(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変形特徴量は、前記対象物の重心を中心として前記対象物が回転した量を表す回転特徴量、及び、前記対象物が伸縮した量を表す伸縮特徴量の少なくともいずれか一方を含む請求項3に記載の解析装置。
前記算出部は、前記時系列上の各時刻における前記対象物の座標データと、基準時刻において前記対象物を回転及び伸縮した場合の前記対象物の座標データとの差を最小とする、前記対象物の前記回転特徴量および前記伸縮特徴量を算出する、
請求項4に記載の解析装置。
前記比較部は、2以上の前記対象物について、前記回転特徴量および前記伸縮特徴量の少なくとも一方の時系列データ間の距離を比較する請求項4又は5に記載の解析装置。
前記算出部は、前記時系列上の各時刻における前記対象物の座標データから得られる行列と基準時刻における前記対象物の座標データから得られる行列との積を特異値分解した結果から、前記回転特徴量を算出する請求項7に記載の解析装置。
前記対象物は乗り物であり、前記時系列に沿った対象物の座標データは前記乗り物の衝突シミュレーションから得られるデータである請求項1から8のいずれか1項に記載の解析装置。
前記制御部は、前記一の対象物の各時刻における変形特徴量が、前記他の対象物の各時刻における変形特徴量と基準以上に類似し、当該他の対象物に割り当てられた前記評価値が前記第1の基準値よりも低い第2の基準値以下の場合に前記一の対象物の残りの時刻における変形特徴量の算出を中止する、
請求項11に記載の解析装置。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、本実施形態の解析装置100の構成を示す。解析装置100は、衝突シミュレーションにおける対象物(例えば、自動車等の乗り物)の変形を解析することにより、対象物を設計する際に有用なデータを提供する。なお、本実施形態において、対象物の変形とは、対象物が回転すること、対象物が伸縮すること、及び、対象物の形状が変化することを含む。解析装置100は、取得部102、算出部104、記憶部106、制御部108、比較部110、及び、表示部112を備える。
【0009】
取得部102は、乗り物の衝突シミュレーションの結果を格納したデータベース等から、1又は複数の対象物のそれぞれについて、対象物の表面及び/又は内部に設定した複数のノードの衝突時における時系列に沿った座標データを取得する。取得部102は、取得した対象物の座標データを算出部104に供給する。
【0010】
算出部104は、時系列上の各時刻における対象物の複数点の座標データから、当該時刻において対象物が変形した量を表す変形特徴量を算出する。算出部104は、算出した変形特徴量の時系列データを記憶部106に格納する。
【0011】
記憶部106は、変形特徴量の時系列データを、対象物の経時的な変形状態を含む変形状態を特定するためのデータとして、対象物に対応付けて記憶する。また、記憶部106は、複数の対象物に対応付けてユーザにより入力された対象物の変形に関する対象物情報(例えば、対象物の設計情報等)、及び、複数の対象物のそれぞれに割り当てられた評価値(例えば、対象物の変形の評価)を記憶する。
【0012】
制御部108は、算出部104による変形特徴量の算出を制御する。例えば、制御部108は、算出部104が変形特徴量の算出の対象とする対象物及び時系列上の時刻を制御する。また、例えば、制御部108は、算出部104が時系列上の一部の時刻について算出した対象物の変形特徴量が予め定められた条件を満たす場合に、算出部104を制御して当該対象物の変形特徴量の算出の優先度を低下させ、又は、当該対象物の変形特徴量の算出を中止する。
【0013】
比較部110は、2以上の対象物について変形特徴量の時系列データを記憶部106から読み出して比較し、複数の対象物に係る変形特徴量の時系列データ間の関係を多次元尺度構成法等の次元削減手法により可視化したグラフを生成する。これにより、比較部110は、複数の対象物の衝突シミュレーションの結果を直感的に分かり易くする。比較部110は、生成したグラフを表示部112に供給する。
【0014】
また、比較部110は、変形特徴量の時系列データが一の対象物と類似する他の対象物を特定してよい。これにより、比較部110は、衝突シミュレーションにおいて一の対象物と変形の態様が類似する他の対象物を、記憶部106に格納された情報から検索して特定する。比較部110は、特定した他の対象物に関連付けられた対象物情報を記憶部106から読み出し、表示部112に供給してよい。
【0015】
表示部112は、比較部110による複数の対象物の比較の結果を表示する。例えば、表示部112は、複数の対象物の変形特徴量の時系列データ間の距離が可視化されたグラフを表示する。また、表示部112は、特定した他の対象物、及び、特定した他の対象物に関連付けられた対象物情報を表示してよい。
