の肉厚部41と接するダイカスト金型の表面にピット32を形成しない条件でダイカスト金型を用いてダイカスト製品4を作製し、欠陥検査を2回行った。溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表2に併記した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の結果から、比較例2は、ピットがないため肉厚部41に引けの欠陥が発生する割合が高かった。一方、実施例3は、本発明におけるピット32を設けることで、肉厚部41での引けの欠陥の発生を大幅に軽減することができた。
【0051】
(実施例4、5)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型1であり、リブ状の肉厚部を有するダイカスト製品4の肉厚部41と接するダイカスト金型1の表面にピット32形成による表面粗さRzが90μmになるようにエッチングシボによるピット32を形成し、引け割れによる不良率を測定した。このピット32のアスペクト比は0.6であり、ピット深さは40〜100μm、ピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比は80%であった。また、金型内部冷却装置がない冷却の場合を実施例4、金型内部冷却装置を有して冷却する場合を実施例5とし、不良の判定は、浸透探傷液を用いて上記条件に従って目視判定を行って、結果を下記表3に併記した。なお、金型内部冷却装置は、ダイカスト金型1の内部に冷却管を配して、冷却を行い、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0052】
(比較例3、4)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型であり、リブ状の肉厚部を有するダイカスト製品4の肉厚部41と接するダイカスト金型の表面にピット32を形成しない条件でダイカスト金型を用いてダイカスト製品4を作製し、引け割れによる不良率を測定した。また、金型内部冷却装置がない冷却の場合を比較例3、金型内部冷却装置を有して冷却する場合を比較例4とし、不良の判定は、浸透探傷液を用いて上記条件に従って目視判定を行って、結果を下記表3に併記した。なお、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0053】
【表3】
【0054】
表3の結果から、比較例3および4は、ピットがないため肉厚部41に引けの欠陥が発生する割合が高かった。一方、実施例4および実施例5は、本発明におけるピット32を設けることで、肉厚部41での引けの欠陥の発生を軽減することができた。また、金型内部冷却装置により冷却を強化することで、肉厚部41での引けの欠陥の発生をより軽減することができた。
【0055】
(実施例6)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型1であり、リブ状の肉厚部を有するダイカスト製品4の肉厚部41が、鋳造時に溶湯がダイカスト金型1にぶつかり引け割れの発生し易い肉厚部41であり、前記肉厚部41と接するダイカスト金型1の表面にピット32形成による表面粗さRzが120μmになるように機械的な打痕によるピット32を形成し、引け割れによる不良率を測定した。このピット32は、円錐状で開口部の直径は平均約600μm、ピット32の数は約300個/cmであり、ピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比は約85%であり、不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表4に併記した。なお、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0056】
(比較例5)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型であり、リブ状の肉厚部を有するダイカスト製品4の肉厚部41が、鋳造時に溶湯がダイカスト金型にぶつかり引け割れの発生し易い肉厚部41であり、前記肉厚部41と接するダイカスト金型の表面にピット32形成による表面粗さRzが120μmになるように機械的な打痕によるピット32を形成し、引け割れによる不良率を測定した。このピット32は、円錐状で開口部の直径は平均約600μm、ピット32の数は約150個/cmであり、ピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比は約42%であり、不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表4に併記した。なお、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0057】
(比較例6)
ピットを形成しない以外は、実施例6と同様の条件で比較例6のダイカスト金型を作製し、引け割れによる不良率を測定した。不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行って、結果を下記表4に併記した。なお、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0058】
【表4】
【0059】
表4の結果から、比較例5は、ピットを有するものの、ピット32の数が200個/cm以上でなく、ダイカスト金型1と肉厚部41の接触部の面積の70%以上でもないため、肉厚部41に引けの割れが発生する割合が高く、比較例6は、ピットがないため肉厚部41に引けの割れが発生する割合が高かった。一方、実施例6は、本発明におけるピット32を設け、ピット32の数が200個/cm以上で、ダイカスト金型1と肉厚部41の接触部の面積の70%以上であるため、肉厚部41での引けの割れの発生を軽減することができた。
【0060】
(実施例7、実施例8)
金型用鋼材SKD61を用いたダイカスト金型1であり、リブ状の肉厚部を有するダイカスト製品4の肉厚部41が、鋳造時に溶湯がダイカスト金型1にぶつかり引け割れの発生し易い湯口近傍の肉厚部41であり、前記肉厚部41と接するダイカスト金型1の表面に放電加工により2種類のピット32を形成し、引け割れによる不良率を測定した。実施例7では、円錐状ピット32で、開口部の直径は約700μm、ピット32形成によるRzは80μm、ピット32の数は約200個/cmであり、ピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比は77%であり、不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表5に併記した。実施例8では、同様の円錐状ピット32で、開口部の直径は約500μm、ピット32形成によるRzは80μm、ピット32の数は約250個/cmであり、ピット32の開口部の面積のピット形成領域31の面積に対する面積比は49%であり、不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行い、結果を下記表5に併記した。なお、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0061】
(比較例7)
ピットを形成しない以外は、実施例7と同様の条件で比較例7のダイカスト金型を作製し、引け割れによる不良率を測定した。不良の判定は、上記条件に従って目視判定を行って、結果を下記表5に併記した。なお、溶融金属としては、アルミニウム合金(JIS ADC12)を使用した。
【0062】
【表5】
【0063】
表5の結果から、比較例7は、ピットがないため肉厚部41に引けの割れが発生する割合が高かった。一方、実施例7は、本発明におけるピット32を設け、ピット32の数が200個/cm以上で、ダイカスト金型1と肉厚部41の接触部の面積の70%以上であるため、肉厚部41での引けの割れの発生を軽減することができ、実施例8は、本発明におけるピット32を設け、ピット32の数が200個/cm以上であるため、効果は実施例7より少ないが、肉厚部41での引けの割れの発生を軽減することができた。
【符号の説明】
【0064】
1 金型
2 固定型
3 可動型
31 ピット形成領域(接触部)
32 ピット
4 ダイカスト製品
41 ダイカスト製品の肉厚部
5 キャビティ
【要約】
【課題】ダイカスト製品の肉厚部41に発生する引け欠陥を防止、あるいは軽減するためのダイカスト金型1を提供する。
【解決手段】キャビティ5に溶融金属を圧入してダイカスト製品4を鋳造するダイカスト金型1であって、ダイカスト製品4が肉厚部41を有し、ダイカスト金型1と肉厚部41の接触部が、ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上となり、ピット32を200個/cm以上有するピット形成領域31であるダイカスト金型1である。キャビティ5に溶融金属を圧入してダイカスト製品4を鋳造するダイカスト金型1であって、ダイカスト製品4が肉厚部41を有し、ピット32の形成により表面粗さRzが50μm以上となり、ピット32が、ダイカスト金型1と肉厚部41の接触部31の面積の70%以上を占めるダイカスト金型1である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4