(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984140
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】軽量気泡コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/02 20060101AFI20160823BHJP
B28B 1/50 20060101ALI20160823BHJP
C04B 28/18 20060101ALI20160823BHJP
C04B 111/40 20060101ALN20160823BHJP
【FI】
C04B38/02 E
B28B1/50
C04B28/18
C04B111:40
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2013-22879(P2013-22879)
(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公開番号】特開2014-152074(P2014-152074A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】大廣 敏之
【審査官】
立木 林
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−292655(JP,A)
【文献】
特開2001−261466(JP,A)
【文献】
特公昭61−012965(JP,B2)
【文献】
特開昭55−085449(JP,A)
【文献】
コンクリート技術の要点’98,日本,社団法人日本コンクリート工学協会,1998年 9月10日,第1版第1刷,p.205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00−38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸質原料と石灰質原料からなる主原料に発泡剤と水とを加えてスラリーとし、これを補強材を配置した型枠内に流し込んで半硬化体を形成し、得られた半硬化体を高温高圧蒸気養生してなる軽量気泡コンクリートの製造方法において、前記発泡剤として、脂肪酸を添加して乾式粉砕した金属アルミニウム粉末に脱脂処理を行わずにそのまま水溶性の分散剤である低級アルコールと水とを加えて均一に混合したものを使用することを特徴とする軽量気泡コンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記乾式粉砕した金属アルミニウム粉末1重量部に対して前記分散剤0.001〜0.3重量部を加え、更に前記金属アルミニウム粉末と前記分散剤との合計1重量部に対して水10〜60重量部を加えて予め混合したものを前記発泡剤として使用することを特徴とする、請求項1に記載の軽量気泡コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリートの製造方法に関し、特に発泡剤として乾式粉砕により得られる金属アルミニウム粉末を使用する軽量気泡コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(以下、ALCとも称する)は、無数の細かい気泡を含んだ多孔質体で形成されているため、軽量性、耐火性、断熱性などにおいて優れた諸性能を有しており、建築物の外壁、床材、屋根などの部位に広く使用されている。ALCの主原料は珪酸質原料と石灰質原料であり、珪酸質原料としては珪石または珪砂が、石灰質原料としては生石灰とセメントが使用されている。また、発泡剤として金属アルミニウム粉末が一般的に使用されている。
【0003】
これら原料を用いて一般的に次のような製造工程を経てALCの製造が行われている。すなわち、まず珪酸質原料及び石灰質原料からなる主原料に発泡剤と水を加えてミキサーで混練し、得られたスラリーを予め補強材を配した型枠に流し込む。型枠内では、発泡剤による化学反応で発泡し、同時に硬化が進行する。そして、半硬化状態になった時点で当該半硬化体を脱型し、ピアノ線などで所定の寸法に切断した後、オートクレーブにより高温高圧蒸気養生を行う。これによりALCが得られる。
【0004】
発泡剤として使用する金属アルミニウム粉末は、予め数mm程度の大きさに荒粉砕したアルミニウム箔の原料に粉砕助剤として脂肪酸を添加し、1グラム当たりの水面被覆面積が4500cm
2以上20000cm
2になるまで乾式粉砕した後、脂肪酸を0.3質量%以下まで除去してから使用していた。このように、脂肪酸を除去した金属アルミニウム粉末を用いることで、水に溶解してからミキサーで混練する際に金属アルミニウム粉末を均等にスラリー内に分散させることができ、均等に発泡させることが可能になる。
【0005】
すなわち、ALCを製造する場合には、補強材を配置した型枠内に上記した主原料および発泡剤に水を混合して得られるスラリーを流し込んで発泡及び硬化させて半硬化体を形成するが、その際、上記方法で作製された金属アルミニウム粉末が均等に分散した場合には、型枠内に流し込んでから数分で発泡が始まって膨張し、20分から50分で型枠内で最大高さまで体積膨張し、ほぼそのままで半硬化状態となる。しかしながら、金属アルミニウム粉末が均等に分散しなかった場合は、不均質な発泡や発泡阻害を生じて、ALCが不良品となることがあった。
【0006】
また、乾式粉砕をした金属アルミニウム粉末に付着している脂肪酸を除去せずにそのまま発泡剤として使用した場合には、水と混合する際に溶解しない部分が多く生じ、スラリー内に均等に分散されにくくなる。更に、水と発泡剤との予混合に攪拌槽を用いる場合は、当該攪拌槽の内部や攪拌槽からの抜き出し配管内に金属アルミニウム粉末が残留して、不均質な発泡や発泡不足などの問題を引き起こし、ALCの外観を著しく損ねて不良品となることがあった。
【0007】