【0016】
このように、本実施形態の解析装置100は、複数の対象物について、時系列データとして観測された座標等の観測データから、各対象物の変形特徴量の時系列データを算出し、当該変形特徴量の時系列データの距離を可視化したグラフを表示する。これにより、解析装置100によれば、衝突シミュレーションの結果を直感的に分かり易く表示する。また、解析装置100によれば、複数の対象物間の変形の関連性を検出することができる。
【0017】
図2に、本実施形態の解析装置100による解析方法の処理フローを示す。本実施形態において、解析装置100は、S100〜S160の処理を実行する。
【0018】
まず、S100において、取得部102は、複数の対象物について時系列に沿った座標データを取得する。例えば、複数の点から構成される構造物を有限要素法等の手段で近似した衝突シミュレーションの実行結果を格納するデータベース等から、取得部102は、時系列上における対象物を構成する複数の点の3次元座標データを取得する。一例として、取得部102は、10ミリ秒の時間に含まれる1000個の時刻における対象物の座標データを取得する。なお、時系列上の各時刻の間隔は等間隔であってよく、等間隔でなくてもよい。
【0019】
取得部102は、複数の対象物の時系列に沿った座標データとして、衝突位置、衝突速度、及び/又は、衝突角度等の衝突条件が異なる同一の対象物(例えば、同一車種の乗用車)を複数回衝突させた衝突シミュレーションの結果を取得してよい。また、取得部102は、異なる複数の対象物(例えば、含まれるノードの数が異なる複数車種の乗用車)を同一の衝突条件で衝突させた衝突シミュレーションの結果を取得してもよい。取得部102は、取得した対象物の座標データを算出部104に供給する。
【0020】
S110において、算出部104は一の対象物の一の時刻における変化特徴量を算出する。例えば、制御部108は算出部104が変化特徴量を算出する一の対象物及び時系列上の時刻tの情報を算出部104に供給する。算出部104は、取得部102から受け取った対象物の座標データに基づいて、時刻tにおける一の対象物の重心を中心として対象物が回転した量を表す回転特徴量、及び/又は、対象物が伸縮した量を表す伸縮特徴量を変形特徴量として算出する。ここで、算出部104が回転特徴量および伸縮特徴量を算出する方法の一例を具体的に説明する。
【0021】
まず、算出部104は、基準時刻(例えば衝突直前の時刻t=0)における一の対象物の各点の座標データから当該基準時刻における一の対象物の幾何学的又は力学的な重心位置を算出する。例えば、算出部104は、対象物の重心として、複数の点の平均座標、又は、複数の点を重み付けして得られた平均座標を用いてよく、一の対象物に対してユーザにより定義された対象物の代表的な点又はその近傍の点を用いてもよい。算出部104は、算出した重心位置に対する基準時刻の各点の座標データx
1,x
2,x
3,…x
n(x
1〜nの各々は、基準時刻における一の対象物の各点の3次元座標を表すベクトル)から得られる行列を行列X=[x
1,x
2,x
3,…x
n]
Tとする。なお、nは一の対象物に含まれるノード(点)の数を表す。
【0022】
また、算出部104は、時系列上の時刻tにおける一の対象物の各点の座標データから当該時刻tにおける一の対象物の幾何学的又は力学的な重心位置を算出する。算出部104は、算出した重心位置に対する時刻tの各点の座標データy
1(t),y
2(t),y
3(t),…y
n(t)(y
1〜n(t)は、時刻tにおける一の対象物の各点の3次元座標を表すベクトル)から得られる行列を行列Y=[y
1(t),y
2(t),y
3(t),…y
n(t)]
Tとする。
【0023】
ここで算出部104は、数式(1)で示すように、行列Xに係る一の対象物の基準時刻における座標を回転特徴量R(t)で回転し、さらに全体伸縮特徴量ρ(t)で伸縮して得られる行列を行列X'=[x'
1,x'
2,x'
3,…x'
r,…x'
n]
Tとしたとき、数式(2)に示すH(t)を最小とする回転特徴量R(t)および全体伸縮特徴量ρ(t)を算出する。H(t)は、時刻tにおける一の対象物の座標データと、基準時刻において一の対象物を回転及び伸縮した後の座標データとの差を表しており、基準時刻から時刻tまでの、回転及び伸縮の影響を除いた一の対象物の形状の変化を表す。
【数1】
【数2】
【0024】
例えば、算出部104は、プロクルステス解析等の形状解析手法に基づいて、回転特徴量R(t)及び全体伸縮特徴量ρ(t)を算出してよい。一例として、算出部104は、数式(3)で示すように時系列上の時刻tにおける一の対象物の座標データから得られる行列Y(t)の転置行列Y
T(t)と基準時刻における一の対象物の座標データから得られる行列Xとの積を特異値分解し、行列U、3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)及び行列Vを得る。3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)は、x
1〜n及びy
1〜n(t)が3次元ベクトルである場合、3×3の対角行列となり、その対角成分は一の対象物の時刻tにおける3次元の各方向の伸縮を表す。
【数3】
【0025】
算出部104は、数式(4)に示すように、行列V及び行列Uの転置行列U
Tの積から時刻tにおける一の対象物の回転量を表すベクトル量である回転特徴量R(t)を算出する。回転特徴量R(t)は、x
1〜n及びy
1〜n(t)が3次元ベクトルである場合、3×3の行列となり、一の対象物の時刻tにおける3次元空間内の回転を表す。
【数4】
【0026】
算出部104は、数式(5)に示すように、行列X及び行列Y(t)に基づいて、時刻tにおける一の対象物の全体の伸縮量を表すスカラー量である全体伸縮特徴量ρ(t)を算出する。全体伸縮特徴量ρ(t)はスカラー量となり、一の対象物の時刻tにおける全体的な伸縮係数を表す。
【数5】
【0027】
また、算出部104は、数式(6)に示すように、行列X及び行列Y(t)に基づいて、時刻tにおける回転及び伸縮の影響を除いた基準時刻からの一の対象物の形状の変化を表し、最大値が1となるように正規化されたスカラー量である形状変化特徴量H(t)を算出してよい。
【数6】
【0028】
このように、算出部104は、時系列上の時刻tにおける一の対象物の回転特徴量R(t)、3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)の対角成分、全体伸縮特徴量ρ(t)、及び、形状変化特徴量H(t)等を算出する。算出部104は、プロクルステス解析以外の最適化問題の解法(例えば、勾配法)を用いて、これらの変形特徴量を算出してもよい。
【0029】
S120において、算出部104は、記憶部106に、時刻tにおける回転特徴量R(t)、3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)の対角成分、全体伸縮特徴量ρ(t)、及び、形状変化特徴量H(t)のデータを、一の対象物の変形状態を特定するためのデータとして、一の対象物に対応付けて記憶する。
【0030】
算出部104は、回転特徴量R(t)からスカラー量である一の対象物の回転量を算出し、これを回転特徴量R(t)に加えて/代えて記憶部106に記憶させてもよい。
【0031】
S130において、制御部108は、算出部104が時系列上の全ての時刻において一の対象物の回転特徴量R(t)、3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)、全体伸縮特徴量ρ(t)、及び、形状変化特徴量H(t)等の変化特徴量を算出したか判断する。算出部104が全ての時刻において変化特徴量を算出した場合、制御部108は処理をS140に進め、そうでない場合、処理をS132に進める。
【0032】
S132において、制御部108は、時刻tを次の時刻までの時間(例えば、1/100ミリ秒)進め、処理をS110に戻す。これにより、制御部108は、次のS110の処理において変化特徴量を既に算出した時刻の次の時刻における変化特徴量を算出部104に算出させる。
【0033】
S110〜S132の繰り返し処理により、算出部104は、一の対象物の時系列上の全ての時刻における変化特徴量を算出し、記憶部106に記憶する。
【0034】
S140において、制御部108は、S100で取得部102が取得した複数の対象物の座標データ中に、変化特徴量を算出していない他の対象物の座標データが存在するか否かを判断する。他の対象物の座標データが存在する場合、制御部108は処理をS142に進め、他の対象物の座標データが存在しない場合、制御部108は処理をS150に進める。
【0035】
S142において、制御部108は、S110〜S132の処理の対象となる対象物を一の対象物から他の対象物に変更する。S110〜S142の繰り返し処理により、算出部104は、複数の対象物の時系列上の変化特徴量を算出し、記憶部106に記憶することができる。
【0036】
S150において、比較部110は、2以上の対象物について、変形特徴量の時系列データを比較する。例えば、比較部110は、2以上の対象物について、回転特徴量R(t)、3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)の対角成分、全体伸縮特徴量ρ(t)、並びに、形状変化特徴量H(t)の少なくとも一つの時系列データを記憶部106から読み出し、これらの時系列データを対象物ごとにプロットしたグラフを生成し、対象物間の時系列データの距離を算出して比較する。