このように、脂肪酸を添加して乾式粉砕をした金属アルミニウム粉末に対して脂肪酸の除去を行わない場合は水に溶解しにくくなるため、従来は特許文献1に示すように、乾式粉砕をした金属アルミニウム粉末の中に含まれる脂肪酸を0.3質量%以下まで除去したものを使用し、これにより発泡剤が水に溶解しにくくなることに起因する問題を防いでいた。しかしながら、乾式粉砕後に脂肪酸を0.3質量%以下まで除去する処理のためのコストがかさむため、結果的に高価な金属アルミニウム粉末を使用せざるを得ない状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−261466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、不均質な発泡や発泡不足を生じさせることなく安価且つ簡易にALCを製造できる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明が提供する軽量気泡コンクリートの製造方法は、珪酸質原料と石灰質原料からなる主原料に発泡剤と水とを加えてスラリーとし、これを補強材を配置した型枠内に流し込んで半硬化体を形成し、得られた半硬化体を高温高圧蒸気養生してなる軽量気泡コンクリートの製造方法において、前記発泡剤として、脂肪酸を添加して乾式粉砕した金属アルミニウム粉末に脱脂処理を行わずにそのまま水溶性の分散剤
である低級アルコールと水とを加えて均一に混合したものを使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既設プラントの大掛かりな改造を要することなく安価且つ簡易にALCを製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のALCの製造方法の一具体例について説明する。珪酸質原料、石灰質原料、及び必要に応じて使用される石膏を主とする固体粉末状の主原料に発泡剤と水を加えてミキサーで混合撹拌し、これにより得られるスラリーを補強鉄筋を配した型枠に流し込む。型枠内のスラリーは、発泡剤による化学反応で発生する水素ガスが気泡を形成することによって発泡すると共に、主原料の固体粉末が水和反応を起こすことで、その流動性を徐々に失い半硬化体へと移行する。得られたケーキ状の半硬化体をピアノ線で所定の大きさに切断し、オートクレーブで水蒸気養生することによりALCパネルが得られる。
【0013】
ここで、発泡剤には乾式粉砕した金属アルミニウム粉末に水溶性の分散剤を添加したものを使用する。このうち、金属アルミニウム粉末は、原料として予め数mm程度の大きさに荒粉砕したアルミニウム箔を用い、この原料に粉砕助剤としてステアリン酸やオレイン酸を代表とする脂肪酸を添加し、常圧で不活性な気体の雰囲気中で水面被覆面積が4500cm
2以上20000cm
2以下になるまで粉砕した後、44μmふるい残分が20〜50質量%となるように分級し、これにより、水面拡散面積が4500〜12000cm
2程度の粉末とするのが好ましい。
【0014】
従来は上記と同様に分級した後、加熱乾燥などの脱脂処理を施して脂肪酸の量が金属アルミニウム粉末に対して0.3質量%以下まで除去したものを使用するのが一般的であった。これに対して、本発明においては、発泡剤として、脂肪酸を添加して乾式粉砕した金属アルミニウム粉末にそのまま水溶性の分散剤を添加したものを使用する。これにより、金属アルミニウム粉末に付着した脂肪酸を加熱乾燥等の脱脂処理により取り除くことなく水に溶解することができる。すなわち、脂肪酸の脱脂工程を省略できるので従来の乾式粉砕金属アルミニウム粉末よりも簡易かつ低コストにALCを製造する事が出来る。
【0015】
水溶性の分散剤としては、例えば非イオン系の界面活性剤や低級アルコールを使用することができる。この分散剤を金属アルミニウム粉末1重量部に対して0.001〜0.3重量部程度添加するのが好ましい。水溶性の分散剤を添加した後は、これら金属アルミニウム粉末と分散剤との合計1重量部に対して、水10〜60重量部を加えて予め混合してから発泡剤としてスラリーに添加することが望ましい。これにより、金属アルミニウム粉末に脂肪酸が付着している場合であっても均一に混ざり易くなり、スラリー調製が行われるミキサーに投入した時点でアルミニウム粉末を主原料に均質に混ぜ易くなる。
【0016】
上記した予め加える水の量が10重量部未満では、ミキサーによる攪拌混合の際に、混合度合いのバラツキが大きくなり、型枠内での半硬化体の発泡高さなどの管理が難しくなる。一方、上記した予め加える水の量が60重量部を超えるとアルミニウム粉末と分散剤と水との予混合のための攪拌槽が大きくなりすぎるなどの点で不経済となる割に効果が上がらない。
【0017】
このように、乾式粉砕した金属アルミニウム粉末にその水への溶解性を高めるべく分散剤を添加し、好適には所定量の水を予め加えて混合してからALC製造工程において発泡剤として使用することによって、乾式粉砕した金属アルミニウム粉末の脂肪酸を取り除くための従来の脱脂工程を省くことが可能になり、よってALC製造の際の原材料の混合攪拌工程を簡素化して、低コストでALCパネルを製造することができる。なお、本発明においてALCは、JIS A 5416に規定しているALCの範囲のものに限定されず、広義のALCを意味している。
【実施例】
【0018】
脂肪酸が付着した状態の金属アルミニウム粉末1重量部を50重量部の水の中に加えた試料1〜4のスラリーを作製した。なお、金属アルミニウム粉末としては、UCルーサル社の製品「HAP−1」を用いた。これら試料1〜4のスラリーに対して、それぞれ表1に示す処理を施して脂肪酸が付着した状態の金属アルミニウム粉末が水に溶解するか調べた。
【0019】
すなわち、試料1のスラリーには分散剤として非イオン系の界面活性剤溶液を金属アルミニウム粉末1重量部に対して0.01重量部加えて20秒間攪拌混合し、試料2のスラリーには分散剤として低級アルコールを金属アルミニウム粉末1重量部に対して0.01重量部加えて20秒間攪拌混合した。一方、比較例としての試料3のスラリーには分散剤を加えずに60秒間攪拌混合し、比較例としての試料4のスラリーには分散剤を加えずに240秒間攪拌混合した。これらの結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
上記表1に示すように、脂肪酸が付着した状態の金属アルミニウム粉末に分散剤を添加せずに水のみを加えて攪拌した試料3及び4のスラリーにおいては、60秒及び240秒攪拌をしても脂肪酸が付着した状態の金属アルミニウム粉末は水に全量が溶解しないことが認められた。一方、脂肪酸が付着した状態の金属アルミニウム粉末に分散剤として非イオン系界面活性剤または低級アルコールを加えた試料1及び2のスラリーにおいては、水中での攪拌により20秒以内に溶解することが確認できた。