【0037】
一例として、比較部110は、時系列上の時刻をX軸とし対象物の回転量として回転特徴量R(t)と単位行列I(単位行列Iは回転がない場合の回転特徴量R(t)に相当する)の要素の差の自乗の和をY軸として、対象物ごとに回転特徴量R(t)から算出される回転量を時刻ごとにグラフ上にプロットして繋いだ線分を生成し、複数の対象物の線分間の距離を算出する。
【0038】
別の一例として、比較部110は、対象物の第1軸〜第3軸における伸縮度をそれぞれX軸、Y軸及びZ軸として、対象物ごとに対象物の対角行列である3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)の対角成分から算出される対象物の第1軸〜第3軸における伸縮係数を時刻ごとにX〜Z軸から構成される3次元空間にプロットして繋いだ線分を生成し、複数の対象物の線分間の距離を算出する。
【0039】
比較部110は、算出結果に基づき、複数の対象物に係る線分のそれぞれについて、他の対象物に係る線分との距離から得られる値を、それぞれの対象物の評価値として記憶部106に記憶してよい。例えば、比較部110は、一の対象物に係る線分と他の1以上の対象物に係る線分との距離の平均値の逆数を、当該一の対象物の評価値として記憶してよい。これにより、比較部110は、他の対象物と変形の態様が異なる対象物を異質な対象物として低い評価値にすることができる。
【0040】
比較部110は、複数の対象物の線分間の距離から、異質な特徴を示す対象物を抽出する。例えば、比較部110は、他の対象物の線分との平均距離が予め定められた閾値以上離れた線分に係る対象物を抽出する。これにより、比較部110は、複数の対象物の中から他の対象物と比較して特徴的な変形をした対象物を抽出することができる。
【0041】
比較部110は、多次元尺度構成法等を用いて複数の対象物の線分間の距離を可視化したグラフを生成する。これにより比較部110は、複数の対象物における変形特徴量の時系列の近さを、2次元又は3次元空間上で可視化したグラフ間の距離として表すことができる。
【0042】
また、比較部110は、ユーザから指定された一の対象物を受け取り、当該一の対象物と回転量等の変化特徴量の線分の距離が予め定められた基準より小さい他の対象物を変形特徴量が当該一の対象物と類似する対象物として特定する。
【0043】
比較部110は、特定した他の対象物に関連付けられた対象物情報を記憶部106から読み出す。例えば、対象物が乗用車である場合、比較部110は、一の乗用車と変形特徴量が類似するとして特定された他の乗用車に関連付けられた設計情報、設計の改良情報、及び/又は、作業等を対象物情報として読み出す。比較部110は、多次元尺度構成法等で可視化したグラフ、特定した他の対象物、及びその対象物情報等を表示部112に供給する。
【0044】
S160において、表示部112は、比較部110が特定した他の対象物及び他の対象物の対象物情報を表示してユーザに提示する。
【0045】
このように、本実施形態の解析装置100によれば、複数の対象物の時系列上の座標データをプロクルステス解析して複数の対象物の時系列上の回転特徴量及び伸縮特徴量等を算出し、当該回転特徴量及び伸縮特徴量等を用いて衝突シミュレーションの結果を直感的に分かり易く表示する。特に解析装置100によれば、例えば、測定点(ノード)の数及び位置が相違する複数の車種の衝突シミュレーションの結果を統一的に分かり易く表示することができる。
【0046】
また、解析装置100は、回転特徴量及び伸縮特徴量等を用いて、複数の対象物間の変形の関連性を解析することができる。特に解析装置100によると、対象物の経時的な変化の違いを考慮することができるので、後退量に着目する手法と比較して測定点の位置と数にほとんど依存せずより高速に衝突シミュレーションの結果を解析することができる。
【0047】
また、解析装置100は、ユーザが指定した一の対象物と変形特徴量が類似し、構造上の特徴が類似する可能性が高い他の対象物の設計情報等をユーザに提供することができる。例えば、解析装置100によると、ユーザが一の対象物を設計する際に、類似する他の対象物の設計情報等をユーザに考慮させることができる。
【0048】
一例として、対象物を乗用車とした場合、解析装置100は、ある特定の車種と変形の態様が類似する別の車種を抽出し、別の車種の設計に有用な情報を当該特定の車種の設計においても活用させることができる。
【0049】
本実施形態のS150において、解析装置100は複数の対象物における変形特徴量の時系列の近さをグラフ上で可視化した後に、複数の対象物の変形を比較したが、解析装置100はグラフ化の処理を省略して複数の対象物の変形を比較し、例えば、他の対象物と変形の態様が類似する又は異なる対象物を特定してもよい。
【0050】
図3〜5は、解析装置100が解析対象とする、衝突シミュレーションの前後における対象物の状態の概略を示す。
図3〜5では、解析装置100が、乗用車のオフセット衝突前後における座標データを、対象物の時系列上の座標データとして取得した場合の例を示す。なお、解析装置100は、対象物のフルラップ衝突前後における座標の時系列データを取得してもよい。
【0051】
図3は、基準時刻(t=0)における乗用車を示す。図示するように、基準時刻において、乗用車は壁に衝突していないので変形していない。
図3の乗用車上で図示する6か所の点は、解析装置100が基準時刻における対象物の座標データとして取得する位置を示す。解析装置100が取得する対象物の点の数は、解析の精度を向上させるために更に多数であってよく、例えば、数万〜数100万個であってよい。
【0052】
図4は、時刻t1における乗用車を示す。図示するように、時刻t1において、乗用車は壁に衝突し一部が変形している。例えば、解析装置100は、乗用車の6か所の点の座標データを、時刻t1における対象物の座標データとして取得する。
【0053】
図5は、本実施形態の解析装置100による変化特徴量の算出の概要を示す。
図5(a)は、基準時刻における乗用車を示し、
図5(b)は時刻t1における乗用車を示す。
図5(c)は、
図5(a)に係る乗用車を、形状変化特徴量H(t)が最小になるように回転及び伸縮した後の状態を示す。
【0054】
図5(c)に示すように、
図5(a)に係る乗用車が1以下の全体伸縮特徴量ρ(t)で縮小され、かつ、回転特徴量R(t)から得られる回転方向と回転量で回転された状態において、
図5(a)に係る乗用車と
図5(b)に係る乗用車との形状変化特徴量H(t)、すなわち回転と伸縮の影響を除いた形状の違いが最小となる。
【0055】
図6は、比較部110が複数の対象物に係る回転特徴量の時系列から生成するグラフを示す。
図6のグラフの縦軸は対象物の回転量(回転した角度の大きさであって、例えば単位行列Iからの距離)を示し、グラフの横軸は時系列上の時間を示す。
図6のa〜dに係る線分は、4個の対象物のそれぞれの回転特徴量R(t)から算出される回転量をグラフにプロットしたものを示す。
【0056】
図示するように、線分a〜cは比較的近い距離にプロットされ、線分dは線分a〜cよりも離れた位置にプロットされる。具体的には、線分a〜cは、対象物が回転した後に少し初期の向きに戻り、その後再び回転する様子を示すのに対し、線分dは、対象物が当初ほとんど回転せず、終盤に大きく回転する様子を示す。
【0057】
図7は、比較部110が複数の対象物に係る3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)の時系列から生成するグラフを示す。
図7のグラフのsx軸、sy軸及びsz軸は対象物のX、Y、及びZ軸方向における伸縮係数を示す。
図7のa〜dに係る線分は、4個の対象物のそれぞれの3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)の対角成分から算出されるX、Y及びZ軸における伸縮係数をグラフにプロットしたものを示す。
【0058】
図示するように、線分a〜cは比較的近い距離にプロットされ、線分dは線分a〜cよりも離れた位置にプロットされる。
図7から、線分a〜cに係る対象物は、比較的近い態様で3次元空間の時系列上で伸縮したのに対し、線分dに係る対象物は、線分a〜cに係る対象物と異なる態様で伸縮したことが示される。
【0059】
図6及び
図7では、比較部110が回転特徴量R(t)、及び、3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)のいずれか一方のみに基づいて対象物の時系列上の変化の様子をグラフ上にプロットする例を記載したが、比較部110は、回転特徴量R(t)、3次元方向の伸縮特徴量Γ(t)、全体伸縮特徴量ρ(t)の1つ又は2以上の組合せに基づいて対象物の時系列上の変化の様子をグラフ上にプロットしてよい。また、比較部110は、さらに形状変化特徴量H(t)に基づいて対象物の時系列上の変化の様子をグラフ上にプロットしてもよい。
【0060】
図8は、分類対象物の関係を低次元空間における点の布置で表現する多次元尺度構成法により、複数の対象物に係る変化特徴量の距離を可視化したグラフを示す。比較部110は、S150において、
図6又は
図7に示す複数の対象物の変化特徴量によるグラフを多次元尺度構成法により再構成し、複数の対象物の変化特徴量の近さを表す複数の点を2次元のグラフ上にプロットする。
【0061】
図8に示す各矩形a〜dは、例えば、
図6に示す複数の対象物の回転量(例えば、対象物が回転しない場合に対応する単位行列Iからの回転特徴量R(t)の距離)を表す線分a〜dにそれぞれ対応し、
図8の各矩形a〜d間の距離は、
図6の線分a〜d間の距離または、それぞれの対象物の回転特徴量R(t)同士の間の距離(例えば、行列の各要素の差の自乗の和)に対応する。
【0062】
S160において、表示部112は多次元尺度構成法で構成されたグラフを表示する。これにより、表示部112は、他の矩形a〜cと距離の離れた矩形dに係る対象物を、変化の態様(例えば、回転及び伸縮の態様)が異なる対象物として分かり易く表示することができる。
【0063】
例えば、解析装置100は、対象物の大きさ、又は、重量の異なる複数の対象物に係る変化特徴量の関係をグラフ上で表示することができるので、対象物の大きさ、又は、重量がシミュレーションの結果に与える影響を可視化することができる。
【0064】
図9は、本実施形態の変形例における解析方法の処理フローを示す。本変形例において、解析装置100は、S200〜S260の処理を実行する。
【0065】
本変形例において、解析装置100は、S200〜S220に係る処理を
図2で説明したS100〜S120までの処理と同様に実行してよい。本変形例において、記憶部106は、予め、複数の対象物のそれぞれに割り当てられた評価値を記憶する。記憶部106は、例えば、対象物の変形の評価、及び/又は、対象物の重要度等を評価値として記憶してよい。本変形例において解析装置100は、S220の処理の後にS222の処理を実行する。
【0066】
S222において、制御部108は、時系列上の一部の時刻について算出した一の対象物の変形特徴量が予め定められた条件を満たす場合に、算出部104を制御して当該一の対象物の変形特徴量の算出を中止させる。
【0067】
例えば、まず、比較部110は、算出部104が時系列上の基準時刻から時刻tまでの一部の時刻について算出した変形特徴量と記憶部106に記憶された複数の対象物の対応する時刻における変形特徴量とを比較する。
【0068】
S222の時点において、比較部110は、記憶部106に現時点で格納される全ての対象物についての変形特徴量の時系列データに基づいて、S150の処理と同様の手法により、基準時刻から時刻tまでの時系列における複数の対象物間の変形特徴量を比較してよい。これにより、比較部110は、対象物の時刻tまでの変形特徴量と、基準以上に類似する時刻tまでの変形特徴量を有する他の対象物を特定する。比較部110は、他の対象物の情報を制御部108に供給する。
【0069】
制御部108は、特定された他の対象物に割り当てられた評価値を記憶部106から読み出し、当該他の対象物に割り当てられた評価値が予め定められた第1の基準値以下の場合に、処理をS252に進めて、算出部104により時刻t以降の残りの時刻における一の対象物の変形特徴量を算出する処理の優先度を低下させる。制御部108は、他の対象物の変形特徴量を算出する処理が終了した後で、算出部104に中断した時刻t以降の一の対象物の変形特徴量の算出を実行させる。
【0070】
また、さらに制御部108は、当該他の対象物に割り当てられた評価値が第1の基準値よりも低い第2の基準値以下の場合に、算出部104に時刻t以降の残りの時刻における一の対象物の変形特徴量の算出を中止させてもよい。この場合、制御部108は、算出部104に中断した時刻t以降の一の対象物の変形特徴量の算出を実行させない。
【0071】
なお、S222の処理は、S210〜S232のループの中で毎回実行しなくてよく、例えば、数〜数百ループに1回実行してよい。本変形例において、解析装置100は、S230〜S260までの処理をS130〜S160と同様に処理してよい。
【0072】
本変形例によれば、解析装置100は、重要度の低い他の対象物と同様の変形をする対象物の変化特徴量の計算の優先度を下げ、または計算を省くことにより、解析装置100の計算資源を有効利用することができる。
【0073】
本実施形態において、解析装置100が対象物の衝突シミュレーションから得られた、対象物の座標の時系列データを解析する場合について説明したが、解析装置100は、対象物の変形等を想定する他の種類のシミュレーションの結果を解析してもよい。例えば、解析装置100は、対象物を建築物として、建築物の変形(例えば、ビルの倒壊)のシミュレーションした結果を解析してもよい。
【0074】
また、本実施形態において、解析装置100は、対象物の3次元座標の時系列データを取得して解析したが、これに加えて/代えて、対象物の速度、加速度、及び/又は、加重等の3次元ベクトルの時系列データを解析してもよい。また、解析装置100は、対象物の速度、加速度、及び/又は、加重の時系列データを解析する場合、時系列データにローパスフィルタを適用したものを解析してもよい。これにより、解析装置100は、複数の対象物の衝突についてさらに厳密に解析することができる。
【0075】
図10は、解析装置100として機能するコンピュータ1900のハードウェア構成の一例を示す。本実施形態に係るコンピュータ1900は、ホスト・コントローラ2082により相互に接続されるCPU2000、RAM2020、グラフィック・コントローラ2075、及び表示装置2080を有するCPU周辺部と、入出力コントローラ2084によりホスト・コントローラ2082に接続される通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、及びCD−ROMドライブ2060を有する入出力部と、入出力コントローラ2084に接続されるROM2010、フレキシブルディスク・ドライブ2050、及び入出力チップ2070を有するレガシー入出力部を備える。
【0076】
ホスト・コントローラ2082は、RAM2020と、高い転送レートでRAM2020をアクセスするCPU2000及びグラフィック・コントローラ2075とを接続する。CPU2000は、ROM2010及びRAM2020に格納されたプログラムに基づいて動作し、各部の制御を行う。
【0077】
グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等がRAM2020内に設けたフレーム・バッファ上に生成する画像データを取得し、表示部112を介して表示装置2080上に表示させる。これに代えて、グラフィック・コントローラ2075は、CPU2000等が生成する画像データを格納するフレーム・バッファを、内部に含んでもよい。
【0078】
入出力コントローラ2084は、ホスト・コントローラ2082と、比較的高速な入出力装置である通信インターフェイス2030、ハードディスクドライブ2040、CD−ROMドライブ2060を接続する。通信インターフェイス2030は、有線又は無線によりネットワークを介して他の装置と通信する。
【0079】
また、通信インターフェイスは、解析装置100における通信を行うハードウェアとして機能する。ハードディスクドライブ2040は、コンピュータ1900内のCPU2000が使用するプログラム及びデータを格納する。CD−ROMドライブ2060は、CD−ROM2095からプログラム又はデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。
【0080】
また、入出力コントローラ2084には、ROM2010と、フレキシブルディスク・ドライブ2050、及び入出力チップ2070の比較的低速な入出力装置とが接続される。ROM2010は、コンピュータ1900が起動時に実行するブート・プログラム、及び/又は、コンピュータ1900のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。
【0081】
フレキシブルディスク・ドライブ2050は、フレキシブルディスク2090からプログラム又はデータを読み取り、RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供する。入出力チップ2070は、フレキシブルディスク・ドライブ2050を入出力コントローラ2084へと接続するとともに、例えばパラレル・ポート、シリアル・ポート、キーボード・ポート、マウス・ポート等を介して各種の入出力装置を入出力コントローラ2084へと接続する。
【0082】
RAM2020を介してハードディスクドライブ2040に提供されるプログラムは、フレキシブルディスク2090、CD−ROM2095、又はICカード等の記録媒体に格納されて利用者によって提供される。プログラムは、記録媒体から読み出され、RAM2020を介してコンピュータ1900内のハードディスクドライブ2040にインストールされ、CPU2000において実行される。
【0083】
コンピュータ1900にインストールされ、コンピュータ1900を解析装置100として機能させるプログラムは、取得モジュールと、算出モジュールと、記憶モジュールと、制御モジュールと、比較モジュールと、表示モジュールとを備える。
【0084】
これらのプログラム又はモジュールは、CPU2000等に働きかけて、コンピュータ1900を、取得部102、算出部104、記憶部106、制御部108、比較部110、表示部112としてそれぞれ機能させてよい。
【0085】
これらのプログラムに記述された情報処理は、コンピュータ1900に読込まれることにより、ソフトウェアと上述した各種のハードウェア資源とが協働した具体的手段である取得部102、算出部104、記憶部106、制御部108、比較部110、表示部112として機能する。
【0086】
そして、これらの具体的手段によって、本実施形態におけるコンピュータ1900の使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の解析装置100が構築される。
【0087】
一例として、コンピュータ1900と外部の装置等との間で通信を行う場合には、CPU2000は、RAM2020上にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理内容に基づいて、通信インターフェイス2030に対して通信処理を指示する。
【0088】
通信インターフェイス2030は、CPU2000の制御を受けて、RAM2020、ハードディスクドライブ2040、フレキシブルディスク2090、又はCD−ROM2095等の記憶装置上に設けた送信バッファ領域等に記憶された送信データを読み出してネットワークへと送信し、もしくは、ネットワークから受信した受信データを記憶装置上に設けた受信バッファ領域等へと書き込む。
【0089】
このように、通信インターフェイス2030は、DMA(ダイレクト・メモリ・アクセス)方式により記憶装置との間で送受信データを転送してもよく、これに代えて、CPU2000が転送元の記憶装置又は通信インターフェイス2030からデータを読み出し、転送先の通信インターフェイス2030又は記憶装置へとデータを書き込むことにより送受信データを転送してもよい。
【0090】
また、CPU2000は、ハードディスクドライブ2040、CD−ROMドライブ2060(CD−ROM2095)、フレキシブルディスク・ドライブ2050(フレキシブルディスク2090)等の外部記憶装置に格納されたファイルまたはデータベース等の中から、全部または必要な部分をDMA転送等によりRAM2020へと読み込ませ、RAM2020上のデータに対して各種の処理を行う。
【0091】
記憶部106はこれらの外部記憶装置により実装または接続されてよい。そして、CPU2000は、処理を終えたデータを、DMA転送等により外部記憶装置へと書き戻す。このような処理において、RAM2020は、外部記憶装置の内容を一時的に保持するものとみなせるから、本実施形態においてはRAM2020及び外部記憶装置等をメモリ、記憶部、または記憶装置等と総称する。
【0092】
本実施形態における各種のプログラム、データ、テーブル、データベース等の各種の情報は、このような記憶装置上に格納されて、情報処理の対象となる。なお、CPU2000は、RAM2020の一部をキャッシュメモリに保持し、キャッシュメモリ上で読み書きを行うこともできる。このような形態においても、キャッシュメモリはRAM2020の機能の一部を担うから、本実施形態においては、区別して示す場合を除き、キャッシュメモリもRAM2020、メモリ、及び/又は記憶装置に含まれるものとする。
【0093】
また、CPU2000は、RAM2020から読み出したデータに対して、プログラムの命令列により指定された、本実施形態中に記載した各種の演算、情報の加工、条件判断、情報の検索・置換等を含む各種の処理を行い、RAM2020へと書き戻す。
【0094】
例えば、CPU2000は、条件判断を行う場合においては、本実施形態において示した各種の変数が、他の変数または定数と比較して、大きい、小さい、以上、以下、等しい等の条件を満たすか否かを判断し、条件が成立した場合(又は不成立であった場合)に、異なる命令列へと分岐し、またはサブルーチンを呼び出す。
【0095】
また、CPU2000は、記憶装置内のファイルまたはデータベース等に格納された情報を検索することができる。例えば、第1属性の属性値に対し第2属性の属性値がそれぞれ対応付けられた複数のエントリが記憶装置に格納されている場合において、CPU2000は、記憶装置に格納されている複数のエントリの中から第1属性の属性値が指定された条件と一致するエントリを検索し、そのエントリに格納されている第2属性の属性値を読み出すことにより、所定の条件を満たす第1属性に対応付けられた第2属性の属性値を得ることができる。
【0096】
以上に示したプログラム又はモジュールは、外部の記録媒体に格納されてもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク2090、CD−ROM2095の他に、DVD又はCD等の光学記録媒体、MO等の光磁気記録媒体、テープ媒体、ICカード等の半導体メモリ等を用いることができる。また、専用通信ネットワーク又はインターネットに接続されたサーバシステムに設けたハードディスク又はRAM等の記憶装置を記録媒体として使用し、ネットワークを介してプログラムをコンピュータ1900に提供してもよい。
【0097】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0098】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。